(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
単位面積あたりの前記亜鉛量は、単位面積あたり前記添加元素量の1倍以上10倍以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の錫めっき付銅端子材。
前記基材と前記亜鉛層との間に、ニッケル又はニッケル合金からなり、厚さが0.1μm以上5μm以下、ニッケル含有率が80質量%以上である下地層を有することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の錫めっき付銅端子材。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1のように錫層の下地に亜鉛または亜鉛合金からなる防食層を設けた場合、防食層上にSnめっき処理を実施する際にSn置換が生じて防食層とSnめっきの密着性が悪くなるという問題があった。
【0011】
特許文献2のようにSn
3O
2(OH)
2(水酸化酸化物)を含む導電性皮膜層を設けた場合、腐食環境や加熱環境に曝された際に速やかに導電性皮膜層に欠損が生じるため持続性が低いという問題があった。さらに特許文献3のようにSn−Cu系合金層(中間Sn−Cuめっき層)上にSn−Zn合金(表面Snめっき層)が積層され、最表層にZn高濃度層を持つものは、Sn−Zn合金めっきの生産性が悪く、Sn−Cu系合金層の銅が表層に露出した場合にアルミニウム製の導線に対する防食効果がなくなるという問題があった。
【0012】
また、コネクタ等の接点材料として接触抵抗の低減も求められ、特に摺動摩耗時の接触抵抗の増大を抑制する必要がある。
【0013】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたものであって、腐食防止効果が高く、接触抵抗も低い錫めっき付銅端子材及びその端子材からなる端子、並びにその端子を用いた電線端末部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の錫めっき付銅端子材は、銅又は銅合金からなる基材と、前記基材の上に形成され、亜鉛合金からなる亜鉛層と、前記亜鉛層の上に形成され、錫合金からなる錫層と、を有し、前記亜鉛層及び錫層全体における単位面積あたりの錫量が0.30mg/cm
2以上7.00mg/cm
2以下、単位面積あたりの亜鉛量が0.07mg/cm
2以上2.00mg/cm
2以下であり、前記錫層の表面
から深さ0.3μmまでの範囲における亜鉛含有率は0.2質量%以上、10.0質量%以下であり、前記錫層の全結晶粒界の長さに対して小傾角粒界が占める長さの比率が2%以上30%以下である。ここで、「亜鉛層および錫層全体における単位面積あたりの錫量」とは亜鉛層および錫層の総厚さ×単位面積に含まれる錫量を指し、「亜鉛層および錫層全体における単位面積あたりの亜鉛量」とは亜鉛層および錫層の総厚さ×単位面積に含まれる亜鉛量を指す。
【0015】
この錫めっき付銅端子材は、表面を錫層として接触抵抗を低減している。そして、錫よりもアルミニウムと腐食電位が近い亜鉛層を錫層の下に有するとともに、錫層中に亜鉛が含有されていることから、アルミニウム製の導線の腐食を防止する効果が高い。
【0016】
この場合、亜鉛層及び錫層全体における単位面積あたりの錫量が0.30mg/cm
2未満では、加工時に亜鉛が一部露出して接触抵抗が高くなる。単位面積あたりの錫量が7.00mg/cm
2を超えると、表面への亜鉛の拡散が不十分となり、腐食電流値が高くなる。
【0017】
単位面積あたりの亜鉛量が0.07mg/cm
2未満では、錫層の表面への亜鉛の拡散が不十分となり、腐食電流値が高くなる。単位面積あたりの亜鉛量が2.00mg/cm
2を超えると、亜鉛の拡散が過剰となり接触抵抗が高くなる。
【0018】
錫層中の表面近傍における亜鉛の含有率が10.0質量%を超えると、表面に亜鉛が多量に露出するため接触抵抗が悪化する。表面近傍における亜鉛の含有率が0.2質量%未満では、防食効果が不十分となる。錫層中の表面近傍における亜鉛の含有率は、好ましくは0.4質量%以上5.0質量%以下である。
【0019】
錫層の下に存在する亜鉛層から錫層の結晶粒界を通じて亜鉛が表面に拡散するが、結晶粒界の中でも小傾角粒界を通じた亜鉛の拡散は速度が遅く、亜鉛の拡散(すなわち腐食電位の卑化)に寄与しない。このため小傾角粒界の比率を適切に設定することで、所望の亜鉛拡散速度にコントロールすることができる。小傾角粒界長さ比率が2%未満では、亜鉛の供給が過剰となり、ウイスカが発生しやすくなる。小傾角粒界長さ比率が30%を超えると、亜鉛の拡散が不十分となり、腐食電位を卑化させる効果が不十分で、腐食電流が高くなる。
【0020】
本発明の錫めっき付銅端子材において、銀塩化銀電極に対する腐食電位が−500mV以下−900mV以上であるとよい。この場合、腐食電流を低く抑えることができ、優れた防食効果を有する。
【0021】
本発明の錫めっき付銅端子材において、前記錫層又は前記亜鉛層の少なくともいずれかが、添加元素としてニッケル、鉄、マンガン、モリブデン、コバルト、カドミウム、鉛のいずれかを1種以上含み、前記亜鉛層及び前記錫層全体における単位面積あたりの前記添加元素量は0.01mg/cm
2以上0.30mg/cm
2以下であるとよい。ここで、「亜鉛層および錫層全体における単位面積あたりの添加元素量」とは亜鉛層および錫層の総厚さ×単位面積に含まれる添加元素量を指す。
【0022】
これらの添加元素を含有することにより、亜鉛の過剰な拡散を抑制し、ウイスカの発生を抑制する効果がある。単位面積あたりの添加元素量が0.01mg/cm
2未満では、錫表面への亜鉛の拡散が過剰となり、接触抵抗が高くなるとともに、ウイスカ抑制効果が乏しくなる。単位面積あたりの添加元素量が0.30mg/cm
2を超えると、亜鉛の拡散が不足し腐食電流が高くなる。
【0023】
本発明の錫めっき付銅端子材において、前記錫層の平均結晶粒径が0.5μm以上8.0μm以下であるとよい。
【0024】
錫層の平均結晶粒径が0.5μm未満では、粒界密度が高過ぎて亜鉛が過剰に拡散され、錫層の耐食性が悪化し、腐食環境にさらされた錫層が腐食して、導線との接触抵抗が悪化するおそれがある。錫層の平均結晶粒径が8.0μmを超えると、亜鉛の拡散が不足して、導線を防食する効果が乏しくなる。
【0025】
本発明の錫めっき付銅端子材において、単位面積あたりの前記亜鉛量は単位面積あたりの前記添加元素量の1倍以上10倍以下であるとよい。これらの単位面積あたりの量をこの範囲の関係とすることにより、ウイスカの発生がより一層抑制される。
【0026】
本発明の錫めっき付銅端子材において、前記錫層の上にさらに、亜鉛濃度が5at%以上40at%以下で厚みがSiO
2換算で1nm以上10nm以下である金属亜鉛層を有するとよい。
【0027】
金属亜鉛層の存在により、アルミニウム製電線との接触によるガルバニック腐食の発生をより確実に抑えることができる。
【0028】
本発明の錫めっき付銅端子材において、前記基材と前記亜鉛層との間に、ニッケル又はニッケル合金からなり、厚みが0.10μm以上5.00μm以下、ニッケル含有率が80質量%以上である下地層を有するとよい。
【0029】
基材と亜鉛層との間の下地層は、これらの間の密着性を高めるとともに、銅又は銅合金からなる基材から亜鉛層や錫層への銅の拡散を防止する機能がある。下地層の厚みは、0.10μm未満では銅の拡散を防止する効果に乏しく、5.00μmを超えるとプレス加工時に割れが生じ易い。また、下地層のニッケル含有率は、80質量%未満では銅が亜鉛層や錫層へ拡散することを防止する効果が小さい。
【0030】
本発明の錫めっき銅合金端子材は、帯板状のキャリア部と、前記キャリア部の長さ方向に間隔をおいて配置され、前記キャリア部に連結された複数の端子用部材とを有している。
【0031】
そして、本発明の端子は、上記の錫めっき付銅端子材からなる端子であり、本発明の電線端末部構造は、その端子がアルミニウム製又はアルミニウム合金製の導線を有する電線に圧着されてなる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の錫めっき銅端子材によれば、基材の上に亜鉛層及び錫層を備え、その錫層中に亜鉛が含有されているので、アルミニウム製の導線に対する防食効果が高い。また、錫層と基材との間に亜鉛層を有することにより、万一錫層が消失した場合でもアルミニウム製の導線とのガルバニック腐食を防止して、電気抵抗値の上昇や固着力の低下を抑制することができる。また、小傾粒界比率が小さいので、摺動摩耗時の接触抵抗の上昇を抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の実施形態に係る錫めっき付銅端子材1、端子10及び端子10による電線端末部構造を説明する。本実施形態の錫めっき付銅端子材1は、
図2に全体を示すように、複数の端子10を成形するための帯板状に形成されたストリップ材であり、ストリップ材の長さ方向に沿う2本のキャリア部21と、キャリア部21の長さ方向に間隔をおいて配置されそれぞれ端子10として成形される複数の端子用部材22とが、細幅の連結部23を介して連結されている。各端子用部材22は、
図3に示すような端子10の形状に成形され、連結部23から切断されることにより、端子10として完成する。
【0035】
端子10(
図3の例ではメス端子)は、電線12の被覆部12bがかしめられる被覆かしめ部14、電線12の被覆部12bから露出した導線である心線12aが可しめられる心線かしめ部13、オス端子15(
図4参照)が嵌合される筒状の接続部11が基端からこの順で一体に形成されている。接続部11の内側には、筒状部分に連続する小片部分を折り曲げて形成されたバネ片部11aが設けられている。
【0036】
図4は電線12に端子10をかしめた電線端末部構造を示している。この構造において、心線かしめ部13が電線12の心線12aに直接接触する。接続部11に挿入されたオス端子15は、バネ片部11aによって接続部11の内面に押しつけられて保持される。
【0037】
錫めっき付銅端子材1は、
図1に断面を模式的に示すように、銅又は銅合金からなる基材2上に、ニッケル又はニッケル合金からなる下地層3、亜鉛合金からなる亜鉛層4、錫合金からなる錫層5がこの順に積層されている。本実施形態では錫めっき付銅端子材1から作製したメス端子(端子10)について説明するが、オス端子15も錫めっき付銅端子材1から作製することができる。
【0038】
基材2は、銅又は銅合金からなるものであれば、特に、その組成は限定されない。
【0039】
ニッケル又はニッケル合金からなる下地層3は、厚さが0.10μm以上5.00μm以下で、ニッケル含有率は80質量%以上である。この下地層3は、基材2と亜鉛層4との密着性を高めるとともに、基材2から亜鉛層4や錫層5への銅の拡散を防止する機能がある。
【0040】
下地層3の厚さは、0.10μm未満では銅の拡散を防止する効果に乏しく、5.00μmを超えるとプレス加工時に割れが生じ易い。下地層3の厚さは、0.30μm以上2.00μm以下がより好ましい。
【0041】
下地層3がニッケル合金からなる場合、ニッケル含有率が80質量%未満では銅が亜鉛層4や錫層5へ拡散することを防止する効果が小さい。下地層3のニッケル含有率は90質量%以上とするのがより好ましい。
【0042】
亜鉛層4及び錫層5は、錫及び亜鉛が相互に拡散しており、亜鉛層4および錫層5全体における単位面積あたりの錫量が0.30mg/cm
2以上7.00mg/cm
2以下であり、単位面積あたりの亜鉛量が0.07mg/cm
2以上2.00mg/cm
2以下である。
【0043】
単位面積あたりの錫量が0.30mg/cm
2未満では加工時に亜鉛が一部露出して接触抵抗が高くなる。単位面積あたりの錫量が7.00mg/cm
2を超えると、表面への亜鉛の拡散が不十分となり、腐食電流値が高くなる。
【0044】
単位面積あたりの亜鉛量が0.07mg/cm
2未満では錫層5の表面への亜鉛の拡散が不十分となり、腐食電流値が高くなる。単位面積あたりの亜鉛量が2.00mg/cm
2を超えると亜鉛の拡散が過剰となり接触抵抗が高くなる。
【0045】
錫層5中の表面近傍における亜鉛の含有率は0.2質量%以上、10.0質量%以下である。10.0質量%を超えると表面に亜鉛が多量に露出するため接触抵抗が悪化する。表面近傍における亜鉛の含有率が0.2質量%未満では防食効果が不十分になる。錫層5中の表面近傍における亜鉛含有率は好ましくは0.4質量%以上5質量%以下である。
【0046】
亜鉛層4の厚みは0.1μm以上2.0μm以下が好ましく、錫層5の厚みは0.2μm以上5.0μm以下が好ましい。
【0047】
亜鉛層4または錫層5の少なくともいずれかが、添加元素としてニッケル、鉄、マンガン、モリブデン、コバルト、カドミウム、鉛のいずれかを1種以上含み、添加元素量は亜鉛層4および錫層5全体における単位面積あたり0.01mg/cm
2以上0.30mg/cm
2以下であるとよい。後述の実施例(7〜21)では、亜鉛層4中に、これらの添加元素のいずれかを含ませている。
【0048】
これらの添加元素を含有することにより、亜鉛の過剰な拡散を抑制し、ウイスカの発生を抑制する効果がある。単位面積あたりの添加元素量が0.01mg/cm
2未満では錫表面への亜鉛の拡散が過剰となり、接触抵抗が高くなるとともに、ウイスカ抑制効果が乏しくなる。単位面積あたり添加元素量が0.30mg/cm
2を超えると亜鉛の拡散が不足し腐食電流が高くなる。
【0049】
前述した亜鉛層4および錫層5全体における単位面積あたりの亜鉛量は、単位面積あたりの添加元素の量の1倍以上10倍以下の範囲とするのがよい。この範囲の関係とすることにより、ウイスカの発生がより一層抑制される。
【0050】
錫合金からなる錫層5は、全結晶粒界の長さに対して小傾角粒界の長さの比率(小傾角粒界長さ比率)が2%以上30%以下である。ここで結晶粒界および小傾角粒界とは、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を用いて後方散乱電子線回折(Electron Backscatter Diffraction Pattern:EBSD又はEBSP)法により測定して、隣接する測定点間の方位差が2°以上となる測定点を結晶粒界とし、さらにこれらの結晶粒界のうち隣接する測定点間の方位差が15°未満となる結晶粒界を小傾角粒界とする。
【0051】
錫層5の小傾角粒界長さ比率が2%未満では、亜鉛の供給が過剰となりウイスカが発生しやすくなる。小傾角粒界長さ比率が30%を超えると、亜鉛の拡散が不十分となり、表面の腐食電位を卑化させる効果が不十分で、腐食電流が高くなる。錫層5の小傾角粒界長さ比率は、5%以上15%以下がより好ましい。
【0052】
錫層5の平均結晶粒径は0.5μm以上8.0μm以下である。錫層5の平均結晶粒径が0.5μm未満では、粒界密度が高過ぎて亜鉛が過剰に拡散し、錫層5の耐食性が悪化して、腐食環境にさらされた錫層5が腐食し、電線12の心線12a(アルミニウム製導線の束)との接触抵抗が悪化するおそれがある。錫層5の平均結晶粒径が8.0μmを超えると、亜鉛の拡散が不足してアルミニウム製の心線12aを防食する効果が乏しくなる。
【0053】
錫層5の表面近傍には、亜鉛層4層中の亜鉛が錫層5を経由して表面に拡散することにより金属亜鉛層6が形成される。この金属亜鉛層6は、亜鉛濃度が5at%以上40at%以下で、厚みがSiO
2換算膜厚で1nm以上10nm以下であるとより好ましい。
【0054】
銀塩化銀電極に対する腐食電位を比較すると、錫めっき付銅端子材1の腐食電位が−500mV以下−900mV以上(−500mV〜−900mV)であるのに対して、アルミニウムの腐食電位が−700mV以下−900mV以上であるから、この錫めっき付銅端子材1は優れた防食効果を有している。
【0055】
次に、錫めっき付銅端子材1の製造方法について説明する。基材2として、銅又は銅合金からなる板材を用意する。この板材に裁断、穴明け等の加工を施すことにより、
図2に示すような、キャリア部21に複数の端子用部材22が連結部23を介して連結されてなるストリップ材に成形する。そして、このストリップ材に脱脂、酸洗等の処理をすることによって表面を清浄にした後、下地層3を形成するためのニッケルめっき処理又はニッケル合金めっき処理、亜鉛層4を形成するための亜鉛めっき処理又は亜鉛合金めっき処理、錫層5を形成するための錫めっき処理又は錫合金めっき処理をこの順序で施す。
【0056】
下地層3を形成するためのニッケルめっき処理又はニッケル合金めっき処理は、緻密なニッケル主体の膜が得られるものであれば特に限定されず、公知のワット浴やスルファミン酸浴、クエン酸浴などを用いた電気めっきが利用できる。ニッケル合金としてはニッケルタングステン(Ni−W)合金、ニッケルリン(Ni−P)合金、ニッケルコバルト(Ni−Co)合金、ニッケルクロム(Ni−Cr)合金、ニッケル鉄(Ni−Fe)合金、ニッケル亜鉛(Ni−Zn)合金、ニッケルボロン(Ni−B)合金などを利用することができる。
【0057】
端子用部材22(端子10)でのプレス曲げ性と銅に対するバリア性を勘案すると、下地層3は、スルファミン酸浴から得られる純ニッケルめっきにより形成されることが望ましい。
【0058】
亜鉛層4を形成するための亜鉛めっき処理又は亜鉛合金めっき処理は、所望の組成の緻密な膜を得られれば特に限定されない。亜鉛めっき処理としては、公知の硫酸塩浴や塩化物浴、ジンケート浴などを用いることができる。亜鉛合金めっき処理としては、硫酸塩浴、塩化物浴、アルカリ浴を用いた亜鉛ニッケル合金めっき処理、クエン酸などを含む錯化剤浴を用いた錫亜鉛合金めっき処理、硫酸塩浴を用いた亜鉛コバルト合金めっき処理、クエン酸含有硫酸塩浴を用いた亜鉛マンガン合金めっき処理、硫酸塩浴を用いた亜鉛モリブデンめっき処理を利用できる。また、蒸着法を用いることも可能である。
【0059】
錫層5を形成するための錫めっき処理又は錫合金めっき処理は、錫層5における小傾角粒界長さ比率を最適な値に制御する必要がある。このため、例えば有機酸浴(例えばフェノールスルホン酸浴、アルカンスルホン酸浴又はアルカノールスルホン酸浴)、酸性浴(硼フッ酸浴、ハロゲン浴、硫酸浴、ピロリン酸浴等)、或いはアルカリ浴(カリウム浴やナトリウム浴等)を用いた電気めっき処理を採用できる。高速成膜性と皮膜の緻密さおよび亜鉛の拡散しやすさを勘案すると、酸性の有機酸浴や硫酸浴を用い、添加剤として非イオン性界面活性剤を浴に添加するとよい。この場合、浴温と添加剤の設定により、結晶粒径と小傾角粒界長さ比率を制御することができる。リフローなどの溶融処理を行うと、小傾角粒界長さ比率が非常に高くなるため、これは行わない。
【0060】
このようにして、基材2の上にニッケルめっき処理又はニッケル合金めっき処理、亜鉛めっき処理又は亜鉛合金めっき処理、錫めっき処理又は錫合金めっき処理をこの順序で施した後、熱処理を施す。
【0061】
この熱処理では、素材の表面温度が30℃以上190℃以下となる温度で加熱する。この熱処理により、亜鉛めっき層又は亜鉛合金めっき層中の亜鉛が錫めっき層内に拡散する。亜鉛の拡散は速やかに起こるため、30℃以上の温度に24時間以上晒すことでよい。ただし、溶融状態の錫は亜鉛合金にはじかれるので、錫層5を一様に形成するために、190℃を超える温度には加熱せず、錫を溶融させない。
【0062】
常温で亜鉛層4と錫層5との間の相互拡散を進行させるためには、亜鉛層4(亜鉛めっき層または亜鉛合金めっき層)の表面を清浄な状態にしてから錫層5(錫めっき層または錫合金めっき層)を積層することが肝要である。亜鉛層4(亜鉛めっき層または亜鉛合金めっき層)表面には水酸化物や酸化物が速やかに形成されるため、めっき処理により連続成膜する場合には、水酸化物や酸化物を除くために水酸化ナトリウム水溶液や塩化アンモニウム水溶液で洗浄してから、直ちに錫めっき層または錫合金めっき層を成膜するとよい。蒸着など乾式法で錫層5(錫めっき層または錫合金めっき層)を成膜する際には、亜鉛層4(亜鉛めっき層または亜鉛合金めっき層)表面をアルゴンスパッタ処理によりエッチングしてから錫層5(錫めっき層または錫合金めっき層)を成膜するとよい。
【0063】
このようにして製造された錫めっき付銅端子材1は、全体としては基材2の上にニッケル又はニッケル合金からなる下地層3、亜鉛合金からなる亜鉛層4、錫合金からなる錫層5、金属亜鉛層6がこの順に積層されているストリップ材である。
【0064】
そして、プレス加工等により、バネ片部11aとキャリア部21との間の連結部23を切断し、被覆かしめ部14がキャリア部21に接続されたストリップ材のまま、
図3に示す端子10の形状に加工し、最後に被覆かしめ部14とキャリア部21との間の連結部23を切断することにより、端子10が形成される。
【0065】
図4は電線12に端子10をかしめた端末部構造を示している。この端末部構造によれば、被覆かしめ部14が電線12の被腹部12bを保持するとともに、心線かしめ部13が電線12の心線12aに直接接触して固定される。オス端子15は接続部11に挿入されることにより、端子10に対して接続状態で保持される。
【0066】
この端子10は、アルミニウム製の心線12aに圧着された状態であっても、錫よりもアルミニウムと腐食電位が近い金属亜鉛層6が錫層5の上(表面)に形成されていることから、アルミニウムの腐食を防止する効果が高く、ガルバニック腐食の発生を有効に防止することができる。
【0067】
また、
図2のストリップ材の状態でめっき処理し、熱処理していることから、端子10の端面も基材2が露出していないので、優れた防食効果を発揮することができる。
【0068】
しかも、錫層5の下に亜鉛層4が形成されているので、万一、摩耗等により表面の金属亜鉛層6及び錫層5の全部又は一部が消失した場合でも、金属亜鉛層6及び錫層5の下の亜鉛層4はアルミニウムと腐食電位が近いので、ガルバニック腐食の発生を確実に抑えることができる。
【0069】
また、錫層5の小傾粒界比率が小さいので、微摺動摩耗により錫層5から発生する摩耗粉の粒径が大きくなり、微細な摩耗粉の凝着による接触抵抗上昇を抑える効果がある。したがって、アルミニウム製の心線12aを有する電線12に限らず、各種電線の端末部に用いる端子として用いられることにより、微摺動摩耗による接触抵抗の上昇を抑えることができる。
【0070】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【実施例】
【0071】
C1020(無酸素銅)の銅板(基材)に対して異なるめっき条件で各種めっき処理を施して錫めっき層付銅板を作製し、各錫めっき層付銅板に対して同じ熱処理を行い、試料1〜25を作製した。
【0072】
試料1〜17,19,23,25は、下地層を形成するニッケルめっき処理又はニッケル合金めっき処理を施さなかった。さらに、そのうち試料23は、亜鉛めっき処理又は亜鉛合金めっき処理も実施せず、銅板を脱脂、酸洗した後、錫めっき処理を施した。
【0073】
試料18,20〜22,24については、銅板を脱脂、酸洗後に、下地層を形成するニッケルめっき処理またはニッケル合金めっき処理、亜鉛層を形成する亜鉛めっき処理又は亜鉛合金めっき処理、および錫層を形成する錫めっき処理を順に施した。そのうち、試料20ではニッケル−リンめっき(ニッケル合金めっき)、試料24ではニッケル−鉄めっき(ニッケル合金めっき)を実施して下地層を形成した。
【0074】
主なめっきの条件は以下のとおりである。形成される亜鉛層の亜鉛含有率は、めっき液中の亜鉛イオンと添加合金元素イオンの比率を変量して調整した。例えば、下記のニッケル亜鉛合金めっき条件は、めっき層中の亜鉛濃度が15質量%となる例である。
【0075】
<ニッケルめっき条件>
(試料18,21,22の下地層形成)
・めっき浴組成
スルファミン酸ニッケル:300g/L
塩化ニッケル:5g/L
ホウ酸:30g/L
・浴温:45℃
・電流密度:5A/dm
2【0076】
<亜鉛めっき条件>
(試料1,3〜5,24,25の亜鉛層形成)
・硫酸亜鉛七水和物:250g/L
・硫酸ナトリウム:150g/L
・pH=1.2
・浴温:45℃
・電流密度:5A/dm
2【0077】
<ニッケル亜鉛合金めっき条件>
(試料11,14〜22の亜鉛層形成)
・めっき浴組成
硫酸亜鉛七水和物:75g/L
硫酸ニッケル六水和物:180g/L
硫酸ナトリウム:140g/L
・pH=2.0
・浴温:45℃
・電流密度:5A/dm
2【0078】
<錫亜鉛合金めっき条件>
(試料2,6の亜鉛層形成)
・めっき浴組成
硫酸錫(II):40g/L
硫酸亜鉛七水和物:5g/L
クエン酸三ナトリウム:65g/L
非イオン性界面活性剤:1g/L
・pH=5.0
・浴温:25℃
・電流密度:3A/dm
2【0079】
<亜鉛マンガン合金めっき条件>
(試料12の亜鉛層形成)
・めっき浴組成
硫酸マンガン一水和物:110g/L
硫酸亜鉛七水和物:50g/L
クエン酸三ナトリウム:250g/L
・pH=5.3
・浴温:30℃
・電流密度:5A/dm
2【0080】
<亜鉛モリブデン合金めっき条件>
(試料7の亜鉛層形成)
・めっき浴組成
七モリブデン酸六アンモニウム(VI):1g/L
硫酸亜鉛七水和物:250g/L
クエン酸三ナトリウム:250g/L
・pH=5.3
・浴温:30℃
・電流密度:5A/dm
2【0081】
<錫めっき条件>
(試料1〜25の錫層形成)
・めっき浴組成
メタンスルホン酸錫:200g/L
メタンスルホン酸:100g/L
添加剤
・浴温:35℃
・電流密度:5A/dm
2【0082】
次に、各めっき層付銅板に30℃〜190℃の温度で1時間〜36時間の範囲で熱処理を施して試料1〜25を作製した。
【0083】
得られた試料1〜25について、下地層の厚み、下地層のニッケル含有量、亜鉛層及び錫層全体における単位面積あたりの錫量、単位面積あたりの亜鉛量、錫層中の亜鉛含有率、亜鉛層及び錫層全体における錫や亜鉛以外の単位面積あたりの添加元素量、錫層の小傾角粒界長さ比率、錫層の平均結晶粒径、表面の金属亜鉛層の厚みと亜鉛濃度、腐食電位をそれぞれ測定した。
【0084】
各試料における下地層の厚みは、走査イオン顕微鏡を用いて断面を観察することにより測定した。
【0085】
下地層のニッケル含有率は、集束イオンビーム(FIB:Focused ion Beam)装置:セイコーインスツル株式会社製(型番:SMI3050TB)を用いて、各試料を100nm以下に薄化した観察試料を作製し、各観察試料を走査透過型電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope):日本電子株式会社製(型番:JEM−2010F)を用いて、加速電圧200kVで観察するとともに、STEMに付属するエネルギー分散型X線分析(EDS:Energy Dispersive X−ray Spectrometry)装置:(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)を用いて測定した。
【0086】
亜鉛層及び錫層全体における単位面積あたりの錫量、単位面積あたりの亜鉛量、単位面積あたりの添加元素量は、次のように測定した。露出面積が所定値になるようにマスキングを施した各試料を、所定量のめっき剥離液:レイボルド株式会社製(製品名:ストリッパーL−80)に浸漬し、錫層および亜鉛層を全て溶解する。希塩酸を加えてこの溶解液を所定量に調製し(メスアップ)、フレーム原子吸収光光度計を用いて溶液中の元素の濃度を測定し、錫層および亜鉛層全体における単位面積あたりの各量を算出した。上記の剥離液を使用すると、基材やニッケルめっき層を溶解することなく、亜鉛層および錫層中に含まれる元素量を測定することができる。
【0087】
錫層中の表面近傍における亜鉛の含有率は、電子線マイクロアナライザー(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer):日本電子株式会社製(型番:JXA−8530F)を用いて、加速電圧6.5V、ビーム径φ30μmとし、試料表面を測定した。低い加速電圧6.5kVにより、錫層の表面から約0.3μmの深さの亜鉛含有率を測定した。
【0088】
錫層の平均結晶粒径は、錫層表面に電子線を走査し、EBSD法の方位解析により、隣接する測定点間の方位差が2°以上となる結晶粒界を特定し、面積割合(Area Fraction)により測定した。
【0089】
錫層の小傾角粒界については、フラットミリング装置(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて表面をクリーニングした後に、EBSD測定装置(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 S4300−SE,株式会社TSLソリューションズ/EDAX Business Unit AMETEK Co.,Ltd.製 OIM Data Collection)と、解析ソフト(株式会社TSLソリューションズ/EDAX Business Unit AMETEK Co.,Ltd.製 OIM Data Analysis ver.5.2)によって、結晶粒界を測定した。この測定結果から結晶粒界の長さを算出することにより、全結晶粒界中の小傾角粒界長さ比率の解析を行った。
【0090】
即ち、各試料表面の測定範囲内の個々の測定点(ピクセル)に電子線を照射し、後方散乱電子線回折による方位解析により、隣接する測定点間の方位差が2°以上となる測定点を結晶粒界、隣接する測定点間の方位差が2°以上15°未満となる測定点を小傾角粒界とし、小傾角粒界の位置を決定した。そして、測定範囲における結晶粒界の全粒界長さLおよび小傾角粒界の全粒界長さLσを測定して、比率Lσ/Lを小傾角粒界長さ比率とした。
【0091】
EBSD法の測定条件(EBSD条件)、走査型電子顕微鏡SEMでの観察条件(SEM条件)は以下の通りである。各試料の表面をイオンミリング装置により加速電圧6kV、照射時間2時間で調整した後、測定および観察した。
【0092】
<EBSD条件>
解析範囲:10.0μm×50.0μm(測定範囲:10.0μm×50.0μm)
測定ステップ:0.1μm
取込時間:11msec/point
【0093】
<SEM条件>
加速電圧:15kV
ビーム電流:約3.5nA
WD:15mm
【0094】
各試料の金属亜鉛層の厚みと亜鉛濃度については、XPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy)分析装置:アルバック・ファイ株式会社製 ULVAC PHI model−5600LSを用い、各試料表面をアルゴンイオンでエッチングしながらXPS分析により測定した。XPS分析条件は以下の通りである。
【0095】
<XPS分析条件>
X線源:Standard MgKα 350W
パスエネルギー:187.85eV(Survey)、58.70eV(Narrow)
測定間隔:0.8eV/step(Survey)、0.125eV(Narrow)
試料面に対する光電子取り出し角:45deg
分析エリア:約800μmφ
【0096】
各試料の金属亜鉛層の厚みについては、あらかじめ同機種(前記XPS分析装置)で測定したSiO
2のエッチングレートを用いて、金属亜鉛層の測定に要した時間から「SiO
2換算膜厚」を算出した。
【0097】
前記XPS分析装置におけるSiO
2のエッチングレートは、厚さ20nmのSiO
2膜を2.8mm×3.5mmの長方形領域に対してアルゴンイオン(Arイオン)ビームでエッチングを行い、厚さ1nmについてエッチングするのに要した時間として算出した。すなわち、上記XPS分析装置の場合、厚さ20nmのSiO
2膜のエッチングに8分要したので、エッチングレートは2.5nm/minである。
【0098】
XPS分析装置は深さ分解能が約0.5nmと優れるが、Arイオンビームによるエッチングレートは材質により異なるため、膜厚を得るためには、膜厚が既知かつ平坦な試料を角材質について調達し、その材質のエッチングレートを算出して基準としなければならない。この方法は容易でないため、SiO
2のエッチングレートと、対象物のエッチングに要した時間とから、「SiO
2換算膜厚」として算出した。
【0099】
このため、各試料における金属亜鉛層の「SiO
2換算膜厚」は、実際の膜厚とは異なる。しかしながら、実際の膜厚は不明であっても、「SiO
2換算膜厚」という同一基準により各膜厚を評価することができる。
【0100】
腐食電位は、各試料を10×50mmに切り出し、端面など銅(基材)が露出している部分をエポキシ樹脂で被覆した後に、23℃、5質量%の塩化ナトリウム水溶液に浸漬し、飽和塩化カリウム水溶液を内塔液に充填した銀塩化銀電極(Ag/AgCl電極 メトロームジャパン株式会社製ダブルジャンクションタイプ)を参照極として、無抵抗電流計(北斗電工株式会社製 HA1510)を用いて1分間隔で24時間測定した自然電位の平均値とした。
【0101】
これらの測定結果を表1に示す。亜鉛層および錫層における添加元素量の欄の括弧内は、亜鉛層または錫層に含まれる添加元素を示す。試料1,2,23,25については、金属亜鉛層が認められなかった。
【0102】
【表1】
【0103】
得られた試料1〜25について、腐食電流、曲げ加工性、ウイスカの発生状況、接触抵抗、微摺動摩耗試験時の抵抗上昇サイクル数について測定、評価を行った。これらの結果を表2に示す。
【0104】
<腐食電流>
腐食電流については、直径2mmの露出部分を残して樹脂で被覆した純アルミニウム線と、直径6mmの露出部分を残して樹脂で被覆した試料とを、距離1mmにて各露出部分同士を対向させて、23℃、5質量%の食塩水中に設置し、無抵抗電流計(北斗電工株式会社製 HA1510)を用いて、各試料を150℃で1時間加熱した後と加熱前について、純アルミニウム線と試料との間に流れる電流を測定して、腐食電流とした。
【0105】
<曲げ加工性>
曲げ加工性については、各試料に対して、JIS(日本工業規格)H3110に規定されるW曲げ試験治具を用い、圧延方向に対して直角方向となるように9.8×10
3Nの荷重で曲げ加工を施した。曲げ加工後の各試料について、実体顕微鏡による曲げ加工部分の観察の結果、明確なクラックが認められなければ「優」(A)、クラックが発生しても基材の銅合金が露出していなければ「良」(B)、発生したクラックにより基材の銅合金が露出していれば「不良」(D)と評価した。
【0106】
<ウイスカの発生状況>
ウイスカ発生状況の評価については、1cm×1cmの矩形平板に切り出した各試料について、温度55℃、相対湿度95%RHで1000時間放置した後、電子顕微鏡により100倍の倍率にて3視野を観察し、最も長いウイスカの長さを測定した。ウイスカの発生が認められなかったものを「優」(A)、発生したウイスカの長さが50μm未満のものを「良」(B)、発生したウイスカの長さが50μm以上100μm未満のものを「可」(C)、発生したウイスカの長さが100μm以上のものを「不良」(D)とした。
【0107】
<接触抵抗>
接触抵抗については、平板状の各試料のめっき表面について、日本伸銅協会の規定する「表面接触電気抵抗の測定方法」JCBA−T323に準拠し、4端子接触抵抗試験機(山崎精機研究所製:CRS−113−AU)を用い、摺動式(1mm)で荷重1N時の接触抵抗を測定した。
【0108】
<微摺動摩耗試験>
上記JCBA−T323に準拠し、山崎精機研究所製の微摺動摩耗試験機を用いて、R=1mmの凸加工を施した試料を平板状の試料に対して荷重1Nにて押しつけ、摺動速度1Hz、移動距離50μmで繰り返し往復摺動させ、電流値10mA、解放電圧20mVにて摺動中の接触抵抗を測定し、接触抵抗が10mΩに達した往復サイクル数にて評価した。往復サイクル数50回未満で10mΩに達したものを「不良」(D)、50回以上100回未満のものを「可」(C)、100回以上150回未満ものを「良」(B)、150回以上のものを「優」(A)とした。
【0109】
【表2】
【0110】
表1及び表2に示す結果から、亜鉛層及び錫層全体における単位面積あたりの錫量が0.30mg/cm
2以上7.00mg/cm
2以下、単位面積あたりの亜鉛の量が0.07mg/cm
2以上2.00mg/cm
2以下であり、錫層中の表面近傍における亜鉛の含有率が0.2質量%以上10.0質量%以下、錫層の小傾角粒界長さ比率が2%以上30%以下である試料1〜22は、腐食電流が低く、曲げ加工性も良好で、ウイスカの発生が認められないか、ウイスカが発生したとしてもその長さが短く、接触抵抗も低いことがわかる。
【0111】
その中でも、ニッケル、鉄、マンガン、モリブデン、コバルト、カドミウム、鉛のうちのいずれかの添加元素を0.01mg/cm
2以上0.30mg/cm
2以下含有している試料7〜22は特にウイスカの発生が抑制されている。試料20〜22は、基材と亜鉛層との間に厚みが0.1μm以上5μm以下、ニッケル含有率が80質量%以上の下地層が形成されているため、下地層を有しない試料や、下地層があっても薄肉である試料18より加熱後でも優れた腐食防止効果を有している。
【0112】
これに対して、比較例の試料23は、亜鉛層を有しない(亜鉛を含有していない)ため、腐食電位が高く、高い腐食電流であった。試料24は、単位面積あたりの錫量が少なく、また単位面積あたりの亜鉛量が多く、下地層のニッケル含有率も低いため、腐食電流値が高く、ニッケル下地層が厚いため曲げ加工性が劣っており、小傾角粒界長さ比率が2%未満と低く亜鉛拡散が過剰となったことから亜鉛が枯渇して腐食電位が−900mV vs. Ag/AgCl以下となり、接触抵抗が悪化している。試料25は、単位面積あたりの錫量が多く、また単位面積あたりの亜鉛量が少ないため、腐食電流値が高く、曲げ加工時にクラックが発生した。
【0113】
図5は、試料20および試料23の微摺動摩耗試験時の接触抵抗測定結果から、サイクル数の増加に伴う接触抵抗の変化を示している。このグラフに示すように、比較例(試料23)は、往復摺動数が数十サイクルまでの間に接触抵抗の増大が認められるのに対して、実施例(試料20)は、ほぼ150サイクルまでは接触抵抗の増大はわずかである。