(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
SOCの算出には、例えば、電流積算法などの手法が用いられる。比較的短時間の電流データでSOCを算出することが可能である。このため、ニューラルネットワーク部を学習させるための学習用データは収集しやすい。しかし、蓄電素子のSOH(State Of Health)の変化は、SOCの変化に比べて時間がかかり、関連する履歴情報が膨大になるため、それらを入力としたSOH変化の推定は容易ではない。一方で、この詳細な蓄電素子の履歴情報に基づくSOH変化の推定と、将来蓄電素子が経験する仮想の使用条件とを合わせて、電池の寿命予測に応用することが期待できる。
【0006】
本発明は、AIを用いた蓄電素子の劣化を推定する劣化推定装置、コンピュータプログラム及び劣化推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
蓄電素子の劣化を推定する劣化推定装置は、蓄電素子の第1時点でのSOH及び前記第1時点より後の第2時点でのSOHを取得するSOH取得部と、前記第1時点から第2時点までの間の前記蓄電素子の状態に係る時系列データ及び前記第1時点でのSOHを入力データとし、前記第2時点でのSOHを出力データとする学習データに基づいて学習モデルを学習させる学習処理部とを備える。
【0008】
コンピュータに、蓄電素子の劣化を推定させるためのコンピュータプログラムは、コンピュータに、蓄電素子の第1時点でのSOH及び前記第1時点より後の第2時点でのSOHを取得する処理と、前記第1時点から第2時点までの間の前記蓄電素子の状態に係る時系列データ及び前記第1時点でのSOHを入力データとし、前記第2時点でのSOHを出力データとする学習データに基づいて学習モデルを学習させる処理とを実行させる。
【0009】
蓄電素子の劣化を推定する劣化推定方法は、蓄電素子の第1時点でのSOH及び前記第1時点より後の第2時点でのSOHを取得し、前記第1時点から第2時点までの間の前記蓄電素子の状態に係る時系列データ及び前記第1時点でのSOHを入力データとし、前記第2時点でのSOHを出力データとする学習データに基づいて学習モデルを学習させる。
【0010】
SOH取得部は、蓄電素子の第1時点でのSOH及び前記第1時点より後の第2時点でのSOHを取得する。蓄電素子は、例えば、移動体や施設において稼働している蓄電素子であってもよい。監視装置などによって、蓄電素子からセンサ情報(例えば、電流、電圧、及び温度)を収集することができる。SOHは、センサ情報に基づいて公知の手法により推定することができる。代替的に、日本特許出願第2017−065532号(引用によりその内容全体がここに取り込まれる)に記載の手法を用いてSOHを推定してもよい。第1時点と第2時点との間の期間は、適宜設定することができ、例えば、1か月、3か月としてもよい。センサ情報に周期性がある場合は、第1時点と第2時点との間の期間を、センサ情報の周期で区切ってもよい。その際、SOHは、第1時点と第2時点の内挿値を用いてもよい。
【0011】
第1時点でのSOHに対して、第2時点でのSOHがどの程度低下しているか(劣化が進行しているか)は、第1時点から第2時点までの蓄電素子の使用状態によって異なる。そこで、蓄電素子のセンサ情報から蓄電素子の状態に係る時系列データ、例えば、第1時点から第2時点までの間の蓄電素子の状態(例えば、使用状態)に係る時系列データを特定することが考えられる。
【0012】
学習処理部は、第1時点から第2時点までの間の蓄電素子の状態に係る時系列データ及び第1時点でのSOHを入力データとし、第2時点でのSOHを出力データとする学習データに基づいて学習モデルを学習させる。例えば、第1時点でのSOHをSOH(N)で表し、第2時点でのSOHをSOH(N+1)で表すとする。学習モデルは、第1時点でのSOHがSOH(N)であり、第1時点から第2時点までの蓄電素子の状態がどのように推移すると、第2時点でのSOHがSOH(N+1)になるということを学習する。このような学習データは、移動体や施設において稼働している多くの蓄電素子からセンサ情報として大量に収集することができる。以下に述べるように、ある時点(例えば、現在)のSOH、及び当該時点から劣化推定期間後の予測対象時点(例えば、1か月後、3か月後など)までの蓄電素子の使用条件を学習済の学習モデルに入力すれば、予測対象時点でのSOHを推定することができる。これにより、AIを用いて蓄電素子の劣化を推定することができる。
【0013】
蓄電素子の劣化を推定する劣化推定装置は、蓄電素子の第1時点でのSOHを取得するSOH取得部と、前記第1時点から第2時点までの間の前記蓄電素子の状態に係る時系列データ及び前記第1時点でのSOHを入力データとし、前記第2時点でのSOHを推定する学習済の学習モデルとを備える。
【0014】
コンピュータに、蓄電素子の劣化を推定させるためのコンピュータプログラムは、コンピュータに、蓄電素子の第1時点でのSOHを取得する処理と、前記第1時点から第2時点までの間の前記蓄電素子の状態に係る時系列データ及び前記第1時点でのSOHを学習済の学習モデルに入力して前記第2時点でのSOHを推定する処理とを実行させる。
【0015】
蓄電素子の劣化を推定する劣化推定方法は、蓄電素子の第1時点でのSOHを取得し、前記第1時点から第2時点までの間の前記蓄電素子の状態に係る時系列データ及び前記第1時点でのSOHを学習済の学習モデルに入力して前記第2時点でのSOHを推定する。
【0016】
SOH取得部は、蓄電素子の第1時点でのSOHを取得する。監視装置などによって、蓄電素子からセンサ情報(例えば、電流、電圧、及び温度)を収集することができる。SOHは、センサ情報に基づいて公知の手法により推定することができる。また、第1時点でのSOHは、第1時点よりも前の時点でのSOHに基づいて、学習済の学習モデルにより推定した値を用いることもできる。これにより、任意の期間において、連続的にSOHを推定することが可能となる。
【0017】
第1時点でのSOHに対して、第2時点でのSOHがどの程度低下しているか(劣化が進行しているか)は、第1時点から第2時点までの蓄電素子の使用状態によって異なる。そこで、第1時点から第2時点までの間の蓄電素子の状態に係る時系列データを特定することが考えられる。第2時点は、SOHを推定する予測対象時点である。蓄電素子の状態に係る時系列データは、第1時点から第2時点までの蓄電素子の予定使用条件などから特定することができる。
【0018】
学習済の学習モデルは、第1時点でのSOH及び第1時点から第2時点までの蓄電素子の状態に係る時系列データを入力データとし、第2時点でのSOHを推定する。これにより、第1時点(例えば、現在)のSOH、及び第1時点から第2時点(予測対象時点)までの蓄電素子の予定使用条件が分かれば、第2時点でのSOHを推定することができる。また、第1時点から第2時点までの蓄電素子の予定使用条件をどのように設定すれば、第2時点でのSOHをより大きく(SOHの低下を抑制)することができるかを判定することもできる。
【0019】
劣化推定装置は、前記蓄電素子の時系列に検出された電流データを取得する電流データ取得部を備え、前記学習処理部は、前記電流データ取得部で取得した電流データに基づく、前記第1時点から第2時点までの間の前記蓄電素子のSOCに係る時系列データに基づいて前記学習モデルを学習させてもよい。
【0020】
電流データ取得部は、蓄電素子の時系列に検出された電流データを取得する。
【0021】
電流データ取得部で取得した電流データに基づいて、蓄電素子のSOCに係る時系列データを特定することができる。SOCに係る時系列データは、例えば、電流積算法により求めることができる。リチウムイオン電池は、充放電や放置により電極と電解液の界面に固体電解質界面層(SEI層)が生成され、SEI層が成長するにつれてSOHが低下する。本願発明者は、SEI層の成長はSOCに依存するという仮説に基づき、蓄電素子のSOCがどのような時間的推移をしたかという時系列データを用いて学習モデルを学習させることを発案した。これにより、精度良くSOHを推定できる学習済の学習モデルを生成することができる。
【0022】
劣化推定装置は、前記蓄電素子の電圧データを取得する電圧データ取得部と、該電圧データ取得部で取得した電圧データに基づいて、前記SOCに係る時系列データのうち、所要時点でのデータを補正する補正部とを備えてもよい。
【0023】
電圧データ取得部は、蓄電素子の電圧データを取得する。
【0024】
補正部は、電圧データ取得部で取得した電圧データに基づいて、SOCに係る時系列データのうち、所要時点でのデータを補正する。例えば、蓄電素子の充電又は放電が終了して所要時間経過後の電圧が安定している時点の電圧データに基づいて、蓄電素子のOCV(開回路電圧)を取得することができる。SOC−OCV特性と取得したOCVからSOCを求めることができる。OCVから求めたSOCと、電流積算法により算出したSOCとの差が所定値以上である場合、電流積算法により算出したSOCをOCVから求めたSOCに置き換えることにより、電流積算法による誤差をリセットして、精度良くSOCを求めることができる。
【0025】
劣化推定装置は、前記電流データ取得部で取得した電流データを記憶する記憶部と、前記第1時点から第2時点までのSOCに係る時系列データに基づいて前記学習モデルを学習させる場合、前記記憶部に記憶した電流データのうち前記第1時点から第2時点までの電流データを消去する消去部とを備えてもよい。
【0026】
記憶部は、電流データ取得部で取得した電流データを記憶する。
【0027】
消去部は、第1時点から第2時点までのSOCに係る時系列データに基づいて学習モデルを学習させる場合、記憶部に記憶した電流データのうち第1時点から第2時点までの電流データを消去する。学習モデルを学習させるべく、一旦、電流データに基づいて第1時点から第2時点までのSOCに係る時系列データを特定された場合には、第1時点から第2時点までの電流データは不要となる。第1時点から第2時点までの電流データを消去することにより、記憶部の記憶容量を低減することができる。また、消去することにより空いた記憶容量に別の電流データを記憶することができるので、大量のセンサ情報を記憶することが可能となる。電流データを消去する際に、これまでのセンサ情報を圧縮して前履歴として保持し、ニューラルネットワークに前履歴を入力することで、前履歴を反映させてもよい。
【0028】
劣化推定装置は、前記蓄電素子の時系列に検出された温度データを取得する温度データ取得部を備え、前記学習処理部は、前記第1時点から第2時点までの間の前記蓄電素子の温度データに係る時系列データを入力データとする学習データに基づいて前記学習モデルを学習させてもよい。
【0029】
温度データ取得部は、蓄電素子の時系列に検出された温度データを取得する。
【0030】
学習処理部は、第1時点から第2時点までの間の蓄電素子の温度データに係る時系列データを入力データとする学習データに基づいて学習モデルを学習させる。蓄電素子のSOHの低下は、蓄電素子の温度に依存する。そこで、蓄電素子の温度がどのような時間的推移をしたかという時系列データを用いて学習モデルを学習させることにより、精度良くSOHを推定できる学習済の学習モデルを生成することができる。
【0031】
劣化推定装置において、前記学習処理部は、前記蓄電素子の製造時点から前記第1時点までの経過期間を入力データとする学習データに基づいて前記学習モデルを学習させてもよい。
【0032】
学習処理部は、蓄電素子の製造時点から第1時点までの経過期間を入力データとする学習データに基づいて学習モデルを学習させる。蓄電素子は、放置時間にともないSOHが低下する(カレンダー劣化)。第1時点以降のSOHの低下は、製造時点(例えば、製造完了時点)から第1時点までの経過時間の長短に依存すると考えられる。そこで、蓄電素子の製造時点から第1時点までの経過期間を入力データとする学習データをさらに生成することにより、精度良くSOHを推定できる学習済の学習モデルを生成することができる。
【0033】
劣化推定装置において、前記学習処理部は、前記蓄電素子の製造時点から前記第1時点までの総通電電気量を入力データとする学習データに基づいて前記学習モデルを学習させてもよい。
【0034】
学習処理部は、蓄電素子の製造時点から第1時点までの総通電電気量(例えば、充放電回数を特定することができる場合には充放電回数でもよい)を入力データとする学習データに基づいて学習モデルを学習させる。蓄電素子は、充放電回数にともないSOHが低下する(サイクル劣化)。第1時点以降のSOHの低下は、製造時点(例えば、製造完了時点)から第1時点までの充放電回数の多少に依存すると考えられる。
【0035】
そこで、充放電回数を特定することができる場合、蓄電素子の製造時点から第1時点までの充放電回数を入力データとする学習データをさらに生成することにより、精度良くSOHを推定できる学習済の学習モデルを生成することができる。なお、充放電回数を特定することができない場合には、充放電回数に代えて総通電電気量を用いてもよい。
【0036】
劣化推定装置において、前記学習処理部は、前記第1時点から第2時点までの学習期間を前記蓄電素子の使用期間に亘って複数設けて学習データに基づいて前記学習モデルを学習させてもよい。
【0037】
学習処理部は、第1時点から第2時点までの学習期間を蓄電素子の使用期間に亘って複数設けて学習データに基づいて学習モデルを学習させる。第1時点から第2時点までの学習期間をΔNとすると、例えば、蓄電素子の製造時点から寿命までの使用期間に亘って、複数の学習期間ΔNそれぞれの学習用データを用いて学習モデルを学習させることにより、蓄電素子の製造後、寿命に達するまでの所要の時点でのSOHを推定することが可能となる。
【0038】
劣化推定装置は、学習処理部が学習させた学習済の学習モデルを用いて蓄電素子の劣化を推定してもよい。これにより、第1時点(例えば、現在)のSOH、及び第1時点から第2時点(予測対象時点)までの蓄電素子の予定使用条件が分かれば、第2時点でのSOHを推定することができる。また、第1時点から第2時点までの蓄電素子の予定使用条件をどのように設定すれば、第2時点でのSOHをより大きく(SOHの低下を抑制)することができるかを判定することもできる。
【0039】
蓄電素子の劣化を推定する劣化推定装置は、蓄電素子のSOCの変動に基づいて前記蓄電素子のSOHを推定する劣化シミュレータに、SOCに係る時系列データを入力し、前記劣化シミュレータが出力するSOHを取得する出力値取得部と、前記劣化シミュレータに入力したSOCに係る時系列データを取得する入力値取得部と、前記入力値取得部で取得したSOCに係る時系列データ及び前記出力値取得部で取得したSOHを学習データとして用いて学習モデルを学習させる学習処理部と、蓄電素子のSOCに係る時系列データを取得するSOC取得部と、前記蓄電素子のSOHを取得するSOH取得部と、前記SOC取得部で取得したSOCに係る時系列データ及び前記SOH取得部で取得したSOHを学習データとして用いて前記学習処理部で学習させた前記学習モデルを再学習させる再学習処理部とを備える。
【0040】
コンピュータに、蓄電素子の劣化を推定させるためのコンピュータプログラムは、コンピュータに、蓄電素子のSOCの変動に基づいて前記蓄電素子のSOHを推定する劣化シミュレータに、SOCに係る時系列データを入力し、前記劣化シミュレータが出力するSOHを取得する処理と、前記劣化シミュレータに入力したSOCに係る時系列データを取得する処理と、取得したSOCに係る時系列データ及び取得したSOHを学習データとして用いて学習モデルを学習させる処理と、蓄電素子のSOCに係る時系列データを取得する処理と、前記蓄電素子のSOHを取得する処理と、取得したSOCに係る時系列データ及び取得したSOHを学習データとして用いて、学習させた前記学習モデルを再学習させる処理とを実行させる。
【0041】
蓄電素子の劣化を推定する劣化推定方法は、蓄電素子のSOCの変動に基づいて前記蓄電素子のSOHを推定する劣化シミュレータに、SOCに係る時系列データを入力し、前記劣化シミュレータが出力するSOHを取得し、前記劣化シミュレータに入力したSOCに係る時系列データを取得し、取得されたSOCに係る時系列データ及び取得されたSOHを学習データとして用いて学習モデルを学習させ、蓄電素子のSOCに係る時系列データを取得し、前記蓄電素子のSOHを取得し、取得されたSOCに係る時系列データ及び取得されたSOHを学習データとして用いて、学習させた前記学習モデルを再学習させる。
【0042】
出力値取得部は、蓄電素子のSOCの変動に基づいて当該蓄電素子のSOHを推定する劣化シミュレータに、SOCに係る時系列データが入力されたときに劣化シミュレータが出力するSOHを取得する。
【0043】
劣化シミュレータは、SOCに係る時系列データ及び蓄電素子の温度に基づいて蓄電素子のSOHの劣化値を推定することができる。蓄電素子の劣化予測対象期間(例えば、時点t1から時点tnまで)経過後の劣化値Qdegは、Qdeg=Qcnd+Qcurという式で算出できる。ここで、Qcndは非通電劣化値であり、Qcurは通電劣化値である。非通電劣化値Qcndは、例えば、Qcnd=K1×√(t)で求めることができる。ここで、係数K1は、SOC及び温度Tの関数である。tは経過時間であり、例えば、時点t1から時点tnまでの時間である。また、通電劣化値Qcurは、例えば、Qcur=K2×√(t)で求めることができる。ここで、係数K2は、SOC及び温度Tの関数である。時点t1でのSOHをSOH
t1とし、時点tnでのSOHをSOH
tn とすると、SOH
tn=SOH
t1−QdegによりSOHを推定することができる。係数K1は、劣化係数であり、SOC及び温度Tと係数K1との対応関係を演算で求めてもよく、あるいはテーブル形式で記憶しておくことができる。ここで、SOCは、時系列データとすることができる。係数K2についても、係数K1と同様である。
【0044】
入力値取得部は、劣化シミュレータに入力したSOCに係る時系列データを取得する。
【0045】
学習処理部は、入力値取得部で取得したSOCに係る時系列データ及び出力値取得部で取得したSOHを学習データとして用いて学習モデルを学習させる。劣化シミュレータに様々なSOCの時系列データを入力すると、劣化シミュレータは、入力したSOCの時系列データに対する精度の高い劣化値(すなわち、SOH)を出力する。様々なSOCの時系列データは、シミュレーション用に比較的容易に生成できるので、学習モデルの学習用データを容易に生成することができ、学習モデルの推定精度(正答率)を容易に高めることができる。
【0046】
SOC取得部は、蓄電素子のSOCに係る時系列データを取得する。SOH取得部は、当該蓄電素子のSOHを取得する。蓄電素子からセンサ情報(例えば、電流、電圧、及び温度)を収集することができる。SOHは、センサ情報に基づいて公知の手法により推定することができる。代替的に、日本特許出願第2017−065532号(引用によりその内容全体がここに取り込まれる)に記載の手法を用いてSOHを推定してもよい。
【0047】
再学習処理部は、取得したSOCに係る時系列データ及び取得したSOHを学習データとして用いて学習処理部で学習させた学習モデルを再学習させる。センサ情報を収集して得られたSOCの時系列データやSOHは、例えば、時間的な変動が複雑となり、これらのデータを学習用データとして用いて未学習の学習モデルを学習させる場合、学習モデルの推定精度(正答率)を高めるのに大量の学習用データを必要とする傾向がある。予め、劣化シミュレータを用いることにより、比較的容易に学習データを得ることができ、未学習の学習モデルの推定精度を高めておくことができるので、再学習処理によって、大量の学習用データが無くても学習モデルの精度をさらに高めることができ、蓄電素子の劣化推定の精度を高くすることができる。
【0048】
劣化推定装置において、前記SOH取得部は、蓄電素子の第1時点でのSOH及び前記第1時点より後の第2時点でのSOHを取得し、前記SOC取得部は、前記第1時点から第2時点までの間の前記蓄電素子のSOCに係る時系列データを取得する。
【0049】
SOH取得部は、蓄電素子の第1時点でのSOH及び第1時点より後の第2時点でのSOHを取得する。蓄電素子からセンサ情報(例えば、電流、電圧、及び温度)を収集することができる。SOHは、センサ情報に基づいて公知の手法により推定することができる。代替的に、日本特許出願第2017−065532号(引用によりその内容全体がここに取り込まれる)に記載の手法を用いてSOHを推定してもよい。第1時点と第2時点との間の期間は、適宜設定することができ、例えば、1か月、3か月としてもよい。センサ情報に周期性がある場合は、第1時点と第2時点との間の期間を、センサ情報の周期で区切ってもよい。その際、SOHは、第1時点と第2時点の内挿値を用いてもよい。
【0050】
SOC取得部は、第1時点から第2時点までの間の当該蓄電素子のSOCに係る時系列データを取得する。SOCに係る時系列データは、例えば、センサ情報で得られた電流データに基づいて、電流積算法により求めることができる。
【0051】
再学習処理部は、第1時点から第2時点までの間の蓄電素子のSOCに係る時系列データ及び第1時点でのSOHを入力データとし、第2時点でのSOHを出力データとする学習データに基づいて学習処理部で学習させた学習モデルを再学習させる。例えば、第1時点でのSOHをSOH(N)で表し、第2時点でのSOHをSOH(N+1)で表すとする。学習モデルは、第1時点でのSOHがSOH(N)であり、第1時点から第2時点までの蓄電素子のSOCの時間的変動がどのように推移すると、第2時点でのSOHがSOH(N+1)になるということを再学習する。これにより、ある時点(例えば、現在)のSOH、及び当該時点から劣化推定期間後の予測対象時点(例えば、1か月後、3か月後など)までの蓄電素子の使用条件を学習モデルに入力すれば、予測対象時点でのSOHを推定することができる。これにより、AIを用いて蓄電素子の劣化を推定することができる。
【0052】
劣化推定装置において、前記学習モデルは、畳み込みニューラルネットワークを有し、前記入力値取得部で取得したSOCに係る時系列データに基づいて、複数の時点と、前記複数の時点それぞれのSOC値とを含む2次元SOCデータを生成する2次元データ生成部を備え、前記学習処理部は、前記2次元データ生成部で生成した2次元SOCデータを学習データとして用いて前記学習モデルを学習させる。
【0053】
学習モデルは、畳み込みニューラルネットワークを有する。
【0054】
2次元データ生成部は、入力値取得部で取得したSOCに係る時系列データ(すなわち、劣化シミュレータに入力したSOCの時系列データ)に基づいて、複数の時点と当該複数の時点それぞれのSOC値とを含む2次元SOCデータを生成する。2次元SOCデータを2次元画像(2次元SOC画像ともいう)として扱う。例えば、2次元SOC画像を、縦×横=m×mの画素で構成される画像とすると、SOCの0%から100%を縦のm画素に割り当て、時点t1からtnまでの時間を横のm画素に割り当てることにより、時点t1から時点tnまでのSOCの時系列データを2次元画像として生成することができる。2次元SOC画像は、SOC値が割り当てられた画素を「1」とし、SOC値が割り当てられていない画素を「0」とすることができる。
【0055】
学習処理部は、2次元データ生成部で生成した2次元SOCデータを学習データとして用いて学習モデルを学習させる。すなわち、劣化シミュレータに入力したSOCの時系列データから2次元SOC画像を生成することにより、畳み込みニューラルネットワークを有する学習モデルを学習させることができる。SOCの時間的変動を画像上の画素の位置の変化として捉えて、学習モデルを学習させることができる。これにより、SOCの変動によるSOHの変化(劣化値)を精度良く推定できるように学習モデルを学習させることができる。
【0056】
劣化推定装置において、前記2次元データ生成部は、前記SOC取得部で取得したSOCに係る時系列データに基づいて、複数の時点と、前記複数の時点それぞれのSOC値とを含む2次元SOCデータを生成し、前記再学習処理部は、前記2次元データ生成部で生成した2次元SOCデータを学習データとして用いて前記学習処理部で学習させた前記学習モデルを再学習させる。
【0057】
2次元データ生成部は、SOC取得部で取得したSOCに係る時系列データに基づいて、複数の時点と当該複数の時点それぞれのSOC値とを含む2次元SOCデータを生成する。この場合、SOCに係る時系列データは、例えば、センサ情報で得られた電流データに基づいて、電流積算法により求めることができる。
【0058】
再学習処理部は、2次元データ生成部で生成した2次元SOCデータを学習データとして用いて学習処理部で学習させた学習モデルを再学習させる。すなわち、センサ情報から得られたSOCの時系列データから2次元SOC画像を生成することにより、畳み込みニューラルネットワークを有する学習モデルを再学習させることができる。SOCの時間的変動を画像上の画素の位置の変化として捉えて、学習モデルを再学習させることができる。これにより、SOCの変動によるSOHの変化(劣化値)を精度良く推定できるように学習モデルを再学習させることができる。
【0059】
劣化推定装置において、前記出力値取得部は、前記SOCに係る時系列データとともに温度に係る時系列データが入力された前記劣化シミュレータが出力するSOHを取得する。
【0060】
出力値取得部は、SOCに係る時系列データとともに温度に係る時系列データが入力された劣化シミュレータが出力するSOHを取得する。これにより、劣化シミュレータに入力する温度データとして、例えば、平均温度を用いる場合に比べて、温度変動も考慮した劣化値を推定できるので、学習モデルの推定精度を向上させることができる。
【0061】
劣化推定装置において、前記入力値取得部は、前記劣化シミュレータに入力した温度に係る時系列データを取得し、前記学習処理部は、前記入力値取得部で取得した温度に係る時系列データ及び前記出力値取得部で取得したSOHを学習データとして用いて前記学習モデルを学習させる。
【0062】
入力値取得部は、劣化シミュレータに入力した温度に係る時系列データを取得する。
【0063】
学習処理部は、入力値取得部で取得した温度に係る時系列データ及び出力値取得部で取得したSOHを学習データとして用いて学習モデルを学習させる。これにより、温度変動も考慮して学習モデルを学習させることができ、学習モデルの推定精度を向上させることができる。
【0064】
劣化推定装置は、前記蓄電素子の時系列に検出された温度データを取得する温度データ取得部を備え、前記再学習処理部は、前記温度データ取得部で取得した温度データ及び前記SOH取得部で取得したSOHを学習データとして用いて前記学習処理部で学習させた前記学習モデルを再学習させる。
【0065】
温度データ取得部は、蓄電素子の時系列に検出された温度データを取得する。
【0066】
再学習処理部は、温度データ取得部で取得した温度データ及びSOH取得部で取得したSOHを学習データとして用いて学習処理部で学習させた学習モデルを再学習させる。これにより、温度変動も考慮して学習モデルを再学習させることができ、学習モデルの推定精度を向上させることができる。
【0067】
蓄電素子の劣化を推定する劣化推定装置は、蓄電素子のSOCの変動に基づいて前記蓄電素子のSOHを推定する劣化シミュレータに入力するSOCに係る時系列データと、前記SOCに係る時系列データを前記劣化シミュレータに入力したときに前記劣化シミュレータが出力するSOHを学習データとして学習させた学習モデルを備え、前記学習モデルは、さらに、蓄電素子のSOCに係る時系列データ及び前記蓄電素子のSOHを学習データとして再学習してあり、蓄電素子の第1時点でのSOHを取得するSOH取得部と、前記第1時点から第2時点までの間の前記蓄電素子のSOCに係る時系列データを取得するSOC取得部とを備え、前記第1時点でのSOH及び前記SOC取得部で取得したSOCに係る時系列データを前記学習モデルに入力して前記第2時点でのSOHを推定する。
【0068】
コンピュータに、蓄電素子の劣化を推定させるためのコンピュータプログラムは、コンピュータに、蓄電素子の第1時点でのSOHを取得する処理と、前記第1時点から第2時点までの間の前記蓄電素子のSOCに係る時系列データを取得する処理と、蓄電素子のSOCの変動に基づいて前記蓄電素子のSOHを推定する劣化シミュレータに入力するSOCに係る時系列データと、前記SOCに係る時系列データを前記劣化シミュレータに入力したときに前記劣化シミュレータが出力するSOHを、前記第1時点での学習データとして学習させ、さらに、蓄電素子のSOCに係る時系列データ及び前記蓄電素子のSOHを学習データとして再学習させた学習モデルに入力して前記第2時点でのSOHを推定する処理とを実行させる。
【0069】
蓄電素子の劣化を推定する劣化推定方法は、蓄電素子の第1時点でのSOHを取得し、前記第1時点から第2時点までの間の前記蓄電素子のSOCに係る時系列データを取得し、蓄電素子のSOCの変動に基づいて前記蓄電素子のSOHを推定する劣化シミュレータに入力するSOCに係る時系列データと、前記SOCに係る時系列データを前記劣化シミュレータに入力したときに前記劣化シミュレータが出力するSOHを、前記第1時点での学習データとして学習させ、さらに、蓄電素子のSOCに係る時系列データ及び前記蓄電素子のSOHを学習データとして再学習させた学習モデルに入力して前記第2時点でのSOHを推定する。
【0070】
学習モデルは、蓄電素子のSOCの変動に基づいて当該蓄電素子のSOHを推定する劣化シミュレータに入力するSOCに係る時系列データ、及び当該SOCに係る時系列データを劣化シミュレータに入力したときに劣化シミュレータが出力するSOHを第1時点での学習データとして学習してある。学習モデルは、さらに、蓄電素子のSOCに係る時系列データ及び当該蓄電素子のSOHを学習データとして再学習してある。
【0071】
予め、劣化シミュレータを用いることにより、比較的容易に学習データを得ることができ、未学習の学習モデルの推定精度を高めておくことができる。さらに、再学習することにより、大量の学習用データが無くても学習モデルの精度をさらに高めることができ、蓄電素子の劣化推定の精度を高くすることができる。
【0072】
SOH取得部は、蓄電素子の第1時点でのSOHを取得する。SOC取得部は、第1時点から第2時点までの間の当該蓄電素子のSOCに係る時系列データを取得する。第1時点でのSOH及び取得したSOCに係る時系列データを学習モデルに入力して第2時点でのSOHを推定する。
【0073】
ある時点(例えば、現在)のSOH、及び当該時点から予測対象時点までのSOCの時系列データを学習済又は再学習済の学習モデルに入力すれば、予測対象時点でのSOHを推定することができる。これにより、AIを用いて蓄電素子の劣化を推定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0075】
(第1実施形態)
以下、本実施の形態に係る劣化推定装置を図面に基づいて説明する。
図1は本実施の形態の遠隔監視システム100の概要を示す図である。
図1に示すように、公衆通信網(例えば、インターネットなど)N1及び移動通信規格による無線通信を実現するキャリアネットワークN2などを含むネットワークNには、火力発電システムF、メガソーラー発電システムS、風力発電システムW、無停電電源装置(UPS:Uninterruptible Power Supply)U及び鉄道用の安定化電源システム等に配設される整流器(直流電源装置、又は交流電源装置)Dなどが接続されている。また、ネットワークNには、後述の通信デバイス1、通信デバイス1から情報を収集し、劣化推定装置としてのサーバ装置2、及び収集された情報を取得するクライアント装置3などが接続されている。本実施の形態において、劣化推定装置は、寿命シミュレータであってもよい。
【0076】
より具体的には、キャリアネットワークN2には基地局BSが含まれ、クライアント装置3は、基地局BSからネットワークNを経由してサーバ装置2と通信することができる。また、公衆通信網N1にはアクセスポイントAPが接続されており、クライアント装置3は、アクセスポイントAPからネットワークNを経由してサーバ装置2との間で情報を送受信することができる。
【0077】
メガソーラー発電システムS、火力発電システムF及び風力発電システムWには、パワーコンディショナ(PCS:Power Conditioning System)P、及び蓄電システム101が併設されている。蓄電システム101は、蓄電モジュール群Lを収容したコンテナCを複数並設して構成されている。蓄電モジュール群Lは、例えば、蓄電セル(セルとも称する)を複数直列に接続した蓄電モジュール(モジュールとも称する)と、蓄電モジュールを複数直列に接続したバンクと、バンクを複数並列に接続したドメインとの階層構造にて構成されている。蓄電素子は、鉛蓄電池及びリチウムイオン電池のような二次電池や、キャパシタのような、再充電可能なものであることが好ましい。蓄電素子の一部が、再充電不可能な一次電池であってもよい。
【0078】
図2は遠隔監視システム100の構成の一例を示すブロック図である。遠隔監視システム100は、通信デバイス1、サーバ装置2、クライアント装置3などを備える。
【0079】
図2に示すように、通信デバイス1は、ネットワークNに接続されるとともに、対象装置P、U、D、Mにも接続されている。対象装置P、U、D、Mは、パワーコンディショナP、無停電電源装置U、整流器D、後述する管理装置Mを含む。
【0080】
遠隔監視システム100では、各対象装置P、U、D、Mに接続した通信デバイス1を用いて、蓄電システム101における蓄電モジュール(蓄電セル)の状態(例えば、電圧、電流、温度、SOC(充電状態)を監視するとともに収集する。遠隔監視システム100は、検知された蓄電セルの状態(劣化状態、異常状態などを含む)をユーザ又はオペレータ(保守担当者)が確認できるように提示する。
【0081】
通信デバイス1は、制御部10、記憶部11、第1通信部12及び第2通信部13を備える。制御部10は、CPU(Central Processing Unit)などで構成され、内蔵するROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを用い、通信デバイス1全体を制御する。
【0082】
記憶部11は、例えば、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリを用いることができる。記憶部11には、制御部10が読み出して実行するデバイスプログラム1Pが記憶されている。記憶部11には、制御部10の処理によって収集された情報、イベントログ等の情報が記憶される。
【0083】
第1通信部12は、対象装置P、U、D、Mとの通信を実現する通信インタフェースであり、例えば、RS−232C又はRS−485等のシリアル通信インタフェースを用いることができる。
【0084】
第2通信部13は、ネットワークNを経由して通信を実現するインタフェースであり、例えば、Ethernet(登録商標)、又は無線通信用アンテナ等の通信インタフェースを用いる。制御部10は、第2通信部13を介してサーバ装置2と通信が可能である。
【0085】
クライアント装置3は、発電システムS、Fの蓄電システム101の管理者、対象装置P、U、D、Mの保守担当者等のオペレータが使用するコンピュータであってもよい。クライアント装置3は、デスクトップ型又はラップトップ型のパーソナルコンピュータであってもよいし、スマートフォン又はタブレット型の通信端末であってもよい。クライアント装置3は、制御部30、記憶部31、通信部32、表示部33、及び操作部34を備える。
【0086】
制御部30は、CPUを用いたプロセッサである。制御部30は、記憶部31に記憶されているWebブラウザプログラムに基づき、サーバ装置2又は通信デバイス1により提供されるWebページを表示部33に表示させる。
【0087】
記憶部31は、例えばハードディスク又はフラッシュメモリ等の不揮発性メモリを用いる。記憶部31には、Webブラウザプログラムを含む各種プログラムが記憶されている。
【0088】
通信部32は、有線通信用のネットワークカード等の通信デバイス、基地局BS(
図1参照)に接続する移動通信用の無線通信デバイス、又はアクセスポイントAPへの接続に対応する無線通信デバイスを用いることができる。制御部30は、通信部32により、ネットワークNを介してサーバ装置2又は通信デバイス1との間で通信接続又は情報の送受信が可能である。
【0089】
表示部33は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等のディスプレイを用いることができる。表示部33は、制御部30のWebブラウザプログラムに基づく処理により、サーバ装置2で提供されるWebページのイメージを表示することができる。
【0090】
操作部34は、制御部30との間で入出力が可能なキーボード及びポインティングデバイス、若しくは音声入力部等のユーザインタフェースである。操作部34は、表示部33のタッチパネル、又は筐体に設けられた物理ボタンを用いてもよい。操作部34は、ユーザによる操作情報を制御部20へ通知する。
【0091】
サーバ装置2の構成については後述する。
【0092】
図3は通信デバイス1の接続形態の一例を示す図である。
図3に示すように、通信デバイス1は、管理装置Mに接続される。管理装置Mには、さらに、バンク#1〜#Nそれぞれに設けられた管理装置Mが接続されている。なお、通信デバイス1は、バンク#1〜#Nそれぞれに設けられた管理装置Mと通信して蓄電素子の情報を受信する端末装置(計測モニタ)であってもよいし、電源関連装置に接続可能なネットワークカード型の通信デバイスであってもよい。
【0093】
各バンク#1〜#Nは、複数の蓄電モジュール60を備え、各蓄電モジュール60は、制御基板(CMU:Cell Monitoring Unit)70を備える。バンク毎に設けられている管理装置Mは、蓄電モジュール60に夫々内蔵されている通信機能付きの制御基板70とシリアル通信によって通信を行うことができるとともに、通信デバイス1に接続された管理装置Mとの間で情報の送受信を行うことができる。通信デバイス1に接続された管理装置Mは、ドメインに所属するバンクの管理装置Mからの情報を集約し、通信デバイス1へ出力する。
【0094】
図4はサーバ装置2の構成の一例を示すブロック図である。サーバ装置2は、制御部20、通信部21、記憶部22、及び処理部23を備える。処理部23は、SOC特定部24、学習データ生成部25、学習モデル26、学習処理部27、及び入力データ生成部28を備える。サーバ装置2は、1台のサーバコンピュータでもよいが、これに限定されるものではなく、複数台のサーバコンピュータで構成してもよい。なお、サーバ装置2は、シミュレータであってもよい。
【0095】
制御部20は、例えば、CPUで構成することができ、内蔵するROM及びRAM等のメモリを用い、サーバ装置2全体を制御する。制御部20は、記憶部22に記憶されているサーバプログラム2Pに基づく情報処理を実行する。サーバプログラム2PにはWebサーバプログラムが含まれ、制御部20は、クライアント装置3へのWebページの提供、Webサービスへのログインの受け付け等を実行するWebサーバとして機能する。制御部20は、サーバプログラム2Pに基づき、SNMP(Simple Network Management Protocol)用サーバとして通信デバイス1から情報を収集することも可能である。
【0096】
通信部21は、ネットワークNを介した通信接続及びデータの送受信を実現する通信デバイスである。具体的には、通信部21は、ネットワークNに対応したネットワークカードである。
【0097】
記憶部22は、例えばハードディスク又はフラッシュメモリ等の不揮発性メモリを用いることができる。記憶部22には、制御部20の処理によって収集される監視対象となる対象装置P、U、D、Mの状態を含むセンサ情報(例えば、蓄電素子の電圧データ、電流データ、温度データ)を記憶する。
【0098】
処理部23は、記憶部22のデータベースに収集された蓄電素子(蓄電モジュール、蓄電セル)のセンサ情報(時系列の電圧データ、時系列の電流データ、時系列の温度データ)を、蓄電素子毎に区分して取得することができる。
【0099】
処理部23は、学習モデル26を学習させる学習モードと、学習済の学習モデル26を用いて蓄電素子のSOH(State Of Health)を推定(劣化を推定)する推定モードで動
作する。SOHは、現在の満充電容量を、新品で所定温度のときの満充電容量を基準に比較した指標である。例えば、SOHが80%は、新品の80%しか容量がないことを意味する。また、容量の代わりに、充放電可能な電力量を基準としてもよい。一般的には、SOHが閾値より小さくなると寿命に達し、蓄電素子は使用できないと判断される。
【0100】
図5は学習モデル26の構成の一例を示す模式図である。学習モデル26は、深層学習(ディープラーニング)を含むニューラルネットワークモデルであり、入力層、出力層及び複数の中間層から構成されている。なお、
図5では、便宜上、2つ中間層を図示しているが、中間層の層数は2つに限定されず、3つ以上であってもよい。
【0101】
入力層、出力層及び中間層には、1つ又は複数のノード(ニューロン)が存在し、各層のノードは、前後の層に存在するノードと一方向に所望の重みで結合されている。入力層のノードの数と同数の成分を有するベクトルが、学習モデル26の入力データ(学習用の入力データ及びSOH推定用の入力データ)として与えられる。入力データには、蓄電素子情報、時間情報、SOC情報、温度情報、経過時間情報、充放電回数情報、SOH情報などが含まれる。出力データには、SOH情報が含まれる。これらの情報の詳細は後述する。なお、入力データのうち、特にSOC情報が最も重要なデータであると言える。蓄電素子の劣化は、SOCの変化に最も影響を受けると考えられるからであり、SOC情報を用いて学習モデル26を学習させることにより、劣化判定の精度を向上させることができる。すなわち、SOC情報は、他の情報よりも蓄電素子の状態を最も正しく表現可能であると言える。また、SOCが高い(大きい)状態で蓄電素子が放電する場合、電圧の変化に基づいて蓄電素子の状態を表現することが難しいという理由もある。また、特にSOC情報と温度情報とは互いに関連し、かつ、SOC情報及び温度情報の局所的な変動がSOHの変化に関連するため、それらを反映する、畳み込み層やプーリング層を中間層に加えた畳み込みニューラルネットワークを用いることが望ましい。
【0102】
入力層の各ノードに与えられたデータは、最初の中間層に入力して与えられると、重みおよび活性化関数を用いて中間層の出力が算出され、算出された値が次の中間層に与えられ、以下同様にして出力層の出力が求められるまで次々と後の層(下層)に伝達される。なお、ノードを結合する重みのすべては、学習アルゴリズムによって計算される。
【0103】
学習モデル26の出力層は、出力データとしてSOH情報を生成する。出力データは、出力層のノードの数(出力層のサイズ)と同じサイズの成分を有するベクトル形式のデータとすることができる。例えば、蓄電素子のSOHを、0%から100%まで1%毎に出力する場合、出力層のノード数を101とすることができる。なお、実用的なSOH情報として、例えば、60%から100%の間で1%毎にSOHを推定した場合には、出力層のノード数を41とすればよい。また、SOHの値を数%毎に区切り、数%の区切り毎に出力データを出力してもよい。なお、出力層からの出力値は、SOHの各区分に分類される確率と解釈することができる。
【0104】
学習モデル26及び学習処理部27は、例えば、CPU(例えば、複数のプロセッサコアを実装したマルチ・プロセッサなど)、GPU(Graphics Processing Units)、DSP(Digital Signal Processors)、FPGA(Field-Programmable Gate Arrays)などのハードウェアを組み合わせることによって構成することができる。また、量子プロセッサを組み合わせることもできる。学習モデル26は、ニューラルネットワークモデルに限定されるものではなく、他の機械学習モデルでもよい。
【0105】
図6は蓄電素子の使用時間に応じたSOHの低下の一例を示す模式図である。図中、縦軸はSOH(%)を示し、横軸は時間を示す。蓄電素子は、使用時間(放置時間も含む)によりSOHが低下する。
図6に示すように、時点ta、tb、tc、tdとし、時点tbと時点taとの時間は、時点tdと時点tcとの時間と同じとする。この場合、時点taから時点tbまでの間のSOHの低下ΔSOH(tb)と、時点tcから時点tdまでの間のSOHの低下ΔSOH(td)とで異なる。このように、同じ使用期間でも、蓄電素子の使用状態によって、SOHの低下度合いは異なる。そこで、蓄電素子の様々な使用状態を特定するために、異なる二つの時点間の蓄電素子の使用状態を把握することが、蓄電素子のSOHを推定するために重要な因子となる。
【0106】
図7は第1時点及び第2時点での蓄電素子のSOHの低下の一例を示す模式図である。第1時点でのSOHをSOH(N)で表し、第2時点でのSOHをSOH(N+1)で表す。第2時点でのSOHの低下{SOH(N)−SOH(N+1)}は、第1時点でのSOH(N)だけでなく、第1時点から第2時点まで、当該蓄電素子がどのような使用状態であったかに応じて異なる。別言すれば、蓄電素子の第1時点でのSOH(N)を特定することにより、第1時点から第2時点までの蓄電素子の使用状態が分かれば、蓄電素子の第2時点でのSOH(N+1)を推定することが可能となる。
【0107】
以下では、まず学習モデル26の学習モードについて説明する。
【0108】
処理部23は、SOH取得部としての機能を有し、蓄電素子の第1時点でのSOH及び第1時点より後の第2時点でのSOHを取得する。蓄電素子は、例えば、実際に移動体や施設において稼働している蓄電素子であってもよい。SOHは、センサ情報に基づいて公知の手法により推定することができる。代替的に、日本特許出願第2017−065532号(引用によりその内容全体がここに取り込まれる)に記載の手法を用いてSOHを推定してもよい。第1時点と第2時点との間の期間は、適宜設定することができ、例えば、1か月、3か月としてもよい。センサ情報に周期性がある場合は、第1時点と第2時点との間の期間を、センサ情報の周期で区切ってもよい。その際、SOHは、第1時点と第2時点の内挿値を用いてもよい。また、第1時点でのSOHは、第1時点よりも前の時点でのSOHに基づいて、学習済の学習モデル26により推定した値を用いることもできる。これにより、任意の期間において、蓄電素子の製造後の使用期間(放置期間も含む)において、連続的に蓄電素子のSOHを推定することが可能となる。
【0109】
処理部23は、第1時点から第2時点までの間の蓄電素子の状態(例えば、使用状態)に係る時系列データを特定する。第1時点でのSOHに対して、第2時点でのSOHがどの程度低下しているか(劣化が進行しているか)は、第1時点から第2時点までの蓄電素子の使用状態によって異なる。処理部23は、蓄電素子のセンサ情報から蓄電素子の状態に係る時系列データを特定する。
【0110】
学習データ生成部25は、第1時点でのSOH及び第1時点から第2時点までの時系列データを入力データとし、第2時点でのSOHを出力データとする学習データを生成する。
【0111】
学習処理部27は、学習データ生成部25で生成した学習データに基づいて学習モデル26を学習させる。例えば、第1時点でのSOHをSOH(N)で表し、第2時点でのSOHをSOH(N+1)で表すとする。
【0112】
なお、上述の学習データ生成部25は、サーバ装置2内に具備する必要はなく、他のサーバ装置に具備するようにし、当該サーバ装置で生成された学習データを取得し、学習処理部27が、取得した学習データに基づいて学習モデル26を学習させる構成でもよい。本明細書の以下の説明においても同様である。
【0113】
学習モデル26は、第1時点でのSOHがSOH(N)であり、第1時点から第2時点までの蓄電素子の状態がどのように推移すると、第2時点でのSOHがSOH(N+1)になるということを学習する。このような学習データは、移動体や施設において稼働している多くの蓄電素子のセンサ情報から大量に収集することができる。以下に述べるように、ある時点(例えば、現在)のSOH、及び当該時点から劣化推定期間後の予測対象時点(例えば、現在から1か月後又は3か月後など)までの蓄電素子の使用条件を学習済の学習モデル26に入力すれば、予測対象時点でのSOHを推定することができる。これにより、AIを用いて将来(例えば、1か月後又は3か月後など)の蓄電素子の劣化を推定することができる。
【0114】
次に、時系列データの例として、SOC(充電状態)に係る時系列データについて説明する。
【0115】
図8は第1時点から第2時点までの電流波形の一例を示す模式図である。図中、縦軸は電流を示し、正側が充電を表し、負側が放電を表す。横軸は時間を示す。
図8に示すような、時系列の電流データを、蓄電素子(蓄電セル)それぞれから収集することができる。
【0116】
図9は第1時点から第2時点までの電圧波形の一例を示す模式図である。図中、縦軸は電圧を示し、横軸は時間を示す。
図9に示すような、時系列の電圧データを、蓄電素子(蓄電セル)それぞれから収集することができる。
【0117】
図10は第1時点から第2時点までのSOCデータの一例を示す模式図である。図中、縦軸はSOCを示し、横軸は時間を示す。SOC特定部24は、
図8に示すような、蓄電素子の時系列の電流データに基づいて、蓄電素子のSOCに係る時系列データを特定することができる。SOCに係る時系列データは、例えば、電流積算法により求めることができる。なお、上述のSOC特定部24は、サーバ装置2内に具備する必要はなく、他のサーバ装置に具備するようにし、当該サーバ装置で特定した蓄電素子のSOCに係る時系列データを取得し、学習処理部27が、取得した時系列データに基づいて学習モデル26を学習させる構成でもよい。
【0118】
学習データ生成部は、第1時点でのSOH及びSOCに係る時系列データを入力データとし、第2時点でのSOHを出力データとする学習データを生成することができる。
【0119】
蓄電素子(例えば、リチウムイオン電池)は、充放電や放置により電極と電解液の界面に固体電解質界面層(SEI層)が生成され、SEI層が成長するにつれてSOHが低下する。本願発明者は、SEI層の成長はSOCに依存するという仮説に基づき、蓄電素子のSOCがどのような時間的推移をしたかという時系列データを用いて学習モデル26を学習させることを発案した。これにより、精度良くSOHを推定できる学習済の学習モデル26を生成することができる。
【0120】
図11はSOCリセットが行われたSOCデータの一例を示す模式図である。SOC特定部24は、補正部としての機能を有し、電圧データに基づいて、特定したSOCに係る時系列データのうち、所要時点でのデータを補正する。
【0121】
例えば、蓄電素子の充電又は放電が終了して所要時間経過後の電圧が安定している時点(
図11のリセット時点)の電圧データに基づいて、蓄電素子のOCV(開回路電圧)を取得することができる。SOC−OCV特性と取得したOCVからSOCを求めることができる。OCVから求めたSOCと、電流積算法により算出したSOCとの差が所定値以上である場合、電流積算法により算出したSOCをOCVから求めたSOCに置き換えることにより、電流積算法による誤差をリセットして、精度良くSOCを求めることができる。
【0122】
処理部23は、消去部としての機能を有し、第1時点から第2時点までのSOCに係る時系列データに基づいて学習モデル26を学習させる場合、記憶部22に記憶した電流データのうち第1時点から第2時点までの電流データを消去することができる。例えば、処理部23は、SOC特定部24で第1時点から第2時点までのSOCに係る時系列データを特定した場合、記憶部22に記憶した電流データのうち第1時点から第2時点までの電流データを消去することができる。
【0123】
一旦、電流データに基づいて第1時点から第2時点までのSOCに係る時系列データを特定した場合には、第1時点から第2時点までの電流データは不要となる。第1時点から第2時点までの電流データを消去することにより、記憶部22の記憶容量を低減することができる。また、消去することにより空いた記憶容量に別の電流データを記憶することができるので、大量のセンサ情報を記憶することが可能となる。電流データを消去する際に、これまでのセンサ情報を圧縮して前履歴として保持し、学習モデル26に前履歴を入力することで、前履歴を反映させてもよい。
【0124】
図12は第1時点から第2時点までの温度データの一例を示す模式図である。図中、縦軸は温度を示し、横軸は時間を示す。
図12に示すような、時系列の温度データを、蓄電素子(蓄電セル)それぞれから収集することができる。
【0125】
学習データ生成部25は、第1時点から第2時点までの間の蓄電素子の温度データに係る時系列データを入力データとする学習データを生成することができる。蓄電素子のSOHの低下は、蓄電素子の温度に依存する。そこで、蓄電素子の温度がどのような時間的推移をしたかという時系列データを用いて学習モデル26を学習させることにより、精度良くSOHを推定できる学習済の学習モデル26を生成することができる。
【0126】
図13は学習用データの一例を示す構成図である。
図13の例では、第1時点を時間t1とし、第2時点を時間t90としている。第1時点から第2時点までを3か月とすると、時間間隔は、1日とすることができる。ここで、時間(時間情報)は、一義的に定まる時点または時間帯を示す数値または文字列とすることができる。時間情報(t1、t2、…)は、第1時点からの相対的な時間でもよく、あるいは、蓄電素子の製造時点を基準とした時間でもよく、特定の時点(例えば、2017年1月1日0時0分0秒)を基準にした時間でもよい。
【0127】
図13に示すように、学習用入力データは、時間t1から時間t90までの90個のSOC値、時間t1から時間t90までの90個の温度値、時間t1でのSOHt1とすることができる。学習用出力データは、時間t90でのSOHt90とすることができる。
【0128】
図14は学習用データの他の例を示す構成図である。
図13の例との違いは、学習用入力データに、さらに、製造時点(例えば、製造完了時点)から時間t1までの経過時間Dt1、及び製造時点(例えば、製造完了時点)から時間t1までの充放電回数Ct1を含めることができる。
【0129】
学習データ生成部25は、蓄電素子の製造時点から第1時点までの経過期間を入力データとする学習データを生成することができる。蓄電素子は、放置時間にともないSOHが低下する(カレンダー劣化)。第1時点以降のSOHの低下は、製造時点(例えば、製造完了時点)から第1時点までの経過時間の長短に依存すると考えられる。そこで、蓄電素子の製造時点から第1時点までの経過期間を入力データとする学習データをさらに生成することにより、精度良くSOHを推定できる学習済の学習モデル26を生成することができる。
【0130】
学習データ生成部25は、蓄電素子の製造時点から第1時点までの総通電電気量(例えば、充放電回数を特定することができる場合には充放電回数でもよい)を入力データとする学習データを生成することができる。蓄電素子は、充放電回数にともないSOHが低下する(サイクル劣化)。第1時点以降のSOHの低下は、製造時点(例えば、製造完了時点)から第1時点までの充放電回数の多少に依存すると考えられる。そこで、充放電回数を特定することができる場合、蓄電素子の製造時点から第1時点までの充放電回数を入力データとする学習データをさらに生成することにより、精度良くSOHを推定できる学習済の学習モデル26を生成することができる。なお、経過時間Dt1又は充放電回数Ct1のいずれか一方だけを用いて学習データを生成してもよい。また、充放電回数を特定することができない場合には、充放電回数に代えて総通電電気量を用いてもよい。
【0131】
上述の例では、第1時点から第2時点までの学習期間を一つだけ設定する例について説明したが、これに限定されるものではない。
【0132】
図15は複数の学習期間を設定した一例を示す模式図である。図中、縦軸はSOHを示し、横軸は時間を示す。
図15に示すように、時点N1、時点N2、時点N3、時点N4、時点N5、時点N6、時点N7、及び時点N8を設定する。隣り合う時点間の時間は異なっていてもよい。時点N1を第1時点とし、時点N2を第2時点とする学習期間を設定することができる。また、時点N2を第1時点とし、時点N3を第2時点とする学習期間
を設定することができる。以下、同様である。
【0133】
図15に示すように、学習データ生成部25は、第1時点から第2時点までの学習期間を蓄電素子の使用期間に亘って複数設けて学習データを生成することができる。第1時点から第2時点までの学習期間をΔNとすると、例えば、蓄電素子の製造時点から寿命までの使用期間に亘って、複数の学習期間ΔNそれぞれの学習用データを用いて学習モデル26を学習させることにより、蓄電素子の製造後、寿命に達するまでの所要の時点でのSOHを推定することが可能となる。すなわち、蓄電素子の寿命予測が可能となる。
【0134】
次に、SOHを推定する推定モードについて説明する。
【0135】
図16は寿命推定のための入力データの一例を示す構成図である。
図16に示すように、寿命推定のための入力データは、時間te1(例えば、現在)から時間te90までの90個のSOC値、時間te1から時間te90までの90個の温度値、時間te1でのSOHte1とすることができる。
【0136】
入力データ生成部28は、第1時点でのSOH及び第1時点から第2時点までの間の蓄電素子の状態(例えば、使用状態)に係る時系列データに基づいて、寿命推定のための入力データを生成する。第1時点(
図16では、時間te1)でのSOHte1は、センサ情報に基づいて公知の手法により推定してもよく、学習済の学習モデル26により推定した値を用いることもできる。例えば、第1時点でのSOHte1は、第1時点よりも前の時点でのSOHに基づいて、学習済の学習モデル26により推定した値を用いることもできる。これにより、任意の期間において、連続的にSOHを推定することが可能となる。第2時点は、SOHを推定する予測対象時点である。蓄電素子の状態に係る時系列データ(
図16では、SOCに係る時系列データ)は、第1時点から第2時点までの蓄電素子の予定使用条件などから特定することができる。
【0137】
学習済の学習モデル26は、第1時点でのSOH及び時系列データを入力データとして、第2時点でのSOHを推定する。これにより、第1時点(例えば、現在)のSOH、及び第1時点から第2時点(予測対象時点)までの蓄電素子の予定使用条件が分かれば、第2時点でのSOHを推定することができる。また、第1時点のSOHを用いることにより、第1時点を基準にして、第1時点から第2時点までの蓄電素子の予定使用条件をどのように設定すれば、第2時点でのSOHをより大きく(SOHの低下を抑制)することができるかを判定することもできる。
【0138】
図17は寿命推定のための入力データの他の例を示す構成図である。
図16の例との違いとして、入力データに、さらに、製造時点(例えば、製造完了時点)から時間te1までの経過時間Dte1、及び製造時点(例えば、製造完了時点)から時間te1までの充放電回数Cte1を含んでいる。
【0139】
図18は蓄電素子の劣化推定結果の一例を示す模式図である。図中、縦軸はSOHを示し、横軸は時間を示す。学習済の学習モデル26は、現在(時間te1)のSOH及び現在から予測対象時点(時間te90)でのSOHを推定する。
図18において、破線で示す曲線は、蓄電素子の現在から予測対象時点までの予定使用条件(例えば、ユーザが予定している使用状態)におけるSOHの推移を示す。本実施の形態のサーバ装置2によれば、蓄電素子の現在から予測対象時点までの使用条件を変えてSOHを推定することができる。例えば、実線で示す曲線のように、予測対象時点でのSOHの低下を抑制することができる使用条件(推奨使用条件)を見つけることができる。現在(時間te1)のSOH、すなわち第1時点のSOHを用いることにより、第1時点を基準にして、第1時点から第2時点までの蓄電素子の使用条件をどのように設定すれば、SOHの低下を抑制することができるかの情報をユーザに提供することができる。
【0140】
図19は学習モードでの処理部23の処理手順の一例を示すフローチャートである。処理部23は、第1時点及び第2時点を設定し(S11)、第1時点及び第2時点のSOHを取得する(S12)。処理部23は、第1時点から第2時点までのセンサ情報(時系列の電流データ、時系列の温度データ、時系列の電圧データ)を取得する(S13)。
【0141】
処理部23は、取得したセンサ情報に基づいて第1時点から第2時点までのSOCの推移を特定し(S14)、第1時点のSOH、第1時点から第2時点までのSOCの推移及び第1時点から第2時点までの温度の推移を入力データとし、第2時点でのSOHを出力データとする学習用データを生成する(S15)。
【0142】
処理部23は、生成した学習用データに基づいて、学習モデル26の学習及び更新を行い(S16)、処理を終了するか否かを判定する(S17)。処理を終了しないと判定した場合(S17でNO)、処理部23は、ステップS12以降の処理を続け、処理を終了すると判定した場合(S17でYES)、処理を終了する。
【0143】
図20は推定モードでの処理部23の処理手順の一例を示すフローチャートである。処理部23は、予測期間を設定し(S31)、予測期間の始点(第1時点)でのSOHを取得する(S32)。処理部23は、予測期間のセンサ情報を取得し(S33)、取得したセンサ情報に基づいて、予測期間のSOCの推移を特定する(S34)。
【0144】
処理部23は、予測期間の始点でのSOH、予測期間のSOCの推移、及び予測期間の温度の推移に基づいて予測用入力データを生成する(S35)。処理部23は、予測対象時点でのSOHを推定し(S36)、処理を終了する。
【0145】
上述のように、本実施の形態のサーバ装置2によれば、移動体や施設において稼働している多数の蓄電素子で検出された大量のセンサ情報に基づいて、実際の使用状態における蓄電素子の詳細な挙動を学習モデル26に学習させることができるので、従来の劣化推定のモデル(例えば、単純な条件下における耐久試験などから決定されたパラメータに基づく推定モデル)に比べて、蓄電素子のSOHを精度良く推定することができる。
【0146】
また、学習モードにおいて、実際の使用状態における蓄電素子の詳細な挙動を学習させているので、移動体や施設において稼働しているSOH推定対象の蓄電素子の挙動との相関関係が良く、SOH推定の信頼性が高い。なお、学習用の蓄電素子は、実際に稼働しているものに限定されない。例えば、寿命に近づいている、あるいは劣化が進行しているとして返却された蓄電素子のデータを用いることもできる。
なお、第2実施形態に記載しているように、入力データであるSOCの時系列データとして、2次元画像データを入力させてもよい。2次元画像データを生成する2次元画像生成部が処理部23に含まれていてもよいが、これに限らず、2次元画像生成部が処理部23(或いはサーバ装置2)の外にあってもよい。すなわち、劣化推定装置が2次元画像生成部を備えなくてもよく、他の処理装置により2次元画像が生成されたデータを劣化推定装置に入力させてもよい。
【0147】
(第2実施形態)
上述の第1実施形態では、学習処理部27(処理部23)が、学習モデル26を学習及び更新する構成であったが、第2実施形態では、学習処理部27(処理部23)は、後述の劣化シミュレータが出力する蓄電素子の劣化値(SOH)を学習データとして用いて学習モデル26を学習させ、第1実施形態と同様の処理を用いて学習済の学習モデル26を再学習させることができる。以下、第2実施形態について説明する。
【0148】
図21は第2実施形態のサーバ装置2の構成の一例を示すブロック図である。
図4に示す第1実施形態のサーバ装置2との相違点は、2次元画像生成部29を備える点である。なお、2次元画像生成部29の詳細は後述する。なお、本実施例では、2次元画像生成部29が処理部23に含まれている例を示しているが、これに限らず、2次元画像生成部29が処理部23(或いはサーバ装置2)の外にあってもよい。すなわち、劣化推定装置が2次元画像生成部を備えなくてもよく、他の処理装置により2次元画像が生成されたデータを劣化推定装置に入力させてもよい。
【0149】
図22は第2実施形態の劣化シミュレータ50の動作を示す模式図である。劣化シミュレータ50は、SOCの時系列データ及び温度の時系列データを入力データとして取得すると、蓄電素子の劣化値を推定(算出)する。
図22に示すように、SOCの時系列データは、時点t1から時点tnまでのSOCの変動(例えば、時点毎のn個のSOCの値の変動)を示し、温度の時系列データは、時点t1から時点tnまでの温度の変動(例えば、時点毎のn個の温度の値の変動)を示す。
【0150】
すなわち、劣化シミュレータ50は、時点t1から時点tnまでのSOC及び温度の変動に基づいて、時点t1から時点tnまでのSOHの低下(劣化値)を推定することができる。時点t1でのSOH(健康度ともいう)をSOH
t1 とし、時点tnでのSOHをSOH
tn とすると、劣化値は(SOH
t −SOH
tn )となる。すなわち、時点t1でのSOHが分かっていると、劣化値に基づいて時点tnでのSOHを求めることができる。ここで、時点は、現在又は将来のある時点とすることができ、時点tnは、時点t1から将来に向かって所要の時間が経過した時点とすることができる。時点t1と時点tnとの時間差は、劣化シミュレータ50の劣化予測対象期間であり、どの程度の将来に対して劣化値を予測するかに応じて適宜設定することができる。時点t1と時点tnとの時間差は、例えば、1か月、半年、1年、2年などの所要の時間とすることができる。
【0151】
なお、
図22の例では、温度の時系列データを入力する構成であるが、温度の時系列データに代えて、所要温度(例えば、時点t1から時点tnまでの平均温度)を入力してもよい。
【0152】
蓄電素子の劣化予測対象期間(例えば、時点t1から時点tnまで)経過後の劣化値Qdegは、Qdeg=Qcnd+Qcurという式で算出できる。ここで、Qcndは非通電劣化値であり、Qcurは通電劣化値である。非通電劣化値Qcndは、例えば、Qcnd=K1×√(t)で求めることができる。ここで、係数K1は、SOC及び温度Tの関数である。tは経過時間であり、例えば、時点t1から時点tnまでの時間である。また、通電劣化値Qcurは、例えば、Qcur=K2×√(t)で求めることができる。ここで、係数K2は、SOC及び温度Tの関数である。時点t1でのSOHをSOH
t1とし、時点tnでのSOHをSOH
tn とすると、SOH
tn=SOH
t1−QdegによりSOHを推定することができる。係数K1は、劣化係数であり、SOC及び温度Tと係数K1との対応関係を演算で求めてもよく、あるいはテーブル形式で記憶しておくことができる。ここで、SOCは、時系列データとすることができる。係数K2についても、係数K1と同様である。
【0153】
図23は劣化シミュレータ50によるSOHの推定の一例を示す模式図である。
図23に示すように、符号A、B、Cで示す3つのSOCの時系列データを劣化シミュレータ50に入力したとする。なお、温度は時点tから時点t+1までの平均温度を入力する。符号Aで示すSOCの時系列データは、SOCの変動幅が比較的小さい。一方、符号Cで示すSOCの時系列データは、SOCの変動幅が比較的大きい。符号Bで示すSOCの時系列データは、SOCの変動幅が両者の中間程度である。
図23に示すように、劣化シミュレータ50によるSOHの推定を符号A、B、Cで示す。符号AのSOHの推移は、符号AのSOCの時系列データに対応し、符号BのSOHの推移は、符号BのSOCの時系列データに対応し、符号CのSOHの推移は、符号CのSOCの時系列データに対応している。このように、SOCの変動幅が大きいほど劣化値が大きくなる傾向が見られる。
【0154】
様々なSOCの時系列データを劣化シミュレータ50に入力することにより、様々なSOCの時系列データに対応した劣化値(SOH)を推定することができ、SOCの時系列データに対応するSOHの推定結果のデータの組を大量かつ容易に生成することができる。
【0155】
処理部23は、出力値取得部としての機能を有し、劣化シミュレータ50に、SOCに係る時系列データが入力されたときに劣化シミュレータ50が出力するSOHを取得する。また、処理部23は、入力値取得部としての機能を有し、劣化シミュレータ50に入力したSOCに係る時系列データを取得する。すなわち、処理部23は、劣化シミュレータ50に入力されたSOCの時系列データと、そのときに劣化シミュレータ50が出力するSOH(劣化値により求められる)を取得する。
【0156】
学習処理部27は、劣化シミュレータ50に入力されたSOCに係る時系列データ及び劣化シミュレータ50が出力したSOHを学習データとして用いて学習モデル26を学習させる。劣化シミュレータ50に様々なSOCの時系列データを入力すると、劣化シミュレータ50は、入力したSOCの時系列データに対する精度の高い劣化値(すなわち、SOH)を出力する。様々なSOCの時系列データは、シミュレーション用に比較的容易に生成できるので、学習モデル26の学習用データを容易に生成することができ、学習モデル26の推定精度(正答率)を容易に高めることができる。
【0157】
処理部23は、SOCに係る時系列データとともに温度に係る時系列データが入力された劣化シミュレータ50が出力するSOHを取得することができる。これにより、劣化シミュレータ50に入力する温度データとして、例えば、平均温度を用いる場合に比べて、温度変動も考慮した劣化値を推定できるので、学習モデル26の推定精度を向上させることができる。
【0158】
学習処理部27は、劣化シミュレータ50に入力された温度の時系列データ及び劣化シミュレータ50が出力したSOHを学習データとして用いて学習モデル26を学習させることができる。これにより、温度変動も考慮して学習モデル26を学習させることができ、学習モデル26の推定精度を向上させることができる。
【0159】
処理部23は、SOC取得部としての機能を有し、蓄電素子のSOCに係る時系列データを取得する。また、処理部23は、当該蓄電素子のSOHを取得する。蓄電素子からセンサ情報(例えば、電流、電圧、及び温度)を収集することができる。SOHは、センサ情報に基づいて公知の手法により推定することができる。代替的に、日本特許出願第2017−065532号(引用によりその内容全体がここに取り込まれる)に記載の手法を用いてSOHを推定してもよい。
【0160】
学習処理部27は、再学習処理部としての機能を有し、処理部23で取得したSOCに係る時系列データ及びSOHを学習データとして用いて、劣化シミュレータ50のデータを用いて学習させた学習モデル26を再学習させる。
【0161】
より具体的には、学習処理部27は、第1時点から第2時点までの間の蓄電素子のSOCに係る時系列データ及び第1時点でのSOHを入力データとし、第2時点でのSOHを出力データとする学習データに基づいて、劣化シミュレータ50のデータを用いて学習させた学習モデル26を再学習させる。例えば、第1時点でのSOHをSOH(N)で表し、第2時点でのSOHをSOH(N+1)で表すとする。学習モデル26は、第1時点でのSOHがSOH(N)であり、第1時点から第2時点までの蓄電素子のSOCの時間的変動がどのように推移すると、第2時点でのSOHがSOH(N+1)になるということを再学習する。これにより、ある時点(例えば、現在)のSOH、及び当該時点から劣化推定期間後の予測対象時点(例えば、1か月後、3か月後など)までの蓄電素子の使用条件を学習モデル26に入力すれば、予測対象時点でのSOHを推定することができる。これにより、AIを用いて蓄電素子の劣化を推定することができる。
【0162】
また、学習処理部27は、センサ情報から得られた温度データ及び取得したSOHを学習データとして用いて、劣化シミュレータ50のデータを用いて学習させた学習モデル26を再学習させることができる。これにより、温度変動も考慮して学習モデル26を再学習させることができ、学習モデル26の推定精度を向上させることができる。
【0163】
次に、2次元画像生成部29について説明する。
【0164】
2次元画像生成部29は、2次元データ生成部としての機能を有し、SOCの時系列データに基づいて、複数の時点と当該複数の時点それぞれのSOC値とを含む2次元SOCデータを生成する。本明細書では、2次元SOCデータを2次元SOC画像として説明する。SOCの時系列データは、劣化シミュレータ50に入力したSOCの時系列データでもよく、センサ情報(例えば、電流の時系列データ)に基づいて電流積算法により求めたSOCの時系列データでもよい。
【0165】
2次元画像生成部29は、温度の時系列データに基づいて、複数の時点と当該複数の時点それぞれの温度値とを含む2次元温度画像を生成することができる。
【0166】
図24はSOCの時系列データから2次元SOC画像を生成する一例を示す模式図である。
図24Aは、SOCの時系列データを示す。
図24Aにおいて、縦軸はSOC(0から100%)を示し、横軸は時間(時点t1からtn)を示す。SOCの時系列データは、時点t1から時点tnのn個の時点それぞれにおけるSOC値をプロットしたものである。
図24Bは、2次元SOC画像を示し、縦×横=m×mの画素で構成される画像である。2次元SOC画像を生成する場合には、SOCの0%から100%を縦のm画素に割り当て、時点t1からtnまでの時間を横のm画素に割り当てる。2次元SOC画像は、SOC値が割り当てられた画素を「1」とし、SOC値が割り当てられていない画素を「0」とする画像として捉えることができる。
図24Bでは、模式的に画素「1」を黒丸で示している。
【0167】
例えば、nを20000(秒)とし、SOCの目盛りを0.5(%)刻みとし、縦×横の画素(m×m)を200×200とすると、2次元SOC画像での縦方向の1画素は、SOCの0.5%に相当し、横方向の1画素は、100秒に相当する。この場合、1画素当たりのSOCは、100秒間のSOCの平均値を用いることができる。
【0168】
図25は温度の時系列データから2次元温度画像を生成する一例を示す模式図である。
図25Aは、温度の時系列データを示す。
図25Aにおいて、縦軸は温度(例えば、0℃から100℃)を示し、横軸は時間(時点t1からtn)を示す。温度の時系列データは、時点t1から時点tnのn個の時点それぞれにおける温度をプロットしたものである。
図25Bは、2次元温度画像を示し、縦×横=m×mの画素で構成される画像である。2次元温度画像を生成する場合には、温度の0℃から100℃を縦のm画素に割り当て、時点t1からtnまでの時間を横のm画素に割り当てる。2次元温度画像は、温度が割り当てられた画素を「1」とし、温度が割り当てられていない画素を「0」とする画像として捉えることができる。
図25Bでは、模式的に画素「1」を黒丸で示している。
【0169】
図26は学習モデル26の構成の一例を示す模式図である。第2実施形態では、学習モデル26は畳み込みニューラルネットワークで構成することができる。学習モデル26は、入力層261、畳み込み層262、プーリング層263、畳み込み層264、プーリング層265、全結合層266、及び出力層267が、この順に接続されている。なお、畳み込み層、プーリング層及び全結合層の数は便宜上のものであり、
図26に示す数に限定されない。また、便宜上、活性化関数の層は省略している。
【0170】
入力層261には、2次元画像生成部29で生成した2次元SOC画像及び2次元温度画像を入力することができる。なお、入力層581を2チャネルで構成し、一方のチャネルに2次元SOC画像を入力し、他方のチャネルに2次元温度画像を入力することができる。
【0171】
出力層267の出力ノードの数は適宜決定できる。例えば、出力ノードの数を20とし、出力ノード1〜20をそれぞれSOHの低下割合(1〜20%)とすることができる。
【0172】
学習処理部27は、2次元画像生成部29で生成した2次元SOC画像を学習データとして用いて学習モデル26を学習させる。
【0173】
図27は劣化シミュレータ50の推定値を用いた学習用データの一例を示す構成図である。
図27に示すように、NO.1の学習用データは、学習用入力データとして、2次元SOC画像、2次元温度画像、時点t1におけるSOHとし、学習用出力データは時点tnにおけるSOHとすることができる。NO.2、NO.3以降の学習用データも同様である。すなわち、劣化シミュレータに入力したSOCの時系列データから2次元SOC画像を生成し、劣化シミュレータに入力した温度の時系列データから2次元温度画像を生成することにより、畳み込みニューラルネットワークを有する学習モデル26を学習させることができる。SOCの時間的変動を画像上の画素の位置の変化として捉えて、学習モデル26を学習させることができる。これにより、SOCの変動によるSOHの変化(劣化値)を精度良く推定できるように学習モデル26を学習させることができる。
【0174】
学習処理部27は、2次元画像生成部29で生成した2次元SOC画像を学習データとして用いて、劣化シミュレータ50の推定値を用いて学習させた学習モデル26を再学習させることができる。
【0175】
図28は実測値を用いた学習用データの一例を示す構成図である。
図28に示すように、NO.1の学習用データは、学習用入力データとして、2次元SOC画像、2次元温度画像、時点t1におけるSOHとし、学習用出力データは時点tnにおけるSOHとすることができる。NO.2、NO.3以降の学習用データも同様である。すなわち、センサ情報から得られたSOCの時系列データから2次元SOC画像を生成することにより、畳み込みニューラルネットワークを有する学習モデル26を再学習させることができる。SOCの時間的変動を画像上の画素の位置の変化として捉えて、学習モデル26を再学習させることができる。これにより、SOCの変動によるSOHの変化(劣化値)を精度良く推定できるように学習モデル26を再学習させることができる。
【0176】
図29は学習モデル26の学習データセットと推定精度との関係の一例を示す模式図である。
図29において、縦軸は学習モデル26の推定精度(正答率)を示し、横軸は学習データセット(学習に要したデータ量)を示す。符号R′で示す曲線は、実測値(例えば、市場のデータ)のみによる学習の場合を示す。符号R′で示す曲線のように、センサ情報を収集して得られたSOCの時系列データやSOHは、例えば、SOCの時間的な変動が複雑となり、これらのデータを学習用データとして用いて未学習の学習モデル26を学習させる場合、学習モデル26の推定精度(正答率)を高めるのに大量の学習用データを必要とする傾向がある。
【0177】
符号Saで示す曲線は、劣化シミュレータ50のデータを学習用データとして用いて学習させた場合を示す。劣化シミュレータ50に様々なSOCの時系列データを入力すると、劣化シミュレータ50は、入力したSOCの時系列データに対する精度の高い劣化値(すなわち、SOH)を出力するので、学習モデル26の学習用データを容易に生成することができ、学習モデル26の推定精度(正答率)を容易に高めることができる。符号Saで示す曲線のように、予め、劣化シミュレータを用いることにより、比較的容易に学習データを得ることができ、未学習の学習モデルの推定精度を高めておくことができる。ただし、符号Sbの曲線で示すように、劣化シミュレータ50のパラメータを決定する場合、多量なデータを反映しにくいという傾向があり、推定精度がデータ量の割に向上しにくくなるという傾向がある。
【0178】
符号Rで示す曲線は、劣化シミュレータ50の推定値を用いた学習の後で実測値による再学習を行った場合を示す。符号Rで示す曲線のように、予め、劣化シミュレータ50を用いることにより、比較的容易に学習データを得ることができ、未学習の学習モデル26の推定精度を高めておくことができるので、再学習処理によって、大量の学習用データが無くても学習モデル26の精度をさらに高めることができ、蓄電素子の劣化推定の精度を高くすることができる。
【0179】
上述のように、学習モデル26は、劣化シミュレータ50に入力するSOCに係る時系列データ、及び当該SOCに係る時系列データを劣化シミュレータ50に入力したときに劣化シミュレータ50が出力するSOHを学習データとして学習してある。学習モデル26は、さらに、蓄電素子のSOCに係る時系列データ及び当該蓄電素子のSOHを学習データとして再学習してある。
【0180】
学習モデル26の学習において、予め、劣化シミュレータ50を用いることにより、比較的容易に学習データを得ることができ、未学習の学習モデル26の推定精度を高めておくことができる。さらに、再学習することにより、大量の学習用データが無くても学習モデル26の精度をさらに高めることができ、蓄電素子の劣化推定の精度を高くすることができる。
【0181】
サーバ装置2は、蓄電素子の第1時点でのSOHを取得し、第1時点から第2時点までの間の当該蓄電素子のSOCに係る時系列データを取得する。サーバ装置2は、第1時点でのSOH及び取得したSOCに係る時系列データを学習モデル26に入力して第2時点でのSOHを推定することができる。
【0182】
ある時点(例えば、現在)のSOH、及び当該時点から予測対象時点までのSOCの時系列データを学習済又は再学習済の学習モデル26に入力すれば、予測対象時点でのSOHを推定することができる。これにより、AIを用いて蓄電素子の劣化を推定することができる。
【0183】
図30及び
図31は第2実施形態の学習モードでの処理部23の処理手順の一例を示すフローチャートである。処理部23は、劣化シミュレータにSOCの時系列データ及び温度の時系列データを入力し(S41)、劣化シミュレータが出力するSOH(劣化値)を取得し(S42)、劣化シミュレータ50に入力したSOCの時系列データ、温度の時系列データを取得する(S43)。なお、ステップS41の処理は、処理部23で行わず、予め別の装置で行っておくことができる。
【0184】
処理部23は、2次元SOC画像、2次元温度画像を生成し(S44)、生成した2次元SOC画像、2次元温度画像及び時点t1のSOHを入力データとし、時点tnのSOHを出力データとする学習用データを生成し(S45)、生成した学習用データを用いて学習モデル26を学習させる(S46)。
【0185】
処理部23は、劣化シミュレータ50のデータの有無を判定し(S47)、データがある場合(S47でYES)、ステップS41以降の処理を続ける。データがない場合(S47でNO)、処理部23は、第1時点及び第2時点を設定し(S48)、第1時点及び第2時点のSOHを取得する(S49)。
【0186】
処理部23は、第1時点から第2時点までのセンサ情報(時系列の電流データ、時系列の温度データ、時系列の電圧データ)を取得する(S50)。
【0187】
処理部23は、取得したセンサ情報を用いて2次元SOC画像、2次元温度画像を生成し(S51)、第1時点のSOH、2次元SOC画像及び2次元温度画像を入力データとし、第2時点でのSOHを出力データとする学習用データを生成する(S52)。
【0188】
処理部23は、生成した学習用データに基づいて、学習モデル26の再学習を行い(S53)、処理を終了するか否かを判定する(S54)。処理を終了しないと判定した場合(S54でNO)、処理部23は、ステップS49以降の処理を続け、処理を終了すると判定した場合(S54でYES)、処理を終了する。
【0189】
(第3実施形態)
学習モデル26の学習において、学習モデル26の全てのパラメータの中から、一部の所要のパラメータを選定し、例えば、SOCの代表値を用いて学習モデル26を学習させることによって、選定した所要のパラメータを決定する。ここで、蓄電素子のSOCの代表値は、稼働中の蓄電素子の第1時点から第2時点までの間における詳細な挙動を抽象化することにより求めることができる。SOCの代表値としては、例えば、SOCの平均値、SOCの総変動量、SOCの変動幅などを含む。SOCの平均値は、第1時点から第2時点までの間のSOCの値をサンプリングして合計した値をサンプリング数で除算した値であり、中心SOCである。SOCの総変動量は、第1時点から第2時点までのSOCがどのように変動したかの経路に沿った変動量の積算である。SOCの変動幅は、第1時点から第2時点までの間のSOCの最大値と最小値との差である。なお、SOCの代表値に加えて、温度の代表値を用いてもよい。
【0190】
所要のパラメータを決定した後、SOCや温度などの時系列データ(実測値)を用いて、学習モデル26を学習させることによって、学習モデル26の全て(残り)のパラメータを決定してもよい。これにより、劣化判定の精度が向上し、計算が速く収束させる(パラメータを決定し易くする)ことができる。
【0191】
上述の実施の形態では、サーバ装置2が、学習モデル26及び学習処理部27を備える構成であったが、これに限定されない。例えば、学習モデル26及び学習処理部27を別の1又は複数のサーバに設けるようにしてもよい。劣化推定装置は、サーバ装置2に限定されない。例えば、寿命推定シミュレータのような装置であってもよい。
【0192】
本実施の形態の制御部20及び処理部23は、CPU(プロセッサ)、GPU、RAM(メモリ)などを備えた汎用コンピュータを用いて実現することもできる。すなわち、
図19、
図20、
図30及び
図31に示すような、各処理の手順を定めたコンピュータプログラムをコンピュータに備えられたRAM(メモリ)にロードし、コンピュータプログラムをCPU(プロセッサ)で実行することにより、コンピュータ上で制御部20及び処理部23を実現することができる。コンピュータプログラムは記録媒体に記録され流通されてもよい。サーバ装置2で学習させた学習モデル26及びそれに基づくコンピュータプログラムが、ネットワークN及び通信デバイス1経由で遠隔監視の対象装置P、U、D、Mや端末装置に配信されインストールされてもよい。
【0193】
上述の実施形態では、時間t1から時間t90までのSOC及び温度を纏めて入力層に入力する構成であるが、これに限定されない。例えば、リカレントニューラルネットワーク(再帰型ニューラルネットワーク:RNN)という手法により、前の時間の中間層を次の時間の入力と合わせて学習するようにしてもよい。これにより、入力層のノード数を少なくすることができる。また、畳み込み層やプーリング層を中間層に加えた畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いてもよい。これにより、SOC情報と温度情報との関連性、及びSOC情報及び温度情報の局所的な変動とSOHの変化との関連性を反映させて学習することができる。
【0194】
実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。