(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6620905
(24)【登録日】2019年11月29日
(45)【発行日】2019年12月18日
(54)【発明の名称】保存容器
(51)【国際特許分類】
A01N 1/02 20060101AFI20191209BHJP
【FI】
A01N1/02
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2019-156415(P2019-156415)
(22)【出願日】2019年8月29日
【審査請求日】2019年8月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001209
【氏名又は名称】特許業務法人山口国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上松 聖典
(72)【発明者】
【氏名】北岡 隆
【審査官】
石井 徹
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−518034(JP,A)
【文献】
特表2016−512492(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0294149(US,A1)
【文献】
米国特許第4844242(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 1/02
B65D
A61B 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
角膜部と強膜外縁部を有する角膜検体を保存する保存容器であって、
前記角膜部を露出させる角膜露出部を有し、前記角膜露出部の外周側で前記強膜外縁部を支持する検体支持部と、
前記検体支持部に前記強膜外縁部が支持された前記角膜検体において前記角膜部の内皮側が露出し、第1の保存液が入れられる第1の室と、
前記検体支持部により前記第1の室と区画され、前記検体支持部に前記強膜外縁部が支持された前記角膜検体において前記角膜部の上皮側が露出し、前記第1の保存液と異なる第2の保存液が入れられる第2の室とを備え、
前記第1の室と前記第2の室との間で、前記第1の保存液と前記第2の保存液が非循環に構成される
保存容器。
【請求項2】
前記検体支持部は、前記強膜外縁部を挟持する第1の保持部と第2の保持部を備え、前記第1の保持部と前記第2の保持部を軸方向に加圧する加圧部を備えた
請求項1に記載の保存容器。
【請求項3】
前記検体支持部で区画される前記第1の室と前記第2の室を有した本体部と、
前記本体部の前記第1の室に面した第1の開口を開閉可能に塞ぐ第1の蓋と、
前記本体部の前記第2の室に面した第2の開口を開閉可能に塞ぐ第2の蓋とを備えた
請求項2に記載の保存容器。
【請求項4】
前記本体部は、前記第1の室を有した第1の本体部と、前記第2の室を有した第2の本体部を備え、
前記検体支持部は、前記第1の保持部を前記第1の本体部に備え、前記第2の保持部を前記第2の本体部に備えた
請求項3に記載の保存容器。
【請求項5】
前記角膜露出部は、前記第1の保持部に、前記角膜部の内皮側を露出させる第1の角膜露出部を備え、前記第2の保持部に、前記角膜部の上皮側を露出させる第2の角膜露出部を備えた
請求項2〜請求項4の何れか1項に記載の保存容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトおよび動物の角膜の使用および移植のための保存容器に関する。
【背景技術】
【0002】
移植に供する角膜は、その外縁に円環状の強膜を残した状態で切除され、通常は当該切除片が内部で拘束されない単純なガラスボトルもしくはプラスティックケースの保存容器に、充填された保存液に浸漬されて保存される。
【0003】
特許文献1では、保存容器内で角膜切除片を固定するために、角膜外縁の強膜部を受け面と合わせ面でクランプする構造が開示されている。また、特許文献2では、角膜の内皮側から上皮側にかけて圧力勾配を持たせること、及び、内皮、上皮の両側に保存培地を循環させるための構造が開示されている。すなわち、角膜検体(3)の角膜(3a)の直径に対応する中央穴と強膜(3b)を受ける円形溝が設けられた中間コンポーネント(2)、保存培地循環と圧力勾配を生成する手段に連結されるオリフイス(7a、7b及び11a、11b)を備えた内皮チャンバ(18)、上皮チャンバ(19)から成る構造が開示されている。
【0004】
上記の従来の保存容器において、現行で最も一般的に使用される保存液は、Optisol GS(登録商標)という市販の保存液であり、非特許文献1には、角膜内皮の保存に特に適しているとの報告がある。一方、非特許文献2によると、角膜上皮の保存には、Optisol GS(登録商標)は適しておらず、エブセレンが適していることを報告している。角膜内皮と角膜上皮は組織構造が異なるため、異なる保存液に浸漬させるのが望ましいが、上記の従来の保存容器では、一種類の保存液しか使用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−518034号公報
【特許文献2】特表2016−512492号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Arch.Ophthalmol.113,805-809(1995)「Viability of human corneal endothelium following Optisol-GS storage」
【非特許文献2】Scientific Reports 6:38987 December 14, 2016「Ebselen Preserves Tissue-Engineered Cell Sheets and their Stem Cells in Hypothermic Conditions」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、角膜の内皮と上皮を含む角膜全体と強膜外縁部から成る角膜検体を保存する保存容器であって、角膜の内皮と角膜の上皮を異なる保存液に浸漬して保存することが可能な保存容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するため、本発明は、角膜部と強膜外縁部を有する角膜検体を保存する保存容器であって、角膜部を露出させる角膜露出部を有し、角膜露出部の外周側で強膜外縁部を支持する検体支持部と、検体支持部に強膜外縁部が支持された角膜検体において角膜部の内皮側が露出し、第1の保存液が入れられる第1の室と、検体支持部により第1の室と区画され、検体支持部に強膜外縁部が支持された角膜検体において角膜部の上皮側が露出し、第1の保存液と異なる第2の保存液が入れられる第2の室とを備え、第1の室と第2の室との間で、第1の保存液と第2の保存液が非循環に構成される保存容器である。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、角膜の内皮は、内皮の保存に適した第1の保存液に浸漬させた状態とし、角膜の上皮は、上皮の保存に適した第2の保存液に浸漬させた状態とすることができ、かつ、第1の保存液と第2の保存液が混ざることが抑制される。従って、簡単な構成の保存容器で、角膜検体を保存できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施の形態の保存容器の一例を示す側断面図である。
【
図2】第1の実施の形態の保存容器の一例を示す断面斜視図である。
【
図3】第2の実施の形態の保存容器の一例を示す側断面図である。
【
図4】第3の実施の形態の保存容器の一例を示す側断面図である。
【
図5】第4の実施の形態の保存容器の一例を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の保存容器の実施の形態について説明する。
【0012】
<本実施の形態の保存容器の構成例>
図1は、第1の実施の形態の保存容器の一例を示す側断面図、
図2は、第1の実施の形態の保存容器の一例を示す断面斜視図である。
【0013】
第1の実施の形態の保存容器1Aは、角膜部101と強膜外縁部102を有する角膜検体100を保存する保存容器であって、本体部2Aと、角膜検体100を支持する検体支持部3Aを備える。
【0014】
本体部2Aは、円筒状等の筒状に構成され、筒内壁の軸方向の略中央に検体支持部3Aが設けられる。本体部2Aは、第1の保存液60aが入れられる第1の室20aと、第1の室20aと検体支持部3Aで区画され、第2の保存液60bが入れられる第2の室20bを備える。
【0015】
本体部2Aは、第1の本体部21aと第2の本体部21bの2つの部品で構成される。第1の本体部21aは、第1の室20aと、検体支持部3Aを構成する第1の保持部30aを備える。また、第2の本体部21bは、第2の室20bと、検体支持部3Aを構成する第2の保持部30bを備える。
【0016】
本体部2Aは、第1の室20aを上側、第2の室20bを下側としたとき、第1の保持部30aで第1の室20aの底面が形成され、第2の保持部30bで第2の室20bの天面が形成される。
【0017】
第1の保持部30aは、径方向の中央が、角膜部101の直径より大きく、強膜外縁部102の直径より小さい大きさで例えば円形に開口し、第1の角膜露出部31aが形成される。第1の保持部30aは、第1の角膜露出部31aの外周が平坦状で、角膜検体100の強膜外縁部102の内皮側に当接する。第1の保持部30aは、強膜外縁部102の内皮側が当接する第1の角膜露出部31aの外周に封止部材32aが設けられる。
【0018】
また、第2の保持部30bは、径方向の中央が、角膜部101の直径より大きく、強膜外縁部102の直径より小さい大きさで例えば円形に開口し、第2の角膜露出部31bが形成される。第2の保持部30bは、第2の角膜露出部31bの外周が平坦状で、角膜検体100の強膜外縁部102の上皮側に当接する。第2の保持部30bは、強膜外縁部102の上皮側が当接する第2の角膜露出部31bの外周に封止部材32bが設けられる。なお、強膜外縁部102の平坦性が担保されるならば、封止部材32a、32bは設けなくてもよい場合がある。
【0019】
検体支持部3Aは、第1の保持部30aの外周に加圧部を構成する第1の加圧受け部33aを備え、第2の保持部30bの外周に加圧部を構成する第2の加圧受け部33bを備える。第1の加圧受け部33aは、第1の本体部21aの外周から外方に向けて突出する形態に構成され、第2の加圧受け部33bは、第2の本体部21bの外周から外方に向けて突出する形態に構成される。
【0020】
検体支持部3Aは、第1の角膜露出部31a及び第2の角膜露出部31bの外周側で、第1の保持部30aと第2の保持部30bの間に、角膜検体100の強膜外縁部102を支持する。また、検体支持部3Aは、第1の角膜露出部31a及び第2の角膜露出部31bに、角膜検体100の角膜部101が露出する。
【0021】
第1の室20aは、第1の保持部30aの第1の角膜露出部31aに、角膜部101の内皮側が露出する。また、第2の室20bは、第2の保持部30bの第2の角膜露出部31bに、角膜部101の上皮側が露出する。
【0022】
これにより、本体部2Aは、検体支持部3Aに角膜検体100が支持されると、第1の室20aと第2の室20bが、気密性、水密性を保った状態で、検体支持部3Aと角膜検体100により区画される。
【0023】
第1の室20aは、第1の保持部30aと反対側に第1の開口22aが形成され、第1の開口22aから第1の保存液60aが入れられる。第1の室20aは、第1の開口22aに第1の蓋40aを備える。
【0024】
第1の蓋40aは、第1の本体部21aの外周面に形成された雄ねじ部23aと、第1の蓋40aの内周面に形成された雌ねじ部41aが螺合することで第1の本体部21aに締結され、第1の開口22aを気密性、水密性を保った状態で塞ぐ。
【0025】
第2の室20bは、第2の保持部30bと反対側に第2の開口22bが形成され、第2の開口22bから第2の保存液60bが入れられる。第2の室20bは、第2の開口22bに第2の蓋40bを備える。
【0026】
第2の蓋40bは、第2の本体部21bの外周面に形成された雄ねじ部23bと、第2の蓋40bの内周面に形成された雌ねじ部41bが螺合することで第2の本体部21bに締結され、第2の開口22bを気密性、水密性を保った状態で塞ぐ。
【0027】
本体部2Aは、第1の開口22aが第1の蓋40aで塞がれ、第2の開口22bが第2の蓋40bで塞がれると、第1の室20aと第2の室20bとの間で、第1の室20aに入れられた第1の保存液60aと、第2の室20bに入れられた第2の保存液60bが非循環に構成される。
【0028】
保存容器1Aの使用方法について説明すると。第2の角膜露出部31bに角膜検体100の角膜部101の位置を合わせ、上皮が露出する向きとして、第2の保持部30bに強膜外縁部102を載せる。
【0029】
次に、第1の角膜露出部31aに角膜部101の位置を合わせ、内皮が露出する向きで、強膜外縁部102に第1の保持部30aを載せる。
【0030】
次に、第1の加圧受け部33aと第2の加圧受け部33bを、加圧部を構成する複数のクリップ50で挟み、密閉状態とする。これにより、第1の保持部30aと第2の保持部30bが軸方向に加圧される。
【0031】
そして、第1の室20aに第1の保存液60aを入れて、第1の開口22aを第1の蓋40aで塞ぎ、本体部2Aを反転させてから、第2の室20bに第2の保存液60bを入れて、第2の開口22bを第2の蓋40bで塞ぐ。
【0032】
これにより、保存容器1Aでは、角膜部101の内皮は、内皮の保存に適した第1の保存液60a、例えば、Optisol GS(登録商標)に浸漬させた状態とし、角膜部101の上皮は、上皮の保存に適した第2の保存液60b、例えば、エブセレンに浸漬させた状態とすることができ、かつ、第1の保存液60aと第2の保存液60bが混ざることが抑制される。従って、簡単な構成の保存容器1Aで、角膜検体100を保存できる。
【0033】
<本実施の形態の保存容器の変形例>
図3は、第2の実施の形態の保存容器の一例を示す側断面図である。以下の各実施の形態の説明で、第1の実施の形態の保存容器1Aと同等の機能を有する部材については、同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
【0034】
第2の実施の形態の保存容器1Bは、第1の本体部21aと第2の本体部21bの位置合わせる位置決め部材24を備える。位置決め部材24は、第1の加圧受け部33aの外周と第2の加圧受け部33bの外周に接することで、第1の本体部21aと第2の本体部21bの径方向の位置、すなわち、第1の角膜露出部31aと第2の角膜露出部31bの径方向の位置を合わせる。
【0035】
図4は、第3の実施の形態の保存容器の一例を示す側断面図である。第3の実施の形態の保存容器1Cは、本体部2Bが一体で構成される。また、検体支持部3Bは、第2の保持部30bが本体部2Bと一体で構成され、第1の保持部30aが、本体部2Bと別体で構成される。第1の保持部30aは、加圧部を構成する複数のねじ34で第2の保持部30bに取り付けられる。
【0036】
図5は、第4の実施の形態の保存容器の一例を示す側断面図である。第4の実施の形態の保存容器1Dは、第1の本体部21aと第2の本体部21bが、第1の本体部21aの内周面に形成された加圧部を構成する雌ねじ部25aと、第2の本体部21bの外周面に形成された加圧部を構成する雄ねじ部25bが螺合することで締結されて、本体部2Cを構成する。また、第1の本体部21aを第2の本体部21bに螺合する際に、封止部材32a、32b及び角膜検体100が回転することを抑制するため、封止部材32a、32bを貫通し、第2の本体部21bに非貫通で挿入されるピン等の回り止め部材26を備える。
【符号の説明】
【0037】
1A、1B、1C、1D・・・保存容器、2A・・・本体部、20a・・・第1の室、20b・・・第2の室、21a・・・第1の本体部、21b・・・第2の本体部、22a・・・第1の開口、22b・・・第2の開口、23a、23b・・・雄ねじ部、24・・・位置決め部材、25a・・・雌ねじ部、25b・・・雄ねじ部、26・・・回り止め部材、3A・・・検体支持部、30a・・・第1の保持部、30b・・・第2の保持部、31a・・・第1の角膜露出部、31b・・・第2の角膜露出部、32a、32b・・・封止部材、33a・・・第1の加圧受け部、33b・・・第2の加圧受け部、34・・・ねじ、40a・・・第1の蓋、40b・・・第2の蓋、41a、41b・・・雌ねじ部、50・・・クリップ、60a・・・第1の保存液、60b・・・第2の保存液
【要約】
【課題】角膜検体を保存する保存容器であって、角膜の内皮と上皮を異なる保存液に浸漬して保存することが可能な保存容器を提供する。
【解決手段】保存容器1Aは、角膜部101を露出させる第1の角膜露出部31a及び第2の角膜露出部31bを有し、第1の角膜露出部31a及び第2の角膜露出部31bの外周側で強膜外縁部102を支持する検体支持部3Aと、検体支持部3Aに強膜外縁部102が支持された角膜検体100において角膜部101の内皮側が露出し、第1の保存液60aが入れられる第1の室20aと、検体支持部3Aにより第1の室20aと区画され、検体支持部3Aに支持された角膜検体100において角膜部101の上皮側が露出し、第1の保存液60aと異なる第2の保存液60bが入れられる第2の室20bとを備え、第1の室20aと第2の室20bとの間で、第1の保存液60aと第2の保存液60bが非循環に構成される。
【選択図】
図1