(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数の弾性波共振子を有する前記弾性波フィルタが、複数の直列腕共振子と複数の並列腕共振子とを有するラダー型フィルタである、請求項1〜17のいずれか1項に記載のマルチプレクサ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のようなマルチプレクサでは、アンテナ端側において、周波数が異なる複数の弾性波フィルタが共通接続されている。
【0006】
ところで、本願の発明者らは、シリコンからなる支持基板上に、直接または間接に、タンタル酸リチウムからなる圧電体が積層されている構造を有する場合、利用するメインモードよりも高周波数側に、複数の高次モードが現れることを見出した。このような弾性波共振子を、マルチプレクサにおける低い方の周波数をもつ弾性波フィルタに用いた場合、該弾性波フィルタの高次モードによるリップルが、マルチプレクサにおける高い方の周波数をもつ他の弾性波フィルタの通過帯域に現れるおそれがある。すなわち、マルチプレクサにおける低い方の周波数をもつ弾性波フィルタの高次モードが、マルチプレクサにおける高い方の周波数をもつ他の弾性波フィルタの通過帯域内に位置すると、通過帯域にリップルが生じる。よって、他の弾性波フィルタのフィルタ特性が劣化するおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、他の帯域通過型フィルタにおいて、上記高次モードによるリップルが生じ難い、マルチプレクサ、該マルチプレクサを有する高周波フロントエンド回路及び通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、後述するように、シリコンからなる支持基板上に直接または間接に、タンタル酸リチウムからなる圧電体が積層されている弾性波共振子では、後述の第1〜第3の高次モードがメインモードよりも高周波数側に現れることを見出した。
【0009】
本願の第1〜第3の発明に係るマルチプレクサは、それぞれ、第1、第2及び第3の高次モードの内の少なくとも1つの高次モードが他のフィルタの通過帯域で発生することを回避するものである。
【0010】
本発明のある広い局面により提供されるマルチプレクサは、一端が共通接続されており、通過帯域が異なるN個の(但し、Nは2以上の整数)弾性波フィルタを備え、前記N個の弾性波フィルタのうち最も通過帯域が高域にある弾性波フィルタを除く、少なくとも1つの弾性波フィルタが、オイラー角(φ
LT=0°±5°の範囲内,θ
LT,ψ
LT=0°±15°の範囲内)のタンタル酸リチウムからなる圧電体と、オイラー角(φ
Si、θ
Si、ψ
Si)のシリコンからなる支持基板と、前記圧電体と前記支持基板との間に積層されている酸化ケイ素膜と、前記圧電体の一面に設けられたIDT電極とを有する複数の弾性波共振子と、を有し、下記の式(1)及び式(2)で決定される第1、第2及び第3の高次モード周波数f
hs_t(n)(但し、sは1,2または3であり、sが1,2または3のとき、それぞれ、第1,第2または第3の高次モードである。)の内の少なくとも1つが、m>nである全てのmについて、前記IDT電極の電極指ピッチで定まる波長λにより規格化した厚みを波長規格化膜厚としたとき、前記複数の弾性波共振子のうち少なくとも1つの弾性波共振子において、前記圧電体の波長規格化厚みT
LT、前記圧電体のオイラー角のθ
LT、前記酸化ケイ素膜の波長規格化厚みT
S、アルミニウムの厚みに換算した前記IDT電極の波長規格化厚みT
E、前記支持基板内における伝搬方位ψ
Si、及び前記支持基板の波長規格化厚みT
Siの値が、下記の式(3)
または下記の式(4)を満たす値とされている。
【0011】
【数1】
【0012】
【数2】
【0013】
f
hs_t(n)>f
u(m) 式(3)
f
hs_t(n)<f
l(m) 式(4)
前記式(1)〜式(4)におけるhは高次モードであることを示し、tはフィルタのnにおけるt番目の素子(共振子)を表し、mはm(m>n)番目のフィルタを表し、nはn番目のフィルタを表し、f
u(m)は
m番目のフィルタにおける通過帯域の高域側端部の周波数であり、f
l(m)は
m番目のフィルタにおける通過帯域の低域側端部の周波数である。
【0014】
なお、前記式(1)における各係数は、s=1、2、または3のとき、前記支持基板の結晶方位毎に下記の表1、表2または表3に示すそれぞれの値である。
【0015】
【表1】
【0016】
【表2】
【0017】
【表3】
【0018】
本発明の他の広い局面により提供されるマルチプレクサは、一端が共通接続されており、通過帯域が異なるN個の(但し、Nは2以上の整数)弾性波フィルタを備え、前記N個の弾性波フィルタを、通過帯域が低い方から順番に弾性波フィルタ(1)、弾性波フィルタ(2)、、、弾性波フィルタ(N)としたときに、前記N個の弾性波フィルタのうち最も通過帯域が高域にある弾性波フィルタを除く、少なくとも1つの弾性波フィルタ(n)(1≦n<N)が、少なくとも1つの弾性波共振子を有し、前記弾性波共振子は、オイラー角(φ
LT=0°±5°の範囲内,θ
LT,ψ
LT=0°±15°の範囲内)のタンタル酸リチウムからなる圧電体と、オイラー角(φ
Si,θ
Si,ψ
Si)のシリコンからなる支持基板と、前記圧電体の一面に設けられたIDT電極と、を有し、前記弾性波共振子において、前記IDT電極の電極指ピッチで定まる波長λにより規格化した厚みを波長規格化膜厚とし、前記圧電体の波長規格化厚みをT
LT、前記圧電体のオイラー角をθ
LT、前記酸化ケイ素膜の波長規格化厚みをT
S、アルミニウムの厚みに換算した前記IDT電極の波長規格化厚みをT
E、前記支持基板内における伝搬方位をψ
Si、前記支持基板の波長規格化厚みをT
Siとした場合に、前記T
LT、前記θ
LT、前記T
S、前記T
E、前記ψ
Si、前記T
Siで定まる下記の式(5)及び式(2)で決定される第1、第2及び第3の高次モード周波数f
hs_t(n)(但し、sは1、2または3であり、sが1,2または3のとき、それぞれ、第1、第2または第3の高次モードである。)の内の少なくとも1つが、前記少なくとも1つの弾性波フィルタ(n)よりも通過帯域が高いすべての弾性波フィルタ(m)(n<m≦N)において、下記の式(3)
または下記の式(4)を満たす値とされている。
【0019】
【数3】
【0020】
【数4】
【0021】
f
hs_t(n)>f
u(m) 式(3)
f
hs_t(n)<f
l(m) 式(4)
前記式(2)〜式(4)及び式(5)におけるhは高次モードであることを示し、f
u(m)は
弾性波フィルタ(m)における通過帯域の高域側端部の周波数であり、f
l(m)は
弾性波フィルタ(m)における通過帯域の低域側端部の周波数である。
【0022】
なお、前記式(5)における各係数は、s=1、2、または3のとき、前記支持基板の結晶方位毎に下記の表4、表5または表6に示すそれぞれの値である。
【0023】
【表4】
【0024】
【表5】
【0025】
【表6】
【0026】
式(5)を用い、本発明のマルチプレクサでは、式(1)で考慮されていないθ
LTをも考慮しているため、複数の高次モードのうち少なくとも1つの高次モードが、通過帯域が高い他の弾性波フィルタの通過帯域内により一層生じ難い。
【0027】
本発明に係るマルチプレクサのある特定の局面では、前記第1及び第2の高次モード周波数f
hs_t(n)が、前記式(3)
または前記式(4)を満たすように、前記T
LT、前記θ
LT、前記T
S、前記T
E、前記ψ
Si及び前記T
Siの値が選択されている。
【0028】
本発明に係るマルチプレクサのさらに他の特定の局面では、前記第1及び第3の高次モード周波数f
hs_t(n)が、前記式(3)
または前記式(4)を満たすように、前記T
LT、前記θ
LT、前記T
S、前記T
E、前記ψ
Si及び前記T
Siの値が選択されている。
【0029】
本発明に係るマルチプレクサのさらに他の特定の局面では、前記第2及び第3の高次モード周波数f
hs_t(n)が、前記式(3)
または前記式(4)を満たすように、前記T
LT、前記θ
LT、前記T
S、前記T
E、前記ψ
Si及び前記T
Siの値が選択されている。
【0030】
本発明に係るマルチプレクサのさらに他の特定の局面では、前記第1、第2及び第3の高次モード周波数f
hs_t(n)の全てが、前記式(3)
または前記式(4)を満たすように、前記T
LT、前記θ
LT、前記T
S、前記T
E、前記ψ
Si及び前記T
Siの値が選択されている。この場合には、第1の高次モード、第2の高次モード及び第3の高次モードのいずれの応答によるリップルも上記他の弾性波フィルタの通過帯域に現れない。
【0031】
本発明に係るマルチプレクサの他の特定の局面では、前記支持基板の波長規格化厚みT
Siが、T
Si>4である。
【0032】
本発明に係るマルチプレクサのさらに他の特定の局面では、T
Si>10である。
【0033】
本発明に係るマルチプレクサのさらに他の特定の局面では、T
Si>20である。
【0034】
本発明に係るマルチプレクサのさらに他の特定の局面では、前記圧電体の波長規格化厚みが、3.5λ以下である。
【0035】
本発明に係るマルチプレクサのさらに他の特定の局面では、前記圧電体の波長規格化厚みが、2.5λ以下である。
【0036】
本発明に係るマルチプレクサのさらに他の特定の局面では、前記圧電体の波長規格化厚みが、1.5λ以下である。
【0037】
本発明に係るマルチプレクサのさらに他の特定の局面では、前記圧電体の波長規格化厚みが、0.5λ以下である。
【0038】
本発明に係るマルチプレクサのさらに他の特定の局面では、複数の弾性波フィルタの一端が共通接続されているアンテナ端子がさらに備えられており、前記式(3)及び前記式(4)を満たす前記弾性波共振子が、前記アンテナ端子に最も近い、弾性波共振子である。この場合には、第1、第2及び第3の高次モードによるリップルが、他の弾性波フィルタの通過帯域においてより一層生じ難い。
【0039】
本発明に係るマルチプレクサのさらに他の特定の局面では、前記式(3)及び前記式(4)を満たす前記弾性波共振子が、複数の弾性波共振子の全てである。この場合には、他の弾性波フィルタにおける第1、第2及び第3の高次モードの内の少なくとも1つの高次モードによるリップルをより一層効果的に抑制することができる。
【0040】
本発明に係るマルチプレクサは、デュプレクサであってもよい。
【0041】
また、本発明に係るマルチプレクサは、3個以上の弾性波フィルタが前記アンテナ端子側で共通接続されている複合フィルタであってもよい。
【0042】
本発明に係るマルチプレクサのある特定の局面では、該マルチプレクサは、キャリアアグリゲーション用複合フィルタ装置である。
【0043】
本発明に係るマルチプレクサにおける前記複数の弾性波共振子を有する弾性波フィルタは、複数の直列腕共振子と、複数の並列腕共振子とを有するラダー型フィルタであることが好ましい。その場合には、高次モードの影響を本発明に従ってより効果的に抑制することができる。
【0044】
本発明に係る高周波フロントエンド回路は、本発明に従って構成されているマルチプレクサと、パワーアンプと、を備える。
【0045】
本発明に係る通信装置は、本発明に従って構成されているマルチプレクサ及びパワーアンプを有する高周波フロントエンド回路と、RF信号処理回路と、を備える。
【発明の効果】
【0046】
本発明に係るマルチプレクサによれば、通過帯域が低い方の弾性波フィルタを構成する少なくとも1つの弾性波共振子によって発生する、複数の高次モードのうち少なくとも1つの高次モードが、通過帯域が高い他の弾性波フィルタの通過帯域内に生じ難い。従って、上記他の弾性波フィルタのフィルタ特性の劣化が生じ難い。よって、フィルタ特性に優れたマルチプレクサを有する高周波フロントエンド回路及び通信装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るマルチプレクサの回路図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態のマルチプレクサで用いられている第1の弾性波フィルタを示す回路図である。
【
図3】
図3(a)は第1の実施形態のマルチプレクサで用いられている弾性波共振子の模式的正面断面図であり、
図3(b)は該弾性波共振子の電極構造を示す模式的平面図である。
【
図4】
図4は、第1の実施形態における第1〜第4の弾性波フィルタの通過帯域を示す模式図である。
【
図5】
図5は、弾性波共振子のアドミタンス特性を示す図である。
【
図6】
図6は、シリコンからなる支持基板の伝搬方位ψ
Siと、メインモード及び第1の高次モードの音速との関係を示す図である。
【
図7】
図7は、タンタル酸リチウムからなる圧電体の波長規格化厚みT
LTと、メインモード及び第1の高次モードの音速との関係を示す図である。
【
図8】
図8は、タンタル酸リチウムからなる圧電体のカット角(90°+θ
LT)と、メインモード及び第1の高次モードの音速との関係を示す図である。
【
図9】
図9は、酸化ケイ素膜の波長規格化厚みT
Sと、メインモード及び第1の高次モードの音速との関係を示す図である。
【
図10】
図10は、IDT電極の波長規格化厚みT
Eと、メインモード及び第1の高次モードの音速との関係を示す図である。
【
図11】
図11(a)は、比較例のマルチプレクサのフィルタ特性を示す図であり、
図11(b)は第1の実施形態のマルチプレクサのフィルタ特性を示す図である。
【
図12】
図12は、シリコンからなる支持基板の波長規格化厚みと、第1の高次モード、第2の高次モード及び第3の高次モードの位相最大値との関係を示す図である。
【
図13】
図13は、シリコンからなる支持基板の伝搬方位ψ
Siと、メインモード及び第2の高次モードの音速との関係を示す図である。
【
図14】
図14は、タンタル酸リチウムからなる圧電体の波長規格化厚みT
LTと、メインモード及び第2の高次モードの音速との関係を示す図である。
【
図15】
図15は、タンタル酸リチウムからなる圧電体のカット角(90°+θ
LT)と、メインモード及び第2の高次モードの音速との関係を示す図である。
【
図16】
図16は、酸化ケイ素膜の波長規格化厚みT
Sと、メインモード及び第2の高次モードの音速との関係を示す図である。
【
図17】
図17は、IDT電極の波長規格化厚みT
Eと、メインモード及び第2の高次モードの音速との関係を示す図である。
【
図18】
図18は、シリコンからなる支持基板の伝搬方位ψ
Siと、メインモード及び第3の高次モードの音速との関係を示す図である。
【
図19】
図19は、タンタル酸リチウムからなる圧電体の波長規格化厚みT
LTと、メインモード及び第3の高次モードの音速との関係を示す図である。
【
図20】
図20は、タンタル酸リチウムからなる圧電体のカット角(90°+θ
LT)と、メインモード及び第3の高次モードの音速との関係を示す図である。
【
図21】
図21は、酸化ケイ素膜の波長規格化厚みT
Sと、メインモード及び第3の高次モードの音速との関係を示す図である。
【
図22】
図22は、IDT電極の波長規格化厚みT
Eと、メインモード及び第3の高次モードの音速との関係を示す図である。
【
図23】
図23は、弾性波装置におけるタンタル酸リチウム膜の膜厚とQ値との関係を示す図である。
【
図24】
図24は、弾性波装置におけるタンタル酸リチウム膜の膜厚と、周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【
図25】
図25は、弾性波装置におけるタンタル酸リチウム膜の膜厚と、音速との関係を示す図である。
【
図26】
図26は、タンタル酸リチウムからなる圧電膜の波長規格化厚みと、比帯域との関係を示す図である。
【
図27】
図27は、酸化ケイ素膜の膜厚と、高音速膜の材質と音速との関係を示す図である。
【
図28】
図28は、酸化ケイ素膜の膜厚と、電気機械結合係数と、高音速膜の材質との関係を示す図である。
【
図29】
図29は、本発明で用いられる弾性波共振子の変形例の正面断面図である。
【
図30】
図30は、本発明で用いられる弾性波共振子の他の変形例の正面断面図である。
【
図31】
図31は、本発明の実施形態である高周波フロントエンド回路を有する通信装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0049】
なお、本明細書に記載の各実施形態は、例示的なものであり、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることを指摘しておく。
【0050】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るマルチプレクサの回路図である。マルチプレクサ1は、アンテナ端子2を有する。アンテナ端子2は、例えばスマートフォンのアンテナに接続される端子である。
【0051】
マルチプレクサ1では、アンテナ端子2に、第1〜第4の弾性波フィルタ3〜6が共通接続されている。第1〜第4の弾性波フィルタ3〜6は、いずれも、帯域通過型フィルタである。
【0052】
図4は、第1〜第4の弾性波フィルタ3〜6の通過帯域の関係を示す模式図である。
図4に示すように、第1〜第4の弾性波フィルタの通過帯域は異なっている。第1〜第4の弾性波フィルタの通過帯域を、それぞれ、第1〜第4の通過帯域とする。
【0053】
周波数位置は、第1の通過帯域<第2の通過帯域<第3の通過帯域<第4の通過帯域である。第2〜第4の通過帯域において、低域側端部をf
l(m)、高域側端部をf
u(m)とする。なお、低域側端部は、通過帯域の低域側端部である。また、高域側端部は、通過帯域の高域側端部である。通過帯域の低域側端部及び高域側端部としては、例えば、3GPPなどで標準化されている各バンドの周波数帯域の端部を用いることができる。
【0054】
ここで、(m)は、第2〜第4の通過帯域に応じて、それぞれ、2、3または4である。
【0055】
第1〜第4の弾性波フィルタ3〜6は、それぞれ、複数の弾性波共振子を有する。
図2は、第1の弾性波フィルタ3の回路図である。第1の弾性波フィルタ3は、それぞれが弾性波共振子からなる直列腕共振子S1〜S3及び並列腕共振子P1,P2を有する。すなわち、第1の弾性波フィルタ3は、ラダー型フィルタである。もっとも、ラダー型フィルタにおける直列腕共振子の数及び並列腕共振子の数はこれに限定されるものではない。
【0056】
また、第2〜第4の弾性波フィルタ4〜6についても、本実施形態では、同様にラダー型フィルタからなり、複数の直列腕共振子及び複数の並列腕共振子を有する。
【0057】
なお、第1〜第4の弾性波フィルタ3〜6は、複数の弾性波共振子を有する限り、ラダー型フィルタ以外の回路構成を有していてもよい。例えば、縦結合共振子型弾性波フィルタに、直列に弾性波共振子が接続されている弾性波フィルタであってもよい。また、縦結合共振子型弾性波フィルタにラダー型フィルタが接続されている弾性波フィルタでもよい。
【0058】
図3(a)及び
図3(b)は、第1の弾性波フィルタ3の直列腕共振子S1〜S3または、並列腕共振子P1,P2を構成している弾性波共振子の模式的正面断面図であり、
図3(b)は、その電極構造を示す模式的平面図である。
【0059】
弾性波共振子11は、支持基板12と、支持基板12上に積層された酸化ケイ素膜13と、酸化ケイ素膜13上に積層された、圧電体14とを有する。
【0060】
支持基板12は、シリコンで構成されている。支持基板12は、単結晶シリコンであるが、完全な単結晶でなくても結晶方位を有していればよい。酸化ケイ素膜13は、酸化ケイ素膜である。酸化ケイ素膜13は、酸化ケイ素であれば、例えば、酸化ケイ素にフッ素等をドープしたものも含んでいてもよい。圧電体14は、タンタル酸リチウムで構成されている。圧電体14は、単結晶タンタル酸リチウムであるが、完全な単結晶でなくても結晶方位を有していればよい。また、圧電体14は、タンタル酸リチウムであれば、LiTaO
3以外の材料であってもよい。
【0061】
なお、酸化ケイ素膜13の厚みは、0であってもよい。すなわち酸化ケイ素膜13が設けられずともよい。
【0062】
上記圧電体14の上面に、IDT(Interdigital Transducer)電極15が設けられている。より具体的には、IDT電極15の弾性波伝搬方向両側に反射器16,17が設けられており、それによって1ポート型の弾性表面波共振子が構成されている。
【0063】
本願発明者らは、上記支持基板12上に直接または間接に、タンタル酸リチウムからなる圧電体14が積層されている弾性波フィルタ装置において、弾性波を励振させると、利用しようとするメインモードの応答以外に、メインモードよりも高周波数側に複数の高次モードの応答が現れることを見出した。
図5を参照して、この複数の高次モードを説明する。
【0064】
図5は、支持基板上に酸化ケイ素膜及び圧電体が積層されている弾性波共振子の一例のアドミタンス特性を示す図である。
図5から明らかなように、3.9GHz付近に現れるメインモードの応答よりも高い周波数位置に、第1〜第3の高次モードの応答が現れている。第1の高次モードの応答は、矢印で示すように、4.7GHz付近に現れている。第2の高次モードの応答は、それよりも高く、5.2GHz付近に現れている。第3の高次モードの応答は、5.7GHz付近に現れている。すなわち、第1の高次モードの応答の周波数をf1、第2の高次モードの応答の周波数をf2、第3の高次モードの応答の周波数をf3とした場合、f1<f2<f3である。なお、上記高次モードの応答の周波数は、高次モードのインピーダンス位相特性のピーク位置である。ただし、
図5は一例であり、電極厚みなどの条件によっては各高次モードの周波数位置関係が入れ替わることもあり得る。
【0065】
前述したように、周波数が異なる複数の弾性波フィルタがアンテナ端子側で共通接続されているマルチプレクサでは、マルチプレクサにおける低い方の周波数をもつ弾性波フィルタによる高次モードが、マルチプレクサにおける高い方の周波数をもつ他の弾性波フィルタの通過帯域に現れると、リップルとなる。従って、第1の高次モード、第2の高次モード及び第3の高次モードのうち少なくとも1つの高次モードが、第2〜第4の弾性波フィルタ4〜6の通過帯域に現れないことが望ましい。好ましくは、第1の高次モード、第2の高次モード及び第3の高次モードのうち2つの高次モードが第2〜第4の弾性波フィルタ4〜6の通過帯域に現れないことが望ましい。例えば、第1の高次モード及び第2の高次モードの応答、第1の高次モード及び第3の高次モードの応答、または第2の高次モード及び第3の高次モードの応答が第2〜第4の弾性波フィルタ4〜6の通過帯域に現れないことが好ましい。さらに、好ましくは、第1の高次モード、第2の高次モード及び第3の高次モードの全てが、第2〜第4の弾性波フィルタ4〜6の通過帯域に現れないことが望ましい。
【0066】
本実施形態のマルチプレクサ1の特徴は、第1の弾性波フィルタ3を構成している少なくとも1つの弾性波共振子において、上記第1の高次モードの応答が、
図4に示した第2〜第4の通過帯域に現れていないことにある。そのため、第2〜第4の弾性波フィルタ4〜6におけるフィルタ特性の劣化が生じ難い。
【0067】
本実施形態の特徴は、以下のi)及びii)にある。
【0068】
i)タンタル酸リチウムからなる圧電体14の波長規格化厚みT
LT、タンタル酸リチウムからなる圧電体14のオイラー角のθ
LT、酸化ケイ素膜13の波長規格化厚みT
S、アルミニウムの厚みに換算したIDT電極15の波長規格化厚みT
E、シリコンからなる支持基板12における伝搬方位ψ
Si及び支持基板12の波長規格化厚みT
Siの値により、下記の式(1)及び式(2)が決定され、かつ周波数f
h1_t(n)が第1の高次モード周波数のf
h1_t(n)が、m>nである全てのmについて、下記の式(3)または下記の式(4)を満たす値とされていること、並びにii)T
Si>20とされていることにある。
【0069】
それによって、第1の高次モードによる応答が第2〜第4の弾性波フィルタ4〜6の通過帯域外に位置することとなる。従って、第1の高次モードによる第2〜第4の弾性波フィルタ4〜6のフィルタ特性の劣化が生じ難い。上記条件を満たすことにより、第1の高次モード周波数が第2〜第4の通過帯域外に位置することを、以下においてより詳細に説明する。
【0072】
より好ましくは、式(1)で示される音速V
hに代えて、下記の式(5)で示される音速V
hを用いることが好ましい。その場合には、他の帯域通過型フィルタにおける、高次モードによるリップルがより一層生じ難い。
【0074】
この場合においても、式(5)及び前述した式(2)で決定される第1、第2及び第3の高次モード周波数f
hs_t(n)(但し、sは1、2または3であり、sが1、2または3のとき、それぞれ、第1、第2または第3の高次モードである。)の内の少なくとも1つが、前記少なくとも1つの弾性波フィルタ(n)よりも通過帯域が高いすべての弾性波フィルタ(m)(n<m≦N)において、上述した式(3)
または上述した式(4)を満たす値とされている。
【0075】
f
hs_t(n)>f
u(m) 式(3)
f
hs_t(n)<f
l(m) 式(4)
【0076】
なお、式(1)〜式(4)及び式(5)において、hは高次モードであることを示す。また、本明細書において、波長規格化厚みとは、厚みを、IDT電極の波長で規格化した厚みである。ここで、波長とはIDT電極の電極指ピッチで定まる波長λをいうものとする。従って、波長規格化厚みとは、λを1として実際の厚みを規格化した厚みであり、実際の厚みをλで除算した値となる。なお、IDT電極の電極指ピッチで定まる波長λとは、電極指ピッチの平均値で定めてもよい。なお、本明細書においては、波長規格化厚みを単に膜厚と記載することがある。
【0077】
本願発明者らは、第1の高次モードの周波数位置が、上述した各パラメータに影響されることを見出した。
【0078】
図6に示すように、シリコンからなる支持基板の伝搬方位ψ
Siによって、メインモードの音速はほとんど変化しないが、第1の高次モードの音速は大きく変化する。
図7に示すように、第1の高次モードの音速は、タンタル酸リチウムからなる圧電体の波長規格化厚みT
LTによって変化する。
図8に示すように、タンタル酸リチウムからなる圧電体のカット角すなわち(90°+θ
LT)によっても、第1の高次モードの音速が変化する。
図9に示すように、酸化ケイ素膜の波長規格化厚みT
Sによっても、第1の高次モードの音速が、若干変化する。また、
図10に示すように、IDT電極の波長規格化厚みT
Eによっても、第1の高次モードの音速が若干変化する。本願発明者らは、これらのパラメータを自由に変化させ、第1の高次モードの音速を求めた。その結果、第1の高次モードの音速は、式(1)で表されることを見出した。そして、式(1)における係数は、シリコンからなる支持基板の結晶方位毎に、下記の表7に示す値であればよいことを確かめた。また、式(5)における係数は、シリコンからなる支持基板の結晶方位毎に、下記の表8に示す値であればよいことを確かめた。
【0081】
そして、第1の高次モードの音速をV
h1_tとすると、第1の高次モードの周波数は、式(2)により、f
h1_t(n)=V
h1_t/λ
t(n)で表される。ここで、f
h1は、第1の高次モードの周波数であることを意味し、tは、n番目のフィルタを構成している共振子などの素子の番号である。
【0082】
本実施形態では、式(3)及び式(4)に示すように、f
h1_tがf
u(m)より高く、またはf
l(m)よりも低い。すなわち、f
h1_tは、
図4に示した第2の通過帯域、第3の通過帯域及び第4の通過帯域の各低域側端部よりも低く、または各高域側端部よりも高い。従って、第2〜第4の通過帯域内に、第1の高次モードの周波数f
h1_t(n)が位置しないことがわかる。
【0083】
なお、上記式(1)において、
a)Si(100)(オイラー角(φ
Si=0±5°,θ
Si=0±5°,ψ
Si)とする)を使用する場合、ψ
Siの範囲は0°≦ψ
Si≦45°とする。もっとも、Si(100)の結晶構造の対称性から、ψ
Siとψ
Si ±(n×90°)とは同義である(但し、n=1,2,3・・・)。同様に、ψ
Siと−ψ
Siとは同義である。
【0084】
b)Si(110)(オイラー角(φ
Si=−45±5°,θ
Si=−90±5°, ψ
Si)とする)を使用する場合、ψ
siの範囲は0°≦ψ
Si≦90°とする。もっとも、Si(110)の結晶構造の対称性から、ψ
Siとψ
Si ±(n×180°)とは同義である(但し、n=1,2,3・・・)。同様に、ψ
Siと−ψ
Siと
は同義である。
【0085】
c)Si(111)(オイラー角(φ
Si=−45±5°,θ
Si=−54.73561±5°, ψ
Si)とする)を使用する場合、ψ
Siの範囲は0°≦ ψ
Si ≦60°とする。もっとも、Si(111)の結晶構造の対称性から、ψ
Siとψ
Si ±(n×120°)とは同義である(但し、n=1,2,3・・・)。同様に、ψ
Siと−ψ
Siと
は同義である。
【0086】
また、 θ
LTの範囲は−180°<θ
LT ≦0°とするが、θ
LT とθ
LT +180°とは同義であるとして扱えばよい。
【0087】
なお、本明細書において、オイラー角(0°±5°の範囲内,θ,0°±15°の範囲内)における0°±5°の範囲内とは、−5°以上、+5°以下の範囲内を意味し、0°±15°の範囲内とは、−15°以上、+15°以下の範囲内を意味する。
【0088】
IDT電極15の波長規格化厚みT
Eは、アルミニウムからなるIDT電極の膜厚に換算した厚みである。もっとも、電極材料はAlに限らない。Ti、NiCr、Cu、Pt、Au、Mo、Wなどの様々な金属を用いることができる。また、これらの金属を主体とする合金を用いてもよい。また、これらの金属や合金からなる金属膜を複数積層してなる積層金属膜を用いてもよい。
【0089】
図11(a)は、上記弾性波共振子が、式(3)及び式(4)を満たしていない比較例のマルチプレクサのフィルタ特性を示す図であり、
図11(b)は、第1の実施形態のマルチプレクサのフィルタ特性を示す図である。
【0090】
図11(a)及び
図11(b)では、いずれにおいても、第1の弾性波フィルタ及び第2の弾性波フィルタのフィルタ特性が示されている。実線が第1の弾性波フィルタのフィルタ特性である。
図11(a)において破線で示すように、第2の弾性波フィルタのフィルタ特性において、通過帯域にリップルが現れている。このリップルは、第1の弾性波フィルタ中の弾性波共振子の高次モードの応答による。これに対して、
図11(b)に示すように、第1の実施形態のマルチプレクサでは、第2の弾性波フィルタの通過帯域にこのようなリップルが現れていない。すなわち、式(3)
または式(4)を満たすように、弾性波共振子が構成されているため、上記リップルが、第2の弾性波フィルタの第2の通過帯域に現れていない。
【0091】
図12は、シリコンからなる支持基板の波長規格化厚みと、第1の高次モード、第2の高次モード及び第3の高次モードの位相最大値との関係を示す図である。
図12から明らかなように、シリコンからなる支持基板の波長規格化厚みが4λより大きければ、第1の高次モードの応答の大きさは、ほぼ一定となり、十分小さくなることがわかる。なお、支持基板の波長規格化厚みが、10λより大きければ、第2及び第3の高次モードの応答も小さくなり、20λより大きければ、第1〜第3の高次モードのいずれもが、十分小さくなる。よって、支持基板の波長規格化厚みT
Siは、T
Si>4であることが好ましい。より好ましくは、支持基板の波長規格化厚みT
Siが、T
Si>10である。さらに好ましくは、支持基板の波長規格化厚みT
Siは、T
Si>20である。
【0092】
本実施形態では、第1の弾性波フィルタ3を構成している複数の弾性波共振子の内少なくとも1つの弾性波共振子において、第1の高次モードの周波数は、式(3)または式(4)を満たしていた。より好ましくは、アンテナ端子に最も近い弾性波共振子において、高次モードの応答の周波数が、式(3)または式(4)を満たしていることが望ましい。アンテナ端子に最も近い弾性波共振子における高次モードの影響が、他の弾性波共振子に比べて、他の第2〜第4の弾性波フィルタ4〜6の通過帯域に大きく現れがちであることによる。
【0093】
さらに好ましくは、全ての弾性波共振子において、第1の高次モードの周波数位置が、式(3)または式(4)を満たしていることが望ましい。それによって、第1の高次モードの応答によるリップルが、第2〜第4の弾性波フィルタ4〜6の通過帯域により一層生じ難い。
【0094】
本願発明の構造を適用する場合には、上述したように、酸化ケイ素膜13と、圧電体14とが積層されている部分に高次モードが閉じこもる傾向があるが、上記圧電体14の厚みを3.5λ以下とすることによって、酸化ケイ素膜13と圧電体14との積層部分が薄くなるため、高次モードが閉じこもりにくくなる。
【0095】
より好ましくは、タンタル酸リチウムからなる圧電体14の膜厚は、2.5λ以下であり、その場合には周波数温度係数TCFの絶対値を小さくし得る。さらに、好ましくは、タンタル酸リチウムからなる圧電体14の膜厚は、1.5λ以下である。この場合には、電気機械結合係数を容易に調整することができる。さらに、より好ましくは、タンタル酸リチウムからなる圧電体14の膜厚は、0.5λ以下である。この場合には、広い範囲で電気機械結合係数を容易に調整できる。
【0096】
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、第1の高次モードではなく、第2の高次モードのリップルが、第2〜第4のフィルタ4〜6の通過帯域に位置していない。これを
図13〜
図17を参照しつつ説明する。
【0097】
図13に示すように、第2の高次モードの音速は、伝搬方位ψ
Siにより変化する。同様に、
図14に示すように、タンタル酸リチウムからなる圧電体の波長規格化厚みT
LTによっても、第2の高次モードの音速は変化する。
図15に示すように、タンタル酸リチウムからなる圧電体のカット角(90°+θ
LT)によっても、第2の高次モードの音速は変化する。
図16に示すように、酸化ケイ素膜の波長規格化厚みT
Sによっても、第2の高次モードの音速は変化する。
図17に示すように、IDT電極の波長規格化厚みT
Eによっても、第2の高次モードの音速は変化する。そして、
図13〜
図17に示す結果から、第1の実施形態の場合と同様にして、第2の高次モードの音速も式(1)または式(5)で表されることを見出した。もっとも、式(1)の係数については、第2の高次モードの場合には、シリコンからなる支持基板の結晶方位毎に、下記の表9に示す値とする必要がある。また、式(5)の係数については、第2の高次モードの場合には、シリコンからなる支持基板の結晶方位毎に、下記の表10に示す値とする必要がある。
【0100】
そして、上記のようにして、求められた第2の高次モードの音速V
h2_tから、式(2)により、第2の高次モードの応答の周波数位置f
h2_t(n)=V
h2_t/λ
t(n)が求められる。そして、第2の実施形態では、下記の式(3A)または式(4A)を満たすように、第2の高次モードの周波数位置f
h2_t(n)が設定されている。従って、第2の実施形態においては、第2の高次モードの応答が、第2〜第4の弾性波フィルタ4〜6の第2〜第4の通過帯域外に位置することとなる。よって、第2の高次モードの応答による第2〜第4の弾性波フィルタ4〜6のフィルタ特性のリップルが生じ難い。
【0101】
f
h2_t(n)>f
u(m) 式(3A)
f
h2_t(n)<f
l(m) 式(4A)
【0102】
より好ましくは、全ての弾性波共振子において、第2の高次モードの応答の周波数位置が、式(3A)または式(4A)を満たしていることが望ましい。それによって、第2の高次モードの応答によるリップルが、第2〜第4の弾性波フィルタ4〜6の通過帯域においてより一層生じ難い。
【0103】
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、第1の高次モードではなく、第3の高次モードのリップルが、第2〜第4のフィルタ4〜6の通過帯域に位置していない。これを
図18〜
図22を参照しつつ説明する。
【0104】
図18に示すように、第3の高次モードの音速は、伝搬方位ψ
Siにより変化する。同様に、
図19に示すように、タンタル酸リチウムからなる圧電体の波長規格化厚みT
LTによっても、第3の高次モードの音速は変化する。
図20に示すように、タンタル酸リチウムからなる圧電体のカット角(90°+θ
LT)によっても、第3の高次モードの音速は変化する。
図21に示すように、酸化ケイ素膜の波長規格化厚みT
Sによっても、第3の高次モードの音速は変化する。
図22に示すように、IDT電極の波長規格化厚みT
Eによっても、第3の高次モードの音速は変化する。そして、
図18〜
図22に示す結果から、第1の実施形態の場合と同様にして、第3の高次モードの音速も式(1)または式(5)で表されることを見出した。もっとも、式(1)の係数については、第3の高次モードの場合には、シリコンからなる支持基板の結晶方位毎に、下記の表11に示す値とする必要がある。また、式(5)の係数については、第3の高次モードの場合には、シリコンからなる支持基板の結晶方位毎に、下記の表12に示す値とする必要がある。
【0107】
そして、上記のようにして、求められた第3の高次モードの音速V
h3_tから、式(2)により、第3の高次モードの周波数位置f
h3_t(n)=V
h3_t/λ
t(n)により第3の高次モードの応答の周波数位置が求められる。そして、第3の実施形態では、下記の式(3B)または式(4B)を満たすように、第3の高次モードの周波数位置が設定されている。従って、第
3の実施形態においては、第3の高次モードの応答が、第2〜第4の弾性波フィルタ4〜6の第2〜第4の通過帯域外に位置することとなる。よって、第3の高次モードの応答による第2〜第4の弾性波フィルタ4〜6のフィルタ特性のリップルが生じ難い。
【0108】
f
h3_t(n)>f
u(m) 式(3B)
f
h3_t(n)<f
l(m) 式(4B)
【0109】
より好ましくは、全ての弾性波共振子において、第3の高次モードの応答の周波数位置が、式(3B)または式(4B)を満たしていることが望ましい。それによって、第3の高次モードの応答によるリップルが、第2〜第4の弾性波フィルタ4〜6の通過帯域においてより一層生じ難い。
【0110】
(第4の実施形態)
第4の実施形態は、第1の実施形態、第2の実施形態及び第3の実施形態の全てを満たすものである。第4の実施形態のマルチプレクサの具体的な構造は、第1〜第3の実施形態と同様である。
【0111】
第4の実施形態では、各第1、第2及び第3の高次モードの音速を、V
h1_t、V
h2_t、V
h3_tとした場合、式(2)で示される第1〜第3の高次モードの応答の周波数位置は、f
hs_t(n)=V
hs_t/λ
t(n)で表される。ここで、sは、1、2、または3である。そして、第4の実施形態では、第1の高次モードの応答の周波数f
h1_t(n)、第2の高次モードの応答の周波数f
h2_t(n)及び第3の高次モードの応答の周波数f
h3_t(n)のいずれもが、f
u(m)よりも高く、またはf
l(m)よりも低い。従って、第2〜第4の弾性波フィルタ4〜6の第2〜第4の通過帯域外に、第1〜第3の高次モードの応答が位置することとなる。従って、第2〜第4の弾性波フィルタのフィルタ特性の劣化がより一層生じ難い。
【0112】
よって、上記第4の実施形態の条件をまとめると、f
hs_t(n)(但し、sは1、2または3)がsが1、2及び3のいずれの場合においても、f
hs_t(n)>f
u(m)または、f
hs_t(n)<f
l(m)を満たすこととなる。第4の実施形態においても、好ましくは、T
Si>20であることが望ましく、それによって、第1〜第3の高次モードの応答の大きさ自体を小さくすることができる。
【0113】
第4の実施形態では、第1の高次モード、第2の高次モード及び第3の高次モードの応答が、他の弾性波フィルタである第2〜第4の弾性波フィルタの通過帯域に存在していなかったが、第1の高次モード及び第2の高次モード、第1の高次モード及び第3の高次モードまたは第2の高次モード及び第3の高次モードのように、第1〜第3の高次モードの内の2種の高次モードが第2〜第4の弾性波フィルタの通過帯域外に位置していてもよい。すなわち、前記第1及び第2の高次モード周波数f
hs_t(n)が、前記式(3)
または前記式(4)を満たすように、前記T
LT、前記θ
LT、前記T
S、前記T
E、前記ψ
Si及び前記T
Siの値が選択されていてもよく、前記第1及び第3の高次モード周波数f
hs_t(n)が、前記式(3)
または前記式(4)を満たすように、前記T
LT、前記θ
LT、前記T
S、前記T
E、前記ψ
Si及び前記T
Siの値が選択されていてもよく、あるいは、前記第2及び第3の高次モード周波数f
hs_t(n)が、前記式(3)
または前記式(4)を満たすように、前記T
LT、前記θ
LT、前記T
S、前記T
E、前記ψ
Si及び前記T
Siの値が選択されていてもよい。その場合においても、第1〜第3の実施形態よりも高次モードの影響をより一層小さくすることができる。
【0114】
図23は、シリコンからなる高音速支持基板上に、膜厚0.35λの酸化ケイ素膜からなる低音速膜及びオイラー角(0°,−40°,0°)のタンタル酸リチウムからなる圧電膜を積層した弾性波装置におけるタンタル酸リチウムの膜厚と、Q値との関係を示す図である。この
図23における縦軸は、共振子のQ特性と比帯域(Δf)との積である。なお、高音速支持基板とは、伝搬するバルク波の音速が圧電体を伝搬する弾性波の音速よりも高い支持基板である。低音速膜とは、伝搬するバルク波の音速が圧電体を伝搬する弾性波の音速よりも低い膜である。また、
図24は、タンタル酸リチウム膜の膜厚と、周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
図25は、タンタル酸リチウム膜の膜厚と音速との関係を示す図である。
図23より、タンタル酸リチウム膜の膜厚が、3.5λ以下が好ましい。その場合には、3.5λ超えた場合に比べて、Q値が高くなる。より好ましくは、Q値をより高めるには、タンタル酸リチウム膜の膜厚は、2.5λ以下であることが望ましい。
【0115】
また、
図24より、タンタル酸リチウム膜の膜厚が、2.5λ以下の場合、周波数温度係数TCFの絶対値を、上記膜厚が2.5λを超えた場合に比べて小さくすることができる。より好ましくは、タンタル酸リチウム膜の膜厚を2λ以下とすることが望ましく、その場合には、周波数温度係数TCFの絶対値が、10ppm/℃以下とされ得る。周波数温度係数TCFの絶対値を小さくするには、タンタル酸リチウム膜の膜厚を1.5λ以下とすることがさらに好ましい。
【0116】
図25より、タンタル酸リチウム膜の膜厚が1.5λを超えると、音速の変化が極めて小さい。
【0117】
もっとも、
図26に示すように、タンタル酸リチウム膜の膜厚が、0.05λ以上、0.5λ以下の範囲では、比帯域が大きく変化する。従って、電気機械結合係数をより広い範囲で調整することができる。よって、電気機械結合係数及び比帯域の調整範囲を広げるためには、タンタル酸リチウム膜の膜厚が、0.05λ以上、0.5λ以下の範囲であることが望ましい。
【0118】
図27及び
図28は、酸化ケイ素膜の膜厚(λ)と、音速及び電気機械結合係数との関係をそれぞれ示す図である。ここでは、酸化ケイ素からなる低音速膜の下方に、高音速膜として、窒化ケイ素膜、酸化アルミニウム膜及びダイヤモンドをそれぞれ用いた。なお、高音速膜とは、伝搬するバルク波の音速が圧電体を伝搬する弾性波の音速よりも高い膜である。高音速膜の膜厚は、1.5λとした。窒化ケイ素のバルク波の音速は6000m/秒であり、酸化アルミニウムにおけるバルク波の音速は6000m/秒であり、ダイヤモンドにおけるバルク波の音速は12800m/秒である。
図27及び
図28に示すように、高音速膜の材質及び酸化ケイ素膜の膜厚を変更したとしても、電気機械結合係数及び音速はほとんど変化しない。特に、
図28より酸化ケイ素膜の膜厚が、0.1λ以上、0.5λ以下では、高音速膜の材質の如何に関わらず、電気機械結合係数はほとんど変わらない。また、
図27より酸化ケイ素膜の膜厚が、0.3λ以上、2λ以下であれば、高音速膜の材質の如何に関わらず、音速が変わらないことがわかる。従って、好ましくは、酸化ケイ素からなる低音速膜の膜厚は、2λ以下、より望ましくは0.5λ以下であることが好ましい。
【0119】
図29は、本発明で用いられる弾性波共振子の変形例の正面断面図である。弾性波共振子61では、支持基板12上にタンタル酸リチウムからなる圧電体14が積層されている。弾性波共振子61のその他の構造は、弾性波共振子11と同様である。
【0120】
図30は、本発明で用いられる弾性波共振子の他の変形例の正面断面図である。弾性波共振子63では、酸化ケイ素膜13と、支持基板12との間に高音速膜64が積層されている。高音速膜64は、伝搬するバルク波の音速が、圧電体
14を伝搬する弾性波の音速よりも高い高音速材料からなる。高音速膜64は、好ましくは窒化ケイ素、酸化アルミニウムまたはDLCなどからなる。弾性波共振子63のその他の構造は、弾性波共振子11と同様である。
【0121】
上記各実施形態における上記弾性波装置は、高周波フロントエンド回路のデュプレクサなどの部品として用いることができる。このような高周波フロントエンド回路の例を下記において説明する。
【0122】
図31は、高周波フロントエンド回路を有する通信装置の概略構成図である。通信装置240は、アンテナ202と、高周波フロントエンド回路230と、RF信号処理回路203とを有する。高周波フロントエンド回路230は、アンテナ202に接続される回路部分である。高周波フロントエンド回路230は、マルチプレクサ210と、本発明におけるパワーアンプとしての増幅器221〜224とを有する。マルチプレクサ210は、第1〜第4のフィルタ211〜214を有する。このマルチプレクサ210として、上述した本発明のマルチプレクサを用いることができる。マルチプレクサ210は、アンテナ202に接続されるアンテナ共通端子225を有する。アンテナ共通端子225に受信フィルタとしての第1〜第3のフィルタ211〜213の一端と、送信フィルタとしての第4のフィルタの214の一端とが共通接続されている。第1〜第3のフィルタ211〜213の出力端が、増幅器221〜223にそれぞれ接続されている。また、第4のフィルタ214の入力端に、増幅器224が接続されている。
【0123】
増幅器221〜223の出力端がRF信号処理回路203に接続されている。増幅器224の入力端がRF信号処理回路203に接続されている。
【0124】
本発明に係るマルチプレクサは、このような通信装置240におけるマルチプレクサ210として好適に用いることができる。
【0125】
なお、本発明におけるマルチプレクサは、複数の送信フィルタのみを有するものであってもよく、複数の受信フィルタを有するものであってもよい。なお、マルチプレクサは、n個の帯域通過型フィルタを備えるものであり、nは2以上である。従って、デュプレクサも本発明におけるマルチプレクサである。
【0126】
本発明は、フィルタ、マルチバンドシステムに適用できるマルチプレクサ、フロントエンド回路及び通信装置として、携帯電話などの通信機器に広く利用できる。