特許第6621110号(P6621110)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6621110
(24)【登録日】2019年11月29日
(45)【発行日】2019年12月18日
(54)【発明の名称】摩擦材
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20191209BHJP
   F16D 69/02 20060101ALI20191209BHJP
【FI】
   C09K3/14 520C
   C09K3/14 520L
   F16D69/02 B
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-220020(P2015-220020)
(22)【出願日】2015年11月10日
(65)【公開番号】特開2017-88727(P2017-88727A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】309014573
【氏名又は名称】日清紡ブレーキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146927
【弁理士】
【氏名又は名称】船越 巧子
(72)【発明者】
【氏名】千葉 正紀
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 数之
【審査官】 横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−179806(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0099434(US,A1)
【文献】 特開2012−255052(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0156226(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第101210595(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0239076(US,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2009−0101081(KR,A)
【文献】 国際公開第2012/169546(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/14
F16D69/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Japio−GPG/FX
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクブレーキパッドに使用される、銅成分を含有しないNAO材の摩擦材組成物から成る摩擦材において、前記摩擦材組成物は、無機摩擦調整材として平均粒子径が1〜100μmである水酸化ジルコニウムを摩擦材組成物全量に対し2〜30重量%含有することを特徴とする摩擦材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキパッドに使用される、銅成分を含有しないNAO(Non-Asbestos-Organic)材の摩擦材組成物から成る摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗用車の制動装置としてディスクブレーキが使用されており、その摩擦部材として金属製のベース部材に摩擦材が貼り付けられたディスクブレーキパッドが使用されている。
【0003】
近年においてはブレーキの静寂性が求められており、繊維基材としてスチール繊維やステンレス繊維等のスチール系繊維を含まないNAO材の摩擦材を使用した摩擦部材が広く使用されるようになってきている。
【0004】
従来のNAO材の摩擦材には、要求される性能を確保するため、銅や銅合金の繊維又は粒子等の銅成分が必須成分として摩擦材組成物全量に対し、5〜20重量%程度添加されている。
【0005】
しかし近年、このような摩擦材は制動時に摩耗粉として銅を排出し、この排出された銅が河川、湖、海洋に流入することにより水域を汚染する可能性があることが示唆されている。
【0006】
このような背景から、アメリカのカリフォルニア州やワシントン州では、2021年以降、銅成分を5重量%以上含有する摩擦材を使用した摩擦部材の販売及び新車への組み付けを禁止し、その数年後に、銅成分を0.5重量%以上含有する摩擦材を使用した摩擦部材の販売及び新車への組み付けを禁止する法案が可決している。
【0007】
そして、今後このような規制は世界中に波及するものと予想されることから、NAO材の摩擦材に含まれる銅成分を削減することが急務となっている。
【0008】
従来技術としては、特許文献1が挙げられる。
特許文献1には、結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材を含む摩擦材組成物であって、該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下であり、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり、チタン酸塩及び粒子径が30μm以下の酸化ジルコニウムを含有し、かつ、該チタン酸塩の含有量が10〜35質量%であり、粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムを実質的に含有しないノンアスベスト摩擦材組成物及び該ノンアスベスト摩擦材組成物を成形してなる摩擦材と裏金とを用いて形成される摩擦部材(ディスクブレーキパッド)が記載されている。
【0009】
しかし、特許文献1の摩擦材では、高く安定したブレーキの効きを得るために酸化ジルコニウムを多量に添加した場合、対面攻撃性が大きくなり、相手材の摩耗量が大きくなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2012−255052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ディスクブレーキパッドに使用される、銅成分を含有しないNAO材の摩擦材組成物から成る摩擦材において、高く安定したブレーキの効きを有し、対面攻撃性が小さく、鳴きの発生が少ない摩擦材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、ディスクブレーキパッドに使用される銅成分を含有しないNAO材の摩擦材組成物から成る摩擦材において、無機摩擦調整材として水酸化ジルコニウムを特定量含有する摩擦材組成物を使用することにより、高く安定したブレーキの効きを得ながら、対面攻撃性を小さく、鳴きの発生を少なくできることを知見し、本発明を完成した。
【0013】
本発明は、自動車等のディスクブレーキパッドに使用される、銅成分を含有しないNAO材の摩擦材組成物から成る摩擦材であって、以下の技術を基礎とするものである。
【0014】
(1)ディスクブレーキパッドに使用される、銅成分を含有しないNAO材の摩擦材組成物から成る摩擦材において、前記摩擦材組成物は、無機摩擦調整材として水酸化ジルコニウムを2〜30重量%含有する摩擦材。
【0015】
(2)前記水酸化ジルコニウムの平均粒子径が1〜100μmである(1)の摩擦材。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ディスクブレーキパッドに使用される、銅成分を含有しないNAO材の摩擦材組成物から成る摩擦材において、高く安定したブレーキの効きを有し、対面攻撃性が小さく、鳴きの発生が少ない摩擦材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本願発明では、ディスクブレーキパッドに使用される、銅成分を含有しないNAO材の摩擦材組成物から成る摩擦材において、無機摩擦調整材として水酸化ジルコニウムを2〜30重量%含有する摩擦材組成物を使用する。
【0018】
水酸化ジルコニウムは酸化ジルコニウムよりも軟質であるため、相手材を摩耗させることなく、相手材の摺動面に水酸化ジルコニウムを含む皮膜を形成させることができる。
【0019】
そして、水酸化ジルコニウムは300〜400℃の温度で脱水し、酸化ジルコニウムになる特性を有している。
【0020】
摩擦により発生する熱により皮膜中の水酸化ジルコニウムが硬質の酸化ジルコニウムに変化し、高く安定したブレーキの効きを得ることができるようになるのである。
【0021】
水酸化ジルコニウムの平均粒子径は1〜100μmであると、鳴きの発生をより少なくできるので好ましい。
【0022】
なお、本発明において、平均粒子径はレーザー回折粒度分布法により測定した50%粒子径の数値である。
【0023】
本発明の摩擦材は、上記の水酸化ジルコニウムの他に、通常摩擦材に使用される結合材、繊維基材、潤滑材、無機摩擦調整材、有機摩擦調整材、pH調整材、充填材等を含む摩擦材組成物から成る。
【0024】
結合材として、ストレートフェノール樹脂や、フェノール樹脂をカシューオイルやシリコーンオイル、アクリルゴム等の各種エラストマーで変性した樹脂、フェノール類とアラルキルエーテル類とアルデヒド類とを反応させて得られるアラルキル変性フェノール樹脂、フェノール樹脂に各種エラストマー、フッ素ポリマー等を分散させた熱硬化性樹脂等の摩擦材に通常用いられる結合材が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。結合材の含有量は摩擦材組成物全量に対して4〜12重量%とするのが好ましく、5〜8重量%とするのがより好ましい。
【0025】
繊維基材としては、アラミド繊維、セルロース繊維、ポリ-パラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、アクリル繊維等の摩擦材に通常使用される有機繊維が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。繊維基材の含有量は摩擦材組成物全量に対して1〜7重量%とするのが好ましく、2〜4重量%とするのがより好ましい。
【0026】
潤滑材としては、二硫化モリブデン、硫化亜鉛、硫化スズ、複合金属硫化物等の金属硫化物系潤滑材や、人造黒鉛、天然黒鉛、薄片状黒鉛、活性炭、酸化ポリアクリロニトリル繊維粉砕粉、コークス、弾性黒鉛化カーボン等の炭素質系潤滑材等の摩擦材に通常使用される潤滑材が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。潤滑材の含有量は摩擦材組成物全量に対して2〜13重量%とするのが好ましく、5〜10重量%とするのがより好ましい。
【0027】
無機摩擦調整材としては、上記の水酸化ジルコニウムの他に、四三酸化鉄、ケイ酸カルシウム水和物、ガラスビーズ、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、ケイ酸ジルコニウム、γ―アルミナ、α―アルミナ、炭化ケイ素、板状チタン酸塩、不定形状チタン酸塩(チタン酸塩は、チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム等)、マイカ、バーミキュライト、タルク等の粒子状無機摩擦調整材や、ウォラストナイト、セピオライト、バサルト繊維、ガラス繊維、生体溶解性人造鉱物繊維、ロックウール等の繊維状無機摩擦調整材が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。無機摩擦調整材の含有量は上記水酸化ジルコニウムと合わせて摩擦材組成物全量に対して20〜70重量%とするのが好ましく、30〜60重量%とするのがより好ましい。
【0028】
有機摩擦調整材として、カシューダスト、タイヤトレッドゴム粉砕粉や、ニトリルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム等の加硫ゴム粉末又は未加硫ゴム粉末等の摩擦材に通常使用される有機摩擦調整材が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。有機摩擦調整材の含有量は摩擦材組成物全量に対して3〜8重量%とするのが好ましく、4〜7重量%とするのがより好ましい。
【0029】
pH調整材として水酸化カルシウム等の通常摩擦材に使用されるpH調整材を使用することができる。pH調整材は、摩擦材組成物全量に対して2〜6重量%とするのが好ましく、2〜3重量%とするのがより好ましい。
【0030】
摩擦材組成物の残部としては、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の充填材を使用する。
【0031】
本発明のディスクブレーキに使用される摩擦材は、所定量配合した摩擦材組成物を、混合機を用いて均一に混合する混合工程、得られた摩擦材原料混合物と、別途、予め洗浄、表面処理し、接着材を塗布したバックプレートとを重ねて熱成形型に投入し、加熱加圧して成型する加熱加圧成型工程、得られた成型品を加熱して結合材の硬化反応を完了させる熱処理工程、粉体塗料を塗装する静電粉体塗装工程、塗料を焼き付ける塗装焼き付け工程、回転砥石により摩擦面を形成する研磨工程を経て製造される。なお、加熱加圧成型工程の後、塗装工程、塗料焼き付けを兼ねた熱処理工程、研磨工程の順で製造する場合もある。
【0032】
必要に応じて、加熱加圧成型工程の前に、摩擦材原料混合物を造粒する造粒工程、摩擦材原料混合物を混練する混練工程、摩擦材原料混合物又は造粒工程で得られた造粒物、混練工程で得られた混練物を予備成型型に投入し、予備成型物を成型する予備成型工程が実施され、加熱加圧成型工程の後にスコーチ工程が実施される。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0034】
[実施例1〜9・比較例1〜3の摩擦材の製造方法]
表1に示す組成の摩擦材組成物をレディゲミキサーにて5分間混合し、予備成型型内で30MPaにて10秒間加圧して予備成型をした。この予備成型物を、予め洗浄、表面処理、接着材を塗布した鋼鉄製のバックプレート上に重ね、熱成型型内で成型温度150℃、成型圧力40MPaの条件下で10分間成型した後、200℃で5時間熱処理を行い、研磨して摩擦面を形成し、乗用車用ディスクブレーキパッドを作製した(実施例1〜9、比較例1〜3)。なお、実施例5及び9は参考例である。
【0035】
【表1】
【0036】
得られた摩擦材において、ブレーキの効き、対面攻撃性、鳴きを評価した。評価基準を表2に、評価結果を表3に示す。なお、実施例5及び9は参考例である。
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
各表より見てとれるように、本発明の組成を満足する組成物は、高く安定したブレーキの効きを有しながら、対面攻撃性が小さく、鳴きの発生が少ないという良好な評価結果が得られている。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、ディスクブレーキパッドに使用される、NAO材の摩擦材組成物から成る摩擦材において、銅成分の含有量に関する法規を満足しながら、高く安定したブレーキの効きを有し、対面攻撃性が小さく、鳴きの発生が少ない摩擦材を提供することができ、きわめて実用的価値の高いものである。