特許第6621207号(P6621207)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6621207
(24)【登録日】2019年11月29日
(45)【発行日】2019年12月18日
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20191209BHJP
   H02P 21/16 20160101ALI20191209BHJP
【FI】
   H02M7/48 Z
   H02P21/16
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-239562(P2016-239562)
(22)【出願日】2016年12月9日
(65)【公開番号】特開2018-98860(P2018-98860A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107928
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正則
(72)【発明者】
【氏名】林 誠
【審査官】 佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−31256(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/033959(WO,A1)
【文献】 特開2004−282979(JP,A)
【文献】 特開2013−90547(JP,A)
【文献】 特開平11−69897(JP,A)
【文献】 特開平3−253288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02P 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電圧を直流電圧に変換するコンバータと、
前記コンバータの出力電圧を交流に変換して同期電動機を駆動するインバータと、
前記インバータの出力電流を検出する電流検出手段と、
前記同期電動機の回転位相を検出する回転位相検出手段と、
前記同期電動機の界磁巻線を励磁する励磁電流変換器と、
前記励磁電流変換器の出力電流を検出する励磁電流検出器と、
前記インバータ及び励磁電流変換器の出力を制御する駆動制御部と
を具備し、
前記駆動制御部は、
前記回転位相検出手段の出力を微分して得られる速度帰還が所定の速度基準となるように制御してトルク基準及びトルク電流基準を出力する速度制御手段と、
前記電流検出手段の検出電流を前記回転位相検出手段の検出位相θで3相−2相変換してQ軸電流帰還及びD軸電流帰還を得る3相−2相変換手段と、
前記トルク電流基準を負荷角δで2軸変換してQ軸電流基準及びD軸電流基準を出力する電流基準変換器と、
前記Q軸電流基準と、前記Q軸電流帰還、前記D軸電流基準と前記D軸電流帰還とを夫々比較してQ軸電圧基準及びD軸電圧基準を夫々出力する電流制御手段と、
与えられた励磁磁束基準、前記励磁電流検出器で検出された励磁電流帰還、前記Q軸電流帰還及び前記D軸電流帰還を入力として、前記負荷角δ及び励磁電流基準を出力する磁束シミュレータと、
前記励磁電流帰還が前記励磁電流基準となるように前記励磁電流変換器を制御する励磁電流制御手段と、
前記Q軸電圧基準及び前記D軸電圧基準を前記回転位相検出手段の検出位相θで2相−3相変換して前記インバータの各相の電圧基準を得る2相−3相変換手段と、
前記インバータの各相の電圧基準をPWM制御して前記インバータを構成するスイッチング素子へのゲート信号を出力するPWM制御手段と、
前記速度帰還と前記トルク基準を乗算して演算上の電動機出力を得る乗算手段と、
前記電流検出手段の各相の検出電流と前記インバータの各相の電圧基準を相ごとに掛け合わせて3相分加算する瞬時電力演算手段と、
前記瞬時電力演算手段の出力から、電動機損失設定手段で設定された電動機損失を減算する減算手段と、
前記減算手段の出力から前記乗算手段の出力を減算した偏差が最小となるように制御してD軸インダクタンス補正値を出力するD軸インダクタンス制御手段と
を有し、
基準となるD軸インダクタンスから前記D軸インダクタンス補正値を減算したD軸インダクタンスを前記磁束シミュレータ内の演算式に用いるD軸インダクタンスとしたことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
基準となるQ軸インダクタンス、前記基準となるD軸インダクタンス、及び前記D軸インダクタンス補正値からQ軸インダクタンス補正値を求め、前記基準となるQ軸インダクタンスから前記Q軸インダクタンス補正値を減算した値を前記磁束シミュレータ内の演算式に用いるQ軸インダクタンスとしたことを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記磁束シミュレータは、
前記Q軸電流帰還からQ軸磁束を求めるためのQ軸磁束演算器と、
前記D軸電流帰還及び前記励磁電流帰還からD軸磁束を求めるためのD軸磁束演算器と、
前記励磁磁束基準と前記Q軸磁束から前記励磁電流基準を求めるための励磁電流演算器と、
前記Q軸磁束と前記D軸磁束から前記負荷角δを求める逆正接演算器と
から成ることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記励磁磁束基準は、
基底速度以上で弱め界磁となるような磁束演算手段の出力から得るようにしたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記電動機損失設定手段は、電動機電流と電動機電圧をパラメータとした損失テーブルを有し、この損失テーブルから電動機損失を求めるようにしたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記電動機損失設定手段は、電動機電流と電動機電圧から演算によって求めるようにしたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、同期電動機の定数であるインダクタンスの磁気飽和による変化を補正するようにした電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
同期電動機のベクトル制御において、出力トルクを適切に制御するためには、同期電動機の定数を用いて諸電流から磁束を演算する磁束シミュレータに用いるインダクタンス値が磁気飽和によって変化するのを補正して制御系に与える必要がある。このため、磁気飽和特性に応じたインダクタンス値の変化をルックアップテーブルに記憶し、これを参照してインダクタンス値を補正する提案が為されている。(例えば特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−31256号公報(全体)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示されたように、磁束飽和を想定して磁束シミュレータにおけるインダクタンス値を補正すれば、磁束飽和によるトルク不足をある程度位は回避することができる。しかしながら、磁気飽和特性を正確に推定するには、例えば実負荷状態による調整試験が必要となる。この実負荷調整試験は過負荷領域においてその特性が特に重要となるが、設備の稼働計画によっては過負荷領域の調整試験が困難な場合もあった。
【0005】
この発明は上記問題点に鑑みてなされたもので、実負荷調整試験を行うことなく磁束シミュレータに用いるインダクタンス値を比較的正しく補正可能な電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の電力変換装置は、交流電圧を直流電圧に変換するコンバータと、前記コンバータの出力電圧を交流に変換して同期電動機を駆動するインバータと、前記インバータの出力電流を検出する電流検出手段と、前記同期電動機の回転位相を検出する回転位相検出手段と、前記同期電動機の界磁巻線を励磁する励磁電流変換器と、前記励磁電流変換器の出力電流を検出する励磁電流検出器と、前記インバータ及び励磁電流変換器の出力を制御する駆動制御部とを具備し、前記駆動制御部は、前記回転位相検出手段の出力を微分して得られる速度帰還が所定の速度基準となるように制御してトルク基準及びトルク電流基準を出力する速度制御手段と、前記電流検出手段の検出電流を前記回転位相検出手段の検出位相θで3相−2相変換してQ軸電流帰還及びD軸電流帰還を得る3相−2相変換手段と、前記トルク電流基準を負荷角δで2軸変換してQ軸電流基準及びD軸電流基準を出力する電流基準変換器と、前記Q軸電流基準と、前記Q軸電流帰還、前記D軸電流基準と前記D軸電流帰還とを夫々比較してQ軸電圧基準及びD軸電圧基準を夫々出力する電流制御手段と、与えられた励磁磁束基準、前記励磁電流検出器で検出された励磁電流帰還、前記Q軸電流帰還及び前記D軸電流帰還を入力として、前記負荷角δ及び励磁電流基準を出力する磁束シミュレータと、前記励磁電流帰還が前記励磁電流基準となるように前記励磁電流変換器を制御する励磁電流制御手段と、前記Q軸電圧基準及び前記D軸電圧基準を前記回転位相検出手段の検出位相θで2相−3相変換して前記インバータの各相の電圧基準を得る2相−3相変換手段と、前記インバータの各相の電圧基準をPWM制御して前記インバータを構成するスイッチング素子へのゲート信号を出力するPWM制御手段と、前記速度帰還と前記トルク基準を乗算して演算上の電動機出力を得る乗算手段と、前記電流検出手段の各相の検出電流と前記インバータの各相の電圧基準を相ごとに掛け合わせて3相分加算する瞬時電力演算手段と、前記瞬時電力演算手段の出力から、電動機損失設定手段で設定された電動機損失を減算する減算手段と、前記減算手段の出力から前記乗算手段の出力を減算した偏差が最小となるように制御してD軸インダクタンス補正値を出力するD軸インダクタンス制御手段とを有し、基準となるD軸インダクタンスから前記D軸インダクタンス補正値を減算したD軸インダクタンスを前記磁束シミュレータ内の演算式に用いるD軸インダクタンスとしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、実負荷調整試験を行うことなく磁束シミュレータに用いるインダクタンス値を比較的正しく補正可能な電力変換装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施例1に係る電力変換装置の回路構成図。
図2】本発明の実施例1に係る電力変換装置における磁束シミュレータの内部構成図。
図3】本発明の実施例2に係る電力変換装置の回路構成図。
図4】本発明の実施例3に係る電力変換装置の電動機損失設定器の構成図。
図5】本発明の実施例4に係る電力変換装置の電動機損失設定器の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0010】
以下、本発明の実施例1に係る電力変換装置を、図1及び図2を参照して説明する。
【0011】
図1は、本発明に係る電力変換装置の回路構成図である。交流電源1から電力変換器2のコンバータ21に交流が給電され、これを所望の電圧の直流に変換し、平滑コンデンサ22P、22Nを介してインバータ23に与える。インバータ23は直流を交流電圧に変換して同期電動機3を駆動する。図1においてはコンバータ21及びインバータ23は3レベル回路としているが、2レベルであっても4レベル以上の多レベル回路であっても良い。インバータ23を構成するパワーデバイスは駆動制御部6から与えられるゲート信号GATEによってオンオフ制御されている。同期電動機3にはレゾルバ4が取り付けられており、この出力は位置信号θとして駆動制御部6に与えられる。また、インバータ23の出力側には電流検出器5が設けられ、この出力も電流帰還信号IU_F、IV_F、IW_Fとしてインバータ制御部6に与えられる。
【0012】
同期電動機3の界磁巻線11には励磁用変換器12から励磁電流として直流電流が供給されている。この直流電流は電流検出器13によって検出され、励磁電流帰還信号FC_Fとして駆動制御部6に与えられる。
【0013】
次に駆動制御部6の内部構成について説明する。
【0014】
電流検出器5の出力は3相/2相変換器61に与えられ、3相の電流帰還信号IU_F、IV_F、IW_Fを、位置信号θに基づいて2軸の電流帰還信号ID_F及びIQ_Fに変換する。ここでID_F及びIQ_Fは直流量である。
【0015】
外部から与えられた速度基準SP_Rは、位置信号θを微分器62で微分することによって得られた速度帰還信号SP_Fと比較され、両者の偏差が速度制御器63の入力となる。速度制御器63においてはこの偏差が最小となるように調節制御し、トルク基準T_Rを出力する。トルク基準T_Rは除算器65で磁束演算器64の出力である磁束基準FL_Rによって除算され、その出力であるトルク電流基準は電流基準演算器66に与えられる。電流基準演算器66は全磁束と直交するトルク電流基準を後述する負荷角δを基準角としてQ軸電流基準IQ_RとD軸電流基準ID_Rに分解する。これらのQ軸電流基準IQ_RとD軸電流基準ID_Rは、3相−2相変換器61で変換して得られたQ軸電流帰還IQ_F、D軸電流帰還ID_Fと夫々比較され、夫々の偏差が電流制御器67の入力となる。
【0016】
電流制御器67はこれらのQ軸及びD軸の夫々の電流偏差が最小となるように調節制御し、Q軸電圧基準EQ_R及びD軸電圧基準ED_Rとを夫々出力する。Q軸電圧基準EQ_R及びD軸電圧基準ED_R及び位置信号θは2相−3相変換器68に与えられ、2相−3相変換器68は3相電圧基準EU_R、EV_R、EW_Rを出力する。この3相電圧基準EU_R、EV_R、EW_RはPWM制御器69に与えられる。PWM制御器69はインバータ23の各相の出力電圧が3相電圧基準EU_R、EV_R、EW_Rとなるようにインバータ23の各パワーデバイスに対して、PWM変調されたゲート信号GATEを供給する。
【0017】
速度帰還信号SP_Fは磁束演算器64に与えられる。磁束演算器64は基底速度までは一定で、それを超えると速度に反比例して減少するような弱め界磁特性を有する磁束基準FL_Rを出力する。磁束基準FL_Rは上述のように除算器65に与えられると共に磁束シミュレータ70に与えられる。
【0018】
磁束シミュレータ70は、磁束基準FL_R、Q軸電流帰還IQ_F、D軸電流帰還ID_F、励磁電流帰還信号FC_F及びD軸インダクタンスLdを入力として、負荷角δ及び励磁電流基準FC_Rを出力する。ここで、D軸インダクタンスLdは基準となるD軸インダクタンスLd*を後述する手法で補正した値である。励磁電流基準FC_Rと励磁電流帰還信号FC_Fの差分は励磁電流制御器71に与えられ、励磁電流帰還信号FC_Fはこの差分が最小となるように界磁ゲートパルスFGを出力して励磁用変換器12に与える。
【0019】
以下図2を参照して磁束シミュレータ70の内部構成について説明する。Q軸電流帰還IQ_FをQ軸磁束演算器701に与えることによって、Q軸磁束FL_Qが得られる。同様に、D軸電流帰還ID_Fと励磁電流帰還信号FC_FをD軸磁束演算器702に与えることによって、D軸磁束FL_Dが得られる。磁束基準FL_RとQ軸磁束FL_Qを励磁電流演算器703に与えることによって励磁電流基準FC_Rが得られる、また、Q軸磁束FL_QとD軸磁束FL_Dを逆正接演算器704に与えることによって負荷角δが得られる。
【0020】
Q軸磁束演算器701においては、Q軸電流帰還IQ_FにQ軸インダクタンスLqを乗算し、更にQ軸ダンパ巻線伝達関数F(Tq、s)を乗算したものとQ軸電流帰還IQ_Fに電機子漏れインダクタンスLaを乗算したものを加える。
【0021】
D軸磁束演算器702においては、D軸電流帰還ID_FにD軸インダクタンスLdを乗算したものに励磁電流帰還信号FC_Fに磁気回路定数C1を乗算したものを加え、この磁束成分をD軸ダンパ巻線伝達関数F(Td、s)を乗算し、この乗算結果にD軸電流帰還ID_Fに電機子漏れインダクタンスLaを乗算したものを加える
励磁電流演算器703においては、磁束基準FL_Rの2乗からQ軸磁束FL_Qの2乗を減算したものの平方根によって界磁電流による磁束成分を求め、これに磁気回路定数C2を乗算する。
【0022】
次に、図1に戻ってD軸インダクタンスLdの補正方法について説明する。
【0023】
速度帰還信号SP_Fとトルク基準T_Rを乗算器72で乗算することにより、演算による同期電動機3の出力パワーMOT_POWERが得られる。一方、電流帰還信号IU_F、IV_F、IW_Fと3相電圧基準EU_R、EV_R、EW_Rを瞬時電力演算器73に与えることによって同期電動機3の実際の入力パワーI_POWERが得られる。ここで、瞬時電力演算器73は各相の電流帰還信号と電圧基準を乗算して各々の乗算結果を3相分加算する構成とする。そしてこの入力パワーI_POWERから電動機損失設定器74によって設定された電動機損失MLを減算器80によって減算して実際の電動機の出力パワーO_POWERが得られる。このO_POWERからMOT_POWERを減算した偏差をD軸インダクタンス制御器75に与える。D軸インダクタンス制御器75は入力された偏差が最小となるように調節制御してD軸インダクタンス補正値ΔLdを出力する。そして、基準負荷状態におけるD軸インダクタンスの値Ld*からこのD軸インダクタンスΔLdを減算器76で減算し、得られたD軸インダクタンスを前述したD軸磁束演算器702におけるD軸インダクタンスLdとする。このようにすれば、例えば定格電圧で運転している状態で負荷率が増大し、磁気飽和が発生してD軸インダクタンスLdの値が低下したとき、この低下分を補正して、実際に発生しているトルクとトルク指令の値T_Rとを一致させることができる。
【0024】
このように、本願の実施例1によれば、同期電動機3の出力パワーについて、インダクタンス値が磁気飽和によって変化したときに変化する演算上のMOT_POWERと、実際の出力パワーであるO_POWERの二つを比較することによってインダクタンス値を適切に補正することが可能となる。
【実施例2】
【0025】
図3は本発明の実施例2に係わる電力変換装置の回路構成図である。この実施例2の各部について、図1の本発明の実施例1に係る電力変換装置の各部と同一部分は同一符号で示し、その説明は省略する。この実施例2が実施例1と異なる点は、D軸インダクタンスの補正に加えてQ軸インダクタンスの補正を行うため、Q軸インダクタンス補正演算器77及び基準負荷状態におけるQ軸インダクタンスの値Lq*からQ軸インダクタンス補正演算器77の出力を減算する減算器78を設けた点である。
【0026】
実施例1においては、演算上のMOT_POWERと、実際の出力パワーであるO_POWERの二つが等しくなるようにD軸インダクタンスを補正した。実際、D軸インダクタンスはQ軸インダクタンスに比べて磁気飽和による影響を強く受けるので、この値のみの補正でも実用的には問題ない。しかしながら、さらに厳密にトルク特性の改善を行うにはQ軸インダクタンスの補正も併せて行う必要がある。一般的にはD軸インダクタンスの補正量比率ΔLd/Ld*に対して、Q軸インダクタンスの補正量比率ΔLq/Lq*は50%以下となり、負荷率に依らずほぼ一定となる。
【0027】
従って、図3に示すように、例えばQ軸インダクタンス補正演算器77で、ΔLq=0.5×(ΔLd/Ld*)×Lq*のような演算を行ってΔLqを求め、補正後のQ軸インダクタンスをLq=Lq*−ΔLqとしてQ軸磁束演算器701に与えれば、実施例1に比べてより厳密なトルク特性の改善を行うことができる。
【実施例3】
【0028】
図4は本発明の実施例3に係る電力変換装置の電動機損失設定器74の第1のブロック構成図である。
【0029】
同期電動機3の損失MLは、与えられた電圧とそのときの電流によって決まる。この場合の電圧と電流は、正規化された値であっても良い。例えば、図4の電動機損失設定器74Aに示すように、電流に関しては、Q軸電流基準IQ_RとD軸電流基準ID_RのRMS値I(二乗平均平方根)をRMS演算器741で演算して求める。すなわち、I={1/2・(IQ_R)+1/2・(ID_R)}1/2である。同様にRMS演算器742によって、Q軸電圧基準EQ_RとD軸電圧基準ED_RのRMS値Eを求める。そしてこれらIとEをパラメータとした電動機損失MLの損失テーブル743を予め電動機の試験データ等を参照して準備しておき、この損失テーブル743に基づいて電動機損失MLを決定する。このようにすれば、同期電動機3の運転速度に見合う電動機電圧、あるいは同期電動機3の負荷の大きさに見合う電動機電流が変化した場合であっても電動機損失MLを精度良く求めることが可能となる。
【実施例4】
【0030】
図5は本発明の実施例4に係る電力変換装置の電動機損失設定器74の第2のブロック構成図である。この電動機損失設定器74Bが図4の電動機損失設定器74Aと異なる点は、損失テーブル743に代えて損失演算器744を設けた点である。電動機損失MLは基本的に銅損と鉄損と固定損(機械損+漂遊損)とから成り、銅損は電流の2乗に比例し、鉄損は電圧に比例し、固定損はほぼ一定である。従って、実施例3と同様に、規格化された電流I及び電圧Eを入力とし、損失演算器744の演算式をML=K1・I+K2・E+C3とする。K1、K2及びC3は同期電動機3の固有の定数である。
【0031】
この実施例4によれば、同期電動機3の固有の定数による演算を電動機損失設定器74Bで行うことによって、比較的簡単な手法で精度良く電動機損失MLを求めることができる。
【0032】
以上、いくつかの実施例について説明したが、これらの実施例は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施例やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0033】
例えば、図1においては弱め界磁を行う領域においてもPWM制御器69を用いて制御を行うように構成しているが、この領域においては出力電圧が一定であるので、電流制御器67の出力でインバータ23の出力位相を制御するようにしても良い。
【0034】
また、実施例2及び3では正規化された電動機電流I及び電動機電圧Eを用いたが、特に正規化された値を用いなくても良い。例えば相電圧IU_Fの実効値を電動機電圧としても良く、また相電流IU_Fの実効値を電動機電流としても良い。また、必ずしも実効値とする必要はなく、電動機電圧と電動機電流の大きさを表す量であれば良い。
【符号の説明】
【0035】
1 交流電源
2 電力変換器
21 コンバータ
22P、22N 平滑コンデンサ
23 インバータ
3 同期電動機
4 レゾルバ
5 電流検出器
6 駆動制御部
7 電流検出器
11 界磁巻線
12 励磁用変換器
12 電流検出器
61 3相2相変換器
62 微分器
63 速度制御器
64 磁束演算器
65 除算器
66 電流基準演算器
67 電流制御器
68 2相3相変換器
69 PWM制御器
70 磁束シミュレータ
71 励磁電流制御器
72 乗算器
73 電力演算器
74 電動機損失設定器
75 D軸インダクタンス制御器
76 減算器
77 Q軸インダクタンス補正演算器
78、80 減算器
701 Q軸磁束演算器
702 D軸磁束演算器
703 励磁電流演算器
704 逆正接演算器
741、742 RMS演算器
743 損失テーブル
744 損失演算器
図1
図2
図3
図4
図5