(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記受け部材は、前記インキ収容部の内径よりも小径であって当該インキ収容部の中心軸と同心且つ当該中心軸に垂直に配置されている円盤部と、前記円盤部を前記インキ収容部の内周面に固定している支持部材と、を有している
ことを特徴とする請求項1または2に記載の筆記具。
前記支持部材は、前記インキ収容部の内周面上の対向する位置から当該インキ収容部の径方向内側に延びる1対の第1支持部と、前記1対の第1支持部の前記径方向内側の端部から前記インキ収容部の軸方向前方に延びる1対の第2支持部と、を有しており、
前記円盤部は、前記1対の第2支持部の前端部に固定されている
ことを特徴とする請求項4に記載の筆記具。
【背景技術】
【0002】
図14は、万年筆等に使用されている従来のインキ吸入器200の概略縦断面図である。
図14に示すように、従来のインキ吸入器200は、インキを収容するインキ収容部211cを軸方向前方に規定する筒形のインキタンク210と、インキ収容部211cの内周面に当該インキ収容部211cの軸方向に摺動可能且つ液密に嵌め込まれたフランジ部222と、当該フランジ部222からインキタンク210の軸方向後方に向かって伸長するロッド221と、を有するピストン220と、インキタンク210の軸方向後方に当該インキタンク210に対して回転可能に接続されたノブ230と、を備えている。ピストン220のロッド221の少なくとも一部の側面には、雄ネジ部223sが形成されており、ノブ230の少なくとも前方領域は、雌ネジ部230sを有する中空筒状であり、ロッド221の雄ネジ部223sとノブ230の雌ネジ部230sとが互いに螺合している。
【0003】
インキタンク210の軸方向後方には、当該インキタンク210の外周よりも大径の筒形のカバー250の一側が接着固定されている。当該カバー250の他側は、ノブ230の軸方向前方の外周よりも大径となっており、当該カバー250の他側端には絞り部が設けられていて、ノブ230の外周に設けられたフランジの軸方向後方への移動を規制しつつ、当該カバー250に対して回転可能であるようにノブ230を支持している。
【0004】
一般に、インキタンク210の軸方向後方への筒形のカバー250の一側の接着固定には、雄ネジ部と雌ネジ部とによる螺合(螺着)が併用され得る。通常、インキタンク210は透明樹脂製であり、ノブ230及びピストン220は有色樹脂製であり、カバー250は金属製である。
【0005】
以上のようなインキ吸入器200は、特許第4596675号公報(特許文献1)、特許第5388360号公報(特許文献2)及び特開2013−43285号公報(特許文献3)などに開示されている。
【0006】
以上のようなインキ吸入器200にインキを吸入させるには、まず万年筆等のケーシングを取り外してインキ吸入器200のノブ230を露出させる。そして、必要に応じて当該ノブ230を一方向(
図14のAの方向)に回転操作して、ピストン220をインキ収容部211cの軸方向の最も前方に位置させる。次いで、万年筆等のペン先をインキ容器内のインキに浸し、その状態でノブ230を反対方向(
図14のBの方向)に回転操作する。これに伴って、インキ収容部211c内のピストン220は当該インキ収容部211cの軸方向後方へ移動する。これにより、インキ収容部211c内に負圧が生じて、インキがインキ容器内からペン先を介してインキタンク210内に吸入される。
【0007】
このようなインキ吸入器を有する万年筆等は、筆記が行われていない時にはペン先が上に向けられた状態で保管されている場合が多い。そして、紙面に筆記しようとする際にペン先が下に向けられた状態(筆記状態)へと姿勢変化させられる。この姿勢変化に伴って、インキ収容部内の軸方向後方に位置していたインキが、軸方向前方へと移動し、ペン先に供給される。この移動は、万年筆等の姿勢変化に伴って速やかに行われることが望ましいのであるが、ペン先が下に向けられた状態に姿勢変化されても、インキの表面張力によってインキがインキ収容部内の軸方向後方に位置したままである場合があった。この場合、インキがペン先に供給されないため、円滑な筆記を継続することができない。
【0008】
このような問題に対処するため、特許第5744677号(特許文献4)では、インキ収容部内に軸方向に前後動可能な移動体(移動駒部材)を配置した万年筆が、提案されている。
図15は、特許文献4に記載されている万年筆301の軸方向前方の概略縦断面図である。
図15に示すように、前記移動体(移動駒部材312)は、万年筆301のペン先321が上に向けられた状態から下に向けられた状態へと姿勢変化された際に、インキの表面張力に打ち克ってインキ収容部(インキ収容体306)内を軸方向後方から軸方向前方へと移動し、ペン芯320の後端部から軸方向後方に延出している槍部(突起320b)に当接するようになっている。この際、インキ収容体306内のインキも前記移動体(移動駒部材312)と共に移動するため、結果として、当該インキは、軸方向後方から軸方向前方へと速やかに移動し、突起320bを伝ってスムーズにペン先321に供給される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、添付の図面を参照して本発明の一実施の形態を詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明の一実施の形態の筆記具(具体的には、万年筆1)の概略縦断面図であり、
図2は、
図1の万年筆1に使用されているインキ吸入器100の概略縦断面図であり、
図3は、ペン先4が上に向けられた状態における
図2のインキ吸入器100の概略縦断面図であり、
図4は、
図3のA−A線断面図である。
【0026】
図1に示すように、本発明の一実施の形態の万年筆1は、軸筒2と、軸筒2の前方側に設けられた、ペン先4及び当該ペン先4に至るインキ連通孔5を有するペン先支持部3と、軸筒2内において、ペン先支持部3の後方側に設けられたインキ吸入器100と、軸筒2内において、ペン先支持部3の後端部から軸方向後方に延出した、切頭扇形の断面形状を有する槍部6と、を備えている。また、本実施の形態のペン先支持部3には、ペン先4の近傍に設けられた開口からインキ収容部11c内まで軸方向に沿って延びている、空気の通過が可能な空気連通孔8が、更に設けられている。
【0027】
図1に示すように、本実施の形態では、インキ吸入器100は、前端領域がペン先支持部3の後方領域に設けられた溝7内に圧入されることによって、当該ペン先支持部3に取外可能に取り付けられている。また、ペン先支持部3の軸方向後方の外周面に設けられた雄ねじ部と軸筒の軸方向前方の内周面に設けられた雌ねじ部とが螺着されることによって、ペン先支持部3に対して軸筒2が固定されている。
【0028】
また、
図1乃至
図3に示すように、本実施の形態のインキ吸入器100は、インキを収容するインキ収容部11cを軸方向前方に規定する筒形のインキタンク10と、インキ収容部11cの内周面に当該インキ収容部11cの軸方向に摺動可能かつ液密に嵌め込まれたフランジ部22と、当該フランジ部22からインキタンク10の軸方向後方に向かって伸長するロッド21と、を有するピストン20と、インキタンク10の軸方向後方に当該インキタンク10に対して回転可能に当該インキタンク10の内側に接続されたノブ30と、ピストン20のフランジ部22よりも軸方向前方において、インキ収容部100の内部に固定され、槍部6で貫通された状態となっている窓部71を有する受け部材70と、インキ収容部11cの内部において、ピストン20のフランジ部22と受け部材70との間に配置され、窓部71を通過できない大きさであって且つ当該窓部71を貫通している槍部6と当接可能な大きさの4つの球60と、を有している。
【0029】
本実施の形態の4つの球60は、いずれも直径2mmのステンレス(SUS304)製の真球であり、総重量が0.12gである。4つの球60は、いずれもピストン20のフランジ部22と受け部材70との間を自由に移動可能となっている。
【0030】
図3及び
図4に示すように、本実施の形態の4つの球60は、万年筆1のペン先4が上に向けられた状態において、ピストン20のフランジ部22の軸方向前方に形成された受け皿状の空間内に隙間無く配置され得るようになっている。
【0031】
次に、
図5は、
図2のインキ吸入器100の受け部材70の概略図である。
図5(A)は、受け部材70の概略斜視図であり、
図5(B)は、
図5(A)の受け部材70を右手前方向から見た場合の概略縦断面図であり、
図5(C)は、
図5(A)の受け部材70を上方から見た図であり、部分的に断面図で示されている。
【0032】
図5(A)乃至
図5(C)に示すように、本実施の形態の受け部材70は、環状部72と、当該環状部72の前端部(
図5(A)における左下端部、
図5(B)及び
図5(C)における左端部)から径方向内側に互いに対向するように延びる1対の第1支持部73a、73bと、この1対の第1支持部73a、73bの径方向内側の端部からインキ収容部11cの軸線と平行に前方に延びる1対の第2支持部74a、74bと、を有している。当該1対の第2支持部74a、74bの前端部には、円盤部75が固定されている。また、環状部72の外周面には、当該環状部72を1周する突起76が形成されている。この突起76は、受け部材70をインキ収容部11c内に嵌入する際に、当該インキ収容部11cの内周面に食い込んで、当該内周面に対して受け部材70を固定するようになっている。
【0033】
本実施の形態の受け部材70は、ステンレス(SUS303)製である。環状部72は、内径が4.9mm、外径が5.47mm、軸方向の長さが1.6mmである。また、突起76は、環状部72の後端部(
図5(A)における右上の端部、
図5(B)及び
図5(C)における右端部)からの距離が0.8mmから1.1mmまでの0.3mmの領域内に設けられている。突起76の外径の最大値は5.59mmである。
【0034】
図5(C)に示すように、受け部材70の1対の第1支持部73a、73bは、いずれも幅が1mmであり、環状部72の前端部から軸線(
図5(C)における一点鎖線)に対して垂直に延びている。各第1支持部73a、73bは、径方向内側の端部が、軸線と同心の直径2.3mmの円弧の一部に相当する形状を有している。また、受け部材70の1対の第2支持部74a、74bは、いずれも幅が1mmであり、軸線と同心の内径2.3mm、外径2.9mmの円筒の一部に相当する形状を有している。
【0035】
円盤部75は、厚さが0.6mm、後端部の直径が2.9mmである。
図5(A)乃至
図5(C)に示すように、本実施の形態の円盤部75は、前方に向かうに従って次第に先細りとなるように形成されており、前端部の直径は2.4mmである。また、
図5(B)及び
図5(C)に示すように、この円盤部75の軸方向後方の面には、深さ0.3mmのすり鉢状の凹部が形成されている。
【0036】
以上のような構成により、
図5(B)に示すように、本実施の形態の受け部材70は、環状部72の前端部と円盤部75の後端部との間の離間距離d1が2mmであり、環状部72の内周面と円盤部75の後端部の外縁部との間の径方向の離間距離d2が1mmであるように形成されている。
【0037】
図1に戻って、本実施の形態では、以上のような受け部材70がインキ収容部11c内に嵌入された状態において、受け部材70の円盤部75の周縁部とインキ収容部11cの内周面との間に幅1.285mmの円環状の窓部71が形成されている。そして、
図1に示すように、窓部71は、槍部6によって貫通されている。
【0038】
次に、
図6は、筆記状態における
図2のインキ吸入器100の概略縦断面図である。
図6に示すように、筆記状態においては、受け部材70の円盤部75とインキタンク10の内周面との間に形成されている窓部71の近傍まで、4つの球60が移動している。前述の通り、本実施の形態の4つの球60は、いずれも直径が2mmである。この直径は、受け部材70の環状部72の前端部と円盤部75の後端部との間の離間距離d1に等しいため、当該環状部72と当該円盤部75との間に、受け部材70近傍に移動した球60が入り込むことができる。更に、窓部71を貫通している槍部6は、中心角が略180°の切頭扇形の断面形状を有している。このため、
図6に示すように、受け部材70近傍(窓部71近傍)まで移動した4つの球60のうちの少なくとも1つが、確実に槍部6と当接するようになっている。このことにより、4つの球60と共に軸方向前方まで移動したインキが、槍部6を伝って確実にペン先4に供給されるようになっている。
【0039】
ここで、受け部材70の1対の第1支持部73a、73b及び1対の第2支持部74a、74bのそれぞれの幅、4つの球60の直径、及び、受け部材70が嵌入されている位置におけるインキ収容部11cの内径、の各寸法が特定の関係を満たす場合、受け部材70の1対の第1支持部73a、73b及び/または1対の第2支持部74a、74bの側部とインキ収容部11cの内周面との間に、2つの球60がぴったりと嵌り込んでしまい、万年筆1を筆記状態からペン先4が上に向けられた状態へと姿勢変化させても当該2つの球60が軸方向後方へ移動しない、という事態が生じ得る。
【0040】
図7は、2つの球60が、
図2のインキ吸入器100の受け部材70とインキ収容部11cの内周面との間にぴったりと嵌り込んだ状態を示す模式図である。
図7(A)は、1対の第1支持部73a、73bの側部とインキ収容部11cの内周面との間に2つの球60がぴったりと嵌り込んだ状態を示しており、
図7(B)は、1対の第1支持部73a、73bの側部と環状部72の前端部とインキ収容部11cの内周面との間に2つの球60がぴったりと嵌り込んだ状態を示している。
【0041】
例えば、
図7(A)に示すように、受け部材70の1対の第1支持部73a、73bの側部とインキ収容部11cの内周面との間に、2つの球60がぴったりと嵌り込む場合には、球60の中心を通りインキ収容部11cの軸線に垂直な平面における断面において、軸線の位置をO、一方の球60の中心をO’、2つの球60の接点をHとし、受け部材70の1対の第1支持部73a、73b及び1対の第2支持部74a、74bの幅を2w、各球60の直径を2r、受け部材70が嵌入されている位置におけるインキ収容部11cの内径を2Rとすると、三角形OO’Hは、各辺の長さがOO’=R−r、OH=r+w、O’H=rであり、∠OHO’=90°である直角三角形である。すなわち、三平方の定理により、R、r及びwの間に以下の関係が成立する。
【数1】
これをwについて解くと、以下の式が得られる。
【数2】
【0042】
すなわち、以上の関係が成立しないようなR、r及びwの値を採用することにより、受け部材70の1対の第1支持部73a、73bの側部とインキ収容部11cの内周面との間に2つの球60がぴったりと嵌り込んでしまう、という事態を回避することができる。
【0043】
但し、前記式を充足しない場合であっても、受け部材70の1対の第2支持部74a、74bの長さ、及び、受け部材70の環状部72の内径、によっては、
図7(B)に示すように、受け部材70の1対の第1支持部73a、73bの側部及び1対の第2支持部74a、74bの側部とインキ収容部11cの内周面との間に2つの球60が順次移動してきた際に、2つ目の球60(
図7(B)における左手前側の球60)が、1つ目の球60(
図7(B)における右奥側の球60)、第1支持部73a(または73b)、及び、環状部72の前端部、の3箇所で支持される場合がある。この場合にも、万年筆1を筆記状態からペン先4が上に向けられた状態へと姿勢変化させても、当該2つの球60が軸方向後方へ移動しないという事態が生じ得る。このような事態を回避するためには、1対の第2支持部材74a、74bの長さや球60の直径等を適宜調整し、当該球60が前記3箇所で支持されないような寸法を採用する必要がある。
【0044】
本実施の形態において採用されている受け部材70の各構成要素の寸法、インキ収容部11cの内径、及び、4つの球60の直径は、以上の考察に基づいて決定されている。このため、受け部材70近傍まで移動した4つの球60のいずれもが、受け部材60の窓部71の近傍にぴったりと嵌り込んでしまうことが無い。すなわち、万年筆1が、筆記状態からペン先4が上に向けられた状態へと姿勢変化された際に、4つの球60の全てが受け部材70近傍から軸方向後方へとスムーズに移動するようになっている。
【0045】
次に、本実施の形態のインキ吸入器100の他の構成部品について詳細に説明する。
【0046】
図8は、
図2のインキ吸入器100のインキタンク10の概略図である。
図8(A)は、インキタンク10の概略縦断面図であり、
図8(B)は、
図8(A)の右方向から見たインキタンク10の概略正面図であり、
図8(C)は、
図8(A)のC−C線断面図である。
【0047】
図8(A)に示すように、インキタンク10には、その軸方向後方にスリーブ部12が形成されている。インキタンク10の全長は49.6mmであり、その軸方向前方の34.9mmの領域に内径5.52mm、外径7.2mmの円筒状部11によってインキ収容部11cが規定されている。円筒状部11の軸方向後方には14.2mmの長さを有するスリーブ部12が連続している。スリーブ部12の内径は4.9mmである。また、スリーブ部12の外側表面上には、高摩擦部13が設けられている。具体的には、本実施の形態の高摩擦部13は、インキタンク10の軸方向に略等間隔で5カ所に設けられた、インキタンク10の周方向に延在する突条14として設けられている。円筒状部11の内周面とスリーブ部12の内周面とは、テーパ推移部11tを介して連続している。
【0048】
また、インキタンク10の軸方向後方に位置するスリーブ部12の内周面上には、
図8(B)に示すように、その上方側及び下方側のそれぞれに、軸方向に沿って所定高さだけ隆起した隆起部19a、19bが設けられている。但し、当該隆起部19a、19bは、
図8(A)に示す上方切り欠き16a及び下方切り欠き16bによって、軸方向の一部において中断されている。上方切り欠き16a及び下方切り欠き16bは、それぞれ軸方向長さが1.15mmであり、
図8(C)に示すように、高さh=1.225mm分だけ切り欠かれるように形成されている。
【0049】
また、
図8(A)及び
図8(B)に示すように、インキタンク10の軸方後方に位置するスリーブ部12の内周面の左右2カ所には、溝部17が設けられている。本実施の形態の溝部17は、それぞれ、幅1.1mm、幅方向中央の深さ0.225mmのコ字状の断面を有しており、スリーブ部12の軸方向後方の端部に14.2mmの長さで形成されている。
【0050】
また、スリーブ部12の軸方向の一部には、
図8(A)に示すように、スリーブ部12の外側表面の上下2カ所において軸方向後方の端部から3.4mmの位置を中心として軸方向に0.5mmの幅を有する突部15が、周方向に120°に亘るように形成されている。
【0051】
更に、
図8(B)に示すように、スリーブ部12の軸方向後方の端部には、左右2カ所においてそれぞれ長さ3.35mmで幅0.7mmの切り込み18が設けられていて、拡径可能となっている。
【0052】
図9は、
図3のインキ吸入器100のピストン20の概略図であり、
図9(A)は、ピストン20の概略側面図であり、
図9(B)は、
図9(A)のピストン20のB−B線断面図であり、
図9(C)は、
図9(A)のピストン20のC−C線断面図である。
【0053】
図9(A)に示されるように、ピストン20のロッド21には、少なくとも一部の側面に、雄ネジ部23sが形成されている。本実施の形態では、
図9(B)に示すように、ロッド21の全体が、円柱形状をその軸線方向に平行で且つ互いに平行に対向する2つの平面で同一の深さに面取りした形状の断面、すなわち、長方形の対向する2つの短辺を円弧状に張り出させた形状の断面、を有する被ガイド部23として形成されている。そして、被ガイド部23の円弧状に張り出した領域の、軸方向について大部分に、雄ネジ部23sが形成されている。
【0054】
本実施の形態では、ピストンの全長は26.2mmであり、フランジ部22の長さが2.4mmであり、ロッド21の長さが23.8mmである。また、フランジ部22の直径は5.59mmである。また、ロッド21(被ガイド部23)の雄ネジ部23sは、外径が3.1mm、谷径が2.5mm、有効径が2.75mmであり、被ガイド部23の厚さ(被ガイド部23の対向する2つの平面間の距離)は、1.7mmである。
【0055】
更に、本実施の形態では、
図9(C)に示すように、被ガイド部23の軸方向後方において、面取りされた2つの平面上に張出部24が形成されている。当該張出部24は、雄ネジ部23sの谷径と略同一の直径を有している。
【0056】
図10は、
図2のインキ吸入器100のノブ30の概略縦断面図である。ノブ30の少なくとも前方領域は、雌ネジ部30sを有する中空筒状である。本実施の形態では、
図10に示すように、ノブ30の軸方向前方の端部は開放しているが、軸方向後方の端部は閉じており、内周面全体に雌ネジ部30sが形成されている。そして、ノブ30の雌ネジ部30sは、ロッド21の雄ネジ部23sと互いに螺合するようになっている。本実施の形態では、ノブ30の全長は22.8mmであり、雌ネジ部30sの長さは21.3mmである。また、ノブ30の軸方向後方に、使用者が当該ノブ30を回転操作する際に把持するための、断面が略正八角形で軸方向後方に向かってやや先細りとされた、長さ9.1mmの把持部が、設けられている。
【0057】
本実施の形態のノブ30は、
図10に示すように、当該ノブ30の軸方向前方から10.2mmの位置を中心として軸方向に1mmの幅を有する膨出部31が、周方向に高さ0.325mmだけ膨出するように形成されている。膨出部31の軸方向前方側は、テーパ状に面取りされている。この膨出部31は、スリーブ部12の上方切り欠き16a及び下方切り欠き16bに回転可能に係合されるようになっている。
【0058】
そして、上方切り欠き16a及び下方切り欠き16bとノブ30の膨出部31とは、切り込み18の存在によってスリーブ部12の軸方向後方の端部を一時的に拡径させることで、係合されるようになっている。
【0059】
図11は、
図1のインキ吸入器100のピストンガイド40の概略正面図である。本実施の形態のピストンガイド40は、
図11に示すように、U字状の断面を有していると共に、当該U字状断面における1対の脚部42に、対向する互いに平行な2つの平面であるガイド部41が形成されている。本実施の形態では、ピストンガイド40の厚み(軸方向の長さ)は、1.5mmであり、U字状の断面における1対の脚部42の外周は、直径4.75mmの円弧の一部を形成している。更に、ピストンガイド40のU字状の断面における1対の脚部42の端部42e間の離間距離は、1.6mmであり、ガイド部41の2つの平面の離間距離の1.85mmよりも小さくなっている。
【0060】
また、
図11に示すように、ピストンガイド40の軸方向の左右2カ所の外周面には、突起43が軸方向全体に亘って設けられている。本実施の形態の突起43は、それぞれ、幅1mm、幅方向中央の高さ0.275mmに形成されており、インキタンク10のスリーブ部12の内周面の左右2カ所に設けられた溝部17と係合するようになっている。
【0061】
本実施の形態のピストンガイド40は、
図2に示すように、スリーブ部12に内嵌されており、ロッド21の被ガイド部23を軸方向に摺動させるようになっている。そして、ロッド21の被ガイド部23の軸方向後方に形成された張出部24(
図9(C)参照)は、当該軸方向に見てガイド部41(脚部42の対向する互いに平行な2つの平面)の少なくとも一部と重なるようになっている。
【0062】
図12は、
図1のインキ吸入器100のカバー50の概略縦断面図である。
図12に示すように、カバー50は、軸方向の長さが4.2mmであり、内径が6.235mmであり、外径が6.745mmである円筒形状を有している。また、
図12に示すように、カバー50の内周面には、当該カバー50の軸方向の両端部からそれぞれ0.6mmの位置を中心として軸方向に0.6mmの幅を有する凹条51が形成されている。
【0063】
次に、
図13を参照して、本発明の一実施の形態のインキ吸入器の組み立て方法の一例について説明する。
図13(A)は、インキタンクにグリスを塗布する工程を示す図であり、
図13(B)は、インキタンクにピストンを挿入する工程を示す図であり、
図13(C)は、ピストンにピストンガイドを組み付ける工程を示す図であり、
図13(D)は、ピストンのロッドにノブを螺合させる工程を示す図であり、
図13(E)は、インキタンクにノブを係合する工程を示す図であり、
図13(F)は、インキタンクの軸方向後方にカバーを嵌める工程を示す図であり、
図13(G)は、インキタンク内に4つの球を配置する工程を示す図であり、
図13(H)は、インキタンク内に受け部材を嵌入する工程を示す図である。
【0064】
まず、
図13(A)に示すように、インキタンク10のインキ収容部11cの内周面全体に、フランジ部22の摺動を円滑にするためのグリスが、適宜の塗布具Tを用いて、塗布される。更に、図示されていないが、ピストン20の雄ネジ部23sを含む被ガイド部23に、雄ネジ部23sを含む被ガイド部23の摺動等を円滑にするためのグリスが塗布される。
【0065】
次に、
図13(B)に示すように、ピストン20のフランジ部22が軸方向前方(
図13(B)の左側)に位置する向きで、当該ピストン20がインキタンク10の軸方向前方(
図13(B)の左側)からインキタンク10内に挿入される。
【0066】
次に、
図13(C)に示すように、フランジ部22の前面の形状に対応する先端形状を有する工具(
図13(C)に破線で示されている)によって、インキタンク10内に挿入されたピストン20が、軸方向後方へ更に押し込まれる。これにより、ピストン20の被ガイド部23の軸方向後方側の一部が、インキタンク10のスリーブ部12の軸方向後方の端部から突出される。
【0067】
次に、
図13(D)に示すように、スリーブ部12の軸方向後方の端部から突出した被ガイド部23の軸方向後方側の当該一部に、ピストンガイド40が、当該ピストンガイド40のU字状の断面における1対の脚部42の端部の側(開放側)から嵌め入れられる。そして、ピストンガイド40の突起43とスリーブ部12の溝部17とが、両者が係合するように、位置合わせされる。その後、軸方向後方側(
図13(D)の右側)から、ノブ30の雌ネジ部30sが被ガイド部23の雄ネジ部23sにねじ込まれていき、これに伴って、ノブ30の軸方向前方の端部が、ピストンガイド40を軸方向前方の所定位置にまでスライド移動させていく。この間、スリーブ部12の溝部17が、ピストンガイド40の突起43を、軸方向に摺動させていく。
【0068】
ピストンガイド40を軸方向前方の所定位置にまでスライド移動させる過程において、
図13(E)に示すように、ノブ30の膨出部31が、スリーブ部12の隆起部19a、19bに当接する。そして、ノブ30の雌ネジ部30sを更にねじ込むと、スリーブ部12の切り込み18(
図13(B)参照)の存在により、スリーブ部12の軸方向後方の端部が拡径して、ノブ30の膨出部31のテーパ状の面取り部にスリーブ部12の隆起部19a、19bが乗り上げる。その後、ノブ30の雌ネジ部30sを更にねじ込むと、膨出部31は、スリーブ部12の上方切り欠き16a及び下方切り欠き16b(隆起部19a、19bが存在しない領域)と係合する。これにより、スリーブ部12の軸方向後方の端部は、拡径前の状態に戻る。この時のピストンガイド40の位置が、前記所定位置となる。
【0069】
なお、ノブ30の雌ネジ部30sをねじ込むことでノブ30をスリーブ部12に対して相対移動させてノブ30の膨出部31とスリーブ部12の上方切り欠き16a及び下方切り欠き16bとを係合させる代わりに、ノブ30を単純にスリーブ部12に対して軸方向に押し込むことでノブ30をスリーブ部12に対して相対移動させてノブ30の膨出部31とスリーブ部12の上方切り欠き16a及び下方切り欠き16bとを係合させてもよい。
【0070】
次に、
図13(F)に示すように、スリーブ部12の軸方向後方に、筒状のカバー50が嵌められる。この時、スリーブ部12の突部15とカバー50の凹条51とが係合する。前述の通り、カバー50には、内周面に当該カバー50の軸方向の両端部から等距離の位置に2つの凹条51が形成されている。このため、カバー50を一側からでも他側からでもスリーブ部12に嵌めることができる。
【0071】
次に、
図13(G)に示すように、インキタンク10の軸線を水平にした状態、または、前端部を後端部よりも上にした状態で、4つの球60をインキタンク10の軸方向前方の開口部から挿入し、インキ収容部11c内に配置する。
【0072】
次に、
図13(H)に示すように、適宜の治具を用いて、受け部材70をインキ収容部11c内の所定位置まで押し込む。この時、受け部材70の環状部72の外周面に設けられた突起76がインキ収容部11cの内周面に食い込むことにより、当該内周面に対して受け部材70が固定される。この時、受け部材70は、環状部72の後端部がピストン20のフランジ部22が軸方向の最も前方に位置した時の当該フランジ部22の前端部よりも前方であるように、位置決めされる。
【0073】
次に、本実施の形態のインキ吸入器100の作用について説明する。
【0074】
まず、万年筆1の軸筒2を、ペン先支持部3に対して軸線回りに一方向に回転させて当該ペン先支持部3から取り外し、インキ吸入器100のノブ30を露出させる。製品によっては、購入時に、ピストン20がインキタンク10のインキ収容部11cの軸方向の最も前方に位置した状態にある。そうで無い場合には、ノブ30を一方向に回転操作して、ノブ30の雌ネジ部30sを介してピストン20の雄ネジ部23sを送り出していくことにより、ピストン20をインキタンク10のインキ収容部11cの軸方向の最も前方に位置させる。
【0075】
この回転操作によるピストン20の雄ネジ部23sの送り出しの際、インキタンク10のスリーブ部12の所定位置に内嵌されたピストンガイド40のガイド部41が、ピストン20の被ガイド部23を軸方向に摺動させる。これにより、当該ピストン20は、軸線回りに回転することが無い。
【0076】
また、ノブ30の回転操作によるピストン20の雄ネジ部23sの送り出しが続いていくと、ピストン20の張出部24がピストンガイド40に当接する。これにより、それ以後の雄ネジ部23sの送り出しが制限される(ストッパ機能)。これにより、ピストン20の雄ネジ部23sがノブ30の雌ネジ部30sから抜けてしまうことが防止される。この時のピストン20の位置が、当該ピストン20の軸方向の最も前方の位置である。
【0077】
前述の通り、本実施の形態の受け部材70は、ピストン20が軸方向の最も前方の位置に位置した時のフランジ部22の位置よりも軸方向前方に配置されているため、当該フランジ部22が受け部材70と干渉することが無い。
【0078】
次に、万年筆1のペン先4をインキ容器内のインキに浸し、その状態でノブ30を反対方向に回転操作する。これに伴って、インキ収容部11c内のピストン20が、当該インキ収容部11cの軸方向後方(
図2(B)の右側)へ移動される。これにより、インキ収容部11c内に負圧が生じて、インキがインキ容器内からペン先4を介してインキ収容部11c内に吸入される。ノブ30を反対方向に更に回転操作していくと、ピストン20がインキ収容部11cの軸方向の最も後方まで移動される。これにより、インキ収容部11c内の略全体へのインキの吸入が完了する。そして、軸筒2がペン先支持部3に対して軸線回りに他方向に回転されることにより、ペン先支持部3に軸筒2が再び取り付けられる(螺着される)。
【0079】
以上のようにしてインキ吸入器100内にインキが吸入された万年筆1は、筆記が行われていない時には、通常、ペン先4が上に向けられた状態で保管されている。そして、この万年筆1を用いて筆記を行う際には、当該万年筆1のキャップが取り外され、ペン先4が上に向けられた状態から下に向けられた状態へと姿勢変化される。この時、本実施の形態の万年筆1においては、インキ収容部11cの軸方向後方に位置していた4つの球60が軸方向前方(下方)に移動し、インキの表面張力に打ち克って、受け部材70の窓部71近傍まで移動する。この際、インキ収容部11c内の軸方向後方に位置していたインキも4つの球60と共に移動する。本実施の形態では、ペン先支持部3の槍部6が受け部材70の窓部71を貫通しているので、軸方向前方へと移動した4つの球60のうちの少なくとも1つは、槍部6に当接する(
図6参照)。結果として、4つの球60と共に移動したインキは、槍部6に導かれる。
【0080】
槍部6に導かれたインキは、当該槍部6を伝ってペン先支持部3の後端部へと導かれ、更に、毛管現象によりインキ連通孔5を通じてペン先4まで導かれる。この時、インキ収容部11c内のインキの減少により、当該インキ収容部11c内に負圧が生じる。このため、
図6に示すように、外部の空気が、空気連通孔8を通じて、気泡となってインキ収容部11c内に導入される。本実施の形態では、4つの球60の直径がいずれも2mmであり、インキ収容部11cの内径が5.52mmであるため、球60とインキ収容部11cの内周面との間に前記気泡が通過するのに十分な空間が確保されている。このため、軸方向前方(受け部材70近傍)まで移動した4つの球60によって、前記気泡の上昇が妨げられることが無い。すなわち、空気とインキとのスムーズな交替が実現される。
【0081】
万年筆1による筆記が終了すると、例えば当該万年筆1にキャップが再び取り付けられた後で、ペン先4が下に向けられた状態から上に向けられた状態へと姿勢変化される。前述の通り、本実施の形態の受け部材70は、当該受け部材70とインキ収容部11cの内周面との間に球60がぴったりと嵌り込むことが無いような形状となっている。このため、4つの球60は、受け部材70近傍からインキ収容部11cの軸方向後方へとスムーズに移動する。そして、ピストン20のフランジ部22の受け皿状の空間内に位置付けられる(
図3及び
図4参照)。
【0082】
以上のような本実施の形態の万年筆1によれば、受け部材70によって4つの球60の落下がより確実に防止されており、且つ、ペン先支持部3の後端部から軸方向後方に延出している槍部6が、受け部材70に設けられた窓部71を貫通しているため、軸方向前方の受け部材70まで(あるいは受け部材70近傍まで)移動した球60と槍部6とがより確実に当接し、結果としてインキをより確実に槍部6に導くことができる。また、球60は、筒形の移動体よりも製造コストが低いため、万年筆1の製造コストを低減させることができる。
【0083】
また、本実施の形態のインキ吸入器に採用されている受け部材70は、円盤部75を支持する支持部材として、インキ収容部11cの内周面上の対向する位置から当該インキ収容部11cの径方向内側に延びる1対の第1支持部73a、73bと、1対の第1支持部73a、73bの径方向内側の端部からインキ収容部11cの軸方向前方に延びる1対の第2支持部74a、74bと、を有しており、円盤部75は、1対の第2支持部の前端部に固定されている。このことにより、インキ吸入器100をペン先支持部3に取り付ける際の、支持部材と槍部6との干渉を回避することが容易である。
【0084】
なお、本実施の形態では、移動体として4つの球60が採用されているが、例えば2つないし3つの球、あるいは、5つ以上の球を採用することも可能である。
【0085】
また、前述の通り、ペン先支持部3の後端部から軸方向後方に延出している槍部6が、中心角が略180°の切頭扇形の断面形状を有しており、且つ、受け部材70に設けられた窓部71を貫通している。このことにより、移動体として採用し得る形状の自由度が高められているため、例えば四面体や立方体などの球以外の形状の移動体を採用することも可能である。