【文献】
長安克芳,適応信号処理を用いた高騒音下、残響のある系での原音の抽出,日本音響学会研究発表会議講演論文集,1997年 9月17日,−I−,第543−544頁
【文献】
FUJITSU LABTA説明書 (振動解析システム),富士ファコム制御株式会社&富士通株式会社,1994年 2月,初版,第57−第62頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1に記載の音源検出装置によれば、音の発生している部分をその音の強さに応じて可視化することにより、機械の表面から音の発生している部分を特定することができる。
【0006】
しかし、機械の表面から音の発生している部分が分かったとしても、その部分が音を発生させている要因である音源であるとは限らない。例えば、機械は、音源となりそうな振動部分が多数あるとともに、剛性が高く振動が伝わりやすいため、音の発生している部分が音源から離れていることも少なくない。そのため、たとえ音の発生している部分が特定されたとしても、その部分からさらに、その音の音源を探さなければならないといった手間を要することも少なくない。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、機械から発生する音の音源を高い精度で検出することができる音源検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する音源検出装置は、複数の振動源を有する検出対象物から発生する音の音源を検出する音源検出装置であって、前記検出対象物から発生した音である対象音の時系列データと、前記複数の振動源がそれぞれ出力する音または振動の時系列データとを記憶する記憶部と、前記対象音の時系列データと前記音または振動の時系列データとの所定の期間長におけるコヒーレンスを、所定の期間長の一部が重なるようにシフトさせた各期間について算出して時系列コヒーレンスとして得るコヒーレンス計算部とを備え、前記コヒーレンス計算部は、前記時系列コヒーレンスを前記振動源毎に算出して、前記対象音に関連する前記振動源を選択する第1算出部と、前記第1算出部で選択した1または複数の振動源に対応する各音または振動の時系列データを重ねて得る1つの時系列データと前記対象音の時系列データとの時系列コヒーレンスを算出して、前記選択した1または複数の振動源が前記対象音を構成していることを判定する第2算出部と、前記第2算出部で判定された1または複数の振動源に対応する音または振動の時系列データ毎に前記対象音の時系列データとの時系列コヒーレンスを算出して、前記対象音に対する前記振動源毎に寄与している度合を算出する第3算出部とを備える。
【0009】
検出対象物としての機械から得られる対象音は複合的な要因に基づいて発生しているため、機械の振動源のうち、どの振動源が対象音の発生に高い度合で寄与しているのかは容易には分からない。この点、このような構成によれば、対象音に対する各振動源の寄与の度合が算出されることから、機械から発生する対象音に寄与の度合が高い振動源、すなわち対象音の音源ともいえる振動源を高い精度で検出することができる。例えば、対象音の発生部分から離れた部分にある振動源であれ、それを音源として特定することも可能になる。そして、特定した対象音に寄与している振動源に対して必要な対処、例えば静穏化などの対処が行えるようになる。
【0010】
また、対象音の音源は機械の振動する部分である振動源であるから、対象音を振動源の発生する音ではなく発生する振動と比較することもできる。すなわち、対象音と振動源とのコヒーレンスを、「音」と「音」、及び「音」と「振動」のいずれの関係に基づいてであっても算出できる。さらに、音または振動の時系列コヒーレンスを所定の期間長に対して算出するから、識別に必要な音や振動の長さが所定の期間長程度であれば比較的短い音等についても、その寄与の度合を算出することができる。これによっても、機械から発生する対象音に寄与が高い振動源(音源)を高い精度で検出することができるようになる。
【0011】
好ましい構成として、前記コヒーレンス計算部は、前記所定の期間長を、前記振動源の音または振動の時系列データから前記振動源を特定することができる長さに設定する。
振動源の特定に必要となる音または振動の時系列データの長さは、音や振動の特徴などによって相違する。そこで、この構成のように、所定の期間長を振動源が特定可能な所定の期間にすることで、振動源が音源として特定される可能性が高められる。
【0012】
好ましい構成として、前記コヒーレンス計算部は、前記所定の期間長を、前記1または複数の振動源を各特定することができる長さのうち最も短い期間の長さに設定する。
振動源毎に、当該振動源の特定に必要となる音または振動の時系列データの長さは相違する。そこで、この構成のように、所定の期間長を特定に必要な時系列データの長さが最も短い振動源に設定することで検出対象になる振動源を多くすることができる。
【0013】
好ましい構成として、前記音及び振動の周波数には可聴周波数及び非可聴周波数を含む。
このような構成によれば、聞こえる周波数の音や振動及び聞こえない周波数の音や振動のいずれの音や振動に対してもその音源を特定することができるようになる。
【0014】
好ましい構成として、前記音源検出装置は、前記対象音の測定に先立ち、前記振動源の時系列データを前記記憶部に保持する。
このような構成によれば、振動源の時系列データを予め保持することで、より適切な条件における振動源の時系列データを取得可能になる。また、対象音の検出処理と同時期における処理負荷の増加が抑えられる。
【0015】
好ましい構成として、前記音源検出装置は、前記振動源の時系列データの収集と前記対象音の時系列データの収集を同じタイミングで行う。
このような構成によれば、対象音と振動源の時系列データを同じタイミングで取得することで、測定に要する時間を短くすることができる。また、取得された対象音の時系列データと振動源の時系列データとの関連が好適に維持されることが期待される。
【発明の効果】
【0016】
上記音源検出装置によれば、機械から発生する音の音源を高い精度で検出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1〜
図16を参照して、音源検出装置の一実施形態について説明する。
図1に示すように、本実施形態の音源検出装置10は、検出対象物としての自動車1のドア1Aが閉められたとき、その自動車1から発生する音を対象音Nとして測定し、その測定した対象音Nの発生源である音源を検出する。
【0019】
まず、
図2に示す時系列データ収集装置3で、音源検出装置10で音源検出に用いる部分の音の時系列データ5(
図3参照)を収集することについて説明する。
図2に示す時系列データ収集装置3は、ドアのラッチ音N1の時系列データ5A、ドアパネルの放射音N3の時系列データ5B、及びドアとフレームの当たり音N2の時系列データ5Cを収集する。そして、時系列データ収集装置3で収集された時系列データが、音源検出処理に先立ち音源検出装置10に保持される。
【0020】
詳述すると、時系列データ収集装置3は、音及び振動を検出するセンサ体4A,4B,4Cが接続され、各センサ体4A,4B,4Cからの音及び振動の信号を時系列データとして取得する。すなわち、各センサ体4A,4B,4Cは、音センサ及び振動センサを備えている。センサ体4Aは、「ドアのラッチ」の近傍に配置され、センサ体4Cは、「ドアパネル」の近傍に配置され、センサ体4Bは、「ドアとフレームの当たり」の近傍に配置されている。よって、時系列データ収集装置3は、センサ体4Aを介してドアのラッチ音N1とドアのラッチに関連する振動とを含む時系列データ5Aを取得する。同様に、時系列データ収集装置3は、センサ体4Cを介してドアパネルの放射音N3とドアパネルの放射に関連する振動とを含む時系列データ5Bを取得し、センサ体4Bを介してドアとフレームの当たり音N2とドアとフレームの当たりに関連する振動とを含む時系列データ5Cを取得する。各時系列データは、ドア閉めを行ったり、各部品の単体でドア閉め音を発生させることで取得される。さらに、ドアのラッチ音N1の時系列データ5Aの時間長さは少なくとも、その時系列データ5Aからドアのラッチ音N1であることが識別できる時間長さである。同様に、ドアパネルの放射音N3の時系列データ5Bの長さは少なくとも、その時系列データ5Bからドアパネルの放射音N3であることが識別できる時間長さであり、ドアとフレームの当たり音N2の時系列データ5Cの時間長さは少なくとも、時系列データ5Cからドアとフレームの当たり音N2であることが識別できる時間長さである。なお、各時系列データ5A,5B,5Cは、音と振動とのうち音源検出処理で用いる一方の時系列データのみを含んでいるものでもよい。
【0021】
図1及び
図3に示す音源検出装置10は、音圧センサ2を介して、自動車1から発生する対象音Nを測定するとともに、その測定した対象音Nについての時系列データ12を記憶する。また、音源検出装置10は、対象音Nの音源の候補である部分の音の時系列データ5を保持している。なお、部分の音の時系列データ5には、時系列データ収集装置3で収集されたドアのラッチ音N1の時系列データ5A、ドアパネルの放射音N3の時系列データ5B、及びドアとフレームの当たり音N2の時系列データ5Cが含まれている。そして、音源検出装置10は、測定した対象音Nと、3つの部分の音であるドアのラッチ音N1、ドアパネルの放射音N3及びドアとフレームの当たり音N2との間でコヒーレンス関数の演算に基づいて、対象音Nに対する各音源の音の相関の高さ(寄与度)を算出する。
【0022】
図4に示すように、本実施形態では、対象音Nはその振幅がグラフL10に示す時系列変化をする。対象音Nは、振幅がグラフL11に示す時系列変化をするドアのラッチ音N1、振幅がグラフL12に示す時系列変化をするドアパネルの放射音N3、及び振幅がグラフL13に示す時系列変化をするドアとフレームの当たり音N2が重ね合わされた音である。もし、対象音の音源が上記と異なる要因である場合、または異なる要因であると推定される場合、上記とは異なる要因に対応する位置にセンサ体が配置される。また、音源またはその候補が3つより多ければ、センサ体を3つよりも多く設けてもよい。
【0023】
図4で対象音Nは、時刻t0からt4までの間では、ドアのラッチ音N1と、ドアとフレームの当たり音N2と、ドアパネルの放射音N3とに相関が高い。一方、期間を細かく区切ると、対象音Nに対するドアのラッチ音N1、ドアとフレームの当たり音N2及びドアパネルの放射音N3の相関の高さ(寄与の度合)が異なることも示されている。具体的には、時刻t0から時刻t1までの期間はドアのラッチ音N1の相関が特に高く、時刻t1から時刻t2までの期間はフレームの当たり音N2の相関が特に高い。また、時刻t2から時刻t3までの期間はドアとフレームの当たり音N2とドアパネルの放射音N3との相関が特に高く、時刻t3から時刻t4までの期間はドアパネルの放射音N3の相関が特に高い。よって、対象音Nに対する相関の高さを算出する期間の設定や、コヒーレンス関数の演算に使うデータの長さによって、音源に対する相関の高さに変化が生じる。換言すると、対象音Nにおける相関の高さを算出する期間の設定や、コヒーレンス関数の演算に使うデータの長さ設定によって、相関の高い音源の検出精度を変更することができる。
【0024】
図3に示す音源検出装置10は、CPUやROM、RAM等で構成されたマイクロコンピュータで構成される。音源検出装置10は、例えばROMやRAMに保持された各種プログラムをCPUで実行することにより音源検出装置10における各種処理を実行する。本実施形態では、音源検出装置10は音源検出処理として、自動車1から発生した音を測定して得た対象音の時系列データ12に対して音源を検出する処理を行う。
【0025】
音源検出装置10は、上述したドアのラッチ音N1の時系列データ5A、ドアパネルの放射音N3の時系列データ5B、及びドアとフレームの当たり音N2の時系列データ5Cが部品の音の時系列データ5を保持する記憶部11を備えている。また、記憶部11には、音圧センサ2を介して取得した対象音Nの時系列データ12が保持される。
【0026】
音源検出装置10は、対象音Nに対する音源の相関の高さを示す指標であるコヒーレンス関数を演算するコヒーレンス計算部15を備えている。
コヒーレンス計算部15は、多点入力多点出力(MIMO:Multiple Input and Multiple Output)解析を行う。MIMO解析は、構造の実験モード解析でその構造の固有振動周波数や振動形状等の振動特性を得る際、複数の加振点を設け、同時入力に対する周波数応答関数やコヒーレンス関数を得るための解析手法である。本実施形態では、コヒーレンス計算部15は、入力が1点及び出力が1点の少なくとも一方であってもMIMO解析を行うことができる。本実施形態では、コヒーレンス計算部15は、コヒーレンス関数の演算、特に、時系列コヒーレンスの演算を行う。また、コヒーレンス計算部15は、時系列コヒーレンスについて3種類のコヒーレンスを算出する。そこで、以下順に、コヒーレンス関数の演算、時系列コヒーレンスの演算及び3種類のコヒーレンスの算出について説明する。
【0027】
まず、コヒーレンス関数の演算の概要について説明する。
コヒーレンス関数γ
2は、系の入力と出力の相関の高さの度合を示すもので、「0」から「1」までの間の値が演算結果として得られる。ここでは、コヒーレンス関数γ
2(f)の演算結果が、周波数fに関して、系の出力が系の入力に相関する高さの割合として得られる。例えば、コヒーレンス関数γ
2(f)が「1」の場合、周波数fにおいて、系の出力がすべて系の入力に起因している(相関が高い)ことが示される。また、コヒーレンス関数γ
2(f)が「0」の場合、周波数fについては、系の出力が系の入力に全く関係ない(相関がない)ことが示される。「0<γ
2(f)<1」である場合、系の出力には系の入力とは無関係な信号が含まれることが示される。系の入力とは無関係な信号としては、未知の入力、系内部で発生しているノイズ、系の非直線性または系の時間遅延が挙げられる。
【0028】
コヒーレンス関数γ
2は下記式(1)で示される。但し、フーリエ変換によって求められた入力の複素スペクトルを「X」、同求められた出力の複素スペクトルを「Y」とする。また、「X」にその共役複素数をかけた入力側のパワースペクトルを「Wxx」、「Y」にその共役複素数をかけた出力側のパワースペクトルを「Wyy」、1つの信号(「X」)の複素スペクトルの複素共役に、もう一つの信号(「Y」)の複素スペクトルをかけて求められるクロススペクトルを「Wxy」とする。
【0029】
【数1】
つまり、コヒーレンス関数γ
2は、クロススペクトルWxyの絶対値の二乗を系の入力及び系の出力の各々のパワースペクトルWxx,Wyyで割算したものであって、入力と出力との2つで決まるパワーの周波数成分を示す。そして、異なるフレームについて算出した複数のコヒーレンス関数γ
2の値をコヒーレンスが算出される期間に存する数で平均化することで相関の高さを示すコヒーレンスの値が得られる。例えば、本実施形態では、パワースペクトルWyyが対象音Nに基づいて設定され、パワースペクトルWxxが音源の音N1〜N3のうちから入力として選択した1または複数の音に基づいて設定される。また、平均化するフレームの数は、時系列コヒーレンスの1データを構成する所定の数、例えば「5」とする。
【0030】
例えば、
図5は、一つの音源から音が出ている場合のコヒーレンスの例を示している。音源の振動がグラフL50、測定される音の強度がグラフL51で示される場合、演算されるコヒーレンスがグラフL52で示される。なお、グラフL52は、色が濃いほど、コヒーレンスの値が高い、つまり相関が高いことを示している。つまり、時刻ta0に近いほど、その音の各周波数に対する音源の振動の相関が高いことが示されている。そして、音源の振動が小さくなるに応じて相関が低くなるが、再度、時刻ta1で音源が振動することに応じて音が大きくなり、音の各周波数に対して音源の振動の相関が高くなることが示されている。なお通常、コヒーレンス関数は経過した時間でも平均化する。例えば、時刻ta0から演算が開始されると、時刻ta0における相関は、音源が振動している期間である時刻ta0に近い期間における時間平均に基づく相関であるから比較的高くなる。一方、時刻ta1における相関は、音源が振動していない期間を含んでいる時刻ta0から時刻ta1までの時間平均に基づくことから低く抑えられ、時刻ta2における相関は、音源が振動していない期間を長く含んでいる時刻ta0から時刻ta2までの時間平均に基づくことからより低く抑えられる。
【0031】
次に、時系列コヒーレンスの算出の概要を説明する。
図6を参照して、時系列コヒーレンスの概要を説明する。時系列コヒーレンスでは、コヒーレンス関数の演算に使うデータの時間長さを所定の期間長としてのフレーム長LFとして定めるとともに、フレーム長LFよりも短い間隔で算出タイミングを複数設ける。そして、各算出タイミングにおいて、フレーム長LFの期間のコヒーレンス関数の演算を平均して時系列コヒーレンスとする。つまり、時系列コヒーレンスは、算出タイミングがフレーム長LFよりも短い間隔で、例えば、
図6ではフレーム長LF中に5回の算出タイミングが設けられている。そして、コヒーレンスの算出結果がグラフL57とし示されている。グラフL57は、フレーム長LF中にグラフL55の振動部分が含まれている場合、相関が高いことを示し、グラフL55の振動部分を含まない場合、相関が低いことを示す。
【0032】
そして、本実施形態のコヒーレンス計算部15について詳述する。
図3に示す、コヒーレンス計算部15は、対象音Nの時系列データと各音源の音N1〜N3の時系列データとについて、算出タイミングごとに、フレーム長LFにおけるコヒーレンスを算出する。このとき、コヒーレンス計算部15は、一部が重なる各フレーム長についてそれぞれコヒーレンスを算出し、これらを時系列コヒーレンスとする。2つの算出タイミングの間隔が所定のシフト時間である。例えば、フレーム長が100[ms]、シフト時間が20[ms]であれば、2つのコヒーレンスはそれらの80[ms]が相互に重なる一方、20[ms]が相互に重ならない期間になる。なお、フレーム長は、予め設定された値から選択してもよいし、コヒーレンスを算出する過程においてより安定する値を探して、それを設定するようにしてもよい。
【0033】
以下、本実施形態でのコヒーレンスは、時系列コヒーレンスであるものとする。
図3及び
図7に示すように、コヒーレンス計算部15は、通常のコヒーレンスを算出する第1算出部20と、マルチコヒーレンスを算出する第2算出部30と、パーシャルコヒーレンスを算出する第3算出部40とを備える。本実施形態では、「通常のコヒーレンス」、「マルチコヒーレンス」及び「パーシャルコヒーレンス」はそれぞれ、コヒーレンス計算部15で算出する際、入力である音源の音N1〜N3の組み合わせが相違したり、コヒーレンスを算出する周波数範囲が相違したりしている。
【0034】
まず、
図8〜
図12を参照して、上述した3種類のコヒーレンスについての概要を説明する。
図8(a)〜(d)には、入力である無相関の4つの入力信号L20〜L23の時間変化が示され、
図9には、4つの入力信号L20〜L23に基づく出力である出力信号L30の時間変化が示されている。なお、4つの入力信号L20〜L23は、
図8(a)の入力信号L20の振幅を「1倍」としたとき、
図8(b)の入力信号L21の振幅は「1.4倍」、
図8(c)の入力信号L22の振幅は「2倍」、
図8(d)の入力信号L23の振幅は「0.5倍」である。また、出力信号L30は振幅が大きいところで「4倍」程度である。さらに、
図8及び
図9は、振幅が略一定の周波数信号を示すが、図示の便宜上、一定幅の信号のように図示されている。
【0035】
3種類のコヒーレンスのうち「通常のコヒーレンス」は、無相関の複数入力源における、ある入力と出力の相関の高さが算出される。ある1つの入力と1つの出力との相関が高ければ値は「1」に近くなり、入力以外の影響を受けると値は「1」よりも小さくなる。
【0036】
図10(a)〜(d)に示すように、「通常のコヒーレンス」では、入力信号L20の出力信号L30への相関の高さが算出され(グラフL40)、入力信号L21の出力信号L30への相関の高さが算出される(グラフL41)。また、入力信号L22の出力信号L30への相関の高さが算出され(グラフL42)、入力信号L23の出力信号L30への相関の高さが算出される(グラフL43)。この算出処理によれば、出力信号L30に高い相関を有する入力信号を選択することができるようになる。換言すると、出力信号L30に相関のない入力信号を除外することができる。つまり、この算出処理により出力への相関の有無が不明な多数の音源を入力としたときであれ、それらの入力から出力に高い相関を有する音源が適切に選択されるようになる。
【0037】
本実施形態では、コヒーレンス計算部15の第1算出部20で「通常のコヒーレンス」を算出することで、複数入力の各入力がそれぞれ出力に相関があるか否かが判断される。また当初、出力に相関を有する入力(音源)は推定されるが、その真偽は不明であるところ、この算出処理により出力に無関係な入力を特定し、その特定された無関係な入力を音源検出処理から除外することができる。
【0038】
また、「マルチコヒーレンス」は、いわゆる多重関連度関数であって、全ての入力と1つの出力との相関の高さ(寄与の度合)が算出される。全ての入力と1つの出力との相関が高ければ値は「1」に近くなり、入力以外の影響を受けると値は「1」よりも小さくなる。
【0039】
図8,
図9及び
図11に示すように、無相関である4つの入力信号L20〜L23を同時刻で重ね合わせた信号である出力信号L30への相関の高さが算出される(グラフL44)。この算出処理により、無相関である4つの入力信号L20〜L23のそれぞれが出力信号L30に高い相関があるか否か判定される。例えば、出力に対する音源が不明である場合、入力が不足しているおそれもある。そこで、この算出処理で、「1」であれば、出力と相関のある全ての入力が選択されていることが示され、「1」より小さければ、いくつかの音源が入力されていない可能性が示される。
【0040】
本実施形態では、選択された全ての入力で出力が充足されるか否かが判断される。この算出処理で、全ての入力によって出力が充足されると判定されれば、入力が不足なく適切に選択されていることが示される。一方、全ての入力では出力が充足されないと判定されれば、選択された入力には不足があること等が示される。そして、先の「通常のコヒーレンス」とこの「マルチコヒーレンス」との2つの算出処理が組合せられることによって、出力に無関係な入力の除外が行われるとともに、不足する入力の有無を判断することができる。
【0041】
また、「パーシャルコヒーレンス」は、いわゆる偏関連度関数であって、多点入力のうちで、ある1入力と1出力との間のみの相関の高さが算出される。ここでも、ある1つの入力と1つの出力との相関が高ければ値は「1」に近くなり、入力以外の影響を受けると値は「1」よりも小さくなる。
【0042】
図12(a)〜(d)に示すように、無相関である4つの入力信号L20〜L23のそれぞれについて出力信号L30への相関の高さが独立して算出される。例えば、入力信号L20の相関の高さは「0.15」程度(グラフL45)、入力信号L21の相関の高さは「0.3」程度(グラフL46)、入力信号L22の相関の高さは「0.5」程度(グラフL47)、入力信号L23の相関の高さは「0.05」未満程度(グラフL48)である。つまり、無相関な入力信号L20〜L23にそれぞれ算出された相関の高さの合計は略「1」(=0.15+0.3+0.5+0.05)である。換言すると、無相関な各入力の相関の高さの合計が、全入力の出力に対する相関の高さとして算出される。よって、無相関な各音源の相関の高さが全体に対する割合として得られる。
【0043】
このように本実施形態では、「通常のコヒーレンス」と「マルチコヒーレンス」との2つの算出処理で過不足なく選択された音源が入力になるから、これら入力の出力への相関は高く、略「1」である。そこで、各入力の出力への相関の高さはそれぞれ、出力に対する寄与の度合いとしても得られる。
【0044】
なお、さらに、1つの入力の出力に対する「パーシャルコヒーレンス」を算出する周波数範囲を絞り込んだり、時間範囲を絞り込んだりすることで、出力のうち相関が高い周波数範囲や時間範囲を絞り込むこともできるようになる。
【0045】
続いて、
図7を参照して、音源検出装置10で行う音源検出処理の動作の一例について説明する。なお、音源検出処理が行われるに先立ち、音源検出装置10は、入力とするデータを保持する。またこのとき、事前の調査等で音源を検出する必要がある音である対象音が、
図13(d)に示す時間T及び周波数範囲Fからなる対象範囲KNに存在するという特徴を有していることが分かっているものとする。対象音は、例えば、変動音や騒音、気になる音である。
【0046】
図13(a)〜(c)に示すように、音源検出処理が行われるに先立ち、音源検出装置10は、入力とするデータを保持する。このとき、入力として第1の部分の音の時系列データが、
図13(a)に示す時間変化のグラフL60として得られるものとする。このグラフL60は、対象範囲KNと同じ範囲M60に対応する周波数範囲Fに特徴を有するとともに、この特徴が時間Tだけ継続することを示している。つまり、第1の部分の音は、範囲M60に、気になる音の特徴に対して高いコヒーレンスを有すると考えられる。このとき、対象範囲KNからはずれる時間範囲及び周波数範囲は算出対象としない。また、第2の部分の音の時系列データが、
図13(b)に示す時間変化のグラフL61として得られるものとする。このグラフL61は、対象範囲KNと同じ範囲M61に対応する周波数範囲Fに特徴を有するとともに、この特徴が時間Tだけ継続することを示している。つまり、第2の部分の音も、範囲M61に、気になる音の特徴に対して高いコヒーレンスを有すると考えられる。さらに、第3の部分の音の時系列データが、
図13(c)に示す時間変化のグラフL62として得られるものとする。このグラフL62は、第3の部分の音は対象範囲KN外となる時間範囲及び周波数範囲に特徴を有しているものとする。
【0047】
図7に示すように、音源検出装置10は、対象音の時系列データを取得する(
図7のステップS10)。このステップS10では、入力する対象音の時系列データが、
図13(d)に示す時間変化のグラフL63として得られるものとする。このグラフL63は、対象範囲KNに対応する周波数範囲Fに特徴を有するとともに、この特徴が時間Tだけ継続する。このとき、対象音のグラフL63は、グラフL61とグラフL62とに対応する区間「A」と、グラフL63に対応する区間「B」とを有する。しかし、区間「B」は、周波数特性の時間範囲及び周波数範囲が対象範囲KNから外れるため図示されていない。
【0048】
続いて、
図7に示すように、音源検出装置10は、コヒーレンス計算部15の第1算出部20で通常コヒーレンスの算出(
図7のステップS11)を行い、第2算出部30でマルチコヒーレンスの算出(
図7のステップS12)を行い、第3算出部40でパーシャルコヒーレンスの算出(
図7のステップS13)を行う。
【0049】
このうち、
図7及び
図14に示すように、ステップS11では「通常のコヒーレンス」が算出される。
第1算出部20は、入力の時系列データをグラフL60としたとき、出力である対象音の時系列データ(グラフL63)への相関の高さを算出する。ここでは、グラフL60の特徴ある時間及び周波数特性範囲の範囲M60と、グラフL63の特徴ある時間及び周波数特性範囲の対象範囲KNとが重なり、相関が高いことが算出される(
図14(a)参照)。同様に、第1算出部20は、入力の時系列データをグラフL61としたとき、出力である対象音の時系列データ(グラフL63)への相関の高さを算出する。ここでは、グラフL61の特徴ある時間及び周波数特性範囲の範囲M61と、グラフL63の特徴ある時間及び周波数特性範囲の対象範囲KNとが重なり、相関が高いことが算出される(
図14(b)参照)。また、第1算出部20は、入力の時系列データをグラフL62としたときの出力である対象音の時系列データ(グラフL63)への相関の高さを算出する。ここでは、グラフL62の特徴ある時間及び周波数特性範囲の範囲と、グラフL63の特徴ある時間及び周波数特性範囲の対象範囲KNとが重ならず、相関が低いことが算出される(
図14(c)参照)。
【0050】
この
図7に示すステップS11の「通常のコヒーレンス」の算出に基づいて、対象音の時系列データ(グラフL63)への相関が、グラフL60とグラフL61とは高く、グラフL62は低いことが判定される。そこで、以降の処理では相関の高いグラフL60とグラフL61とに対して音源検出処理を行うようにし、無関係等の相関の低いグラフL62を処理から省くことができる。なお、相関の高低の判定は、算出された「通常のコヒーレンス」の値と第1の閾値との比較により行う。第1の閾値は、相関の有無の判定に用いられる閾値であって、判定に適した値が「0」以上「1」以下から設定される。
【0051】
そして、
図7及び
図15に示すように、ステップS12では、ステップS11の「通常のコヒーレンス」の算出で相関が高いと判定された入力に基づいて「マルチコヒーレンス」が算出される。
【0052】
つまり、第2算出部30は、第1算出部20で相関の高いと判定されたグラフL60とグラフL61とが重なる音の時系列データの、対象音の時系列データ(グラフL63)への相関の高さを算出する。ここでは、上記重なる音の時系列データの特徴ある時間及び周波数特性範囲の範囲M65と、グラフL63の特徴ある時間及び周波数特性範囲の対象範囲KNとが重なり、相関が高いことが算出される(
図15参照)。換言すると、入力から、対象音に無関係な時系列データを除いた全入力の時系列データの対象音の時系列データ(グラフL63)への相関の高さを算出する。こうした算出結果として相関の高さの値が「1」に近ければ、グラフL60とグラフL61とからなる入力が、グラフL63の音源であることが確認される。一方、算出結果として相関の高さの値が「0」であれば、グラフL60とグラフL61とからなる入力は、グラフL63の音源ではないことが確認される。また、算出結果として相関の高さの値が「1」未満で「0」より大きいのであれば、グラフL63の音源として、グラフL60とグラフL61と以外の音が含まれる可能性が示される。なお、相関が高いか低いかは、算出された「マルチコヒーレンス」の値を第2の閾値と比較することにより行う。第2の閾値は、グラフL63が選択された音源から構成されているかの判定に用いられる閾値であって、判定に適した値が「0」以上「1」以下から設定される。
【0053】
つまり、
図7に示す音源検出処理は、ステップS11で余計な入力を除外し、ステップS12で入力の不足がないことを確認することで、選択された入力が対象音の音源として適切であるか否かを判定する。そして、入力が音源として適切であれば、次のステップS13の処理を行い、逆に、入力が音源として不適切であれば、音源検出処理を中止する。この場合、対象音の音源として推定される部分の再選定を行うようにすればよい。
【0054】
最後に、
図7及び
図16に示すように、ステップS13では、ステップS12で対象音Nの音源として判定されたグラフL60とグラフL61とのそれぞれについて対象音の時系列データ(グラフL63)との「パーシャルコヒーレンス」を算出する。このとき、例えば、特徴のある周波数範囲Fを2つに分割した第1の周波数範囲f1と第2の周波数範囲f2とについての相関の高さをそれぞれ算出する。
【0055】
第2算出部30で選択された入力が出力の音源として適切であると判定されたとき、第3算出部40は、まず、入力をグラフL60としたとき、第1の周波数範囲f1と第2の周波数範囲f2とにおける対象音の時系列データ(グラフL63)への相関の高さをそれぞれ算出する。このとき、例えば、グラフL60は第1の周波数範囲f1のとき、時間及び周波数範囲M66で相関が高いことが判定され、逆に、第2の周波数範囲f2のときは相関が高くないことが判定される(
図16(a)参照)。また、第3算出部40は、グラフL61は第2の周波数範囲f2のとき、時間及び周波数範囲M67で相関が高いことが判定され、逆に、第1の周波数範囲f1のときは相関が高くないことが判定される(
図16(b)参照)。なお、相関が高いか低いかは、算出された「パーシャルコヒーレンス」の値と第3の閾値との比較により行う。第3の閾値は、対象音の全体または一部に音源の相関が高いか低いかの判定に用いられる閾値であって、判定に適した値が「0」以上「1」以下から設定される。
【0056】
これにより、音源検出装置は、対象音の時系列データ(グラフL63)のうちグラフL60の特徴は時間T及び周波数範囲M66に相関が高いことが検出するとともに、グラフL61の特徴は時間T及び周波数範囲M67に相関が高いことが検出される。
【0057】
こうして、「通常のコヒーレンス」と「マルチコヒーレンス」との算出を通じて適切に絞り込まれた入力について、その出力に対して「パーシャルコヒーレンス」が算出されることで、算出されるコヒーレンスには対象音に対する相関の高さ(寄与度)が高い精度で反映される。対象音に対する相関の高さの精度が高ければ、音源に対する適切な対策を行いやすくなり、音源検出装置による音源検出処理の利用価値が高められるようになる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態に係る音源検出装置によれば、以下に記載する効果が得られる。
(1)検出対象物としての自動車から得られる対象音Nは複合的な要因に基づいて発生しているため、自動車の振動源のうち、どの振動源が対象音の発生に高い度合で寄与しているのかは容易には分からない。この点、本実施形態では、対象音Nに対する各音源の相関の高さ(寄与の度合)が算出されることから、自動車1から発生する対象音Nに寄与の度合が高い音源を高い精度で検出することができる。例えば、対象音Nの発生部分から離れた部分にある音源であれ、それを音源として特定することも可能になる。そして、特定した対象音Nに寄与している音源に対して必要な対処、例えば静穏化などの対処が行えるようになる。
【0059】
また、時系列コヒーレンスを所定のフレーム長(期間長)に対して算出するから、識別に必要な音や振動の長さが所定のフレーム長程度であれば比較的短い音等についても、その寄与の度合を算出することができる。これによっても、自動車1から発生する対象音Nに寄与が高い音源を高い精度で検出することができるようになる。
【0060】
(2)音源の特定に必要となる音の時系列データの長さは、音や振動の特徴などによって相違する。よって、フレーム長を振動源が特定可能な所定の期間にすることで、振動源が音源として特定される可能性が高められる。
【0061】
(3)音源の時系列データ5A〜5Cを予め保持することで、より適切な条件における振動源の時系列データを取得可能になる。また、対象音Nの検出処理と同時期における処理負荷の増加が抑えられる。
【0062】
(その他の実施形態)
なお上記実施形態は、以下の態様で実施することもできる。
・上記実施形態では、音源の音の時系列データを事前に収集する場合について例示したが、これに限らず、音源の音の時系列データを対象音の収集と同時に行ってもよい。対象音と音源の時系列データを同じタイミングで取得することで、測定に要する時間を短くすることができる。また、取得された対象音の時系列データと音源の時系列データとの関連が好適に維持されることが期待される。
【0063】
・上記実施形態では、音の周波数については特に規定していないが、音の周波数は可聴周波数でも、非可聴周波数でもよいし、それらが混在していてもよい。これにより、聞こえる音はもとより、聞こえない音であっても、それらの音に対してもその音源を特定することができるようになる。
【0064】
・上記実施形態では、フレーム長は、予め設定された値から選択してもよいし、コヒーレンスを算出する過程においてより安定する値を探して、それを設定するようにしてもよい。前記実施形態では後者の場合について例示した。また、振動源毎に、当該振動源の特定に必要となる音または時系列データの長さは相違する。よって、フレーム長は、特定に必要な時系列データの長さが最も短い振動源に設定するようにしてもよい。これにより音源として検出対象になる振動源を多くすることができる。
【0065】
・上記実施形態では、音源の音及び振動の時系列データを時系列データ収集装置3で収集する場合について例示したが、これに限らず、音源の音及び振動の時系列データを音源検出装置で収集してもよい。例えば、音源検出装置にセンサ体を接続して、その音源検出装置で振動源の音及び振動の時系列データを収集してもよい。
【0066】
・上記実施形態では、音源の音及び振動の時系列データを収集する場合について例示したが、これに限らず、音源となる振動源の音または振動の時系列データのいずれか一方のみを収集してもよい。対象音を振動源の発する音に変えて同発する振動と比較しても相関を得ることができる。つまり、対象音と振動源とのコヒーレンスを、「音」と「音」、及び「音」と「振動」のいずれの関係に基づいてであっても算出できる。
【0067】
・上記実施形態では、各センサ体4A〜4Cは、音センサ及び振動センサを備えている場合について例示した。しかしこれに限らず、センサ体は、音センサまたは振動センサのみを備えていてもよい。また、複数のセンサ体としては、それらが音センサのみを有するものであっても、振動センサを有するものであっても、音センサを有するものと振動センサを有するものとが混在しているものであってもよい。そしてこの場合であれ、上述したように、センサ体により取得された音源の音または振動のいずれか一方の時系列データと対象音とを比較することで相関を得ることができる。
【0068】
・上記実施形態では、1つの部分の音を一つの時系列データとして取得する場合について例示した。しかしこれに限らず、2つ以上の部分の音を一つの時系列データとして取得してもよい。この場合、対象音が2つ以上の部分の音からなる一つの時系列データに高い相関があることが判定されたときには、時系列データの対象部分を小さくしていくことにより音源となる部分を絞り込むようにしてもよい。
【0069】
・上記実施形態では、対象音が1つである場合について例示したが、これに限らず、対象音が複数であってもよい。それぞれの対象音と部品の音との各種コヒーレンスを適切に算出することができればよい。
【0070】
・上記実施形態では、自動車のドアを閉めるときの音についてその音源を検出する場合について例示した。しかしこれに限らず、音源の検出対象となる音は、自動車のエンジン周囲の音や、自動車のアイドリング時の音、ボンネットやトランクの開閉時の音、ドアを開けるときの音など、自動車で生じるどのような音であってもよい。
【0071】
・上記実施形態では、自動車から発生する音についてその音源を検出する場合について例示した。しかしこれに限らず、音を発生する対象物は、複数の音源等を有する一般機械や輸送機械であればよい。