(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記点火時期設定手段は、前記温度パラメータで表される前記内燃機関の温度が高いほど、前記先行点火時期を徐々により遅角側に設定することを特徴とする、請求項2に記載の内燃機関の点火時期制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来の点火時期制御装置では、内燃機関の始動中、車両の共振を抑制するために、点火時期を常に進角側に設定しているにすぎない。このため、例えば内燃機関の始動中、1回目の燃焼により内燃機関の回転数が十分に上昇せずに、そのピークが共振回転数域に入ることにより、内燃機関の回転数が共振回転数域にある時間が全体的に長くなることによって、車両の共振を適切に抑制することができないおそれがある。特に、1回目の燃焼による内燃機関の振動は比較的大きい傾向にあるため、上記の不具合はより顕著になる。また、進角側への点火時期の設定が1回目の燃焼用のものから連続的に行われるため、例えば、内燃機関の完爆直後に、2回目以後の燃焼により内燃機関の回転数が過度に大きく吹き上がるおそれがある。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、内燃機関の始動中、内燃機関の回転数が共振回転数域にある時間を短縮できることによって、乗り物の内燃機関との共振を適切に抑制することができるとともに、内燃機関の完爆直後に内燃機関の回転数が吹き上るのを抑制することができる内燃機関の点火時期制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、車両(実施形態における(以下、本項において同じ)車両V)に搭載された内燃機関3の点火時期を制御するための内燃機関3の点火時期制御装置1であって、内燃機関3の始動中に実行される複数回の燃焼のための複数の点火時期IGLOGを設定する点火時期設定手段(ECU2、
図2)を備え、点火時期設定手段は、複数の点火時期IGLOGのうち、先行側の点火時期IGLOGである先行点火時期を、先行点火時期による燃焼によって上昇する内燃機関の回転数(エンジン回転数NE)のピークが、内燃機関の回転に伴う振動によって車両Vが共振する所定の共振回転数域ZNRを下回るように、所定の基準点火時期IGMBTよりも遅角側に設定し、先行点火時期の後続側の点火時期IGLOGである後続点火時期を、後続点火時期による燃焼によって上昇する内燃機関の回転数のピーク
、及び当該ピークから落ち込んだ内燃機関の回転数のボトムが
、共振回転数域ZNRを超えるように、先行点火時期よりも進角側に設定すること(
図2のステップ6、7、8A、8B、8D、8E、
図4)を特徴とする。
【0008】
この構成によれば、内燃機関の始動中に実行される内燃機関の複数回の燃焼のうち、先行側の点火時期である先行点火時期は、先行点火時期による燃焼(以下「先行側燃焼」という)によって上昇する内燃機関の回転数のピークが、車両が共振する所定の共振回転数域ZNRを下回るように、所定の基準点火時期よりも遅角側に設定される。また、先行点火時期の後続側の点火時期である後続点火時期は、後続点火時期による燃焼によって上昇する内燃機関の回転数のピーク
、及び当該ピークから落ち込んだ内燃機関の回転数のボトムが
、共振回転数域を超えるように、先行点火時期よりも進角側に設定される。これにより、内燃機関の始動中、先行側燃焼に起因する内燃機関の回転数のピークを、共振回転数域よりも低く抑えるとともに、先行側燃焼よりも後の燃焼により、内燃機関の回転数をさらに上昇させ、共振回転数域を迅速に通過させることによって、内燃機関の回転数が共振回転数域にある時間を短縮でき、ひいては、車両の共振を適切に抑制することができる。
【0009】
また、前述した従来の点火時期制御装置と異なり、内燃機関の始動中、点火時期を1回目の燃焼用のものから連続的に進角側に設定するのではなく、遅角側への先行点火時期の設定により先行側燃焼を緩慢にした後に、進角側への後続点火時期の設定を行うので、内燃機関の完爆直後に内燃機関の回転数が吹き上がるのを抑制することができる。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の内燃機関の点火時期制御装置1において、内燃機関3の温度を表す温度パラメータ(エンジン水温TW)を取得する温度パラメータ取得手段(水温センサ12)をさらに備え、基準点火時期IGMBTは、内燃機関3の最大の出力トルクが得られる最適点火時期に設定されており、点火時期設定手段は、取得された温度パラメータで表される内燃機関3の温度が高いほど、基準点火時期IGMBTに対して先行点火時期をより遅角側に設定する(
図2のステップ6、7、
図3)ことを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、基準点火時期が、内燃機関の最大の出力トルクが得られる最適点火時期に設定されている。また、取得された温度パラメータで表される内燃機関の温度が高いほど、前記先行点火時期がより遅角側に設定される。これにより、内燃機関の始動中、内燃機関の温度が高くなることで内燃機関のフリクションが低くなるほど、前述した先行側燃焼をより緩慢にすることができるので、内燃機関の温度に応じて、内燃機関の完爆直後における内燃機関の回転数の吹き上がりを適切に抑制することができる。また、内燃機関の始動中、内燃機関の温度が低いほど、先行点火時期の遅角度合いを小さくし、上記のように設定された基準点火時期に先行点火時期を近づけることができるので、遅角側への先行点火時期の設定による先行側燃焼の悪化を抑制することができる。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の内燃機関3の点火時期制御装置1において、点火時期設定手段は、温度パラメータで表される内燃機関3の温度が高いほど、先行点火時期を徐々により遅角側に設定する(
図2のステップ6、7、
図3)ことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、温度パラメータで表される内燃機関の温度が高いほど、先行点火時期が徐々により遅角側に設定される。これにより、先行点火時期を、内燃機関の温度に応じてきめ細かく遅角側に設定できるので、内燃機関の停止/始動が繰り返された場合において、内燃機関の温度が若干、変化したようなときに、それに応じて先行点火時期を大きく変化させずに済み、ひいては、内燃機関の始動時のフィーリングを向上させることができる。それに加え、請求項2に係る発明による上述した効果、すなわち、内燃機関の完爆直後における内燃機関の回転数の吹き上がりの適切な抑制と、先行側燃焼の悪化の抑制とを、適切に両立させることができる。
【0016】
前記目的を達成するために、請求項
4に係る発明は、車両(実施形態における(以下、本項において同じ)車両V)に搭載された内燃機関3の燃焼のための点火時期を制御するための内燃機関3の点火時期制御装置1であって、内燃機関3の始動中、1回目の点火時期IGLOGを、当該1回目の点火時期IGLOGによる燃焼によって上昇する内燃機関の回転数(エンジン回転数NE)のピークが、内燃機関の回転に伴う振動によって車両Vが共振する所定の共振回転数域ZNRを下回るように、所定の基準点火時期IGMBTよりも遅角側に設定し、2回目の点火時期IGLOGを、当該2回目の点火時期IGLOGによる燃焼によって上昇する内燃機関の回転数のピーク
、及び当該ピークから落ち込んだ内燃機関の回転数のボトムが
、共振回転数域ZNRを超えるように、設定された1回目の点火時期IGLOGよりも進角側に設定する点火時期設定手段(ECU2、
図2のステップ6、7、8A、8B、8D、8E)を備えることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、内燃機関の始動中、1回目の点火時期が、当該1回目の点火時期による燃焼によって上昇する内燃機関の回転数のピークが、内燃機関の回転に伴う振動によって車両が共振する所定の共振回転数域を下回るように、所定の基準点火時期よりも遅角側に設定される。また、2回目の点火時期が、当該2回目の点火時期による燃焼によって上昇する内燃機関の回転数のピーク
、及び当該ピークから落ち込んだ内燃機関の回転数のボトムが
、共振回転数域を超えるように、設定された1回目の点火時期よりも進角側に設定される。これにより、請求項1に係る発明と同様、内燃機関の始動中、1回目の燃焼に起因する内燃機関の回転数のピークを、共振回転数域よりも低く抑え、2回目の燃焼により、内燃機関の回転数をさらに上昇させ、共振回転数域を迅速に通過させることによって、内燃機関の回転数が共振回転数域にある時間を短縮でき、ひいては、車両の共振を適切に抑制することができる。また、内燃機関の始動中、点火時期を1回目から連続的に進角側に設定するのではなく、1回目の点火時期の遅角側への設定により内燃機関の燃焼を緩慢にした後に、進角側への点火時期の設定を行うので、内燃機関の完爆直後に内燃機関の回転数が吹き上がるのを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態による点火時期制御装置1を適用した内燃機関(以下「エンジン」という)3を、概略的に示している。点火時期制御装置1は、後述するECU2や、各種のセンサを備えている。エンジン3は、例えば4組の気筒及びピストン(いずれも図示せず)を有する周知のガソリンエンジンであり、車両Vに動力源として搭載されている。エンジン3には、気筒ごとに、燃焼室(図示せず)が画成されるとともに、燃焼室内の混合気を点火するための点火プラグ4が設けられている(1つのみ図示)。点火プラグ4は、イグナイタ(図示せず)を介してECU2に接続されており、その点火時期は、ECU2からの駆動信号が点火プラグ4に入力されることによって、制御される。
【0020】
また、エンジン3のシリンダヘッド(図示せず)には、気筒内に吸気を導入するための吸気通路5が接続されており、吸気通路5には、上流側から順に、気筒内に吸入される吸入空気量を制御するためのスロットル弁や、燃料噴射弁(いずれも図示せず)が設けられている。エンジン3のクランクシャフト(図示せず)には、エンジン3を始動するためのスタータ(図示せず)が連結されている。スロットル弁の開度、燃料噴射弁の噴射動作、及びスタータの動作は、ECU2により制御される。エンジン3の始動中には、スロットル弁の開度、燃料噴射弁の燃料噴射量及び燃料噴射時期はそれぞれ、始動用の所定開度、所定噴射量及び所定噴射時期にそれぞれ制御される。この場合のエンジン3の始動には、後述する運転者による能動的な始動と、自動停止からの再始動が含まれる。
【0021】
また、エンジン3のクランクシャフトにはクランク角センサ11が、エンジン3のシリンダブロック(図示せず)には水温センサ12が、それぞれ設けられている。クランク角センサ11は、マグネットロータおよびMREピックアップで構成されており、クランクシャフトの回転に伴い、いずれもパルス信号であるCRK信号及びTDC信号をECU2に入力する。CRK信号は、所定クランク角(例えば10゜)ごとに入力され、ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを算出する。また、TDC信号は、いずれかの気筒においてピストン(図示せず)が吸気行程の開始時の上死点よりも若干、手前の所定のクランク角位置にあることを表す信号である。
【0022】
上記の水温センサ12(温度パラメータ取得手段)は、例えばサーミスタなどで構成されており、エンジン3を冷却する冷却水の温度(以下「エンジン水温」という)TWを検出し、その検出信号をECU2に入力する。また、吸気通路5の上記のスロットル弁よりも下流側には、吸気圧センサ13が設けられている。吸気圧センサ13は、例えば半導体圧力センサなどで構成されており、吸気通路5内の絶対圧である吸気圧PBAを検出し、その検出信号をECU2に入力する。さらに、ECU2には、アクセル開度センサ14、車速センサ15、イグニッションスイッチ16、及びブレーキスイッチ17が接続されている。
【0023】
上記のアクセル開度センサ14は、車両Vのアクセルペダルの操作量(以下「アクセル開度」という)APを、車速センサ15は車両Vの速度(以下「車速」という)VPを、それぞれ検出し、これらの検出信号はECU2に入力される。また、イグニッションスイッチ16は、運転者により車両Vのパワースイッチ(図示せず)がオンされているときにはON信号を、オフされているときにはOFF信号を、ECU2に入力する。ブレーキスイッチ17は、運転者により車両Vのブレーキペダル(図示せず)が踏み込まれているときにON信号を、踏み込まれていないときにOFF信号を、ECU2に入力する。
【0024】
ECU2(点火時期設定手段)は、I/Oインターフェース、CPU、RAM及びROMなどから成るマイクロコンピュータで構成されており、上述した各種のセンサ11〜15からの検出信号及び各種のスイッチ16及び17からの出力信号に応じ、ROMに記憶された制御プログラムに従って、各種の制御処理を実行する。
【0025】
この制御処理には、エンジン3のアイドル運転を自動的に停止(アイドルストップ)するためのアイドルストップ制御処理が含まれている。このアイドルストップ制御処理では、所定のアイドルストップ条件が成立しているときに、前記燃料噴射弁の噴射動作が停止されることによって、エンジン3が自動停止される。このアイドルストップ条件には、検出された車速VPが値0よりも高い所定車速(例えば5km/h)よりも低いことや、アクセル開度APが値0であること、ブレーキスイッチ17からON信号が入力されていることなどの所定の条件が含まれ、これらのすべての条件が成立しているときに、エンジン3が自動停止される。また、この自動停止中、ブレーキスイッチ17の出力信号がOFF信号に切り替わったことなどによってアイドルストップ条件が成立しなくなったときに、ECU2によりスタータや、燃料噴射弁、点火プラグ4の動作が制御されることによって、エンジン3が再始動される。
【0026】
次に、
図2を参照しながら、ECU2によって実行されるエンジン3の始動中に点火時期を制御するための処理について説明する。エンジン3では、その始動の開始から1回目及び2回目の燃焼のための点火時期IGLOGを、後述する基準点火時期IGMBTに設定した場合に、エンジン水温TWの条件によっては、1回目の燃焼に起因するエンジン回転数NEのピークが後述する所定の共振回転数域ZNR(
図4〜
図6参照)に入ることで、エンジン3の振動に応じた車両Vの共振が大きくなったり、また、エンジン3の完爆直後にNEが所定のアイドル回転数NEIDL(
図4〜
図6参照。例えば1000rpm)を超えて大きく吹き上がったりすることが、実験により明らかになった。本処理では、このような不具合を抑制するために、エンジン3の始動中における点火時期が、後述するようにして制御される。また、本処理は、前記TDC信号の発生に同期して繰り返し実行される。
【0027】
まず、
図2のステップ1(「S1」と図示。以下同じ)では、始動制御中フラグF_STARTが「1」であるか否かを判別する。この始動制御中フラグF_STARTは、後述するステップ3以降のエンジン3を始動するための点火時期制御(以下「始動用の点火時期制御」という)の実行中であるときに、「1」に設定されるものである。この場合のエンジン3の始動には、運転者によるパワースイッチのオン操作に伴う始動と、上述したエンジン3の自動停止からの再始動が含まれ、始動制御中フラグF_STARTは、イグニッションスイッチ16の出力信号がON信号に切り替わったときや、エンジン3の自動停止中にアイドルストップ条件が成立しなくなったとき、すなわち、エンジン3の始動を開始する時に、始動用の点火時期制御を実行するために「1」に設定される。
【0028】
上記ステップ1の答えがYES(F_START=1)のとき、すなわち、始動用の点火時期制御の実行中であるときには、初回制御完了フラグF_1stDONEが「1」であるか否かを判別する(ステップ3)。この初回制御完了フラグF_1stDONEは、エンジン3の始動の開始後、本処理による1回目の燃焼のための点火時期の制御が完了したことを「1」で表すものであり、イグニッションスイッチ16の出力信号がON信号に切り替わったときや、エンジン3の自動停止中にアイドルストップ条件が成立しなくなったとき、すなわち、エンジン3の始動の開始時に「0」にリセットされる。
【0029】
上記ステップ3の答えがNO(F_1stDONE=0)のとき、すなわち、エンジン3の始動開始後、本処理による1回目の始動用の点火時期制御がまだ完了していないときには、初回制御完了フラグF_1stDONEを「1」に設定し(ステップ4)、検出されたエンジン水温TWが第1所定温度TW1(例えば40℃)以上であるか否かを判別する(ステップ5)。
【0030】
このステップ5の答えがYES(TW≧TW1)のときには、エンジン水温TWに基づき、
図3に示す所定のマップを検索することによって、第1点火時期IGLO1を算出する(ステップ6)。このマップでは、第1点火時期IGLO1は、同じ高さのエンジン水温TWに対して、後述する基準点火時期IGMBTよりも遅角側の値に設定されている。具体的には、
図3に示すように、第1点火時期IGLO1は、エンジン水温TWが上記の第1所定温度TW1のときに、所定値IGREFに設定され、TW1よりも高く、かつ、第2所定温度TW2(例えば70℃)よりも低い範囲(TW1<TW<TW2)では、エンジン水温TWが高いほど、徐々により大きくなるように、すなわち徐々に遅角側の値になるように設定されており、第2所定温度TW2以上の範囲(TW≧TW2)では、所定の一定値IGCERに設定されている。その理由については後述する。
【0031】
上記ステップ6に続くステップ7では、算出された第1点火時期IGLO1に点火時期IGLOGを設定し、後述するステップ9に進む。
【0032】
一方、前記ステップ5の答えがNOで、エンジン水温TWが第1所定温度TW1よりも低いときには、エンジン水温TWに基づき、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、エンジン3の始動用の基準点火時期IGMBTを算出する(ステップ8A)。この基準点火時期IGMBTは、エンジン3の最大の出力トルクが得られる最適な点火時期であり、上記のマップは、基準点火時期IGMBTを実験などにより予め求め、エンジン水温TWに基づいてマップ化したものである。次いで、点火時期IGLOGを算出された基準点火時期IGMBTに設定し(ステップ8B)、後述するステップ9に進む。
【0033】
以上のように、エンジン3の始動の開始直後で、本処理の1回目の実行時、点火時期IGLOGは、エンジン水温TWが第1所定温度TW1以上のときには、第1点火時期IGLO1に設定され、TW<TW1のときには、基準点火時期IGMBTに設定される。また、ステップ7、ステップ8B、又は、後述するステップ8Eにより点火時期IGLOGが設定されると、このIGLOGに基づく駆動信号が点火プラグ4に入力され、それにより、点火プラグ4の点火時期が、IGLOGになるように制御される。
【0034】
一方、前記ステップ4の実行により初回制御完了フラグF_1stDONEが「1」に設定された後には、それにより前記ステップ3の答えがYESになり、その場合には、エンジン水温TWが前記第2所定温度TW2以上であるか否かを判別する(ステップ8C)。この答えがNO(TW<TW2)のときには、前記ステップ8A以降を実行する一方、YESで、TW≧TW2のときには、エンジン水温TWに基づき、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、第2点火時期IGLO2を算出する(ステップ8D)。このマップでは、第2点火時期IGLO2は、エンジン水温TWが高いほど、より遅角側の値になるように設定されており、同じ高さのTWに対して、前記第1点火時期IGLO1よりも進角側で、かつ、基準点火時期IGMBTよりも遅角側の値に設定されている。
【0035】
次いで、算出された第2点火時期IGLO2に点火時期IGLOGを設定し(ステップ8E)、ステップ9に進む。
【0036】
以上により、本処理の2回目以後の実行時には、点火時期IGLOGは、TW<TW2のときには基準点火時期IGMBTに設定され(ステップ8A、8B)、TW≧TW2のときには第2点火時期IGLO2に設定される(ステップ8D、8E)。これにより、エンジン3の始動中、2回目以降の燃焼のための点火時期IGLOGは、TW≧TW1のときに第1点火時期IGLO1に設定される1回目の燃焼のためのIGLOGよりも進角側に設定される。
【0037】
また、ステップ7、8B又は8Eに続くステップ9では、始動用の点火時期制御の所定の終了条件が成立したか否かを判別する。この終了条件は、エンジン回転数NEが前記アイドル回転数NEIDLよりも低い所定回転数(例えば500rpm)に達したときに、エンジン3が完爆したとして、成立したと判別される。ステップ9の答えがNOで、終了条件が成立していないときには、そのまま今回の本処理を終了する。
【0038】
一方、上記ステップ9の答えがYESで、終了条件が成立したときには、始動用の点火時期制御を終了するために、始動制御中フラグF_STARTを「0」にリセットする(ステップ10)とともに、初回制御完了フラグF_1stDONEを「0」にリセットし(ステップ11)、今回の本処理を終了する。このステップ10の実行により始動制御中フラグF_STARTが「0」にリセットされた後には、前記ステップ1の答えがNOになり、その場合には、前記ステップ3以降をスキップし、本処理を終了する。
【0039】
また、
図4(a)及び(b)は、エンジン3の始動中、
図2に示す処理により点火時期IGLOGを設定した場合におけるエンジン回転数NE及び車両Vの前後加速度VGの推移の一例をそれぞれ示しており、より具体的には、エンジン水温TWが第1所定温度TW1以上の場合におけるNE及びVGの推移を、それぞれ示している。
図4(a)及び(b)の横軸はいずれも時間を示している。また、上記の車両Vの前後加速度VGは、エンジン3の振動に応じた車両Vの共振による前後方向の加速度(振動加速度)であり、
図4(b)では、前方への加速度を(+)で、後方への加速度を(−)でそれぞれ表している。さらに、
図4(a)において、NR1及びNR2はそれぞれ、前記共振回転数域ZNRを規定する所定の第1及び第2共振回転数であり(NR2>NR1)、この共振回転数域ZNRは、エンジン3の振動に応じた車両Vの共振が誘発されるエンジン回転数NEの領域である。
【0040】
図2を参照して説明したように、エンジン3の始動開始から1回目の燃焼のための点火時期IGLOGを設定する場合(ステップ3:NO)において、エンジン水温TWが第1所定温度TW1以上のとき(ステップ5:YES)には、点火時期IGLOGは、第1点火時期IGLO1に設定され(ステップ7)、それにより、基準点火時期IGMBTよりも遅角側に設定される。これにより、エンジン3の始動中、この1回目の燃焼が緩慢になることにより、エンジン回転数NEの上昇が抑えられることによって、
図4(a)に示すように、1回目の燃焼に起因するNEのピークは、共振回転数域ZNRを下回る(時点t1)。
【0041】
また、エンジン3の始動開始から2回目以後の燃焼のための点火時期IGLOGが、TW<TW2のときには基準点火時期IGMBTに設定され(ステップ3:YES、ステップ8C:NO、ステップ8A、8B)、TW≧TW2のときには第2点火時期IGLO2に設定され(ステップ3:YES、ステップ8C:YES、ステップ8D、8E)、それにより、いずれの場合にも、上記の1回目の燃焼用の点火時期IGLOGよりも進角側に設定される。このように設定された点火時期IGLOGを用いた2回目の燃焼によって、エンジン回転数NEは、さらに上昇し、共振回転数域ZNRを迅速に通過し、超えるとともに、そのピークが落ち込んだとき(時点t2)に、ZNRを超えた状態になる。そして、3回目以後の燃焼が行われるのに伴い、エンジン回転数NEが前記所定回転数に達するのに伴い、終了条件が成立したとして(ステップ9:YES)、始動用の点火時期制御が終了される(ステップ10、ステップ1:NO)。
【0042】
ここで、前記
図3に示すマップにおける第1点火時期IGLO1の設定について説明する。第1点火時期IGLO1は、エンジン3の始動中、
図4を参照して説明したようにエンジン回転数NEが推移するように、実験などにより、予め設定されている。この場合、
図2及び
図3を参照して説明したように、第1点火時期IGLO1は、エンジン水温TWに応じて設定され、エンジン水温TWが、第1所定温度TW1以上で、かつ第2所定温度TW2よりも低いときには、TWが高いほど、より遅角側の値になるように、設定される。これにより、1回目の燃焼用の点火時期IGLOGが、TWが高いほど、より遅角側に設定される。これは、エンジン水温TWが高いほど、エンジン3のフリクションがより小さくなることによって、エンジン回転数NEがアイドル回転数NEIDLを超えて大きく吹き上がりやすくなるため、これを適切に抑制すべく、1回目の燃焼をより緩慢にするためである。
【0043】
さらに、TW1<TW<TW2のときに、エンジン水温TWが高いほど、第1点火時期IGLO1がより徐々に遅角側の値になるように設定されているのは、エンジン3の停止/始動が繰り返された場合において、TWが若干、変化したようなときに、それに応じて1回目の燃焼用の点火時期IGLOGを大きく変化させないようにするためである。また、エンジン水温TWが第2所定温度TW2以上のときには、第1点火時期IGLO1は、より遅角側の一定値IGCERに設定される。これは、この場合には、エンジン水温TWが比較的高いことにより、エンジン回転数NEがより吹き上がりやすい状態にあるため、これを確実に抑制するためである。
【0044】
さらに、エンジン水温TWが第1所定温度TW1よりも低いとき(ステップ5:NO)には、1回目の燃焼用の点火時期IGLOGは、基準点火時期IGMBTに設定される(ステップ8A、8B)。これは、この場合には、1回目の燃焼用のIGLOGをIGMBTに設定しても、エンジン3のフリクションが比較的大きいことによって、エンジン回転数NEが共振回転数域ZNRを下回るためである。
【0045】
上述したTWがTW1よりも低い場合におけるIGMBTへの1回目の燃焼用のIGLOGの設定の理由は、2回目以後の燃焼用のIGLOGを、TWがTW2よりも低いときにIGMBTに設定することについても、同様に当てはまる。また、2回目以後の燃焼用の点火時期IGLOGを、TW≧TW2のときに、IGMBTよりも遅角側の第2点火時期IGLO2に設定するのは、この場合には、エンジン水温TWが比較的高いことにより、エンジン回転数NEがより吹き上がりやすい状態にあるため、これを確実に抑制するためである。
【0046】
これまでに説明した点火時期IGLOGの設定によって、本実施形態によれば、
図4(b)に示すように、エンジン3の始動中、車両Vの共振の度合いを表す前後加速度VGの振幅の最大値AMAXは、比較的小さくなっており、その結果、VGは比較的短い時間でほぼ値0に収束する。また、
図4(a)に示すように、エンジン3の始動中、エンジン回転数NEが最も高いときのNEとアイドル回転数NEIDLとの差DNEは、比較的小さくなっている。
【0047】
一方、
図5(a)及び(b)は、第1比較例によるエンジン回転数NE’及び車両Vの前後加速度VG’の推移をそれぞれ示しており、この第1比較例は、本実施形態と比較して、エンジン3の始動中に、エンジン3の始動開始から1回目及び2回目の燃焼用の点火時期をいずれも、より遅角側の第1点火時期IGLO1に設定した点が異なっている。
【0048】
第1比較例では、エンジン3の始動中、上記のように点火時期が設定されることによって、
図5(a)に示すように、1回目の燃焼に起因するエンジン回転数NE’のピークは、共振回転数域ZNRを下回る(時点t3)ものの、2回目の燃焼に起因するエンジン回転数NE’のピークが落ち込んだとき(時点t4)に、NE’が共振回転数域ZNRに入るため、その分、NE’がZNRにある時間が、本実施形態の場合よりも長くなる。その結果、
図5(b)に示すように、エンジン3の始動中、車両Vの前後加速度VG’の振幅の最大値AMAX’は、本実施形態の場合のそれAMAXよりも大きくなっており、その結果、VG’がほぼ値0に収束するのに、比較的長い時間がかかる。
【0049】
また、
図6(a)及び(b)は、第2比較例によるエンジン回転数NE’’及び車両Vの前後加速度VG’’の推移をそれぞれ示しており、この第2比較例は、本実施形態と比較して、エンジン3の始動中に、エンジン3の始動開始から1回目及び2回目の燃焼用の点火時期をいずれも、基準点火時期IGMBTに設定した点が異なっている。
【0050】
第2比較例では、エンジン3の始動中、上記のように点火時期が設定されることによって、
図6(a)に示すように、2回目の燃焼に伴ってエンジン回転数NE’’が共振回転数域ZNRを迅速に通過するものの、1回目の燃焼に起因するエンジン回転数NE’’のピークがZNRに入る(時点t5)ため、その分、NE’’がZNRにある時間が、本実施形態の場合よりも長くなる。その結果、
図6(b)に示すように、エンジン3の始動中、車両Vの前後加速度VG’’の振幅の最大値AMAX’’は、本実施形態の場合のそれAMAXよりも大きくなっており、その結果、VG’’がほぼ値0に収束するのに、比較的長い時間がかかる。さらに、点火時期を、1回目の燃焼用のものから連続的に基準点火時期IGMBTに設定するため、エンジン回転数NE’’は、アイドル回転数NEIDLを超えて過度に大きく吹き上がり、エンジン回転数NE’’が最も高いときのNE’’とNEIDLとの差DNE’’は、本実施形態の場合のそれDNEよりも大きくなる。
【0051】
以上のように、本実施形態によれば、エンジン3の始動中、基準点火時期IGMBTに点火時期IGLOGを設定したと仮定した場合におけるエンジン3の複数回の燃焼のうち、エンジン回転数NEのピークが共振回転数域ZNRに入るような1回目の燃焼のためのIGLOG(以下「先行点火時期」という)が、IGMBTよりも遅角側に設定され(
図2のステップ7)、2回目の燃焼のためのIGLOG(以下「後続点火時期」という)が、NEのピークがZNRを超えるように、設定された先行点火時期よりも進角側に設定される(ステップ8B又は8E)。
【0052】
より具体的には、
図4を参照して説明したように、エンジン回転数NEのピークが共振回転数域ZNRを下回るように、先行点火時期が設定され、また、NEのピークがZNRを超えるとともに、NEがピークから落ち込んだときにZNRを超えるように、後続点火時期が設定される。以上により、1回目の燃焼に起因するエンジン回転数NEのピークを共振回転数域ZNRよりも低く抑え、2回目の燃焼により、NEがZNRを迅速に通過し、その後にZNRに落ち込むのが回避されることによって、NEがZNRにある時間を適切に短縮でき、ひいては、エンジン3の振動に応じた車両Vの共振を適切に抑制することができる。特に、エンジン3の始動開始から1回目の燃焼によるエンジン3の振動は比較的大きい傾向にあるため、上記の車両Vの共振を適切に抑制できるという効果を、より有効に得ることができる。
【0053】
また、エンジン3の始動中、上記の遅角側への先行点火時期の設定によって、1回目の燃焼を緩慢にした後に、進角側への後続点火時期の設定を行うので、エンジン3の完爆直後にエンジン回転数NEが吹き上がるのを抑制することができる。
【0054】
さらに、基準点火時期IGMBTが、エンジン3の最大の出力トルクが得られる最適点火時期に設定されており、検出されたエンジン水温TWが高いほど、IGMBTに対して先行点火時期がより遅角側に設定される(ステップ6、7、
図3)。これにより、エンジン3の始動中、エンジン水温TWが高くなることでエンジン3のフリクションが低くなるほど、1回目の燃焼をより緩慢にすることができるので、TWに応じて、エンジン3の完爆直後におけるエンジン回転数NEの吹き上がりを適切に抑制することができる。また、エンジン3の始動中、エンジン水温TWが低いほど、先行点火時期の遅角度合いを小さくし、上記のように設定された基準点火時期IGMBTに先行点火時期を近づけることができるので、遅角側への先行点火時期の設定による1回目の燃焼の悪化を抑制することができる。
【0055】
さらに、この場合、エンジン水温TWが高いほど、先行点火時期が徐々により遅角側に設定される。これにより、先行点火時期を、エンジン水温TWに応じてきめ細かく遅角側に設定できるので、エンジン3の停止/始動が繰り返された場合において、TWが若干、変化したようなときに、それに応じて先行点火時期を大きく変化させずに済み、ひいては、エンジン3の始動時のフィーリングを向上させることができる。点火時期制御装置1が適用されたエンジン3では、自動停止/再始動が実行されるため、その停止/始動が比較的、多く繰り返される傾向にあるので、特に有用である。それに加え、上述した効果、すなわち、エンジン3の完爆直後におけるエンジン回転数NEの吹き上がりの適切な抑制と、1回目の燃焼の悪化の抑制とを、適切に両立させることができる。
【0056】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、エンジン3の始動中、基準点火時期IGMBTに点火時期IGLOGを設定したと仮定した場合におけるエンジン3の複数回の燃焼のうち、エンジン回転数NEのピークが共振回転数域ZNRに入るような先行側の燃焼が、エンジン3の始動開始から1回目の燃焼となるエンジン3に、本発明を適用しているが、この先行側の燃焼が内燃機関の始動開始から2回目や3回目など、他の適当な回数の燃焼となる内燃機関に、本発明を適用してもよい。
【0057】
また、実施形態では、エンジン3の温度を表す温度パラメータとして、エンジン水温TWを用いているが、他の適当なパラメータ、例えば、内燃機関の潤滑油の温度などを用いてもよい。さらに、実施形態では、本発明における先行点火時期を、エンジン水温TWに基づいて算出した第1点火時期IGLO1に設定しているが、ステップ8Aと同様に基準点火時期IGMBTを一旦、算出するとともに、算出されたIGMBTを、TWに基づいて算出した遅角補正項CORETで遅角側に補正することによって、算出(設定)してもよい。このことは、第2点火時期IGLO2への後続点火時期の設定についても同様に当てはまる。また、点火時期IGLOGの設定に、エンジン水温TWに加えて、他の適当なパラメータを用いてもよいことは、もちろんである。
【0058】
また、実施形態では、エンジン水温TWが第1所定温度TW1よりも低いときに、先行点火時期すなわち1回目の燃焼用の点火時期IGLOGを、基準点火時期IGMBTに設定しているが、他のエンジンについて、その冷却水の温度が第1所定温度TW1よりも低く、かつ1回目の燃焼用の点火時期を基準点火時期に設定したときに、1回目の燃焼による回転数のピークが共振回転数域に入るような場合には、冷却水の温度が第1所定温度TW1よりも低いときにも、1回目の燃焼用の点火時期を第1点火時期IGLO1に設定してもよい。すなわち、前記ステップ5のエンジン水温TWの判別は、エンジンに応じて省略可能である。
【0059】
このことは、2回目の燃焼用の点火時期IGLOGすなわち後続点火時期の設定についても、同様に当てはまる。すなわち、実施形態では、エンジン水温TWが第2所定温度TW2よりも低いときに、後続点火時期を基準点火時期IGMBTに設定しているが、他のエンジンについて、その冷却水の温度が第2所定温度TW2よりも低く、かつ後続点火時期を基準点火時期に設定したときに、エンジンの完爆直後にエンジン回転数が大きく吹き上がるような場合には、冷却水の温度が第2所定温度TW2よりも低いときにも、後続点火時期を第2点火時期IGLO2に設定してもよい。
【0060】
これとは逆に、他のエンジンの冷却水温が第2所定温度TW2以上の場合において、後続点火時期を基準点火時期IGMBTに設定したときに、エンジンの完爆直後にエンジン回転数が吹き上がらないような場合には、冷却水の温度が第2所定温度TW2以上のときにも、2回目以降の燃焼用の点火時期IGLOGを、基準時期IGMBTに設定してもよい。すなわち、前記ステップ8Cのエンジン水温TWの判別は、エンジンに応じて省略可能である。あるいは、上記のいずれの場合にも、前述した本発明の目的を達成できるのであれば、後続点火時期を他の適当なタイミングに設定してもよいことは、もちろんである。
【0061】
さらに、実施形態では、点火時期IGLOGの設定を、マップ検索によって行っているが、他の適当な手法、例えばモデル式を用いた算出によって行ってもよい。また、実施形態では、本発明による点火時期制御装置1を、車両Vの動力源であるエンジン3に適用しているが、動力源ではない内燃機関に適用してもよい。さらに、実施形態では、エンジン3は、ガソリンエンジンであるが、ディーゼルエンジンでもよい。また、実施形態では、本発明における乗り物は、車両Vであるが、船舶などでもよい。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。