(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6621909
(24)【登録日】2019年11月29日
(45)【発行日】2019年12月18日
(54)【発明の名称】ジルコニウム合金燃料を直接得るための使用済み核燃料の乾式再処理方法
(51)【国際特許分類】
G21C 19/44 20060101AFI20191209BHJP
G21C 3/60 20060101ALI20191209BHJP
【FI】
G21C19/44 250
G21C3/60
【請求項の数】5
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2018-503526(P2018-503526)
(86)(22)【出願日】2015年7月31日
(65)【公表番号】特表2018-525624(P2018-525624A)
(43)【公表日】2018年9月6日
(86)【国際出願番号】CN2015085720
(87)【国際公開番号】WO2017015975
(87)【国際公開日】20170202
【審査請求日】2018年3月14日
(31)【優先権主張番号】201510441665.0
(32)【優先日】2015年7月24日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】517344295
【氏名又は名称】中国原子能科学研究院
【氏名又は名称原語表記】CHINA INSTITUTE OF ATOMIC ENERGY
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100175617
【弁理士】
【氏名又は名称】三崎 正輝
(72)【発明者】
【氏名】叶国安
(72)【発明者】
【氏名】欧▲陽▼▲応▼根
(72)【発明者】
【氏名】王▲長▼水
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼利生
(72)【発明者】
【氏名】郭建▲華▼
(72)【発明者】
【氏名】李瑞雪
(72)【発明者】
【氏名】常利
(72)【発明者】
【氏名】常尚文
(72)【発明者】
【氏名】▲楊▼▲賀▼
(72)【発明者】
【氏名】高巍
(72)【発明者】
【氏名】李▲輝▼波
(72)【発明者】
【氏名】肖松涛
【審査官】
大門 清
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−122487(JP,A)
【文献】
特開平08−233987(JP,A)
【文献】
特開2002−131472(JP,A)
【文献】
特開平06−324189(JP,A)
【文献】
特開平04−369498(JP,A)
【文献】
特開2004−109008(JP,A)
【文献】
米国特許第06461576(US,B1)
【文献】
特開2003−344578(JP,A)
【文献】
特開2007−063591(JP,A)
【文献】
竹中 俊英他,金属核燃料の乾式再処理,東北大學選鑛製錬研究所彙報,日本,東北大学,1987年 9月30日,43,p.91−106,URL,https://tohoku.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=117197&item_no=1&page_id=33&block_id=38
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G21C 19/44
G21C 3/60
G21F 9/30
JDreamIII
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウム合金核燃料を直接得るための使用済み核燃料の乾式再処理方法であって、
反応炉のジルコニウム合金燃料に対する設計要求と、使用済み核燃料中のアクチノイド系金属の含量とに基づいて、使用済み核燃料の溶解に用いる溶融塩組成物の組成と比率を確定するステップと、
使用済み核燃料を前記溶融塩組成物中に溶解するステップと、
電極対を選択して用いて電析を行い、溶融塩組成物中のジルコニウムと、使用済み核燃料中のウランイオン又はウラン及びその他のアクチノイド系金属イオンと、を共に析出し、設計要求に合致したジルコニウム合金核燃料を得るステップと、
を含み、
前記溶融塩組成物は、少なくともフッ化ジルコニウムと、フッ化カリウムと、フッ化リチウムと、を含み、そのうち、フッ化ジルコニウムと、フッ化カリウムと、フッ化リチウムとの物質量の比は、1:(10−20):(25−80)であることを特徴とする、
使用済み核燃料の乾式再処理方法。
【請求項2】
溶融塩組成物の組成と比率を確定する具体的な方法は、まずジルコニウム合金核燃料の設計要求に基づいて、溶融塩組成物中のフッ化ジルコニウムの用量を確定した後に、ネルンストの式と溶融塩組成物の目標融点温度とに基づいて、フッ化カリウムとフッ化リチウムとの用量を確定する方法であることを特徴とする、
請求項1に記載の使用済み核燃料の乾式再処理方法。
【請求項3】
使用済み核燃料と溶融塩組成物との混合物を、600−1050℃の温度の下で溶解することを特徴とする、
請求項1又は2に記載の使用済み核燃料の乾式再処理方法。
【請求項4】
ジルコニウム合金燃料の設計要求に基づき、溶解する使用済み核燃料中のある金属イオンが過剰である場合、増設した電極対によって予備電析を行い、使用済み核燃料中の過剰金属イオンを分離させることを特徴とする、
請求項1に記載の使用済み核燃料の乾式再処理方法。
【請求項5】
使用済み核燃料が金属の使用済み核燃料である場合、予備電析により過剰金属イオンを分離するプロセスで使用する電極対の陽極は、金属の使用済み核燃料であることを特徴とする、
請求項4に記載の使用済み核燃料の乾式再処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核燃料の再処理技術分野に属し、具体的には、ジルコニウム合金燃料を直接得るための使用済み核燃料の乾式再処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高速炉に用いる燃料には、主に酸化物セラミック燃料と、金属燃料と、の2種類がある。燃料を増殖することを目的として高速炉で使用される金属燃料の増殖比は、酸化物セラミック燃料よりも20%以上高い。そのうち、ジルコニウム合金燃料は、その非常に優れた核性能と物理性能により、高速炉の好ましい合金燃料の類型となっている。
【0003】
溶融塩電解は、最も盛んに研究されている使用済み核燃料の乾式再処理技術である。使用済み核燃料の乾式再処理は、使用済み核燃料が金属酸化物の使用済み核燃料であるか、金属の使用済み核燃料であるかによって、異なる溶融塩電解工程を用いる。現在、国際的には、使用済み核燃料の乾式再処理として、主に塩化物溶融塩電解精錬技術が用いられている。金属酸化物の使用済み核燃料に対して、まず、金属リチウム(または電解により生じた金属リチウム)を用いて、金属酸化物を金属に還元する。その後、得られた金属を塩化物融解塩中で、電位溶解を制御し、電位析出を制御して、それぞれウラン・プルトニウム合金燃料を得る。
【0004】
ある特許には、アルミニウム合金燃料を調製する乾式再処理溶融塩の体系が開示されている。アルミニウム合金は、融点が比較的低いため、高速中性子炉のニーズを完全には満たすことができない。しかし、ジルコニウム合金燃料の融点は高いので、高速炉の安定的な運転に有利である。現在、国際的に、ジルコニウム合金燃料を調製する方法は、先にウラン、プルトニウム、ジルコニウム金属を得た後、3種の金属を比率に従って混合し、溶錬、調製する方法である。しかし、純金属を用いて合金燃料を溶融、調製するプロセスはコストが高い。なぜなら、まず冶金のプロセスにより純金属材料を得る必要があり、その後純金属を比率に従って混合し溶融するため、工程のプロセスが複雑で、廃棄物も多い上、エネルギー消費が大きく、またコストも高い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
既存技術における欠点に対し、本発明の目的は、ジルコニウム合金燃料を直接得るための使用済み核燃料の乾式再処理方法を提供することにある。この方法は、工程が簡単で、制御可能であり、エネルギー消費も小さい上、コストも低く、工業化が容易である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の目的を達成するために本発明が採用した技術的手段は、以下のとおりである。ジルコニウム合金核燃料を直接得るための使用済み核燃料の乾式再処理方法は、
反応炉のジルコニウム合金燃料に対する設計要求と、使用済み核燃料中のアクチノイド系金属の含量とに基づいて、使用済み核燃料の溶解に用いる溶融塩組成物の組成と比率を確定するステップと、
使用済み核燃料を上述の溶融塩組成物中に溶解するステップと、
電極対を選択して用いて電析を行い、溶融塩組成物中のジルコニウムと、使用済み核燃料中のウランイオン又はウラン及びその他のアクチノイド系金属イオンと、を共に析出し、設計要求に合致したジルコニウム合金核燃料を得るステップと、
を含む。
【0007】
さらに、溶融塩組成物は少なくともフッ化ジルコニウムと、フッ化カリウムと、フッ化リチウムと、を含み、そのうち、フッ化ジルコニウムと、フッ化カリウムと、フッ化リチウムとの物質量の比は、1:(10-20):(25-80)である。
【0008】
さらに、溶融塩組成物の組成と比率を確定する具体的な方法は、まずジルコニウム合金核燃料の設計要求に基づいて、溶融塩組成物中のフッ化ジルコニウムの用量を確定した後に、ネルンストの式と溶融塩組成物の目標融点温度とに基づいて、フッ化カリウムとフッ化リチウムとの用量を確定する方法である。
【0009】
さらに、使用済み核燃料と溶融塩組成物との混合物を、600−1050℃の下で溶解する。好ましい溶解温度は、上述の比率に従って組成した溶融塩の最低共融点温度+50℃である。
【0010】
さらに、ジルコニウム合金燃料の設計要求に基づき、溶解する使用済み核燃料中のある金属イオンが過剰である場合、増設した電極対によって予備電析を行い、使用済み核燃料中の過剰金属イオンを分離させる。
【0011】
さらに、使用済み核燃料が金属酸化物の使用済み核燃料である場合、予備電析により過剰金属イオンを分離するプロセス及び電析によりジルコニウム合金材料を形成するプロセスで使用する電極対の陽極は、不活性材料である。
【0012】
または、使用済み核燃料が金属の使用済み核燃料である場合、予備電析により過剰金属イオンを分離するプロセスで使用する電極対の陽極は、金属の使用済み核燃料である。
【発明の効果】
【0013】
本発明が提供する方法は、その工程が簡単であり、制御可能で、純金属を調製するプロセスがなく、使用済み核燃料を直接、溶融塩組成物中に入れ、溶融塩組成物の比率を調整することで、電析により直接必要なジルコニウム合金燃料を得ることができる。また、この方法は、金属酸化物の形態の使用済み核燃料と、金属の形態の使用済み核燃料とに適用でき、且つ、エネルギー消費も小さい上、コストも低く、工業化が容易である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、具体的な実施形態と合わせて、本発明についてさらに説明する。
実施例において、wt%は質量比を表す。
【実施例1】
【0015】
本実施例では、二酸化ウランセラミック燃料の使用済み核燃料を使用する。
目標合金燃料:ジルコニウム−ウラン合金燃料、組成:ウラン95wt%、ジルコニウム5wt%。
【0016】
ジルコニウム−ウラン合金燃料の調製方法:
上述のジルコニウム−ウラン合金燃料の組成と、使用済み核燃料の組成と、電析原理(ネルンストの式)とに基づいて、溶融塩組成物を、5wt%フッ化ジルコニウム、35wt%フッ化カリウム、60wt%フッ化リチウムに確定する。
【0017】
11gの焼結した二酸化ウランペレットを、直接、フッ化ジルコニウム5wt%とフッ化カリウム35wt%とフッ化リチウム60wt%とを含んだ1500gの溶融塩に入れ、750℃の温度の下、二酸化ウランペレットを溶融塩組成物中に溶解する。
【0018】
グラファイトを陽極とし、ウラン棒を陰極として構成された電極対を使用し、予備電析を行い、陰極電位を−1.2〜−1.4V(Ag/AgCl参照電極に対して)に制御し、過剰なウラン1.2gを陰極に析出させる。
【0019】
次に、グラファイトを陽極とし、直径1mmの金属ウランワイヤを陰極として構成された電極対を使用し、電析を行う。陰極の析出電位が−1.6〜−2.0V(析出する合金のウラン・ジルコニウムの比率と、希土類に対する除染係数の要求に基づいて調整する)に制御され、ジルコニウムが先に陰極に析出する。その後、ウランもアンダーポテンシャル析出の原理によって陰極に析出し、ジルコニウムとの合金を形成する。最後に、陰極において目的の比率であるウラン95wt%−ジルコニウム5wt%の合金が得られる。
【実施例2】
【0020】
本実施例では、ウラン・プルトニウム合金の使用済み核燃料を使用する。
目標合金燃料:ジルコニウム−ウラン−プルトニウム合金燃料、組成:ウラン76wt%、ジルコニウム5wt%、プルトニウム19wt%。
【0021】
ジルコニウム-ウラン-プルトニウム合金燃料の調製方法:
上述のジルコニウム-ウラン-プルトニウム合金燃料の組成と、使用済み核燃料の組成と、電析原理(ネルンストの式)とに基づき、溶融塩組成物を10wt%フッ化ジルコニウム、50wt%フッ化カリウム、40wt%フッ化リチウムに確定する。
【0022】
50gのウラン・プルトニウム合金の使用済み核燃料を陽極とし、フッ化ジルコニウム10wt%、フッ化カリウム50wt%、フッ化リチウム40wt%を含んだ3000gの溶融塩の中に入れ、850℃の温度の下、電位溶解の制御と電位析出の制御を行う。
【0023】
制御される溶解電位は1.2-1.6V(Ag/AgClの参照電極に対して)であり、ウラン・プルトニウム合金の使用済み核燃料を上述の溶融塩組成物中に溶解する。
2つの陰極を使用して電析を行う。陰極の材料は両方とも直径1mmの金属ウランワイヤを使用する。このうち、一方の陰極は、電位が−1.2〜−1.5V(Ag/AgCl参照電極に対して)に制御され、過剰なウラン21gが陰極に析出する。他方の陰極は、析出電位が−1.8〜−2.3V(目標析出合金のウラン−プルトニウム−ジルコニウムの比率と希土類に対する除染係数の要求に基づいて調整する)に制御され、ジルコニウムが先に陰極に析出する。その後、ウラン、更にプルトニウムもアンダーポテンシャル析出の原理によって陰極に析出し、ジルコニウムとの合金を形成する。最後に、陰極において、目的の比率であるウラン76wt%−ジルコニウム5wt%−プルトニウム19wt%の合金が得られる。
【0024】
本発明を使用した方法では、溶融塩中のフッ化ジルコニウム濃度と、予備電析後に溶融塩中に残ったウランの濃度を調整し、(ウラン+プルトニウム)−ジルコニウムのモル比の値が100から50のウラン−ジルコニウム合金を得ることができる。
【0025】
上述の実施例は、本発明について例を挙げて説明したのみにすぎず、本発明の要旨または本質的特徴から逸脱しない限り、他の特定の方法または他の特定の態様により実施されてもよい。よって、記載された実施形態は、いかなる面から見ても全て説明的であり、非限定的であると解釈されるべきである。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲により説明されるべきであり、請求項の意図と範囲が同等な、いかなる変形も、本発明の範囲に含まれるべきである。