特許第6621983号(P6621983)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6621983断熱材用炭素繊維及びそれを用いた断熱材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6621983
(24)【登録日】2019年11月29日
(45)【発行日】2019年12月18日
(54)【発明の名称】断熱材用炭素繊維及びそれを用いた断熱材
(51)【国際特許分類】
   D01F 9/14 20060101AFI20191209BHJP
   F16L 59/02 20060101ALI20191209BHJP
【FI】
   D01F9/14 511
   F16L59/02
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-245947(P2014-245947)
(22)【出願日】2014年12月4日
(65)【公開番号】特開2016-108688(P2016-108688A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2017年6月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】濃野 ▲徳▼子
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 敏明
【審査官】 松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】 再公表特許第2003/078716(JP,A1)
【文献】 特開2000−328412(JP,A)
【文献】 特開2002−295787(JP,A)
【文献】 特開平03−141170(JP,A)
【文献】 特開2014−058765(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0265038(US,A1)
【文献】 米国特許第7018526(US,B1)
【文献】 米国特許第5721308(US,A)
【文献】 特開昭63−315614(JP,A)
【文献】 特開2002−121404(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/112516(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 9/14−9/32
F16L 59/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維軸方向の熱伝導率が1〜10W/m・Kであり、且つ、開気孔量が0.1cm/g以下、小角X線散乱法によるギニエプロットにより見積もられる閉気孔を球と仮定した場合における閉気孔の半径が7nm以上である、等方性ピッチのみを炭素前駆体として機械的に接合されていない、断熱材用炭素繊維。
【請求項2】
見かけ密度が2.0g/cm未満である、請求項1に記載の断熱材用炭素繊維。
【請求項3】
1300〜2400℃の熱処理物である、請求項1又は2に記載の断熱材用炭素繊維。
【請求項4】
繊維軸方向の熱伝導率が1〜10W/m・Kであり、且つ、開気孔量が0.1cm/g以下、小角X線散乱法によるギニエプロットにより見積もられる閉気孔を球と仮定した場合における閉気孔の半径が7nm以上である、等方性ピッチのみを炭素前駆体として機械的に接合されていない、断熱材用炭素繊維の製造方法であって、
等方性ピッチのみを炭素前駆体とした不融化繊維を700〜1000℃で熱処理する工程、及び
前記工程により炭素化処理が施された前駆体繊維を、1300〜2400℃で熱処理する工
備える、製造方法。
【請求項5】
機械的な接合を行わない、請求項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜のいずれかに記載の断熱材用炭素繊維、又は請求項又はに記載の製造方法により得られた断熱材用炭素繊維を用いた断熱材。
【請求項7】
前記断熱材用炭素繊維が耐熱性樹脂又は炭素結合物によって結合されている、請求項に記載の断熱材。
【請求項8】
前記断熱材用炭素繊維からなる不織布を用い、シート状、試験管形状、巾着形状、バット形状又はるつぼ形状に成形されている、請求項に記載の断熱材。
【請求項9】
前記断熱材用炭素繊維が耐熱性樹脂又は炭素結合物によって結合され、且つ、シート状、試験管形状、巾着形状、バット形状、るつぼ形状、又は容器形状に成形されている、請求項に記載の断熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱材用炭素繊維及びそれを用いた断熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
等方性ピッチを炭素前駆体として得られる炭素繊維は、フェルト断熱材又は成形断熱材として幅広く利用されている。成形断熱材は炭素化率の高い樹脂を含浸させ、目的に応じた形状に成形、硬化、炭化、黒鉛化処理等を施した材料である。また、等方性ピッチ系炭素繊維は、熱的安定性及び柔軟性にも優れ形状選択性が高い。現状は工業炉等に使用されており、その具体例としては、例えば、シリコン単結晶引き上げ装置の断熱材等が挙げられる。
【0003】
このように使用される断熱材は、通常、体積の9割前後が空間である。特に、高温領域(例えば、1300℃以上)における輻射熱を、この空間により遮って輻射損失を起こさせて断熱効果を発現させている。この場合、空間形成がより重要とされていることから、炭素繊維を用いて断熱材を成形する際の空間形成方法のみが研究されており、炭素繊維自体の熱伝導率及び断熱性能についてはほとんど議論されていない。
【0004】
しかしながら、断熱材を小さくして十分な断熱性能を得ようとする場合(小型断熱材とする場合)は、多くの空間を形成させる余地が少なくなり炭素繊維の体積割合が大きくなる。この場合には、炭素繊維自体の熱伝導率及び断熱性能が重要になる。
【0005】
一方、U字型の反応炉を商品名ファイバキャストで埋めて断熱すること等も知られている。ファイバキャストは、セラミックファイバ、無機バインダ等から構成されている。しかしながら、このようなセラミックファイバは、耐熱温度が1000〜1200℃であり、それより高温の装置には適用できない。このため、例えば、1300℃以下の低温領域では、セラミックファイバ等の炭素繊維以外の素材も使用可能であるが、炭素繊維が有する耐化学薬品性、溶融金属との低い濡れ性(低反応性)等が必要となる場合は炭素繊維系の断熱材が有用となる。そのような低温では、輻射熱の割合が少なくなるので、炭素繊維自体の熱伝導率が小さいことがより重要である。
【0006】
例えば、特許文献1には、ジャケットヒータ(マントルヒータ)の断熱材にエアロゲル繊維体を使用することができることが記載されている。繊維体として有機繊維、無機繊維等の他、カーボン繊維が挙げられている。このような形式のヒータの断熱材に断熱性に優れた炭素繊維を使用することにより、よりコンパクトにすることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2012/077648号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決しようとするものである。具体的には、小型の高温の加熱装置を断熱しようとする場合、断熱材も小さい、又は薄いものが必要とされる。その場合、熱伝導率の小さい炭素繊維は好適な材料であると考えられる。炭素繊維は、一般に直径が6〜20μmであり非常に細いので、小さな断熱材を構成するには好適である。本発明は、熱伝導率が低い炭素繊維を提供するとともに、そのような炭素繊維を用いた可とう性のある小型構造物(断熱材)を提供することも目的とする。
【0009】
また、繊維軸方向はもとより、径方向にも断熱が発現できる炭素繊維を提供することも目的とする。また、そのような炭素繊維を用いた可とう性の小型断熱材を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、繊維軸方向の熱伝導率及び開気孔量を特定の範囲とすることにより、上記課題を解決した炭素繊維が得られることを見出した。本発明は、当該知見に基づき、さらに研究を重ね完成したものである。即ち、本発明は、以下の構成を包含する。
項1.繊維軸方向の熱伝導率が1〜10W/m・Kであり、且つ、開気孔量が0.1cm/g以下である、断熱材用炭素繊維。
項2.見かけ密度が2.0g/cm未満である、項1に記載の断熱材用炭素繊維。
項3.小角X線散乱法によるギニエプロットにより見積もられる閉気孔を球と仮定した場合における閉気孔の半径が6nm以上である、項1又は2に記載の断熱材用炭素繊維。
項4.等方性ピッチを炭素前駆体とした700〜2400℃の熱処理物である、項1〜3のいずれかに記載の断熱材用炭素繊維。
項5.繊維軸方向の熱伝導率が1〜10W/m・Kであり、且つ、開気孔量が0.1cm/g以下である断熱材用炭素繊維の製造方法であって、
前記断熱材用炭素繊維の前駆体繊維を、700〜2400℃で熱処理する工程
を備える、製造方法。
項6.前記前駆体繊維が、等方性ピッチからなる前駆体繊維である、項5に記載の製造方法。
項7.項1〜4のいずれかに記載の断熱材用炭素繊維、又は請求項5又は6に記載の製造方法により得られた断熱材用炭素繊維を用いた断熱材。
項8.前記断熱材用炭素繊維が耐熱性樹脂又は炭素結合物によって結合されている、項7に記載の断熱材。
項9.前記断熱材用炭素繊維からなる不織布を用い、シート状、試験管形状、巾着形状、バット形状又はるつぼ形状に成形されている、項7に記載の断熱材。
項10.前記断熱材用炭素繊維が耐熱性樹脂又は炭素結合物によって結合され、且つ、シート状、試験管形状、巾着形状、バット形状、るつぼ形状、又は容器形状に成形されている、項7に記載の断熱材。
【発明の効果】
【0011】
本発明の断熱材用炭素繊維は、繊維軸方向はもとより、径方向にも断熱が発現することができる。このため、本発明の断熱材用炭素繊維を用いた断熱材は、炭素繊維による熱伝導が小さく、気体や輻射熱の通過による熱伝導を小さくすることができる。特に、多くの空間を形成させる余地が少ない、小さなまたは薄い断熱材にはより効果的である。
【0012】
本発明の断熱材用炭素繊維においては、閉気孔のサイズを比較的大きくすることが可能である。このため、本発明の断熱材用炭素繊維を用いた断熱材は、炭素繊維中の閉気孔がより輻射熱を遮る(輻射損失)ことが可能となり、炭素繊維の径方向の断熱性能が高く、繊維径方向により効果的に断熱性が発現したものとすることができる。この場合も、多くの空間を形成させる余地が少ない、小さなまたは薄い断熱材にはより効果的である。
【0013】
このような本発明の断熱材を所望の形状に成形した場合には、可とう性の断熱材とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例2及び6の炭素繊維の吸脱着等温線である。左図は実施例2、右図は実施例6の結果である。
図2】実施例2〜6の炭素繊維の小角X線散乱法によるギニエプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.断熱材用炭素繊維
本発明の断熱材用炭素繊維は、繊維軸方向の熱伝導率が1〜10W/m・Kであり、且つ、開気孔量が0.1cm/g以下である。このような特徴を有する本発明の断熱材用炭素繊維は、炭素繊維による熱伝導を小さくすることができる。また、このような特徴を有する本発明の断熱材用炭素繊維は、開気孔が少ないため、気体、輻射熱の通過による熱伝導を小さくすることもできる。
【0016】
本発明の断熱材用炭素繊維は、ピッチ系炭素繊維(石炭系ピッチ系炭素繊維及び石油系ピッチ系炭素繊維)、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、セルロース系炭素繊維等のいずれもが採用し得る。これらのなかでも、本発明では、ピッチの精製の際に組織を制御することにより、熱処理による黒鉛結晶の発達度合いを制御することが可能である観点から、ピッチ系炭素繊維が好ましく、熱処理による黒鉛結晶の発達度合いが少ない等方性ピッチ系炭素繊維がより好ましい。「ピッチ系炭素繊維」とは、ピッチを原料(炭素前駆体)として製造された炭素繊維を意味する。等方性ピッチ系炭素繊維とは、ピッチが等方性である場合の炭素繊維である。「等方性」とは、光学的に等方性であって、分子、分子の集団等が無秩序に配向していることを意味する。「炭素前駆体」とは、目的とする最終炭素製品の前の段階にある一連の炭素化中間体を意味する。本発明において、炭素前駆体は、等方性ピッチであり、前記最終炭素製品は等方性ピッチ系炭素繊維であることが好ましい。
【0017】
炭素前駆体である「ピッチ」とは、木材、石炭等の乾留の際に得られる液状タール、オイルサンド等から得られるビチューメン、オイルシェール等の乾留によって得られる油分、原油の蒸留による残渣油、石油留分のクラッキングによって生成するタール等を熱処理及び重合して得られる常温で固体状の材料である。具体的には、(a)石炭系ピッチ、(b)石油系ピッチ、(c)ナフタレン等の芳香族化合物を重合した合成ピッチ等が挙げられる。ピッチは、化学的には無数の縮合多環芳香族化合物の混合物である。石炭を原料として得られる石炭系ピッチとしては、コークス炉から生じるコールタールを熱処理して得られるピッチが挙げられる。
【0018】
本発明において、原料として使用するピッチは、特に限定されないが、石炭系ピッチ、特に石炭系等方性ピッチであってもよい。
【0019】
ピッチ(特に等方性ピッチ)の軟化点は、特に限定されず、後述する断熱材用炭素繊維の製造方法における紡糸方法によって適宜設定することができる。
【0020】
本発明の断熱材用炭素繊維の繊維軸方向の熱伝導率は、1〜10W/m・K、好ましくは3.5〜9W/m・K、より好ましくは4.2〜8W/m・Kである。断熱材用炭素繊維の繊維軸方向の熱伝導率が1W/m・K未満の材料は製造が困難である。一方、断熱材用炭素繊維の繊維軸方向の熱伝導率が10W/m・Kをこえると、炭素繊維自身の熱伝導率が高すぎて、得られる断熱材の断熱性能が乏しくなる。なお、断熱材用炭素繊維の繊維軸方向の熱伝導率は、気体置換法によって見かけ密度を測定し、示差走査熱量計を用いて比熱を測定し、光交流法を用いて熱拡散率を測定したうえで、熱伝導率=(見かけ密度)×(比熱)×(熱拡散率)によって決定する。
【0021】
本発明の断熱材用炭素繊維の開気孔量は、0.1cm/g以下、好ましくは0.08cm/g以下、より好ましくは0.05cm/g以下である。断熱材用炭素繊維の開気孔量が0.1cm/gをこえると、気体、輻射熱の通過による熱伝導がしやすくなり、得られる断熱材の断熱性能が乏しくなる。なお、断熱材用炭素繊維の開気孔量の下限値は特に制限はなく、0cm/gが最も好ましい。また、断熱材用炭素繊維の開気孔量は、BET法により測定される全細孔容積を開気孔量として求める。なお、BET法では、炭素繊維表面に存在する細孔量のみが判断可能であるため、BET法による全細孔容積は、開気孔量に相当する。
【0022】
本発明の断熱材用炭素繊維の見かけ密度は、2.0g/cm未満が好ましく、1.0〜1.9g/cmがより好ましく、1.3〜1.7g/cmがさらに好ましい。断熱材用炭素繊維の見かけ密度をこの範囲とすることで、断熱材用炭素繊維の結晶性をより損なわないようにしつつ、炭素繊維中に存在する閉気孔をより大きくし、閉気孔が輻射熱をより遮り(輻射損失)、炭素繊維の径方向の断熱性能をより高めることができ、得られる断熱材の断熱性能をより向上させることができる。これにより、炭素繊維径方向に断熱させる薄いシート状断熱材を形成することも可能である。なお、断熱材用炭素繊維の見かけ密度は、気体置換法によって測定する。
【0023】
本発明の断熱材用炭素繊維の閉気孔の半径は、6nm以上が好ましく、6.5〜15nmがより好ましく、7〜13nmがさらに好ましい。断熱材用炭素繊維の閉気孔の半径をこの範囲とすることで、閉気孔が輻射熱を遮り(輻射損失)、炭素繊維の径方向の断熱性能をより高めることができ、得られる断熱材の断熱性能をより向上させることができる。これにより、炭素繊維径方向に断熱させる薄いシート状断熱材を形成することも可能である。なお、断熱材用炭素繊維の閉気孔の半径は、小角X線散乱法によるギニエプロットにより見積もられる閉気孔を球と仮定した場合に算出される閉気孔半径とする。
【0024】
本発明の断熱材用炭素繊維は、後述する断熱材用炭素繊維の製造方法においても詳述するが、700〜2400℃の熱処理物(特に等方性ピッチを炭素前駆体とした700〜2400℃の熱処理物)であることが好ましく、1100〜2400℃の熱処理物(特に等方性ピッチを炭素前駆体とした1100〜2400℃の熱処理物)であることがより好ましく、1300〜2400℃の熱処理物(特に等方性ピッチを炭素前駆体とした1300〜2400℃の熱処理物)であることがさらに好ましい。断熱材用炭素繊維の熱処理温度をこの範囲とすることで、炭素繊維の黒鉛結晶化度が過度に発達しにくく、組織が無配向のままであるため、開気孔をより少なく、閉気孔をより発達させることができ、低熱伝導率及び高断熱性の炭素繊維が得やすい。また、用途に応じてより好適な選択が可能となる。
【0025】
本発明の断熱材用炭素繊維の繊維径は、特に限定されないが、平均で、6〜18μmが好ましく、11〜14μmがより好ましい。断熱材用炭素繊維の繊維径をこの範囲とすることにより、繊維の機械的強度を確保しながら好適な断熱性能を発揮できる。断熱材用炭素繊維の平均繊維径は、拡大鏡及び画像解析装置による観察により測定する。
【0026】
本発明の断熱材用炭素繊維の繊維長は、特に限定されないが、好ましい繊維長はフェルト断熱材と成形断熱材とで異なる。すなわち、フェルト断熱材では、例えばニードルパンチにより繊維を交絡させる必要があるので、数cm〜数十cmの長さで、且つ一定の幅のある短繊維の集合体であるマット繊維を用いることが好ましい。
【0027】
成形断熱材では、その製作にフェルトを用いる場合とミルド繊維やチョップ繊維を用いる場合とで異なる。ここで、フェルトを用いた成形断熱材をフェルト系成形断熱材といい、ミルド繊維やチョップ繊維を用いた成形断熱材をショートファイバ系成形断熱材という。
【0028】
フェルト系成形断熱材の場合は、上記マット繊維を用いることが好ましい。
【0029】
ショートファイバ系成形断熱材では、ミルド繊維では、平均繊維長さは0.04〜3mm程度が好ましく、チョップ繊維では、平均繊維長さは3〜10mm程度が好ましい。なお、断熱材用炭素繊維の平均繊維長さは、拡大鏡及び画像解析装置による観察により測定する。
【0030】
本発明のショートファイバ系成形断熱材用炭素繊維のアスペクト比(繊維長/繊維径)は、特に限定されないが、ミルド繊維を用いる場合は平均で、2〜500が好ましい。チョップ繊維を用いる場合は平均で、170〜1670が好ましい。ショートファイバ系成形断熱材用炭素繊維のアスペクト比をこの範囲とすることにより、好適な断熱材とすることができる。
【0031】
2.断熱材用炭素繊維の製造方法
本発明の断熱材用炭素繊維は、
本発明の断熱材用炭素繊維の前駆体繊維を、700〜2400℃で熱処理する工程
を備える製造方法により、得ることができる。
【0032】
(1)断熱材用炭素繊維の前駆体繊維
本発明の断熱材用炭素繊維の製造方法では、原料として断熱材用炭素繊維の前駆体を使用する(以下、断熱材用炭素繊維の前駆体を、単に「前駆体繊維」ともいう)。
【0033】
前駆体繊維は、ピッチ(特に等方性ピッチ)を原料として得られる炭素繊維であることが好ましい。つまり、前駆体繊維は、前記断熱材用炭素繊維と同様、ピッチ系炭素繊維(石炭系ピッチ系炭素繊維及び石油系ピッチ系炭素繊維)、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、セルロース系炭素繊維等のいずれもが採用し得るが、ピッチ系炭素繊維(特に等方性ピッチ系炭素繊維)であることが好ましい。また、前駆体繊維のサイズ(繊維径、繊維長及びアスペクト比)は、特に限定されないが、後述の熱処理によって繊維のサイズはほとんど変わらないため、前駆体繊維のサイズは、本発明の断熱材用炭素繊維と同等のサイズとすることが好ましい。
【0034】
ピッチ(特に等方性ピッチ)は、上述したピッチ及び等方性ピッチの説明と同様である。好ましいピッチ及び等方性ピッチもまた、上述したピッチ及び等方性ピッチの説明と同様であり、石炭系等方性ピッチが好ましい。ピッチ及び等方性ピッチの軟化点は、特に限定されず、紡糸方法によって適宜設定することができる。
【0035】
このような前駆体繊維としては、合成してもよいし、市販品を使用することもできる。市販品を使用する場合、その具体例としては、
・大阪ガスケミカル(株)製ドナカーボ・チョップ(品番:S−231、S−232、S−234、S−331、S−332等)
・大阪ガスケミカル(株)製ドナカーボ・ミルド(品番:S−2404N、S−249、S−241、S−242、S−243、S−244、S−246、S−247、S−343、S−344、SG−244A、SG−249、SG−241等)
・大阪ガスケミカル(株)製炭素繊維マット(品番:S−210等)
等が挙げられる。
【0036】
本発明において、前駆体繊維を合成する場合、前駆体繊維の製造方法は、特に限定されないが、例えば、ピッチ系前駆体繊維を得る場合には、以下の各工程:
(i)炭素前駆体としてピッチ(特に等方性ピッチ)を紡糸する工程1、
(ii)前記工程1で得られた紡糸(ピッチ繊維)を不融化処理する工程2、及び
(iii)前記工程2で得られた不融化繊維(不融化ピッチ繊維)を炭素化処理する工程3
を含む製造方法で前駆体繊維を製造することが好ましい。以下、各工程について説明する。
【0037】
工程1:紡糸
工程1では、炭素前駆体として、例えば、ピッチ(特に等方性ピッチ)を紡糸する。この工程1により、紡糸(ピッチ繊維)が得られる。
【0038】
紡糸方法は、特に限定されず、例えば溶融紡糸が挙げられる。具体的な溶融紡糸方法としては、渦流法紡糸、スパンボンド紡糸、遠心法紡糸等が挙げられる。また、溶融紡糸する際の温度は、ピッチ(特に等方性ピッチ)が溶融する限り、特に限定されない。また、ノズルの形状、紡糸速度等のその他の紡糸条件についても、特に限定されず、使用用途等に応じて適宜設定することができる。なお、渦流法紡糸とは、ノズルから吐出される溶融ピッチ糸に熱ガスのジェット流を吹き当て、効率よく延伸する方法である。この紡糸方法では、不規則な曲状の紡糸(ピッチ繊維)が得られる。
【0039】
工程1において、溶融紡糸によりピッチ繊維を得る場合、前記ピッチ繊維は連続繊維ではなく、例えば、数cm〜数十cmの長さで、且つ一定の幅のある短繊維が得られることが多い。
【0040】
工程2:不融化処理
工程2では、紡糸(ピッチ繊維)を不融化処理する。この工程2により、不融化繊維が得られる。不融化処理とは、一般的には、炭素前駆体に繊維形状を与えた後、後述する炭素化(炭化)で繊維形状を維持できるように、酸化的な脱水素環化、縮合等により熱硬化性とする処理をいう。本工程では、前記不融化処理をすることにより、ピッチ繊維に酸素を導入して酸素との架橋結合によって安定化させることが好ましい。
【0041】
不融化処理の方法としては、特に限定されない。例えば、ピッチ繊維に対して熱風を当てること等が挙げられる。
【0042】
不融化処理の際の雰囲気は、酸素含有雰囲気であることが好ましい。酸素の導入としては、空気を用いる他、酸化窒素、酸化硫黄等のガス状酸化剤を用いてもよい。
【0043】
不融化処理の際の温度は、特に限定されない。例えば、紡糸温度前後まで加熱することができる。
【0044】
その他の不融化処理の条件(例えば、昇温速度、不融化処理の保持時間等)については特に限定されず、使用用途等に応じて適宜設定することができる。
【0045】
工程3:炭素化処理
工程3では、不融化繊維を炭素化処理する。この工程3により前駆体繊維が得られる。炭素化処理(炭化処理)とは、炭素以外の元素を放出して炭素含有率の高い固体を生成させる処理をいう。
【0046】
炭素化処理の際の温度は、特に限定されない。例えば、700〜1000℃程度で熱処理することが好ましい。
【0047】
炭素化処理の際の雰囲気は、不活性ガス雰囲気(非酸化性ガス雰囲気)が好ましく、窒素ガス雰囲気がより好ましい。
【0048】
その他の炭素化処理の条件(例えば、昇温速度、炭素化処理の保持時間等)については特に限定されず、使用用途等に応じて適宜設定することができる。
【0049】
その他の工程
炭素化処理を行った後、前記前駆体繊維が得られる。一般的には、前記前駆体繊維の形態は、マット状であることが多い。前駆体繊維が得られた後、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、前記前駆体繊維に対して、切断処理、粉砕処理等を行ってミルド繊維やチョップ繊維としてもよい。前記切断処理及び粉砕処理は、前駆体繊維の形状を適宜変更することができる。
【0050】
粉砕方法としては、特に限定されない。例えば、ジェットミル、ハンマーミル、ピンミル等を用いて、前駆体繊維を粉砕することができる。
【0051】
切断方法としては、特に限定されない。例えば、ロービングカッター、ギロチン式カッター、クロスカッター、低速せん断型スクリーン式粉砕機等を用いて、前駆体繊維を切断することができる。
【0052】
(2)前駆体繊維に対する熱処理工程
前記の断熱材用炭素繊維の製造方法では、前駆体繊維を700〜2400℃で熱処理することにより、本発明の断熱材用炭素繊維を好適に得られる。前駆体繊維の熱処理温度をこの範囲とすることで、炭素繊維の黒鉛結晶化度が過度に発達しにくく、組織が無配向のままであるため、開気孔をより少なく、閉気孔をより発達させることができ、低熱伝導率及び高断熱性の炭素繊維が得やすい。また、用途に応じてより好適な選択が可能となる。なお、前駆体繊維の熱処理温度は、上記観点から、1100〜2400℃が好ましく、1300〜2400℃がより好ましい。なお、前記工程3において、700〜1000℃の熱処理を施した場合は、この熱処理工程を施さずに、工程3で得た炭素繊維を、700〜1000℃の熱処理物である本発明の断熱材用炭素繊維としてもよい。
【0053】
熱処理工程における加熱方法は、特に限定されない。例えば、公知の各種熱処理炉を用いて、それぞれの使用方法に準じて、加熱処理を行うことができる。
【0054】
熱処理工程における前駆体繊維の雰囲気は、非酸化性ガス雰囲気が好ましく、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気がより好ましい。
【0055】
その他の熱処理条件(例えば、圧力、昇温速度、熱処理の保持時間等)については特に限定されず、使用用途等に応じて適宜設定することができる。
【0056】
3.断熱材
本発明の断熱材は、前記した本発明の断熱材用炭素繊維を用いて得られる。
【0057】
本発明の好ましい一態様では、本発明の断熱材用炭素繊維が耐熱性樹脂又は炭素結合物によって結合されていることが好ましい。
【0058】
この場合、本発明の断熱材は、本発明の断熱材用炭素繊維を使用した炭素繊維フェルトと炭素マトリックスを主たる組成とすることが好ましい。
【0059】
具体的には、フェルト系成形断熱材とショートファイバ系成形断熱材とがある。フェルト系成形断熱材の場合、炭素繊維フェルトは、本発明の断熱材用炭素繊維又は熱処理によって本発明の断熱材用炭素繊維となる繊維(前記前駆体繊維)を、例えばニードルパンチにより繊維を交絡させることによって得られる。炭素繊維フェルトの厚みは、使用用途等によっても好ましい厚みが異なり特に限定されないが、3〜15mmが好ましい。
【0060】
この場合、まず炭素繊維フェルトに、熱処理によって炭素マトリックスになり得る樹脂成分を添加し、いわゆるプリプレグを作製することが好ましい。プリプレグの作製にあっては、樹脂成分を添加した炭素繊維フェルトを必要に応じて乾燥させてもよい。
【0061】
樹脂成分としては、フェノール樹脂、フラン樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂等の合成樹脂を使用することができる。これら樹脂は単体で使用してもよく、2種以上の樹脂を組合せて使用してもよい。また、合成樹脂をメチルアルコール、エチルアルコール等の有機溶剤で適宜希釈してもよい。
【0062】
この場合、本発明の断熱材用炭素繊維と、樹脂成分との混合比率は特に制限されないが、本発明の断熱材用炭素繊維100質量部に対し、得られる断熱材の成形性と断熱性能の観点から、樹脂成分を5〜120質量部とすることが好ましい。
【0063】
ショートファイバ系成形断熱材の場合、一つの形態としてミルド繊維及び/又はチョップ繊維を乾式法または湿式法により、二次元にランダムに繊維が配向したシートを作製する方法がある。乾式法の場合、例えば、エアーレイド法により、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン等の熱融着性繊維を適宜上記ミルド繊維及び/又はチョップ繊維混合しながら、乾式シートを作製する方法が挙げられる。なお、熱融着性繊維の長さは1〜10mm、混合量は炭素繊維100質量部に対して1〜30質量部であってもよい。
【0064】
湿式法の場合、例えば、水、アセトン、アルコール類等の溶媒に分散させた上記ミルド繊維及び/又はチョップ繊維を底部にスクリーンを有する型枠に供給し、抄紙し、乾燥させて湿式シートを作製する方法が挙げられる。このとき、溶媒中にフェノール樹脂、フラン樹脂等の樹脂成分を添加することにより、ミルド繊維及び/又はチョップ繊維がより結着されたシートとすることができる。
【0065】
シートは、例えば、目付が10〜500g/m程度のものが好ましい。シート又は重ね合わせたシートに上記炭素繊維フェルトの場合と同様な方法で、熱処理によって炭素マトリックスになり得る樹脂成分を添加し、いわゆるプリプレグを作製することが好ましい。
【0066】
本発明の断熱材用炭素繊維と樹脂成分とを混合する場合、必要に応じて、各種添加剤も混合してもよい。添加剤としては、潤滑剤、補強材、フィラー、金属粉末等が挙げられる。
【0067】
潤滑剤としては、人造黒鉛、天然黒鉛、二硫化モリブデン等が挙げられる。補強材としては、ガラス繊維、アラミド繊維等が挙げられる。フィラーとしては、タルク、ガラスビーズ等が挙げられる。金属粉末としては、銅粉、黄銅粉、青銅粉等が挙げられる。これらの添加剤の含有量は特に制限されず、本発明の効果を損なわない範囲とすることができる。
【0068】
このようにして得られる断熱材は、必要に応じて、不活性ガス雰囲気で1000〜2400℃程度の温度で熱処理を施し、樹脂成分を炭素化させて炭素結合物としてもよい。
【0069】
一方、本発明の他の好ましい態様としては、フェルト断熱材があり、前記炭素繊維フェルトを、断熱材用炭素繊維からなる不織布として、そのまま断熱材として使用することも可能である。
【0070】
積層型の平板形状の断熱材を得る場合は、上記プリプレグを重ねることによって作製することができる。平板形状の断熱材は、プリプレグを最終製品の厚みに応じて必要枚数重ねた後、加熱しながらプレス成形して樹脂成分を硬化させることが好ましい。加熱温度は、樹脂成分が硬化するのに必要な温度とすることができる。
【0071】
また、平板形状だけでなくプリプレグを円筒型のマンドレルに螺旋状に巻く工程を取り入れることにより、円筒形状の断熱材を得ることもできる。
【0072】
一方、同様の手法を採用することにより、シート状、試験管形状、巾着形状、バット形状、るつぼ形状、容器形状等の形状に成形してもよい。
【0073】
本発明の断熱材をシート状に成形する場合、略円筒形状の金属、ヒータ等の側面に巻き付けることによって外部の材料を断熱することもできる。また、ガスクロマトグラフィー等の注入口の周辺に巻き付けてもよいし、オーブン庫内の所定箇所に設置してもよい。
【0074】
本発明の断熱材を試験管形状に成形する場合、試験管、ビーカー等の実験器具、実験装置等の外部の形状にあわせて成形し、その外部に設置することで、外部を内部の高温材料から断熱することができる。
【0075】
本発明の断熱材を巾着形状に成形する場合、外部を内部に投入した高温材料から断熱することができる。
【0076】
本発明の断熱材をバット形状に成形する場合、当該バット形状の断熱材の中に高温加熱焼成体、熱処理後の高温容器等を投入し、外部を当該高温加熱焼成体、熱処理後の高温容器等から断熱することができる。
【0077】
本発明の断熱材をるつぼ形状に成形する場合、るつぼの外部に当該るつぼ形状の断熱材を設置し、外部をるつぼから断熱することができる。
【0078】
本発明の断熱材を容器形状に成形する場合、内部に高温材料を投入し、外部を内部の高温材料から断熱することができる。
【実施例】
【0079】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例の態様に限定されない。
【0080】
製造例1
以下のようにして、実施例1の等方性ピッチ系炭素繊維(マット繊維)を得た。
【0081】
まず、石炭系の等方性ピッチ(炭素前駆体)を出発原料とし、渦流法によって前記等方性ピッチに対して紡糸(紡糸処理)を行った。次いで、前記処理で得られたピッチ繊維に対して、空気(大気)雰囲気下で不融化処理を行った。次に、前記処理で得られた不融化繊維(不融化ピッチ繊維)に対して、不活性ガス雰囲気下で700〜1000℃の所定温度で熱処理を行い、炭素化処理を行った。なお、前記紡糸処理、不融化処理、及び炭素化処理は、連続的に行った。以上により、製造例1の等方性ピッチ系炭素繊維マットが得られた。この手法は、強化プラスチックス(1998年)Vol. 34, No. 3, p.89-93でも示されている。
【0082】
実施例1:800℃
製造例1において、前記不活性ガス雰囲気下での熱処理を800℃未満で行い、等方性ピッチ系炭素繊維マットを得た。当該炭素繊維マットを抵抗炉内に投入し、アルゴンガス雰囲気下に、800℃まで昇温し、最高温度での保持時間を2時間に設定し、実施例1の炭素繊維を得た。
【0083】
実施例2:1000℃
製造例1において、前記不活性ガス雰囲気下での熱処理を1000℃未満で行い、等方性ピッチ系炭素繊維マットを得た。当該炭素繊維マットを抵抗炉内に投入し、アルゴンガス雰囲気下に、1000℃まで昇温し、最高温度での保持時間を2時間に設定し、実施例2の炭素繊維を得た。
【0084】
実施例3:1200℃
実施例2で得た等方性ピッチ系炭素繊維マットを抵抗炉内に投入し、アルゴンガス雰囲気下に、1200℃まで昇温し、最高温度での保持時間を2時間に設定し、実施例3の炭素繊維を得た。
【0085】
実施例4:1400℃
実施例2で得た等方性ピッチ系炭素繊維マットを抵抗炉内に投入し、アルゴンガス雰囲気下に、1400℃まで昇温し、最高温度での保持時間を2時間に設定し、実施例4の炭素繊維を得た。
【0086】
実施例5:2000℃
実施例2で得た等方性ピッチ系炭素繊維マットを抵抗炉内に投入し、アルゴンガス雰囲気下に、2000℃まで昇温し、最高温度での保持時間を2時間に設定し、実施例5の炭素繊維を得た。
【0087】
実施例6:2400℃
実施例2で得た等方性ピッチ系炭素繊維マットを抵抗炉内に投入し、アルゴンガス雰囲気下に、2400℃まで昇温し、最高温度での保持時間を2時間に設定し、実施例6の炭素繊維を得た。
【0088】
平均繊維径
実施例1〜6で得た炭素繊維について、(株)Hirox製の拡大鏡及び画像解析装置を用いて、1000倍に拡大して行った。このとき、各ピッチ系炭素繊維をそれぞれ任意に10点選び出し、上記10点の繊維径を測定した。その結果、実施例1の炭素繊維の繊維径は平均で約14μmであり、実施例2〜6の炭素繊維の繊維径は平均で約13μmであった。
【0089】
見かけ密度
実施例1〜6の各炭素繊維に対して、見かけ密度測定を行った。具体的には、気体置換法によって上記各炭素繊維の見かけ密度を測定した。測定装置は、マイクロメリティックス社製の乾式自動密度計アキュピック1330−03を使用した。測定に使用したガスはヘリウムガスとし、温度は25℃であった。
【0090】
見かけ密度は、試料の質量を、試料の外形容積から開気孔(細孔)を除いた容積で割った値である。この場合、開気孔(細孔)は、ヘリウムガスが浸透する気孔(細孔)と考えられる。見かけ密度の大小が、閉気孔の大小を示していると評価できる。具体的には、繊維径すなわち体積に変化がないので、見かけ密度が小さいほど、閉気孔が大きい傾向にあると考えられる。この結果は、以下の炭素繊維の小角X線散乱法によるギニエプロットから見積もった閉気孔の大きさの結果とも整合している。
【0091】
結果を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
熱伝導率
実施例1〜3及び5〜6の炭素繊維の繊維軸方向の熱伝導率は、比熱、熱拡散率及び見かけ密度から、以下の式:
熱伝導率=(見かけ密度)×(比熱)×(熱拡散率)
により算出した。
【0094】
実施例1〜3及び5〜6の炭素繊維の比熱は、Perkin-Elmer社製の示差走査熱量計を用いて昇温速度10℃/分で行った。このとき、標準試料はα−Al、雰囲気は乾燥窒素中、測定温度は25℃であった。
【0095】
実施例1〜3及び5〜6の炭素繊維の熱拡散率は、アルバック理工(株)製の熱拡散率測定装置を用いて光交流法で求めた。照射光に半導体レーザであった。雰囲気は真空中であり、測定温度は約25℃で測定した。
【0096】
結果を表2に示す。
【0097】
【表2】
【0098】
吸脱着等温線(開気孔量)
実施例2及び6の炭素繊維の吸脱着等温線を求めた。具体的には、マイクロトラック・ベル(株)製のBELSORP−maxを用いて、N(77K)吸着による上記吸脱着等温線を求めた。
【0099】
次に、得られた吸脱着等温線に基づいて、BET法にて上記各炭素繊維の比表面積及び全細孔容積を求めた。なお、BET法においては、炭素繊維表面に存在する気孔のみを判断できるため、全細孔容積は、開気孔量に相当する。
【0100】
結果を表3及び図1に示す。なお、図1において、左図は実施例2、右図は実施例6の結果である。いずれの炭素繊維においても、吸着曲線と脱着曲線がほぼトレースしており、表面に細孔がほとんど存在しない(開気孔量が存在しないか、存在するとしても極めて少ない)ことが示された。
【0101】
【表3】
【0102】
閉気孔の大きさ
実施例2〜6の炭素繊維について、小角X線散乱法による測定を行った。具体的には、(株)リガク製の全自動水平型多目的X線回折装置SmartLabを用い、入射X線波長を0.154nm(CuKα)、測定時間を1800秒として行った。なお、サンプルは、測定前に、真空乾燥機中で、100℃で2時間以上乾燥させた。
【0103】
小角X線散乱法において開気孔と閉気孔との区別はできないが、実施例2〜6の炭素繊維において、開気孔は開気孔量が存在しないか、存在するとしても極めて少ないので細孔は閉気孔とすることができる。
【0104】
実施例2〜6の炭素繊維の小角X線散乱法によるギニエプロットを図2に示す。ギニエプロットは、散乱パラメータs(=4πsinθ/λ)の2乗に対して散乱強度の自然対数ln(I(s))をプロットしたものである。ここで、λはX線波長である。ギニエ領域を直線近似して、その傾きから慣性半径を求めることができる。ここで、ギニエ領域をsが0.0002Å−2以下の領域とした。直線の傾き=−(慣性半径)/3である。
【0105】
慣性半径と形状パラメータとの関係から、閉気孔を球と仮定した場合に球の半径は次式となる。
【0106】
閉気孔を球と仮定した場合に球の半径=(5/3)1/2×(慣性半径)
求めた慣性半径及び閉気孔を球と仮定した場合における閉気孔の半径の結果を表4に示す。
【0107】
【表4】
図1
図2