(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
セグメントAとセグメントDの交点と、セグメントBとセグメントEの交点とを結ぶ線分L1と、セグメントCに沿って延びるセグメントAの外縁とセグメントBの外縁とを結ぶ線分L2が、1.05≦(L1の長さ/L2の長さ)≦4.0を満たす、請求項1に記載の繊維。
繊維断面が二つのセクションからなり、一方のセクションに含まれる少なくとも一つの樹脂と、他方のセクションに含まれる少なくとも一つの樹脂とが、物性および/または組成において互いに異なっている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維。
二つのセクションがそれぞれ、ポリプロピレンを含むセクション、およびエチレン含有量が1質量%以上15質量%以下であるプロピレン・エチレン共重合体を含むセクションである、請求項4〜6のいずれか1項に記載の繊維。
繊維断面が一つのセクションからなり、当該セクションがポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、およびナイロン66からなる群から選ばれる少なくとも一つの熱可塑性樹脂を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(本実施形態に至った経緯)
本発明者らは、特許文献1で用いられている中空合成繊維に代えて、繊維断面が非円形の繊維を使用すれば、初期嵩および反発性に優れ、かつへたりが生じにくい中綿が得られるのではないかと考えた。そこで、形鋼の一種であるH鋼にヒントを得て、繊維断面がH字型の形状である合成繊維を製造した。H鋼は、軽量であり、かつ曲げ剛性および曲げ強度が大きい鋼材として知られている。また、繊維断面がH字型である繊維は、同じ繊度の丸断面の繊維と比較して、繊維断面を構成する3つのセグメント、即ち二つの縦方向に延びているセグメントと、それをつなぐ横方向のセグメントがより広い範囲にわたって延びている、そのため、特許文献2ないし5に記載されているように、繊維断面をH字型とすることによって、反発性に優れ、かつ嵩高な中綿を与える繊維が得られると考えた。
【0009】
しかしながら、繊維断面をH字型としても期待したほどの嵩高性(初期嵩)が得られなかった。これは、H字の開放部分に、他の繊維を構成している縦方向のセグメントが入り込んでしまい、繊維集合物の嵩が減少してしまったことによると考えられた。また、H字型断面の繊維を繊度の小さい細い繊維と組み合わせて中綿を構成したところ、細い繊維がH字の開放部分に入り込み、経時的に嵩が減少しやすい、すなわちへたりやすいものとなった。また、繊維断面がH字型の繊維は、反発性においても十分なものではなかった。
【0010】
これらの不都合を回避するため、本発明者らは、H字型の繊維断面において、縦方向に延びるセグメントの端部を「カギ」形状とすれば、この「カギ」の部分が開放部をある程度閉鎖して、他の繊維のセグメントが入り込む、又は細い繊度の繊維が入り込むことを防止できると考えた。そこで、そのような断面形状の繊維を作製したところ、繊維断面をH字型とすることによる嵩高性および反発性が確保され、かつ経時的な嵩の減少が生じにくい繊維集合物が得られることを見出した。
以下、本実施形態の繊維ならびにそれを用いた繊維集合物および中綿を説明する。
【0011】
(繊維)
本実施形態の繊維は、
繊維断面が、
端部a1と端部a2とを有する直線又は曲線セグメントA(以下、「セグメントA」と呼ぶ)と、
端部b1と端部b2とを有する直線又は曲線セグメントB(以下、「セグメントB」と呼ぶ)と、
セグメントAとセグメントBとをつなぐ直線または曲線セグメントC(以下、「セグメントC」と呼ぶ)と
を有する略H字型の形状を有し、
セグメントCを境として、一方の側を上側、他方の側を下側としたときに、端部a1と端部b1とがともに上側にあり、端部a2と端部b2とがともに下側にあり、
端部a1および端部a2のうちいずれか一方からセグメントBの側に向かって延び、かつセグメントBと接合していない、直線または曲線セグメントD(以下、「セグメントD」と呼ぶ)と、
セグメントBの端部b1および端部b2のうち、セグメントDが延びる端部とは反対側にある端部から、セグメントAの側に向かって延び、かつセグメントAと接合していない、直線または曲線セグメントEとをさらに有する、
繊維である。この繊維は、繊維断面が円形でなく、いわゆる「異形断面繊維」と呼ばれる繊維に分類され得るものである。
【0012】
本実施形態の繊維の一例を
図1に示す。
図1に示すとおり、セグメントAおよびBは、H字の縦線部分に相当し、セグメントAとセグメントBとをつなぐセグメントCはH字の横線部分に相当する。セグメントAは端部a1および端部a2を有し、セグメントBは端部b1および端部b2を有する。セグメントCを境として、一方の側を上側、他方の側を下側としたときに、図示するとおり、端部a1および端部b1はともに上側にあり、端部a2および端部b2はともに下側にある。本実施形態は、端部a1からセグメントBの側に向かって延びるセグメントDを有し、端部b2からセグメントAの側に向かって延びるセグメントEを有する。セグメントDおよびEは、セグメントAおよびBにて「カギ」を形成し、セグメントAおよびBと、セグメントCとの間に形成される開放部を、ある程度塞ぐ役割をし、本実施形態の繊維を中空繊維のごとく機能させる。
なお、
図1においては理解の容易のために、各セグメントを異なるハッチングで示しているが、実際の繊維では、各セグメントは継目無く接合されていて、一体となっている。
【0013】
図示した形態において、セグメントAおよびBはともに同じ長さを有し、互いに平行となるように配置されている。また、端部a1と端部b1は同じ高さにあり、端部a2と端部b2は同じ高さにある。セグメントCは略直線であって、セグメントAおよびBのほぼ真ん中の位置にて両セグメントをつなぎ、また、両セグメントに対して約90°の角度をなしている。
【0014】
セグメントA、BおよびCの寸法および位置は
図1に示すものに限定されず、例えば、
図2(a)〜(e)および
図3(a)〜(c)に示すようなものであってよい。これらの図においては、セグメントAないしCの関係のみを示し、セグメントDおよびEは省略している。具体的には、セグメントAおよびBは互いに異なる長さを有していてよく(
図2(a))、また、セグメントAおよびBは互いに平行でなくてもよい(
図2(b))。さらに、端部a1と端部b1の位置、および端部a2および端部b2の位置はそれぞれ、同じ高さになくてよい((
図2(c))。さらにまた、セグメントAおよびセグメントBは、いずれか一方または両方が湾曲した形状を有していてよい(
図2(d)、(e))。
【0015】
また、セグメントCは、直線でなくてよく、
図3(a)に示すように、曲がり部を一つ有するものであってよい。曲がり部の数は1より多くてもよいが、好ましくは1以下であり、より好ましくは実質的に直線である。曲がり部の数が二以上である繊維は製造が困難であることによる。また、セグメントCは、
図3(b)に示すように、セグメントAおよびBを二等分する位置ではない位置にて、両セグメントをつないでいてよい。あるいは、セグメントCは、
図3(c)に示すように、セグメントAおよびBに対して垂直でなくてよい。
【0016】
セグメントDは、セグメントBと接合しないような寸法および向きを有する。ここで、「セグメントBと接合しない」とは、セグメントDの端部がセグメントBから離間していること、およびセグメントDの端部がセグメントBと接していても融着していないことを指す。
図1に示した形態では、セグメントDは、セグメントAと約90°の角度をなして延びており、その端部はセグメントDから離間している。セグメントDがセグメントAと接合しないことを確保するために、例えば、
図4(a)に示すように、セグメントDはセグメントAと90°よりも大きい角度をなして延びていてよく、あるいは
図4(b)に示すように、セグメントBの上下端をセグメントAの上下端よりもそれぞれ下側となるように位置させてよい。
【0017】
セグメントEは、セグメントAと接合しないような寸法および向きを有する。「セグメントAと接合しない」の意味、およびセグメントEがセグメントAと接合しない態様は、「セグメントDがセグメントBと接合しない」の意味および態様に関連して説明したとおりであるから、ここではそれらの説明を省略する。
【0018】
図1および
図2は主にセグメントAおよびBの態様を示しており、
図3は主にセグメントCの態様を示しており、
図4は主にセグメントDおよびEの態様を示すものであり、これらの図面に示す態様を適宜組み合わせてよいことはいうまでもない。例えば、
図2(e)と
図3(c)と
図4(a)を組み合わせた、
図5に示すような繊維もまた、本実施形態に含まれる。
また、セグメントDおよびEはそれぞれ、端部a2および端部b1から延びるものであってよい。
【0019】
本実施形態において、各セグメントは略一定の幅を有する直線ないし曲線で構成されてよい。各セグメントの幅は特に限定されず、例えば、2μm〜60μmとしてよいし、4μm〜30μmとしてもよいし、5μm〜25μmとしてもよいし、7.5μm〜20μmとしてもよい。また、各セグメントの幅は一定でなくてよく、一部において大きい部分または小さい部分があってよい。また、すべてのセグメントが同じ幅を有していてよく、あるいは一部のセグメントが他のセグメントと異なる幅を有していてよく、あるいはまたすべてのセグメントが互いに異なる幅を有していてよい。例えば、セグメントCのみを他のセグメントよりも幅広にしてよく、その場合には繊維の弾力性および嵩回復性をより向上させやすく、あるいは繊維断面形状をより良好に保持させやすい。あるいはセグメントDおよびEを他のセグメントより幅狭にしてもよい。
【0020】
本実施形態の繊維は、セグメントAとセグメントDの交点と、セグメントBとセグメントEの交点とを結ぶ線分L1の長さと、セグメントCに沿って延びるセグメントAの外縁とセグメントBの外縁とを結ぶ線分L2の長さが、1≦(L1の長さ/L2の長さ)≦4.0を満たすことが好ましい。(L1の長さ/L2の長さ)はより好ましくは、1.2以上3.5以下であり、さらにより好ましくは1.4以上3.2以下であり、特に好ましくは1.5以上3.0以下である。
【0021】
本実施形態において、セグメントAおよびBが延びる方向を縦方向、セグメントCが延びる方向を横方向としたときに、繊維断面は縦長の形状を有していることが好ましい。縦長とすることにより、セグメントDおよびEの長さを小さくすることができ、製造上好都合である。縦長の形状を有する繊維は、(L1の長さ/L2の長さ)が1.41以上となるものである。
【0022】
L1およびL2の求め方を示す模式図を
図6(a)および(b)に示す。
図6(a)に示す繊維断面は
図1に示したものと同じである。セグメントAとセグメントDの交点を決定するに際しては、各セグメントが幅を有していて交点も幅を有することから、便宜的に、二つのセグメントが交差することにより形成される角(コーナー)の外縁のうち、曲率が最も大きい点を交点とする。セグメントBとセグメントEの交点についても同様である。これらの二つの交点を結ぶ線分L1は、便宜的に、縦方向の寸法を表すものとして用いる。
【0023】
セグメントCに沿って延びるセグメントAの外縁とセグメントBの外縁とを結ぶ線分L2の長さは、セグメントCのセグメントA側の根元とセグメントB側の根元とを結ぶ線分を、セグメントAの外縁およびセグメントBの外縁まで延ばして求める。セグメントCは幅を有するので、根元を結ぶ線分は二つ引くことができる。セグメントCの幅が一定でない、または
図6(b)に示すようにセグメントAおよびBが互いに平行でない等の理由により、二つの線分をセグメントAおよびBの外縁まで延ばしたときに得られる線分の長さが互いに異なる場合には、長い方の線分をL2とする。
【0024】
以上において、本実施形態の繊維の繊維断面形状及び寸法等を、図面を参照して説明した。参考までに、本実施形態の一例の繊維について、その繊維断面を斜め上方から撮影した走査型電子顕微鏡写真を
図7に示し、複数本の繊維の繊維断面を撮影した走査型電子顕微鏡写真を
図8に示す。
図7に示す繊維断面は、後述する実施例1の繊維を製造する際に得られた、溶融紡糸後の繊維であり、延伸処理を行っていない繊維の繊維断面である。この断面形状は、
図4(b)のセグメントA〜Cと
図4(a)のセグメントDおよびEを組み合わせたものに相当する。
図8は、
図7に示す繊維断面を有する複数本の繊維を撮影したものであるが、撮影のための試料を調製する際に加わる力、および繊維同士が密に集合しているがゆえに相互に及ぼし合う力等の影響により、一部の繊維の繊維断面が歪んでいる。具体的には、例えば、セグメントDおよびEがセグメントAおよびBそれぞれとなす角度が90°以下となっていることもある。
【0025】
本実施形態の繊維は熱可塑性樹脂からなる合成繊維である。本実施形態において、熱可塑性樹脂は特に限定されず、公知のものを任意に使用できる。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートなどのポリエステル系樹脂とその共重合体;低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどの各種ポリエチレン系樹脂、通常のチーグラ・ナッタ触媒やメタロセン触媒を使用して重合されるアイソタクチック、アタクチック、シンジオタクチックなどの各種ポリプロピレン系樹脂、各種ポリメチルペンテン系樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、プロピレンとα−オレフィンとの共重合体であるプロピレン系共重合体などの各種ポリオレフィン系樹脂;ナイロン6,ナイロン66,ナイロン11、ナイロン12などのポリアミド系樹脂;ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスチレン、環状ポリオレフィンなどのエンジニアリング・プラスチックが使用できる。
【0026】
本実施形態の繊維は、これらの樹脂から選択される1の樹脂を用いて、あるいは2以上の樹脂を混合して、一つのセクションから成る単一繊維として構成してよく、あるいは、これらの樹脂から選択される1または2以上の樹脂を含むセクションと、これらの樹脂から選択される1または2以上の樹脂を含むセクションとからなる複合繊維としてよい。あるいは、本実施形態の繊維は三以上のセクションからなる複合繊維としてよい。
【0027】
本実施形態の繊維を単一繊維として構成する場合、本実施形態の繊維は熱可塑性樹脂としてポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、およびナイロン66からなる群から選ばれる少なくとも一つの熱可塑性樹脂を含むものであってよい。これらの熱可塑性樹脂が本実施形態の繊維を構成する熱可塑性樹脂全体に占める割合は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらにより好ましくは90質量%以上で含まれる。最も好ましくは、単一繊維は、熱可塑性樹脂としてポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、およびナイロン66からなる群から選ばれた、単一の熱可塑性樹脂のみを含む。
【0028】
ポリプロピレンまたはポリメチルペンテンなどのポリオレフィンを含む繊維は、軽量であること、比較的強度が大きいこと、ならびに耐薬品性に優れていることから、セメント等で形成される建材の補強、爆裂防止および剥落防止のための繊維として、あるいは中綿用の繊維として好ましく用いられる。ポリエチレンテレフタレートまたはポリトリメチレンテレフタレートなどのポリエステルを含む繊維は、その嵩回復性、反発性、および弾力性がより高くなる傾向にあり、また、容易に染色できることから、中綿用の繊維または衣料製品用の繊維として好ましく用いられる。ナイロン66などのポリアミドを含む繊維は、他の熱可塑性樹脂と比較して親水性が高く、水になじみやすいことから、セメントおよびコンクリートなどの水硬性材料に混合する繊維、あるいは衣料用の繊維として好ましく用いられる。
【0029】
本実施形態の繊維を二つのセクションで構成する場合、熱可塑性樹脂は、一方のセクションに含まれる少なくとも一つの樹脂と、他方のセクションに含まれる少なくとも一つの樹脂とが、物性および/または組成において互いに異なるように選択する。ここで、物性および/または組成において互いに異なる樹脂の組合せとしては、
・モノマー成分が異なっていて組成が互いに異なる樹脂の組合せ(例:ポリエチレン系樹脂/ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂/ポリプロピレン系樹脂、プロピレン共重合体/ポリプロピレン系樹脂)、
・モノマー成分は同じであり、ともに同じ名称で呼称されるが、重合度および触媒等の違いに起因して、物性(例えば、融点、粘度、メルトフローレート)が異なる樹脂の組合せ
が含まれる。したがって、例えば、メルトフローレートの異なる二つのポリプロピレンを組み合わせて複合繊維を構成してもよい。
【0030】
本実施形態の繊維が二つのセクションで構成される場合には、本実施形態の繊維が立体捲縮を有する繊維として提供され得る。特に、二つのセクションがセグメントCを境として上下に分かれて配置された繊維(繊維を構成する二つのセクションの境界面の少なくとも一部または全部がセグメントCの内部に含まれている繊維)は、二つのセクションが接合している面の面積が広いため、加熱処理を始めとする後処理を行い、繊維に対し立体捲縮を発現させたとき、二つのセクションの境界面で剥離が生じにくい。また、サイド・バイ・サイド型に配置された丸断面の複合繊維と同様に、二つのセクション間の樹脂物性の違い、特に熱収縮特性の違いが、立体捲縮を発現させるように作用するため、立体捲縮が発現されやすい。立体捲縮が発現された繊維は、嵩がより大きい繊維集合物を与えやすいので、中綿として用いるのに適している。
【0031】
ここで、「立体捲縮」という用語は、
図11に示すような捲縮の山(または山頂部)が鋭角である機械捲縮と区別されるために用いられる。また、「立体捲縮が発現している」とは、例えば、
図9Aに示すような山部が湾曲した捲縮(波形状捲縮)、
図9Bに示すような山部が螺旋状に湾曲した捲縮(螺旋状捲縮)、
図9Cに示すような、波形状捲縮と螺旋状捲縮とが混在した捲縮、および
図10に示すような、機械捲縮に加えて、波形状捲縮および螺旋状捲縮の少なくとも一つとが混在した捲縮が発現していることを指す。
【0032】
二つのセクションを構成する熱可塑性樹脂の組合せは、二つのセクション間の剥離を抑制するという観点からは、同族系の樹脂の組合せであることが好ましい。例えば、ポリオレフィン系樹脂の組合せとして、ポリエチレン系樹脂/ポリプロピレン系樹脂、プロピレン共重合体/ポリプロピレン系樹脂、物性の異なる二つのポリプロピレン系樹脂の組合せが好ましく用いられる。また、ポリエステル系樹脂の組合せとして、物性および/または組成が互いに異なるポリエステル系樹脂の組合せ等が挙げられる。
【0033】
より具体的には、ポリエチレン系樹脂/ポリプロピレン系樹脂の組合せとしては、高密度ポリエチレン/ポリプロピレン、低密度ポリエチレン/ポリプロピレン、直鎖状低密度ポリエチレン/ポリプロピレン等が挙げられる。ここで、ポリプロピレンは、アイソタクチック、アタクチック、およびシンジオタクチックのいずれであってもよい。これらの中でも、直鎖状低密度ポリエチレン/ポリプロピレンの組合せは、繊維自体を軽量にできること、二つのセクション間で剥離が生じにくいこと、繊維に良好な立体捲縮を発現させやすいことから好ましく用いられる。
ここに示された組合せは、具体的に示された樹脂のみで一つのセクションが構成されることを必ずしも要求するものではなく、示された樹脂が当該セクション中に最も多く含まれること、好ましくは50質量%以上含まれることを意味する。これは以下に示す組合せにおいても同じである。
【0034】
プロピレン共重合体/ポリプロピレン系樹脂の組合せとしては、例えば、エチレン含有量が1質量%以上15質量%以下であるプロピレン・エチレン共重合体と、ポリプロピレンとの組合せがある。この組合せは、繊維自体を軽量にできること、二つのセクション間で剥離が生じにくいこと、繊維に良好な立体捲縮を発現させやすいことから好ましく用いられる。
【0035】
プロピレン共重合体/ポリプロピレン系樹脂の組合せの複合繊維において、プロピレン共重合体を含むセクションは、プロピレン・エチレン共重合体を好ましくは50質量%以上含み、より好ましくは70質量%以上含む。あるいは、当該セクションは他の熱可塑性樹脂を含まず、プロピレン・エチレン共重合体のみから実質的に成っていてよい。当該セクションが他の熱可塑性樹脂を含む場合、他の熱可塑性樹脂は、後述するポリオレフィン系エラストマーであってよく、あるいは、先に本実施形態を構成し得る熱可塑性樹脂として列挙したものからから選択される1つまたは複数の樹脂であってよい。
【0036】
エチレン含有量が1質量%以上15質量%以下であるプロピレン・エチレン共重合体は、例えば、約100℃〜約140℃の熱処理にて収縮しやすく、前記温度での熱収縮率が小さい熱可塑性樹脂と組みあわせることで、繊維に所望の立体捲縮を良好に発現させることができる。エチレン含有量が1質量%未満であると熱収縮性が小さくなる傾向にある。エチレン含有量が15質量%を超えると、過剰に立体捲縮を発現する、すなわち熱処理時に立体捲縮発現に伴う熱収縮量が非常に大きくなり、中綿をはじめとする繊維集合物の地合が悪くなることがあり、あるいは繊維集合物の密度が大きくなってドレープ性が低下することがある。
プロピレン・エチレン共重合体は、ランダム共重合体、あるいはブロック共重合体のいずれであってもよい。熱収縮性を考慮すると、ランダム共重合体が好ましい。
【0037】
プロピレン共重合体は、例えば、紡糸前または紡糸後の融点が125℃〜148℃の範囲内にあってよく、また、紡糸前または紡糸後のメルトフローレート(MFR;測定温度230℃、荷重21.18N(2.16kgf))が50g/10分以下であることが好ましく、10g/10分以上30g/10分以下であることがより好ましい。融点は、DSCにより得た融解熱量曲線から求めることができ、ピークを示す温度(融解ピーク温度)を融点とする。本明細書で説明する他の樹脂についても同じである。MFRは、JIS−K−7210(条件:230℃、荷重21.18N(2.16kg)に準じて測定される。プロピレン共重合体の融点がこの範囲内にあると、100℃〜140℃程度の熱処理によって所望の立体捲縮を発現させやすい。また、メルトフローレートがこの範囲内にあると、繊維製造時の紡糸性が良好である。
【0038】
また、プロピレン共重合体/ポリプロピレン系樹脂の組合せの複合繊維において、ポリプロピレン系樹脂を含むセクションは、ポリプロピレンを好ましくは50質量%以上含み、より好ましくは70質量%以上含む。あるいは、当該セクションは他の熱可塑性樹脂を含まず、ポリプロピレンのみから実質的に成っていてよい。当該セクションが他の熱可塑性樹脂を含む場合、他の熱可塑性樹脂は、後述するポリオレフィン系エラストマーであってよく、あるいは、先に本実施形態を構成し得る熱可塑性樹脂として列挙したものからから選択される1つまたは複数の樹脂であってよい。
【0039】
ポリプロピレンは、好ましくは紡糸後のQ値が3.5以上8以下であるものである。Q値とは重量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)に対する比(Mw/Mn)である。Q値がこの範囲内にあるポリプロピレンを用いることによって、立体捲縮が過度に発現しにくい複合繊維を得ることができる。Q値が3.5未満であると、立体捲縮の度合いが強くなり、Q値が8を超えると、立体捲縮が発現しにくくなる。紡糸後のQ値が上記の範囲となるポリプロピレンは、紡糸前のQ値が例えば、3.5以上12以下であるようなものである。
【0040】
ポリプロピレンは、例えば、紡糸前または紡糸後の融点が150℃〜170℃の範囲内にあってよく、また、紡糸前または紡糸後のメルトフローレート(MFR)が、10g/10分以上60g/10分以下の範囲内にあってよい。ポリプロピレンの融点がこの範囲内にあると、プロピレン共重合体を含むセクションが収縮する温度で、ポリプロピレンを含むセクションの収縮が生じない又は生じるとしても小さく、所望の立体捲縮が良好に発現される。また、メルトフローレートが前記範囲内にあると、繊維製造時の紡糸性が良好である。
【0041】
この組合せにおいては、二つのセクションのいずれか一方または両方にポリオレフィン系エラストマーを含むことが好ましい。ポリオレフィン系エラストマーを含むことにより、複合繊維における過度な立体捲縮の発現を抑制でき、また、繊維全体が適度な弾性を有し、中綿としたときに経時的な嵩の減少(へたり)を抑制できる。
【0042】
ポリオレフィン系エラストマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびプロピレンと炭素数4以上、例えば炭素数4以上8以下のα−オレフィンとの共重合体等から選択される1または複数のポリオレフィン系樹脂をハードセグメントとし、α−オレフィン系ゴムまたはその他のゴムをソフトセグメントとする熱可塑性エラストマーが挙げられる。α−オレフィン系ゴムは、例えば、エチレンと炭素数が3〜20のα−オレフィンとの共重合体であってよい。α−オレフィンとしては、例えばプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、および1−オクタデセンなどが挙げられる。より具体的には、α−オレフィン系ゴムは、例えば、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−ブテンゴム、およびエチレンプロピレン−ジエンゴム等のエチレンプロピレン系ゴムであってよい。他にソフトセグメントとなるゴムとしては、例えば、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、プロピレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、およびアクリロニトリル−イソプレンゴム等のジエン系ゴム等が挙げられる。
【0043】
ポリオレフィン系エラストマーは、好ましくはプロピレン・エチレン共重合体が含まれるセクションに含まれる。プロピレン・エチレン共重合体は、熱収縮性が大きいため、これを含むセクションにポリオレフィン系エラストマーを含有させると、当該セクションの熱収縮性の制御がより容易となり、所望の立体捲縮を有するように複合繊維を設計しやすい。
【0044】
ポリオレフィン系エラストマーは、好ましくは、それを含むセクションの10質量%以上30質量%以下の量で含まれ、より好ましくは12質量%以上25質量%以下の量で含まれる。ポリオレフィン系エラストマーの割合が10質量%未満であると、当該エラストマーを含むことによる効果が得られにくくなり、30質量%を超えると、繊維製造時の紡糸性が低下するおそれがある。ポリオレフィン系エラストマーが、二つのセクションに含まれる場合には、繊維全体の質量に占めるポリオレフィン系エラストマーの割合は10質量%以上30質量%以下であることが好ましく、12質量%以上25質量%以下であるとより好ましい。
【0045】
同族系の樹脂の組合せとしては他に、ポリエチレンテレフタレート/ポリエステル系共重合体の組合せ、粘度が互いに異なる二種類のポリプロピレンの組合せ等が挙げられ、これらの組合せも、本実施形態の繊維を構成するのに適している。
【0046】
あるいは、二つのセクションを構成する樹脂の組合せは、剥離を抑制できる限りにおいて、あるいは多少の剥離が生じても問題とならない場合には、同族系の組合せでなくてよく、例えば、ポリエチレン系樹脂/ポリエステル系樹脂の組合せであってよい。具体的には、ポリエチレン系樹脂/ポリエステル系樹脂の組合せとして、高密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、低密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、直鎖状低密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン/ポリエチレンテレフタレート、高密度ポリエチレン/ポリトリメチレンテレフタレート、低密度ポリエチレン/ポリトリメチレンテレフタレート、直鎖状低密度ポリエチレン/ポリトリメチレンテレフタレート等が挙げられる。
【0047】
二つのセクションの複合比は、各セクションを構成する熱可塑性樹脂の特性に応じて適宜選択され、例えば、容積比で3:7〜7:3の範囲内にあってよく、特に4:6〜6:4の範囲内にあってよい。セグメントCを境界に二つのセクションを配置させる場合、容積比は4:6〜6:4にすることが好ましく、45:55〜55:45にすることがより好ましく、実質的に5:5とすることが特に好ましい。容積比を実質的に5:5とし、かつ繊維断面の形状をセグメントCにて対称形となるようにすれば、二つのセクションを対称的に配置することができる。一方のセクションの容積比が大きいと、得られる繊維においては、二つのセクションが対称的に配置されない場合もあるが、二つのセクションが非対称に配置された繊維も本実施形態に含まれることはいうまでもない。
【0048】
本実施形態の繊維の繊度は特に限定されず、用途等に応じて適宜選択される。例えば、中綿に用いる場合には、繊維は、0.5dtex〜30dtexの繊度を有してよく、好ましくは0.8dtex〜20dtex、より好ましくは1.1dtex〜18dtexの繊度を有してよい。前記の繊度の範囲を満たす繊維で中綿を構成すると、嵩高性に優れ、かつ経時的な嵩の減少がより少ない中綿が得られやすい。本実施形態の繊維と、例えば繊度0.1dtex〜2.0dtexの細い繊維とを組み合わせて中綿を作製する場合には、本実施形態の繊維の繊度を4.4dtex〜15dtexとすることによって、細い繊度の繊維との組合せよる効果がより発揮されやすい。
【0049】
繊維長もまた、特に限定されない。例えば、本実施形態の繊維で中綿を作製する場合、その繊維長は24mm〜90mmの範囲内にあってよく、好ましくは28mm〜75mm、より好ましくは32mm〜65mmの範囲内にある。特に、 吹き込みにより寝具類等に充填するタイプの中綿として用いる場合、繊維の繊維長は20mm〜120mmの範囲内にあってよい。あるいは、繊維同士を絡み合わせて毛玉状物を形成し、その集合物を中綿として用いる場合、繊維の繊維長は15mm〜72mmの範囲内にあってよく、好ましくは20mm〜64mmの範囲内にあり、より好ましくは24mm〜48mmの範囲内にあり、特に好ましくは28mm〜42mmの範囲内にある。あるいはまた、カード機を用いて繊維ウェブを作製し、必要に応じて繊維同士をバインダー樹脂等で接着させた中綿または不織布を作製する場合、繊維長は20mm〜100mmの範囲内にあってよく、好ましくは28mm〜72mm、より好ましくは32mm〜64mmの範囲内にある。
【0050】
本実施形態の繊維は、得ようとする繊維断面に応じて吐出口を形成したノズルを用いて製造する。二以上のセクションから成る繊維を製造する場合には、このノズルに各セクションを構成する樹脂を供給して複合形態が得られるようにする。紡糸温度は熱可塑性樹脂に応じて、200℃〜350℃の範囲から選択される。紡糸フィラメントを得る際、引取速度は、例えば200m/min〜2000m/minとしてよい。紡糸フィラメントの繊度は、例えば4dtex〜50dtexとしてよい。
【0051】
次に、延伸温度を40℃以上、繊維を構成する樹脂の中で融点が最も低い樹脂の融点未満の温度にし、延伸倍率1.2倍以上で延伸処理をする。より好ましい延伸温度の下限は、45℃以上である。より好ましい延伸温度の上限は、繊維を構成する樹脂の中で融点が最も低い樹脂の融点より10℃低い温度である。延伸温度が40℃未満であると、融点の低い樹脂の結晶化が進みにくいため、熱収縮が大きくなったり、嵩回復性が小さくなったりする傾向がある。延伸温度を融点が最も低い樹脂の融点以上にすると、繊維同士が融着する傾向がある。より好ましい延伸倍率の下限は、1.5倍である。より好ましい延伸倍率の上限は、6倍である。延伸倍率が低すぎると、繊維断面が二つのセクションからなる繊維を製造する場合に、繊維が立体捲縮を発現しようとする作用、即ち熱収縮しようとする力が多く残るため、繊維製造時、あるいは繊維集合物製造時の熱処理によって繊維が大きく収縮するおそれがある。一方、延伸倍率が高すぎると、繊維断面が二つのセクションからなる繊維を製造する場合に、立体捲縮の発現が弱くなる。また、延伸倍率が高すぎると、強い力で延伸するため、繊維の断面形状が崩れて不明瞭となり、得られる繊維において、高い初期嵩および高い嵩回復性といった効果が低下するおそれがある。
【0052】
延伸方法は特に限定されず、温水(40℃以上100℃未満)などの高温の液体で加熱しながら延伸を行う湿式延伸、高温の気体中又は高温の金属ロールなどで加熱しながら延伸を行う乾式延伸、100℃以上の水蒸気を常圧若しくは加圧状態にして繊維を加熱しながら延伸を行う水蒸気延伸などの公知の延伸方法を用いてよい。温水を使用した湿式延伸は、生産性および経済性において優れ、また、未延伸繊維束全体を容易にかつ均一に加熱できる。また、加熱した金属ロールなどを使用する乾式延伸は、100℃を超える高温での延伸処理が比較的容易に行えること、ならびに高温および高延伸倍率での延伸が容易に行えることから、高強度の繊維を与えることができる。
【0053】
得られた延伸フィラメントには、所定量の繊維処理剤を必要に応じて付着させ、クリンパー(捲縮付与装置)で機械捲縮が与えられる。クリンパーで付与する捲縮数は、例えば、8個/25mm〜30個/25mmとしてよく、好ましくは10個/25mm〜28個/25mmであり、より好ましくは12個/25mm〜25個/25mmである。
【0054】
延伸処理の前後において、例えば、機械捲縮を付与した後に、必要に応じて50℃〜120℃、好ましくは60℃〜115℃の乾熱、湿熱、または蒸熱などの雰囲気下でアニーリング処理を施してもよい。アニーリング処理は、機械捲縮を付与した後に実施する場合には、繊維処理剤の乾燥処理を兼ねてよい。その後、所定の繊維長に切断する。
【0055】
繊維が二つ以上のセクションからなる場合には、アニーリング処理の温度によって、得られる繊維における立体捲縮の発現状態に差が生じる。前記アニーリング処理を比較的高温、即ち100〜125℃、好ましくは105〜120℃で行った場合、繊維を構成する二つのセクション間での熱収縮特性の違いから、繊維に歪みが生じ、繊維には立体捲縮が生じる。この繊維は、繊維を製造した段階で立体捲縮を発現しており、顕在捲縮性繊維、また二つのセクションで構成されていることから顕在捲縮性複合繊維とも称される。この繊維は繊維の段階、即ちアニーリングを行った後の連続した繊維の束(繊維トウ)や、繊維トウを所望の長さに切断して得られる短繊維の段階で立体捲縮を発現しているものである。そのため、この繊維は、好ましくは、所望の長さに切断した短繊維の状態で、中綿材料として使用することができる。
【0056】
一方、前記アニーリング処理を比較的低温の50〜110℃、好ましくは60〜105℃で行った場合、繊維には熱収縮が発生しない、あるいは熱収縮の度合いが非常に小さいため、処理後の繊維には、ほとんど立体捲縮が発現していない。低温で処理した後の繊維は、不織布や粒状綿といった繊維集合物にされた後、繊維製造段階でのアニーリング処理の温度よりも高い温度でアニーリング処理されることで、立体捲縮を発現する。この繊維は繊維を製造した段階では立体捲縮を発現していないが、各種繊維集合物にしてから、適当な温度で熱処理を行うことで立体捲縮を発現する(言い換えるならば、潜在化していた熱収縮特性の違いによる歪みを、繊維集合物にしてからのアニーリングで顕在化させる)ため潜在捲縮性繊維、また二つのセクションで構成されていることから潜在捲縮性複合繊維とも称される。
【0057】
以上において説明した本実施形態の繊維は、繊維断面が略H字型の形状を有しているため、同じ繊度の丸断面の繊維と比較して、曲げ剛性および曲げ強度が大きい傾向にある。また、セグメントAおよびBとそれらから延びるセグメントDおよびEが、繊維断面に中空部のような空間を形成している。そのため、この実施形態の繊維は、初期嵩および反発性が大きく、かつ経時的な嵩の減少をより生じにくい繊維集合物、特に、中綿を与え得る。
【0058】
また、本実施形態の繊維はその表面積が大きいため、例えば、セメント、モルタル、コンクリート等の各種水硬性材料に混和する水硬性材料混和用繊維として使用したとき、繊維と無機材料が接触している面積が広くなる。その結果、無機材料から繊維が抜けにくくなり、水硬性材料を補強する効果や、水硬性材料の劣化による剥落を防止する効果を示し得る。
【0059】
本実施形態の繊維の上記特徴(大きな曲げ剛性、高い反発性、中空部のような空間の存在、大きな表面積)は、この繊維を用いて糸(紡績糸、マルチフィラメント、および混繊糸を含む)にした時にも発揮され得る。具体的には、当該糸を各種衣料製品に用いた場合、嵩高性および保温性、ならびに生地触感の弾力性が増す、といった効果が発揮され得る。
【0060】
さらに、この繊維を所望の長さに切断し、不織布とすることも可能である。この繊維を用いた不織布においては、本実施形態の繊維の特徴による効果、即ち、不織布の嵩高性や弾力性の向上が見込めるほか、繊維の断面形状(空洞を有する断面、広い表面積)によって、液体を吸収する性質、いわゆる吸液特性の向上や、汚れを掻き取る性能(ワイピング性能)の向上も見込める。そのため、本実施形態の繊維は、各種吸収性物品の表面シートおよび吸収体、加湿器および園芸用シートに使用される液吸い上げ材、ならびに化粧料含浸皮膚被覆シートに使用する不織布、ならびに対人用、対物用の各種ワイピングシートに使用される不織布に用いることが可能である。
【0061】
(中綿)
本実施形態の繊維は、衣料、寝具、ぬいぐるみ、クッション材、および断熱材等の中綿として用いることができる。中綿は、例えば、本実施形態の繊維を10質量%以上含んでよい。
【0062】
中綿の形態は特に限定されない。例えば、繊維製造後、必要に応じて他の繊維と混合した原綿を、開繊処理に付した後、加圧気体を吹き付けて、そのまま製品中に充填してよく、あるいは袋状物に充填してよい。袋状物に充填された形態の中綿は、袋状物を衣料等に取り付けて用いる。開繊した繊維をそのまま中綿とする場合、本実施形態の繊維は、繊維段階で立体捲縮を発現していてよく、その場合、初期嵩および反発性がより大きく、経時的な嵩の減少がより少ない中綿を得ることができる。あるいは、本実施形態の繊維が繊維段階で立体捲縮を発現していない、即ち潜在捲縮性繊維である場合には、充填の前に、熱処理に付して立体捲縮を発現させてよい。あるいはまた、本実施形態の繊維は、立体捲縮を発現していない又は僅かに発現した状態で中綿として製品等に充填されるとしても、その断面形状に起因して曲げ剛性および曲げ強度が大きいため、得られる中綿は反発性が大きく、経時的な嵩の減少がより少ないものとなる。立体捲縮を発現していない又は僅かに発現した状態は、例えば、潜在捲縮性繊維を熱処理に付さずに用いる場合、あるいは、立体捲縮を発現しにくい繊維、または立体捲縮を発現しない繊維を用いる場合に得られる。以下においても同様である。
【0063】
中綿はまた、繊維同士が絡み合って成る毛玉状物の集合物の形態であってよい。この形態の中綿は、開繊した原綿を毛玉状に加工する加工機を用いることにより製造することができる。毛玉状物の中綿を製造する場合、本実施形態の繊維は、繊維段階で立体捲縮を発現していてよく、その場合、初期嵩がより大きく、経時的な嵩の減少がより少ない中綿を得ることができる。あるいは、本実施形態の繊維が繊維段階で立体捲縮を発現していない、即ち潜在捲縮性繊維である場合には、毛玉状物に加工する前の段階で熱処理に付して立体捲縮を発現させてよい。あるいはまた、本実施形態の繊維は、立体捲縮を発現していない又は僅かに発現した状態で毛玉状物に加工されるとしても、その断面形状に起因して曲げ剛性および曲げ強度が大きいため、得られる中綿は反発性が大きく、経時的な嵩の減少がより少ないものとなる。
【0064】
あるいは、中綿はシート形態であってよい。例えば、本実施形態の繊維を必要に応じて他の繊維と混合した後、カード機等で繊維ウェブを作製してシート状物とし、このシート状物をそのまま中綿として用いてよい。シート状の中綿は複数のシート状物からなる積層体であってよい。シート状の中綿において、本実施形態の繊維が立体捲縮を発現している場合には、中綿の初期嵩がより大きく、経時的な嵩の減少がより少なくなる。あるいは、本実施形態の繊維が繊維段階で立体捲縮を発現していない、即ち潜在捲縮性繊維である場合には、シート状の中綿に加工する段階、あるいはシート状の中綿に加工して、これを対象物に充填した後の段階で、熱処理に付して立体捲縮を発現させてよい。あるいはまた、本実施形態の繊維は、立体捲縮を発現していない又は僅かに発現した状態でシート状の中綿を構成しても、その断面形状に起因して曲げ剛性および曲げ強度が大きいため、得られる中綿は反発性が大きく、経時的な嵩の減少がより少ないものとなる。
【0065】
シート状の中綿においては、繊維同士が接着されていてよい。接着は、熱または超音波によって溶融する樹脂が繊維表面の少なくとも一部を構成する熱接着性繊維、または粉末もしくは液状のバインダー樹脂を付着させた繊維ウェブを熱処理し、繊維ウェブを構成する繊維間を接着する、いわゆる熱接着(サーマルボンド)であってよい。熱接着性繊維は、例えば、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、および直鎖状低密度ポリエチレンを含む)が繊維表面の少なくとも一部を占める単一繊維または複合繊維であってよい。バインダー樹脂は、中綿の製造に用いられている樹脂、例えば、アクリル系およびポリウレタン系のものを任意に使用してよい。
あるいは、接着は、接着剤または溶剤を含む化学薬品を使用して、繊維ウェブを構成する繊維間を接着する、いわゆるケミカルボンドであってよい。
【0066】
本実施形態の繊維が二つ以上のセクションからなる繊維である場合、熱接着性繊維またはバインダー樹脂による熱接着処理の際に、本実施形態の繊維が熱に曝されて、立体捲縮を発現することがあり、あるいは発現していた立体捲縮の度合いがより強くなることがある。そのため、得られる中綿は、繊維同士の熱接着により形態保持性を有するとともに、発現した立体捲縮により伸縮性を有するものとなる。そのような中綿は、例えば、編物を基布とする中綿入りジャケットの中綿に適しており、編物の伸縮に追随して伸縮することができる。シート状の中綿を、後述するように、繊維ウェブを作製してから、熱処理する方法で製造する場合において、熱処理が熱接着を伴わないときには、繊維の自由度が大きく、より柔軟な中綿が得られる。
【0067】
シート状の中綿は、本実施形態の繊維を10質量%以上含む繊維ウェブを作成することを含む方法によって製造される。繊維ウェブは、不織布等の製造に用いられるカード機を用いて、あるいは空気流の作用を利用するエアレイ法を用いて作製してよい。繊維ウェブは必要に応じて、熱処理に付される。熱処理は熱接着を伴うものであってよい。本実施形態の繊維が複合繊維である場合には、熱処理により、立体捲縮を発現させてよく、ならびに/あるいは繊維に発現している立体捲縮の度合いを強めてよい。
【0068】
熱接着を伴う熱処理が、バインダー樹脂を付着させた繊維ウェブを加熱する熱接着処理である場合、バインダー樹脂は例えばスプレー法により繊維ウェブに付着させてよい。付着量は、例えば、繊維ウェブの5質量%〜100質量%としてよい。
【0069】
熱接着性繊維を混合して繊維ウェブを作製する場合には、熱処理を熱接着性繊維が軟化または溶融するように実施してよい。熱接着性繊維を混合する場合、繊維ウェブ中の熱接着性繊維の割合は、例えば10質量%〜90質量%としてよい。
【0070】
シート状の中綿の目付は特に限定されず、用途等に応じて適宜選択される。例えば、シート状の中綿をジャケットの中綿として用いる場合には、15g/m
2〜150g/m
2の目付、好ましくは20g/m
2〜120g/m
2の目付を有してよい。また、シート状の中綿は、例えば、30cm
3/g〜5000cm
3/gの比容積を有し、好ましくは50cm
3/g〜2500cm
3/gの比容積を有する。比容積は中綿の嵩高性を示す指標であり、これが小さすぎると、中綿の嵩が小さくて、十分な暖かさおよびクッション性等、中綿に求められる機能を得られないことがある。
【0071】
本実施形態の繊維を含む中綿はいずれの形態においても、好ましくは本実施形態の繊維を10質量%以上含み、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上含む。あるいは、中綿は本実施形態の繊維のみで構成されていてよい。
【0072】
中綿が他の繊維を含む場合、他の繊維は例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、およびその共重合体などのポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン66、およびその共重合体などのポリアミド系樹脂、ポリメチルペンテンおよびポリエチレン(高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンを含む)などのポリオレフィン系樹脂、ならびにアクリル系樹脂から選択される、1または複数の熱可塑性樹脂からなる合成繊維であってよい。合成繊維は単一繊維および複合繊維のいずれであってもよい。前記のように、シート状の中綿において、繊維同士を熱接着性繊維で接合する場合には、他の繊維として、熱接着性繊維が用いられる。
あるいは、他の繊維は、コットン、シルク、ウール、麻、およびパルプなどの天然繊維、レーヨン、キュプラ、および溶剤紡糸セルロース繊維などの再生繊維であってよい。あるいはまた、本実施形態の繊維は、羽毛(ダウン、フェザー)とともに用いてよい。
【0073】
本実施形態の繊維と組み合わせる他の繊維として、本実施形態の繊維よりも小さい繊度を有する細い繊維が好ましく用いられる。細い繊維を併用することにより、中綿の保温性を高めることができ、また、中綿の触感を柔らかなものとすることができる。具体的には、例えば、4.4dtex〜15dtexの繊度を有する本実施形態の繊維と、0.1dtex〜2.0dtexの繊度を有する他の繊維を用いて中綿を構成してよい。細い繊維は、合成繊維であってよく、あるいは再生繊維であってもよい。特に、細い繊維をポリプロピレン繊維とする場合、ポリプロピレンは熱伝導率が低く、密度が小さいので、得られる中綿はより軽く、より高い保温性を示す。
【0074】
本実施形態の繊維と細い繊維とを合わせた質量を100質量%としたとき、細い繊維は10質量%〜90質量%の割合で含まれることが好ましく、15質量〜85質量%の割合で含まれているとより好ましい。細い繊維の割合が少ないと、細い繊維を混合することによる効果が得られないことがあり、多すぎると、本実施形態の繊維を含むことによる効果が得られないことがある。
【0075】
本実施形態の繊維を含む中綿は、ジャケットおよびベスト等の各種防寒着等の衣料、ベッド、敷布団、掛布団、ベッドマット、マットレス、および枕等の寝具、ぬいぐるみ、クッション材(例えば、自動車用、航空機用、鉄道車両用、および船舶用の座席に使用するクッション材のほか、一般家庭用、および事務用の座席に使用するクッション材、衣料用パッド(例えば、女性のブラジャーのパッド、肩パッド、肘当てパッド、および膝当てパッド等)、膝掛け、ならびに断熱材、保温材、吸音材、遮音材、および防振材等に用いてよい。
【0076】
(繊維集合物)
本実施形態の繊維は、中綿以外の用途に適用してよい。その場合、本実施形態の繊維は、これを10質量%以上含む繊維集合物の形態で用いてよい。本実施形態の繊維以外の他の繊維を含む場合、他の繊維の例は、先に中綿に関連して説明したとおりである。
【0077】
繊維集合物は、例えば、織物、編物または不織布であってよく、特に不織布であってよい。不織布は、例えば、熱接着性繊維またはバインダーで繊維同士が熱接着された熱接着不織布、および繊維同士が交絡してなる交絡不織布であってよい。本実施形態の繊維を含む不織布は、より嵩高であり、かつ経時的な嵩の減少がより少ない。さらに、本実施形態の繊維が二つ以上のセクションからなる、いわゆる複合繊維である場合、これを含む不織布は複合繊維に発現している立体捲縮によって伸縮性を示すことができる。特に、繊維ウェブを作製した後、必要に応じて交絡処理(例えばニードルパンチ処理または高圧流体流処理)を施した後、熱処理を施して複合繊維に立体捲縮を発現させる、ならびに/あるいは既に発現している立体捲縮の度合いを強くする方法で作製された不織布は、より高い伸縮性を示す。
【0078】
本実施形態の繊維を含む繊維集合物は、例えば、マスク、サポーターおよび包帯等の衛生物品;紙おむつ、生理用ナプキン、およびおりもの用シート等の吸収性物品;化粧料等の液体を含浸させた液体含浸皮膚被覆シート(例えば、フェイスマスク、角質ケアシート、およびデコルテシート等);ワイパー;ウエットティッシュ;緩衝材;包装材料等の本体、またはそれらを構成する部材(例えば、吸収性物品の表面シート)に適している。
【実施例】
【0079】
実施例で作製する繊維を構成する熱可塑性樹脂として、以下のものを用意した。
(ポリプロピレン樹脂)
PP−A:株式会社プライムポリマー製、商品名CJ700、融点160℃、MFR10g/10分、紡糸前のQ値10.7(紡糸後は6.7)
PP−B:株式会社プライムポリマー製、商品名S105HG、融点160℃、MFR30g/10分、紡糸後のQ値5.2
【0080】
(プロピレン共重合体)
EP:株式会社プライムポリマー製、商品名Y2045GP、融点140℃、MI30g/10分、エチレン含有量4.78質量%のプロピレン・エチレン共重合体
【0081】
(ポリオレフィン系エラストマー)
PPR−A:日本ポリプロ株式会社製、商品名WELNEX(登録商標)、融点150℃、MI30g/10分、ゴム成分がナノ分散したポリプロピレンエラストマー
【0082】
[実施例1]
前記の熱可塑性樹脂から、PP−A、PP−B、EPおよびPPR−Aを選択した。まず、PP−AとPP−Bを質量比で50:50になるように秤量し、十分に撹拌する。次にEPとPPR−Aを質量比で85:15になるように秤量し十分に撹拌する。得られたPP−AとPP−Bの混合物と、EPとPPR−Aの混合物を別々の押出機に投入し、230〜260℃に昇温して十分に溶融させた。これらの樹脂をそれぞれ、
図4(b)に示す繊維断面を有する繊維が得られるように設計されたノズル(複合ノズル)を用い、複合比(容積比)を50/50として、溶融押出し、引取速度を450m/minとして、繊度18dtexの紡糸フィラメントを得た。
【0083】
前記紡糸フィラメントを、90℃の温水中で3.0倍に延伸し、繊度6.7dtexの延伸フィラメントとした。次いで、繊維処理剤を付与した後、延伸フィラメントに対し、スタッフィングボックス型クリンパーを使用して13個/25mmの機械捲縮を付与した。次いで、115℃に設定した熱風貫通式熱処理機にて15分間、アニーリング処理と乾燥処理を同時に実施し、フィラメントを64mmの繊維長に切断して複合繊維を得た。得られた繊維は、繊維段階で立体捲縮を発現していた。また、繊維断面において、各セグメントの幅は、セグメントA、Bが8.9μm、セグメントD、Eが8.3μm、セグメントCは10.3μmであった。また、セグメントAとセグメントDの交点と、セグメントBとセグメントEの交点とを結ぶ線分L1の長さは52.2μm、セグメントCに沿って延びるセグメントAの外縁とセグメントBの外縁とを結ぶ線分L2が26.9μm(L1/L2は1.95)であった。
【0084】
[実施例2]
前記の熱可塑性樹脂から、PP−A、PP−B、EPおよびPPR−Aを選択した。まず、PP−AとPP−Bを質量比で50:50になるように秤量し、十分に撹拌する。次にEPとPPR−Aを質量比で85:15になるように秤量し十分に撹拌する。得られたPP−AとPP−Bの混合物と、EPとPPR−Aの混合物を別々の押出機に投入し、230〜260℃に昇温して十分に溶融させた。これらの樹脂をそれぞれ、
図4(b)に示す繊維断面を有する繊維が得られるように設計されたノズル(複合ノズル)を用い、複合比(容積比)を50/50として、溶融押出し、引取速度を340m/minとして、繊度35dtexの紡糸フィラメントを得た。
【0085】
前記紡糸フィラメントを、90℃の温水中で2.5倍に延伸し、繊度15dtexの延伸フィラメントとした。次いで、繊維処理剤を付与した後、延伸フィラメントに対し、スタッフィングボックス型クリンパーを使用して13個/25mmの機械捲縮を付与した。次いで、115℃に設定した熱風貫通式熱処理機にて15分間、アニーリング処理と乾燥処理を同時に実施し、フィラメントを64mmの繊維長に切断して繊維を得た。得られた繊維は、繊維段階で立体捲縮を発現していた。また、繊維断面において、各セグメントの幅は、セグメントA、Bが12.5μm、セグメントD、Eが12.6μm、セグメントCは14.2μmであった。また、セグメントAとセグメントDの交点と、セグメントBとセグメントEの交点とを結ぶ線分L1の長さは83.4μm、セグメントCに沿って延びるセグメントAの外縁とセグメントBの外縁とを結ぶ線分L2が41.3μm(L1/L2は2.02)であった。
【0086】
[比較例1]
前記の熱可塑性樹脂から、PP−BおよびEPとPPR−Aの混合物(EPとPPR−Aの質量比は実施例1と同じくEP:PPR−A=85:15(質量比))を選択した。これらの樹脂をそれぞれ、繊維外形が円形であり中空部を有し、かつ二つのセクションがサイド・バイ・サイド型に配置される中空複合繊維(中空率15%)が得られるように設計されたノズルを用い、複合比(容積比)を50/50として、紡糸温度260℃にて溶融押出し、引取速度を450m/minとして、繊度18dtexの紡糸フィラメントを得た。
【0087】
前記紡糸フィラメントを、90℃の温水中で3.0倍に延伸し、繊度6.7dtexの延伸フィラメントとした。次いで、繊維処理剤を付与した後、延伸フィラメントにスタッフィングボックス型クリンパーにて、13個/25mmの機械捲縮を付与した。次いで、110℃に設定した熱風貫通式熱処理機にて15分間、アニーリング処理と乾燥処理を同時に実施した後、フィラメントを64mmの繊維長に切断して複合繊維を得た。得られた複合繊維においては、二つのセクションが中空部の周囲にサイド・バイ・サイド型に配置されており、繊維段階で立体捲縮を発現していた。
【0088】
[比較例2]
前記の熱可塑性樹脂から、一つのセクションを構成するものとして、PP−Bを選択し、別のセクションを構成するものとして、EP(混合率85質量%)およびPPR−A(混合率15質量%)を選択した。二つのセクションの複合比(容積比)を5/5として、紡糸温度270℃にて溶融押出し、引取速度を280m/minとして、PP−B、EPとPPR−Aの混合樹脂がサイド・バイ・サイド型に配置された、繊度20dtexの紡糸フィラメントを得た。
【0089】
前記紡糸フィラメントを、70℃の温水中で3.5倍に延伸し、繊度6.7dtexの延伸フィラメントとした。次いで、繊維処理剤を付与した後、延伸フィラメントにスタッフィングボックス型クリンパーにて、13個/25mmの機械捲縮を付与した。次いで、90℃に設定した熱風貫通式熱処理機にて15分間、アニーリング処理と乾燥処理を同時に実施した後、フィラメントを38mmの繊維長に切断して複合繊維を得た。得られた複合繊維は繊維段階で立体捲縮を発現していた。
【0090】
[比較例3]
繊維断面が、通常のH字型、すなわちセグメントA〜Cのみからなり、セグメントDおよびEを有しない点で本実施形態とは異なる形状となるようなノズルを用いたこと以外は実施例1と同様にして、繊度6.7dtexの繊維を製造した。得られた繊維は、繊維段階で立体捲縮を発現していた。
【0091】
実施例1、比較例1および2で得た繊維について、以下に説明するボックステストによる嵩高性試験を実施した。結果を表1に示す。
(嵩高性試験)
パラレルカードを用いて開繊した短繊維を30g用意する。この開繊綿をアクリル製の円柱形ボックス(円柱形ボックスの直径:約200mm)に充填し、紙をサンプルの上に載せた状態で、開繊綿の初期厚さ(初期嵩)を金属製直定規にて測定する。続いて、充填した開繊綿の上に、アクリル製蓋(直径:約200mm)とウェイトを載せ、450gfの荷重がボックス内の繊維に加わった状態にて、1分、10分、30分経過したときの開繊綿の厚さを測定する。
ウェイトを載せて30分経過した後、ウェイトとアクリル製蓋を取り除き、除重してから1分、10分、30分経過したときの開繊綿の厚さを金属製直定規で測定する。合わせて、初期厚さに対する、厚さの減少割合(へたり率)を下記の式にて算出する。
へたり率(%)=[(初期厚さ(mm)−除重30分後厚さ(mm))/初期厚さ(mm)]×100
【0092】
また、実施例1、ならびに比較例1〜3で得た繊維を、繊度1.3dtexのポリプロピレン繊維と混合したもの(混合比50:50(質量比))について、上記ボックステストによる嵩高性試験を実施した。結果を表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
他の繊維と混合せずに嵩高性試験に付した場合には、実施例1が初期厚さ(初期嵩)、荷重後の厚さ、および除重後の厚さのいずれにおいても大きい値を示し、ヘタリ率も小さかった。すなわち、実施例1は、初期嵩、反発性、嵩回復性、およびへたりにくさのいずれにおいても優れていた。また、他の繊維と混合した場合でも、実施例1は初期厚さ、荷重後の厚さ、および除重後の厚さのいずれにおいても大きい値を示した。比較例3は初期厚さが小さく、そのため、荷重後の厚さおよび除重後の厚さがともに小さかった。これは、細い繊度が「カギ」の無いH字の開放部に入りこんでしまったことによると考えられる。ただし、比較例3は、最も小さいヘタリ率を示し、これは繊維断面がH字型であって高い曲げ剛性を有していることによると考えられる。
【0095】
本発明は以下の態様のものを含む。
(態様1)
繊維断面が、
端部a1と端部a2とを有する直線又は曲線セグメントA(以下、「セグメントA」と呼ぶ)と、
端部b1と端部b2とを有する直線又は曲線セグメントB(以下、「セグメントB」と呼ぶ)と、
セグメントAとセグメントBとをつなぐ直線または曲線セグメントC(以下、「セグメントC」と呼ぶ)と
を有する略H字型の形状を有し、
セグメントCを境として、一方の側を上側、他方の側を下側としたときに、端部a1と端部b1とがともに上側にあり、端部a2と端部b2とがともに下側にあり、
端部a1および端部a2のうちいずれか一方からセグメントBの側に向かって延び、かつセグメントBと接合していない、直線または曲線セグメントD(以下、「セグメントD」と呼ぶ)と、
セグメントBの端部b1および端部b2のうち、セグメントDが延びる端部とは反対側にある端部から、セグメントAの側に向かって延び、かつセグメントAと接合していない、直線または曲線セグメントEとをさらに有する、
繊維。
(態様2)
セグメントAとセグメントDの交点と、セグメントBとセグメントEの交点とを結ぶ線分L1と、セグメントCに沿って延びるセグメントAの外縁とセグメントBの外縁とを結ぶ線分L2が、1.05≦(L1の長さ/L2の長さ)≦4.0を満たす、態様1の繊維。
(態様3)
セグメントCは、1箇所以下の曲がり部を有する、態様1または2の繊維。
(態様4)
繊維断面が二つのセクションからなり、一方のセクションに含まれる少なくとも一つの樹脂と、他方のセクションに含まれる少なくとも一つの樹脂とが、物性および/または組成において互いに異なっている、態様1〜3のいずれかの繊維。
(態様5)
二つのセクションが、セグメントCを境として上下に分かれている、態様4の繊維。
(態様6)
波形状捲縮および/または螺旋状捲縮を有する、態様4または5の繊維。
(態様7)
二つのセクションがそれぞれ、ポリプロピレンを含むセクション、およびエチレン含有量が1質量%以上15質量%以下であるプロピレン・エチレン共重合体を含むセクションである、態様4〜6のいずれかの繊維。
(態様8)
繊維断面が一つのセクションからなり、当該セクションがポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、およびナイロン66からなる群から選ばれる少なくとも一つの熱可塑性樹脂を含む、態様1〜3のいずれかの繊維。
(態様9)
態様1〜8のいずれかの繊維を10質量%以上含んでなる、繊維集合物。
(態様10)
態様1〜8のいずれかの繊維を10質量%以上含んでなる、中綿。
(態様11)
前記繊維の繊度よりも小さい繊度の合成繊維をさらに含む、態様10の中綿。