(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6622104
(24)【登録日】2019年11月29日
(45)【発行日】2019年12月18日
(54)【発明の名称】可変指向性コンデンサマイクロホンエレメント
(51)【国際特許分類】
H04R 19/04 20060101AFI20191209BHJP
【FI】
H04R19/04
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-23331(P2016-23331)
(22)【出願日】2016年2月10日
(65)【公開番号】特開2017-143405(P2017-143405A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2018年12月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100083404
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100166752
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 典子
(72)【発明者】
【氏名】秋野 裕
【審査官】
渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭61−184394(JP,U)
【文献】
特開昭57−173300(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1支持リングに張設された第1振動板および上記第1支持リングと同径の第2支持リングに張設された第2振動板の2つの振動板と、両面に電極面を有する1つの固定極とを含み、上記固定極の一方の電極面側に上記第1振動板が配置され、他方の電極面側に上記第2振動板が配置されている可変指向性コンデンサマイクロホンエレメントにおいて、
上記固定極は、その両面に上記支持リングの内径よりも小径で上記各電極面に対する上記各振動板の有効振動面を規定するスペーサリングを備え、上記固定極の厚さ方向に沿った上記スペーサリングの頂部間の距離をLとして、上記第1支持リングと上記第2支持リングの対向面同士を上記距離Lよりも狭い距離内で相互に接近もしくは離反するように移動させて上記各振動板の張力を調整する張力調整手段を備えていることを特徴とする可変指向性コンデンサマイクロホンエレメント。
【請求項2】
上記張力調整手段は、上記第1支持リングと上記第2支持リングとにそれぞれ所定の間隔をもって円周方向に配置されていて対として互いに同軸に位置合わせされるように形成された一方が無ねじ孔で他方が雌ねじ孔である複数の孔対と、上記無ねじ孔側から上記雌ねじ孔に螺合する有頭の雄ねじとを備えていることを特徴とする請求項1に記載の可変指向性コンデンサマイクロホンエレメント。
【請求項3】
上記張力調整手段は、上記固定極の外周に形成されるフランジ部に所定の間隔をもって円周方向に形成される複数のねじ挿通孔をさらに備え、この複数のねじ挿通孔と上記複数の孔対とが同軸に位置合わせされることを特徴とする請求項2に記載の可変指向性コンデンサマイクロホンエレメント。
【請求項4】
上記複数の孔対のうち、奇数番目の孔対では上記第1支持リング側が上記無ねじ孔で上記第2支持リング側が上記雌ねじ孔であり、偶数番目の孔対では上記第1支持リング側が上記雌ねじ孔であり上記第2支持リング側が上記無ねじ孔であることを特徴とする請求項2または3に記載の可変指向性コンデンサマイクロホンエレメント。
【請求項5】
上記複数の孔対の全部において、上記第1支持リング側が上記無ねじ孔で上記第2支持リング側が上記雌ねじ孔であることを特徴とする請求項2または3に記載の可変指向性コンデンサマイクロホンエレメント。
【請求項6】
上記スペーサリングは、上記固定極とは別部材として上記固定極の外周端に嵌合されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の可変指向性コンデンサマイクロホンエレメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定極の一方と他方の両電極面に振動板を配置してなる可変指向性コンデンサマイクロホンエレメントに関し、さらに詳しく言えば、振動板の張力を固定極に取り付けた状態で調整する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
可変指向性コンデンサマイクロホンエレメントにおいて、その前後の音響端子は振動板で形成され、前後の振動板に印加する電圧によって指向性が連続的にするが、指向性を変えたときの指向周波数応答を正常にするためには、前後のエレメントの音響特性が同一であることが条件とされる。
【0003】
そこで、特許文献1には、振動板に圧力等価用の開口部を形成して前後のエレメントの音響抵抗を一致させることが提案されている。しかしながら、低域では振動板のスチフネスが優位になることから、振動板の張力を前後で一致させる必要がある。
【0004】
振動板として、一方の面に金属蒸着膜を有するPPS等の高分子フィルムを用いる場合には、その材料コストが安価であるため、振動板を支持リング(ダイアフラムリング)に貼り付けてスチフネスを測定し、そのスチフネスが一致したものを選別して組み合わせるようにしている。なお、スチフネスが一致しないものについては、通常、廃棄処分としている。
【0005】
ところで、感度を高めるためにエレメントの径を大きくすると、それに伴って振動板には高いスチフネスが必要になるが、高分子フィルムに高い張力を加えると、クリープが多く発生する。
【0006】
チタン等の金属箔によれば、高い張力を加えてもクリープが発生しにくいが、この種の金属箔は高価であるため、高分子フィルムのときのように、振動板を多数作成してスチフネスが一致したものを選別して用いることはコスト的に好ましくない。
【0007】
そこで、無駄となる廃棄振動板の数を少なくするため、エレメントに組み立てた状態で振動板の張力を調整することが行われている。その従来例を
図5により説明する。
【0008】
図5に示す可変指向性コンデンサマイクロホンエレメント1Bは、1つの固定極10に対して2つの振動板20L,20Rを備える。固定極10は、両面に電極面10L,10Rを有し、外周のフランジ部には複数の雌ねじ孔11が形成されている。
【0009】
振動板20L,20Rは、それぞれ、支持リング(ダイアフラムリング)30L,30Rに貼り付けられた状態で、固定極10の電極面10Lと10Rとに対向するように配置される。
【0010】
支持リング30L,30Rは同径で、この例では、円周方向に沿って等間隔でそれぞれ複数(この例では9個)のねじ挿通孔31L,31Rを有している。これらねじ挿通孔31L,31Rに対応して、固定極10外周のフランジ部には18個の雌ねじ孔11が等間隔で設けられている。
【0011】
支持リング30Lを固定極10に取り付けるには、一方の電極面10L側において、その各ねじ挿通孔31Lを例えば奇数番目の雌ねじ孔11と同軸となるように位置合わせし、各ねじ挿通孔31Lより雄ねじ32Lを挿通して雌ねじ孔11に螺合する。
【0012】
また、支持リング30Rを固定極10に取り付けるには、他方の電極面10R側において、その各ねじ挿通孔31Rを例えば偶数番目の雌ねじ孔11と同軸となるように位置合わせし、各ねじ挿通孔31Rより雄ねじ32Rを挿通して雌ねじ孔11に螺合する。
【0013】
このようにして、振動板20L,20Rを支持リング30L,30Rを介して固定極10に取り付けた後、雄ねじ32L,32Rの雌ねじ孔11に対するねじ込み量によって各振動板20L,20Rの張力が同じになるように調整する。
【0014】
これによれば、廃棄振動板の発生を極力少なくして歩留まりよく、各振動板20L,20Rの張力を調整することができるが、振動板20Lと振動板20Rとで別々に張力を調整するようにしているため、その調整に多くの時間がかかる、という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平9−84195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、本発明の課題は、固定極の両電極面に振動板を配置してなる可変指向性コンデンサマイクロホンエレメントにおいて、各振動板を固定極に取り付けた状態でその張力を短時間で調整できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、本発明は、第1支持リングに張設された第1振動板および上記第1支持リングと同径の第2支持リングに張設された第2振動板の2つの振動板と、両面に電極面を有する1つの固定極とを含み、上記固定極の一方の電極面側に上記第1振動板が配置され、他方の電極面側に上記第2振動板が配置されている可変指向性コンデンサマイクロホンエレメントにおいて、上記固定極は、その両面に上記支持リングの内径よりも小径で上記各電極面に対する上記各振動板の有効振動面を規定するスペーサリングを備え、上記固定極の厚さ方向に沿った上記スペーサリングの頂部間の距離をLとして、上記第1支持リングと上記第2支持リングの対向面同士を上記距離Lよりも狭い距離内で相互に接近もしくは離反するように移動させて上記各振動板の張力を調整する張力調整手段を備えていることを特徴としている。
【0018】
好ましい態様として、上記張力調整手段は、上記第1支持リングと上記第2支持リングとにそれぞれ所定の間隔をもって円周方向に配置されていて対として互いに同軸に位置合わせされるように形成された一方が無ねじ孔で他方が雌ねじ孔である複数の孔対と、上記無ねじ孔側から上記雌ねじ孔に螺合する有頭の雄ねじとを備えている。
【0019】
上記張力調整手段には、上記固定極の外周に形成されるフランジ部に所定の間隔をもって円周方向に形成される複数のねじ挿通孔をさらに備え、この複数のねじ挿通孔と上記複数の孔対とが同軸に位置合わせされる態様が含まれてよい。
【0020】
いずれにしても、上記複数の孔対のうち、奇数番目の孔対では上記第1支持リング側が上記無ねじ孔で上記第2支持リング側が上記雌ねじ孔であり、偶数番目の孔対では上記第1支持リング側が上記雌ねじ孔であり上記第2支持リング側が上記無ねじ孔であることが好ましい。
【0021】
なお、別の態様として、上記複数の孔対の全部において、上記第1支持リング側が上記無ねじ孔で上記第2支持リング側が上記雌ねじ孔であってもよい。
【0022】
また、本発明には、上記スペーサリングは、上記固定極とは別部材として上記固定極の外周端に嵌合されている態様も含まれる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、第1振動板の第1支持リングと第2振動板の第2支持リングとを相互に接近もしくは離反するように移動させる張力調整手段を備えていることにより、第1振動板と第2振動板の各張力を同時に一致させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明による可変指向性コンデンサマイクロホンエレメントを(a)一方の振動板側から見た正面図,(b)他方の振動板側から見た背面図,(c)同図(a)のA−A線断面図。
【
図2】本発明の要部を分解して示す
図1(c)と同様の断面図。
【
図4】スペーサリングについて本発明の別の実施形態を示す断面図。
【
図5】振動板の張力調整方法の従来例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、
図1ないし
図4により、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0026】
図1ないし
図3を参照して、この実施形態に係る可変指向性コンデンサマイクロホンエレメント(以下、単に「マイクロホンエレメント」と言うことがある。)1Aは、基本的な構成として、1つの固定極10と、2つの振動板20L,20Rとを備えている。
【0027】
固定極10は金属の円盤体からなり、その両面に電極面10L,10Rを有し、電極面10L,10Rの周りには、リブ状のスペーサリング12,12が形成されている。また、固定極10の外周には、フランジ部14が一体に形成されている。
【0028】
なお、
図1(c)の断面図に示すように、固定極10には、各電極面10L,10Rに所定の音響質量を得るための音溝10aと、各電極面10L,10間を連通する音響抵抗孔10bとが形成されているが、本発明において、これら音溝10aや音響抵抗孔10bは任意的な構成である。
【0029】
振動板20Lは、支持リング(ダイアフラムリング)30Lに張設された状態で一方の電極面10L側に配置される。同様に、振動板20Rも、支持リング(ダイアフラムリング)30Rに張設された状態で他方の電極面10R側に配置される。
【0030】
この実施形態では、振動板20L,20Rには、片面に金属蒸着膜を有する高分子フィルムが用いられ、その金属蒸着膜側が接着材等を介して支持リング30L,30Rに貼着されている。また、振動板20L,20Rは、あらかじめ張力が揃えられた状態で支持リング30L,30Rに貼着されている。
【0031】
支持リング30L,30Rは、外径,内径ともに同一である金属リングよりなり、その各々には、振動板20L,20Rの張力調整用のねじが螺合もしくは挿通される孔が同数として円周方向に沿って等間隔で設けられている。
【0032】
この実施形態によると、支持リング30L,30Rともに、18個の孔が等間隔(20゜間隔)で穿設されている。また、固定極10のフランジ部14にも、18個のねじ挿通孔13が20゜間隔で穿設されている。
【0033】
支持リング30L側の孔を33L(1)〜33L(18)とし、支持リング30R側の孔を33R(1)〜33R(18)として、これら孔を同軸に位置合わせすると、33L(1):33R(1)の対、33L(2):33R(2)の対、……33L(18):33R(18)の対の18個の孔対となる。
【0034】
なお、
図1(a)において、支持リング30L側の偶数番目の孔33L(2),(4),(6),(8),(10),(12),(14),(16),(18)は、それぞれ雄ねじ32Lにより隠されており、また、
図1(b)においても、支持リング30R側の奇数番目の孔33R(1),(3),(5),(7),(9),(11),(13),(15),(17)は、それぞれ雄ねじ32Rにより隠されている。
【0035】
上記の18個の孔対の組合せにおいて、この実施形態では、奇数番目の孔対33L(1):33R(1)〜33L(17):33R(17)については、支持リング30L側の孔33L(1),(3),(5),(7),(9),(11),(13),(15),(17)を雌ねじ孔とし、これに対して、支持リング30R側の孔33R(1),(3),(5),(7),(9),(11),(13),(15),(17)を雌ねじを有しない単なる無ねじ孔としている。
【0036】
また、偶数番目の孔対33L(2):33R(2)〜33L(18):33R(18)については、支持リング30L側の孔33L(2),(4),(6),(8),(10),(12),(14),(16),(18)を雌ねじを有しない単なる無ねじ孔とし、これに対して、支持リング30R側の孔33R(2),(4),(6),(8),(10),(12),(14),(16),(18)を雌ねじ孔としている。
【0037】
この実施形態によると、振動板20L,20Rの張力調整には、18本の雄ねじ32が使用されるが、説明の便宜上、振動板20Lの支持リング30L側から適用される雄ねじを32L,振動板20Rの支持リング30R側から適用される雄ねじを32Rとする。なお、各雄ねじ32には、ねじ山、ピッチが同一の有頭雄ねじが用いられている。
【0038】
マイクロホンエレメント1Aを組み立てて、振動板20L,20Rの張力を調整するにあたっては、振動板20Lが張設された支持リング30Lを固定極10の一方の電極面10L側、振動板20Rが張設された支持リング30Rを他方の電極面10R側に配置し、支持リング30L側の孔33L,フランジ部14のねじ挿通孔13および支持リング30R側の孔33Rを同軸となるように位置合わせする。
【0039】
そして、支持リング30L側からは、
図1(a)に示すように、偶数番目の無ねじ孔33L(2),(4),(6),(8),(10),(12),(14),(16),(18)に雄ねじ32Lを挿通して、相手方である支持リング30R側の雌ねじ孔33R(2),(4),(6),(8),(10),(12),(14),(16),(18)に螺合する。
【0040】
同様に、支持リング30R側からは、
図1(b)に示すように、奇数番目の無ねじ孔33R(1),(3),(5),(7),(9),(11),(13),(15),(17)に雄ねじ32Rを挿通して、相手方である支持リング30L側の雌ねじ孔33L(1),(3),(5),(7),(9),(11),(13),(15),(17)に螺合する。
【0041】
スペーサリング12,12は、支持リング30L,30Rの内径よりも小径である。なお、スペーサリング12,12はともに同径かつ電極面10L,10Rに対する高さも同一であり、固定極10の厚さ方向に沿ったスペーサリング12,12の頂部間のスペーサ間距離をLとする。
【0042】
雄ねじ32L,32Rを締め付けて、支持リング30L,30Rを相対的に引き寄せてその対向面間の距離Laを上記スペーサ間距離Lよりも狭めると、各振動板20L,20Rがスペーサリング12,12に接触し、電極面10L,10Rに対向する有効振動面が規定されるとともに、振動板20L,20Rの張力が同時に高められる。
【0043】
La<Lであれば、雄ねじ32L,32Rを締め付ける方向に回すにしても、緩める方向に回すにしても、支持リング30L,30Rは同じ距離移動する。
【0044】
したがって、雄ねじ32L,32Rを操作して、上記スペーサ間距離Lよりも狭い範囲内で、支持リング30L,30Rの対向面同士を相互に接近もしくは離反させることにより、振動板20L,20Rの張力を同時に所定の張力となるように調整することができる。このことは、一方の振動板(例えば20L側)の張力を適正な値にすれば、他方の振動板(例えば20R側)の張力も適正値になることを意味している。
【0045】
なお、上記実施形態と異なり、例えば、支持リング30L側の孔33Lをすべて無ねじ孔にするとともに、支持リング30R側の孔をすべて雌ねじ孔として、支持リング30L側からすべての雄ねじ32をねじ込むようにしてもよい。
【0046】
また、振動板20L,20Rにチタン等の金属箔を用いる場合には、固定極10と電気的に絶縁する必要がある。それには、スペーサリング12を合成樹脂製として電極面10L,10Rの周りに貼り付けてもよいが、好ましくは
図4に示すように、スペーサリング12として機能する内輪鍔12a,12aを有する電気絶縁材よりなるフランジリング15を固定極10の外周端に嵌合させるとよい。
【0047】
また、使用する雄ねじ32は、その軸部の全長にわたってねじ山が形成されていてもよいし、軸部の先端部にのみねじ山が形成された雄ねじであってもよい。
【符号の説明】
【0048】
1A 可変指向性コンデンサマイクロホンエレメント
10 固定極
10L,10R 電極面
12 スペーサリング
14 フランジ部
20L,20R 振動板
30L,30R 支持リング(ダイアフラムリング)
32(32L,32R) 雄ねじ
33L,33R 雌ねじ孔もしくは無ねじ孔