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特許6622134ハニカム構造体及びハニカム構造体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6622134
(24)【登録日】2019年11月29日
(45)【発行日】2019年12月18日
(54)【発明の名称】ハニカム構造体及びハニカム構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 37/00 20060101AFI20191209BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20191209BHJP
   C04B 38/08 20060101ALI20191209BHJP
【FI】
   C04B37/00 A
   C04B38/00 303Z
   C04B38/08 B
   C04B38/08 C
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-70562(P2016-70562)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-178722(P2017-178722A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年10月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】木村 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】河野 隆太
(72)【発明者】
【氏名】市川 周一
【審査官】 山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−187044(JP,A)
【文献】 特開2013−203572(JP,A)
【文献】 特開2014−198652(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/096851(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/00
C04B 38/00 − 38/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流路となる一方の端面である第一端面から他方の端面である第二端面まで延びる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有する複数個の柱状のハニカムセグメントと、
前記複数個のハニカムセグメントの側面同士を接合するように配置され、結晶質の異方性セラミックスを含有する多孔質の接合層と、を備え、
前記接合層の細孔分布において、細孔径10μm以上50μm未満の細孔を微細気孔とし、細孔径50μm以上300μm以下の細孔を粗大気孔としたとき、
前記粗大気孔の細孔容積(cc/g)に対する前記微細気孔の細孔容積(cc/g)の比の値は、2.0〜3.5であり、
前記微細気孔の細孔容積が、0.15〜0.4cc/gであり、前記粗大気孔の細孔容積が、0.05〜0.25cc/gであるハニカム構造体。
【請求項2】
前記接合層の気孔率が65〜75%である請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
前記結晶質の異方性セラミックスが、ォラストナイト、マイカ、タルク、セピオライト、アルミナ繊維、ムライト繊維、炭素繊維、炭化珪素繊維、窒化ホウ素繊維、チタン酸カリウム繊維及び酸化亜鉛繊維から構成される群より選択される少なくとも1種である請求項1または2に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
前記接合層は、600℃で30分間加熱した後のヤング率が、100MPa以下であり、且つ、900℃で300分間加熱した後のヤング率が、120MPa以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項5】
前記接合層は、900℃で300分間加熱した後のせん断強度が、2000kPa以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項6】
坏土からなるハニカム成形体を焼成して、流体の流路となる一方の端面である第一端面から他方の端面である第二端面まで延びる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有するハニカムセグメントを複数個作製するハニカムセグメント作製工程と、
前記ハニカムセグメントの所定のセルの端部に目封止用スラリを充填して、目封止部を備える前記ハニカムセグメントである目封止付きハニカムセグメントを複数個作製する目封止付きハニカムセグメント作製工程と、
複数個の前記目封止付きハニカムセグメントを、接合用スラリーを用いて互いに接合させて接合体を作製する接合体作製工程と、を有し、
前記接合用スラリーとして、アスペクト比が7以上であって、短径が5μm以上で且つ長径が50μm以上である結晶質の異方性セラミックス、平均粒子径60μm以下で接合用スラリーの固形分含量に対して0.1〜10質量%の微粒造孔材、及び平均粒子径80μm以上で接合用スラリーの固形分含量に対して0.1〜10質量%の粗粒造孔材、を含有するものを用いる、請求項1〜5のいずれか一項に記載のハニカム構造体を製造するハニカム構造体の製造方法。
【請求項7】
前記粗粒造孔材の平均粒子径に対する前記結晶質の異方性セラミックスの長径の比の値が、0.7〜1.3である請求項6に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項8】
前記接合用スラリーの固形分含量における前記結晶質の異方性セラミックスの含有割合が、5〜40質量%である請求項6または7に記載のハニカム構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体及びハニカム構造体の製造方法に関する。更に詳しくは、熱処理後においても接合層の強度及びヤング率が大きく上昇せずに維持されるハニカム構造体及びハニカム構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粒子状物質(パティキュレートマター(PM))の捕集フィルター、例えば、ディーゼルエンジン等からの排ガスに含まれているPMを捕捉して除去するためのディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)として、ハニカム構造体が広く使用されている。
【0003】
このハニカム構造体は、例えば、複数のハニカム形状のセグメント(ハニカムセグメント)を接合材からなる接合層で接合したものが知られている。そして、このようなハニカム構造体としては、その接合層が、必要な強度を確保しつつ、ヤング率が低いものなどが報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−187044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のハニカム構造体は、その製造初期における接合層の強度(具体的には、せん断強度)が高く且つヤング率が低いものである。しかし、特許文献1に記載のハニカム構造体は、加熱処理(熱処理)された場合に、接合層の強度が上昇するとともにヤング率も上昇してしまうことがある。このような傾向が強いハニカム構造体は、エンジンの運転環境下において、その接合層に、本来求められる熱応力を緩和する機能が発現しづらいため、耐久性が十分でない。そのため、熱処理後においても接合層の強度及びヤング率が大きく上昇せずに維持された接合層を有するハニカム構造体の開発が切望されていた。
【0006】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものである。本発明は、熱処理後においても接合層の強度及びヤング率が大きく上昇せずに維持されるハニカム構造体及びハニカム構造体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] 流体の流路となる一方の端面である第一端面から他方の端面である第二端面まで延びる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有する複数個の柱状のハニカムセグメントと、前記複数個のハニカムセグメントの側面同士を接合するように配置され、結晶質の異方性セラミックスを含有する多孔質の接合層と、を備え、前記接合層の細孔分布において、細孔径10μm以上50μm未満の細孔を微細気孔とし、細孔径50μm以上300μm以下の細孔を粗大気孔としたとき、前記粗大気孔の細孔容積(cc/g)に対する前記微細気孔の細孔容積(cc/g)の比の値は、2.0〜3.5であり、前記微細気孔の細孔容積が、0.15〜0.4cc/gであり、前記粗大気孔の細孔容積が、0.05〜0.25cc/gであるハニカム構造体。
【0008】
[2] 前記接合層の気孔率が65〜75%である前記[1]に記載のハニカム構造体。
【0009】
[3] 前記結晶質の異方性セラミックスが、ォラストナイト、マイカ、タルク、セピオライト、アルミナ繊維、ムライト繊維、炭素繊維、炭化珪素繊維、窒化ホウ素繊維、チタン酸カリウム繊維及び酸化亜鉛繊維から構成される群より選択される少なくとも1種である前記[1]または[2]に記載のハニカム構造体。
【0010】
[4] 前記接合層は、600℃で30分間加熱した後のヤング率が、100MPa以下であり、且つ、900℃で300分間加熱した後のヤング率が、120MPa以下である前記[1]〜[3]のいずれかに記載のハニカム構造体。
【0011】
[5] 前記接合層は、900℃で300分間加熱した後のせん断強度が、2000kPa以下である前記[1]〜[4]のいずれかに記載のハニカム構造体。
【0012】
[6] 坏土からなるハニカム成形体を焼成して、流体の流路となる一方の端面である第一端面から他方の端面である第二端面まで延びる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有するハニカムセグメントを複数個作製するハニカムセグメント作製工程と、前記ハニカムセグメントの所定のセルの端部に目封止用スラリを充填して、目封止部を備える前記ハニカムセグメントである目封止付きハニカムセグメントを複数個作製する目封止付きハニカムセグメント作製工程と、複数個の前記目封止付きハニカムセグメントを、接合用スラリーを用いて互いに接合させて接合体を作製する接合体作製工程と、を有し、前記接合用スラリーとして、アスペクト比が7以上であって、短径が5μm以上で且つ長径が50μm以上である結晶質の異方性セラミックス、平均粒子径60μm以下で接合用スラリーの固形分含量に対して0.1〜10質量%の微粒造孔材、及び平均粒子径80μm以上で接合用スラリーの固形分含量に対して0.1〜10質量%の粗粒造孔材、を含有するものを用いる、前記[1]〜[5]のいずれかに記載のハニカム構造体を製造するハニカム構造体の製造方法。
【0013】
[7] 前記粗粒造孔材の平均粒子径に対する前記結晶質の異方性セラミックスの長径の比の値が、0.7〜1.3である前記[6]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0014】
[8] 前記接合用スラリーの固形分含量における前記結晶質の異方性セラミックスの含有割合が、5〜40質量%である前記[6]または[7]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のハニカム構造体は、接合層に結晶質の異方性セラミックスを含有し、更に、接合層が所定の条件を満たすことにより、熱処理後においても接合層の強度及びヤング率が大きく上昇せずに維持される。
【0016】
本発明のハニカム構造体の製造方法によれば、結晶質の異方性セラミックスを含有し、更に、所定の条件を満たす接合層が形成される。そのため、本発明のハニカム構造体の製造方法によれば、熱処理後においても接合層の強度及びヤング率が大きく上昇せずに維持されるハニカム構造体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のハニカム構造体の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
図2】本発明のハニカム構造体の一実施形態におけるセルの延びる方向の断面を模式的に示す断面図である。
図3】実施例1のハニカム構造体における図2の領域Pに相当する部分を拡大したSEM(走査型電子顕微鏡)画像の写真である。
図4】比較例1のハニカム構造体における図2の領域Pに相当する部分を拡大したSEM(走査型電子顕微鏡)画像の写真である。
図5】比較例2のハニカム構造体における図2の領域Pに相当する部分を拡大したSEM(走査型電子顕微鏡)画像の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0019】
(1)ハニカム構造体:
本発明のハニカム構造体の一実施形態は、図1に示すハニカム構造体100である。このハニカム構造体100は、複数個の柱状のハニカムセグメント17と、これら複数個のハニカムセグメント17の側面同士を接合するように配置され、結晶質の異方性セラミックスを含有する多孔質の接合層15と、を備えている。ここで、接合層15の細孔分布において、細孔径10μm以上50μm未満の細孔を微細気孔とし、細孔径50μm以上300μm以下の細孔を粗大気孔とする。このとき、ハニカム構造体100は、粗大気孔の細孔容積(cc/g)に対する微細気孔の細孔容積(cc/g)の比の値が、2.0〜3.5である。更に、ハニカム構造体100は、微細気孔の細孔容積が、0.15〜0.4cc/gであり、粗大気孔の細孔容積が、0.05〜0.25cc/gである。なお、ハニカムセグメントは、流体の流路となる一方の端面である第一端面から他方の端面である第二端面まで延びる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有するものである。接合層の細孔分布は、Log微分細孔容積分布のことをいい、この接合層の細孔分布は、水銀ポロシメーターを用いて水銀圧入法によって測定した値を用いることにより作成することができる。
【0020】
このようなハニカム構造体100は、接合層に結晶質の異方性セラミックスを含有し、更に、接合層15が上記条件を満たすことにより、熱処理後においても接合層15の強度及びヤング率が大きく上昇せずに維持される。
【0021】
ここで、接合層には、複数のハニカムセグメントの間を繋ぎとめる役割と、ハニカム構造体が熱によって変形した場合に、ハニカムセグメントが受ける応力を緩和する役割がある。このように接合層には応力を緩和する役割があるので、繊維(ファイバー)を包含させて破壊靱性を向上させている。しかし、最近では、ファイバーは、呼吸により体内に侵入、蓄積することで健康を害するなどの影響がある。そのため、繊維径が細くてアスペクト比が大きいファイバーは、体内に侵入しやすいので使用が制限されている。また、体内に入ってからの影響が懸念される化学組成のファイバーの使用も制限されている。使用が制限されているファイバーとしては、すでに発ガン性の指摘を受けているアスベストなどに加え、欧州のREACH規制において高懸念物質の候補対象となっているRCF(リフラクトリーセラミックファイバー)などがある。このような状況であるため、最近では、破壊靱性には劣るものの、繊維径が太くアスペクト比が小さいものであって、化学組成においても体内に悪影響が生じる懸念のないファイバーを活用することが求められている。
【0022】
また、アスペクト比が大きなファイバーを用いた接合層は、製造時には製品・材料特性を満たすものであるが、触媒を担持させる工程などにおける熱処理がなされると、ハニカム構造体の耐久性が低下してしまう場合がある。即ち、製造後に熱が加えられると、接合層における強度及びヤング率が上昇し、接合層の柔軟性が失われることがある。そして、接合層の柔軟性が失われると、運転環境下などで生じる熱応力を十分に緩和することが難しくなり、破損する原因になると考えられる。
【0023】
例えば、従来、ハニカム構造体の接合層の構成成分として無機バインダとしてコロイダルシリカが使用されることがある。このコロイダルシリカは、熱処理により分子間で脱水反応が起こり、シロキサン結合が形成されていく。そのため、コロイダルシリカの分子間の結合が強化され、その結果、接合層のヤング率が上昇すると考えられる。
【0024】
そこで、本発明では、欧州のREACH規制の対象でないファイバー(即ち、繊維径が太くアスペクト比が小さいファイバー)を用いるという状況の下、接合層における強度及びヤング率の温度依存性を解消することを目的としている。具体的には、本発明は、接合層における強度及びヤング率の熱処理温度依存性に着目し、接合層について、その原料となる接合用スラリーの調合を変更することで上記目的を達成するものである。
【0025】
(1−1)接合層:
接合層は、熱応力を緩和する役割を果たす観点からヤング率が低いことが好ましい。そして、ヤング率を低くするためには、接合層の気孔率を高くする方策がある。しかし、一方で、気孔率を高くする場合には、破壊靱性の低下を防ぐ必要がある。そこで、本発明における接合層は、結晶質の異方性セラミックスを含有し、微細気孔と粗大気孔とが所定の条件を満たすこととしている。具体的には、この接合層では、気孔全体に対する微細気孔の割合を増やすことで気孔率を高くしてヤング率の低下を実現している。また、所定の条件を満たすように微細気孔と粗大気孔とを形成することで、所定の三次元網目構造を構成させることに加え、この三次元網目構造の骨格部分に結晶質の異方性セラミックス(ファイバー)を配置することで、破壊靱性の維持を図っている。
【0026】
「結晶質の異方性セラミックス」とは、一次粒子の形状が異方性を有するセラミックスのことを意味する。そして、結晶質の異方性セラミックスとしては、例えば、板状、針状であってもよい。
【0027】
結晶質の異方性セラミックスは、ォラストナイト、マイカ、タルク、セピオライト、アルミナ繊維、ムライト繊維、炭素繊維、炭化珪素繊維、窒化ホウ素繊維、チタン酸カリウム繊維及び酸化亜鉛繊維から構成される群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。結晶質の異方性セラミックスがこのようなものからなると、破壊靱性が向上するという利点がある。
【0028】
接合層は、900℃で300分間加熱した後のせん断強度が、2000kPa以下であることが好ましく、800〜1700kPaであることが更に好ましい。接合層において900℃で300分間加熱した後のせん断強度が上記範囲であると、熱処理後においても接合層の強度が大きく上昇せずに維持されていると言える。
【0029】
まず、ハニカム構造体から2本のハニカムセグメントが接合された2本組構造体を切り出す。その後、この2本組構造体を接合している接合層のY軸方向(長手方向)にせん断荷重をかける。そして、そのときの破壊荷重と接合層の面積とを用いて下記式(1)により、せん断強度を算出した。
σ=(W/S)×1000 ・・・(1)
σ:せん断強度(kPa)
W:破壊荷重(N)
S:接合層の面積(mm
【0030】
接合層は、600℃で30分間加熱した後のヤング率が、100MPa以下であり、且つ、900℃で300分間加熱した後のヤング率が、120MPa以下であることが好ましい。更に、接合層は、600℃で30分間加熱した後のヤング率が、20〜100MPaであり、且つ、900℃で300分間加熱した後のヤング率が、20〜120MPaであることが好ましい。接合層のヤング率が上記条件を満たすと、熱処理後においても接合層のヤング率が大きく上昇せずに維持(即ち、ヤング率が低いままで維持)されていると言える。
【0031】
なお、600℃で熱処理した後、更に900℃で加熱処理した後のヤング率と、熱処理前のヤング率とを比較したとき、ヤング率の上昇割合は200%以下であることが好ましい。このヤング率の上昇割合が200%超であると、自動車などに搭載された後の運転環境下においてハニカム構造体に熱応力が生じた際にこの熱応力が緩和されずにハニカム構造体が破損してしまうおそれがある。
【0032】
接合層のヤング率は、以下のようにして測定される値である。まず、ハニカム構造体から接合材部分を含む所定の寸法(縦10mm×横10mm〜縦30mm×横30mm、厚さ0.5〜3mm)の試料を切り出す。なお、試料は、四角柱状でも円柱状でもよく、円柱状の場合にはその直径は10〜30mmとする。その後、この試料について、Z軸方向の圧縮試験を行う。ここで、「Z軸方向」とは、接合層におけるハニカムセグメントとの接合面に垂直な方向である。なお、この試験に際し、上記試料には、ハニカムセグメントの一部が付いていてもかまわない。Z軸方向において、荷重を0〜3MPaまで試料に加えた時の応力−ひずみ曲線における傾きをヤング率(圧縮ヤング率)として、下記式(2)により算出する。
E=(W/S)×(t/Δt) ・・・(2)
E:圧縮ヤング率(MPa)
W:荷重(N)
S:試料の面積(mm
t:試料の厚さ(mm)
Δt:試料の厚さの変化量
【0033】
接合層の細孔分布(Log微分細孔容積分布)において、細孔径10μm以上50μm未満の細孔を微細気孔とし、細孔径50μm以上300μm以下の細孔を粗大気孔とする。このとき、接合層は、粗大気孔の細孔容積(cc/g)に対する微細気孔の細孔容積(cc/g)の比の値が、2.0〜3.5であり、2.0〜3.0であることが好ましく、2.0〜2.5であることが更に好ましい。上記比の値が下限値未満であると、粗大気孔に対して微細気孔の割合が不足するため、熱処理によりヤング率が上昇してしまう。上記比の値が上限値超であると、粗大気孔に対して微細気孔が過剰な割合で存在するため、強度が低下する。
【0034】
接合層の細孔分布(Log微分細孔容積分布)において、微細気孔の細孔容積は、0.15〜0.4cc/gであり、0.2〜0.4cc/gであることが好ましく、0.25〜0.35cc/gであることが更に好ましい。上記微細気孔の細孔容積が下限値未満であると、微細気孔の容積が不足するため、熱処理によりヤング率が上昇してしまう。上記微細気孔の細孔容積が上限値超であると、微細気孔が過剰な容積で存在するため、強度が低下する。
【0035】
接合層の細孔分布において、粗大気孔の細孔容積は、0.05〜0.25cc/gであり、0.1〜0.2cc/gであることが好ましく、0.15〜0.2cc/gであることが更に好ましい。上記粗大気孔の細孔容積が下限値未満であると、粗大気孔の容積が不足するため、ヤング率が上昇してしまう。上記粗大気孔の細孔容積が上限値超であると、粗大気孔が過剰な容積で存在するため、強度が低下する。
【0036】
接合層の気孔率は、65〜75%が好ましく、67〜73%が更に好ましい。接合層の気孔率が下限値未満であると、強度及びヤング率が上昇し、接合層の柔軟性が失われることがある。そして、接合層の柔軟性が失われると、運転環境下などで生じる熱応力を十分に緩和することが難しくなり、破損する原因になると考えられる。接合層の気孔率が上限値超であると、強度が低下するため、破損する原因になると考えられる。接合層の気孔率は、水銀ポロシメーターによって測定した値である。
【0037】
(1−2)ハニカムセグメント:
ハニカムセグメントは、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、窒化珪素、コージェライト、ムライト、アルミナ、スピネル、炭化珪素−コージェライト系複合材、珪素−炭化珪素複合材、リチウムアルミニウムシリケート、チタン酸アルミニウム、Fe−Cr−Al系金属から構成される群から選択される少なくとも一種を主成分とすることができる。これらの中でも、炭化珪素又は珪素−炭化珪素系複合材料から構成されてなるものが好ましい。なお、「珪素−炭化珪素系複合材料」とは、炭化珪素を骨材とし、珪素を結合材として形成された複合材料である。ここで、本明細書において「主成分」は、全体の中の50質量%を超える成分を意味する。
【0038】
ハニカムセグメント17の隔壁1の平均細孔径は、5〜100μmが好ましく、8〜50μmが更に好ましい。上記平均細孔径が下限値未満であると、圧力損失が高くなり過ぎて、本発明のハニカム構造体をDPFに用いた際に、エンジンの出力低下を招くことがある。上記平均細孔径が上限値超であると、十分な強度が得られないことがある。なお、平均細孔径は、水銀ポロシメーターによって測定した値である。
【0039】
隔壁1の気孔率は、30〜85%が好ましく、35〜70%が更に好ましい。隔壁1の気孔率が下限値未満であると、圧力損失が高くなり過ぎて、本発明のハニカム構造体をDPFに用いた際に、エンジンの出力低下を招くことがある。隔壁1の気孔率が上限値超であると、十分な強度が得られないことがある。隔壁1の気孔率は、水銀ポロシメーターによって測定した値である。
【0040】
隔壁1の厚さは、6〜70mil(0.015〜0.177cm)であることが好ましく、8〜30mil(0.020〜0.076cm)であることがより好ましい。そして、隔壁1の厚さは、10〜20mil(0.025〜0.050cm)であることが更に好ましい。隔壁1の厚さが6mil(0.015cm)未満では、十分な強度が得られないことがある。一方、隔壁1の厚さが70mil(0.177cm)を超えると、圧力損失が高くなり過ぎて、本発明のハニカム構造体をDPFに用いた際に、エンジンの出力低下を招くことがある。
【0041】
ハニカムセグメント17のセル形状(セルが延びる方向に直交する断面におけるセル形状)としては、特に制限はない。セル形状としては、三角形、四角形、六角形、八角形、円形、あるいはこれらの組合せを挙げることができる。四角形のなかでは、正方形または長方形が好ましい。
【0042】
ハニカムセグメント17のセル密度については、特に制限はない。ハニカムセグメント17のセル密度は、50〜400セル/平方インチ(7.7〜62.0セル/cm)であることが好ましく、70〜370セル/平方インチ(10.8〜57.3セル/cm)であることがより好ましい。そして、ハニカムセグメント17のセル密度は、80〜320セル/平方インチ(12.4〜49.6セル/cm)であることが更に好ましい。ハニカムセグメント17のセル密度が50セル/平方インチ(7.7セル/cm)未満では、十分な強度が得られないことがある。一方、ハニカムセグメント17のセル密度が400セル/平方インチ(62.0セル/cm)を超えると、圧力損失が高くなり過ぎて、本発明のハニカム構造体をDPFに用いた際に、エンジンの出力低下を招くことがある。
【0043】
ハニカムセグメント17は、少なくとも一部のセルの開口部に配設された目封止部を備えていてもよい。目封止部を備えることにより、本発明のハニカム構造体に流入した排ガスは、隔壁でろ過されるため、排ガス中の粒子状物質を良好に捕集することができる。図1図2に示すハニカム構造体100は、一方の端面における所定のセル2(流入セル2a)の開口部及び他方の端面における残余のセル2(流出セル2b)の開口部に配設された目封止部8を備えている。そして、流入セル2aと流出セル2bとは、交互に並んでいる。それによって、ハニカム構造体100の第一端面11及び第二端面12のそれぞれに、目封止部8と「セルの開口部」とにより、市松模様が形成されている。
【0044】
目封止部8の材質とハニカムセグメント17の材質とは、同じ材質であってもよいし、異なる材質であってもよい。目封止部8の材質は、ハニカムセグメント17の材質として好ましいとされた材質であることが好ましい。
【0045】
ハニカム構造体100の形状は、特に限定されない。ハニカム構造体100の形状としては、円柱状、端面が楕円形の柱状、端面が「正方形、長方形、三角形、五角形、六角形、八角形等」の多角形の柱状、等が好ましい。図1に示すハニカム構造体100の形状は円柱状である。
【0046】
ハニカム構造体100は、図1に示すように、その外周に外周コート層20を有していてもよい。この外周コート層20は、接合層と同じ材質であってもよいし異なる材質であっても良い。外周コート層20を形成することにより、ハニカム構造体100の搬送中などに外力を受けたとしても欠けなどの欠陥を生じ難くなる。
【0047】
(2)本発明のハニカム構造体の製造方法:
本発明のハニカム構造体は、以下の方法で製造することができる。即ち、本発明のハニカム構造体は、ハニカムセグメント作製工程と、目封止付きハニカムセグメント作製工程と、接合体作製工程と、外周コート層形成工程とを有する方法により製造できる。ハニカムセグメント作製工程は、ハニカム成形体を焼成してハニカムセグメント(ハニカム焼成体)を作製する工程である。目封止付きハニカムセグメント作製工程は、ハニカムセグメント作製工程で作製したハニカムセグメントの所定のセルに目封止用スラリを充填して、目封止部を備えるハニカムセグメント(目封止付きハニカムセグメント)を作製する工程である。接合体作製工程は、目封止付きハニカムセグメントを、接合材(接合用スラリー)を用いて互いに接合させて、複数個のハニカムセグメントとこれらを接合する接合層とを有する接合体を作製する工程である。外周コート層形成工程は、作製した接合体の外周部を切削加工し、その後、切削加工された接合体の外周に、外周コート材を塗布し、乾燥させて外周コート層を形成する工程である。なお、「ハニカムセグメント」は、流体の流路となる一方の端面である第一端面から他方の端面である第二端面まで延びる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有する複数個の柱状のものである。
【0048】
以下、本発明のハニカム構造体の製造方法について、工程毎に説明する。
【0049】
(2−1)ハニカムセグメント作製工程:
ハニカムセグメントは、従来公知の方法を用いて作製することができる。より具体的には、炭化珪素と接合材とを含むハニカムセグメントの材質に、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等のバインダ、造孔材、界面活性剤、溶媒としての水等を添加して、混練することで可塑性の坏土を調製し、調製した坏土を柱状体に成形し、乾燥する。その後、焼成し、酸化処理を行う方法で作製することができる。
【0050】
混練方法、調製した坏土を柱状体に成形する方法、及び乾燥方法は特に制限はされるものではない。混練方法としては、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法がある。また、調製した坏土を柱状体に成形する方法としては、例えば、押出成形、射出成形、プレス成形等の従来公知の成形法を用いることができる。これらの中でも、調製した坏土を、所望の外壁厚さ、隔壁厚さ、セル密度にするハニカムセグメント成形用口金を用いて押出成形する方法が好ましい。更に、乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の従来公知の乾燥方法を用いることができる。これらの中でも、全体を迅速かつ均一に乾燥することができる点で、熱風乾燥と、マイクロ波乾燥又は誘電乾燥とを組み合わせた乾燥方法を用いることが好ましい。
【0051】
焼成方法としては、例えば、焼成炉において焼成する方法がある。焼成炉及び焼成条件は、ハニカムセグメントの形状、材質等に合わせて適宜選択することができる。焼成の前に仮焼成によりバインダ等の有機物を燃焼除去しても良い。
【0052】
酸化処理は、従来公知の方法により行うことができる。具体的には、炭化珪素を含む焼成されたハニカムセグメントを、酸素雰囲気下(例えば、酸素濃度5〜20質量%)で1000〜1400℃に加熱することにより、ハニカムセグメントを構成する炭化珪素の一部を酸化させる方法を採用することができる。
【0053】
(2−2)目封止付きハニカムセグメント作製工程:
本工程は、ハニカムセグメント作製工程で作製したハニカムセグメントの所定のセルに目封止用スラリーを充填して、目封止部を備えるハニカムセグメント(目封止付きハニカムセグメント)を作製する。
【0054】
セルに目封止を形成する方法としては、従来公知の方法を用いることができる。より具体的には、ハニカムセグメントの端面にシートを貼り付けた後、このシートの目封止を形成するセルに対応した位置に穴を開ける。このシートを貼り付けたままの状態で、該端面を目封止用スラリーに浸し、シートに開けた穴を通じて、目封止を形成するセルの開口部内に目封止用スラリーを充填し、それを乾燥及び焼成する方法を用いることができる。
【0055】
(2−3)接合体作製工程:
本工程は、目封止付きハニカムセグメントを、接合用スラリーを用いて互いに接合させて接合体を作製する。接合用スラリーは、結晶質の異方性セラミックス、平均粒子径60μm以下の微粒造孔材、及び平均粒子径80μm以上の粗粒造孔材を必須として含むものを用いる。接合体は、複数個のハニカムセグメントと、これらのハニカムセグメントを接合する接合層と、を有するものである。
【0056】
ここで、本発明においては、微細気孔の割合を増やすことで接合層の気孔率を高くし、その結果、ヤング率を低くしている。そして、微細気孔の割合を増やすために、接合層の作製時において、微細気孔を形成する微粒造孔材と、粗大気孔を形成する粗粒造孔材とを最密充填に近づけた状態で分散させている。このように最密充填に近づけた状態で微粒造孔材と粗粒造孔材とを分散させるためには、平均粒子径60μm以下の微粒造孔材と、平均粒子径80μm以上の粗粒造孔材とを組み合わせて用いることがよい。このようなことから、本工程では、上記の微粒造孔材と粗粒造孔材とを必須として含むこととしている。
【0057】
結晶質の異方性セラミックスは、アスペクト比が7以上であって、短径(繊維径)が5μm以上で且つ長径が50μm以上のものである。
【0058】
接合用スラリーの固形分含量における結晶質の異方性セラミックスの含有割合は、5〜40質量%であることが好ましく、9〜20質量%であることが更に好ましい。結晶質の異方性セラミックスの含有割合が上記範囲であることにより、異方性セラミックスがクラックの進展を抑制するため、破壊靱性が向上する。結晶質の異方性セラミックスの含有割合が下限値未満であると、破壊靱性が低下するため、耐久性が低下するおそれがある。上限値超であると、異方性セラミックスが過剰に存在するため、異方性セラミックスが均一に分散したスラリーとして混ぜることが困難になり、生産性が低下するおそれがある。
【0059】
結晶質の異方性セラミックスは、上記の通り、アスペクト比が7以上であり、15以上であることが好ましく、18〜40であることが更に好ましい。
【0060】
結晶質の異方性セラミックスは、短径が5μm以上であり、5〜10μmであることが好ましく、5〜7μmであることが更に好ましい。更に、長径が50μm以上であり、100μm以上であることが好ましく、120〜200μmであることが更に好ましい。
【0061】
本発明の製造方法において、使用する結晶質の異方性セラミックスが上記アスペクト比、短径、及び、長径の条件を満たすことにより、本発明の効果が発揮されることになる。上記アスペクト比、短径、及び、長径の条件を満たさない場合、破壊靱性が低下するため、耐久性が低下する。
【0062】
結晶質の異方性セラミックスは、ォラストナイト、マイカ、タルク、セピオライト、アルミナ繊維、ムライト繊維、炭素繊維、炭化珪素繊維、窒化ホウ素繊維、チタン酸カリウム繊維及び酸化亜鉛繊維から構成される群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。結晶質の異方性セラミックスがこのようなものからなると、破壊靱性が向上するという利点がある。なお、ムライト繊維は、欧州のREACH規制の対象となっているRCFに該当しないものである。
【0063】
微粒造孔材の平均粒子径は、上述の通り、60μm以下であり、20〜60μmであることが好ましく、35〜50μmであることが更に好ましい。微粒造孔材の平均粒子径が上記範囲であることにより、細孔径10μm以上50μm未満の細孔である微細気孔を形成することができる。
【0064】
微粒造孔材としては、例えば、無機物質からなるものを用いてもよいし、有機物質からなるものを用いてもよい。無機物質からなる造孔材としては、フライアッシュバルーン、シラスバルーンを初めとする中空の無機バルーン等が好適なものとして挙げられる。また、有機物質からなる造孔材としては、発泡樹脂を初めとする中空あるいは中実の有機バルーン、吸水性樹脂、デンプン等が好適なものとして挙げられる。
【0065】
微粒造孔材の含有割合は、接合用スラリーの固形分含量に対して、0.1〜10質量%とすることができる。微粒造孔材を上記のように含有すると、細孔径10μm以上50μm未満の細孔である微細気孔を所定の細孔容積(cc/g)で形成することができる。
【0066】
粗粒造孔材の平均粒子径は、上述の通り、80μm以上であり、100〜200μmであることが好ましく、125〜155μmであることが更に好ましい。粗粒造孔材の平均粒子径が上記範囲であることにより、細孔径50μm以上300μm以下の細孔である粗大気孔を形成することができる。
【0067】
粗粒造孔材としては、例えば、無機物質からなるものを用いてもよいし、有機物質からなるものを用いてもよい。無機物質からなる造孔材としては、フライアッシュバルーン、シラスバルーンを初めとする中空の無機バルーン等が好適なものとして挙げられる。また、有機物質からなる造孔材としては、発泡樹脂を初めとする中空あるいは中実の有機バルーン、吸水性樹脂、デンプン等が好適なものとして挙げられる。
【0068】
粗粒造孔材の含有割合は、接合用スラリーの固形分含量に対して、0.1〜10質量%とすることができる。粗粒造孔材を上記のように含有すると、細孔径50μm以上300μm以下の細孔である粗大気孔を所定の細孔容積(cc/g)で形成することができる。
【0069】
粗粒造孔材の平均粒子径に対する結晶質の異方性セラミックスの長径の比の値は、0.6〜1.6であることが好ましく、0.7〜1.3であることが更に好ましい。上記比の値が上記範囲であることにより、異方性セラミックスが造孔材の造る三次元網目構造に立体的に配置されるため、強度が高く且つヤング率が低くなり、破壊靱性が向上する。上記比の値が下限値未満であると、造孔材の粒径に対して異方性セラミックスの長さが相対的に減少するため、破壊靱性が低下するおそれがある。上記比の値が上限値超であると、造孔材の造る気孔が相対的に減少するため、ヤング率が増加するおそれがある。
【0070】
(2−4)外周コート層形成工程:
本工程は、接合体について、その外周部を切削加工して、所望の外周形状とする工程である。切削加工する方法は、特に限定されるものではなく従来公知の方法を用いることができる。
【0071】
上記のように、外周部を切削加工した接合体は、その外周に、外周コート材を塗布して外周コート層を形成する。このようにしてハニカム構造体を得ることができる。外周コート層を形成することにより、ハニカム構造体に外力が加わった際にハニカム構造体が欠けてしまうことを防止できる。
【0072】
外周コート材としては、無機繊維、コロイダルシリカ、粘土、SiC粒子等の無機原料に、有機バインダ、発泡樹脂、分散剤等の添加材を加えたものに水を加えて混練したものなどを挙げることができる。外周コート材を塗布する方法は、「切削された接合体」をろくろ上で回転させながらゴムへらなどでコーティングする方法等を挙げることができる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を、実施例により更に具体的に説明する。本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0074】
(実施例1)
(ハニカムセグメントの作製)
まず、ハニカムセグメント原料として、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末を80:20の質量割合で混合し、これに造孔材、バインダ、界面活性剤及び水を加えて、可塑性の坏土を作製した
【0075】
得られた坏土を押出成形し、マイクロ波及び熱風で乾燥して、隔壁の厚さが310μm、セル密度が46.5セル/cm(300セル/平方インチ)、断面が一辺35mmの正四角形、長さが152mmのハニカムセグメント成形体を得た。
【0076】
このハニカムセグメント成形体の端面が市松模様を呈するように、各セルの一方の端部を目封じした。即ち、隣接するセルが、互いに反対側の端部で封じられるように目封じを行った。なお、セルの端部を目封じするための充填材には、ハニカムセグメント原料と同様の材料を用いた。
【0077】
次に、この充填材を乾燥させた後、ハニカムセグメント成形体を大気雰囲気中にて400℃で脱脂した。
【0078】
次に、更に、脱脂後のハニカムセグメント成形体を、Ar不活性雰囲気中にて1450℃で焼成して、珪素−炭化珪素系複合材料から構成された、多孔質のハニカムセグメントを得た。
【0079】
(接合材の調製)
次に、接合材の原料粉末を調合した。原料粉末中、15質量%の結晶質の異方性セラミックス(アスペクト比25)、及び、50質量%の炭化珪素粉末を混合し、更に、3.0質量%のアルミナ粉末を加えて、接合材の原料粉末を調合した。結晶質の異方性セラミックスは、ムライト繊維を用いた。残りの質量%は、固形分40%の無機バインダを添加した。配合割合を表1に示す。なお、表1中の「%」は、質量%を示す。
【0080】
次に、得られた原料粉末100質量部に対して、3.0質量%の微粒造孔材(平均粒子径40μm)、3.0質量%の粗粒造孔材(平均粒子径140μm)、0.6質量部の有機バインダ、20質量部の水、及び0.25質量部の分散剤を加えて混合して混合物を得た。なお、有機バインダには、カルボキシメチルセルロースを用いた。分散剤には、ポリエチレングリコールオレイン酸エステルを用いた。
【0081】
次に、得られた混合物をミキサーにて30分間混練し、ペースト状の接合材組成物(接合用スラリー)を得た。更に、このペースト状の接合材組成物の粘度が300dPa・sとなるように水を加えて調整した。
【0082】
(ハニカム構造体の作製)
ハニカムセグメントの外壁面に、厚さ1mmとなるように接合材組成物を塗布し、その上に別のハニカムセグメントを載置した。この工程を繰り返して、4個×4個に組み付けられた合計16個のハニカムセグメントからなるハニカムセグメント積層体を作製した。
【0083】
その後、外部から圧力を加えることにより、ハニカムセグメント積層体を構成するハニカムセグメント同士を圧着させながら、140℃で2時間乾燥させて接合体を得た。
【0084】
次に、得られた接合体の中心軸に対して垂直な平面で切断した全体の断面形状が円形となるように、接合体の外周を切削加工した。その後、その加工面に接合材と同じ組成の外周コート材を塗布し、700℃で2時間乾燥して硬化させて、ハニカム構造体を得た。
【0085】
得られたハニカム構造体について、以下の「接合層のせん断強度」及び「接合層のヤング率」の測定を行った。
【0086】
(1)接合層のせん断強度の測定:
ハニカム構造体の加熱処理前後における接合層のせん断強度について以下の方法で測定した。ハニカム構造体の加熱処理は、(i)500℃、0.5時間、(ii)600℃、0.5時間、(iii)900℃、5時間の各条件で行った。
【0087】
まず、ハニカム構造体から2本のハニカムセグメントが接合された2本組構造体を切り出した。その後、2本組構造体を接合している接合層のY軸方向(長手方向)にせん断荷重をかけた。そして、そのときの破壊荷重と接合層の面積とを用いて下記式(1)により、せん断強度を算出した。結果を表2に示す。
σ=(W/S)×1000 ・・・(1)
σ:せん断強度(kPa)
W:破壊荷重(N)
S:接合層の面積(mm
【0088】
(2)接合層のヤング率の測定:
ハニカム構造体の加熱処理前後における接合層のヤング率について以下の方法で測定した。ハニカム構造体の加熱処理は、「(1)接合層のせん断強度の測定」と同様の条件とした。
【0089】
まず、ハニカム構造体から接合材部分を含む所定の寸法(直径25.4mm、厚さ3mm)の円柱状の試料を切り出した。その後、この試料について、Z軸方向の圧縮試験を行った。ここで、「Z軸方向」とは、接合層におけるハニカムセグメントとの接合面に垂直な方向である。なお、この試験に際し、上記試料には、ハニカムセグメントの一部が付いていてもかまわない。Z軸方向において、荷重を0〜3MPaまで試料に加えた時の応力−ひずみ曲線における傾きをヤング率(圧縮ヤング率)として、下記式(2)により算出した。結果を表2に示す。
E=(W/S)×(t/Δt) ・・・(2)
E:圧縮ヤング率(MPa)
W:荷重(N)
S:試料の面積(mm
t:試料の厚さ(mm)
Δt:試料の厚さの変化量
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
(実施例2、比較例1〜3)
表1に示すように条件を変更した以外は、実施例1と同様にしてハニカム構造体を作製した。作製したハニカム構造体について実施例1と同様にして、「接合層のせん断強度」及び「接合層のヤング率」の測定を行った。結果を表2に示す。
【0093】
表2から、実施例1、2のハニカム構造体は、比較例1〜3のハニカム構造体に比べて、熱処理後における接合層の強度が800kPaと高いことに加えて、熱処理後においてもヤング率が120MPa以下の低い状態が維持されることが分かる。なお、比較例1は、接合層について、ヤング率が120MPa以下の低い状態が維持されるものの、せん断強度が低いため、強度が十分でない。接合層は、せん断強度が800kPa以上であることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のハニカム構造体は、自動車等の排ガスを浄化するフィルターとして利用することができる。本発明のハニカム構造体の製造方法は、自動車等の排ガスを浄化するフィルターとして利用可能なハニカム構造体を製造する方法として採用できる。
【符号の説明】
【0095】
1:隔壁、2:セル、2a:流入セル、2b:流出セル、8:目封止部、11:第一端面、12:第二端面、15:接合層、17:ハニカムセグメント、20:外周コート層、100:ハニカム構造体、P:領域。
図1
図2
図3
図4
図5