特許第6622166号(P6622166)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6622166分子検出器、分子検出方法、分子検出器、および有機物プローブ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6622166
(24)【登録日】2019年11月29日
(45)【発行日】2019年12月18日
(54)【発明の名称】分子検出器、分子検出方法、分子検出器、および有機物プローブ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20191209BHJP
   G01N 27/00 20060101ALI20191209BHJP
【FI】
   G01N27/12 C
   G01N27/12 B
   G01N27/00 J
【請求項の数】17
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-182746(P2016-182746)
(22)【出願日】2016年9月20日
(65)【公開番号】特開2018-48823(P2018-48823A)
(43)【公開日】2018年3月29日
【審査請求日】2018年9月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 紘
(72)【発明者】
【氏名】宮本 浩久
(72)【発明者】
【氏名】吉村 玲子
(72)【発明者】
【氏名】長田 憲和
(72)【発明者】
【氏名】中村 裕子
(72)【発明者】
【氏名】沖 充浩
【審査官】 倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第102145885(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0268208(US,A1)
【文献】 国際公開第2016/031080(WO,A1)
【文献】 特開2010−071906(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0129937(US,A1)
【文献】 国際公開第2015/012186(WO,A1)
【文献】 特表2014−521081(JP,A)
【文献】 特表2013−529308(JP,A)
【文献】 LI Pan et al.,Direct electrochemistry of hemoglobin immobilized on the water-soluble phosphonate functionalized multi-walled carbon nanotubes and its application to nitric oxide biosensing,Talanta,2013年 5月 6日,Vol.115,pp.228-234
【文献】 LI Pan et al.,Synthesis of water-soluble phosphonate functionalized single-walled carbon nanotubes and their applications in biosensing,Journal of Materials Chemistry,英国,Royal Society of Chemistry,2012年 8月14日,Vol.22, No.30,pp.15370-15378
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00,27/12,
G01N 27/414,27/416,
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサー部と、前記センサー部に設けられた第1の有機物プローブとを有する第1の検出セルを備え、被検出分子を前記第1の有機物プローブで捕捉する検出器を具備し、
前記第1の有機物プローブは、ホスホン酸構造またはリン酸構造を有するヘッド部と、多環芳香族炭化水素基を有するベース部と、前記ヘッド部と前記ベース部とを結合する結合部とを備える有機化合物を含む、分子検出装置。
【請求項2】
さらに、前記被検出分子を含む検出対象ガスを捕集する捕集部と、
前記被検出分子が前記第1の検出セルの前記第1の有機物プローブに捕捉されることにより前記センサー部から生じる検出信号により前記被検出分子を識別する識別器と
を具備する、請求項1に記載の分子検出装置。
【請求項3】
前記センサー部は、グラフェン層と、前記グラフェン層に接続されたソース電極およびドレイン電極とを有する電界効果トランジスタを備え、
前記第1の有機物プローブは、前記グラフェン層に設けられている、請求項1または請求項2に記載の分子検出装置。
【請求項4】
前記検出器は、さらに、センサー部と、前記センサー部に設けられ、前記第1の有機物プローブと異種の第2の有機物プローブとを有する第2の検出セルを備え、
前記識別器は、前記被検出分子が前記第1および第2の検出セルの前記第1および第2有機物プローブに捕捉されることにより生じる前記検出信号の強度差に基づく信号パターンにより前記被検出分子を識別する、請求項2に記載の分子検出装置。
【請求項5】
前記第1の有機物プローブと前記第2の有機物プローブは、前記被検出分子との結合強度が異なる、請求項4に記載の分子検出装置。
【請求項6】
前記ヘッド部は、ホスホン酸基またはリン酸基を有する芳香族炭化水素基を備える、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の分子検出装置。
【請求項7】
前記被検出分子は、ニトロ化合物分子を含む、請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の分子検出装置。
【請求項8】
被検出分子を含む検出対象ガスを捕集する工程と、
第1の検出セルのセンサー部に設けられ、ホスホン酸構造またはリン酸構造を含む第1の有機物プローブで、前記捕集された前記被検出分子を捕捉する工程と、
前記被検出分子が前記第1の検出セルの前記第1の有機物プローブに捕捉されることにより前記センサー部から生じる検出信号により前記被検出分子を識別する工程とを具備し、
前記第1の有機物プローブは、前記ホスホン酸構造またはリン酸構造を有するヘッド部と、多環芳香族炭化水素基を有するベース部と、前記ヘッド部と前記ベース部とを結合する結合部とを備える有機化合物を含む、分子検出方法。
【請求項9】
前記被検出分子を、前記第1の検出セルのセンサー部に設けられた前記第1の有機物プローブと、第2の検出セルのセンサー部に設けられた、前記第1の有機物プローブと異種の第2の有機物プローブとで捕捉し、
前記被検出分子が前記第1および第2の検出セルの前記第1および第2の有機物プローブに捕捉されることにより生じる前記検出信号の強度差に基づく信号パターンにより前記被検出分子を識別する、請求項8に記載の分子検出方法。
【請求項10】
前記第1の有機物プローブと前記第2の有機物プローブは、前記被検出分子との結合強度が異なる、請求項9に記載の分子検出方法。
【請求項11】
前記ヘッド部は、ホスホン酸基またはリン酸基を有する芳香族炭化水素基を有する、請求項8ないし請求項10のいずれか1項に記載の分子検出方法。
【請求項12】
前記被検出分子は、ニトロ化合物分子を含む、請求項8ないし請求項11のいずれか1項に記載の分子検出方法。
【請求項13】
グラフェン層と、前記グラフェン層に接続されたソース電極およびドレイン電極とを有する電界効果トランジスタを備えるセンサー部と、
前記センサー部の前記グラフェン層に設けられた有機物プローブとを具備し、
前記有機物プローブは、ホスホン酸構造またはリン酸構造を有するヘッド部と、多環芳香族炭化水素基を有するベース部と、前記ヘッド部と前記ベース部とを結合する結合部とを備える有機化合物を含む、分子検出器。
【請求項14】
前記ヘッド部は、ホスホン酸基またはリン酸基を有する芳香族炭化水素基を備える、請求項13に記載の分子検出器。
【請求項15】
ホスホン酸構造またはリン酸構造を有するヘッド部と、多環芳香族炭化水素基を有するベース部と、前記ヘッド部と前記ベース部とを結合する結合部とを備える有機化合物を含む有機物プローブ。
【請求項16】
前記ヘッド部は、ホスホン酸基またはリン酸基を有する芳香族炭化水素基を備える、請求項15に記載の有機物プローブ。
【請求項17】
ニトロ化合物分子を含む被検出分子を捕捉する、請求項15または請求項16に記載の有機物プローブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、分子検出装置、分子検出方法、および分子検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭用の温水器等には、不完全燃焼を起こした際に発生する一酸化炭素を検出する装置が取り付けてあり、早い段階で危険性を知らせてくれる。このようなガス成分は人体に重大な影響を与える。LPガス安全委員会の指針によれば、一酸化炭素の濃度がおおよそ200ppm(百万分の1)程度になると頭痛を引き起こすとされている。比較的濃度が高いガス成分を検出する方法としては種々の方法が知られているが、極低濃度に相当するppb(十億分の1)からppt(一兆分の1)の濃度では検出方法が限られている。
【0003】
災害現場やテロ行為が行われた現場等においては、極めて微量のガス成分を検出することで、事前に危険性を察知することが望まれている。極低濃度のガス成分は、研究施設内の大型機器を利用して検出する場合が多い。このような場合、ガスクロマトグラフィーや質量分析計のような高価で重量と容積の大きな設置型装置が必要となる。このような点から、極低濃度のガス成分をリアルタイムに検出することが可能な装置、すなわち重量や容積が小さくて携帯性に優れると共に、pptからppbオーダーの極低濃度のガス成分を選択的にかつ高感度に検出することを両立させた装置が求められている。
【0004】
ところで、極低濃度での検出が求められるガス成分としては、例えばサリンや有毒な農薬に含まれる有機リン化合物、窒素型や硫黄型のマスタードのような毒ガスの成分が挙げられる。これら以外に、爆発性を有するニトロ化合物の成分等も極低濃度での検出が求められている。例えば、爆薬類は密閉された状態でも極僅かながら揮発成分を放出しており、このようなガス成分を極めて微量の濃度で検出することが可能であれば、テロ行為の抑止効果をもたらすことが考えられる。従来、空港等の現場におけるニトロ化合物の揮発成分等は、訓練された警察犬等により発見するのが一般的である。このようなガス成分の検出方法は、テロ行為の抑止の観点から効果が高いものの、動物を利用した対処法はコストが高く、加えて常態的な正確性を確保することが難しい。
【0005】
低濃度のガス成分の検出素子としては、例えばカーボンナノ構造体の表面を特定物質と選択的に反応または吸着する有機物質等で表面修飾した導電層を有し、カーボンナノ構造体の表面に付着したガス成分により変化する電位差等を測定する素子が知られている。このような検出素子においては、検出プローブとして機能する有機物質の種類自体に限界があり、ニトロ化合物の揮発成分と十分な相互作用が得られる有機物質は見出されていない。一方、ナノワイヤーやナノチューブ等のナノ構造体に、ニトロ化合物成分と結合して電荷移動錯体を形成するアミン等の電子供与基を有する官能性成分を設けることによって、ニトロ化合物成分の存在や量を検出する方法が提案されている。この方法では、センサー側の電子供与基とニトロ化合物成分とによる電荷移動錯体の形成が、ニトロ化合物成分が存在する環境条件に左右されやすい。このため、環境条件によってはニトロ化合物成分の検出精度が低下するという難点がある
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−019688号公報
【特許文献2】特開2010−139269号公報
【特許文献3】特表2013−529308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、極低濃度のニトロ化合物成分等を含むガス成分を環境条件に左右されることなく選択的にかつ高感度に検出することを可能にした分子検出装置、分子検出方法分子検出器、および有機物プローブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の分子検出装置は、ンサー部と、前記センサー部に設けられた第1の有機物プローブとを有する第1の検出セルを備え、検出分子を前記有機物プローブで捕捉する検出器具備し、前記第1の有機物プローブは、ホスホン酸構造またはリン酸構造を有するヘッド部と、多環芳香族炭化水素基を有するベース部と、前記ヘッド部と前記ベース部とを結合する結合部とを備える有機化合物を含む
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の分子検出装置を示すブロック図である。
図2図1に示す分子検出装置の変形例を示すブロック図である。
図3】実施形態の検出器の構成を示す図である。
図4】実施例の分子検出装置による被検出分子の検出波形の一例を示す図である。
図5】実施形態の分子検出装置による複数の検出セルの一例を示す図である。
図6図5に示す複数の検出セルによる被検出分子の検出結果の一例を示す図である。
図7】実施形態で有機物プローブに用いられる有機化合物の第1の例を示す図である。
図8】実施形態で有機物プローブに用いられる有機化合物の第2の例を示す図である。
図9】実施形態の分子検出装置における情報処理部を示す図である。
図10】実施形態の分子検出装置で検出する被検出分子の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態の分子検出装置、分子検出方法、および分子検出器について、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、各部の厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
【0011】
図1は実施形態の分子検出装置を示すブロック図である。図1に示す分子検出装置1は、例えばガス発生元から発生した被検出分子(被検出物)2を含む検出対象ガス3から被検出分子2を検出する装置であり、捕集部10と検出器(分子検出器)20と識別器30とを備えている。被検出分子2を含む検出対象ガス3は、まず分子検出装置1の捕集部10で捕集される。捕集部10は、検出対象ガス3の捕集口を有しており、ガス流路11を介して検出器20に接続されている。捕集部10は、検出対象ガス3中に含まれる微粒子等の不純物を除去するフィルタを備えていてもよい。
【0012】
検出対象ガス3は、被検出分子2に類似する分子量や分子構造等を有する物質を不純物として含んでいる場合がある。また、空気中に漂う被検出分子2は図2に示すように、におい成分や微粒子等の様々な夾雑物4(4a、4b)と混ざった状態で存在することが多い。このような点から、検出対象ガス3は図2に示すように、予めフィルタ装置5や分子分配装置6等で前処理した後に、分子検出装置1に送るようにしてもよい。
【0013】
前処理装置のうちのフィルタ装置5には、一般的な中高性能フィルタ等が用いられる。フィルタ装置5において、検出対象ガス3中に含まれる微粒子等の粒子状物質が除去される。フィルタ装置5で粒子状物質が除去された検出対象ガス3は、分子分配装置6に送られる。分子分配装置6としては、検出対象ガス3をイオン化してイオン化物質群とし、イオン化物質群に電圧を印加して質量に比例する速度で飛行させ、この質量差による飛行速度およびそれに基づく飛行時間を利用して、イオン化物質群から被検出分子2のイオン化物質を分離する装置が挙げられる。このような分子分配装置6としては、イオン化部、電圧印加部、および飛行時間分離部を備える装置が用いられる。
【0014】
被検出分子2を含む検出対象ガス3は、直接もしくはフィルタ装置5や分子分配装置6等の装置で前処理された後に捕集部10で捕集される。捕集部10で捕集された被検出分子2は、ガス流路11を介して検出器20に送られる。検出器20は、図3に示すように、複数の検出セル201に区画された検出面20Aを備えている。検出器20の検出面20Aは、ガス流路11の被検出分子2の導出口(図示せず)に向けて配置されている。複数の検出セル201は、それぞれセンサー部21およびセンサー部21に設けられた有機物プローブ22を有する検出素子23を備えている。図3はセンサー部21にグラフェン電界効果トランジスタ(GFET)を用いた検出素子23を示している。
【0015】
センサー部21としてのGFETは、ゲート電極として機能する半導体基板24と、半導体基板24上にゲート絶縁層として設けられた絶縁膜25と、絶縁膜25上にチャネルとして設けられたグラフェン層26と、グラフェン層26の一端に設けられたソース電極27と、グラフェン層26の他端に設けられたドレイン電極28とを備えている。グラフェン層26上には、有機物プローブ22が設けられている。検出器20に導かれた被検出分子2は、グラフェン層26上の有機物プローブ22に捕捉される。有機物プローブ22に捕捉された被検出分子2からGFET21に電子が移動することで電気的な検出が行われる。このようにして、目的とする被検出分子2が検出される。
【0016】
有機物プローブ22を構成する有機物は溶剤に溶ける性質を有するため、溶剤に溶かした溶液として塗布することでグラフェン層26に有機物プローブ22を設置することができる。有機物プローブ22はグラフェンと相互作用を得られやすくするために、ピレン環のような構造を有した部位を有することが好ましい。ピレン環のような構造を持つ分子はグラフェンの炭素が構成する六角形状のπ電子系と相互作用を持ち、いわゆるπ―πスタッキングと呼ばれる相互作用状態を形成する。低濃度のプローブ分子を溶媒に溶かしてグラフェンに塗布すると、ピレン環とグラフェンとの間でπ―πスタッキングが形成され、グラフェン上にプローブ分子が整列して固定化される。このような自己配列作用を利用してグラフェン層26上に有機物プローブ22を設置することができる。有機物プローブ22を構成する有機化合物については、後に詳述する。
【0017】
グラフェン層26上に設けられた有機物プローブ22に被検出分子2が捕捉されると、GFET21の出力が変化する。グラフェンが1層の場合にはゼロギャップとなっているため、通常はソース電極27とドレイン電極28との間に電気が流れ続けている。グラフェンの層数が2層、3層と増えるとバンドギャップが生じるが、厳密な理論値から考えられるよりも実際の系ではバンドギャップが比較的小さい。ゲート絶縁層25がシリコン酸化膜程度の誘電率の場合には、ソース電極27とドレイン電極28との間に電気が流れ続けることが多い。従って、グラフェン層26はグラフェンの単層構造に限らず、5層以下程度のグラフェンの積層体で構成してもよい。
【0018】
有機物プローブ22の近傍に飛来した被検出分子2は、水素結合の力等により有機物プローブ22に引き付けられ、場合によっては接触する。被検出分子2の接触が起こると、有機物プローブ22との間で電子のやり取りが発生し、有機物プローブ22が接するグラフェン層26に電気的変化を伝える。有機物プローブ22からグラフェン層26に伝えられた電気的な変化は、ソース電極27とドレイン電極28との間の電気の流れを乱すため、GFET21がセンサーとして機能する。
【0019】
グラフェン層26をチャネルとして用いたGFET21によれば、極僅かな電気変化であっても顕著に出力として現れる。従って、高感度な検出素子23を構成することができる。GFET21を用いたセンサーは、グラフェンがゼロギャップ半導体としての性質を有することから、ゲート電極24に電圧を加えなくともソース電極27とドレイン電極28との間に電流が流れる傾向もみられる。従って、このままでもセンサーとして機能するが、通常はゲート電極24に電圧を加えた状態でソース電極27とドレイン電極28との間に電流を流し、有機物プローブ22で被検出分子2を捕捉した際のゲート電極24の電気的変化を観測する。図4は分子検出装置1による被検出分子2の検出波形の一例を示している。有機物プローブ22が被検出分子2を捕捉すると、検出波形に図4に示すような変化が現れる。検出波形の信号強度への変換は種々の方法が考えられるが、例えば図4におけるP1とP2、およびピークの先端であるP3との面積から算出した値を強度として設定する。ただし、必ずしもこの方法に限られるものではない。
【0020】
上記した検出素子23による被検出分子2の検出において、有機物プローブ22に捕捉された被検出分子2からGFET21への電子の移動が高いほどセンサーとしての機能が高くなる。GFET21を用いたセンサーは、最も高感度なFETセンサーとされており、カーボンナノチューブを用いたセンサーと比べて3倍ほど感度を向上させることができる。従って、GFET21と有機物プローブ22とを組み合わせた検出素子23を用いることによって、被検出分子2の高感度な検出が可能になる。
【0021】
図5は複数の検出セル201を格子状(アレイ状)に配列した検出面20Aを示しているが、必ずしもこれに限定されるものではない。複数の検出セル201は直線状に配列されていてもよい。複数の検出セル201のグラフェン層26にそれぞれ設けられた有機物プローブ22のうち、少なくとも一部は被検出分子2との作用強度(結合強度)が異なっている。すなわち、複数の検出セル201は被検出分子2との結合強度が異なる複数の有機物プローブ22を備えている。全ての有機物プローブ22が被検出分子2との結合強度が異なっていてもよいし、一部が被検出分子2との結合強度が異なっていてもよい。
【0022】
図5は検出器20の検出面20Aを4つの検出セル201、すなわち検出セルA、検出セルB、検出セルC、および検出セルDに分割した格子状センサーを示している。検出セルA〜Dのうち、少なくとも一部には種類が異なる有機物プローブ22、すなわち被検出分子2との結合強度が異なる複数の有機物プローブ22が設けられている。複数の有機物プローブ22は、それぞれ被検出分子2と相互作用を有するが、被検出分子2との結合強度が異なるため、強度が異なる検出信号が出力される。図6は検出セルA〜Dによる検出信号の一例を示している。検出セルA〜Dからの検出信号は、それぞれ有機物プローブ22の被検出分子2との結合強度により信号強度が異なっている。
【0023】
検出セルA〜Dで検出された信号は、識別器30に送られて信号処理される。識別器30は、検出セルA〜Dからの検出信号を強度に変換し、これら検出信号の強度差に基づく信号パターン(例えば図6に示す4つの検出信号のパターン)を解析する。識別器30には、検出する物質に応じた信号パターンが記憶されており、これら信号パターンと検出セルA〜Dで検出された信号パターンとを比較することによって、検出器20で検出された被検出分子2の識別が行われる。このような信号処理を、ここではパターン認識法と呼ぶ。パターン認識法によれば、例えば指紋検査のように被検出物特有の信号パターンにより被検出分子2を検出および識別することができる。従って、pptからppbオーダーの極低濃度のガス成分(被検出分子2)を選択的にかつ高感度に検出することができる。
【0024】
上述したパターン認識法を適用することによって、検出器20に導かれる検出対象ガス3に不純物が混入しているような場合においても、被検出分子2を選択的にかつ高感度に検出および識別することができる。例えば、被検出分子2が有毒な有機リン化合物の代表的な材料であるメチルホスホン酸ジメチル(DMMP、分子量:124)の場合、化学的な構造が近いジクロルボスのようなリン酸を持つ農薬、さらにマラチオン、クロルピリホス、ダイアジノンのような使用例が多い有機リン系農薬が存在する。これらの物質の誤検知を防ぐためには、図6に示すような信号パターンにより識別するのが有効である。すなわち、上述した各物質により検出セルA〜Dで検出される信号パターンが異なるため、パターン認識法を適用することで、分子量が近く、また構成元素も似通っている不純物が混入していても、検出対象の物質を選択的にかつ高感度に検出することができる。
【0025】
次に、実施形態の分子検出装置1の検出セル201に用いられる有機物プローブ22について詳述する。有機物プローブ22を構成する有機化合物は、被検出分子2に対する反応基として、例えばヒドロキシ基(−OH)を有している。ただし、反応基のみではほとんどガス成分と反応しない。そこで、水素結合性等を高めるために、反応基(−OH)の周囲をフッ素化した構造を有する有機化合物を適用することが好ましい。このような有機物プローブ22を構成する有機化合物の代表例を図7に示す。反応基(−OH)の周囲をフッ素化するために、例えば反応基(−OH)が結合した炭素に、トリフルオロメチル基(−CF)やヘキサフルオロエチル基(−C)等のフッ素化アルキル基を隣接基として導入する。そのような置換アルキル基を有する構造としては、図7に示す1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−フェニル−2−プロパノール構造や、α−トリフルオロメチルベンジル構造等が挙げられる。これらの構造は、電気陰性度が高いフッ素により反応基(OH基)の活性を高める効果を有する。なお、反応基はヒドロキシ基(−OH)に限らず、アミノ基(−NH)等であってもよい。また、隣接基はメチル基(−CH)やエチル基(−C)等のアルキル基であってもよい。
【0026】
有機物プローブ22を構成する有機化合物は、図7の有機化合物1Aに示すように、上述した反応基と隣接基とを有するヘッド部HSと、グラフェン層26等に対する設置部位となるベース部BSと、ヘッド部HSとベース部BSとを結合する結合部CSとを有する有機化合物で構成することが好ましい。ヘッド部HSは、反応基と隣接基を有する芳香族炭化水素基であることが好ましい。ベース部BSは、ピレン環、アントラセン環、ナフタセン環、フェナントレン環等の多環構造を有する置換または非置換の多環芳香族炭化水素基であることが好ましく、さらに置換または非置換のピレン基であることがより好ましい。結合部CSは単結合または有機基であり、メチレン基やエチレン基等のアルキレン基であってもよいが、エーテル結合(−O−)、エステル結合(−C(=O)O−)、カルボニル結合(−CO−)、アミド結合(−NH−CO−)、イミド結合(−CO−NH−CO−)等の特性基を有する有機基であることが好ましい。
【0027】
ところで、上述したような有機化合物(例えば、図7に示す有機化合物)からなる有機物プローブ22は、有毒な有機リン化合物の代表的な材料であるメチルホスホン酸ジメチル(DMMP)等に対して有効に機能するため、そのような化合物分子からなる被検出分子2を高精度に検出することができる。一方、爆発性を有するニトロ化合物、例えばトリニトロトルエン(C(CH)(NO/TNT)やピクリン酸(C(OH)(NO)等のニトロ化合物分子に対しては、上述したような有機化合物の効果は限定的であり、有効に作用するとは言えない。有機リン化合物は特徴的なリン(P)と酸素(O)との結合を有するのに対し、TNTに代表されるニトロ化合物は分子構造の対称性が高く、分子内の極性の偏りも小さい。このような物質を有機物プローブ22で捕捉するためには、有機化合物の構造を工夫する必要がある。
【0028】
実施形態の分子検出装置1おいては、ニトロ化合物と相互作用を示す有機物プローブ22として、ホスホン酸構造またはリン酸構造を有する有機化合物が用いられる。ホスホン酸構造またはリン酸構造は、反応基としてのヒドロキシ基(−OH)の隣接部位に比較的極性が大きいリンと酸素の二重結合(P=O)を有しており、分子内の偏りも大きいことから、分子構造の対称性が高く、分子内の極性の偏りも小さいニトロ化合物と良好な相互作用を示す。ホスホン酸構造またはリン酸構造を有する有機化合物を、検出セル201のセンサー部21に有機物プローブ22として設けることによって、ニトロ化合物分子の捕捉性を高めることができるため、検出器20によるニトロ化合物分子の検出感度や検出精度を向上させることが可能になる。さらに、ホスホン酸構造またはリン酸構造を有する有機物プローブ22は、分子内の電気的な偏り等によりニトロ化合物分子を引き寄せて捕捉するため、ニトロ化合物分子を周辺の環境条件等に左右されることなく高感度に検出することが可能になる。すなわち、ニトロ化合物分子の検出精度を高めることができる。
【0029】
図8にホスホン酸構造またはリン酸構造を有する有機化合物の例を示す。有機化合物2A、2Cはホスホン酸構造を有し、有機化合物2B、2Dはリン酸構造を有する。これらの有機化合物2A〜2Dは、前述した有機化合物1A〜1Cと同様に、反応基としてのヒドロキシ基(−OH)を有するホスホン酸基(HPO−)またはリン酸基(HPO−)を含むヘッド部HSと、グラフェン層26等に対する設置部位となるベース部BSと、ヘッド部HSとベース部BSとを結合する結合部CSとを有している。ヘッド部HSは、ホスホン酸基またはリン酸基を有する芳香族炭化水素基、さらにホスホン酸基またはリン酸基を有するフェニル基であることが好ましい。フェニル基を含む芳香族炭化水素基は、ホスホン酸基またはリン酸基以外の置換基を有していてもよい。
【0030】
ベース部BSは、前述した有機化合物1A〜1Cと同様に、ピレン環、アントラセン環、ナフタセン環、フェナントレン環等の多環構造を有する置換または非置換の多環芳香族炭化水素基であることが好ましく、さらに置換または非置換のピレン基であることがより好ましい。結合部CSは単結合または有機基であり、メチレン基やエチレン基等のアルキレン基であってもよいが、エーテル結合(−O−)、エステル結合(−C(=O)O−)、カルボニル結合(−CO−)、アミド結合(−NH−CO−)、イミド結合(−CO−NH−CO−)等の特性基、または上記特性基を有するアルキレン基のような有機基であることが好ましい。有機化合物2A、2Bは結合部CSとして[−CO−]基を有し、有機化合物2C、2Dは結合部CSとして[−CHO−]基を有している。
【0031】
上述したようなホスホン酸構造またはリン酸構造を有する有機化合物において、ヘッド部HSの反応基(−OH)を有する官能基の構造の違い(ホスホン酸基またはリン酸基)や、結合部CSとしての2価の炭化水素基の炭素数の違い等に基づいて、それら有機化合物からなる有機物プローブ22と被検出分子2としてのニトロ化合物分子との結合強度が異なる。従って、そのようなニトロ化合物分子との結合強度が異なる有機化合物からなる有機物プローブ22を、例えば図5に示す検出器20の4つの検出セルA〜Dにそれぞれ設けることによって、有機物プローブ22がニトロ化合物分子を捕捉した際の検出信号の強度を異ならせることができる。従って、図6に示すような検出信号の強度差に基づく信号パターンが得られ、これによりニトロ化合物分子の検出および識別が可能になる。
【0032】
複数の検出セル201に設ける有機物プローブ22は、ホスホン酸構造またはリン酸構造を有する有機化合物のみに限られるものではない。ホスホン酸構造またはリン酸構造を有する有機化合物からなる有機物プローブ22は、複数の検出セル201の少なくとも1つに設けられていればよい。他の検出セル201は、図7に示す有機化合物からなる有機物プローブ22や図8に示す有機化合物3からなる有機物プローブ22を有していてもよい。図8に示す有機化合物3は反応基を有していないため、それを用いた検出セル201は基準を示す標準セルとして用いることができる。また、被検出分子2としてのニトロ化合物分子の検出は、複数の検出セル201を用いたパターン認識法に限られるものではない。例えば、1つの検出セル201にホスホン酸構造またはリン酸構造を有する有機物プローブ22を設け、有機物プローブ22がニトロ化合物分子を捕捉したことにより生じる検出信号により被検出分子2を識別するように構成することも可能である。
【0033】
ホスホン酸構造またはリン酸構造を有する有機物プローブ22を用いた検出器20は、上述したように被検出分子2としてニトロ化合物分子を検出する際に有効に作用する。被検出分子2を構成するニトロ化合物としては、例えばトリニトロトルエン(C(CH)(NO)、ピクリン酸(C(OH)(NO)、ジニトロトルエン(C(CH)(NO)等の芳香族系ニトロ化合物、2,3−ジメチル−2,3−ジニトロブタンのような脂肪族系ニトロ化合物等が挙げられる。ただし、ホスホン酸構造またはリン酸構造を有する有機物プローブ22を用いた検出器20は、ニトロ化合物分子の検出に限られるものではなく、他のガス分子の検出に使用することもできる。
【0034】
実施形態の分子検出装置1によれば、例えばパターン認識法を適用することで、pptからppbオーダーの極低濃度のガス分子を選択的にかつ高感度に検出することができる。さらに、ホスホン酸構造またはリン酸構造を有する有機物プローブ22を用いることによって、分子構造の対称性が高く、分子内の極性の偏りも小さいニトロ化合物分子を、被検出分子2が存在する環境条件等に左右させることなく、高感度に検出することができる。従って、ニトロ化合物分子等のガス分子を高感度に検出することが可能になる。さらに、検出器20および識別器30で検出感度および検出精度を高めることで、分子検出装置1を小型化することができる。従って、携帯性と検出精度とを両立させた分子検出装置1を提供することが可能になる。このような分子検出装置1は、災害現場やテロ行為が行われた現場等、各種の現場でその機能を有効に発揮する。
【0035】
実施形態の分子検出装置1で得られた被検出分子2の検出および識別結果は、情報ネットワークを介して送信して活用するようにしてもよい。図9は被検出分子2の検出情報を、情報ネットワークを介して送信する機能、および検出情報と情報ネットワークから取得する参照情報とを照合する機能を備える情報処理部40が付属または内設された分子検出装置1の構成例を示している。情報処理部40は、被検出分子2の検出情報を送信する情報送信部41と、参照情報を受信する情報受信部42と、検出情報を参照情報と照合する情報照合部43とを具備している。情報処理部40は、情報送信機能および情報受信機能を含む情報照合機能の一方のみを有していてもよい。
【0036】
被検出分子2の検出情報は、情報送信部41からネットワークを介して情報利用者に伝達される。被検出分子2の検出情報を既存の参照情報と照合するために、ネットワークを介して情報受信部42により参照情報を取得する。取得した参照情報は情報照合部43により検出情報と照合される。情報を外部のネットワークから取得して参照することで、多くの情報を持ち歩いて解析する機能を外部に代替できるため、分子検出装置1をより一層小型化して携帯性を高めることができる。さらに、ネットワーク伝達手段を用いることで、パターン認識法における新たな信号パターンを即時に取得することもできる。情報を受信した側では、この情報を基に次の行動を起こすことができる。携帯性のある分子検出装置1を各所に配置しておき、得られるデータを各所から集めて分析し、異常事態の避難誘導等に役立てるといった使い方ができる。ネットワークと分子検出装置1とを結合することで、従来では達し得なかった多くの使い方が生み出され、産業的な価値が向上する。
【実施例】
【0037】
次に、具体的な実施例およびその評価結果について述べる。
【0038】
(実施例1)
まず、GFETと有機物プローブとを組み合わせた検出素子を、以下のようにして用意する。グラフェン層は、グラファイトからの剥離法により基板へ転写して形成したり、化学気相成長法(CVD)を利用して金属の表面に成長させることにより形成する。金属の表面に成長した単層や複数層のグラフェンをポリマー膜に転写して、所望の電界効果トランジスタ(FET)作製用の半導体基板に再度転写する。例えば、銅箔表面に1000℃程度の条件でメタンガスをフローしたCVDによりグラフェンを形成する。
【0039】
次に、ポリメチルメタクリレート膜を、スピンコート法を用いて4000rpmで塗布し、逆面の銅箔膜を0.1Mの過硫酸アンモニウム溶液でエッチングし、溶液に浮遊したグラフェン膜を回収する。これでグラフェン膜がポリメチルメタクリレート膜側へ転写される。十分に表面を洗浄した後に、これをシリコン基板上に再度転写する。余分なポリメチルメタクリレート膜は、アセトンにより溶解させて除去する。シリコン基板に転写されたグラフェンには、レジストを塗布してパターニングし、酸素プラズマによって電極間隔10μmのパターンを形成する。電極を蒸着してソース電極とドレイン電極を設けたFET構造を形成する。シリコン基板表面に形成されている酸化膜上にグラフェンが配置され、グラフェンがソース電極とドレイン電極で挟まれると共に、シリコン基板側をゲート電極とするFET型のセンサー構造が形成される。
【0040】
次いで、グラフェンの表面に有機物プローブを設ける。有機物プローブは、メタノール溶液に10nMの濃度で溶解させて、この中にグラフェンセンサー面を数分間浸漬して設置する。有機物プローブには、図8に示した有機化合物2A、2C、3と図7に示した有機化合物1Aを用いる。実施例1では、図5に示したように、検出器の検出面に4つの検出セルA〜Dを設け、検出セルAに有機化合物2A、検出セルBに有機化合物2C、検出セルCに有機化合物1A、検出セルDに有機化合物3をそれぞれ有機プローブとして設置する。前述したように、有機化合物1A、2A、2C、3は、それぞれ被検出分子(ニトロ化合物)との結合強度が異なる。
【0041】
次に、被検出分子として図10に示す被検出分子1(2,4,6−トリニトロトルエン)、被検出分子2(2,4−ジニトロトルエン)、および被検出分子3(2,3−ジメチル−2,3−ジニトロブタン)を用意する。被検出分子1については、その蒸気を窒素ガスで約5ppbの濃度となるように希釈し、この希釈ガスを検出器に送る。被検出分子1は、検出セルA〜Dの有機物プローブにそれぞれ捕捉される。検出セルA〜Dの有機物プローブは、それぞれ被検出分子との結合強度が異なるため、ゲート電極に検出される信号もそれぞれ異なる。検出セルA〜Dで検出した結果は、信号処理をする識別器に送られて強度に変換される。検出結果は、図6に示すように、相対的な強度表示となって出力される。被検出分子1の検出結果である各検出セルの信号強度を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1の検出結果において、検出セルDは他の検出セルと比べて検出信号の強度が2桁以上低いため、「0」と表記している。表1に示すように、被検出分子1の検出結果は、検出セルA〜Dの信号強度差に基づく信号パターンを示しており、このような信号パターンに基づいて被検出分子1を識別することによって、ppbオーダーの極低濃度の被検出分子1を選択的にかつ高感度に検出することができることが分かる。
【0044】
同様に、被検出分子2の蒸気を窒素ガスで約20ppbの濃度となるように希釈して検出器に送る。被検出分子2の検出結果を表2に示す。表2に示すように、被検出分子2の検出結果は、検出セルA〜Dの信号強度差に基づく信号パターンを示しており、このような信号パターンに基づいて被検出分子2を識別することによって、ppbオーダーの極低濃度の被検出分子2を選択的にかつ高感度に検出できることが分かる。
【0045】
【表2】
【0046】
さらに同様に、被検出分子3の蒸気を窒素ガスで約20ppbの濃度となるように希釈して検出器に送る。被検出分子3の検出結果を表3に示す。表3に示すように、被検出分子3の検出結果は、検出セルA〜Dの信号強度差に基づく信号パターンを示しており、このような信号パターンに基づいて被検出分子3を識別することによって、ppbオーダーの極低濃度の被検出分子3を選択的にかつ高感度に検出できることが分かる。
【0047】
【表3】
【0048】
(実施例2)
実施例1と同様にして作製したGFETセンサーのグラフェンの表面に設ける有機物プローブとして、図8に示した有機化合物2B、2D、3と図7に示した有機化合物1Aを用いる以外は、実施例1と同様にして検出器を構成する。このような検出器を用いて、図10に示す被検出分子1(2,4,6−トリニトロトルエン)を検出する。すなわち、被検出分子1の蒸気を窒素ガスで約5ppbの濃度となるように希釈して検出器に送る。被検出分子1の検出結果を表4に示す。表4に示すように、被検出分子1の検出結果は、検出セルA〜Dの信号強度差に基づく信号パターンを示しており、このような信号パターンに基づいて被検出分子1を識別することによって、ppbオーダーの極低濃度の被検出分子1を選択的にかつ高感度に検出できることが分かる。
【0049】
【表4】
【0050】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0051】
1…分子検出装置、2…被検出分子、3…検出対象ガス、10…捕集部、11…ガス流路、20…検出器、201…検出セル、21…センサー部(GFET)、22…有機物プローブ、23…検出素子23、24…半導体基板、25…絶縁膜、26…グラフェン層、27…ソース電極、28…ドレイン電極、30…識別器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10