特許第6622232号(P6622232)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6622232
(24)【登録日】2019年11月29日
(45)【発行日】2019年12月18日
(54)【発明の名称】電気化学反応装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 15/08 20060101AFI20191209BHJP
   C25B 1/00 20060101ALI20191209BHJP
   C25B 3/04 20060101ALI20191209BHJP
   C25B 9/00 20060101ALI20191209BHJP
   C25B 9/04 20060101ALI20191209BHJP
   C25B 15/02 20060101ALI20191209BHJP
【FI】
   C25B15/08 302
   C25B1/00 Z
   C25B3/04
   C25B9/00 Z
   C25B9/04 302
   C25B15/02 302
【請求項の数】13
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-20930(P2017-20930)
(22)【出願日】2017年2月8日
(65)【公開番号】特開2017-150072(P2017-150072A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2018年9月13日
(31)【優先権主張番号】特願2016-32480(P2016-32480)
(32)【優先日】2016年2月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】御子柴 智
(72)【発明者】
【氏名】工藤 由紀
(72)【発明者】
【氏名】北川 良太
(72)【発明者】
【氏名】田村 淳
(72)【発明者】
【氏名】菅野 義経
(72)【発明者】
【氏名】堤 栄史
(72)【発明者】
【氏名】山際 正和
【審査官】 関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−511740(JP,A)
【文献】 特開2014−101550(JP,A)
【文献】 特開2013−173989(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/011252(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0003552(US,A1)
【文献】 特表2015−513615(JP,A)
【文献】 特表2015−533944(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00− 1/46
C25B 3/00− 3/12
C25B 9/00− 9/20
C25B 11/00−11/18
C25B 15/00−15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を含む第1の電解液を収容するための第1の収容部と、水を含む第2の電解液を収容するための第2の収容部と、を備える第1の電解液槽と、
前記第1の収容部に設けられた還元電極と、
前記第2の収容部に設けられた酸化電極と、
二酸化炭素を含む第3の電解液を収容するための第3の収容部を備える第2の電解液槽と、
二酸化炭素を含む第4の電解液を収容するための第4の収容部と前記第4の収容部を複数の領域に区切るように設けられた第1の気液分離膜とを備える第1の分離槽と、
水を含む第5の電解液を収容するための第5の収容部と前記第5の収容部を複数の領域に区切るように設けられた第2の気液分離膜とを備える第2の分離槽と、
前記第1の収容部と前記第3の収容部とを接続する第1の流路と、
前記第1の収容部と前記第4の収容部とを接続する第2の流路と、
前記第3の収容部と前記第4の収容部とを接続する第3の流路と、
前記第2の収容部と前記第5の収容部とを接続する第4の流路と、を具備し、
前記第3の電解液の温度が前記第1の電解液の温度よりも低い、電気化学反応装置。
【請求項2】
前記第1の電解液よりも高温の二酸化炭素を発生させる二酸化炭素発生源と、
酸化炭素の還元反応による生成物を還元する還元反応装置と、
前記第3の収容部上に設けられた蒸留器と、
前記第1の収容部と前記二酸化炭素発生源とを接続する第5の流路と、
前記第3の収容部と前記還元反応装置とを接続する第6の流路と、をさらに具備する、請求項1に記載の電気化学反応装置。
【請求項3】
前記第3の収容部に設けられた第1の冷却器と、
前記第2の流路に設けられた第2の冷却器と、
前記第4の流路に設けられた第1の加熱器と、
前記第5の流路に設けられた第3の冷却器と、をさらに具備する、請求項2に記載の電気化学反応装置。
【請求項4】
前記第2の電解液槽と前記第2の分離槽との間、前記第1の分離槽と前記第2の分離槽との間、前記還元反応装置と前記第2の電解液槽との間、前記二酸化炭素発生源と前記蒸留器との間、および前記還元反応装置と前記蒸留器との間の少なくとも一つで熱交換を行う、請求項2に記載の電気化学反応装置。
【請求項5】
前記第2の電解液槽と前記第2の分離槽との間を接続する伝熱部材、前記第1の分離槽と前記第2の分離槽との間を接続する伝熱部材、前記還元反応装置と前記第2の電解液槽との間を接続する伝熱部材、前記二酸化炭素発生源と前記蒸留器との間を接続する伝熱部材、および前記還元反応装置と前記蒸留器との間を接続する伝熱部材の少なくとも一つの伝熱部材をさらに具備する、請求項2に記載の電気化学反応装置。
【請求項6】
前記還元電極および前記酸化電極に電気的に接続された電源をさらに具備し、
前記電源は、前記還元電極に電気的に接続された第1の面と前記酸化電極に電気的に接続された第2の面とを有する光電変換体を備える、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の電気化学反応装置。
【請求項7】
前記第1の収容部と前記第2の収容部との間に設けられたイオン交換膜をさらに具備する、請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の電気化学反応装置。
【請求項8】
前記第3の電解液に与えられる圧力が前記第1の電解液に与えられる圧力よりも高い、請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の電気化学反応装置。
【請求項9】
二酸化炭素を含む第1の電解液を収容するための第1の収容部と、水を含む第2の電解液を収容するための第2の収容部と、を備える第1の電解液槽と、
前記第1の収容部に設けられた還元電極と、
前記第2の収容部に設けられた酸化電極と、
酸化炭素を含む第3の電解液を収容するための第3の収容部を備える第2の電解液槽と、
前記第1の収容部と前記第3の収容部とを接続する流路と、を具備し、
前記第3の電解液に与えられる圧力が前記第1の電解液に与えられる圧力よりも高い、電気化学反応装置。
【請求項10】
二酸化炭素を含む第4の電解液を収容するための第4の収容部と前記第4の収容部を複数の領域に区切るように設けられた第1の気液分離膜とを備える第1の分離槽と、
水を含む第5の電解液を収容するための第5の収容部と前記第5の収容部を複数の領域に区切るように設けられた第2の気液分離膜とを備える第2の分離槽と、
前記第1の収容部と前記第4の収容部とを接続する第2の流路と、
前記第3の収容部と前記第4の収容部とを接続する第3の流路と、
前記第2の収容部と前記第5の収容部とを接続する第4の流路と、をさらに具備する、請求項9に記載の電気化学反応装置。
【請求項11】
前記第1の電解液よりも高温の二酸化炭素を発生させる二酸化炭素発生源と、
前記二酸化炭素の還元反応による生成物を還元する還元反応装置と、
前記第3の収容部上に設けられた蒸留器と、
前記第1の収容部と前記二酸化炭素発生源とを接続する第5の流路と、
前記第3の収容部と前記還元反応装置とを接続する第6の流路と、をさらに具備する、請求項10に記載の電気化学反応装置。
【請求項12】
前記還元電極および前記酸化電極に電気的に接続された電源をさらに具備し、
前記電源は、前記還元電極に電気的に接続された第1の面と前記酸化電極に電気的に接続された第2の面とを有する光電変換体を備える、請求項10または請求項11のいずれか一項に記載の電気化学反応装置。
【請求項13】
前記第1の収容部と前記第2の収容部との間に設けられたイオン交換膜をさらに具備する、請求項10ないし請求項12のいずれか一項に記載の電気化学反応装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態の発明は、電気化学反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー問題や環境問題の観点から、植物の光合成を模倣して太陽光を電気化学的に化学物質に変換する人工光合成技術の開発が進められている。例えば、砂漠のような利用価値が低く、植物の生産に利用しない土地で太陽光を化学物質に変換して離れた場所に輸送しても十分にエネルギーを得ることができるためである。太陽光を化学物質に変換してボンベやタンクに貯蔵する場合、太陽光を電気に変換して蓄電池に貯蔵する場合に比べて、エネルギーの貯蔵コストを低減することができ、また貯蔵ロスも少ないという利点がある。
【0003】
太陽光を電気化学的に化学物質へ変換する光電気化学反応装置としては、例えば二酸化炭素(CO)を還元する還元触媒を有する電極と、水(HO)を酸化する酸化触媒を有する電極とを備え、これら電極を二酸化炭素が溶解した水中に浸漬させる二電極方式の装置が知られている。このとき、各電極は電線等を介して電気的に接続される。酸化触媒を有する電極においては、光エネルギーによりHOを酸化して酸素(1/2O)を得ると共に、電位を得る。還元触媒を有する電極においては、酸化反応を生起する電極から電位を得ることによって、二酸化炭素を還元して蟻酸(HCOOH)等を生成する。このように、二電極方式の装置においては、二酸化炭素の還元電位を2段励起により得ているため、太陽光から化学エネルギーへの変換効率が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許3959094号明細書
【特許文献2】特許4811844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
実施形態の発明が解決しようとする課題は、二酸化炭素の還元効率を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の電気化学反応装置は、二酸化炭素を含む第1の電解液を収容するための第1の収容部と、水を含む第2の電解液を収容するための第2の収容部と、を備える第1の電解液槽と、第1の収容部に設けられた還元電極と、第2の収容部に設けられた酸化電極と、二酸化炭素を含む第3の電解液を収容するための第3の収容部を備える第2の電解液槽と、二酸化炭素を含む第4の電解液を収容するための第4の収容部と第4の収容部を複数の領域に区切るように設けられた第1の気液分離膜とを備える第1の分離槽と、水を含む第5の電解液を収容するための第5の収容部と第5の収容部を複数の領域に区切るように設けられた第2の気液分離膜とを備える第2の分離槽と、第1の収容部と第3の収容部とを接続する第1の流路と、第1の収容部と第4の収容部とを接続する第2の流路と、第3の収容部と第4の収容部とを接続する第3の流路と、第2の収容部と第5の収容部とを接続する第4の流路と、を具備する。第3の電解液の温度は第1の電解液の温度よりも低い。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】電気化学反応装置の構成例を示す模式図である。
図2】電気化学反応装置の他の構成例を示す模式図である。
図3】光電変換セルの構成例を示す模式図である。
図4】電気化学反応装置の他の構成例を示す模式図である。
図5】電気化学反応装置の他の構成例を示す模式図である。
図6】電気化学反応装置の他の構成例を示す模式図である。
図7】電気化学反応装置の他の構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。なお、図面は模式的であり、例えば各構成要素の厚さ、幅等の寸法は実際の構成要素の寸法と異なる場合がある。また、実施形態において、実質的に同一の構成要素には同一の符号を付け、説明を省略する場合がある。本明細書において「接続する」の用語は、直接接続する場合に限定されず、間接的に接続する意味を含んでいてもよい。
【0009】
図1は電気化学反応装置の構成例を示す模式図である。電気化学反応装置は、図1に示すように、電解液槽11と、電解液槽12と、還元電極31と、酸化電極32と、光電変換体33と、イオン交換膜4と、流路51と、流路52と、を具備する。
【0010】
電解液槽11は、収容部111と、収容部112と、を有する。電解液槽11の形状は、収容部となる空洞を有する立体形状であれば特に限定されない。
【0011】
収容部111は、被還元物質を含む電解液21を収容する。被還元物質は、還元反応により還元される物質である。被還元物質は、例えば二酸化炭素を含む。また、被還元物質は水素イオンを含んでいてもよい。電解液21に含まれる水の量や電解液成分を変えることで、反応性を変化させ、被還元物質の選択性や生成する化学物質の割合を変えることができる。
【0012】
収容部112は、被酸化物質を含む電解液22を収容する。被酸化物質は、酸化反応により酸化される物質である。被酸化物質は、例えば水、またはアルコールもしくはアミン等の有機物や酸化鉄などの無機酸化物である。電解液21と同じ物質が電解液22に含まれていてもよい。この場合、電解液21および電解液22が1つの電解液であるとみなされてもよい。
【0013】
電解液22のpHは、電解液21のpHよりも高いことが好ましい。これにより、水素イオンや水酸化物イオン等が移動し易くなる。また、pHの差による液間電位差により酸化還元反応を効果的に進行させることができる。
【0014】
電解液槽12は、電解液23を収容する収容部113を有する。電解液23は、例えば二酸化炭素を含む。電解液槽12は、還元触媒吸収装置としての機能を有する。電解液23の温度は、電解液21の温度よりも低い。
【0015】
還元電極31は、電解液21に浸漬される。還元電極31は、例えば被還元物質の還元触媒を含む。還元反応により生成される化合物は、還元触媒の種類等によって異なる。還元反応により生成される化合物は、例えば一酸化炭素(CO)、蟻酸(HCOOH)、メタン(CH)、メタノール(CHOH)、エタン(C)、エチレン(C)、エタノール(COH)、ホルムアルデヒド(HCHO)、エチレングリコール等の炭素化合物、または水素である。還元反応により生成される化合物は、例えば生成物流路を介して回収されてもよい。このとき、生成物流路は、例えば収容部111に接続されている。還元反応により生成される化合物は、他の流路を介して回収されてもよい。
【0016】
還元電極31は、例えば薄膜状、格子状、粒子状、ワイヤー状の構造を有してもよい。必ずしも還元電極31に還元触媒を設けなくてもよい。還元電極31以外に設けられた還元触媒を還元電極31に電気的に接続してもよい。
【0017】
酸化電極32は、電解液22に浸漬される。酸化電極32は、例えば被酸化物質の酸化触媒を含む。酸化反応により生成される化合物は、酸化触媒の種類等によって変化する。酸化反応により生成される化合物は、例えば水素イオンである。酸化反応により生成される化合物は、例えば生成物流路を介して回収されてもよい。このとき、生成物流路は、例えば収容部112に接続される。酸化反応により生成される化合物は、他の流路を介して回収されてもよい。
【0018】
酸化電極32は、例えば薄膜状、格子状、粒子状、ワイヤー状の構造を有してもよい。必ずしも酸化電極32に酸化触媒を設けなくてもよい。酸化電極32以外に設けられた酸化触媒層を酸化電極32に電気的に接続してもよい。
【0019】
酸化電極32が積層され、かつ電解液22に浸漬される場合であって、酸化電極32を介して光電変換体33に光を照射して酸化還元反応を行う場合、酸化電極32は、透光性を有する必要がある。酸化電極32の光の透過率は、例えば酸化電極32に照射される光の照射量の少なくとも10%以上、より好ましくは30%以上であることが好ましい。これに限定されず、例えば還元電極31を介して光電変換体33に光を照射してもよい。
【0020】
光電変換体33は、還元電極31に電気的に接続された面331と、酸化電極32に電気的に接続された面332と、を有する。図1において、面331と還元電極31との間、および面332と酸化電極電極32との間は例えば伝熱性を有する配線等の伝熱部材で接続されている。配線等により光電変換体と還元電極または酸化電極とを接続する場合、機能ごとに構成要素が分離されているため、システム的に有利である。光電変換体33は電解液槽11の外部に設けられてもよい。なお、必ずしも光電変換体33が設けられなくてもよい。他の電源を酸化電極32および還元電極31に接続してもよい。電源としては、光電変換体を含む光電変換素子に限定されず、系統電源、蓄電池等の電源装置または風力、水力、地熱などの再生可能エネルギー等を用いてもよい。
【0021】
光電変換体33は、照射された太陽光等の光のエネルギーにより電荷分離を行う機能を有する。電荷分離により発生した電子は還元電極側に移動し、正孔は酸化電極側に移動する。これにより、光電変換体33は、起電力を発生することができる。光電変換体33としては、例えばpn接合型またはpin接合型の光電変換体を用いることができる。光電変換体33は例えば電解液槽11に固定されていてもよい。なお、複数の光電変換層を積層することにより光電変換体33が形成されてもよい。
【0022】
還元電極31、酸化電極32、および光電変換体33のサイズは、互いに異なってもよい。
【0023】
イオン交換膜4は、収容部111と収容部112とを区切るように設けられている。イオン交換膜4としては、例えばアストム社のネオセプタ(登録商標)や旭硝子社のセレミオン(登録商標)、Aciplex(登録商標)、Fumatech社のFumasep(登録商標)、fumapem(登録商標)、デュポン社のテトラフルオロエチレンをスルホン化して重合したフッ素樹脂であるナフィオン(登録商標)、LANXESS社のlewabrane(登録商標)、IONTECH社のIONSEP(登録商標)、PALL社のムスタング(登録商標)、mega社のralex(登録商標)、ゴアテックス社のゴアテックス(登録商標)等を用いることができる。また、炭化水素を基本骨格とした膜や、アニオン交換ではアミン基を有する膜を用いてイオン交換膜が構成されていてもよい。なお、必ずしもイオン交換膜4が設けられなくてもよい。
【0024】
流路51および流路52は、電解液を流通させる電解液流路としての機能を有する。これに限定されず、流路51および流路52により電解液と酸化還元反応による生成物を流通させてもよい。電解液槽11、12および流路51、52として、例えば光を透過する材料を用いてもよい。また、電解液槽12としては、電解液槽12の効率向上のために熱を伝えやすい材料で、槽内を均一に保つことが望ましく、太陽熱を用いる場合には熱を吸収しやすい材料や黒色等の熱の吸収率が高い素材を用いると、省エネルギーとなり好ましい。特に太陽光を受けているときに反応が進行する電気化学反応装置では、より望ましい。また、槽内部の電解液の液温調整を直接行うために、光を透過する材料を用い、内部に太陽光を吸収する材料を設けることで、効率を向上させることが可能となり、望ましい。
【0025】
流路51は、収容部111と収容部113とを接続する。電解液21に含まれるイオンその他の物質は、流路51を介して電解液槽12に移動することができる。
【0026】
流路52は、収容部111と収容部113とを接続する。電解液23に含まれるイオンその他の物質は、流路52を介して電解液槽11に移動することができる。
【0027】
流路51および流路52の形状は、配管等の電解液を流すことができる空洞を有する形状であれば特に限定されない。流路51および流路52の少なくとも一つの流路の電解液は、循環ポンプにより循環されてもよい。電解液21の少なくとも一部は、例えば流路51を介して収容部113に移動する。電解液23の少なくとも一部は、例えば流路52を介して収容部111に移動する。図1に示す矢印は電解液の循環方向を示す。
【0028】
次に、図1に示す電気化学反応装置の動作例について説明する。光電変換体33に光が入射すると、光電変換体33は、光励起電子および正孔を生成する。このとき、還元電極31には光励起電子が集まり、酸化電極32には正孔が集まる。これにより、光電変換体33に起電力が発生する。光としては、太陽光が好ましいが、発光ダイオードや有機EL等の光を光電変換体33に入射させてもよい。
【0029】
電解液21および電解液22として水および二酸化炭素を含む電解液を用い、一酸化炭素を生成する場合について説明する。酸化電極32周辺では、下記式(1)のように水の酸化反応が起こり、電子を失い、酸素と水素イオンが生成される。生成された水素イオンの少なくとも一つは、イオン交換膜4を介して収容部111に移動する。
2HO → 4H+O+4e ・・・(1)
【0030】
還元電極31周辺では、下記式(2)のように二酸化炭素の還元反応が起こり、電子を受け取りつつ水素イオンが二酸化炭素と反応し、一酸化炭素と水が生成される。また、一酸化炭素とは別に下記式(3)のように水素イオンが電子を受け取ることにより、水素が生成される。このとき、水素は一酸化炭素と同時に生成されてもよい。
CO+2H+2e → CO+HO ・・・(2)
2H+2e → H ・・・(3)
【0031】
光電変換体33は、酸化反応の標準酸化還元電位と還元反応の標準酸化還元電位との電位差以上の開放電圧を有する必要がある。例えば、式(1)における酸化反応の標準酸化還元電位は1.23[V]である。式(2)における還元反応の標準酸化還元電位は−0.03[V]である。式(3)における酸化反応の標準酸化還元電位は0Vである。このとき、式(1)と式(2)との反応では開放電圧を1.26[V]以上にする必要がある。
【0032】
光電変換体33の開放電圧は、酸化反応の標準酸化還元電位と還元反応の標準酸化還元電位との電位差よりも過電圧の値以上高くすることが好ましい。例えば、式(1)における酸化反応および式(2)における還元反応の過電圧がそれぞれ0.2[V]である。式(1)と式(2)との反応では、開放電圧を1.66[V]以上にすることが好ましい。同様に式(1)と式(3)との反応では、開放電圧を1.63[V]以上にすることが好ましい。
【0033】
水素イオンや二酸化炭素の還元反応は、水素イオンを消費する反応である。このため、水素イオンの量が少ない場合、還元反応の効率が悪くなる。よって、電解液21と電解液22との間で水素イオンの濃度を異ならせ、濃度差により水素イオンを移動させやすくしておくことが好ましい。陰イオン(例えば水酸化物イオン等)の濃度を電解液21と電解液22との間で異ならせてもよい。
【0034】
式(2)の反応効率は、電解液中に溶存された二酸化炭素の濃度によって変化する。二酸化炭素濃度が高くなるほど反応効率は高くなり、低くなるほど低下する。電解液中の二酸化炭素濃度を高くすることは、溶解度が低いため困難である。式(2)の反応効率は、炭酸水素イオンや炭酸イオン濃度によっても変化する。しかしながら、炭酸水素イオン濃度や炭酸イオン濃度は、電解液濃度を高めることやpHを調整することによって調整できるため、二酸化炭素濃度よりも調整させやすい。なお、酸化電極と還元電極との間にイオン交換膜を設けても二酸化炭素ガスや炭酸イオン、炭酸水素イオン等がイオン交換膜4を通過してしまうため、完全に性能低下を防ぐことは困難である。
【0035】
二酸化炭素濃度を高める方法としては、例えば電解液槽11に直接二酸化炭素を吹き込む方法が考えられる。しかしながら、還元生成物がガス状の一酸化炭素等である場合、二酸化炭素ガスと一酸化炭素ガスとを分離する必要がある。よって、装置の複雑化によるコストの増加や分離に要するエネルギーを要するためにエネルギーロスが生じる。
【0036】
本実施形態の電気化学反応装置は、酸化還元反応に用いられる第1の電解液槽と、第1の電解液槽に接続された第2の電解液槽と、を具備する。第2の電解液槽の収容部に収容される電解液の温度は、第1の電解液槽の収容部に収容される電解液よりも低い。例えば、第2の電解液槽における収容部を冷却することにより、第2の電解液槽に収容される電解液の温度を第1の電解液槽の収容部に収容される電解液よりも低くすることができる。第2の電解液槽における二酸化炭素の溶解度は、第1の電解液槽における二酸化炭素の溶解度よりも高い。
【0037】
第2の電解液槽における二酸化炭素濃度は、電解液23に与えられる圧力を電解液21に与えられる圧力よりも高くすることによっても高めることができる。このとき、例えば第2の電解液槽の収容部の圧力を第1の電解液槽の収容部の圧力よりも高くしてもよい。また、流路52に圧力調整器が設けられてもよい。
【0038】
第2の電解液槽において調整された高い二酸化炭素濃度を有する電解液を第1の電解液槽に供給することにより、第1の電解液槽に収容された電解液の二酸化炭素濃度を高くすることができる。よって、還元反応の効率を向上させることができる。
【0039】
第1の電解液槽の収容部を冷却する場合、触媒による反応が低下するために反応効率が低下しやすい。また、第1の電解液槽の収容部を加圧する場合、電解液槽の耐圧性を高める必要があるためコストが増大し、また構造が複雑になる。さらに、耐圧性を高めると電極の交換が煩雑になる等のメンテナンス性が悪化する。
【0040】
二酸化炭素の供給量を減らすことや、二酸化炭素を電解液に効率よく吸収させるためには、電解液中を通過する二酸化炭素の気泡同士の間隔が広いことが必要である。しかしながら、二酸化炭素の濃度を高めることにより気泡同士の間隔が短くなり、電解液槽を小さくすることができる。冷却温度は例えば第1の電解液槽における電解液の温度以下が好ましい。酸化還元反応によって電解液の温度が上昇する場合、冷却温度は室温以上第1の電解液槽の電解液温度以下であることが好ましい。冷却温度は電解液が凍結しない温度以上電解液温度以下であることがより好ましい。
【0041】
第1の電解液槽における電解液の温度は凍結温度よりも高いことが好ましい。例えば、二酸化炭素の吸収量の向上、二酸化炭素イオン、HCOイオン濃度の向上、および電解液の溶液抵抗の向上のためにカリウムイオンやナトリウムイオン等のイオンを含む場合、電解液は0℃で凍結しない。しかしながら、極端に冷却するためには大型の冷却器が必要になり、コストやエネルギーロスにつながるため、0℃以上が好ましい場合がある。また、電気化学反応装置全体のエネルギーロスや電解液の極端な冷却による反応低下なども懸念されるため、5℃以上または10℃以上が好ましい場合もある。
【0042】
電解液温度の低下による反応効率の低下を抑制するために電解液槽11、12や流路51、52に温度調節器が設けられてもよい。温度調節器により温度を調節することにより反応効率が向上する。例えば、流路51に冷却器が設けられ、流路52に加熱器が設けられてもよい。数℃の温度差でも効果を得ることが可能であるため、第1の電解液槽と第2の電解液槽との間の電解液流路や電解液槽に太陽光を照射させることで加温すると自然エネルギーを用いることができるため効率が良い。さらには後述する太陽光を電気エネルギーに変換して本反応を行う場合では太陽光の熱エネルギーと光エネルギーを効率よく用いることができるためさらに効率が向上する。
【0043】
電気化学反応装置における各構成要素の構造例についてさらに説明する。電解液に適用可能な水を含む電解液としては、例えば任意の電解質を含む水溶液を用いることができる。この溶液は水の酸化反応を促進する水溶液であることが好ましい。電解質を含む水溶液としては、例えばリン酸イオン(PO2−)、ホウ酸イオン(BO3−)、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)、カルシウムイオン(Ca2+)、リチウムイオン(Li)、セシウムイオン(Cs)、マグネシウムイオン(Mg2+)、塩化物イオン(Cl)、炭酸水素イオン(HCO)等を含む水溶液が挙げられる。
【0044】
電解液に適用可能な二酸化炭素を含む電解液としては、例えばLiHCO、NaHCO、KHCO、CsHCO3、リン酸、ホウ酸等を含む水溶液が挙げられる。二酸化炭素を含む電解液は、メタノール、エタノール、アセトン等のアルコール類を含んでもよい。水を含む電解液は、二酸化炭素を含む電解液と同じであってもよい。しかしながら、二酸化炭素を含む電解液における二酸化炭素の吸収量は高いことが好ましい。よって、二酸化炭素を含む電解液として水を含む電解液と異なる溶液を用いてもよい。二酸化炭素を含む電解液は、二酸化炭素の還元電位を低下させ、イオン伝導性が高く、二酸化炭素を吸収する二酸化炭素吸収剤を含む電解液であることが好ましい。
【0045】
上述した電解液としては、例えばイミダゾリウムイオンやピリジニウムイオン等の陽イオンと、BFやPF等の陰イオンとの塩からなり、幅広い温度範囲で液体状態であるイオン液体もしくはその水溶液を用いることができる。さらに、他の電解液としては、エタノールアミン、イミダゾール、ピリジン等のアミン溶液もしくはその水溶液が挙げられる。アミンとしては、一級アミン、二級アミン、三級アミン等が挙げられる。これらの電解液が、イオン伝導性が高く、二酸化炭素を吸収する性質を有し、還元エネルギーを低下させる特性を有していてもよい。
【0046】
一級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン等が挙げられる。アミンの炭化水素は、アルコールやハロゲン等が置換していてもよい。アミンの炭化水素が置換されたものとしては、メタノールアミン、エタノールアミン、クロロメチルアミン等が挙げられる。また、不飽和結合が存在していてもよい。これら炭化水素は、二級アミン、三級アミンも同様である。
【0047】
二級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン等が挙げられる。置換された炭化水素は、異なってもよい。これは三級アミンでも同様である。例えば、炭化水素が異なるものとしては、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン等が挙げられる。
【0048】
三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリブタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリエキサノールアミン、メチルジエチルアミン、メチルジプロピルアミン等が挙げられる。
【0049】
イオン液体の陽イオンとしては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾールイオン、1−メチル−3−ペンチルイミダゾリウムイオン、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムイオン等が挙げられる。
【0050】
イミダゾリウムイオンの2位が置換されていてもよい。イミダゾリウムイオンの2位が置換された陽イオンとしては、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−ペンチルイミダゾリウムイオン、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン等が挙げられる。
【0051】
ピリジニウムイオンとしては、メチルピリジニウム、エチルピリジニウム、プロピルピリジニウム、ブチルピリジニウム、ペンチルピリジニウム、ヘキシルピリジニウム等が挙げられる。イミダゾリウムイオンおよびピリジニウムイオンは共に、アルキル基が置換されてもよく、不飽和結合が存在してもよい。
【0052】
アニオンとしては、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、BF、PF、CFCOO、CFSO、NO、SCN、(CFSO、ビス(トリフルオロメトキシスルホニル)イミド、ビス(トリフルオロメトキシスルホニル)イミド、ビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミド等が挙げられる。イオン液体のカチオンとアニオンとを炭化水素で接続した双生イオンでもよい。なお、リン酸カリウム溶液等の緩衝溶液を収容部111、112に供給してもよい。
【0053】
図2は電気化学反応装置の他の例を示す図である。図2に示す電気化学反応装置では、図1に示す電気化学反応装置と還元電極31と、酸化電極32と、光電変換体33と、は積層されている構成が異なる。還元電極31は面331に接し、酸化電極32は面332に接している。このとき、還元電極31、酸化電極32、および光電変換体33を含む積層体を光電変換セルともいう。光電変換セルは、イオン交換膜4を貫通して電解液21および電解液22に浸漬されている。
【0054】
図3は、光電変換セルの構造例を示す断面模式図である。図3に示す光電変換セルは、導電性基板30と、還元電極31と、酸化電極32と、光電変換体33と、光反射体34と、金属酸化物体35と、金属酸化物体36と、を備える。
【0055】
導電性基板30は、還元電極31に接するように設けられる。なお、導電性基板30を還元電極の一部とみなしてもよい。導電性基板30としては、例えばCu、Al、Ti、Ni、Fe、およびAgの少なくとも1つまたは複数を含む基板が挙げられる。例えば、SUS等のステンレス鋼を含むステンレス基板を用いてもよい。これに限定されず、導電性樹脂を用いて導電性基板30を構成してもよい。また、SiまたはGe等の半導体基板を用いて導電性基板30を構成してもよい。さらに、樹脂フィルム等を導電性基板30として用いてもよい。例えば、イオン交換膜4に適用可能な膜を導電性基板30として用いてもよい。
【0056】
導電性基板30は、支持体としての機能を有する。収容部111と収容部112とを分離するように導電性基板30を設けてもよい。導電性基板30を設けることにより光電変換セルの機械的強度を向上させることができる。また、導電性基板30を還元電極31の一部とみなしてもよい。さらに、必ずしも導電性基板30を設けなくてもよい。
【0057】
還元電極31は、還元触媒を含むことが好ましい。還元電極31は、導電材料および還元触媒の両方を含んでいてもよい。還元触媒としては、水素イオンや二酸化炭素を還元するための活性化エネルギーを減少させる材料が挙げられる。言い換えると、水素イオンや二酸化炭素の還元反応により水素や炭素化合物を生成する際の過電圧を低下させる材料が挙げられる。例えば、金属材料または炭素材料を用いることができる。金属材料としては、例えば水素の場合、白金、ニッケル等の金属、または当該金属を含む合金を用いることができる。二酸化炭素の還元反応では金、アルミニウム、銅、銀、白金、パラジウム、もしくはニッケル等の金属、または当該金属を含む合金を用いることができる。炭素材料としては、例えばグラフェン、カーボンナノチューブ(Carbon Nanotube:CNT)、フラーレン、またはケッチェンブラック等を用いることができる。なお、これに限定されず、還元触媒として例えばRu錯体またはRe錯体等の金属錯体、イミダゾール骨格やピリジン骨格を有する有機分子を用いてもよい。また、複数の材料を混合してもよい。
【0058】
酸化電極32は、酸化触媒を含むことが好ましい。酸化電極32は、導電材料および酸化触媒の両方を含んでいてもよい。酸化触媒としては、水を酸化するための活性化エネルギーを減少させる材料が挙げられる。言い換えると、水の酸化反応により酸素と水素イオンを生成する際の過電圧を低下させる材料が挙げられる。例えば、イリジウム、白金、コバルト、またはマンガン等が挙げられる。また、酸化触媒としては、二元系金属酸化物、三元系金属酸化物、または四元系金属酸化物などを用いることができる。二元系金属酸化物としては、例えば酸化マンガン(Mn−O)、酸化イリジウム(Ir−O)、酸化ニッケル(Ni−O)、酸化コバルト(Co−O)、酸化鉄(Fe−O)、酸化スズ(Sn−O)、酸化インジウム(In−O)、または酸化ルテニウム(Ru−O)等が挙げられる。三元系金属酸化物としては、例えばNi−Co−O、La−Co−O、Ni−La−O、Sr−Fe−O等が挙げられる。四元系金属酸化物としては、例えばPb−Ru−Ir−O、La−Sr−Co−O等が挙げられる。なお、これに限定されず、酸化触媒としてRu錯体またはFe錯体等の金属錯体を用いることもできる。また、複数の材料を混合してもよい。
【0059】
還元電極31および酸化電極32の少なくとも一方は、多孔質構造を有していてもよい。多孔質構造を有する電極に適用可能な材料としては、上記材料に加え、例えばケッチェンブラックやバルカンXC−72等のカーボンブラック、活性炭、金属微粉末等が挙げられる。多孔質構造を有することにより、酸化還元反応に寄与する活性面の面積を大きくすることができるため、変換効率を高めることができる。
【0060】
比較的低い光の照射エネルギーを用いて低電流密度の電極反応を行う場合、触媒材料の選択肢が広い。よって、例えばユビキタス金属等を用いて反応を行うことが容易であり、反応の選択性を得ることも比較的容易である。一方、電解液槽11に光電変換体33を設けず、配線等により光電変換体33と還元電極31および酸化電極32の少なくとも一方とを電気的に接続する場合、電解液槽を小型化する等の理由により一般的に電極面積は小さくなり、高電流密度で反応を行う場合がある。この場合、触媒として貴金属を用いることが好ましい。
【0061】
光電変換体33は、光電変換層33xと、光電変換層33yと、光電変換層33zとを有する積層構造を備える。光電変換層の積層数は、図3に限定されない。
【0062】
光電変換層33xは、例えばn型のアモルファスシリコンを含むn型半導体層331nと、真性(intrinsic)のアモルファスシリコンゲルマニウムを含むi型半導体層331iと、p型の微結晶シリコンを含むp型半導体層331pと、を有する。i型半導体層331iは、例えば400nmを含む短波長領域の光を吸収する層である。よって、光電変換層33xでは、短波長領域の光エネルギーによって、電荷分離が生じる。
【0063】
光電変換層33yは、例えばn型のアモルファスシリコンを含むn型半導体層332nと、真性のアモルファスシリコンゲルマニウムを含むi型半導体層332iと、p型の微結晶シリコンを含むp型半導体層332pと、を有する。i型半導体層332iは、例えば600nmを含む中間波長領域の光を吸収する層である。よって、光電変換層33yでは、中間波長領域の光エネルギーによって、電荷分離が生じる。
【0064】
光電変換層33zは、例えばn型のアモルファスシリコンを含むn型半導体層333nと、真性のアモルファスシリコンを含むi型半導体層333iと、p型の微結晶シリコンを含むp型半導体層333pと、を有する。i型半導体層333iは、例えば700nmを含む長波長領域の光を吸収する層である。よって、光電変換層33zでは、長波長領域の光エネルギーによって、電荷分離が生じる。
【0065】
p型半導体層またはn型半導体層は、例えば半導体材料にドナーまたはアクセプタとなる元素を添加することにより形成することができる。なお、光電変換層では、半導体層としてシリコン、ゲルマニウム等を含む半導体層を用いているが、これに限定されず、例えば化合物半導体層等を用いることができる。化合物半導体層としては、例えばGaAs、GaInP、AlGaInP、CdTe、CuInGaSe等を含む半導体層を用いることができる。また、光電変換が可能であればTiOやWOのような材料を含む層を用いてもよい。さらに、各半導体層は、単結晶、多結晶、またはアモルファスであってもよい。また、光電変換層に酸化亜鉛層を設けてもよい。
【0066】
光反射体34は、導電性基板30と光電変換体33との間に設けられる。光反射体34としては、例えば金属層または半導体層の積層からなる分布型ブラッグ反射体が挙げられる。光反射体34を設けることにより、光電変換体33で吸収できなかった光を反射させて光電変換層33xないし光電変換層33zのいずれかに入射することができるため、光から化学物質への変換効率を高めることができる。光反射体34としては、例えばAg、Au、Al、Cu等の金属、それら金属の少なくとも1つを含む合金等の層を用いることができる。
【0067】
金属酸化物体35は、光反射体34と光電変換体33との間に設けられる。金属酸化物体35は、例えば光学的距離を調整して光反射性を高める機能を有する。金属酸化物体35としては、n型半導体層331nとオーミック接触が可能な材料を用いることが好ましい。金属酸化物体35としては、例えばインジウム錫酸化物(Indium Tin Oxide:ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、フッ素を含む酸化錫(Fluorine−doped Tin Oxide:FTO)、アルミニウムを含む酸化亜鉛(Aluminum−doped Zinc Oxide:AZO)、アンチモンを含む酸化錫(Antimony−doped Tin Oxide:ATO)等の透光性金属酸化物の層を用いることができる。
【0068】
金属酸化物体36は、酸化電極32と光電変換体33との間に設けられる。金属酸化物体36を光電変換体33の表面に設けてもよい。金属酸化物体36は、酸化反応による光電変換セルの破壊を抑制する保護層としての機能を有する。金属酸化物体36を設けることにより、光電変換体33の腐食を抑制し、光電変換セルの寿命を長くすることができる。なお、必ずしも金属酸化物体36を設けなくてもよい。
【0069】
金属酸化物体36としては、例えばTiO、ZrO、Al、SiO、またはHfO等の誘電体薄膜を用いることができる。金属酸化物体36の厚さは、10nm以下、さらには5nm以下であることが好ましい。トンネル効果により導電性を得るためである。金属酸化物体36として、例えばインジウム錫酸化物(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、フッ素を含む酸化錫(FTO)、アルミニウムを含む酸化亜鉛(AZO)、アンチモンを含む酸化錫(ATO)等の透光性を有する金属酸化物の層を用いてもよい。
【0070】
金属酸化物体36は、例えば金属と透明導電性酸化物とを積層させた構造、金属とその他導電性材料とを複合させた構造、または透明導電性酸化物とその他導電性材料とを複合させた構造を有してもよい。上記構造にすることにより、部品点数が減り、軽量かつ製造が容易になりコストも低くすることができる。金属酸化物体36は、保護層、導電層、および触媒層としての機能を有していてもよい。
【0071】
図3に示す光電変換セルでは、n型半導体層331nのi型半導体層331iとの接触面の反対面が光電変換体33の第1の面となり、p型半導体層333pのi型半導体層333iとの接触面の反対面が第2の面となる。以上のように、図3に示す光電変換セルは、光電変換層33xないし光電変換層33zを積層することで、太陽光の幅広い波長の光を吸収することができ、太陽光エネルギーをより効率良く利用することができる。このとき、各光電変換層が直列に接続されているため高い電圧を得ることができる。
【0072】
図3では、光電変換体33上に電極が積層されているため、電荷分離した電子と正孔とをそのまま酸化還元反応に利用することができる。また、配線等により光電変換体33と電極を電気的に接続する必要がない。よって、高効率で酸化還元反応を行うことができる。
【0073】
並列接続で複数の光電変換体を電気的に接続してもよい。2接合型、単層型の光電変換体を用いてもよい。2層または4層以上の光電変換体の積層を有していてもよい。複数の光電変換層の積層に代えて、単層の光電変換層を用いてもよい。
【0074】
本実施形態の電気化学反応装置は、還元電極と、酸化電極と、光電変換体とを一体化し、部品数が低減され、簡略化されたシステムである。よって、例えば製造、設置、およびメンテナンスの少なくとも一つが容易になる。さらに、光電変換体と還元電極および酸化電極とを接続する配線等が不要となるため、光透過率を高め、受光面積を大きくすることができる。
【0075】
光電変換体33が電解液に接触するために腐食し、腐食生成物が電解液に溶解することで電解液の劣化が生じる場合がある。腐食を防ぐためには、保護層を設けることが挙げられる。しかし、保護層成分が電解液に溶解する場合がある。そこで、流路や電解液槽内に金属イオンフィルタなどのフィルタを設けることで電解液の劣化が抑制される。
【0076】
本実施形態の電気化学反応装置は、余剰電力対策に適した技術であり、太陽光エネルギーを活用することが求められている。太陽光の照度が強い場合、余剰電力が無いときには可能な限りエネルギーを得て、余剰電力があるときには消費のために電解液循環等にエネルギーを利用する。これによりエネルギーミックスが効率よく行われ、全体としてのエネルギー利用率を増加させることができる。電解液に緩衝溶液を用いる場合、反応量が小さいと反応によるpHの変化も小さい。そこで、反応させていないときに電解液を循環させて、電解液成分を均一に保ち、反応時の電解液供給を制限または停止させることでトータルの効率の低下やコストを抑えることができる。例えば、夜間の風力やコストが低い余剰電力を用いて電解液を循環させ、昼間に電解液循環を停止もしくは最低限の供給量で反応させて、酸化還元反応を行うことが好ましい。
【0077】
電気化学反応装置の構造例は、図1に限定されない。図4は、電気化学反応装置の他の例を示す模式図である。図4に示す電気化学反応装置は、図1に示す電気化学反応装置と比較して、分離槽13と、分離槽14と、流路53ないし流路55をさらに具備する構成が少なくとも異なる。
【0078】
分離槽13は、電解液24を収容する収容部114aと収容部114aを複数の領域に区切るように設けられた気液分離膜114bとを有する。気液分離膜114bは、例えば中空糸膜等を含む。中空糸膜は、例えばシリコーン樹脂やフッ素系樹脂(パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン−クロロトリフロオロエチレンコポリマー(ECTFE))等を含む。
【0079】
図4に示す電気化学反応装置では、電解液槽11内の還元生成物の一部の生成物が分離槽13で抽出される。気液分離膜114bの外側(電解液24の接触面の反対面側)を減圧するとともにガス状の生成物を含む電解液24が気液分離膜114bを通過することにより効率よくガス状の生成物と二酸化炭素とを分離することができる。生成物が例えば一酸化炭素の場合、分離槽13での気液分離により一酸化炭素ガスのみを分離することができる。
【0080】
流路51は、収容部114aに接続される。流路53は、収容部113と収容部114aとを接続する。分離槽14は、電解液25を収容する収容部115aと収容部115aを複数の領域に区切るように設けられた気液分離膜115bとを有する。流路54は、収容部112と収容部115aとを接続する。流路55は、収容部112と収容部115aとを接続する。電解液22の少なくとも一部は、流路54を介して収容部115aに供給される。電解液25の少なくとも一部は、流路55を介して収容部112に供給される。流路54および流路55に循環ポンプ等が設けられていてもよい。
【0081】
気液分離膜115bの外側(電解液25の接触面の反対面)を減圧するとともにガス状の生成物を含む電解液が気液分離膜115bを通過することにより二酸化炭素と同様に酸素ガスと溶存酸素とを分離することができる。電解液槽11で生成した酸素ガスを直接回収し利用することが考えられるが、電解液22中に酸素ガスが溶存し、完全に酸素ガスを回収することが困難である。酸化電極の性能低下を招くことから、溶存酸素をガス状にして回収することが望ましい。電解液槽11内でのガス分離と異なり複数のセルで発生したガスを一度に回収することが可能である。よって、ガス回収用の総流路長が短くなりシステムを単純にすることができる。この場合、酸素ガスを効率よく回収するために、電解液槽12と同様に、分離槽14や流路54および流路55に温度調節装置を設けることで電解液からの酸素の分離を効率よく行うことができる。
【0082】
分離槽13または流路51に温度調節装置を設けることにより生成物の分離効率を高めることができる。ガス分離を完全に行うために電解液中の溶存ガスを出来る限り除去することが好ましい。温度分布等による溶存ガスの除去効率を高めるために分離槽13に撹拌手段が設けられることが好ましい。
【0083】
分離槽13の電解液24の温度と電解液槽11の電解液21の温度との差は、−10℃以上10℃以下であってもよい。分離槽13の電解液24の温度が高過ぎると溶存する二酸化炭素が気化し、生成物のガス濃度が低下しやすい。加熱によるエネルギーロスが大きいため、極端な加熱は効率低下を招く。
【0084】
生成物がメタノールやエタノール等の水溶性の液体物質である場合、分離槽13の分離方法は、例えば蒸留や膜分離であってもよい。このとき、分離効率向上のために温度調節装置を設けることが望ましい。分離膜は、例えばゼオライトであってもよい。特に上流での熱は大きいため、全体の効率が低下しやすい。これに対し、分離槽13に断熱材が設けられることで効率の低下を防ぐことができる。
【0085】
電解液槽内の酸化電極と還元電極との間にイオン交換膜や流路が設けられる場合、酸化電極に接する電解液は、還元電極に接する電解液と異なっていてもよい。上記構成により、酸化側での反応生成物である酸素を容易に分離して取り出すことができる。
【0086】
各触媒には適した電解液があり、各触媒層に接する電解液を変えることによって効率を向上することができる。さらには、酸化側と還元側でpHを酸化側のほうを大きくした場合にはpHの違いによって生じる液間電位を反応の足りない電位に補うことができる利点がある。
【0087】
図5に示す電気化学反応装置は、図4に示す電気化学反応装置に示す構成と、流路56と、冷却器61aと、冷却器61bと、加熱器62aと、加熱器62bと、ポンプ71と、加圧弁72と、を具備する。
【0088】
流路56は、電解液槽12の収容部に接続されている。例えば流路56は、二酸化炭素発生源80に接続される。
【0089】
冷却器61aは、流路56に流れる電解液を冷却する機能を有する。冷却器61aは、例えば流路56の内部または外部に設けられてもよい。
【0090】
冷却器61bは、電解液23を冷却する機能を有する。冷却器61bは、例えば収容部113の内部または外部に設けられてもよい。
【0091】
加熱器62aは、電解液25を加熱する機能を有する。加熱器62aは、例えば収容部115aの内部または外部に設けられてもよい。
【0092】
加熱器62bは、流路54に流れる電解液を加熱する機能を有する。加熱器62bは、例えば流路54の内部または外部に設けられてもよい。
【0093】
ポンプ71は、収容部114aから収容部113に電解液を供給することを促進させる機能を有する。ポンプ71は、例えば流路53の内部または外部に設けられる。ポンプ71は、必ずしも設けられなくてもよい。
【0094】
加圧弁72は、収容部113から収容部111に電解液を供給することを促進させる機能を有する。加圧弁72は、例えば流路52の内部または外部に設けられる。加圧弁72としては、例えばオリフィスバルブやパルスバルブ等が挙げられる。なお、加圧弁72は、必ずしも設けられなくもよい。
【0095】
分離槽13と分離槽14との間で熱交換が行われてもよい。例えば、分離槽13と分離槽14との間を接続する伝熱部材91を設けることにより熱交換を行うことができる。伝熱部材91を例えば収容部114aと収容部115aとの間を接続するように設けてもよい。また、別途熱交換器等を接続してもよい。
【0096】
図6に示す電気化学反応装置は、図5に示す構成に加え、冷却器61cをさらに具備し、分離槽13を具備しない。
【0097】
流路53は、収容部111と収容部113とを接続する。流路56は、収容部111に接続されている。流路56は、例えば収容部111と二酸化炭素発生源80とを接続する。二酸化炭素発生源80は、電気化学反応装置の内部または外部に設けられていてもよい。
【0098】
電解液槽12と分離槽14との間で熱交換が行われてもよい。例えば、電解液槽12と分離槽14との間を接続する伝熱部材92を設けることにより熱交換を行うことができる。伝熱部材92を例えば流路53と流路54との間を接続するように設けてもよい。また、別途熱交換器等を接続してもよい。
【0099】
冷却器61cは、流路53に流れる電解液を冷却する機能を有する。冷却器61cは、例えば流路53の内部または外部に設けられる。
【0100】
ポンプ71は、収容部113から収容部111に電解液を供給することを促進する機能を有する。ポンプ71は、例えば流路52に設けられる。
【0101】
加圧弁72は、収容部111から収容部113に電解液を供給することを促進させる機能を有する。加圧弁72は、例えば流路52の内部または外部に設けられる。加圧弁72としては、例えばオリフィスバルブやパルスバルブ等が挙げられる。なお、加圧弁72は、必ずしも設けられなくもよい。
【0102】
図5及び図6に示す電気化学反応装置では、冷却器を用いることにより還元側の電解液の温度を低下させやすくすることができる。また、加熱器を用いることにより酸化側の電解液の温度を上昇させやすくすることができる。よって反応効率を高めることができる。
【0103】
発電所や焼却炉等では高温の二酸化炭素が発生する。上記高温の二酸化炭素を電解液槽11に直接供給すると温度が向上する。このため、二酸化炭素発生源80と電解液槽11との間の流路56に冷却器を設けて温度上昇を抑制することが好ましい。冷却器は、例えば大気や海水、河川水などにより流路を冷却する構成であっても十分効果を得ることができる。
【0104】
発電所や焼却炉等の二酸化炭素発生源80で加圧された二酸化炭素をポンプ等を用いずに流路を介して電解液槽11または電解液槽12に供給することにより、エネルギーロスを小さくすることができる。圧力の安定のために圧力調整器が設けられてもよい。圧力調整器により安定した圧力で二酸化炭素を電解液に吸収することができる。よって装置全体の安定性を高めることができる。また、電解液槽11からの二酸化炭素の供給量や温度、二酸化炭素供給装置の運転の信号に応じて還元電極と酸化電極との間の電圧や電気化学反応装置の温度管理、圧力管理を行って効率を向上させると装置の能力を最大限活用できて効率が向上する。
【0105】
分離槽13を加熱する場合、二酸化炭素発生源等の熱を用いて加熱することによりエネルギーロスが減少するため効率が向上する。これに対し、二酸化炭素発生源から供給される高温の二酸化炭素ガスの熱を用いることにより、電解液槽12に供給する二酸化炭素ガス温度が低下して効率が向上する。
【0106】
図7に示す電気化学反応装置は、図6に示す電気化学反応装置の構成に加え、蒸留器81aと、還元反応装置81bと、収容部113と還元反応装置81bとを接続する流路57と、をさらに具備する。また、電気化学反応装置は、冷却器61cの代わりに冷却器61dを有する。なお、冷却器61cおよび冷却器61dの両方を具備していてもよい。
【0107】
冷却器61dは、流路52に流れる電解液を冷却する機能を有する。冷却器61dは、例えば流路52の内部または外部に設けられる。
【0108】
蒸留器81aは、収容部113の生成物を蒸留する機能を有する。蒸留器81aは、収容部113に接続されている。蒸留器81aは、例えば電解液槽12上に設けられる。図7に示す電気化学反応装置では、蒸留器81aでの蒸留によって奪われる熱と二酸化炭素発生源から高温の二酸化炭素ガスを効率よく使えるため、効率を向上させることができる。ただし、効率が良い熱交換器はコスト上昇につながるため、配管等を伝熱部材で接続する等の簡略的な熱交換を行う手法でも効果は得られる。また、二酸化炭素発生源80と分離槽13との間で二酸化炭素発生源80から供給される高温の二酸化炭素ガスの熱を交換することができる。
【0109】
還元反応装置81bは、収容部113の生成物を還元する機能を有する。還元反応装置81bでは、例えば銅、パラジウム、銀の酸化物やCu−ZnO、Pd−ZnO、Cu−Zn−Crなどの金属をAlなどに担持させた触媒が用いられ、主に加圧下において例えば150〜300℃で原料の水素とCOガスを流通させるとメタノールを製造することができる。また、加圧下において前述の触媒のスラリー中を水素とCOガスを通過させる液相法でメタノールを製造することができる。還元反応装置81bは、例えば反応によって生じる生成熱を抜熱するための熱交換器を具備する。また、還元反応装置81bは、ロジウムなどを用いてエタノールやニッケル、ルテニウムを用いてメタンを製造する装置であってもよい。
【0110】
還元反応装置81bでの還元反応による生成物は、例えばメタン、メタノール、エタノール、酢酸、ジメチルエーテル、ワックス、オレフィン、ナフサ、軽油等の炭化水素等である。熱源は、例えば二酸化炭素発生源からの二酸化炭素だけでなく、二酸化炭素の還元生成物と水素との反応熱の少なくとも一部を含んでもよい。例えば、還元反応装置81bによる一酸化炭素と水素との反応からメタノールを生成する際の反応熱の一部を利用する相互熱利用によって効率が向上する。
【0111】
二酸化炭素発生源80と電解液槽12との間で熱交換が行われてもよい。例えば、二酸化炭素発生源80と電解液槽12との間を接続する伝熱部材93を設けることにより熱交換を行うことができる。伝熱部材93を例えば流路56と蒸留器81aとの間を接続するように設けてもよい。また、別途熱交換器等を接続してもよい。
【0112】
還元反応装置81bと蒸留器81aとの間で熱交換が行われてもよい。例えば、還元反応装置81bと蒸留器81aとの間を接続する伝熱部材94を設けることにより熱交換を行うことができる。また、別途熱交換器等を接続してもよい。
【0113】
図7に示す電気化学反応装置では、流路56と蒸留器81aとの熱交換および蒸留器81aと還元反応装置81bとの熱交換により熱源の熱を効率良く排熱しつつ利用することができる。
【0114】
なお、図7に示す電気化学反応装置に図4等に示す分離槽14、流路54、流路55を設けてもよい。また、温度分布などによる溶存ガスの分離効率を高めるために酸素ガス分離装置に撹拌手段が設けられてもよい。このとき、熱源として二酸化炭素発生源80、二酸化炭素発生源80から得られる高温の二酸化炭素ガス、または還元反応装置81b等で発生する熱を用いることで効率を向上させることができる。これら熱の組み合わせは任意であり、それぞれと熱交換を行う運転方法を行って、効率向上を行うことができる。また、これら熱を相互に利用するために流路等を伝熱部材によって接続することで効率を向上させることができる。収容部114aは、例えば伝熱部材を介して収容部112および収容部115aの少なくとも一つと接続されていてもよい。
【実施例】
【0115】
(実施例1)
構造体を具備する電気化学反応装置を作製した。構造体は、厚さ500nmの三接合型光電変換体と、三接合型の光電変換体の第1の面上に設けられた厚さ300nmのZnO層と、ZnO層上に設けられた厚さ200nmのAg層と、Ag層上に設けられた厚さ1.5mmのSUS基板と、三接合型光電変換体の第2の面上に設けられた厚さ100nmのITO層と、を有する。
【0116】
三接合型光電変換体は、短波長領域の光を吸収する第1の光電変換層と、中波長領域の光を吸収する第2の光電変換層と、長波長領域の光を吸収する第3の光電変換層と、を有する。第1の光電変換層は、p型微結晶シリコン層と、i型アモルファスシリコン層と、n型アモルファスシリコン層と、を有する。第2の光電変換層は、p型微結晶シリコン層と、i型アモルファスシリコンゲルマニウム層と、n型アモルファスシリコン層と、を有する。第3の光電変換層は、p型微結晶シリコンゲルマニウム層と、i型アモルファスシリコン層と、n型アモルファスシリコン層と、を有する。
【0117】
ソーラーシミュレータ(AM1.5、1000W/m)を用いて上記構造体に光を照射したときの開放電圧を測定した。開放電圧は2.1Vであった。
【0118】
硝酸ニッケルを用いた電着法により上記三接合型光電変換体の構造体上のITO層上に酸化触媒として厚さ200nmのNi(OH)層を形成した。SUS基板上に還元触媒として厚さ500nmのカーボンに担持した金ナノ粒子層を形成した。
【0119】
上記構造体を正方形状に切り出して、エッジ部分を熱硬化性エポキシ樹脂で封止した。構造体の周囲をイオン交換膜(ナフィオン(登録商標))で囲むことにより一枚のシート状にした。このイオン交換膜と複数枚のセルを組み合わせて10cm角のユニットを作製し、それを縦横10個並べて100cm四方の光電気化学反応ユニットを作製した。例えば、複数の穴を有する1枚のイオン交換膜の複数の穴に光電変換セルを埋め込んでシート状としてもよい。1つの穴を有するイオン交換膜の穴に光電変換セルを埋め込んだ構造体を複数並べてシート状としてもよい。穴を有する光電変換セルの穴にイオン交換膜を埋め込んでもよい。
【0120】
このシート状の光電気化学反応ユニットを縦100cm×横100cmの中空部を有する厚さ3cmの一対の枠で挟み込み、一対の枠の間にシリコーン樹脂層を形成した。一対の枠の一方の中空部を覆うように無反射の太陽電池用ガラスからなる窓を作製した。一対の枠の他方の中空部を覆うようにアクリル樹脂板を形成した。これにより光電気化学反応ユニットを封止した封止体を作製した。光電気化学反応ユニットのNi(OH)層側と金ナノ粒子層側にそれぞれ流路を設けた。電解液としては二酸化炭素ガスを飽和させた0.5Mリン酸水素カリウム水溶液を用いた。電解液槽の一部に発生ガスを捕集するためのガス回収流路を設けた。以上により光電気化学反応モジュールを作製した。混合槽として内容積30cm×3cm×3cmのアクリル製の容器をモジュールのPt層側に接続した。
【0121】
このモジュールに容積30ccの円筒状のガラス容器を電解液槽として50cc/minのCOガスを吹き込み、電解液にCOガスを溶解させた。この電解液を0.1cc/minの流量でモジュールの還元電極側に供給し、電解液を循環させた。また、COを吹き込まずに酸化電極側のホウ酸カリウム緩衝溶液を0.1cc/minの流量で容積30ccの円筒容器のバッファータンクを介して循環させた。
【0122】
実施例1のモジュールにおいて、AM1.5の擬似太陽光を酸化電極側から照射させ0.5時間反応させたところ、初期の電流値は1mA/cm付近であったが、0.4mA/cmまで低下した。
【0123】
実施例1のモジュールにおいて、AM1.5の擬似太陽光を酸化電極側から照射させ、0.5時間反応させた後、電解液槽を氷水につけて冷却すると電流値が0.7mA/cm付近まで回復した。このことから、二酸化炭素を含む電解液を冷却することにより反応効率を向上させることができることがわかる。
【0124】
実施例1のモジュールにおいて、AM1.5の擬似太陽光を酸化電極側から照射させ、流量を0.2cc/minにすると電流の低下時間を約1.7倍にすることができた。このことから循環流量を増加させることで電流の低下を抑制できることがわかる。
【0125】
(実施例2)
導線を介して電源に接続された厚さ1.5mmのSUS基板とSUS基板上の坦持量0.25mg/cmの金坦持カーボン膜とを有する複合基板(4cm角)と、白金箔(4cm角)と、を準備した。電源は、太陽電池の模擬装置である。5cm角、厚さ1cmのアクリル製の枠の酸化電極側および還元電極側のそれぞれに流路とガス流路とを形成した。枠に複合基板と白金箔とを内包し、複合基板と白金箔との間にイオン交換膜(Nafion117、6cm角)を設け、複合基板の外側と白金箔の外側の両方にシリコンゴムシートとアクリル板(縦7cm×横7cm×厚さ3mm)で挟んだモジュールを作製した。モジュール内にpH7のリン酸カリウム緩衝溶液を供給した。複合基板を還元電極とし、白金箔を酸化電極とし、銀塩化銀電極を参照極とした。ガルバノスタットを用いて37mA:2.3mA/cmの条件で電流を流して二酸化炭素を分解した。このモジュールに容積30ccの円筒状のガラス容器を電解液槽として50cc/minのCOガスを吹き込み、電解液にCOガスを溶解させた。この電解液を0.1cc/minの流量でモジュールの還元電極側に供給し、電解液を循環させた。酸化電極側のホウ酸カリウム緩衝溶液をCOを吹き込まずに0.1cc/minの流量で30ccの円筒容器のバッファータンクを介して循環させた。
【0126】
実施例2のモジュールにおいて、電流37mA、循環流量0.1cc/minで0.5時間反応させたところ、初期の電位は−1V付近であったが、−1.4Vまで低下した。
【0127】
実施例2のモジュールにおいて、電流37mA、循環流量0.1cc/minで0.5時間反応させた後、電解液槽を氷水につけて冷却すると電位が−0.8V付近まで回復した。このことから、二酸化炭素を含む電解液を冷却することにより反応効率を向上させることができることがわかる。
【0128】
実施例2のモジュールにおいて、電流37mA、循環流量0.1cc/minで0.5時間反応させ、流量を0.2cc/minにすると電位の低下時間を約2倍にすることができた。このことから循環流量を増加させることで電位の低下を抑制できることがわかる。
【0129】
上記実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0130】
4…イオン交換膜、11…電解液槽、12…電解液槽、13…分離槽、14…分離槽、21…電解液、22…電解液、23…電解液、24…電解液、25…電解液、30…導電性基板、31…還元電極、32…酸化電極、33…光電変換体、33x…光電変換層、33y…光電変換層、33z…光電変換層、34…光反射体、35…金属酸化物体、36…金属酸化物体、51〜57…流路、61a…冷却器、61b…冷却器、61c…冷却器、61d…冷却器、62a…加熱器、62b…加熱器、71…ポンプ、72…加圧弁、80…二酸化炭素発生源、81a…蒸留器、81b…還元反応装置、91…伝熱部材、92…伝熱部材、93…伝熱部材、94…伝熱部材、111…収容部、112…収容部、113…収容部、114a…収容部、114b…気液分離膜、115a…収容部、115b…気液分離膜、331…面、331i…i型半導体層、331n…n型半導体層、331p…p型半導体層、332…面、332i…i型半導体層、332n…n型半導体層、332p…p型半導体層、333i…i型半導体層、333n…n型半導体層、333p…p型半導体層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7