(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、熱可塑性樹脂は、優れた成形特性、物理および機械特性を有することがわかってきた。特に、特徴の1つとして、成形品の優れた外観および光沢性が挙げられる。そのため、熱可塑性樹脂は、家庭用機器、機械部品、オフィス用品、電子部品、および自動車産業等の異なる分野で幅広く応用されている。
【0003】
一般的に、熱可塑性樹脂は、射出成形、押出成形、延伸ブロー成形等の成形方法を用いて処理することができる。また、特定の成形プロセスの間、成形前に樹脂をシート(sheet)状に圧縮する必要がある。このような条件を満たすために、樹脂は、高い溶融強度を有し(つまり、樹脂の分子量を増やし)、熱成形や真空成形中に優れた膜厚均一性および寸法安定性を維持できるようにしなければならない。
【0004】
しかしながら、樹脂の分子量を増やした後、流動性の減少、成形特性の低下、および生産性の減少等の多くの欠点が生じる可能性がある。このような欠点を克服するために、通常の方法では、分岐剤を添加して改善を図る。従来の技術において、添加される分岐剤は、多価アクリレート化合物等の多官能反応性モノマーである。しかしながら、従来の技術では、耐熱性における樹脂製品の性能は、依然として十分ではない。高温押出を何度も行った後、樹脂の分子量は、大幅に減少する。
【0005】
以上のように、高い耐熱性を有し、製品安定性の改善に役立つ成形品をいかにして形成するかが、本分野の技術者の解決すべき課題となっている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。しかしながら、これらの実施形態は、単なる例示であり、本発明の開示を限定するものではない。
【0013】
本発明の明細書および特許請求の範囲において、「(メタ)アクリレート」という用語は、「アクリレートおよび/またはメタクリレート」を示す。
【0014】
本明細書において、ある基が置換されたかどうか特に明記されていない場合、当該基は、置換された基または置換されていない基を示すことができる。例えば、「アルキル」は、置換された、または置換されていないアルキル基を示すことができる。「アルキレン基」は、置換された、または置換されていないアルキレン基を示すことができる。また、ある基を「Cx」により描写している時は、当該基の主鎖がX個の炭素原子を有することを示す。
【0015】
本発明は、不飽和ウレタン化合物と共重合性モノマーの共重合から得られた分岐状共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物を提供する。不飽和ウレタン化合物は、水酸基を含有するメタクリレート化合物とトリイソシアネート環式化合物の反応から得られた化合物を含む。
【0016】
具体的に説明すると、水酸基を含有するメタクリレート化合物およびトリイソシアネート環式化合物を反応物として使用し、ウレタン化反応を行うことにより、不飽和ウレタン化合物を生成する。そして、不飽和ウレタン化合物および共重合性モノマーを反応物として使用し、共重合反応を行うことにより、分岐状共重合体を生成する。
【0017】
以下、各成分について詳しく説明する。
水酸基を含有するメタクリレート化合物
【0018】
本発明の1つの実施形態において、水酸基を含有するメタクリレート化合物は、2−ヒドロキシエチルメタクリレートおよびペンタエリスリトールトリメタクリレートから成る群より選択された少なくとも1つを含む。
【0019】
2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2-hydroxyethyl methacrylate, HEMA)の化学構造は、以下の通りである。
【0021】
ペンタエリスリトールトリメタクリレート(pentaerythritol trimethacrylate, PETMA)の化学構造は、以下の通りである。
【0023】
本発明の1つの実施形態において、水酸基を含有するメタクリレート化合物上のエテニル基は、メチル置換基を有する。
トリイソシアネート環式化合物
【0024】
本発明の1つの実施形態において、トリイソシアネート環式化合物は、式(1)で表される。
【0026】
式(1)において、R
a、R
b、およびR
cは、それぞれ独立して、炭素数2〜12のアルキレン基を示す。
【0027】
さらに詳しく説明すると、式(1)において、R
a、R
b、およびR
cは、それぞれ独立して、好ましくは、−(CH
2)
n−を示し、nは、2〜12の整数であり、より好ましくは、nは、4〜8の整数であり、最も好ましくは、nは、6である。
【0028】
本発明の1つの実施形態において、トリイソシアネート環式化合物は、HDT(HDIイソシアヌレート三量体(HDI isocyanurate trimer)、HDIは、ヘキサメチレンジイソシアネート(hexamethylene diisocyanate)の略称)であり、その構造は、以下の通りである。
【0030】
本発明の1つの実施形態において、不飽和ウレタン化合物は、水酸基を含有するメタクリレート化合物とトリイソシアネート環式化合物の反応から得られた化合物を含む。
【0031】
本発明の1つの実施形態において、不飽和ウレタン化合物は、式(2)で表される。
【0033】
式(2)において、R
1、R
2、およびR
3は、それぞれ独立して、炭素数2〜12のアルキレン基を示し、X
1、X
2、およびX
3は、それぞれ独立して、2−ヒドロキシエチルメタクリレートの水酸基から水素を除去することによって得られた残留物、およびペンタエリスリトールトリメタクリレートの水酸基から水素を除去することによって得られた残留物から成る群より選択される。
【0034】
2−ヒドロキシエチルメタクリレートの水酸基から水素を除去することによって得られた残留物の特定構造は、下記のように示される。
【0036】
ペンタエリスリトールトリメタクリレートの水酸基から水素を除去することによって得られた残留物の特定構造は、下記のように示される。
【0038】
本発明の1つの実施形態において、水酸基を含有するメタクリレート化合物の水酸基(−OH)上の酸素原子は、トリイソシアネート環式化合物のイソシアネート基(−N=C=O)上の炭素原子と結合して、本発明の不飽和ウレタン化合物を形成する。
【0039】
本発明の1つの実施形態において、R
1、R
2、およびR
3は、それぞれ独立して、炭素数2〜10のアルキレン基を示す。つまり、R
1、R
2、およびR
3は、それぞれ独立して、−(CH
2)
n−であり、nは、2〜10の整数である。
【0040】
本発明の1つの実施形態において、R
1、R
2、およびR
3は、それぞれ独立して、炭素数4〜8のアルキレン基を示す。つまり、R
1、R
2、およびR
3は、それぞれ独立して、−(CH
2)
n−であり、nは、4〜8の整数である。
【0041】
本発明の1つの実施形態において、R
1、R
2、およびR
3は、それぞれ独立して、ヘキサメチレン基である。つまり、R
1、R
2、およびR
3は、それぞれ独立して、−(CH
2)
n−であり、nは、6である。
【0042】
本発明の1つの実施形態において、不飽和ウレタン化合物は、式(3)または式(4)で表される。
【0044】
式(3)で表される不飽和ウレタン化合物は、2−ヒドロキシエチルメタクリレートとトリイソシアネート環式化合物HDTの反応から得られる。
【0045】
式(4)で表される不飽和ウレタン化合物は、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、およびトリイソシアネート環式化合物HDTの反応から得られる。
【0046】
本発明の1つの実施形態において、不飽和ウレタン化合物上のエテニル基は、メチル置換基を有する。
【0047】
不飽和ウレタン化合物は、共重合性モノマーと反応して、分岐状共重合体を形成する。つまり、不飽和ウレタン化合物は、分岐剤の効果を有するため、成形品が高い耐熱性を有し、製品安定性を促進することができる。
共重合性モノマー
【0048】
本発明の共重合性モノマーは、スチレン系モノマー、アクリロニトリル系モノマー、および(メタ)アクリレート系モノマーから成る群より選択された少なくとも1つを含む。
【0049】
スチレン系モノマーの具体例は、スチレン、α−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、またはブロモスチレンが挙げられるが、本発明はこれに限定されない。好ましくは、スチレン系モノマーは、スチレン、α−メチルスチレン、またはその組み合わせである。本発明において使用されるスチレン系モノマーは、単一のモノマーとして使用することができ、あるいは2つまたはそれ以上を組み合わせて使用してもよい。
【0050】
アクリロニトリル系モノマーは、単独で使用してもよく、または組み合わせて使用してもよい。そして、アクリロニトリル系モノマーは、アクリロニトリルまたはα−メチルアクリロニトリルを含むことができるが、本発明はこれに限定されない。好ましくは、アクリロニトリル系モノマーは、アクリロニトリルである。
【0051】
(メタ)アクリレート系モノマーの具体例は、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート(polyethylene glycol diacrylate)、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、エチレンジメタクリレート(ethylene dimethacrylate)、またはネオペンチルジメタクリレート(neopentyl dimethacrylate)が挙げられるが、本発明はこれに限定されない。好ましくは、(メタ)アクリレート系モノマーは、ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、およびブチルメタクリレートである。
分岐状共重合体
【0052】
分岐状共重合体は、不飽和ウレタン化合物と共重合性モノマーの共重合から得ることができ、不飽和ウレタン化合物は、分岐剤の効果を有する。
【0053】
本発明の1つの実施形態において、共重合性モノマー100重量部に対し、不飽和ウレタン化合物の用量は、0.001重量部〜0.8重量部であってもよい。
【0054】
本発明の1つの実施形態において、共重合性モノマー100重量部に対し、不飽和ウレタン化合物の用量は、0.002重量部〜0.4重量部であってもよい。
熱可塑性樹脂組成物
【0055】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、分岐状共重合体を含む。
【0056】
本発明の1つの実施形態において、熱可塑性樹脂組成物の重量平均分子量は、380,000〜445,000であってもよい。
成形品
【0057】
本発明は、また、上述した熱可塑性樹脂組成物から形成された成形品を提供する。成形品の製造方法は、特に限定されず、熱成形または真空成形、あるいは上記プロセスの組み合わせを使用してもよい。熱成形および真空成形は、従来の方法を使用することができるため、ここでは、繰り返し説明しない。
【0058】
下記の実験例を使用して、本発明の熱可塑性樹脂組成物について説明する。しかしながら、下記の実験例は、本発明を限定する意図はない。
不飽和ウレタン化合物の合成
合成例1
【0059】
式(3)で表される化合物の合成:2.2重量部のMEHQ(モノメチルエーテルヒドロキノン(Monomethyl ether hydroquinone))、1200重量部のバイエル(Bayer)社製のHDT(商標名Desmodur(R)N3300、ヘキサメチレンジイソシアネート(hexamethylene diisocyanate、略称はHDI)のトリマー)、2081重量部のEB(エチルベンゼン(ethylbenzene))、および2.2重量部のDBDTL(ジブチル錫ジラウレート(dibutyltin dilaurate))を四つ口反応瓶に添加して、よく撹拌し、混合溶液を作成した。そして、室温で、878.4重量部の2−ヒドロキシエチルメタクリレートを混合溶液にゆっくり追加した後、温度を50℃に上げて、1時間反応させた。その後、温度を75℃に上げて、5時間反応させ、反応が完了した後、温度を室温まで下げて、得られた生成物を濾過で収集し、式(3)で表される化合物を得た。
合成例2
【0060】
式(4)で表される化合物の合成:2重量部のMEHQ(モノメチルエーテルヒドロキノン)、720重量部のバイエル社製のHDT(商標名Desmodur(R)N3300、ヘキサメチレンジイソシアネート(略称はHDI)のトリマー)、920.5重量部のEB(エチルベンゼン)、および2重量部のDBDTL(ジブチル錫ジラウレート)を四つ口反応瓶に添加して、よく撹拌し、混合溶液を作成した。そして、室温で、196.5重量部の2−ヒドロキシエチルメタクリレートを混合溶液にゆっくり追加した後、温度を50℃に上げて、1時間反応させた。その後、940重量部の長興材料(Eternal Material)社製のペンタエリスリトールトリメタクリレート(商標名EM335)を940重量部のEBに溶解させて、滴下し、反応に加えた。そして、温度を75℃に上げて、5時間反応させ、反応が完了した後、室温まで下げた。そして、得られた生成物を濾過で収集し、式(4)で表される化合物を得た。
熱可塑性樹脂組成物の合成
実施例1
【0061】
100重量部のスチレンモノマーおよび8重量部のエチルベンゼン中に、150ppmの1,1−ジ−tert−ブチルペロキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(TX−29A)、250ppmのn−ドデシルメルカプタン(n-dodecyl mercaptan)、および110ppmのオクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(octadecyl-3-(3’,5’-di-t-butyl-4’-hydroxyphenyl)propionate、チバ(CIBA)社製のIX−1076)を追加して、220ppmのトリ−(2,4−ジ−t−ブチル−フェニル)ホスフェート(tri-(2,4-di-t-butyl-phenyl)phosphate、P−168)の存在下で、100ppmの式(3)で表される化合物を分岐剤として追加し、反応させた。反応条件は、以下の通りである:容量がそれぞれ110リットルの直列接続された3つの円筒状流通反応器に流速40リットル/時でポンプ注入し、それぞれ115℃、130℃、および150℃の入口温度で反応を維持し、最終転化率が80重量%であり、ヒーターで260℃まで加熱し、15torrの真空において不飽和モノマーおよび不活性溶媒を脱揮発装置で除去した後、押出造粒後に分岐状共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物を得た(押出なし)。
実施例2
【0062】
合成方法は、実施例1と同じであり、異なる点は、追加した分岐剤が式(4)で表される化合物であることである(使用量は、表1に示した通り)。
比較例1
【0063】
合成方法は、実施例1と同じであり、異なる点は、追加した分岐剤が長興材料社製のEM231(トリメチロールプロパントリアクリレート)であることである(使用量は、表1に示した通り)。EM231の構造は、下記の通りである。
【0065】
合成方法は、実施例1と同じであり、異なる点は、分岐剤を反応に加えなかったことである。
評価方法
【0066】
220℃で、得られた熱可塑性樹脂組成物に対し、押出機で第1押出(押出1回)、第2押出(押出2回)、および第3押出(押出3回)を順番に行い、押出後の重量平均分子量をそれぞれ測定した。
【0067】
重量平均分子量の測定は、示差屈折率検出器(Waters RI-2414)および紫外線可視光検出器(Waters PDA-2996)を有するウォーターズ(Waters)社製のゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography, GPC)で行われ、分析条件は以下の通りである。コラム:MZ-Gel Sdplus linear 5μm 300x8.0mm、移動相:THF(流速0.5ml/分)。
【0068】
実施例1〜2および比較例1〜2の熱可塑性樹脂組成物の分岐剤の使用量、重量平均分子量(押出なし)、重量平均分子量の維持率(押出1回、押出2回、および押出3回)をそれぞれ表1に記載する。
【0070】
表1からわかるように、実施例1〜2の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の不飽和ウレタン化合物を分岐剤として使用して共重合性モノマーと共重合することによって得られた分岐状共重合体を含み、不飽和ウレタン化合物は、例えば、式(3)または式(4)で表される化合物等の水酸基を含有するメタクリレート化合物とトリイソシアネート環式化合物の反応から得られた化合物を含む。そのため、実施例1〜2の熱可塑性樹脂組成物は、高温で3回押出した後の重量平均分子量の維持率が優れており、高い耐熱性を提供し、複数の高温押出を行った後の分子量減少の度合いが小さい。また、共重合性モノマー100重量部に対し、不飽和ウレタン化合物の用量は、0.001重量部〜0.8重量部であるため、生成された熱可塑性樹脂組成物は、高温で3回押出した後の重量平均分子量の維持率が優れており、高い耐熱性を提供し、複数の高温押出を行った後の分子量減少の度合いが小さい。
【0071】
比較例1では、本発明の不飽和ウレタン化合物を分岐剤として使用しなかったため、比較例1の熱可塑性樹脂組成物は、高温で3回押出した後の重量平均分子量の維持率が悪く、高い耐熱性を提供せず、複数の高温押出を行った後の分子量減少の度合いが大きい。
【0072】
比較例2では、分岐剤を使用しなかったため、比較例2の熱可塑性樹脂組成物は、高温で3回押出した後の重量平均分子量の維持率が悪く、高い耐熱性を提供せず、複数の高温押出を行った後の分子量減少の度合いが大きい。
【0073】
以上のように、本発明が提供する熱可塑性樹脂組成物は、不飽和ウレタン化合物と共重合性モノマーの共重合から得られた分岐状共重合体を含み、不飽和ウレタン化合物は、高分子合成において分岐剤の効果を有するため、高分子が線状構造から分岐状構造に変形するとともに、成形品が高い耐熱性を有し、製品安定性を促進することができる。
【0074】
以上のごとく、この発明を実施形態により開示したが、もとより、この発明を限定するためのものではなく、当業者であれば容易に理解できるように、この発明の技術思想の範囲内において、適当な変更ならびに修正が当然なされうるものであるから、その特許権保護の範囲は、特許請求の範囲および、それと均等な領域を基準として定めなければならない。