(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明の一実施形態であるインバータ駆動装置の回路構成図である。この
図1では、上アームと呼ばれるスイッチング素子UTPと、下アームと呼ばれるスイッチング素子UTNとを上下直列に接続した構成を示す。
図1では、U相の上下アームを示すが、V相、W相も同様の構成であり、図示を省略する。
【0011】
スイッチング素子UTPのコレクタとエミッタ間にはダイオードD1が接続されている。ダイオードD1は、スイッチング素子UTPのエミッタからコレクタに向かう方向が順方向となるように接続されており、駆動するモータのコイルが電流遮断時に発生する逆起電力を逃してスイッチング素子UTPの破損を防止している。スイッチング素子UTNのコレクタとエミッタ間に接続されたダイオードD2も同様である。なお、ダイオードD1、D2は、スイッチング素子としてMOSFETを使用した場合は不要である。
【0012】
上下アームの両端には、図示省略した直流電源が接続され、更にコンデンサCが接続される。コンデンサCは電力変換時に変動する印加電圧を平滑化する。上下アームの接続点には、図示省略するが負荷となるモータの巻き線が接続され、上下アームを交互にONさせて巻き線に流す電流を制御してモータを駆動する。
【0013】
制御部1は、モータの三相の巻き線に供給される電流を検出する電流センサー(図示省略)からの電流値がフィードバックされ、電流フィードバック制御を行う。制御部1は、また、図示省略した上位のコントローラの指令に応じて、駆動部21、22へPWMの駆動信号IN_P、IN_Nを出力する。駆動部21は、抵抗Rg1を介してスイッチング素子UTPをターンオンさせるのに必要な電圧を供給する。駆動部22は、抵抗Rg2を介してスイッチング素子UTNをターンオンさせるのに必要な電圧を供給する。
【0014】
スイッチング素子UTPは、コレクタから流入するコレクタ電流Icの一部を分流させて電流を流すセンスエミッタ端子を備えており、センスエミッタ端子に接続されたセンス抵抗R1に流れる電流が電圧に変換され、これを過電流検知部31に入力する。過電流検知部31は、入力された電圧に基づいて上下アームに流れるコレクタ電流Icを検出する。そして、入力された電圧が所定電圧以上、すなわちコレクタ電流Icが短絡電流閾値Icx以上であった場合にこれを過電流として検出し、制御部1へ出力する。
【0015】
同様に、スイッチング素子UTNは、コレクタから流入するコレクタ電流Icの一部を分流させて電流を流すセンスエミッタ端子を備えており、センスエミッタ端子に接続されたセンス抵抗R2に流れる電流が電圧に変換され、これを過電流検知部32に入力する。過電流検知部32は、入力された電圧に基づいて上下アームに流れるコレクタ電流Icを検出する。そして、入力された電圧が所定電圧以上、すなわちコレクタ電流Icが短絡電流閾値Icx以上であった場合にこれを過電流として検出し、制御部1へ出力する。
【0016】
過電流検知部31、32でコレクタ電流Icが短絡電流閾値Icx以上であると検知される場合は、スイッチング素子UTP、若しくはスイッチング素子UTNの故障により上下アームが短絡した場合である。この場合、過電流検知部31、32からの検知信号に応答して、制御部1はスイッチング素子の保護機能を動作させ、スイッチング素子を保護するモードに切り替わる。保護モードでは、スイッチング素子のゲートに充電されている電荷が放電される時間を長くして、コレクタ電流Icの時間当たりの変化分を小さくする。このためスイッチング素子のターンオフ時に発生する電圧は耐圧以下となりスイッチング素子は保護される。
【0017】
ゲート電圧検出部33には、スイッチング素子UTPのゲート電圧Vge_P、すなわちゲート−エミッタ間の電圧が入力される。ゲート電圧検出部33は、ゲート電圧Vge_Pが所定値以上であるかを検出し、所定値以上であれば検出信号を判定部4へ出力する。同様に、ゲート電圧検出部34には、スイッチング素子UTNのゲート電圧Vge_N、すなわちゲート−エミッタ間の電圧が入力される。ゲート電圧検出部34は、ゲート電圧Vge_Nが所定値以上であるかを検出し、所定値以上であれば検出信号を判定部4へ出力する。
【0018】
判定部4は、ゲート電圧検出部33、34から同時に検出信号が入力されていれば、スイッチング素子の誤点弧であるとして、信号ALMを制御部1へ出力する。
【0019】
スイッチング素子の誤点弧はスイッチング素子のスイッチング時に発生する現象である。上アームのスイッチング時を例にあげて説明する。上アームのスイッチング素子UTPがターンオフからターンオンに切り替わる際、スイッチング素子UTPのコレクタ−エミッタ間に印加されている電圧は変化する。そして、この電圧変化dV/dtと帰還容量によって決まる電流が、帰還容量を通って下アームのスイッチング素子UTNのゲートに注入され、ゲートの電圧上昇を招く。その結果、スイッチング素子UTNのゲート電圧Vge_Nがスイッチング素子UTNのターンオンしきい値電圧に到達するとスイッチング素子UTNがオンし、上下アームを短絡状態にする。これがスイッチング素子の誤点弧である。
【0020】
誤点弧時のコレクタ電流は定格電流よりも大きいが、短絡電流閾値Icxよりは小さい。誤点弧時のコレクタ電流が短絡電流閾値Icxより小さいため、過電流検知部31、32では検知することはできず、したがって、制御部1はスイッチング素子の保護機能を動作させることができない。そのため、本実施形態では、ゲート電圧検出部33、34、判定部4を設けて、スイッチング素子の誤点弧を判定している。誤点弧の判定の動作については後述する。
【0021】
図2は、ゲート電圧検出部33、34、判定部4を示す回路図である。ゲート電圧検出部33は、上アームのスイッチング素子UTPのゲート電圧Vge_Pを基準電圧Vthと比較するコンパレータVC1と、コンパレータVC1の出力側に接続されたフォトカプラーP1と、フォトカプラーP1の電源側に接続された抵抗R11、R12とよりなる。フォトカプラーP1は発光素子と受光素子より構成され、強電側Sと弱電側Wで絶縁型の信号伝送を実現している。
【0022】
同様に、ゲート電圧検出部34は、下アームのスイッチング素子UTNのゲート電圧Vge_Nを基準電圧Vthと比較するコンパレータVC2と、コンパレータVC2の出力側に接続されたフォトカプラーP2と、フォトカプラーP2の電源側に接続された抵抗R21、R22とよりなる。フォトカプラーP2は発光素子と受光素子より構成され、強電側Sと弱電側Wで絶縁型の信号伝送を実現している。
【0023】
判定部4はOR回路で構成される。ゲート電圧検出部33では、ゲート電圧Vge_Pが基準電圧Vth以上になった場合に、コンパレータVC1の出力によってフォトカプラーP1が動作し、フォトカプラーP1から論理“0”の信号がOR回路の一方へ入力される。また、ゲート電圧検出部34では、ゲート電圧Vge_Nが基準電圧Vth以上になった場合に、コンパレータVC2の出力によってフォトカプラーP2が動作し、フォトカプラーP2から論理“0”の信号がOR回路の他方へ入力される。OR回路の一方および他方へ論理“0”の信号が入力された場合に、OR回路から論理“0”の信号が誤点弧検知信号ALMとして出力され、制御部1へ入力される。すなわち、判定部4は、スイッチング素子UTPのゲート−エミッタ間の電圧Vge_Pが基準電圧Vthを越えている期間が、スイッチング素子UTNのゲート−エミッタ間の電圧Vge_Nが基準電圧Vthを越えている期間と重なったかを判定する。なお、
図2で示すゲート電圧検出部33、34、判定部4は一例であり、その他の論理回路等で構成してもよい。
【0024】
次に、インバータ駆動装置の動作について、
図3〜
図5の駆動波形を参照して説明する。
図3はインバータ駆動装置の通常駆動時の駆動波形であり、
図3(a)は上アームゲート電圧、
図3(b)は下アームゲート電圧、
図3(c)は上アームコレクタ−エミッタ間電圧、
図3(d)は上アームコレクタ電流である。各図において横軸は経過時間である。
【0025】
インバータ駆動装置の通常駆動時には、制御部1からの駆動信号IN_Pは駆動部21へ与えられ、駆動部21は、抵抗Rg1を介してスイッチング素子UTPへ、
図3(a)に示す、ゲート電圧Vge_Pを入力する。ゲート電圧Vge_Pが基準電圧Vthに達するとスイッチング素子UTPはターンオンする。スイッチング素子UTPがターンオフからターンオンに切り替わる際、上アームのスイッチング素子UTPのコレクタ−エミッタ間に印加される電圧の変化を受けて、下アームのスイッチング素子UTNのゲート電圧Vge_Nが
図3(b)に示すように若干上昇するが、通常駆動時には下アームのスイッチング素子UTNをターンオンするには至らない。上アームのスイッチング素子UTPのターンオンに伴って、
図3(c)に示すように、上アームコレクタ−エミッタ間電圧が低下し、
図3(d)に示すように、上アームコレクタ電流が増加する。
【0026】
図4は下アームが故障した場合の駆動波形であり、
図4(a)は上アームゲート電圧、
図4(b)は下アームゲート電圧、
図4(c)は上アームコレクタ−エミッタ間電圧、
図4(d)は上アームコレクタ電流である。各図において横軸は経過時間である。
【0027】
図4(b)は、下アームが故障し、下アームのスイッチング素子UTNのゲート電圧Vge_Nに基準電圧Vth以上の電圧が印加されている状態を示す。制御部1からの駆動信号IN_Pにより、
図4(a)に示す、ゲート電圧Vge_Pが入力され、スイッチング素子UTPがターンオンする。これに応答して、
図4(d)に示すように、上アームコレクタ電流が増加する。コレクタ電流が増加すると
図4(c)に示す上アームコレクタ−エミッタ間電圧も引き上げられる。この場合、上下アームは短絡状態になっており、
図4(d)に示すように、上アームコレクタ電流が短絡電流閾値Icxを超えてしまう。
【0028】
上アームコレクタ電流が短絡電流閾値Icxを超えると、過電流検知部31でこれが過電流として検知される。過電流検知部31からの検知信号に応答して、制御部1はスイッチング素子の保護機能を動作させ、スイッチング素子を保護する保護モードに切り替わる。保護モードでは、
図4(a)に示すように、上アームゲート電圧を徐々に低下させる。これにより、
図4(c)に示すように、上アームコレクタ−エミッタ間電圧を低下させて、上アームコレクタ−エミッタ間電圧が耐圧を超えないようにする。
【0029】
図5は下アームが誤点弧した場合の駆動波形であり、
図5(a)は上アームゲート電圧、
図5(b)は下アームゲート電圧、
図5(c)は上アームコレクタ−エミッタ間電圧、
図5(d)は上アームコレクタ電流である。各図において横軸は経過時間である。
【0030】
制御部1からの駆動信号IN_Pにより、
図5(a)に示す、ゲート電圧Vge_Pが入力され、スイッチング素子UTPがターンオンする。スイッチング素子UTPがターンオフからターンオンに切り替わる際、上アームのスイッチング素子UTPのコレクタ−エミッタ間に印加される電圧の変化を受けて、下アームのスイッチング素子UTNのゲート電圧Vge_Nが
図5(b)に示すように上昇する。その結果、ゲート電圧Vge_Nが基準電圧Vthに達するとスイッチング素子UTNはターンオンし、上下アームの短絡を発生させる。これが誤点弧である。誤点弧は、上アームのスイッチング素子UTPのコレクタ−エミッタ間に印加される電圧の変化が大きいときや、上アームのスイッチング素子UTPのターンオンするスピードが速いときに、下アームのゲートに充電される電荷量が多くなって発生する。誤点弧により、
図5(d)に示すように、一時的に大きな上アームコレクタ電流が流れるが、この電流は短絡電流閾値Icxより小さい。下アームのスイッチング素子UTNにゲート電圧Vge_Nとして印加されていた電荷が放電すると、
図5(d)に示すように、上アームコレクタ電流は小さくなった後、上アームのスイッチング素子UTPのターンオンに伴って徐々に増加する。
【0031】
誤点弧では、
図5(a)、
図5(b)に示すように、上アームゲート電圧と下アームゲート電圧がともに基準電圧Vthに達する重複期間が存在する。ゲート電圧検出部33、34、判定部4はこれを検出する。
【0032】
誤点弧の検出について
図2を参照して説明する。
図2に示すように、ゲート電圧検出部33は、コンパレータVC1でゲート電圧Vge_Pが基準電圧Vthを超えたかを比較し、超えた場合はコンパレータVC1の出力側に接続されたフォトカプラーP1へ信号を伝送する。これにより、フォトカプラーP1から論理“0”の信号がOR回路の一方へ入力される。ゲート電圧検出部34は、コンパレータVC2でゲート電圧Vge_Nが基準電圧Vthを超えたかを比較し、超えた場合はコンパレータVC2の出力側に接続されたフォトカプラーP2へ信号を伝送する。これにより、フォトカプラーP2から論理“0”の信号がOR回路の他方へ入力される。OR回路の一方および他方へ論理“0”の信号が入力された場合に、OR回路から論理“0”の信号が誤点弧検知信号ALMとして出力され、制御部1へ入力される。誤点弧検知信号ALMが入力された後の制御部1の動作については後述する。
【0033】
図6はスイッチング素子の飽和電流の特性を示す図である。縦軸はコレクタ電流Icを、横軸はコレクタ−エミッタ間電圧Vceを示す。図中のグラフはゲート電圧が7V、8V、9V、10V、12V、15V、20Vの場合をそれぞれ実線で表している。このグラフから分かるように、ゲート電圧が高いほどコレクタ電流Icは多くなる。
図4(d)に示す上アームコレクタ電流の大きさを決めているのは、
図4(a)に示す上アームゲート電圧、および
図4(b)に示す下アームゲート電圧であり、例えばこの電圧は15Vである。
図6を参照すると、ゲート電圧が15Vの場合は、コレクタ−エミッタ間電圧Vceの大きさがある程度(約2V)以上になると、コレクタ電流Icは非常に大きいことがわかる。したがって、スイッチング素子の故障による上下アームの短絡を検知する短絡電流閾値Icxが高く設定されていることが分かる。
【0034】
一方、
図5(d)に示す上アームコレクタ電流の大きさを決めているのは、
図5(b)に示す下アームゲート電圧であり、例えばこの電圧は7Vである。
図6を参照すると、ゲート電圧が7Vの場合は、コレクタ−エミッタ間電圧Vceの大きさがある程度(約1.5V)以上になると、コレクタ電流Icは一定となり、その大きさはゲート電圧が15Vの場合と比べて非常に小さいことがわかる。したがって、スイッチング素子の誤点弧による上下アームの短絡によるコレクタ電流Icは短絡電流閾値Icxより小さく、短絡電流閾値Icxを用いて検知できないことが分かる。
【0035】
図7は、制御部1の動作を示すフローチャートである。
図7のステップS1で、制御部1は信号ALMが入力されたかを判別している。信号ALMが入力されるとステップS2へ移り、信号ALMがt秒以上継続しているかを判定し、t秒以上継続していなければステップS2へ戻る。t秒は、ゲート電圧Vge_P、ゲート電圧Vge_N等に混入したノイズによる誤検知を抑制するための所定時間であり、ゲート電圧Vge_Pがゼロからスイッチング素子UTPのターンオン電圧まで上昇する時間よりも小さい。ステップS2で、信号ALMがt秒以上継続していることが判定されると、ステップS3へ移り、信号ALMが所定期間内にX回以上(Xは2以上の整数)検出されたかを判定し、X回以上検出されていなければステップS1へ戻る。X回は、誤点弧の検出を確実に行なうためであり、スイッチング素子UTN等が破壊されることがない回数である。ステップS3で、信号ALMがX回以上検出されると、ステップS4へ移る。ステップS4で、制御部1は誤点弧と判断し、上アームのスイッチング素子UTPおよび下アームのスイッチング素子UTNの駆動信号を制御することにより、スイッチング素子UTPおよびスイッチング素子UTNに流れる電流値を制限する。
【0036】
なお、制御部1は、誤点弧を判定した場合であっても、過電流検知部31からの検知信号が有ればこれを優先して、スイッチング素子の保護機能を動作させ、スイッチング素子を保護する保護モードに切り替わる。
【0037】
以上説明した実施形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)インバータ駆動装置は、インバータ回路の上下アームを構成する第1スイッチング素子UTP及び第2スイッチング素子UTNと、第1スイッチング素子UTP及び第2スイッチング素子UTNのゲート電圧Vge_P、Vge_Nを検出するゲート電圧検出部33、34と、ゲート電圧検出部33、34の検出結果に基づいて、第2スイッチング素子UTNの誤点弧による上下アームの短絡を判定する判定部4、制御部1とを備える。これにより、上アームのスイッチング素子がターンオフからターンオンに切り替わる際の電圧変化に起因する誤点弧を検出することができる。
【0038】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の特徴を損なわない限り、本発明の技術思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。