【実施例1】
【0010】
(質感再現方法)
はじめに、本実施例に係る質感再現方法について説明する。質感再現とは、再現対象物と同一物に見える再現物の出力を図ることであり、ここでは、再現対象物と再現物を比較観察したとき、両者が同一物に見えるために両者で一致させるべき一連の特性を質感と称する。質感は、例えば、色、光沢、内部散乱、形状などの要素からなる。質感を数値で定量的に表現することができれば、この数値が再現対象物と一致するように再現物を出力することにより、再現対象と同一物に見える再現物を得ることができる。以下、この数値を質感信号と称する。再現対象物が平面で表面凹凸が十分小さい印刷物などの場合は、同種の平面メディアに画像を記録することで、形状が再現対象物と略一致する再現物を得ることができる。このような場合、質感で重要な要素は色と光沢であり、質感はこの2つの要素からなると見なせる。また、他の場合であっても色と光沢は質感の主要な要素である。
【0011】
色の数値表現である色信号には、例えば、周知のCIELABの値が利用できる。CIELABは、主に、拡散反射光の明るさと色度に関する特性を表す。ここで拡散反射光とは、正反射方向およびその周辺とを除く方向を拡散反射方向とするとき、拡散反射方向への反射光を指す。CIELABの値が再現対象物と一致するように再現物を記録すれば、拡散反射方向の色の見えを再現対象物と略一致させることができる。
【0012】
光沢の数値表現である光沢信号には、例えば、周知の鏡面光沢度の値、像鮮明度の値、反射ヘイズの値などが利用できる。鏡面光沢度は正反射光の明るさに関する特性を表し、像鮮明度および鏡面光沢度を反射ヘイズで割った値は、対象に写り込んだ照明像の鮮明さに関する特性を表す。以下、この照明像の鮮明さに関する特性を写像性と称する。写像性が大きいとは、像鮮明度が大きく、鏡面光沢度を反射ヘイズで割った値が大きいことを意味する。
図20は、鏡面光沢度と写像性を説明する模式図である。
図20(a)の画像2231乃至2234は、試料に写り込んだ照明光源の像を示す。詳細には、
図20(b)に示すように、照明光源2210の正反射方向から試料2220を見たときに、試料2220に写り込んで見える照明光源2210の像である。
図20(c)は、この例における照明光源2210の構成を示す。照明光源2210は、3本の直線状の蛍光灯2211乃至2213と5つのルーバー2214乃至2218からなる。
【0013】
図20(a)の画像2231は、試料2220の鏡面光沢度と写像性が共に大きい場合を示し、試料2220に写り込んだ照明光源2210が明るく、鮮明である。画像2232は、試料2220の鏡面光沢度と写像性が共に小さい場合を示し、試料2220に写り込んだ照明光源2210が暗く、ぼけている。画像2233は、試料2220が鏡面光沢度は大きいが写像性は小さい場合を示し、試料2220に写り込んだ照明光源2210は明るいが、ぼけている。画像2234は、試料2220が鏡面光沢度は小さいが写像性は大きい場合を示し、試料2220に写り込んだ照明光源2210は暗いが、鮮明である。鏡面光沢度に対応する光沢信号と写像性に対応する光沢信号が再現対象物と一致するように再現物を記録すれば、写り込んだ照明像の明るさと鮮明さを再現対象物と略一致させることができる。逆に、鏡面光沢度と写像性のどちらか一方が同じであっても、他方が異なると見えは一致しない。すなわち、好適な質感再現には、鏡面光沢度と写像性の両方を制御することが望ましい。
【0014】
(質感再現手順)
図1は、実施例1の質感再現手順における各ステップ(工程)を示すフローチャートである。まず、S101において、再現対象物の質感データを入力する。質感データは、例えば、CIEALB、鏡面光沢度、写像性に対応した質感信号からなる画像データである。すなわち、微小領域毎にCIELABに対応した色信号と、鏡面光沢度と写像性に対応した光沢信号とを備える。尚、測定値そのものでもよい。詳細は後述する。また、以下の説明では、質感データを構成する微小領域を「領域」または「画像領域」または「画素」と称する。次に、S102において、S101で入力した質感データから質感信号を取得する。例えば、画像データから画素毎の色信号や光沢信号を取得する。次に、S103において、S102で取得した質感信号を質感再現装置で再現可能な質感に対応した質感信号に変換する。この工程を質感マッピングと称する。詳細は後述する。次に、S104において、S103で変換した質感信号を質感再現装置の制御信号に変換する。ここで、質感再現装置は、例えば、プリンタ等の画像記録装置であり、制御信号は、例えば、画像記録装置が備える色材の量に関する信号である。詳細は後述する。最後にS105において、S104で取得した制御信号に基づいて、質感再現装置で再現物を出力する。尚、各工程の処理は画素毎に実施してもよいし、全画素の処理を各工程で実施してもよい。後者の場合、S103は、入力質感データを構成する質感信号を質感再現装置で再現可能な質感に対応した質感信号で構成される質感データに変換する工程である。同様にS104は、S103で変換された質感データを質感再現装置の制御信号で構成される制御データに変換する工程である。
【0015】
図2は、質感マッピングの手順における各ステップ(工程)を示すフローチャートであり、
図1のS103の詳細を示す。まず、S201において、S102で取得した質感信号が質感再現装置で再現できる質感に対応した質感信号か否かを判定する。例えば、質感再現装置で再現可能な予め測定された、CIELAB、鏡面光沢度、写像性の値の組み合わせを出力質感再現域情報として記憶しておく。そして、S102で取得した質感信号、すなわちCIELAB、鏡面光沢度、写像性の組み合わせが、当該出力質感再現域情報に含まれていれば、質感再現装置で再現できる質感信号と判定し、S202に進む。他の場合は、質感再現装置で再現できない質感信号と判定し、S203に進む。S202では、S102で取得した質感信号を変更せずにそのまま変換後の質感信号として出力し、S104に進む。
【0016】
S203では、色信号を質感再現装置で再現できる色に対応した色信号に変換する。この工程をカラーマッピングと称する。カラーマッピングは、公知の方法で実施する。例えば、質感再現装置で再現できる色に対応したCIELABであって、S102で取得したCIELABと同じ色相角で、色差ΔEが最小となるCIELABの値に変換する。色相角と色差ΔEには、それぞれ、公知であるab色相角の値、CIEDE2000の値が利用できる。なお、S102で取得した色信号が質感再現装置で再現できる色信号であれば、当該色信号を変更せずにそのまま変換後の色信号として出力し、S204に進む。
【0017】
次にS204では、光沢信号を質感再現装置で再現できる光沢に対応した光沢信号に変換し、S104に進む。この工程を光沢マッピングと称する。本実施例の光沢マッピングは、S102で取得した質感信号の空間分布に基づいて、重視する光沢要素を切り替える。例えば、小粒状の領域がきらきらと光る再現物の当該小粒領域では、鏡面光沢度の違いの方が見た目の違いに大きく影響するため、写像性よりも鏡面光沢度の再現を重視する。以下では、このような領域を光沢変化の大きい領域と称する。一方、ほぼ均一な光沢が広く分布している領域や、滑らかに変化する光沢が広く分布している領域では、写像性の違いが見た目の違いに大きく影響するため、鏡面光沢度よりも写像性の再現を重視する。以下では、このような領域を光沢変化の小さい領域と称する。本実施例の光沢マッピングでは、まず、質感信号の空間分布に基づいて、処理領域が光沢変化の大きい領域か、光沢変化の小さい領域かを判定するための判定信号を設定する。尚、判定信号の詳細については後述する。そして、この判定信号に基づいて判定を行う。光沢変化が大きいと判定された領域では、鏡面光沢度の再現を重視した変換を行い、光沢変化が小さいと判定された領域では、写像性の再現を重視した変換を行う。判定信号は領域毎に設定され、着目領域の判定信号は、着目領域とその周辺の非着目領域の質感信号に基づいて設定される。尚、以下では、着目領域を着目画素とも称する。
【0018】
図19は、光沢マッピングを説明する模式図である。図の横軸は写像性に対応した信号、縦軸は鏡面光沢度に対応した信号値を示し、201は質感再現装置が再現可能な鏡面光沢度と写像性の範囲を示す。例えば、入力データが点202に示す鏡面光沢度と写像性であった場合、次のように変換される。すなわち、例えば、鏡面光沢度を重視する領域と判定された領域では、点203に示す鏡面光沢度と写像性に変換される。その結果、入力データと鏡面光沢度の差が小さい再現物が得られる。一方、例えば、写像性の再現を重視する領域と判定された領域では、点204に示す鏡面光沢度と写像性に変換される。その結果、入力データと写像性の差が小さい再現物が得られる。
【0019】
図3は、光沢マッピングの詳細手順における各ステップ(工程)を示すフローチャートであり、
図2のS204の詳細を示す。まず、S301において、S102の質感信号の空間分布に基づいて、画像中の隣接する領域で光沢差の小さい領域を同一ブロックとして括り、ブロックの大きさを表す判定信号を各領域に設定する。この工程をブロック化と称する。具体的には、入力データにおける光沢信号の空間分布からブロックを生成し、着目領域の周辺領域において着目領域と同じブロックが占める空間の広さに関する量を判定信号とする。ブロックは、1個または連続した複数の領域からなり、隣接する領域の光沢信号の差が所定の閾値よりも小さい領域の集合である。この判定信号が小さいときは、着目領域が光沢変化の大きい領域であることを示し、判定信号が大きいときは、光沢変化の小さい領域であることを示す。これにより、光沢変化の大きい領域と光沢変化の小さい領域を判別することができる。
【0020】
次に、S302において、入力データに基づいて、鏡面光沢度の再現を重視する変換と、写像性の再現を重視する変換とを領域毎に切り替える。これにより、各領域に適した処理が行われ、入力データの示す再現対象物との見た目の差が小さい再現物を得ることができる。具体的には、着目領域を含むブロックの大きさに関する判定信号が所定の閾値よりも小さいか否かを判定する。閾値は、例えば、0.5とする。着目領域に対応付けられたブロックの大きさが閾値よりも小さい場合は、光沢変化が大きい領域と判断し、S303に進む。他の場合は、光沢変化が小さい領域と判断し、S305に進む。
【0021】
S303では、鏡面光沢度に対応した信号について、変換後の信号を求める。すなわち、質感再現装置で再現できる鏡面光沢度に対応した信号であって、S203で変換した色信号を維持して、S102で取得した鏡面光沢度に対応した信号との差が最小となる信号を求める。次に、S304において、写像性に対応した信号について変換後の信号を求める。すなわち、質感再現装置で再現できる写像性に対応した信号であって、S203で変換した色信号と、S303で求めた鏡面光沢度に対応した信号を維持して、S102で取得した写像性に対応した信号との差が最小となる信号を求める。
【0022】
一方、S305では、鏡面光沢度よりも先に写像性に対応した信号について、変換後の信号を求める。すなわち、質感再現装置で再現できる写像性に対応した信号であって、S203で変換した色信号を維持して、S102で取得した写像性に対応した信号との差が最小となる信号を求める。次に、S306において、鏡面光沢度に対応した信号について変換後の信号を求める。すなわち、質感再現装置で再現できる鏡面光沢度に対応した信号であって、S203で変換した色信号と、S305で求めた写像性に対応した信号を維持して、S102で取得した鏡面光沢度に対応した信号との差が最小となる信号を求める。
【0023】
(ブロック化)
図10は、ブロック化の処理における処理領域の走査順を説明する模式図である。四角形のセルは、各々、質感信号を保持する領域である。領域1201から処理を開始して矢印の方向に各領域を順に処理し、右端まで処理が完了したら1段下の左端の領域に進む。以下、同様に走査して各領域を順に処理し、これを最終領域1202まで繰り返し行う。
【0024】
図4は、ブロック化の前半の処理手順における各ステップ(工程)を示すフローチャートである。前半の処理では、隣接する領域の光沢信号の差が所定の閾値よりも小さい領域に同一のブロック番号を付与する。まず、S401において、初期化処理を行う。具体的には、最大ブロック番号の初期値に1を設定し、合わせて、最初の領域1201に対応するブロックとしてブロック番号1を設定する。次に、S402において、
図10で説明した走査順に基づき、次の処理領域を設定する。S403では、処理領域の左に領域が存在するか否か判定し、存在していればS404に進み、他の場合はS406に進む。S404では、処理領域が左の領域と同一ブロックか否かを判定する。すなわち、処理領域と左の領域との光沢差を調べ、この光沢差が所定の閾値よりも小さいか否かを判定する。光沢差の値には、例えば、鏡面光沢度に対応する光沢信号の差の二乗と、写像性に対応する光沢信号の差の二乗の和が利用できる。閾値は、鏡面光沢度に対応する光沢信号にJISZ8741の方法で測定される20度鏡面光沢度、写像性に対応する光沢信号にJISK7174の方法で測定される像鮮明度を利用した場合、例えば、50に設定する。光沢差が閾値よりも小さい場合は、左の領域と同一ブロックと判定され、S405に進む。他の場合はS406に進む。S405では、処理領域に対応するブロックとして、左の領域に対応するブロックのブロック番号を設定し、S417に進む。
【0025】
S406では、処理領域の左上に領域が存在するか否か判定し、存在していればS407に進み、他の場合はS409に進む。S407では、処理領域が処理領域の左上の領域と同一ブロックか否かを判定する。すなわち、処理領域と左上領域との光沢差を調べ、この光沢差が所定の閾値よりも小さいか否かを判定する。判定方法は、前述したS404と同じである。光沢差が閾値よりも小さい場合は、左上領域と同一ブロックと判定され、S408に進む。他の場合は、409に進む。S408では、処理領域に対応するブロックとして、左上領域に対応するブロックのブロック番号を設定し、S417に進む。
【0026】
S409では、処理領域の上に領域が存在するか否か判定し、存在していればS410に進み、他の場合はS412に進む。S410では、処理領域が処理領域の上の領域と同一ブロックか否かを判定する。すなわち、処理領域と上領域との光沢差を調べ、この光沢差が所定の閾値よりも小さいか否かを判定する。判定方法は、前述したS404と同じである。光沢差が閾値よりも小さい場合は、上領域と同一ブロックと判定され、S411に進む。他の場合は、S412に進む。S411では、処理領域に対応するブロックとして、上領域に対応するブロックのブロック番号を設定し、S417に進む。
【0027】
S412では、処理領域の右上に領域が存在するか否か判定し、存在していればS413に進み、他の場合はS415に進む。S413では、処理領域が処理領域の右上の領域と同一ブロックか否かを判定する。すなわち、処理領域と右上領域との光沢差を調べ、この光沢差が所定の閾値よりも小さいか否かを判定する。判定方法は、前述したS404と同じである。光沢差が閾値よりも小さい場合は、右上領域と同一ブロックと判定され、S414に進む。他の場合は、S415に進む。S414では、処理領域に対応するブロックとして、右上領域に対応するブロックのブロック番号を設定し、S417に進む。
【0028】
S415では、最大ブロック番号に1を加算して更新し、処理領域に対応するブロックとして更新した最大ブロック番号の値を設定する。S417では、処理領域が、最終領域1202か否かを判定する。処理領域が最終領域1202であれば処理を終了し、後半の処理へ進む。他の場合はS402へ戻る。尚、ブロック化の前半の処理は、説明した手順に限らず、他のラベリング処理を利用してもかまわない。
【0029】
図5は、ブロック化の後半の処理手順における各ステップ(工程)を示すフローチャートである。後半の処理では、前半の処理で付与したブロック番号に基づいて、各領域に判定信号を設定する。まず、S501において、最初の領域1201を処理領域として設定する。次に、S502では、処理領域を中心とする縦n個、横m個の領域において、ブロック番号が、処理領域に設定された番号と同じである領域の数をカウントし、この数をnとmの積で割った値を処理領域の判定信号に設定する。nおよびmの値は、例えば、縦n個、横m個の領域に対応する再現物のサイズが10mm角になるような値を利用する。この場合、判定信号が1であれば、10mm角の領域が全て同じブロックに属することを示し、0.5であれば、半分の面積が同じブロックに属することを示す。次に、S503において、処理領域が最終領域1202か否かを判定する。処理領域が最終領域1202であれば処理を終了し、他の場合は、S504に進む。S504では、
図10で説明した走査順に基づき、次の処理領域を設定し、S502に進む。
【0030】
(質感再現システムのハードウエア構成)
図7は、質感再現システムとしての画像記録システムのハードウエア構成を示すブロック図である。
図7において、情報処理装置としてのホスト700は、例えばコンピュータであり、マイクロプロセッサ(CPU)701と、ランダムアクセスメモリなどのメモリ702を備える。また、キーボードなどの入力部703、ハードディスクドライブなどの外部記憶装置704を備える。ホスト700はさらに質感再現装置としての画像記録装置800との間の通信インターフェース(以下「プリンタI/F」)705と、モニタ900との間の通信インターフェース(以下「ビデオI/F」)706を備える。CPU701は、メモリ702に格納されたプログラムに従って種々の処理を実行するものであり、質感再現システムに関わる質感マッピング処理やデバイス信号変換処理を実行する。これらのプログラムは外部記憶装置704に記憶しておくか、或いは不図示の外部装置から供給される。また、ホスト700はビデオI/F706を介してモニタ900に種々の情報を出力すると共に、入力部703を通じて各種情報を入力する。また、ホスト700はプリンタI/F705を介して画像記録装置800と接続されており、デバイス信号変換処理によって変換されたデバイス信号を画像記録装置800に送信して記録を行わせると共に、画像記録装置800から各種情報を受け取る。画像記録装置800としては、インクを用いて画像記録を行うインクジェットプリンタを想定し、記録媒体の同一ライン上を記録ヘッドがn回主走査することで画像を記録する。一般にパス数nは、値が大きいほど質感の再現範囲を広げることができる。記録パス数が多いと、一回のパスで記録するインク量が少なくなり、記録媒体上にインクが粒状に堆積して表面に微小な凹凸を記録する。この結果、写像性の小さい光沢が再現できる。逆に、利用するパス数を制限し、少ないパス数で記録すると、一回のパスで記録するインク量が多くなり、インクが層を作って表面が平滑になる。この結果、写像性の大きな光沢が再現できる。
【0031】
(記録ヘッド)
以下、記録ヘッドの構成について説明する。
図6は、ヘッドカートリッジ801の構成を示す模式図である。
図6(a)に示すように、ヘッドカートリッジ801は、記録剤としてのインクを貯蔵するインクタンク601と、このインクタンク601から供給されるインクを吐出信号に応じて吐出させる記録ヘッド602とから成る。ヘッドカートリッジ801は、例えば、イエロ(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)、光沢調整材1(A)、光沢調整材2(B)の各独立のインクタンク601を備える。インクタンク601は、
図6(b)に示すように、それぞれが記録ヘッド602に対して着脱自在となっている。光沢調整材1および光沢調整材2は、屈折率の異なる無色透明のインクである。光沢調整材1の屈折率は小さく、光沢調整材2の屈折率は大きい。屈折率の大きい光沢調整材1が最表面に記録された領域は反射率が大きく、鏡面光沢度の大きい光沢が再現できる。逆に、屈折率の小さい光沢調整材2が最表面に記録された領域は反射率が小さく、鏡面光沢度の小さい光沢が再現できる。また、光沢調整材1と光沢調整材2で記録される領域の比率を調整することにより、両者の中間的な鏡面光沢度を再現できる。
【0032】
(質感再現システムの機能構成)
図9は、実施例1の質感再現システムにおける機能構成を示すブロック図である。本質感再現システムは、質感データ入力部1101、質感信号取得部1102、質感マッピング部1103によって、入力データを質感再現装置で再現可能な質感信号に変換する。また、デバイス信号変換A部1104、デバイス信号変換B部1105、デバイス信号変換C部1106、出力部1107によって、入力データに対応する再現物としての画像を記録媒体に記録する。尚、
図9において、質感データ入力部1101、質感信号取得部1102、質感マッピング部1103、デバイス信号変換A部1104、デバイス信号変換B部1105、デバイス信号変換C部1106はホスト700で実現される。また、出力部1107は質感再現装置としての画像記録装置800で実現される。
【0033】
質感データ入力部1101は、質感信号で構成される画像データを入力する。質感信号は、色信号と光沢信号からなり、画像データの各画素は、一般的な色信号(R,G,B)に加えて、光沢信号(Gg,Sg)の要素を持つ。ここで、光沢信号Ggは、鏡面光沢度に対応する信号であり、光沢信号Sは、写像性に対応する信号である。画像データを構成する質感信号(R,G,B,Gg,Sg)は、8bitのデジタル信号である。入力する画像データのフォーマットは、これに限らず、例えば、色信号で構成される画像データと、光沢信号で構成される画像データの二つの画像データを入力する構成でもよい。
【0034】
質感信号取得部1102は、質感データ入力部1101が入力した画像を構成する質感信号をCIELABに対応した色信号(L,a,b)、鏡面光沢度に対応した光沢信号(g)、写像性に対応した光沢信号(s)に変換する。質感信号取得部が出力する質感信号(L,a,b,g,s)は、好適には、測定値に対応した、装置に非依存の信号である。色信号(R,G,B)から色信号(L,a,b)への変換は、sRGBなどの標準の変換方法に従う。または、入力質感テーブル格納部1108に格納されたカラーテーブルを参照して、公知の三次元ルックアップテーブル法を用いて変換する構成でもよい。カラーテーブルは、色信号(R,G,B)と色信号(L,a,b)との対応関係が記述されたテーブルである。鏡面光沢度に対応した光沢信号(Gg)から光沢信号(g)への変換、および写像性に対応した光沢信号(Sg)から光沢信号(s)への変換は、入力質感テーブル格納部1108に格納された光沢テーブルを参照し、公知のルックアップテーブル法を用いて行う。光沢テーブルは、光沢信号(Gg)と光沢信号(g)との対応関係および光沢信号(Sg)と光沢信号(s)との対応関係が予め定められて記述されたテーブルである。カラーテーブルと光沢テーブルは、好適には、画像データの種類や、入力画像データを生成した質感取得装置毎に用意しておき、質感データ入力部1101が入力する画像データに応じて選択される。または、ユーザ指示に基づいて選択される。
【0035】
質感マッピング部1103は、前述したカラーマッピングと光沢マッピングによって、質感信号取得部1102で取得した質感信号(L,a,b,g,s)を画像記録装置800で再現可能な質感に対応した質感信号(L’,a’,b’,g’,s’)に変換する。
【0036】
(色分解処理)
デバイス信号変換A部1104は、質感信号(L’,a’,b’,g’,s’)を画像記録装置800の色材量信号(C,M,Y,K)と光沢調整材量信号(A,B)とパス制御信号(P)とからなる制御信号に変換する。変換は、デバイス特性テーブル格納部1109に格納されたデバイス特性テーブルを参照して、公知のn次元ルックアップテーブル法を用いて変換する。
図11は、デバイス特性テーブルの一例を示す模式図である。図に示すように、デバイス特性テーブルは、離散的な制御信号(C,M,Y,K,A,B,P)に対応する質感信号(L’,a’,b’,g’,s’)が記述されたテーブルである。色材量信号(C,M,Y,K)は、それぞれ、イエロ、マゼンタ、シアン、ブラックの色材量に関する信号であり、例えば、8bitのデジタル信号ある。光沢調整材量信号(A,B)は、それぞれ、光沢調整材1および光沢調整材2の量に関する信号であり、例えば、8bitのデジタル信号である。パス制御信号(P)は、記録パス数に関する信号であり、例えば、1から16の値をとる。信号値が1であれば、1パスで記録し、信号値が16であれば、16パスで記録する。
【0037】
(ハーフトーン処理)
デバイス信号変換B部1105は、デバイス信号変換A部1104が変換した制御信号(C,M,Y,K,A,B)のハーフトーン処理を行い、ドットを記録する、または、記録しない、の2値信号(C’,M’,Y’,K’,A’,B’)に変換する。2値信号(C’,M’,Y’,K’,A’,B’)はドット記録位置を示し、ドットは、例えば、信号値が1の位置に記録され、信号値が0の画素には記録されない。ハーフトーン処理には、公知の誤差拡散法や組織的ディザ法を利用する。
【0038】
デバイス信号変換C部1106は、パス数に関する制御信号(P)と各色材、各光沢調整材のドット配置に関する制御信号(C’,M’,Y’,K’,A’,B’)に基づき、パス分解処理を行う。パス分解処理では、パスマスクと制御信号(C’,M’,Y’,K’,A’,B’)との論理和を計算し、各パスで記録されるドット配置に関する制御信号(C’’,M’’,Y’’,K’’,A’’,B’’)を生成する。実施例1の質感再現システムのパスマスクは、1パス記録用から16パス記録用までの16セットあり、Pの値に応じて対応するパスマスクが選択されて利用される。例えば、Pの値が、2パス記録を示す2であった場合、シアンの第一パスのドット配置は、2パス記録用のパスマスクセットにおける第一パスのパスマスクと、シアンのドット記録位置を示す制御信号C’との論理和によって生成される。
図12は、パスマスクの一例を示す模式図である。
図12(a)は、1パス記録用の第一パスのパスマスクである。1パス記録では、第一パスで全てのドットを記録する。
図12(b)乃至
図12(c)は、それぞれ、2パス記録用の第一パスと第二パスのパスマスクである。2パス記録では、ドットを第一パスと第二パスの二つのパスに分割して記録する。
図12(d)乃至
図12(g)は、それぞれ、4パス記録用の第一パス乃至第四パスのパスマスクである。4パス記録では、ドットを第一パス乃至第四パスの四つのパスに分解して記録する。同様に、nパス記録では、ドットを第一パスから第nパスのn個のパスに分割して記録する。実施例1の質感再現システムのデバイス信号変換C部1106によれば、画素毎に記録パス数を制御することで、パス回数に応じた表面形状の制御が可能となり、各画素の写像性が制御できる。尚、パスマスクは、インクの種類毎に異なるマスクを用意してもよい。
【0039】
出力部1107は、デバイス信号変換C部1106で生成されたドット配置データに基づいて各色材および各光沢調整材の吐出を行い、記録媒体上に質感再現物としての画像を記録する。
【0040】
前述した質感再現手順において、S101乃至S103の各工程は、それぞれ、質感データ入力部1101、質感信号取得部1102、質感マッピング部1103によって実施される。また、S104の工程は、デバイス信号変換A部1104、デバイス信号変換B部1105、デバイス信号変換C部1106によって実施され、S105の工程は、出力部1107によって実施される。
【0041】
以上説明したように、実施例1の質感再現システムは、入力データを質感再現装置で再現可能な質感に対応した質感データに変換する質感マッピングを備える。質感マッピングは、入力データが示す色、鏡面光沢度、写像性を質感再現装置で再現できる色、鏡面光沢度、写像性の組み合わせに対応付けるように色信号および光沢信号を変換する。これにより、入力データが示す色、鏡面光沢度、写像性の組み合わせが質感再現装置で再現できない組み合わせであっても、質感再現装置で再現物を出力できるようになる。
【0042】
また、実施例1の質感再現システムの質感マッピングは、光沢変化の大きい領域では、光沢変化の小さい領域に比べて、鏡面光沢度の再現を重視する。すなわち、入力データの示す鏡面光沢度と再現物の鏡面光沢度の差を鏡面光沢度誤差とするとき、次のように光沢信号を変換する。すなわち、光沢変化が相対的に大きい領域の鏡面光沢度誤差は、光沢変化が相対的に小さい領域の鏡面光沢度誤差より小さくなるように光沢信号を変換する。これにより、例えば、きらきら光る小粒領域を良好に再現できる。
【0043】
また、実施例1の質感再現システムの質感マッピングは、光沢変化の小さい領域では、光沢変化の大きい領域と比べて、写像性の再現を重視する。すなわち、入力データの示す写像性と再現物の写像性の差を写像性誤差とするとき、次のように光沢信号を変換する。すなわち、光沢変化が相対的に小さい領域の写像性誤差は、光沢変化が相対的に大きい領域の写像性誤差より小さくなるように光沢信号を変換する。これにより、例えば、ほぼ均一な光沢が広く分布している領域や、滑らかに変化する光沢が広く分布している領域を良好に再現できる。
【0044】
また、実施例1の質感再現システムは、少なくとも鏡面光沢度と写像性とを軸に持つ空間上において、入力した質感データを質感再現装置で再現可能な信号値に変換する。これにより、例えば、鏡面光沢度が同じで写像性が異なる光沢を異なる光沢として扱うことができ、入力データの示す再現対象物の見えと再現物の見えをより一致させることができる。
【0045】
<変形例1>
実施例1では、各領域が属するブロックの大きさを判定信号とし、写像性の再現を重視した処理と、鏡面光沢度の再現を重視した処理とを切り替える構成の質感再現システムについて説明した。変形例1では、別の指標を判定信号とする例を説明する。
【0046】
(光沢マッピング処理)
図8は、変形例1の光沢マッピング処理の手順における各ステップ(工程)を示すフローチャートであり、
図2のS204の詳細を示す。まず、S1101において、質感信号の空間分布にローパスフィルタを適用する。例えば、標本化定理に従い、鏡面光沢度に対応する光沢信号の2次元分布と写像性に対応する光沢信号の2次元分布に、1サイクル/mmの応答が0.05サイクル/mmの応答の半分になるようなローバスフィルタを適用する。次にS1102において、ローパスフィルタ適用前後の光沢信号の差に対応した判定信号を求める。判定信号には、例えば、鏡面光沢度に対応する光沢信号の差の二乗と、写像性に対応する光沢信号の差の二乗の和を利用する。次に、S1103において、S1102で求めた判定信号が所定の閾値よりも大きいか否かを判定する。閾値は、鏡面光沢度に対応する光沢信号に公知の方法で測定される20度鏡面光沢度を利用し、写像性に対応する光沢信号に公知の方法で測定される像鮮明度を利用した場合、例えば、50に設定する。着目領域の判定値が閾値よりも大きい場合は、光沢変化が大きい領域と判断し、S303に進む。他の場合は、光沢変化が小さい領域と判断し、S305に進む。
【0047】
以上説明したように、変形例1の質感再現システムは、質感信号の空間分布からローパスフィルタ適用した光沢分布を生成し、着目領域に対応するローパスフィルタ適用前後の光沢信号の差を判定信号とする。この判定信号が大きいときは、着目領域が光沢変化の大きい領域であることを示し、判定信号が小さいときは、光沢変化の小さい領域であることを示す。これにより、光沢変化の大きい領域と光沢変化の小さい領域を判別することが可能となる。ローパスフィルタ処理は、高速計算が可能なFFTが利用できるため、処理を高速化することが可能である。
【0048】
一般に、光沢変化の大きい領域と小さい領域の判別は、光沢変化の振幅または周期に関する量を利用することで実現できる。ここで振幅とは、光沢信号の差に関する量である。光沢変化の振幅が大きいとは、着目領域とその周辺領域の光沢信号の差が大きいことを示す。また、周期とは、空間的な広さ、領域の大きさに関する量である。光沢変化の周期が大きいとは、光沢信号が着目領域の光沢信号と同レベルの領域が、着目領域と隣接して広く分布していることを示す。判定信号が光沢変化の振幅に関する量の場合、値が大きい程、光沢変化が大きいことを示し、判定信号が光沢変化の周期に関する量の場合、値が大きい程、光沢変化が小さいことを示す。実施例1の判定信号は、光沢変化の周期に関する量であり、変形例1の判定信号は、光沢変化の振幅に関する量である。尚、光沢変化の振幅および周期は、質感信号の空間分布から取得される。
【0049】
(その他の変形例)
判定信号は、光沢変化の振幅に関する量と光沢変化の周期に関する量の2種類の量を合わせて利用する構成でもかまわない。2種類の判定結果が一致しない場合は、例えば、優先度の高い判定信号の判定結果を採用する。優先度は、あらかじめ設定しておく構成でもかまわないし、再現対象物の種類や記録媒体の種類、ユーザ指示などに応じて設定する構成でもよい。
【0050】
鏡面光沢度に対応する光沢信号は、必ずしも規格の条件で測定された値に限らず、他の条件で測定された値や、その関数でもよい。例えば、測定の照明方向は30度であっても良いし、照明および受光の開き角も、規格の条件に限らない。また、鏡面光沢度に対応する信号は、明るさ情報だけでなく色情報を含む信号でもよい。色情報を含む信号には、例えば、波長毎の正反射光量を測定し、JISZ8722の方法で計算したCIELABの値が利用できる。そして、鏡面光沢度に対応する光沢信号として、gの代わりにgL、ga、gbの3つの信号を利用する。この場合、光沢マッピングにおける鏡面光沢度に対応する信号の変換は、3次元色空間における変換となる。変換方法には、色信号の変換と同様に、公知のカラーマッピング方法が利用できる。
【0051】
写像性に対応する光沢信号も、必ずしも規格の条件で測定された値に限らず、他の条件で測定された値や、その関数でもよい。例えば、正反射方向近傍で、反射光量が正反射光の半分となる方向が正反射方向となす角度φを測定し、その角度の逆関数を利用してもよい。
図13は、典型的な変角反射光特性の模式図である。図の線1501は、試料1502の点Aからの反射光量を示す。反射光量の大きい、角度θの方向は、照明方向の正反射方向であり、線分ABの長さは正反射方向への反射光量を示す。点Cは、線分ACの長さが線分ABの長さの半分となる点であり、線分ABと線分ACの成す角度が角度φである。写像性が大きい試料では、正反射方向近傍への光拡散が小さく、角度φは小さい値を示す。逆に、写像性が小さい試料では、角度φは大きい値を示す。
【0052】
さらに、写像性に対応する光沢信号は、表面凹凸の測定値やその関数を利用してもよい。表面凹凸の小さい、滑らかな再現対象物は、写像性が大きく、表面凹凸の大きい再現対象物は、写像性が小さい。
【0053】
さらに、光沢信号として、各領域の法線方向に関する要素を含む構成であってもよい。再現対象物によっては、法線方向が領域によって変化する場合もある。この場合、見た目に一致する再現物を得るには、各領域が保持する情報として、鏡面光沢度と写像性に加えて、法線方向に関する情報が必要である。法線方向は、表面凹凸を制御することで再現でき、表面凹凸は、例えば、UVインクジェットプリンタや3Dプリンタを利用することで記録できる。また、光沢信号に法線方向に関する要素を含む場合、周辺領域との光沢差の算出には、鏡面光沢度の差と写像性の差に加えて、法線方向の差に関する要素も追加する。すなわち、実施例1のブロック化処理手順である
図4のS404、S407、S410、S413で利用する光沢差は、例えば、鏡面光沢度と写像性と、法線方向に対応する光沢信号の差の二乗和とする。同様に、変形例1の光沢マッピング処理手順である
図8の1002で求める判定信号は、例えば、鏡面光沢度と写像性と法線方向に対応する光沢信号の差の二乗和とする。これにより、法線方向の変化の大きい領域は、写像性よりも鏡面光沢度が優先して再現され、再現対象物と再現物の見た目をより一致させることができる。
【0054】
光沢差の評価方法も一例であり、他の評価方法であってもよい。例えば、鏡面光沢度の差と写像性の差を個別に求め、両者に個別の閾値を設定しておき、どちらかが閾値よりも大きい場合は、光沢差が大きいと判定されるように構成してもよい。
【0055】
閾値の値は、一例であり、実施例で説明した値に限らない。閾値は、記録媒体の種類や、質感データを構成するオブジェクトの種類、ユーザの指示などに基づいて決定する構成でもよい。
【実施例3】
【0066】
本実施例では、再現物の質感を所望の質感に調整する場合においても、質感再現装置の使用者は質感再現装置を自由には調整できないため、入力画像に対して調整を行うことになる。この場合、入力画像に対してどのような調整をすれば質感再現装置で所望の質感が得られるか分からないため、調整作業を繰り返し行うことになりがちである。実施例3では、質感調整手段を備える構成について説明する。尚、実施例1と同じ構成については同じ番号を付与し、説明を省略する。
【0067】
(質感再現方法)
図21は、実施例3の質感再現手順における各ステップ(工程)を示すフローチャートである。実施例3の質感再現装置によれば、S101で質感データを入力し、S102で質感信号を取得した後、S2301において、質感調整値を取得する。質感調整値は、質感再現装置の出力を所望の質感に調整するための調整情報であり、本実施例の質感再現システムでは、色の調整値に加えて、光沢に関して、鏡面光沢度と写像性の調整値を取得する。
【0068】
色の調整値は、明るさの調整値ΔLと色度の調整値Δa、Δbから成る。ΔLは、CIELABのL*に対応する値であり、再現物をより明るく調整する場合はより大きな正の値が設定され、より暗く調整する場合はより小さな負の値が設定される。Δaは、CIELABのa*に対応する値であり、再現物をより赤く調整する場合はより大きな正の値が設定され、より緑に調整する場合はより小さな負の値が設定される。同様にΔbは、CIELABのb*に対応する値であり、再現物をより黄色に調整する場合はより大きな正の値が設定され、青色に調整する場合はより小さな負の値が設定される。各調整値を取得するユーザインターフェース(以下UI)にはスライドバーが利用できる。また、例えば、明るさを調整するスライドバーには、一方の端に「より暗く」、他方に「より明るく」などと表示し、調整値の設定が直観的に行えるようにする。
【0069】
光沢の調整値は、鏡面光沢度の調整値Δgと写像性の調整値Δsから成る。Δgは、鏡面光沢度をより大きく調整する場合はより大きな正の値が設定され、より小さく調整する場合はより小さな負の値が設定される。同様に、Δsは、写像性をより大きく調整する場合はより大きな正の値が設定され、より小さく調整する場合はより小さな負の値が設定される。光沢の調整値を取得するUIには、対象に写り込んだ照明の見えに対応する画像である照明光源の画像(以下、照明画像とも言う)を表示し、調整値の設定が直観的に行えるようにする。
【0070】
図22は、光沢調整UIの一例を示す模式図であり、2401乃至2408は照明光源の画像である。2404乃至2405と比較して、2401乃至2403は照明光源がより明るく表示され、2406乃至2408は照明光源がより暗く表示されている。これらの照明光源の画像は、対象の鏡面光沢度と写像性のレベルを表す画像であり、再現対象に写り込んだ照明光源の像を疑似的に示す。上側に配置された2401乃至2403は鏡面光沢度を大きく調整したときの効果を示し、下側に配置された2406乃至2408は鏡面光沢度を小さく調整したときの効果を示す。また、2402および2407と比較して2403および2405、2408は照明光源がより鮮明に表示され、2401および2404、2406は照明光源がよりぼけて表示されている。右側に配置された2403および2405、2408は写像性を大きく調整したときの効果を示し、左側に配置された2401および2404、2406は写像性を小さく調整したときの効果を示す。2409は縦横5個のセルであり、中央のセルには、鏡面光沢度の調整値Δgおよび写像性の調整値Δsに調整を行わないことを示す0が対応付けられている。また、その他のセルには、中央のセルからの方向が等しい位置に表示された照明画像と中央のセルからの距離とに基づいた調整値が対応付けられている。すなわち、より上側のセルには鏡面光沢度の調整値Δgにより大きな正の値が対応付けられ、より下側のセルにはΔgにより小さな負の値が対応付けられている。また、より右側のセルには写像性の調整値Δsにより大きな正の値が対応付けられ、より左側のセルにはΔsにより小さな負の値が対応付けられている。マウスポインタ2412を操作していずれかのセルが選択されると、対応付けられた調整値が仮設定され、OKボタン2410が選択可能になる。さらにOKボタン2410が選択されると、調整値が仮設定されていた値に確定される。キャンセルボタン2411が選択されると、調整値ΔgおよびΔsに調整を行わないことを示す0が設定される。
【0071】
次に、S2302において、S102で取得した質感信号をS2301で取得した調整値で補正する。すなわち、次の式で調整後の質感信号L_a、a_a、b_a、g_a、s_aを求める。
L_a=L+ΔL ・・・(1)
a_a=a+Δa ・・・(2)
b_a=b+Δb ・・・(3)
g_a=g+Δg ・・・(4)
s_a=s+Δs ・・・(5)
次に、S2303において、前述したカラーマッピングと光沢マッピングによって、S2302で補正した調整後の質感信号を質感再現装置である画像記録装置800で再現可能な質感に対応した質感信号に変換する。
【0072】
以下、S104において、S2303で変換した質感信号を質感再現装置の制御信号に変換し、最後にS105において、S104で取得した制御信号に基づいて、質感再現装置で再現物を出力する。
【0073】
質感再現システムの機能構成)
図23は、実施例3の質感再現システムにおける機能構成を示すブロック図である。本質感再現システムは、実施例1の質感再現システムの構成に加えて、質感調整値取得部2501と質感調整値格納部2502、質感補正部2503とを備える。質感調整値取得部2501は、前述したS2301の処理を行い、外部から質感調整値(ΔL,Δa,Δb,Δg,Δs)を取得して質感調整値格納部2502に格納する。調整値は、前述した
図22のUIのように、調整値の設定が直観的に行えるようなUIを用いて取得する。質感補正部2503は、質感調整値格納部2502に格納された質感調整値と、質感信号取得部1102で取得した質感信号(L,a,b,g,s)とから、前記の式(1)乃至式(5)によって調整後の質感信号L_a、a_a、b_a、g_a、s_aを算出する。実施例3の質感マッピング部1103は、前述したカラーマッピングと光沢マッピングによって、質感補正部2503で補正した調整後の質感信号を画像記録装置800で再現可能な質感に対応した質感信号(L’,a’,b’,g’,s’)に変換する。
【0074】
以上説明したように、実施例3の質感再現システムは、光沢に関して写像性の調整手段を備える。すなわち、再現対象に写り込む照明像の鮮明さの調整手段を備える。これにより、例えば、出力した再現物が所望の写像性と異なっていた場合であっても、再現物の光沢を所望の光沢に調整することができる。また、実施例3の質感再現システムは、光沢に関して鏡面光沢度の調整手段を備える。すなわち、再現対象に写り込む照明像の明るさの調整手段を備える。これにより、出力した再現物が所望の鏡面光沢度と異なっていた場合であっても、再現物の光沢を所望の光沢に調整することができる。また、実施例3の質感再現システムは、光沢に関して写像性と鏡面光沢度の2つ調整手段を備える。鏡面光沢度を調整しても写像性の再現は改善しないし、写像性を調整しても鏡面光沢度の再現は改善しない。よって、再現物を所望の光沢に調整するには、光沢に関して写像性と鏡面光沢度の2つの調整手段を備えることが望ましい。
【0075】
また、実施例3の質感再現システムは、鮮明さの異なる画像を備えるUIを用いて前記調整情報を取得する。光沢に写像性という要素があること、また、写像性が対象に写り込んだ像の鮮明さに関する特性であることは一般に認知されていない。そのため、どのような調整をすれば所望の光沢が得られるか分からないといった状況に陥り、調整作業を繰り返し行うことになる。光沢の調整値を取得するUIに鮮明さの異なる画像を備えることで、再現対象に写り込む照明像の鮮明さを調整できることが直感的に分かる。その結果、どのような調整をすればよいか分からないといった状況に陥ることがなくなり、調整作業を繰り返すことなく、所望の質感の再現物を得ることができる。また、実施例3の質感再現システムは、明るさの異なる画像と、鮮明さの異なる画像とを備えるUIを用いて前記調整情報を取得する。光沢に写像性と鏡面光沢度という2つの要素があること、また、前者が対象に写りこんだ像の明るさ、後者が対象に写りこんだ像の鮮明さに関する特性であることは、一般には認知されていない。そのため、どのような調整をすれば所望の光沢が得られるか分からないといった状況に陥り、調整作業を繰り返し行うことになる。光沢の調整値を取得するUIに前記の画像を備えることで、再現対象に写り込む照明像の明るさと、再現対象に写り込む照明像の鮮明さの2つの要素を調整できることが直感的に分かる。その結果、どのような調整をすればよいか分からないといった状況に陥ることがなくなり、調整作業を繰り返すことなく、所望の質感の再現物を得ることができる。
【0076】
(変形例1)
本変形例では、光沢の調整値を取得するUIについて、実施例3とは別の例を説明する。
【0077】
図24は、変形例1の光沢調整UIを示す模式図である。2601は調整前の光沢特性を示す画像の表示エリアであり、調整値ΔgとΔsが共に0に対応した照明画像が表示される。照明画像は、対象の鏡面光沢度と写像性のレベルを表す画像であり、対象に写り込んだ照明光源の像を疑似的に示す。2602は調整後の光沢特性を示す画像の表示エリアであり、初期は、表示エリア2601に表示される画像と同じ照明画像が表示される。また、2603は鏡面光沢度の調整値Δgを設定するスライドバー、2604は写像性の調整値Δsを設定するスライドバーである。調整値Δg、Δsの大きさは、各スライドバーのスライダの位置と対応付けられており、中央の位置には、調整を行わないことを示す0が対応付けられている。また、中央より右側の位置には、右に行くほどより大きな正の値が対応付けられ、中央より左側の位置には、左に行くほどより小さな負の値が対応付けられている。マウスポインタ2605を操作してスライダの位置を移動させると、調整値にスライダの位置に対応付けられた値が仮設定され、OKボタン2606が選択可能になる。同時に、表示エリア2602の画像が更新され、仮設定された調整値に対応した照明画像が表示される。例えば、Δgに正の値が仮設定されている場合は、表示エリア2601に表示される画像よりも明るい照明画像が表示される。Δgに仮設定されている値が大きいほど、より明るい照明画像が表示される。また、例えば、Δsに負の値が仮設定されている場合は、表示エリア2602には、表示エリア2601に表示される画像よりもぼけた照明画像が表示される。OKボタン2606が選択されると、調整値が仮設定されていた値に確定される。キャンセルボタン2607が選択されると、調整値ΔgおよびΔsに調整を行わないことを示す0が設定される。
【0078】
また、出力プレビューチェックボックス2608が選択されると、表示エリア2601の画像が、S101で入力した入力質感データに対応した再現対象物のCG画像に切り替わる。同時に、表示エリア2602の画像も仮設定された調整値で補正された再現対象物のCG画像に切り替わる。CG画像は、再現対象物を所定の照明光源、照明条件で照明し、照明の正反射方向から観察したときの見えをシミュレーションした画像である。
図18は、表示エリア2601および表示エリア2602に表示されるCG画像の一例を示す模式図である。2701は、再現対象物であるリンゴの油彩画に写り込んだ照明光源の像である照明画像を示す。表示エリア2601に表示される再現対象物には、調整前の鏡面光沢度、写像性に対応した照明画像が示され、表示エリア2602に表示される再現対象物には、調整後の鏡面光沢度、写像性に対応した照明画像が示される。表示エリア2601のCG画像の中の照明画像と、表示エリア2602のCG画像の中の照明画像とを比較することで、入力データが示す再現対象物について、調整前後の光沢の違いを比較できる。スライドバー2603またはスライドバー2604のスライダの位置を移動させると、対応する調整値にスライダの位置に応じた値が仮設定され、表示エリア2602の画像が更新される。好適には、マウスポインタ(不図示)をCG画像上で移動させることで、マウスポインタの位置に応じてCGシミュレーションの観察方向を変化させ、マウスポインタの位置に対応する観察方向の見えを表示するようにする。これにより、調整前後の光沢の違いをいろいろな観察方向で確認できるようになる。観察方向の代わりに照明方向を変化させ、対応する見えを表示するようにしてもよい。また、CGシミュレーションの条件を設定できるようにしてもよい。例えば、照明光源の種類や、背景シーンなどを選択可能にしてもよい。出力プレビューチェックボックス2608の選択が解除されると、表示エリア2601および2602の画像は元の照明画像に切り替わる。
【0079】
より好適には、出力プレビューチェックボックス2608が選択されたときに表示エリア2601および2602に表示される画像をS2303の質感マッピング後の質感データに対応した再現対象物のCG画像とする。このように構成することで、質感マッピング後の実際に出力される再現物の質感に対応した画像を出力前に確認することができる。
【0080】
尚、実施例3の光沢調整UIの照明画像も入力質感データに対応した画像であっても良い。また、前記画像は、質感マッピング後の質感データに対応した画像であってもよい。
【0081】
以上説明したように、変形例1の質感再現システムは、外部からの指示に応じて鮮明さが変化する画像を備えるユーザインターフェースを用いて前記調整情報を取得する。調整を行うと対象に写り込んだ照明像の鮮明さが変化し、照明像の鮮明さが調整できることが直観的に分かる。その結果、調整作業を繰り返すことなく、所望の写像性の再現物を得ることができる。また、変形例1の質感再現システムは、外部からの指示に応じて鮮明さと照明像の明るさが変化する画像を備えるユーザインターフェースを用いて前記調整情報を取得する。調整を行うと対象に写り込んだ照明像の鮮明さと明るさが変化するため、照明像の鮮明さと明るさの2つの要素を調整できることが直観的に分かる。その結果、調整作業を繰り返すことなく、所望の質感の再現物を得ることができる。
【0082】
また、変形例1の質感再現システムは、外部からの指示に応じて鮮明さが変化する画像であって、入力質感データに対応した画像を備えるユーザインターフェースを用いて前記調整情報を取得する。これにより、入力データが示す再現対象物の画像で光沢を調整することが可能になり、所望の質感の再現物を得ることができる。
【0083】
また、変形例1の質感再現システムは、外部からの指示に応じて鮮明さが変化する画像であって、質感マッピング後の質感データに対応した画像を備えるユーザインターフェースを用いて前記調整情報を取得する。これにより、質感マッピング後の実際に出力される再現物の質感に対応した画像で光沢を調整することが可能になり、所望の質感の再現物を得ることができる。
【0084】
(その他の変形例)
質感の調整は、入力データの全域に対して行うのではなく、特定の領域に対して行うようにしてもよい。この場合、上記の実施例の構成に加えて、調整領域を指定する手段を備え、質感調整値取得部2501は指定された調整領域の調整値を取得し、質感補正部2503は指定された調整領域の質感信号のみを補正する。また、必要に応じて、調整を複数回繰り返すようにしてもよい。この場合、追加調整を行うか否かの情報を外部から取得する手段をさらに備える。そして、質感補正部2503の処理に続いて、追加調整を行うか否かの情報を取得し、追加調整を行う場合は、調整領域を指定する手段に戻って、追加調整の調整領域を指定する。また、質感補正部2503は、2回目以降の調整では、前回の補正結果をさらに補正するように処理する。すなわち、上記式(1)乃至式(5)における入力質感信号(L,a,b,g,s)の替わりに、前回の調整後の質感信号(L_a,a_a,b_a,g_a,s_a)を使用する。この変形例によれば、特定の領域の質感のみを調整することや、領域毎に異なる調整を施すことが可能になり、所望の質感の再現物を得ることができる。
【0085】
また、質感調整値取得部2501は、質感再現装置で再現できる質感に応じて、取得可能な調整情報を制限するようにしてもよい。例えば、スライドバー2603が調整値Δgを−10<Δg<10の範囲で指定できる場合であっても、質感再現装置で再現できる鏡面光沢度がΔg<5の範囲である場合は、スライダがスライドバーの右端部まで移動できないようにする。この変形例によれば、再現範囲外に調整してしまうことがなくなり、調整作業を繰り返すことなく、所望の質感の再現物を得ることができる。
【0086】
また、実施例1のその他の変形例でも記載したように、鏡面光沢度に対応する信号は、明るさ情報だけでなく色情報を含む信号でもよい。すなわち、質感再現装置は、対象に写り込んだ照明像の明るさに加えて照明像の色も制御し、例えば、鏡面光沢度に対応する光沢信号として、gの代わりにgL、ga、gbの3つの信号を利用する構成でもよい。ここで、gL、ga、gbは、正反射光に関するCIELAB色空間のL*、a*、b*に対応した信号である。この場合、質感調整値取得部2501は、鏡面光沢度の調整値として明るさに関する調整値に加えて色度の調整値も取得する構成にする。例えば、
図24の調整値取得UIのスライドバー2603によって、Δgの代わりに光沢の明るさに関する調整値ΔgLを取得する。また、光沢の色度に関する調整値Δga、Δgbを取得するUIをさらに備える。例えば、調整値Δgaを取得するスライドバーによって正反射光の赤成分と緑成分の調整値を取得し、調整値Δgbを取得するスライドバーによって正反射光の黄成分と青成分の調整値を取得する。また、別の例では、ΔgaとΔgbを軸とする2次元平面を表示し、この平面上の任意の位置を取得することで、ΔgaとΔgbの組み合わせを取得するUIを利用してもよい。この場合、質感補正部2503は、質感信号gL、ga、gbにそれぞれΔgL、Δga、Δgbを加算して調整後の質感信号とする。この変形例によれば、正反射光の色も調整可能になり、所望の質感の再現物を得ることができる。
【0087】
また、質感調整値を取得するUIに表示される明るさの異なる画像や鮮明さの異なる画像は、照明光源の画像でなくても良い。すなわち、
図22の2401乃至2408の画像や
図24の表示エリア2601や2602に表示される画像は、照明光源の画像でなくても良い。輝度の高い照明光源の画像は、対象物の鏡面光沢度や写像性の判別に好適であるが、他の画像であってもかまわない。
【0088】
(その他の実施形態)
質感再現システムの機能構成は、実施形態の説明において、ホスト700で実現するとして説明した構成の一部または全てを画像記録装置800で実現する構成であってもよい。また、実施形態では、質感再現装置の記録材をC、M、Y、K、A、Bの6種類としたが、その他構成であってもよい。例えば、赤色や白色、金色の記録材を利用してもよいし、光沢調整材も3種類以上利用してもよい。また、シリアルタイプのインクジェットプリンタを質感再現装置とする例を示したが、フルラインタイプのインクジェットプリンタや、電子写真プリンタ、昇華型プリンタ、シルク印刷などを質感再現装置とする形態でもよい。また、表面形状を記録するUVプリンタや、立体形状を記録する3Dプリンタでもよい。また、プリンタに限らず、ディスプレイやプロジェクタ等の画像表示装置に適用してもよい。
【0089】
質感データの全ての領域を前記実施例の方法で処理する必要は無い。一部の領域に、前記実施例の方法を適用しない場合や、一部の領域にのみ、前記実施例の方法を適用する場合も本発明に含まれる。例えば、質感データの一部の領域を、前述した質感マッピングを行うことなく、特定の色材を使って再現するように処理してもかまわない。
【0090】
また、本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。