特許第6622618号(P6622618)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6622618
(24)【登録日】2019年11月29日
(45)【発行日】2019年12月18日
(54)【発明の名称】逆フィルタ算出装置及びそのプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/00 20060101AFI20191209BHJP
   H04R 1/40 20060101ALI20191209BHJP
   G10L 21/0272 20130101ALI20191209BHJP
【FI】
   H04R3/00 320
   H04R1/40 320A
   G10L21/0272 100A
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-29993(P2016-29993)
(22)【出願日】2016年2月19日
(65)【公開番号】特開2017-147686(P2017-147686A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2019年1月9日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 陽
(72)【発明者】
【氏名】小野 一穂
【審査官】 堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−082745(JP,A)
【文献】 特開2011−066870(JP,A)
【文献】 特開2015−213249(JP,A)
【文献】 特開2014−187685(JP,A)
【文献】 特開2012−253754(JP,A)
【文献】 佐々木 陽,「音場の逆フィルタ処理に基づくマルチチャンネルワンポイントマイクロホンについて 〜指向性マイクロホン素子による検討〜」,日本音響学会 2015年 秋季研究発表会講演論文集CD−ROM [CD−ROM],2015年 9月,pp.577-578
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 3/00
G10L 21/0272
H04R 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定した規則で素子が配置された素子アレイからの出力信号の信号処理に用いる逆フィルタを算出する逆フィルタ算出装置であって、
前記素子アレイから、素子数及び配置が異なる前記素子の組み合わせを1パターンずつ選択する素子数・配置選択手段と、
選択された前記素子の組み合わせについて、伝達関数行列を生成する伝達関数行列生成手段と、
前記出力信号の周波数毎に、前記選択された素子の組み合わせについて、前記伝達関数行列における条件数を算出する条件数算出手段と、
前記素子数・配置選択手段で前記素子の組み合わせが全パターン選択されたか否かを判定する判定手段と、
前記素子の組み合わせが全パターン選択された場合、前記出力信号の周波数毎に、前記条件数が予め設定された閾値未満となる中で最大となり、かつ、素子数が最多となる前記素子の組み合わせについて、前記伝達関数行列を選択する伝達関数行列選択手段と、
前記伝達関数行列選択手段で選択された伝達関数行列から前記逆フィルタを算出する逆フィルタ算出手段と、
を備えることを特徴とする逆フィルタ算出装置。
【請求項2】
前記逆フィルタ算出手段は、マイクロホン素子が配置されたマイクロホン素子アレイからの出力信号の信号処理に用いる前記逆フィルタを算出することを特徴とする請求項1に記載の逆フィルタ算出装置。
【請求項3】
コンピュータを、請求項1に記載の逆フィルタ算出装置として機能させるための逆フィルタ算出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、逆フィルタを算出する逆フィルタ算出装置及びそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の音響システムは、スピーカを3次元的に配置すると、スピーカの方向に応じた音を収音する必要がある。このため、ライブで音を伝送する場合、再生するスピーカに対応した数のマイクロホン素子を、収音する音場内に設置する必要がある。この場合、各スピーカが再生する音の分離を確保するため、空間内で互いに十分な距離を離して多数のマイクロホン素子を設置する必要がある。だが、マイクロホン素子を空間内の広い範囲に設置すると、機動性が問題になるうえ、マイクロホン素子の設置に制約の多い番組中継で用いることは極めて困難である。
【0003】
そこで、特許文献1に記載の発明が提案されている。この特許文献1に記載の発明は、空間内の1個所に配置可能とし、再生するスピーカの方向に対応した複数のマイクロホン素子からなるマイクロホン素子アレイを用いるものである。そして、特許文献1に記載の発明は、所定の周波数以上の帯域において、音響遮蔽板の効果による指向性収音を行い、所定の周波数未満の帯域において、複数のマイクロホン素子によるマイクロホン素子アレイの出力信号に対して信号処理を行うことによって、指向性収音を実現している。
【0004】
従来より、マイクロホン素子アレイを用いた指向性収音のための信号処理手法がいくつか提案されている。ここでは、指向性収音のための信号処理方法として、周波数領域の最小二乗規範に基づいた手法を説明すると以下のようになる。
【0005】
M個(但し、M≧2を満たす整数)の指向性マイクロホン素子からなるマイクロホン素子アレイで収音した信号をフィルタマトリクスH[ω](∈CM×M)に通過させることで,その出力信号において任意の指向性を実現できる。なお、ωは角周波数を表し、Cは複素数であることを表す。
【0006】
自由音場において、マイクロホン素子アレイから十分に離れ、かつ、等距離に配置されたN個(但し、N≧2を満たす整数)の音源から、それぞれのマイクロホン素子までの伝達関数行列をG[ω](∈CM×N)とし、各マイクロホン素子から各音源方向の所望の感度指向特性をR[ω](∈CM×N)とすると、これらの関係は式(1)で表すことができる。
【0007】
【数1】
【0008】
N>Mのとき、逆フィルタH^[ω](∈CM×M)は、一般化逆行列を用いて、式(2)で表すことができる。
【0009】
【数2】
【0010】
ここで、G[ω]は伝達関数行列G[ω]のエルミート転置を示す。逆フィルタH^[ω]を周波数毎に算出し、逆フーリエ変換することで逆フィルタが多入力多出力のFIR(Finite Impulse Response)フィルタマトリクスとして実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2012−253754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献1に記載の発明は、同一素子数及び同一配置のマイクロホン素子アレイを用いて伝達関数行列を生成し、この伝達関数行列から逆フィルタを算出する。従って、特許文献1に記載の発明は、前記した逆フィルタを適用すると、出力信号の波長に対してマイクロホン素子が過密に配置されている場合に、伝達関数行列の独立性が保てず、逆行列の演算が不安定になるため、逆フィルタがマイクロホン素子の感度誤差等に対して敏感になってしまう。特に、マイクロホン素子としてショットガンマイクロホンを使用した場合は、その構造上、感度や指向性にばらつきが発生しやすく、前記逆フィルタをそのまま適用しても、所望の制御効果を得ることが困難である。
【0013】
そこで、本願発明は、感度誤差等に対して頑健な逆フィルタを算出できる逆フィルタ算出装置及びそのプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記した課題に鑑みて、本願発明に係る逆フィルタ算出装置は、予め設定した規則で素子が配置された素子アレイからの出力信号の信号処理に用いる逆フィルタを算出する逆フィルタ算出装置であって、素子数・配置選択手段と、伝達関数行列生成手段と、条件数算出手段と、判定手段と、伝達関数行列選択手段と、逆フィルタ算出手段と、を備える構成とした。
【0015】
かかる構成によれば、逆フィルタ算出装置は、素子数・配置選択手段によって、素子アレイから、素子数及び配置が異なる素子の組み合わせを1パターンずつ選択する。また、逆フィルタ算出装置は、伝達関数行列生成手段によって、選択された素子の組み合わせについて、伝達関数行列を生成する。そして、逆フィルタ算出装置は、条件数算出手段によって、出力信号の周波数毎に、選択された素子の組み合わせについて、伝達関数行列における条件数を算出する。
【0016】
逆フィルタ算出装置は、判定手段によって、素子数・配置選択手段で素子の組み合わせが全パターン選択されたか否かを判定する。また、逆フィルタ算出装置は、伝達関数行列選択手段によって、素子の組み合わせが全パターン選択された場合、出力信号の周波数毎に、条件数が予め設定された閾値未満、かつ、素子数が最多となる素子の組み合わせについて、伝達関数行列を選択する。そして、逆フィルタ算出装置は、逆フィルタ算出手段によって、伝達関数行列選択手段で選択された伝達関数行列から逆フィルタを算出する。
【0017】
このように、逆フィルタ算出装置は、素子数及び配置が異なる素子の組み合わせパターン毎に伝達関数行列を生成する。そして、逆フィルタ算出装置は、出力信号の周波数毎に、複数の伝達関数行列から、条件数が閾値未満となる中で最大となり、かつ、素子数が最多となる素子の組み合わせの伝達関数行列を選択するので、素子が過密にならず、伝達関数行列の独立性を保つことができる。
【発明の効果】
【0018】
本願発明によれば、以下のような優れた効果を奏する。
本願発明に係る逆フィルタ算出装置は、出力信号の周波数毎に、条件数が閾値未満となる中で最大となり、かつ、素子数が最多となる素子の組み合わせの伝達関数行列を選択するので、伝達関数行列の独立性を保ち、感度誤差等に対して頑健な逆フィルタを算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本願発明の実施形態に係る音響システムの概略図である。
図2図1の逆フィルタ算出装置の構成を示すブロック図である。
図3】(a)〜(c)は、図2の素子数・配置選択手段の説明図である。
図4】本願発明の実施形態において、音響信号の周波数と条件数との関係を示すグラフである。
図5図2の逆フィルタ算出装置の動作を示すフローチャートである。
図6】本願発明の実施例1において、音響信号の周波数と条件数と素子数との関係を示すグラフである。
図7】(a)〜(g)は、図6のマイクロホン素子の配置を示す図である。
図8】(a)及び(b)はそれぞれ、比較例1及び本願発明の実施例2の感度指向特性を示す図である。
図9】(a)及び(b)はそれぞれ、比較例2及び本願発明の実施例3の感度指向特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[音響システムの概略]
以下、本願発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1を参照し、本願発明の実施形態に係る音響システム1の概略について説明する。図1に示すように、音響システム1は、音源アレイ2と、マイクロホン素子アレイ(素子アレイ)3と、逆フィルタ算出装置4と、音響信号処理装置5とを備える。
【0021】
音源アレイ2は、複数の音源(スピーカ)20を所定の規則で配置したものである。本実施形態では、音源アレイ2は、12個の音源20が等間隔で環状(円状)に配置されている。例えば、音源アレイ2は、各音源20が、内側に配置されたマイクロホン素子30を向くように配置されている。
【0022】
マイクロホン素子アレイ3は、複数のマイクロホン素子(素子)30を所定の規則で配置したものである。本実施形態では、マイクロホン素子アレイ3は、8個のマイクロホン素子30が等間隔で環状(円状)に配置されている。例えば、マイクロホン素子アレイ3は、各マイクロホン素子30が、外側に配置された音源20を向くように配置されている。そして、マイクロホン素子アレイ3は、音源アレイ2で再生された音を音響信号(出力信号)として収音し、その音響信号を音響信号処理装置5に出力する。
本実施形態では、音源アレイ2の各音源20からマイクロホン素子アレイ3の各マイクロホン素子30までの伝達関数が、予め測定されていることとする。
【0023】
逆フィルタ算出装置4は、マイクロホン素子アレイ3からの音響信号の信号処理に用いる逆フィルタを算出するものである。具体的には、逆フィルタ算出装置4は、マイクロホン素子アレイ3から、素子数及び配置が異なるマイクロホン素子30の組み合わせを1パターンずつ選択し、選択したパターン毎に伝達関数行列を生成する。そして、逆フィルタ算出装置4は、複数の伝達関数行列から、音響信号の周波数毎に適切な伝達関数行列を1個選択する。その後、逆フィルタ算出装置4は、選択した伝達関数行列を用いて逆フィルタを算出し、算出した逆フィルタを音響信号処理装置5に出力する。
なお、逆フィルタ算出装置4の詳細は、後記する。
【0024】
音響信号処理装置5は、逆フィルタ算出装置4から入力された逆フィルタを用いて、マイクロホン素子アレイ3から入力された音響信号に信号処理(例えば、指向性収音処理)を施すものである。例えば、音響信号処理装置5は、信号処理した音響信号を番組編集装置(不図示)に出力する。
【0025】
音響信号処理装置5は、逆フィルタ算出装置4から入力された逆フィルタを逆フーリエ変換して得られる、多入力多出力のFIRフィルタマトリクスとして機能する。この音響信号処理装置5は、複数(例えば、64個)のFIRフィルタ5aと、加算器5bとを備える。
このFIRフィルタ5aは、マイクロホン素子アレイ3からの音響信号にFIRフィルタ処理を施す。
加算器5bは、FIRフィルタ5aから入力された音響信号を加算し、加算された音響信号を出力するものである。
【0026】
[逆フィルタ算出装置の構成]
図2を参照し、逆フィルタ算出装置4の構成について説明する。
図2に示すように、逆フィルタ算出装置4は、パラメータ設定手段40と、素子数・配置選択手段41と、伝達関数行列生成手段42と、条件数算出手段43と、判定手段44と、伝達関数行列選択手段45と、逆フィルタ算出手段46とを備える。
【0027】
パラメータ設定手段40は、逆フィルタの算出に必要なパラメータを設定するものである。本実施形態では、パラメータ設定手段40は、逆フィルタ算出装置4の利用者がマウス、キーボード等の入力手段(不図示)を介して、パラメータを設定する。このパラメータとしては、例えば、条件数の閾値、感度指向特性、各音源20の位置、音源20の個数があげられる。そして、パラメータ設定手段40は、設定されたパラメータを素子数・配置選択手段41に出力する。
【0028】
素子数・配置選択手段41は、マイクロホン素子アレイ3から、素子数及び配置が異なるマイクロホン素子30の組み合わせを1パターンずつ選択するものである。本実施形態では、素子数・配置選択手段41は、後記する判定手段44から素子選択指令が入力される都度、パラメータに含まれる音源20の個数及び各音源20の位置を参照し、マイクロホン素子30の組み合わせを1パターン選択する。そして、素子数・配置選択手段41は、選択したマイクロホン素子30の組み合わせパターンを表す素子選択情報を生成する。その後、素子数・配置選択手段41は、生成した素子選択情報と、パラメータ設定手段40から入力されたパラメータとを伝達関数行列生成手段42に出力する。
なお、素子数・配置選択手段41の詳細は、後記する。
【0029】
伝達関数行列生成手段42は、素子数・配置選択手段41から入力された素子選択情報が示すマイクロホン素子30の組み合わせについて、伝達関数行列を生成するものである。本実施形態では、伝達関数行列生成手段42は、式(3)で定義された伝達関数行列を生成する。そして、伝達関数行列生成手段42は、生成した伝達関数行列と、素子数・配置選択手段41から入力された素子選択情報及びパラメータとを条件数算出手段43に出力する。
【0030】
<マイクロホン素子の組み合わせの選択、伝達関数行列の生成>
以下、図3を参照し、素子数・配置選択手段41によるマイクロホン素子30の組み合わせの選択と、伝達関数行列生成手段42による伝達関数行列の生成とについて説明する(適宜図2参照)。
【0031】
伝達関数行列G[ω]は、以下の式(3)のように、伝達関数gMNを要素とした行列で表される。また、式(3)において、伝達関数gMNは、N個目の音源20からM個目のマイクロホン素子アレイ30までの伝達関数を表す。本実施形態では、音源20が12個なので、N=12となる。また、Mは素子・配置選択手段41で選択されたマイクロホン素子30の素子数であり、本実施形態では2≦M≦8となる。なお、マイクロホン素子アレイ3として機能するにはマイクロホン素子30が2個以上必要になるため、Mが2以上になる。
【0032】
【数3】
【0033】
すなわち、選択されたマイクロホン素子30の素子数に応じて、式(3)の伝達関数行列G[ω]の要素数が変化する。また、マイクロホン素子30が同数であっても配置が異なる場合、伝達関数行列G[ω]を構成する伝達関数gMNの値が変化する。
【0034】
このように、選択されたマイクロホン素子30の素子数及び配置に応じて、伝達関数行列G[ω]が変化する。このため、素子数・配置選択手段41は、マイクロホン素子アレイ3から、マイクロホン素子30の素子数だけでなく配置も変えて、マイクロホン素子30の組み合わせを1パターン選択する。そして、伝達関数行列生成手段42は、素子数・配置選択手段41が選択したパターンのマイクロホン素子30の組み合わせについて、伝達関数行列を生成する。
【0035】
例えば、図3に示すように、マイクロホン素子30が8個の場合を考える。この場合、素子数・配置選択手段41は、図3(a)に示すように、第1個目のパターンとして、一番上のマイクロホン素子30とその右隣りのマイクロホン素子30とを選択する。そして、素子数・配置選択手段41は、マイクロホン素子30,30を表す素子選択情報を生成する。この素子選択情報に応じて、伝達関数行列生成手段42は、マイクロホン素子30,30に対応した伝達関数行列を算出する。
【0036】
なお、図3では、素子数・配置選択手段41で選択されたマイクロホン素子30を黒塗りとし、残りのマイクロホン素子30を破線で図示した。本実施形態では、マイクロホン素子アレイ3のうち、何れか1個のマイクロホン素子30の主軸方向が感度指向性の主軸方向に一致しており、その方向を正面方向とする。図3の例では、正面方向が、マイクロホン素子30の主軸方向になる。
【0037】
次に、素子数・配置選択手段41は、図3(b)に示すように、第2個目のパターンとして、一番上のマイクロホン素子30とその2つ右隣りのマイクロホン素子30とを選択する。そして、素子数・配置選択手段41は、マイクロホン素子30,30を表す素子選択情報を生成する。この素子選択情報に応じて、伝達関数行列生成手段42は、マイクロホン素子30,30に対応した伝達関数行列を算出する。
【0038】
前記手順を繰り返し、素子数・配置選択手段41は、マイクロホン素子アレイ3から、2個のマイクロホン素子30の組み合わせを全パターン選択する。そして、伝達関数行列生成手段42は、2個のマイクロホン素子30を組み合わせた全パターンについて、伝達関数行列を算出する。
【0039】
続いて、素子数・配置選択手段41は、図3(c)に示すように、マイクロホン素子アレイ3から、3個のマイクロホン素子30,30,30を選択し、前記手順を行う。そして、素子数・配置選択手段41は、マイクロホン素子30,30,30を表す素子選択情報を生成する。この素子選択情報に応じて、伝達関数行列生成手段42が、マイクロホン素子30,30,30に対応した伝達関数行列を算出する。
【0040】
前記手順を繰り返し、素子数・配置選択手段41は、マイクロホン素子アレイ3から、3個のマイクロホン素子30の組み合わせを全パターン選択する。そして、伝達関数行列生成手段42は、3個のマイクロホン素子30を組み合わせた全パターンについて、伝達関数行列を算出する。
【0041】
その後、素子数・配置選択手段41及び伝達関数行列生成手段42は、前記手順を繰り返し、4個、5個、…、8個のマイクロホン素子30を組み合わせた全パターン選択について、伝達関数行列を算出する。
【0042】
また、素子数・配置選択手段41は、マイクロホン素子30の組み合わせを全パターン選択した場合、マイクロホン素子30の選択を終了したことを判定手段44に通知する(選択終了通知)。
【0043】
図2に戻り、逆フィルタ算出装置4の構成について説明を続ける。
条件数算出手段43は、素子数・配置選択手段41で選択されたマイクロホン素子30の組み合わせについて、伝達関数行列における条件数を算出するものである。そして、条件数算出手段43は、算出した条件数と、伝達関数行列生成手段42から入力された伝達関数行列、素子選択情報及びパラメータを判定手段44に出力する。
【0044】
<条件数の算出>
図4を参照し、条件数の算出について具体的に説明する。
この条件数κ[ω]は、周波数毎に以下の式(4)で算出できる。式(4)において、σmax[ω],σmin[ω]は、それぞれ伝達関数行列G[ω]の最大特異値及び最小特異値である。
【0045】
【数4】
【0046】
図4には、マイクロホン素子30が2個から8個までの場合における音響信号の周波数と条件数との関係を例示した。また、マイクロホン素子30が5個の場合、配置が異なる場合の条件数も例示した。それぞれ、素子数5個(a),(b)とする。
【0047】
図4の例では、音響信号の周波数が低くなるほど、条件数が大きくなる。また、マイクロホン素子30の素子数が少なくなるほど、条件数が小さくなる。従って、周波数毎にマイクロホン素子30の素子数を制限し、条件数が小さくなる伝達関数行列を用いることで、感度誤差等に対して頑健(ロバスト)な逆フィルタを算出できる。
【0048】
図2に戻り、逆フィルタ算出装置4の構成について説明を続ける。
判定手段44は、素子数・配置選択手段41でマイクロホン素子30の組み合わせが全て選択されたか否かを判定するものである。本実施形態では、判定手段44は、条件数算出手段43から、条件数、伝達関数行列、素子選択情報及びパラメータが入力されたとき、以下の判定を行う。
【0049】
ここで、判定手段44は、素子数・配置選択手段41から選択終了通知が入力された場合、マイクロホン素子30の組み合わせが全パターン選択されたと判定する。この場合、判定手段44は、条件数算出手段43から入力された条件数、伝達関数行列、素子選択情報及びパラメータを出力すると共に、伝達関数行列の選択を伝達関数行列選択手段45に指令する(伝達関数行列選択指令)。
【0050】
一方、判定手段44は、素子数・配置選択手段41から選択終了通知が入力されない場合、マイクロホン素子30の組み合わせが全パターン選択されていないと判定する。この場合、判定手段44は、次パターンについてマイクロホン素子30の組み合わせの選択を素子数・配置選択手段41に指令する(素子選択指令)。
【0051】
伝達関数行列選択手段45は、音響信号の周波数毎に、判定手段44から入力された条件数が閾値未満となる中で最大となり、かつ、マイクロホン素子30の素子数が最多となるマイクロホン素子30の組み合わせについて、伝達関数行列を選択するものである。本実施形態では、伝達関数行列選択手段45は、判定手段44から伝達関数行列選択指令が入力された場合、パラメータ設定手段40で設定されたパラメータに含まれる条件数の閾値を用いて、条件数の閾値判定を行う。そして、伝達関数行列選択手段45は、周波数毎に選択した伝達関数行列と、判定手段44から入力されたパラメータとを逆フィルタ算出手段46に出力する。
【0052】
逆フィルタ算出手段46は、伝達関数行列選択手段45より入力された伝達関数行列から逆フィルタを算出するものである。本実施形態では、逆フィルタ算出手段46は、伝達関数行列選択手段45から入力されたパラメータの感度指向特性及び伝達関数行列から前記式(2)を用いて、逆フィルタを算出する。そして、逆フィルタ算出手段46は、算出した逆フィルタを外部(例えば、音響信号処理装置5)に出力する。
【0053】
[逆フィルタ算出装置の動作]
図5を参照し、逆フィルタ算出装置4の動作について説明する(適宜図2参照)。
逆フィルタ算出装置4は、パラメータ設定手段40によって、条件数の閾値、感度指向特性等のパラメータを設定する(ステップS1)。
逆フィルタ算出装置4は、素子数・配置選択手段41によって、マイクロホン素子アレイ3から、素子数及び配置が異なるマイクロホン素子30の組み合わせを1パターン選択する(ステップS2)。
【0054】
逆フィルタ算出装置4は、伝達関数行列生成手段42によって、素子数・配置選択手段41で選択されたマイクロホン素子30の組み合わせについて、伝達関数行列を生成する(ステップS3)。
逆フィルタ算出装置4は、条件数算出手段43によって、音響信号の周波数毎に、素子数・配置選択手段41で選択されたマイクロホン素子30の組み合わせについて、伝達関数行列における条件数を算出する(ステップS4)。
逆フィルタ算出装置4は、判定手段44によって、素子数・配置選択手段41がマイクロホン素子30の組み合わせを全パターン選択したか否かを判定する(ステップS5)。
【0055】
マイクロホン素子30の組み合わせが全パターン選択されていない場合(ステップS5でNo)、逆フィルタ算出装置4は、素子選択指令を素子数・配置選択手段41に出力し、ステップS2の処理に戻る。
マイクロホン素子30の組み合わせが全パターン選択された場合(ステップS5でYes)、逆フィルタ算出装置4は、判定手段44によって、伝達関数行列選択指令を伝達関数行列選択手段45に出力し、ステップS6の処理に進む。
【0056】
逆フィルタ算出装置4は、伝達関数行列選択手段45によって、音響信号の周波数毎に、条件数が閾値未満となる中で最大となり、かつ、素子数が最多となるマイクロホン素子30の組み合わせについて、伝達関数行列を選択する(ステップS6)。
逆フィルタ算出装置4は、逆フィルタ算出手段46によって、伝達関数行列選択手段45で選択された伝達関数行列から逆フィルタを算出し(ステップS7)、処理を終了する。
【0057】
以上のように、本願発明の実施形態に係る逆フィルタ算出装置4は、音響信号の周波数毎に、条件数が閾値未満となる中で最大となり、かつ、素子数が最多となるマイクロホン素子30の組み合わせの伝達関数行列を選択するので、感度誤差等に対して頑健な逆フィルタを算出することができる。そして、音響システム1は、この逆フィルタを用いて、高品質な音響信号を収音することができる。
【0058】
以上、本願発明の実施形態を詳述してきたが、本願発明は前記した実施形態に限られるものではなく、本願発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
前記した実施形態では、素子アレイが、マイクロホン素子30を配置したマイクロホン素子アレイ3であることとして説明したが、素子アレイは、これに限定されない。例えば、素子アレイは、アンテナ素子を所定の規則で配置したアンテナ素子アレイであってもよい。
【0059】
前記した実施形態では、マイクロホン素子アレイ3が、8個のマイクロホン素子30を等間隔で環状に配置したものとして説明したが、マイクロホン素子アレイ3の素子数及び配置は、これに限定されない。例えば、マイクロホン素子アレイ3は、マイクロホン素子30をライン状、マトリクス状、又は、球体状に配置したものであってもよい。
【0060】
前記した実施形態では、逆フィルタ算出装置4を独立したハードウェアとして説明したが、本願発明は、これに限定されない。例えば、コンピュータが備えるCPU、メモリ、ハードディスク等のハードウェア資源を、逆フィルタ算出装置4として協調動作させる逆フィルタ算出プログラムで実現することもできる。このプログラムは、通信回線を介して配布してもよく、CD−ROMやフラッシュメモリ等の記録媒体に書き込んで配布してもよい。
【実施例】
【0061】
以下、本願発明の実施例1〜3について説明する(適宜図1図2参照)。
図1に示すように、8個のマイクロホン素子アレイ3を環状に等間隔で配置し、図2の逆フィルタ算出装置4で逆フィルタを算出した。また、パラメータ設定手段40には条件数の閾値を15dBに設定した
【0062】
(実施例1)
まず、実施例1として、音響信号の周波数と、条件数と、マイクロホン素子30の素子数及び配置との関係について説明する。
図6に示すように、約70Hz以下の周波数帯域では、マイクロホン素子30が3個の場合のみ、条件数が閾値未満となる。従って、この周波数帯域では、伝達関数行列選択手段45が、3個のマイクロホン素子30に対応した伝達関数行列を選択する。
約70Hzを超え、約150Hz以下の周波数帯域では、条件数が閾値未満でマイクロホン素子30の最多素子数は4個となる。従って、この周波数帯域では、伝達関数行列選択手段45が、4個のマイクロホン素子30に対応した伝達関数行列を選択する。
【0063】
約150Hzを超え、約230Hz以下の周波数帯域では、閾値未満で条件数が最大になるときのマイクロホン素子30の最多素子数は5個となる(図6では、素子数5個(b))。
さらに、約230Hzを超え、約280Hz以下の周波数帯域では、閾値未満で条件数が最大になるときのマイクロホン素子30の最多素子数が同じ5個であるが、その配置が異なる(図6では、素子数5個(a))。
これらの場合、伝達関数行列選択手段45が、素子数5個(b)及び(a)のマイクロホン素子30に対応した伝達関数行列を選択する。
【0064】
ここで、図7には、図6におけるマイクロホン素子30の配置を図示した。
図7(a)に示すように、素子数3個の場合、正面及び左右のマイクロホン素子30が対応する。また、図7(b)に示すように、素子数4個の場合、正面、背面及び左右のマイクロホン素子30が対応する。また、図7(c)及び(d)に示すように、素子数5個(a)及び(b)の場合、マイクロホン素子30の配置が異なる。
【0065】
(実施例2,3)
次に、図2の逆フィルタ算出装置4で逆フィルタを算出したときの感度指向特性について説明する。ここで、マイクロホン素子30に感度誤差がない場合を実施例2とし、マイクロホン素子30に感度誤差がある場合を実施例3とする。
【0066】
また、実施例2,3と比較すべく、音響信号の全周波数帯域で8個のマイクロホン素子を用いた場合も説明する。マイクロホン素子30に感度誤差がない場合を比較例1とし、マイクロホン素子30に感度誤差がある場合を比較例2とする。
【0067】
図8(a)に比較例1の感度指向特性を図示し、図8(b)に実施例2の感度指向特性を図示した。ここで、0°がマイクロホン素子アレイ3の正面方向を表している。また、制御ありが指向性制御を行ったことを表し、制御なしが指向性制御を行っていないことを表す。このとき、実施例2,3及び比較例1,2における所望の感度指向特性は、正面方向を中心とした角度θに対して−45°<θ<45°の範囲においてcos2θとし、それ以外の角度においては不感であることとした。
【0068】
マイクロホン素子30に感度誤差がない場合、図8(b)の実施例2の方が、図8(a)の比較例1に比べて感度指向性の乱れが少なく、感度指向性が良好であることが分かる。
【0069】
図9(a)に比較例2の感度指向特性を図示し、図9(b)に実施例3の感度指向特性を図示した。マイクロホン素子30に感度誤差がある場合、図9(a)の比較例2では、感度指向特性が大きく乱れている。一方、図9(b)の実施例3では、比較例2に比べ、感度指向性の乱れが少なく、感度指向性が良好であることが分かる。
【0070】
以上より、条件数が閾値未満となる中で最大となり、かつ、素子数が最多となるマイクロホン素子30の組み合わせの伝達関数行列を選択することで、感度誤差がある場合でも良好な感度指向性を維持していることがわかる。
【符号の説明】
【0071】
1 音響システム
2 音源アレイ
3 マイクロホン素子アレイ(素子アレイ)
4 逆フィルタ算出装置
5 音響信号処理装置
20 音源
30 マイクロホン素子(素子)
40 パラメータ設定手段
41 素子数・配置選択手段
42 伝達関数行列生成手段
43 条件数算出手段
44 判定手段
45 伝達関数行列選択手段
46 逆フィルタ算出手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9