(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は模式的なものであり、長さ、幅、及び厚みの比率等は実際のものと同一とは限らず、適宜変更することができる。
【0019】
一般に、光ファイバは同心円状の断面構造を有しているため、コア直径を拡大しつつ、単一モードを実現するためには、光ファイバの比屈折率差を小さくする必要がある。これに対し、平面光波回路(Planar Lightwave Circuit:PLC)のコア部等の光導波路(単に、導波路という場合がある)では、その形状が矩形であるため、高さと幅をそれぞれ変えることが容易であり、高さを低くして幅のみを広げることが可能になる。本発明では、矩形の光導波路の比屈折率差、高さ、幅の各寸法を制御し、機械精度の誤差を許容する導波路幅を実現する。
【0020】
(第一実施形態)
図1に、本発明を適用した第一実施形態の切替スイッチ90の構成を示す。
図1(a),(b)に示すように、切替スイッチ90は、入力ポート129と、複数の出力ポート127と、入力ポート129の軸線と複数の出力ポート127のうちの一つの軸線とを合わせる調芯機構130と、を備えている。複数の出力ポート127は軸線方向Jに直交する方向Kに互いに所定の間隔Λをあけて軸線方向Jに平行に配列されている。所定の間隔Λは、例えば250μmであり、通常の単一モードの光ファイバの外径の2倍に相当する。
【0021】
図1(b)に示すように、入力ポート129を有する入力部114は、切替スイッチ90の土台100上の基板105と、基板105上に設けられた導波路101で構成されている。出力ポート127を有する出力部112は、土台100上の基板106と、基板106上に設けられた導波路102で構成されている。
【0022】
導波路101,102及び導波路101(即ち、入力ポート129)に接続可能な導波路103は、単一モードの光を伝搬させる光路である。即ち、入力ポート129及び出力ポート127はそれぞれ単一モードの導波路101,102で構成されている。
導波路101に接続されている光ファイバ104と、導波路102に接続されている光ファイバ107は、例えばITU−T G.652D等に示される標準的なSMF(Single Mode Fiber)である。なお、
図1(b)では、光ファイバ104,107の図示を省略する。
導波路103は、入力導波路に相当する構成である。
【0023】
図1(a)に示すように、導波路102,103は切替スイッチ90の土台100の長手方向D1(即ち、軸線方向J及び該軸線方向Jに平行する方向)に沿って移動可能に構成されている。これに対し、導波路101は、土台100の長手方向に直交する短手方向D2(即ち、方向K)に沿って移動可能に構成されている。
【0024】
入力ポート129の出力側の幅寸法w2は、入力ポート129の入力側の幅寸法w1より大とされている。出力ポート127の入力側の幅寸法は、入力ポート129の出力側の幅寸法w2に等しい。出力ポート127の出力側の幅寸法は、入力ポート129の入力側の幅寸法w1に等しい。
即ち、出力ポート127の上面視(平面視)形状は、入力ポート129の入力側と出力側とを入れ替えた上面視形状と同一とされている。導波路101,102は上面視で所謂テーパー形状を有している。具体的に、導波路101の入力側では一定の幅寸法で形成されているが、導波路101の出力側に向って幅寸法が漸次大きくなるように形成されている。このように所謂テーパー形状で形成されていることから、導波路101では、切替スイッチ90へ光を入力された光のモードフィールド径が拡大される。また、導波路101のコア径よりも大きい調芯機構130を用いても、精度の高い調芯を行うことができる。
【0025】
導波路101において光が進行する方向(以下、進行方向)と水平方向は、導波路102,103の進行方向及び水平方向と一致している。基板106に配置された導波路102には、2つ以上(即ち、複数)の出力ポート127があり、
図1(a)には、3つの出力ポート127がある構成を例示している。
【0026】
調芯機構130は、入力ポート129に対向する入力面106aに設けられた嵌合部120と、出力ポート127に対向する出力面105eに設けられると共に嵌合部120に嵌合可能な被嵌合部122で構成されている。
嵌合部120は、上面視において入力面106aから突出するに従って縮小するV字状の突起である。被嵌合部122は、上面視において出力面105eから内方に向かって縮小するV字状の溝である。
K方向において隣り合う被嵌合部122同士の間隔は、所定の間隔Λと同様に、250μmである。
【0027】
上述の構成により、機械加工の精度に応じた調芯精度で導波路101と導波路102の軸あわせを行い、
図2(a),(b)に示すように入力ポート129と出力ポート127とを接続することが可能になる。
【0028】
上述した切替スイッチ90によれば、機械的な精度の誤差が許容される。また、機械的な精度の誤差を許容する導波路幅を有する単一モードの光導波路の切替構造を容易に構成することができる。
また、V字状の突起からなる嵌合部120とV字状の溝からなる被嵌合部122で調芯機構130を構成することで、一般的な機械的な精度の誤差を充分に許容可能となる。
【0029】
(第二実施形態)
本発明を適用した第二実施形態の切替スイッチ(図示略)は、
図1に示す第一実施形態の切替スイッチ90と同様の構成要素を備えている。なお、導波路101と導波路102に係る光導波路とは同一構造である。第二実施形態に係る切替スイッチでは、互いに同一構造の導波路101が並列に複数配置され、その入出力の方向が入力部110と出力部112との間で対称になる。また、導波路101と導波路103とは予め一体とされていてもよい。
【0030】
第二実施形態の切替スイッチでは、導波路101,102,103がそれぞれ、幅w、高さh、コアとクラッドの比屈折率差Δ、長さLを有する。比屈折率差Δは、次に示す(1)式によって得られる。以下に示す幅wと高さhは、導波路101,102,103のコア部の幅と高さを表している。
【0032】
前述の(1)式において、n
1は導波路101,102,103のコア部の屈折率であり、n
2は導波路101,102,103の石英(SiO
2)からなるクラッド部の屈折率である。
【0033】
また、屈折率nについては、次に示す(2)式及び係数に基づき、コア部の屈折率は(2)式で求めた曲線の値を比屈折率差Δに応じて調節した。
【0035】
(SiO
2の係数)
a1 = 0.6961663
a2 = 0.4079426
a3 = 0.8974794
b1 = 0.004679148
b2 = 0.01351206
b3 = 97.934002
(コア部の屈折率の係数)
a1 = 0.7136824
a2 = 0.4254807
a3 = 0.8964226
b1 = 0.003808952
b2 = 0.01614969
b3 = 97.93401
【0036】
図3には、各導波路の幅wと比屈折率差Δに対して単一モードになる領域(即ち、E21モードがカットオフされる領域)を計算した結果を示す。
図3(a)、(b)、(c)はそれぞれ導波路の高さhを4μm、6μm、8μmに設定した場合の計算結果である。計算結果は、スカラ近似による2次元の有限要素法(Finite Element Method:FEM)を用いて計算を行った。
【0037】
図4、
図5及び
図6は、それぞれ、軸ずれ量(導波路断面の水平方向のずれ)を5μm、10μm、15μmに設定した場合の導波路構造に対するSMFからの軸ずれ損失の改善量を示している。
図4から
図6は、波長λを1550nmとした場合における軸ずれ損失を示している。軸ずれ損失ηは、公知に示されている以下の(3)式(例えば“IT時代を支える光ファイバ技術”,電子情報通信学会,コロナ社、等参照)を用いて算出した。
【0039】
前述の(3)式において、wは導波路におけるモードフィールド半径を示しておりw
1は1つめの導波路におけるモードフィールド半径、w
2はもう一方の導波路におけるモードフィールド半径を示している。同一の導波路同士の接続損失を計算する場合には、w
1とw
2は等しくなる。
【0040】
図3(a)及び
図4(a)に示すように、導波路101,102,103の高さhを4μmに設定した場合において、導波路101,102,103の幅wを13.2μm、Δを0.4%とした場合に、波長1550nmでは軸ずれ量が5μmの時に、接続損失を約3.8dB改善することができる。
【0041】
また、
図3(b)と
図4(b)に示すように、導波路101,102,103の高さhを6μmに設定した場合において、導波路101,102,103の幅wを13.2μm、Δを0.35%とした場合に、波長1550nmでは軸ずれ量が5μmの時に接続損失を約3dB改善することができる。
【0042】
また、
図3(c)と
図4(c)に示すように、導波路101,102,103の高さhを8μmに設定した場合において、導波路101,102,103の幅wを13.2μm、Δを0.28%とした場合に、波長1550nmでは軸ずれ量が5μmの時に接続損失を約4dB改善することができる。
【0043】
次いで、軸ずれ量を10μmに設定した場合の波長1550nmにおける接続損失の改善量を
図5に示す。
図5の(a)、(b),(c)はそれぞれ、導波路の高さhを4μm,6μm、8μmとした場合の計算結果である。
【0044】
次いで、軸ずれ量を15μmに設定した場合の波長1550nmにおける接続損失の改善量を
図6に示す。
図6の(a)、(b),(c)はそれぞれ、導波路の高さhを4μm,6μm、8μmとした場合の計算結果である。本発明は、想定される軸ずれ量に応じて、
図4、
図5、
図6から適宜有効な構造を選択すればよい。
【0045】
なお、導波路101,102,103の幅寸法w2の部分(最広部)のカットオフ波長が1310nm以下であってもよい。
また、導波路101,102,103の幅寸法w2の部分のカットオフ波長が1250nm以下であってもよい。
【0046】
(第三実施形態)
本発明を適用した第三実施形態の切替スイッチ(図示略)は、
図1に示す第一実施形態の切替スイッチ90と同様の構成要素を備えている。第三実施形態においても、導波路101と導波路102に係る光導波路とは同一構造である。第三実施形態に係る切替スイッチでは、導波路101,102,103の最広部の導波モードを基本モード(E
11)と第一高次モード(E
21)に制限した構造に関する。
【0047】
導波モードが2モードの場合、2つの導波路の突き合わせにおいて軸ずれが生じた際に、伝搬してきたE
11モードはE
21モードと放射モードに結合される。導波路が数kmなど長い場合には、E
11モードとE
21モードの群遅延差によって信号劣化が生じるが、本発明の切替スイッチは1m未満の短い距離を想定しているため群遅延差は考慮する必要がない。また、最広部において2モードであっても、
図1に示すように、導波路の幅を狭くして単一モードにすることで、E
21モードをカットオフにすることが可能である。第三実施形態は、最広部を2モード導波にすることで、E
11モードのMFDを拡大することで軸ずれ損失を低減させることが可能な構造に関するものである。
図7に導波路の幅wとΔに対して2モードになる領域(E
31モードがカットオフされる領域)を計算した結果を示す。
図7(a),(b),(c)はそれぞれ導波路の高さhを4μm、6μm、8μmに設定した場合のFEMによる計算結果である。
【0048】
図7(a)と
図4(a)に示すように、導波路101,102,103の高さhを4μmに設定した場合において、導波路101,102,103の幅wを18.8μm、Δを0.4%とした場合に、波長1550nmでは軸ずれ量が5μmの時に、接続損失を約5.7dB改善することができる。
【0049】
図7(b)と
図4(b)に示すように、導波路101,102,103の高さhを6μmに設定した場合において、から導波路101,102,103の幅wを18.8μm、Δを0.35%とした場合に、波長1550nmでは軸ずれ量が5μmの時に、接続損失を約5dB改善することができる。
【0050】
図7(c)と
図4(c)に示すように、導波路101,102,103の高さhを8μmに設定した場合において、導波路101,102,103の幅wを18.8μm、Δを0.28%とした場合に、波長1550nmでは軸ずれ量が5μmの時に、接続損失を約5dB改善することができる。
【0051】
以上説明した切り替えスイッチによれば、光ファイバの特性を活かし、特にSMFにおいて単一モードを保持し、機械的な精度の誤差を許容するような低損失かつフレネル反射を抑えた切替スイッチ90を実現することができる。
具体的には、SMFの伝搬精度の高さと挿入損失の低さを保持した上で、導波路102,103を光の切り替えスイッチの土台部の長手方向D1に移動させ、導波路101を土台部の長手方向に直交する短手方向D2に移動可能させれば、所望の導波路101,102,103同士の接続を極めて容易に行うことができる。
【0052】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0053】
例えば、調芯機構130の嵌合部120と被嵌合部122は、上面視においてV字状に限らず、矩形状やU字状に形成されていてもよい。また、調芯機構130の嵌合部120と被嵌合部122は、導波路101,102,103の光軸方向(即ち、軸線方向Jに平行する方向)に突出して設けられている突起や溝に限定されず、土台100の厚み方向に形成されている突起や溝であっても構わない。