【文献】
Semin. Reprod. Med.,2005年,vol.23, no.4,pp.319-324
【文献】
Proc. Natl. Acad. Sci. USA,2007年,vol.104, no.12,pp.5085-5090
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記評価する工程は、対照条件下で培養したトランスジェニック胚における前記少なくとも1種のレポーター遺伝子の発現を比較する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
前記製品は、前記少なくとも1種のレポーター遺伝子の発現が、前記製品の使用により前記胚が影響を受けないことを示すのに十分である場合に許容される、請求項1に記載の方法。
前記製品は、針、カテーテル、マイクロツール、実験器具、注射器、組織培養皿、組織培養プレート、ピペットチップ、皿、プレート、水、水精製システム、培地、培地添加物、および配偶子、胚もしくは組織培養培地と物理的に接触する他の容器、装置または試薬からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
前記製品は、配偶子および胚培養培地、配偶子および胚操作/処理培地、輸送培地、卵母細胞を裸化するための酵素、精子を分離するための勾配試薬、凍結/ガラス化培地、解凍/加温培地、培地添加物、ピペットおよび胚操作装置、ヒトのARTプロセスで使用される実験器具ならびにARTに関わるあらゆる溶液、試薬または装置からなる群から選択される、請求項20に記載の方法。
ヒトのARTプロセスで使用される実験器具が、遠心管、凍結保存装置、冷凍貯蔵装置、針、カテーテル、マイクロツール、注射器、組織培養皿、組織培養プレート、ピペットチップ、皿、プレート、水、水精製システム、ならびに配偶子と物理的に接触する他の容器、装置または試薬からなる群より選択される、請求項23に記載の方法。
前記発現を評価する工程は、ARTでの使用が提案されている前記製品を用いて培養した1つ以上の胚の発現を、前記提案されている製品を用いずに培養した1つ以上の胚の発現と比較する工程を含む、請求項20に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本説明を読めば、他の各種実施形態および他の適用における本発明の実施方法が当業者には明らかになるであろう。但し、本発明の各種実施形態の全てについて本明細書に記載しない。当然のことながら、本明細書に示されている実施形態は、単に例示のために示されており、本発明を限定するものではない。従って、他の各種実施形態の詳細な説明は、以下に記載されている本発明の範囲または広さを限定するものとして解釈されるべきではない。
【0027】
本発明について開示および説明する前に、以下に記載する態様は、特定の組成物、そのような組成物の調製方法またはその使用に限定されず、従って、当然ながらそれらは異なり得ることを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、単に特定の態様を記述するためのものであり、本発明を限定するものではないことも理解されたい。
【0028】
読者の利便性のためにのみ、本発明の詳細な説明は各種節に分けられており、どの節に含まれる開示内容も、別の節の開示内容と組み合わせることができる。特に定義しない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。
【0029】
本明細書および以下の特許請求の範囲では、多くの用語に言及するが、それらの用語は以下の意味を有するものとして定める。
【0030】
本明細書で使用される用語は、単に特定の実施形態について記述するためのものであり、本発明を限定するものではない。本明細書で使用される単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(前記)(the)」は、文脈が明らかに別の意を示していない限り、複数形も含むものとする。
【0031】
「任意の」または「任意に」とは、その後に記載されている事象または状況が生じても生じなくてもよいことを意味し、その記載は、事象または状況が生じる場合およびそれらが生じない場合を含む。
【0032】
「含む(comprising)」という用語は、当該組成物および方法が、列挙されている要素を含むが、それ以外を除外するものではないことを意味するものである。「本質的に〜からなる(consisting essentially of)」は、組成物および方法を定義するのに使用されている場合、その組み合わせに対してあらゆる本質的な意義のある他の要素を除外することを意味するものとする。例えば、本質的に本明細書に定義されている要素からなる組成物は、特許請求されている本発明の基本的かつ新規な特性に実質的に影響を与えない他の要素を除外しない。「〜からなる(consisting of)」は、列挙されている微量の他の成分および実質的な方法工程を超えるものを除外することを意味するものとする。これらの各移行用語により定められる実施形態は、本発明の範囲内である。
【0033】
本明細書で使用される「調節領域」という用語は、その遺伝子の適切な発現に必要とされる対象の遺伝子の要素および/または配列の全てを含む。公知の調節要素としては、プロモーター、エンハンサー、サイレンサーおよびインスレーターなどが挙げられる。調節領域としては、転写開始部位(5’非翻訳領域)の上流、転写開始部位の下流、イントロンの中、3’非翻訳領域内、またはコード配列内の領域を挙げることができる。例えば、調節領域は、導入遺伝子の発現を指示するための生存度マーカー遺伝子の最小の必須要素のみを含んでいてもよい。他の態様では、調節領域は、コード領域の一部または全てを含む、生存度マーカー遺伝子のより大きい部分または実質的に全てを含んでいてもよい。また、調節領域としては、上流メディエーターおよび/または下流エフェクターも挙げられる。
【0034】
本明細書で使用される「生存度マーカー」という用語は、発現またはその欠如が、少なくとも1つの発生段階の間に胚の生存度を示すあらゆる遺伝子を指す。生存度マーカーとしては、胚発生マーカーおよび多能性マーカーが挙げられる。一般に、これらのマーカーとしては、胚の幹細胞に関連する転写遺伝子が挙げられる。本明細書で使用される多能性幹細胞マーカーは、胚発生の予測可能な時に予測可能なレベルおよび位置で発現される。生存度マーカーは、胚発生の特定の段階で発現されてもよい。発生中の特定の時間での発現は、その胚が正常に発生していることを示してもよく、発現の欠如は、異常な発生を示してもよい。あるいは、生存度マーカーは、胚発生の特定の段階で正常に発現されていない遺伝子であってもよく、そのような時間でのその発現は、異常な発生を示す。
【0035】
本明細書で使用される「レポーター遺伝子」という用語は、生存度マーカーの調節領域に作動可能に連結され、かつその発現を決定するために可視化またはそれ以外の方法で評価することができるあらゆる遺伝子を含む。好ましい実施形態では、レポーター遺伝子は、蛍光もしくは発光タンパク質である。いくつかの実施形態では、レポーター遺伝子は、抗体により認識される例えば、エピトープタグ(例えば、HIS、FLAG、HA)であるか、それを含んでいてもよい。
【0036】
本明細書で使用される、製品の「許容性」は、対照または標準において観察されるものとおよそ等しいかそれよりも良好である胚盤胞の生存率、発生および/またはレポーター遺伝子の発現により決定される(例えば、80%超の胚盤胞の発生)。同様に、本明細書で使用される「不十分性」は、対照または標準において観察される割合に満たない割合により決定される。
【0037】
本明細書で使用される「対照条件」は、最適な胚の成長および/または発生を与えることが知られている条件である。「試験条件」は、胚の成長および発生に対するその効果について試験されるIVF製品を用いる条件である。
【0038】
本明細書で使用される「最適」な条件とは、健康で自由な胚発生を促進する条件を指す。「最適以下」の条件は、対照的に、細胞成長を可能にするが、その成長は、最適な培養条件下で観察されることが予測される成長よりも遅く、かつ弱い培養条件である。本明細書で使用される「胚毒性」とは、異常な発生または胚の死滅を誘発する培養条件を指す。
【0039】
本明細書で使用される「生殖補助医療」すなわちARTは、雌性配偶子(卵子または卵母細胞)および雄性配偶子(精子)の両方が操作される全ての不妊治療を含む。体外受精(IVF)は、不妊夫婦が妊娠するのを補助するために使用される生殖補助医療のうちの1つである。IVFとは、卵子を女性の卵巣から取り出して、研究室手順で精子と受精させる手順を指す。受精させた卵子(胚)は、将来の使用ために凍結保存するか子宮に移植することができる。
【0040】
本明細書で使用される「胚盤胞」とは、胎盤を形成する周囲壁(栄養外胚葉すなわちTE)を有する細胞の塊、羊膜腔を形成する流体で満たされた腔(胞胚腔)、およびそこから胎児が生じる内細胞塊(ICM)と呼ばれる内部細胞塊からなる、初期の胚発生における構造を指す。本発明に関する他の用語については、以下により詳細に定義および記載する。
【0041】
一般に本明細書に開示されているのは、生体細胞の培養および発生に対する特定の培養条件またはパラメータの影響の評価に関する方法、システムおよびキットである。例えば、いくつかの実施形態は、体外受精すなわちARTのための培養条件を評価するための品質管理方法に関する。例えば、マウスなどのレポーター−トランスジェニック動物から採取した受精後の胚を使用して、生じ得る有害または最適以下の培養条件またはパラメータを検出する。トランスジェニック胚により、例えば、臨床的体外受精およびART研究室で使用される装置を試験および認定するためのより高感度かつ機能的に適切な定性的品質管理(QC)アッセイが効果的に得られる。
【0042】
以下により詳細に説明するように、本方法は、少なくとも1細胞期の細胞を含むトランスジェニック胚盤胞を用意する工程と、生体外または生殖補助医療(「ART」)培養条件下で胚盤胞を培養する工程と、胚盤胞の分化を評価して培養条件の許容性を決定する工程とを含むことができる。以下に詳細に記載する品質管理アッセイおよび品質管理アッセイを行うための方法は、哺乳類のトランスジェニック胚(少なくとも1細胞期)を含む。好ましい実施形態では、この胚は、1細胞期または2細胞期のものである。哺乳類の胚は、ウシ、ヒツジ、ブタ、マウス、イヌ、ウマ、サルまたはヒト由来であってもよい。いくつかの実施形態では、哺乳類の胚は、ブタ、ウマまたはウシの胚である。より一般には、胚はマウス由来である。
【0043】
本明細書に記載されている分子系MEAは、IVF試薬および消耗品を試験するために現在使用されている標準MEAよりも多くの利点を有することができる。標準MEAは、1つ以上の発生段階における胚の形態の決定に基づいている。対照的に、分子系MEAは、発生マーカーの分子分析を用いて、胚発生に対する試験製品の効果を決定することができる。また、分子系MEAは、発生マーカーの分子分析と形態学的分析とを合わせて、胚発生に対する試験製品の効果を決定することができる。利点としては、早期結果が得られること、感度が高いこと、および自動化可能であることが挙げられる。マウスの胚を用いた場合、最適以下の培養条件は、48時間もの早い段階で明らかになり得る。また、僅かな有害効果、特に形態ではなく遺伝子発現に影響を与える効果を有するIVF試薬を観察してもよい。例えば、蛍光によって表されるレポーター遺伝子の発現は、例えば、自動化を推進することができる機械化された方法(例えば、自動評価)などにより、定量的または定性的に決定することができる。
【0044】
本明細書では、読者の便宜上、タイトルまたはサブタイトルを使用している場合もあるが、それらは、本発明の範囲に影響を与えるものではない。さらに、本明細書で使用されるいくつかの用語については、以下により具体的に定義する。
【0045】
I.方法
プラスチックやガラス製品ならびに、手袋、プレート、培地、化学薬品および油などの他の消耗品の使用と同様に、配偶子および胚の培養は、生殖研究室の不可欠な部分である。IVFの場合、全ての消耗品および材料の品質管理は、胚培養にとって最適な環境を維持し、こうして、正常な胚の生理およびその後の妊娠率を保証するために重要である。従って、いくつかの実施形態は、IVF消耗品および材料の胚に対する影響または効果(例えば、潜在的毒性)を評価する方法に関する。
【0046】
本明細書で使用されるIVF消耗品とは、培地、培地添加物、プラスチック製品、管、ピペット、ピペットチップなど、またはヒトの卵子または胚に接触するあらゆる材料が挙げられるがこれらに限定されない。プラスチックおよびガラス製品としては、生殖補助針、実験手袋、生殖補助カテーテルおよび、胚を裸化、顕微操作、保持または移植するために研究室で使用されるピペットや他の装置などの生殖補助マイクロツールを挙げることができる。IVF消耗品としては、限定されるものではないが、注射器、IVF組織培養皿、IVF組織培養プレート、ピペットチップ、皿、プレートおよび、配偶子、胚もしくは組織培養培地に物理的に接触する他の容器などの生殖補助実験器具がさらに挙げられる。本明細書で使用されるIVF消耗品としては、IVFまたは他の生殖補助手順のために胚を吸引、インキュベート、移植または貯蔵するために使用される培地を再構成するための、ならびに胚に接触する実験器具または他の生殖補助装置を最終的に洗い流すために使用される、生殖補助水および、高品質で無菌の発熱物質非含有水を生成するための水精製システムを挙げることができる。試験することができる製品の非限定的な例は、21 C.F.R. 884.6100以下に記載されており、この内容の関連する部分は参照により本明細書に組み込まれる。
【0047】
一態様では、本発明は、生殖補助医療(ART)のために使用される製品を評価する方法に関し、本方法は、例えば、少なくとも1種の胚の生存度マーカーの調節領域に作動可能に連結された少なくとも1種の導入遺伝子を含む、少なくとも1つの細胞を含むトランスジェニック胚を用意する工程と、この胚を指定された持続期間にわたって生体外で培養する工程と、この胚の少なくとも1つの発生段階の間に導入遺伝子の発現を評価する工程と、前記評価に基づき、ARTでのその意図される使用と同様の方法で使用されるこの製品の許容性または不十分性を決定する工程とを含んでもよい。いくつかの実施形態では、導入遺伝子はレポーター遺伝子である。
【0048】
一態様では、本発明は、生殖補助医療(ART)のために使用される製品を評価する方法に関する。本方法は、例えば、少なくとも1種の胚の生存度マーカーの調節領域に作動可能に連結された少なくとも1種のレポーター遺伝子を含むトランスジェニック胚を用意する工程と、この胚を指定された持続期間にわたって生体外で培養する工程と、この胚の少なくとも1つの発生段階の間に少なくとも1種のレポーター遺伝子の発現を評価する工程と、前記評価に基づき、ARTでのその意図される使用と同様の方法で使用されるこの製品の許容性または不十分性を決定する工程とを含んでもよい。
【0049】
一態様では、本発明は、生殖補助医療(ART)のために使用される製品を評価する方法に関する。本方法は、例えば、少なくとも1種の胚の生存度マーカーの調節領域に作動可能に連結された少なくとも1種のレポーター遺伝子を含むトランスジェニック胚を用意する工程と、ARTで使用することが提案されている製品を用いる工程と、この胚を指定された持続期間にわたって生体外で培養する工程と、指定された持続期間の少なくとも一部の間に培養した胚において少なくとも1種のレポーター遺伝子の発現を評価する工程と、少なくとも1種のレポーター遺伝子の発現に基づき、この製品を用いることによる胚に対する影響を評価する工程とを含むことができる。いくつかの実施形態では、ARTでのその意図される使用と同様の方法で、この製品を本方法で使用する。いくつかの実施形態では、本方法は、上記評価に基づき、前記製品の許容性または不十分性を決定する工程をさらに含む。
【0050】
いくつかの実施形態では、本方法は、例えば、胚の少なくとも1つの発生段階の間に胚の形態を評価する工程を含むことができる。いくつかの実施形態では、トランスジェニック胚を、1細胞期または2細胞期の胚として用意する。いくつかの実施形態では、トランスジェニック胚は哺乳類に由来する。いくつかの実施形態では、哺乳類は、マウス、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ウサギまたは非ヒト霊長類である。いくつかの実施形態では、トランスジェニック胚はラット由来である。好ましい実施形態では、トランスジェニック胚はマウス由来である。いくつかの実施形態では、導入遺伝子または少なくとも1種のレポーター遺伝子は、蛍光タンパク質をコードする。いくつかの実施形態では、評価する工程は、蛍光タンパク質の蛍光強度を決定する工程を含む。
【0051】
指定される持続期間は、使用される胚の生物種、対象の導入遺伝子の発現パターン、試験製品の使用目的などの多くの因子によって決まる。いくつかの実施形態では、指定される持続期間は、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日またはそれ以上の日数である。非限定的な持続期間のいくつかの例は、24時間、48時間、72時間および96時間である。また、持続期間は、1日またはそれ以上の日数ごとに1回またはそれ以上(例えば、1〜10日間にわたって1回(24時間単位)またはそれ以上、例えば、1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回または10回の異なる回数)の評価を行うようなものであってもよい。いくつかの実施形態では、指定される持続期間は、例えば、2細胞期、4細胞期、8細胞期、桑実胚期、胚盤胞期、原腸形成期またはそれ以降の段階までの所望の発生段階により決定する。
【0052】
いくつかの実施形態では、評価する工程は、例えば、(i)前記胚の少なくとも1つの画像を取得する工程、(ii)この画像に基づき前記レポーター遺伝子の発現レベルを決定する工程、および(iii)前記発現レベルを閾値レベルおよび/または対照レベルと比較する工程のうちの1つ以上を含むことができる。いくつかの実施形態では、コンピュータにより工程(ii)および(iii)を行う。いくつかの実施形態では、評価する工程は、目視で発光および/または強度を測定する工程またはそのために装置を使用する工程を含んでもよい。
【0053】
いくつかの実施形態では、評価する工程は、対照条件下で培養したトランスジェニック胚における導入遺伝子または少なくとも1種のレポーター遺伝子の発現を比較する工程をさらに含んでもよい。
【0054】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの発生段階は、例えば、1細胞期、2細胞期、4細胞期、8細胞期、桑実胚期、胚盤胞期および/または原腸形成期であってもよい。
【0055】
いくつかの実施形態では、例えば、導入遺伝子または少なくとも1種のレポーター遺伝子の発現が、胚が試験製品の使用により影響を受けないことを示すのに十分である場合に、当該製品を許容されるものとみなすことができる。いくつかの実施形態では、対照との比較および/または試験されている他の細胞との比較により発現の十分性を決定する。いくつかの実施形態では、予め決定した標準との比較により発現の十分性を決定する。いくつかの実施形態では、胚の形態が適当である場合に、当該製品を許容されるものをみなす。いくつかの実施形態では、対照との比較により、適当な形態を決定する。いくつかの実施形態では、予め決定した標準との比較により、適当な形態を決定する。いくつかの実施形態では、形態および発現を評価して、パラメータの胚発生に対する影響を決定することができる。例えば、形態および発現の両方がプラスである場合、マイナスの影響がない、すなわちプラスの影響であるという評価をなすことができる。1つ以上の時点において形態が好ましいが発現が乏しい場合、例えば、悪影響すなわちマイナスの影響があるという適当な評価をすることができる。
【0056】
いくつかの実施形態では、試験条件下での胚の蛍光レベルを対照条件下での胚の蛍光レベルと比較して、その試験条件が許容されるか否かを決定する。いくつかの実施形態では、特定の蛍光レベル(例えば、0〜1または2〜3)を示す胚の割合を比較する。いくつかの実施形態では、試験条件下の胚に観察される許容される蛍光レベルは、対照条件下の胚に観察される蛍光の50%以上である。いくつかの実施形態では、試験条件下の胚に観察される許容される蛍光レベルは、対照条件下の胚に観察される蛍光の60%以上である。いくつかの実施形態では、試験条件下の胚に観察される許容される蛍光レベルは、対照条件下の胚に観察される蛍光の70%以上である。いくつかの実施形態では、試験条件下の胚に観察される許容される蛍光レベルは、対照条件下の胚に観察される蛍光の80%以上である。いくつかの実施形態では、試験条件下の胚に観察される許容される蛍光レベルは、対照条件下の胚に観察される蛍光の90%以上である。いくつかの実施形態では、試験条件下の胚に観察される許容される蛍光レベルは、対照条件下の胚に観察される蛍光の100%以上である。当然のことながら、上記値の中からの任意の部分的な値または部分的な範囲が、本明細書に記載されている実施形態で使用されることが想定される。
【0057】
いくつかの実施形態では、試験条件下での胚の蛍光位置を対照条件下での胚の蛍光位置と比較して、その試験条件が許容されるか否かを決定する。いくつかの実施形態では、特定の位置(例えば、核または細胞質)において特定の蛍光レベル(例えば、FI:0〜1またはFI:2〜3)を示す胚の割合を比較する。いくつかの実施形態では、試験条件下の胚の所与の位置で観察される許容される蛍光レベルは、対照条件下の胚の所与の位置で観察される蛍光の50%以上である。いくつかの実施形態では、試験条件下の胚の所与の位置で観察される許容される蛍光レベルは、対照条件下の胚の所与の位置で観察される蛍光の60%以上である。いくつかの実施形態では、試験条件下の胚の所与の位置で観察される許容される蛍光レベルは、対照条件下の胚の所与の位置で観察される蛍光の70%以上である。いくつかの実施形態では、試験条件下の胚の所与の位置で観察される許容される蛍光レベルは、対照条件下の胚の所与の位置で観察される蛍光の80%以上である。いくつかの実施形態では、試験条件下の胚の所与の位置で観察される許容される蛍光レベルは、対照条件下の胚の所与の位置で観察される蛍光の90%以上である。いくつかの実施形態では、試験条件下の胚の所与の位置で観察される許容される蛍光レベルは、対照条件下の胚の所与の位置で観察される蛍光の100%以上である。当然のことながら、上記値の中からの任意の部分的な値または部分的な範囲が、本明細書に記載されている実施形態で使用されることが想定される。
【0058】
いくつかの実施形態では、胚の中に存在するマーカーまたは導入遺伝子は、胚発生時の特定の時間、例えば胚を調べる時間に消えることが期待される遺伝子である。いくつかの実施形態では、試験条件下の胚に観察される許容される蛍光レベルは、対照条件下の胚に観察される蛍光の80%以下である。いくつかの実施形態では、試験条件下の胚に観察される許容される蛍光レベルは、対照条件下の胚に観察される蛍光の70%以下である。いくつかの実施形態では、試験条件下の胚に観察される許容される蛍光レベルは、対照条件下の胚に観察される蛍光の60%以下である。いくつかの実施形態では、試験条件下の胚に観察される許容される蛍光レベルは、対照条件下の胚に観察される蛍光の50%以下である。いくつかの実施形態では、試験条件下の胚に観察される許容される蛍光レベルは、対照条件下の胚に観察される蛍光の40%以下である。いくつかの実施形態では、試験条件下の胚に観察される許容される蛍光レベルは、対照条件下の胚に観察される蛍光の30%以下である。いくつかの実施形態では、試験条件下の胚に観察される許容される蛍光レベルは、対照条件下の胚に観察される蛍光の20%以下である。いくつかの実施形態では、試験条件下の胚に観察される許容される蛍光レベルは、対照条件下の胚に観察される蛍光の10%以下である。上記値の中からの任意の部分的な値または部分的な範囲が、本明細書に記載されている実施形態で使用されることが想定される。
【0059】
いくつかの実施形態では、本アッセイが成功であることを示すために、対照の胚の少なくとも50%が、指定されたレベル(例えば、FI:0〜1またはFI:2〜3)で蛍光を示さなければならない。いくつかの実施形態では、本アッセイが成功であることを示すために、対照の胚の少なくとも60%、70%、80%、90%または100%が、指定されたレベル(例えば、FI:0〜1またはFI:2〜3)で蛍光を示さなければならない。上記値の中からの任意の部分的な値または部分的な範囲が、本明細書に記載されている実施形態で使用されることが想定される。
【0060】
いくつかの実施形態では、試験条件下での胚の蛍光レベルを標準と比較する。いくつかの実施形態では、標準は、使用される導入遺伝子/マーカー、使用される胚の生物種、試験されている試薬の種類、使用される顕微鏡またはあらゆる他のパラメータに基づいている。いくつかの実施形態では、標準は、試験条件下での胚の少なくとも50%が指定されたレベル(例えば、FI:0〜1またはFI:2〜3)で蛍光を示すことを要件とする。いくつかの実施形態では、標準は、試験条件下での胚の少なくとも60%が指定されたレベルで蛍光を示すことを要件とする。いくつかの実施形態では、標準は、試験条件下での胚の少なくとも70%が指定されたレベルで蛍光を示すことを要件とする。いくつかの実施形態では、標準は、試験条件下での胚の少なくとも80%が指定されたレベルで蛍光を示すことを要件とする。いくつかの実施形態では、標準は、試験条件下での胚の少なくとも90%が指定されたレベルで蛍光を示すことを要件とする。いくつかの実施形態では、標準は、試験条件下での胚の少なくとも100%が指定されたレベルで蛍光を示すことを要件とする。上記値の中からの任意の部分的な値または部分的な範囲が、本明細書に記載されている実施形態で使用されることが想定される。
【0061】
いくつかの実施形態では、当該製品は、例えば、針、カテーテル、マイクロツール、実験器具、注射器、組織培養皿、組織培養プレート、ピペットチップ、皿、プレート、水、水精製システム、培地、培地添加物、および配偶子、胚もしくは組織培養培地と物理的に接触する他の容器、装置または試薬のうちの1つ以上であってもよい。いくつかの実施形態では、当該製品は、例えば、配偶子および胚培養培地、配偶子および胚操作/処理培地、輸送培地、卵母細胞を裸化するための酵素、精子を分離するための勾配試薬、凍結/ガラス化培地、解凍/加温培地、ピペットおよび胚操作装置、ヒトのARTプロセスで使用される実験器具(限定されるものではないが、ペトリ皿、遠心管、凍結保存および冷凍貯蔵装置など)、ならびにARTに関わるあらゆる溶液、試薬または装置のうちの1つ以上であってもよい。
【0062】
いくつかの実施形態では、生存度マーカーは、胚盤胞または胚の発生および/または健康に関わる任意のマーカーまたは遺伝子であってもよい。また、例えば、そのマーカーまたは遺伝子は、Oct−4、Cdx2、Sox2およびNanogのうちの1つ以上に関わる任意の遺伝子、遺伝子ファミリー、またはそれらにより調節される遺伝子であってもよい。いくつかの実施形態では、蛍光タンパク質は、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、橙黄色蛍光タンパク質、シアン蛍光タンパク質などである。
【0063】
いくつかの実施形態は、胚盤胞期までの胚発生を用いる胚アッセイの感度を高める方法に関する。本方法は、例えば、少なくとも1種の胚多能性マーカーに作動可能に連結された少なくとも1種のレポーター遺伝子を含むトランスジェニック胚を用意する工程と、試験品目および/または対照を用いる培養条件下でトランスジェニック胚をインキュベートする工程と、形態学的に、かつ1細胞から胚盤胞期および原腸形成期までの胚マーカーの発現により、胚発生を評価する工程とを含むことができる。本方法は、胚盤胞期およびそれ以上の段階(原腸形成期)において胚マーカーの発現を評価する工程をさらに含むことができる。発現の評価は、例えば、レポーター遺伝子の蛍光または他の発光を決定することにより測定することができる。本胚アッセイは、培地および/または培養材料の胚毒性を検出することができる。別の実施形態では、本アッセイは、臨床的体外受精環境において使用される培地の機能性および材料の適合性を検出することができる。
【0064】
ガラス製品洗浄技術、手術器具(吸引針)、移植用カテーテルおよびヒトの卵子、精子または胚に接触するあらゆる他の品目の洗浄の有効性を試験するためのアッセイも同様に、本技術および方法によって包含される。
【0065】
II.トランスジェニック胚
「トランスジェニック(遺伝子導入)」という用語は、宿主ゲノムに組み込まれたか、宿主細胞内で複製することができ、かつ1種以上の細胞産物の発現を引き起こすことができるDNAのセグメントを意味するかそれに関する。例示的な導入遺伝子は、対応する非形質転換細胞または動物に対して新規な表現型を有する宿主細胞またはそこから発生した動物を提供することができる。「トランスジェニック動物」は、その細胞の少なくとも一部において染色体外因子として存在するかその生殖細胞系DNAに安定に組み込まれた非内因性核酸配列を有する非ヒト動物、通常は哺乳類を意味する。
【0066】
遺伝子導入を使用して、対象の遺伝子に連結されたレポーター遺伝子を有するマウスなどのトランスジェニック哺乳類を作り出す。分子遺伝学および遺伝子工学における方法については一般に、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, (Sambrook et al.)、Oligonucleotide Synthesis (M. J. Gait, ed.)、Animal Cell Culture (R. I. Freshney, ed.)、Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells (Miller & Calos, eds.)、Current Protocols in Molecular Biology and Short Protocols in Molecular Biology, 3
rd Edition (F. M. Ausubel et al., eds.)およびRecombinant DNA Methodology (R. Wu ed., Academic Press)の現行版に記載されている。従って、トランスジェニック技術も十分に確立されている。例えば、Transgenic Mouse: Methods and Protocols (M. Hofker and J. Deursen, Eds.) in Methods in Molecular Biology (Vol. 209)(その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0067】
一態様では、トランスジェニック哺乳類は、対象の生存度マーカー遺伝子の調節領域に連結されたレポーター遺伝子を含む。レポーター遺伝子としては、例えば、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質または赤色蛍光タンパク質などの蛍光もしくは発光タンパク質が挙げられる。蛍光タンパク質としては、TagBFP、mTagBFP2、azurite、EBFP2、mKalama1、Sirius、sapphireおよびT−sapphireなどの青色/UVタンパク質を挙げることができるが、これらに限定されない。蛍光タンパク質としては、ECFP、cerulean、SCFP3A、mTurquoise、mTurquoise2、単量体のMidoriishi−Cyan、TagCFPおよびmTFP1などのシアンタンパク質も挙げることができる。好ましい実施形態では、蛍光タンパク質は、EGFP、Emerald、Superfolder GFP、単量体のAzami Green、TagGFP2、mUKG、mWasabiまたはCloverなどの緑色タンパク質である。EYFP、Citrine、Venus、SYFP2、ZsYellow1およびTagYFPなどの黄色蛍光タンパク質も同様に、レポーター遺伝子として使用することが想定される。レポーター遺伝子として使用される橙黄色タンパク質としては、単量体のKusabira−Orange、mKO
k、mKO2、mOrangeおよびmOrange2を挙げることができる。レポーター遺伝子として使用される赤色タンパク質としては、HcRed1、mRaspberry、mCherry、mStrawberry、mTangerine、tdTomato、TagRFP、mApple、mRubyおよびmRuby2を挙げることができる。近赤外タンパク質としては、mPlum、HcRed−Tandem、mKate2、mNeptuneおよびNirFPが挙げられるが、これらに限定されない。トランスジェニックマウスの胚は、レポータータンパク質および対象のマーカーが発現される位置を同時に発現する。
【0068】
いくつかの実施形態では、トランスジェニック動物は、胚の生存度マーカーの調節領域に作動可能に連結された2種以上の導入遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、トランスジェニック動物は、異なる胚の生存度マーカーの調節領域に作動可能に連結された2、3、4種またはそれ以上の導入遺伝子を含む。例えば、トランスジェニック動物は、複数の蛍光タンパク質が胚で発現されるようにそれぞれが異なる生存度マーカーに連結された複数の蛍光レポーター遺伝子を含んでいてもよい。レポーター遺伝子の発現は、胚が発生するにつれて変化してもよい。好ましい実施形態では、同じ方法、例えば、蛍光顕微鏡により、胚で発現される全てのレポーター遺伝子を分析することができる。理論により縛られたくはないが、同じ胚の中の複数の遺伝子の分析により、感度を高めることができると考えられる。
【0069】
いくつかの態様では、配偶子を雄および雌の動物から採取し(それぞれ精子および卵母細胞)、卵母細胞をIVFプロトコルに類似した方法を用いて生体外で受精させる。いくつかの態様では、雄および雌の動物を交配させ、生じた胚を所望の時点で雌の動物から採取する。好ましい実施形態では、雌は野生型であり(すなわち、導入遺伝子を保有していない)、雄はトランスジェニックである。理論により縛られたくはないが、初期の胚において母性転写物から導入遺伝子を発現させることにより、導入遺伝子の望ましくないバックグラウンドの発現が生じると考えられる。いくつかの実施形態では、雌はトランスジェニックであり、雄は野生型である。いくつかの実施形態では、雄および雌の両方が導入遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、雌および雄の動物が1種以上の異なる導入遺伝子を保有する。当業者であれば、発生中の異なる時間に異なる生存度マーカーが発現されるため、母性転写物からの発現は、全ての生存度マーカーにとって考慮すべき重要な事柄ではないことが分かるであろう。
【0070】
本明細書で使用される生存度マーカーとしては、胚発生マーカーおよび多能性マーカーならびにそのようなマーカーにより調節される遺伝子ファミリーおよび/または遺伝子が挙げられる。一般に、これらのマーカーとしては、胚幹細胞に関連する転写遺伝子が挙げられる。本明細書で使用される多能性幹細胞マーカーは、胚発生の予測可能な時に予測可能なレベルおよび位置で発現される。多能性幹細胞(PS)特異的マーカーとしては、八量体転写因子(すなわち、Oct−4)ファミリー、Oct−4により調節される遺伝子、Sox遺伝子ファミリー(例えば、Sox1、Sox2、Sox3、Sox15およびSox18)、Klf遺伝子ファミリー(例えば、Klf4およびKlf5)、Nanog遺伝子ファミリー(例えば、NANOG)ならびにそれらの調節領域が挙げられるが、これらに限定されない。他の生存度マーカーとしては、TGF−βスーパーファミリーおよびそれらの受容体(すなわち、Activ RIB/ALK-4、GDF−3およびLefty)、潜在型タンパク質ファミリー(すなわち、Cripto−1)、インテグリンファミリー(すなわち、インテグリンα6(CD49f)およびインテグリンβ1(CD29))、ポドカリキシンファミリー(すなわち、PODX−1)、FGFファミリー(すなわち、FGF−4およびFGF−5)、フォークヘッドボックス転写因子ファミリー(すなわち、FoxD3)、Tボックス転写因子ファミリー(すなわち、TBX3およびTBX5)、発生多能性関連分子ファミリー(すなわち、Dppa2、Dppa3/Stella、Dppa4およびDppa5/ESG1)、LRRファミリー(すなわち、5T4)、カドヘリンファミリー(すなわち、E−カドヘリン)、コネクシン膜貫通タンパク質ファミリー(すなわち、コネクシン43およびコネクシン45)、「他の」カテゴリーのFボックスファミリー(すなわち、FBOXO15)、ケモカイン/ケモカイン受容体ファミリー(すなわち、CCR4およびCXCR4)、ATP結合カセットトランスポーター(すなわち、ABCG2)が挙げられるが、これらに限定されない。Oct−4および/またはSOX2に媒介される幹細胞性維持に関与するさらなる一般的な公知のマーカーは、Utf1、TERT、Zscan4、CD9、CD15/Lewis X、CD25、CD30/TNFRSF8、CD90/Thy1、アルカリホスファターゼ/ALPL、αHCG、HCG、DNMT3B、GBX2、GCNF/NR6A1、Gi24/Dies1/VISTA、LIN−28A、LIN−28B、LIN−41、c−Myc、Rex−1/ZFP42、sFRP−2、Smad2、Smad2/3、SPARC、STAT3、SUZ12、TOBX2、TEX19/19.1、THAP11およびTROP−2である。当業者であれば、現在知られているか発見されている、あらゆる生存度マーカーが、本発明により包含されることが分かるであろう。
【0071】
少なくとも1種の胚多能性マーカーに作動可能に連結された少なくとも1種の導入遺伝子を含む修飾されたトランスジェニック胚も想定および開示される。胚多能性マーカーならびにそれらの上流メディエーターおよび下流エフェクターは、正常な胚発生を保証する役割を担う。好ましい実施形態では、導入遺伝子はレポーター遺伝子である。好ましい実施形態では、レポーター遺伝子は、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、シアン蛍光タンパク質、橙黄色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質からなる群から選択される蛍光もしくは発光タンパク質である。
【0072】
III.胚発生の分析
胚の成長、発生および/または品質に基づいて、臨床的ARTで使用される特定の製品の適合性を評価する。胚発生の定性的スコア化は、例えば、発光、強度もしくは蛍光または色などのあらゆる他の視覚的指標を評価するマーカーの定性的/定量的発現の評価に基づくことができる。いくつかの実施形態では、発現分析と共に胚の形態の評価も実施および利用することができる。
【0073】
いくつかの実施形態では、比較のために1種以上の対照を含めることができる。対照および試験製品の両方のために、およそ同じ数の1細胞期または2細胞期の胚を生体外で培養することができる。例えば、1つの非限定的な手法では、30個の胚を、それぞれ別個のウェルで培養される10滴の培地に分けることができる。いくつかの態様では、対照および試験製品はそれぞれ、10滴およびウェルに分けることができる約30個の胚を有することができる。あらゆる他の好適な数も試験および実験することができる。
【0074】
色、光強度または蛍光を目視で、例えば、蛍光タンパク質発現を可視化するためにUV光を備えることができる光学顕微鏡により測定および評価して発生中の胚を分析することにより、胚発生の定性的分析を達成することができる。そのような測定または評価は、胚盤胞内の色、光または蛍光の位置を含めるか考慮することもできる。実施例および図を参照するとより詳細に分かるように、蛍光の位置(細胞質に対して細胞核の局在化など)ならびに蛍光強度に基づいて、最適な培養条件および最適以下の培養条件を評価または測定することができる。
【0075】
当業者には容易に理解されるように、最適な胚の成長のために許容される閾値は、個々の所定の判断基準、例えば、培養条件、発生マーカー、導入遺伝子/レポーター遺伝子および試験品目に基づくことができる。共焦点顕微鏡により胚盤胞分化を評価することができる。好ましい実施形態では、培養条件の許容性は、蛍光顕微鏡による胚発生の定性的分析に基づく。特に好ましい実施形態では、所望どおりに、例えば、約10分ごとに発生中の胚の写真を撮影することができ、かつ胚発生の全ての段階を追跡するために、タイムラプスビデオを作成することができるエンブリオスコープ(例えば、EmbryoScope(登録商標)タイムラプスシステム、Unisense Fertilitech A/S社)により、胚発生を観察する。図示されているように(後で実施例を参照しながらより詳細に説明する)、年代学(特定の培養期間で到達する段階)および胚の品質の両方について、形態学的に、かつ蛍光または他の光もしくは指標の位置および量/強度を評価することにより機能的に、胚発生を決定することができる。試験細胞における単一のマーカーの発現は、発現パターンによる未分化または分化表現型の証拠を提示する。下方制御された遺伝子の発現および/または発生/分化時に上方制御される遺伝子の発現の欠如により、胚の発生段階を示してもよい。
【0076】
胚の発生および品質を定性的および/または定量的に評価することができる。いくつかの実施形態では、例えば、顕微鏡下での胚盤胞の可視化により、蛍光(および形態)の定性的評価を行う。発現の(例えば蛍光による)定性的分析では、例えば、試験試料および任意に対照試料の蛍光強度の主観的な評定(例えば、蛍光なし、低強度、中強度、高強度)を行うことがある。非限定的な一実施形態では、0〜3の尺度を使用することができ、ここでは、0〜1の評定尺度は、光または発現が僅かであるか全くないことを意味し、2〜3は、光または発現が中程度から高程度であることを意味する。例えば、試料群の互いに対する発現に基づいて、この評定を行うことができる。例えば、5、10、20または30個のウェルの相対的評定を行い、各ウェルを尺度で分類する。いくつかの実施形態では、この尺度は0〜3である。いくつかの態様では、2以上のスコアは、発生が正常であることを意味することができる。いくつかの態様では、MEAにおける適切な発生に関連する2以上のスコアは、発生が正常であるか許容されることを意味することができる。逆に、0〜1のスコアは、視覚的形態を評価した場合に許容された場合(例えば、MEAを用いて許容されるように見える場合)であっても、試験した製品またはパラメータが許容されないことを意味することができる。そのような低いスコアは、それがなければMEAのみを用いた場合に生じると思われる偽陽性を回避するのに役立ち得る。許容限界は、例えば、上記のように決定してもよい。
【0077】
好ましい実施形態では、胚発生を定量的または半定量的に評価することができる。非限定的な例としては、顕微鏡に備え付けられたコンピュータによる蛍光または光強度の評価、胚の写真に基づく強度の評価、光度計もしくは蛍光光度計または蛍光強度のあらゆる他の決定方法を用いる光強度の測定が挙げられる。いくつかの実施形態では、蛍光強度の決定を自動化する。いくつかの実施形態では、顕微鏡上に存在するカメラまたは他の装置により、蛍光シグナルを検出し、そのシグナルを、蛍光強度を決定し、かつ/または蛍光強度を他の胚、例えば、対照条件下で成長させた胚からの強度と比較することができるソフトウェアプログラムに送信する。
【0078】
いくつかの実施形態では、各条件(例えば、試験および対照条件)下で成長させた各胚について、蛍光強度および/または蛍光の位置を別々に測定する。いくつかの実施形態では、制限された領域、例えば、一滴の培地で複数の胚を成長させ、その領域にある全ての胚の蛍光強度を一緒に評価または測定する。上述のように、評価または定性的/定量的測定は、存在すれば対照などの他の試験試料との比較評価に基づくことができる。
【0079】
上記のとおり、本方法は、所望であれば、例えば、マウス胚アッセイ(MEA)で行われる目視での形態評価に基づく定性的評価を含むことができる。そのような評価は、例えば96時間の培養による、1細胞期から開始する0日目から胚盤胞期までの胚発生の比較を含むことができる。受精から1日後に、例えば、試験製品上で培養した対照および胚の両方において胚の卵割を観察することが期待される。受精から2日後に、マウスアッセイの場合、試験製品がARTでの使用が許容されるものとみなすことができる場合、対照および試験製品の両方で、最適な条件下で8細胞期の発生を観察することが期待される。胚盤胞期まで発生した胚の数を、対照および試験製品の両方で同様に定量化する。観察された生存可能な胚盤胞の数ならびに顕微鏡で観察した場合のそれらの胚盤胞の定性的外観に基づいて、ARTで使用される試験製品の適合性について評価する。
【0080】
VI.アッセイおよびキット
ART製品に関連する胚の影響または毒性を評価するための標準MEAアッセイよりも高レベルの感度を有する方法およびアッセイキットについても同様に本明細書に記載されている。本方法は、少なくとも多能性マーカーに作動可能に連結されたレポーター遺伝子の調節領域を有するトランスジェニック胚を含むアッセイを提供する工程を含むことができる。また、正常な胚発生を促進するかそれを生じさせることが知られている対照製品を提供することができる。対照製品は、ARTにおける試験製品の意図される使用と同じまたは同様の使用を有することができる。
【0081】
いくつかの実施形態では、試験対象の製品は、培地または培地添加物であってもよい。本明細書で使用される培地としては、生殖補助手順のために使用される生殖培地および添加物が挙げられるが、これらに限定されない。培地は、調製、維持、移植または貯蔵のために胚に直接かつ物理的に接触する液体および粉末状の各種物質(例えば、水、配偶子もしくは胚を処理するために使用される酸溶液、すすぎ液、試薬、精子分離培地、または培地を覆うために使用される油)を含む。本明細書で使用される添加物としては、タンパク質、血清または抗生物質などの、培地の特定の特性を向上させるために培地に添加される特定の試薬が挙げられる。
【0082】
2細胞期、4細胞期、8細胞期、桑実胚期、胚盤胞期および/または原腸形成期における胚発生を評価して、試験製品の許容性を対照製品と比較することができる。より詳細には、発生のうち胚盤胞期における分化を評価するために、トランスジェニック胚を顕微鏡で分析することができる。例えば、トランスジェニックマウスの胚の場合、受精から約48時間および/または96時間後に、胚を評価することができる。いくつかの態様では本方法は、発生品質の早期予測判断材料になり得る48時間での評価を含むことができる。他の哺乳類の胚では、受精から胚盤胞発生までの持続期間は、胚の提供源によって変わり得る。例えば、ヒトの胚の胚盤胞発生は典型的には5日目に生じる。胚の定性的/定量的発現の評価またはそのスコア化(例えば、蛍光による)に基づいて、また、所望であれば形態の評価と共に、胚の生存度を評価する。
【0083】
最適な胚の成長のために許容される閾値は、培養条件および試験品目に応じた個々の所定の判断基準に基づく。いくつかの態様では、各試験において対照基準を試験培地と平行して実験する。例えば、IVF環境で使用される新しい培地を評価する場合、胚にとって最適な成長条件を得るために、所定の対照培地に対してこの培地を試験する。対照培地における胚盤胞発生に対して胚盤胞発生を評価することにより、新しい試験培地を評価する。評価は、試験培地において同じ段階に到達している胚の数と比較される対照培地において胚盤胞期に到達している培養した胚の数の定性的比較を含むことができる。許容される品質管理は一般に、製品が試験にパスするために、試験培地において少なくとも80%の胚盤胞の発生を要件とする。さらなる成長パラメータとしては、試験培地に対して対照において胚盤胞期に観察される細胞の数ならびにトランスジェニック胚盤胞におけるレポーター遺伝子の蛍光の強度および局在化が挙げられる。胚盤胞が正常に見える標準MEAアッセイと比較した場合、本開示のアッセイにより、胚発生に対してより高い感度が得られる。多能性/生存度マーカー(および/またはその調節領域)に作動可能に連結されたレポーター遺伝子は、顕微鏡で観察することができ、最適な条件、最適以下の条件および/または胚毒性成長条件下で遺伝子発現のより良好な描写を与える。例えば、上記胚発生分析の節に記載されているように、許容限界を決定してもよい。
【0084】
いくつかの態様では、試験製品の評価は、平行に実験される対照製品との比較を必要としない。いくつかの態様では、標準化された判断基準を使用して、試験製品が許容されるか否かを決定する。例えば、各種段階において試験条件下で成長させた胚盤胞からの発現(例えば、蛍光分析による)を、最適な胚の成長に対応する発現レベルと比較してもよい。いくつかの実施形態では、ユーザは、例えば、同様の条件下での過去の実験に基づき、許容されるレベルを容易に決定することができる。いくつかの実施形態では、本アッセイは、許容されるとみなされる標準を含む。いくつかの実施形態では、許容限界は、規制当局または同様の集団により設定される。例えば、上記胚発生分析の節に記載されているように、許容限界を決定してもよい。
【0085】
ヒトの配偶子を操作および保存し、かつヒトの胚を生成、培養および保存するプロセスで使用される製品を評価するために臨床的ARTで使用される品質管理アッセイが提供される。本アッセイは、少なくとも1種の胚多能性マーカーに作動可能に連結された少なくとも1種のレポーター遺伝子を含む、トランスジェニック哺乳類から採取された1細胞期のトランスジェニック胚を含むことができる。正常な胚発生を保証する役割を担うOct−4、SOX2、Nanog、CDX2ならびにそれらの上流メディエーターおよび下流エフェクターなどの多能性調節因子を、生存度マーカーにすることができる。レポーター遺伝子は、タンパク質をコードすることができる。そのようなタンパク質としては、限定されるものではないが、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、シアン蛍光タンパク質、橙黄色蛍光タンパク質または黄色蛍光タンパク質などのあらゆるレポータータンパク質を挙げることができる。本アッセイは、ART製品およびIVF培養条件を評価するための使用説明書も含む。これらの使用説明書は、ART条件下で1細胞期のトランスジェニック胚をインキュベートする工程および1細胞期および2細胞期から後の胞胚形成期および原腸形成期までの形態および/または遺伝子発現(レポーター遺伝子の発現により決定)に基づいて胚発生を評価する工程に関する指示を含む。本明細書で使用されるインキュベートとは、受精後の1細胞期または2細胞期の胚を規定の培地において、所定の時間、例えば約24〜96時間培養するプロセスを表わす。
【0086】
一態様では、本発明は、生殖補助医療(ART)のために使用される培地を評価する際に使用される品質管理アッセイに関し、本アッセイは、少なくとも1種の胚の生存度マーカーの調節領域に作動可能に連結された少なくとも1種のレポーター遺伝子を含む1つ以上のトランスジェニック胚と、最適な胚の成長を可能にする対照製品と、本アッセイを使用してART製品およびIVF培養条件を評価するための使用説明書とを含む。いくつかの実施形態では、対照製品は対照培地である。いくつかの実施形態では、本アッセイは、最適以下の胚の成長を可能にする最適以下の培地も含む。いくつかの実施形態では、使用説明書は、ARTで使用される試験対象の製品の許容性を決定するための基準または指針を含む。
【0087】
臨床的ヒトART/IVFの品質管理に使用される分子系MEAキットも開示される。本キットは、1細胞期のトランスジェニック胚を含む。トランスジェニック胚は、少なくとも胚発生に関連する少なくとも1種の遺伝子の調節領域に作動可能に連結された少なくとも1種のレポーター遺伝子と、最適な培養条件および最適以下の培養条件または胚毒性培養条件下で差次的に発現されるトランスジェニック/レポーター遺伝子を発現する胚とを含む。本キットは、ART/IVF消耗品をさらに含む。ART消耗品としては、胚培養培地、配偶子操作培地、卵母細胞を裸化するための酵素、精子を分離するための勾配試薬、凍結培地、解凍培地、ピペットおよび胚操作装置、ならびにヒトの体外受精プロセスで使用される実験器具(限定されるものではないが、ペトリ皿、遠心管、凍結保存および冷凍貯蔵装置など)が挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0088】
以下の実施例において、さらなる実施形態をさらに詳細に開示するが、それらは決して特許請求の範囲を限定するものではない。
【0089】
実施例1:多能性調節因子の評価
ARTで使用される培地または材料の毒性および生殖不能性などのいくつかの因子は、胚の発生に影響を与える可能性がある。以下の実施例は、最適な培養条件および最適以下の培養条件下での胚の生存度を評価するためのアッセイについて記載する。多能性調節因子が蛍光顕微鏡を用いて可視化された胚を示す。発生のうち1細胞期または2細胞期からの胚発生を評価するために使用される多能性マーカーとしては、例えば、正常な胚発生を保証する役割を担うSOX2、Oct−4、Nanogならびにそれらの上流メディエーターおよび下流エフェクターが挙げられる。
【0090】
培地、培地添加剤またはART消耗品を試験するために、最初に、対照培地(最適な胚盤胞発生を促進することが既に確定している培地)または試験培地のいずれか一方の50μLの培地ドロップで、回収したトランスジェニック胚をインキュベートする。いずれの場合も、胚を鉱油で覆い、古典的な細胞培養条件(空気中に5%のCO
2を含む湿気のある雰囲気)下、37℃でインキュベートする。1日、2日および/または3日目に、アッセイのために胚を選択し、試験対象の培地に移す。この胚を5日目まで培養する。対照群に対して胚盤胞期への到達率を比較して、胚発生を妨害する細胞毒性または最適以下の効果を特定することができる。
【0091】
a.マウスの胚におけるOct−4の発現
図1は、初期段階のマウスの胚における多能性調節因子Oct−4の発現を示す蛍光顕微鏡写真である。最適な条件(対照)および最適以下の条件(試験)下で2細胞期の胚を生体外で培養した。約48時間後に、この胚をOct−4に特異的な抗体(赤色)で染色し、蛍光顕微鏡により評価した(Oct−4はOct−3/4ともいう)。
図1からはっきり分かるように、最適な成長条件下でインキュベートした左側の胚は、均一な染色により十分に発色されている。対照的に、右側の胚盤胞は、最適以下の成長条件下でインキュベートしたものである。右側の胚の右側の細胞には、Oct−4染色の欠如が観察され、これは、最適以下の成長条件により、胚発生の初期段階であっても胚発生の遅れおよびOct−4発現の減少が生じることを実証している。
【0092】
b.マウスの胚盤胞におけるOct−4の発現
図2Aおよび
図2Bは、胚盤胞期でのOct−4の発現を示す。これらの胚を生体外で96時間培養した後、DAPI(青色の核染色、左の画像)および抗Oct−4抗体(赤色、中央の画像)で染色し、蛍光顕微鏡により観察した。各図の右の画像は、DAPI画像とOct−4画像とを1つにまとめた画像を表わし、染色の重なりは紫色で示されている。
図2Aには、均一なOct−4染色により実証されるように、最適な成長条件下で正常な胚発生が観察される。対照的に、
図2Bの胚は、最適以下の成長条件下でインキュベートしたものである。
図2Bに矢印で示されているように、これらの胚には壁のような栄養外胚葉細胞上にOct−4染色の欠如が観察される。最適以下の培養条件は、本特許請求されている技術を使用することなく形態評価の従来のMEA標準QCプロトコルを用いた場合、胚盤胞が正常であるように見え、かつ正常な速度で発生しているように見えるため、最適以下であることが明らかになったり特定可能になったりすることはない。しかし、
図2Bにおいて成長の遅さが観察されることで、胚盤胞の発生は、
図2Aに観察される胚発生および胚盤胞分化よりも定性的に均一性も最適さも低いことは明らかである。
【0093】
c.マウスの胚盤胞におけるSox2の発現
図3A、
図3Bおよび
図3Cは、最適な条件または最適以下の条件下で成長させた胚におけるSox2の発現パターンを示す。
図3A〜
図3Cは、対照のマウスの胚の蛍光顕微鏡写真である。胚を生体外で胚盤胞期までインキュベートし、固定し、DAPI(青色)および抗Sox2抗体(緑色)で染色し、顕微鏡で観察した。
図3Aの左側の画像は、96時間の培養後の胚のDAPI染色を示す。
図3Aの中央の画像は、Sox2生存度マーカーの染色パターンを示し、右側の画像はそれらを1つにまとめた画像である。胚に観察される染色パターンは均一であり、最適な条件下での正常で健康な胚盤胞発生を証明している。均一な染色ならびに胚盤胞の明瞭な分化に留意されたい。
【0094】
図3Bを参照すると、最適以下の成長条件下でインキュベートした胚盤胞が観察される。96時間後に、この胚を固定し、DAPI(青色)および抗Sox2抗体(緑色)で染色し、顕微鏡で観察して成長を評価した。この写真は、最適以下の培養条件にも関わらず、正常な成長および発生を示しているように見える。
【0095】
図3Cは、最適以下の培養条件下で成長が不十分な、DAPI(青色)および抗Sox2抗体(緑色)で染色した2つの胚を示す。
【0096】
d.マウスの胚盤胞におけるCDX−2の発現
図4は、本技術の優れた評価または品質管理能力特徴をさらに実証している。
図4は、対照のマウスの胚の蛍光顕微鏡写真を表わす。胚を生体外で胚盤胞期までインキュベートし、染色し、顕微鏡で観察した。
図4の左側の画像は、96時間の培養後に、固定し、かつDAPI(青色)で染色し、顕微鏡で観察して成長を評価した胚を示す。胚において観察される染色パターンは均一であり、最適な条件下で正常で健康な胚盤胞発生を証明している。
図4の中央の画像は、緑色蛍光で染色したCDX−2転写因子を有する胚を示す。
図4の右側の画像は、CDX−2染色とDAPI染色とを1つにまとめた画像である。栄養外胚葉には均一な染色が認められるが、内細胞塊には認められないことに留意されたい。矢印は、染色されていない内細胞塊を示す。
【0097】
実施例2:分子系マウス胚アッセイ
多能性マーカーに連結されたレポーター遺伝子を含むトランスジェニックマウスを使用して、最適な条件および最適以下の条件下で、分子系マウス胚アッセイ(mMEA)を行った。POUタンパク質ドメイン、クラス5、転写因子1(Pou5f1、別名:Oct−4)プロモーターおよび遠位エンハンサーの制御下で高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)を発現するトランスジェニック雄マウス(B6、CBA−Tg(Pou5f1−EGFP)2Mnn/J、ジャクソン研究所)を使用した。
【0098】
トランスジェニック雄マウスを、過剰に排卵させた野生型(B6D2F1)雌マウスと交尾させた。1細胞期の胚を回収し、行われる実験に応じて20μLの培地ドロップ当たり3〜4個の胚群または10μLの培地ドロップ当たり1つの胚で培養した。胚を最適な条件または最適以下の条件下で96時間培養した。蛍光は、Oct−4−EGFP導入遺伝子の発現を示す。
【0099】
a.形態学的発生と胚発生中のOct−4発現との比較
1細胞期の胚を、最適な条件および最適以下の条件下で20μLの培地ドロップ当たり3〜4個の胚群で培養した。48時間の培養後に、胚の形態を確認し、発生段階を決定し、GFPの蛍光強度の関数としてOct−4の発現レベルを評価するために、光顕微鏡(立体鏡)およびUV顕微鏡(UV光を備えた倒立顕微鏡)の両方を用いて胚発生を評価した。両方の方法により同じ胚を評価した。光学顕微鏡により決定される胚発生(
図5A)は、8細胞期および8細胞期を超える胚の両方を示し、蛍光強度(
図5B)により、低強度(光なし〜弱い光、0〜1)または高強度(中〜強い光、2〜3)として特徴づけた。
図5Bに示すように、正常な形態を有する8細胞期の胚は、8細胞期の胚の低強度(矢印)により実証されるような低いOct−4の発現を有することがある。
【0100】
b.蛍光パターン/強度と胚発生との相関−複数の胚の分析
1細胞期の胚を回収し、最適な条件または最適以下の条件下で20μLの培地ドロップ当たり3〜4個の胚群で培養した。48時間後に、2つの評価器により胚の各群の盲検評価を行った。すなわち1つの評価器により、光学顕微鏡(立体鏡)により胚群の形態を決定し、第2の評価器により、胚群の蛍光強度を決定した。96時間後に胚の各群について別の評価を行って、胚盤胞発生を決定した。
【0101】
図6Aは、光学顕微鏡による形態分析による、48時間後に8細胞期またはそれ以上の段階(赤色:≧8細胞期)または8細胞期未満(青色:<8細胞期)の状態の胚群の割合を示す。
図6Bは、48時間後に指示された蛍光強度(青色:蛍光0〜1、赤色:蛍光2〜3)を有する胚の割合を示す(0=蛍光なし、1=低強度、2=中強度、3=高強度)。最適以下の条件について48時間後の2つの方法の比較により、33.3%の胚のみが所望の(中〜高)蛍光強度を有していたと決定づけられた蛍光に基づくアッセイとは対照的に、形態に基づくアッセイにより、63.3%の胚が8細胞期またはそれ以上の段階まで進行したと決定づけられたことが分かった。分子系MEAは、成長条件が最適以下であることを決定するために、より初期の段階で標準MEAよりも高感度であった。
図6Cおよび
図6Dは、96時間後に光学顕微鏡(
図6C)および蛍光顕微鏡(
図6D)により決定づけられた胚盤胞発生(青色:初期の胚盤胞、赤色:胚盤胞、緑色:拡大した胚盤胞、紫色:孵化胚盤胞)に差異がないことを示している。
図6Eは、48時間後に指示された蛍光(青色:蛍光なし、赤色:低強度の蛍光、緑色:中強度の蛍光、紫色:高強度の蛍光)を示した所与の段階における胚盤胞の割合として、48時間後の蛍光強度と96時間後の同じ胚の胚盤胞期との相関を示す。個々の胚について早期のOct−4発現(蛍光)と胚発生の後期までの進行との間に良好な相関が観察された。
図7は、48時間後に各蛍光強度を示す胚の割合として示される、それらの蛍光状態による最適な培養条件(青色の線)および最適以下の培養条件(赤色の線)下での胚の分布を示す。
実施例3:異なる品質の油の存在下で胚盤胞発生を評価するために使用される分子系マウス胚アッセイ
CDX2−GFPを含むトランスジェニックマウスの胚を使用して、異なる品質の油:(1)良質な油、(2)5%の悪質な油、(3)7.5%の悪質な油、(4)10%の悪質な油および(5)15%の悪質な油の存在下で分子系マウス胚アッセイ(mMEA)を行った。上に列挙した油の品質のそれぞれについて18個の胚を試験した。これらの胚を48時間および96時間後に立体顕微鏡を用いて評価して形態学的に胚盤胞発生を評価し、かつ48時間および96時間後に蛍光顕微鏡を用いてGFPの発現を評価した。従来のMEAプロトコルを用いて、96時間後に80%以上のあらゆる胚のスコア化(拡大した胚盤胞および孵化胚盤胞)がパスすれば、試験したパラメータを利用可能であるとみなす。以下に示すように、形態学的分析のみでは、分子的発現方法ほど高感度でなく、7.5%の悪質な油について1回の偽陽性が生じた。
【0102】
a.48時間後の形態学的発生評価およびCdx−2発現
図8Aは、48時間後の形態評価での胚の早期の卵割発生、具体的には8細胞期未満(青色)の胚の割合および8細胞期以上(赤色)の胚の割合を示す。48時間後に同じ胚のCdx−2発現/蛍光強度も評価した。蛍光について0〜3の相対的かつ主観的な尺度(0は「蛍光なし」を意味し、1は「低い蛍光」を意味し、2は「中間の蛍光」を意味し、かつ3は「高い蛍光」を意味する)で胚を評定した。0〜1(「蛍光なし」または「低い蛍光」、青色)、2〜3(「中間の蛍光」または「高い蛍光」、赤色)として評定された発生中の胚の割合は、
図8Bに示されている。
【0103】
b.96時間後の形態学的発生評価およびCdx−2発現
図8Cおよび
図8Dは、96時間後に光学顕微鏡(
図8C)および蛍光顕微鏡(
図8D)により決定された胚盤胞発生(青色:初期の胚盤胞、赤色:胚盤胞、緑色:拡大した胚盤胞、紫色:孵化胚盤胞)を示す。
図8Cに示すように、「良質な油」、「5%の悪質な油」および「7.5%の悪質な油」の全てが、MEAまたは形態学的分析を用いて許容されるものとみなされる80%の閾値を満たしている。10%および15%の悪質な油は、80%の閾値に届かなかった。特に96時間後の蛍光強度に関する胚盤胞の評価では、最適な条件と最適以下の条件との間で発生差が区別されない。
図8Eは、48時間後に各蛍光強度を示す胚の数として示されるそれらの蛍光状態による各種処理条件下での胚の分布を示す。蛍光について0〜3(0は「蛍光なし」を意味し、1は「低い蛍光」を意味し、2は「中間の蛍光」を意味し、かつ3は「高い蛍光」を意味する)の相対的かつ主観的な尺度で胚を評定した。
【0104】
e.結果の考察/要約
以下の表1および表2は、形態評価のみを用いる場合に、7.5%の悪質な油
*で偽陽性が生じたことを示している。対照的に、分子系MEAにより、48時間もの早期において最適以下の発生が特定されている。表2のデータにより示されているように、形態のみを用いた場合、7.5%の悪質な油により、80%超のカットオフ値を記録しているが、Cdx−2の発生発現は、それらの胚が7.5%の悪質な油により悪影響を受けていることを実証した。これは、視覚的形態学的分析のみの場合と比較すると、本明細書に記載されている分子系MEAにより提供されるいくつかの実施形態により感度が上昇することを示している。
【表1】
【表2】
【0105】
実施例4:分子系マウス胚アッセイの事例研究
a.最適以下の培地成分の決定
多能性マーカーに連結されたレポーター遺伝子を含むトランスジェニックマウスの胚を、異なる品質のヒト血清アルブミン(HSA)を含む20μLの培地ドロップでインキュベートした。これらの胚を鉱油で覆い、古典的な細胞培養条件(空気中に5%のCO
2を含む湿気のある雰囲気)下、37℃でインキュベートした。48時間および96時間の培養後に、胚を形態およびGFPの発現について評価した。
【0106】
48時間後に、これらの胚を、標準MEAおよび分子系MEAにより評価した。その結果を表3に示す。標準MEA(上のパネル)を用いた場合、全てのHSA試料により同様の結果が得られ、各条件下で95.3%〜97.7%の胚が8細胞期以上まで進行した。分子系MEA(下のパネル)により、より多くの「蛍光なし」〜「低い蛍光」の胚を示した2種類のHSA試料(HSA−AおよびHSA−D)が特定された。
【表3】
【0107】
96時間後に胚を評価して、各段階における胚の割合を決定した。その結果を表4に示す。HSA−B、HSA−CおよびHSA−Fにより、85%超の胚が拡大した胚盤胞期以上まで進行することができ、これは許容可能なIVF培地の要件を上回っている。HSA−Dにより、83.7%の胚が拡大した胚盤胞期以上まで進行することができ、これは許容可能なIVF培地の要件を辛うじてパスしている。HSA−Aは、72.7%の胚のみが拡大した胚盤胞期以上まで進行することができ、これは許容可能なIVF培地の要件に達していない。分子系MEAにより、標準MEAよりも早期の段階(48時間)で最適以下の培養条件が特定された。
【表4】
【0108】
本開示の趣旨を逸脱することなく、数多くの様々な修正をなすことができることが当業者により理解されるであろう。従って、当然ながら、本明細書に開示されている形態は単に例示であって、本開示の範囲を限定するものではない。