(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態に係るモータ駆動装置、電気掃除機およびハンドドライヤーを図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0016】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1におけるモータ駆動装置の構成を示す図である。実施の形態1におけるモータ駆動装置100は、単相PMモータ3を具備する負荷を駆動するモータ駆動装置であり、直流電源1、単相インバータ2、インバータ制御部4、モータ電流検出部5、直流電源電圧検出部6およびロータ位置検出部7を備えて構成される。単相PMモータ3を具備する負荷としては、電動送風機を備えた電気掃除機、ハンドドライヤーが例示される。
【0017】
直流電源1は、単相インバータ2に直流電力を供給する。単相インバータ2は、スイッチング素子211〜214およびスイッチング素子211〜214のそれぞれに逆並列に接続されるダイオード221〜224を具備し、単相PMモータ3に交流電圧を印加する。インバータ制御部4は、単相インバータ2のスイッチング素子211〜214への駆動信号S1〜S4を出力する。ロータ位置検出部7は、単相PMモータ3のロータ3aの回転位置であるロータ回転位置θ
mに応じた信号である位置検出信号S_
rotationをインバータ制御部4へ出力する。モータ電流検出部5は、単相PMモータ3に流れるモータ電流I
mに応じた信号をインバータ制御部4へ出力する。直流電源電圧検出部6は、直流電源1の電圧である直流電圧V
dcを検出する。駆動信号S1〜S4は、ロータ回転位置θmおよびモータ電流I
mに基づいて生成されたパルス幅変調(Pulse Width Modulation:以下「PWM」と表記)信号である。単相インバータ2のスイッチング素子211〜214をPWM信号である駆動信号S1〜S4で駆動することにより、任意の電圧を単相PMモータ3に印加することができる。
【0018】
なお、直流電源1は交流電源からの交流電圧をダイオードブリッジ等で整流し且つ平滑して直流電圧を生成する直流電源でも問題なく、太陽電池、バッテリーなどに代表される直流電源を用いても何ら問題ない。また単相インバータ2のスイッチング素子は、トランジスタやIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOS−FET(Metal Oxide Semiconductor−Field Effect Transistor)、サイリスタ、GTO(Gate Turn−Off Thyristor)など、いずれのスイッチング素子であっても問題ない。また、前述のようなスイッチング素子の半導体素材として主流であるSiのみならず、ワイドバンドギャップ半導体と称されるSiC、GaNなど、いずれの半導体素材を使用しても問題はない。
【0019】
ロータ位置検出部7は、例えば
図2に示すようなモータのロータ回転位置θ
mに応じた位置検出信号S
_rotationを生成してインバータ制御部4に出力する。
図2の場合には、ホールセンサ等の磁気センサを用いてロータ回転位置θ
mに応じたパルス状の電圧信号である位置検出信号S
_rotationを出力する場合を想定しており、0≦θ
m<πでは、S
_rotation=“Highレベル”、π≦θ
m<2πでは、S
_rotation=“Lowレベル”を例として記載している。ただし、ホールセンサに限らず、エンコーダ、レゾルバなどの位置検出センサを用いても何ら問題ない。
【0020】
図3は、実施の形態1におけるインバータ制御部4の構成を示すブロック図である。インバータ制御部4は、p軸電流I
pを制御する第1の電流制御部411、q軸電流I
qを制御する第2の電流制御部412、風量推定値Q^を制御する風量制御部42、単相交流での表記からp軸およびq軸(以下「pq軸」と称する)への座標変換を行う第1の座標変換部431、pq軸での表記から単相交流での表記への変換を行う第2の座標変換部432、位置検出信号S
_rotationに応じてロータ回転位置推定値θ
m^およびモータ回転数推定値ω
m^を検出するモータ位置・回転数検出部44、風量推定値Q^の推定を行う風量推定部45、インバータ出力電圧指令値V
m*よりスイッチング素子駆動信号S1〜S4を生成するスイッチング素子駆動信号生成部46、風量指令値Q*を生成する風量指令値生成部47、および、q軸電流指令値I
q*を生成するq軸電流指令値生成部48を備えて構成されており、以下に各部の詳細を説明する。なお、「θ
m^」、「Q^」等における「^」の表記であるが、本来であれば「θ」または「Q」の文字の上部に「^」の記号を付すべきところであるが、その表記ができない。このため本明細書では、イメージで挿入する数式部分を除き、該当文字または文字列の後に「^」の文字を付して表記する。
【0021】
まず、モータ位置・回転数検出部44の詳細動作に関して説明する。前述の通り、ロータ位置検出部7は、
図2に示すような位置検出信号S
_rotationを生成してモータ位置・回転数検出部44に出力している。
図4は、実施の形態1における位置検出信号S
_rotationとモータ回転数推定値ω
m^との関係を示す図である。モータ位置・回転数検出部44は、位置検出信号S
_rotationの周期T
_rotationを用いて以下の(1)式に示す計算式によりモータ回転数推定値ω
m^を検出することができる。なお、実施の形態1ではモータの極対数P
mをP
m=1として説明するが、無論P
m≠1であっても構わない。ただし、P
m≠1の場合には、電気角回転数ω
eと機械角回転数であるモータ回転数ω
mとの間には、ω
e=P
m×ω
mとの関係がある。
【0023】
図5は、実施の形態1におけるモータ回転数推定値ω
m^とロータ回転位置推定値θ
m^との関係を示す図である。
図5および以下の(2)式に示すように、ロータ回転位置推定値θ
m^は、モータ回転数推定値ω
m^を積分することで算出可能である。ただし、
図5の例では、制御周期T
cntでの離散制御系を想定した記載であり、制御タイミングnにおけるロータ回転位置推定値をθ
m^[n]と記載している。
【0025】
以上より、(1)式および(2)式を用いることで、位置検出信号S
_rotationからモータ回転数推定値ω
m^およびロータ回転位置推定値θ
m^を算出することができる。なお、位置検出信号S
_rotationの周期T
_rotationよりモータ回転数推定値ω
m^およびロータ回転位置推定値θ
m^を算出する上記の手法はあくまで一例であり、他の手法を採用しても問題ないことは言うまでもない。
【0026】
次に、単相交流での表記からpq軸への座標変換を行う第1の座標変換部431に関して説明する。
図6は、モータ電流I
mとp軸電流I
pおよびq軸電流I
qとの関係を示す図である。単相交流を表すモータ電流I
mを直交した2つの座標軸であるp軸およびq軸において、極座標系でベクトル量として捉えたとき、p軸成分およびq軸成分は以下の(3−1)式および(3−2)式で表すことができる。
【0028】
ここで、モータ電流I
mの瞬時値を以下の(4―1)式で定義し、インバータ出力電圧指令値V
m*の瞬時値を以下の(4―2)式で定義する。(4―1)式において、I
m_
rmsは、モータ電流I
mの実効値であり、(4―2)式において、V
m_
rms*は、インバータ出力電圧指令値V
m*の実効値である。モータ電流I
mとインバータ出力電圧指令値V
m*との関係は、
図7に示す通りであり、インバータ出力電圧指令値V
m*とモータ電流I
mとの間の位相差をΦで表している。なお、(4−1)式および(4−2)式ならびに
図7では、インバータ出力電圧指令値V
m*に対してモータ電流I
mが進み位相である場合を正として定義している。
【0030】
(4−1)式および(4−2)式を用いると、単相瞬時電力P
mは、以下の(5)式で表される。
【0032】
また、(5)式を加法定理により式展開とすると、以下の(6)式で表される。
【0034】
さらに、(6)式を(3−1)式および(3−2)式を用いて変形すると、以下の(7)式の形に変形できる。ただし、θ
m=θ
m^としている。
【0036】
(7)式は瞬時電力を表す式であるが、特に第1項は有効電力瞬時値を示しており、(3−1)式に示したp軸電流I
pにより表現される。また(7)式の第2項は無効電力瞬時値を示しており、(3−2)式に示したq軸電流I
qにより表現される。したがって、(7)式を用いた制御、具体的には、モータ電流I
mを座標変換してp軸電流I
pとq軸電流I
qとに分離し、分離したp軸電流I
pおよびq軸電流I
qをそれぞれ個別に制御することで、有効電力および無効電力の制御が可能となる。
【0037】
なお、ここまでの第1の座標変換部431の説明に際し、(3−1)式、(3−2)式、(4−1)式および(4−2)式、ならびに
図7に示すような定義を行った上で式展開の説明を行ったが、これらの定義および図示はあくまで説明の便宜上、設定したものであり、定義自体は発明の本質的事項ではない。
【0038】
次に、pq軸での表記から単相交流での表記への変換を行う第2の座標変換部432に関して説明する。第2の座標変換部432は、以下の(8)式に基づき、p軸電圧指令値V
p*およびq軸電圧指令値V
q*を用いて交流電圧であるインバータ出力電圧指令値V
m*に変換する。なお、(8)式は、インバータ出力電圧指令値V
m*への座標変換式の一例であり、前述した第1の座標変換部431における定義などにより(8)式で表される式も変化することは言うまでもない。
【0040】
次に、第1の電流制御部411および第2の電流制御部412に関して説明する。第1の電流制御部411は、前述したp軸電流I
pがp軸電流指令値I
p*に一致するように制御するフィードバック制御器であり、第2の電流制御部412は、前述したq軸電流I
qがq軸電流指令値I
q*に一致するように制御するフィードバック制御器である。第1の電流制御部411および第2の電流制御部412の何れも、例えば以下の(9)式に示すような伝達関数を具備するPID制御系などを採用することができる。(9)式において、K
pは比例ゲイン、K
Iは積分ゲイン、K
dは微分ゲイン、sはラプラス演算子を表している。なお、PID制御である点、フィードバック制御である点などは本明細書における説明例として挙げた制御方式の一例であることは言うまでもない。
【0042】
次に、風量制御部42に関して説明する。風量制御部42は、風量推定値Q^が風量指令値Q*に一致するように制御するフィードバック制御器であり、第1の電流制御部411または第2の電流制御部412と同様なPID制御などを採用することができる。なお、PID制御である点、またフィードバック制御である点などは、電流制御部411および412と同様に制御方式の一例であることは言うまでもない。
【0043】
次に、風量推定部45に関して説明する。先行技術文献に列挙した非特許文献1の2/6ページにおける(9)式には、以下に示すような関係式が記載されている。
【0045】
上記(10)式において、Nは回転数、Iは電流である。上記(10)式を本実施の形態に置き換えると、本実施の形態における風量推定値Q^は、以下の(11)式で表すことができる。
【0047】
ただし、先行技術文献にも記載の通り、風量Qを表す関数fは、ファン径、圧損条件などにも依存する関数であるため、例えばテーブルデータとしてインバータ制御部4の中に備えるなどの手法を採用してもよい。すなわち、風量推定値Q^を求める実現手法は何れの手法でも構わない。
【0048】
次にスイッチング素子駆動信号生成部46に関して説明する。
図8は、スイッチング素子駆動信号生成部46の動作説明に供するタイムチャートである。
図8の上段部において、細線はキャリア波形を示し、太線はインバータ出力電圧指令値の波形を示している。なお、
図8の例では、キャリア周期T
cに対し、制御周期T
cntをキャリア周期T
cの1/2に設定している。また、
図8の下段部では、スイッチング素子211〜214を駆動する駆動信号S1〜S4の波形を示している。
【0049】
上述した制御周期T
cntによる離散制御系を想定した場合、インバータ出力電圧指令値V
m*は、離散的に値が変更される。例えば、制御タイミングnに着目した場合、制御タイミングnにおけるインバータ出力電圧指令値V
m*[n]とキャリアの大小関係によりスイッチング素子駆動信号S1〜S4のハイレベルおよびローレベルを決定する。このとき、S1とS4、S2とS3は同一の信号であり、またS2,S3はS1,S4に対して反転した波形である。ここで、スイッチング素子には立上り時間および立下り時間などの、スイッチング素子固有の遅れ時間が存在するため、一般的に短絡防止時間(デッドタイム)を設ける場合が多い。
図8ではデッドタイムは0として記載しているが、デッドタイム≠0であっても問題はない。なお、
図8におけるスイッチング素子駆動信号S1〜S4の生成方式はあくまで一例であり、PWM信号を生成する手法であれば、何れの手法を用いても問題ない。
【0050】
次に、風量指令値生成部47に関して説明する。
図9は、実施の形態1におけるモータ駆動装置の応用例として電気掃除機の構成の一例を示す図である。
図9において、電気掃除機8は、バッテリーなどの直流電源1、上述した単相PMモータ3により駆動される電動送風機81を備え、さらに集塵室82、センサ83、吸込口体84、延長管85および操作部86を備えて構成される。
【0051】
電気掃除機8は、直流電源1を電源として単相PMモータ3を駆動し、吸込口体84から吸込みを行い、延長管85を介して集塵室82へごみを吸引する。使用の際は操作部86を持ち、電気掃除機8を操作する。
【0052】
操作部86には、電気掃除機8の吸込み量を調節するための操作スイッチ86aが設けられている。電気掃除機8の使用者は、操作スイッチ86aを操作して、任意に電気掃除機8の吸込み量を調節する。操作部86で設定された吸込み量は、風量指令値生成部47(
図3参照)に付与する風量設定値Q**となる。風量設定値Q**は風量指令値生成部47に入力され、風量指令値生成部47からは風量指令値Q*が出力される。なお、操作部86により風量設定値Q**を設定する手法は本実施の形態における一例であり、他の手法を用いてもよい。例えば、センサ83に応じて風量設定値Q**を自動設定する手法などを用いてもよく、何れの方式であってもよい。
【0053】
図10は、実施の形態1におけるモータ駆動装置の他の応用例としてハンドドライヤーの構成の一例を示す図である。
図10において、ハンドドライヤー90は、ケーシング91、手検知センサ92、水受け部93、ドレン容器94、カバー96、センサ97および吸気口98を備える。ケーシング91内には、実施の形態1のモータ駆動装置によって駆動される図示しない電動送風機が設けられている。ハンドドライヤー90では、水受け部93の上部にある手挿入部99に手を挿入することで電動送風機による送風で水を吹き飛ばし、水受け部93からドレン容器94へと水を溜めこむ構造となっている。センサ97は、ジャイロセンサおよび人感センサのいずれかであり、センサ97に応じて風量設定値Q**を自動設定するようにインバータ制御部4の制御系を構成すればよい。
【0054】
以上により、風量設定値Q**により風量指令値Q*が設定され、風量指令値Q*に応じて風量推定値Q^が制御され、また、風量推定値Q^に応じてp軸電流I
pが制御されるため、最終的には風量Qに応じて有効電力Pが制御されることとなる。ここで、風量Qと有効電力Pの関係を
図11に示す。
図11の上段部に示すように、第1の期間における風量をQ1、第2の期間における風量をQ2、第3の期間における風量をQ3としている。また、
図11の下段部に示すように、第1の期間の有効電力をP1、第2の期間における有効電力をP2、第3の期間における有効電力をP3としている。これらの各期間において、風量設定値Q**に対して風量Qが一致していると仮定したとき、
図11では、風量Q1に対して風量Q2の方が大きく、それに応じて有効電力P1より有効電力P2が大きくなるように制御している。また風量Q1に対して風量Q3の方が小さいため、有効電力P1に対して有効電力P3の方が小さくなるように制御する。このように風量Qに応じて有効電力Pを制御するように、制御系が動作する。
【0055】
次に、q軸電流指令値生成部48に関して説明する。q軸電流指令値生成部48にはモータ位置・回転数検出部44が生成したモータ回転数推定値ω
m^が入力され、q軸電流指令値生成部48からはq軸電流指令値I
q*が出力される。q軸電流I
qは、前述の通り無効電力を制御する操作量になる。無効電力は実際の仕事量に寄与しない電力である。ただし、無効電力が増加するとモータ電流I
mが増加するので効率が悪化する。このため、通常は、q軸電流指令値I
q*=0となるように設定する。ただし、弱め界磁などの制御手法を併用する場合には、回転数の増加に応じて無効電力をゼロ以外に制御することもあり得る。
【0056】
図12は、q軸電流指令値I
q*を0以外に制御する場合の一例を示す図である。
図12に示すように、特定の回転数ω1以上でq軸電流指令値I
q*を変化させるようにしてもよい。このような制御は、
図12の曲線に合わせたテーブルデータをq軸電流指令値生成部48に保持することにより実現可能である。なお、
図12では、回転数に応じてq軸電流指令値I
q*を変化させているが、単相PMモータの駆動状態に応じてq軸電流指令値I
q*を決定する場合には、回転数に限らず、風量指令値Q*、p軸電流I
p、p軸電流指令値I
p*、モータ電流I
mなどを決定指標として設定しても問題はない。回転数以外を決定指標とした場合には、当該決定指標をq軸電流指令値生成部48の入力信号とする制御系を構成することは言うまでもない。
【0057】
以上の構成により、風量推定値Q^が風量指令値Q*に一致するようにp軸電流I
pにより有効電力を制御することができる。また、同時に無効電力をq軸電流I
qにより制御することも可能であり、モータ駆動時の力率を制御することも可能である。これらの制御により、例えば無効電力がゼロとなるように制御することで、モータ電流を有効電力にのみ関係する分だけに抑制することができる。その結果、モータ電流を最小に制御し、モータの銅損(巻線抵抗などにおける損失)、インバータの導通損失(スイッチング素子におけるオン抵抗やオン電圧による損失)、スイッチング損失(スイッチング素子がオンオフするときの損失)を抑制することができるので、モータ駆動装置を適用した応用製品の高効率化を実現できる。
【0058】
以上説明したように、実施の形態1に係るモータ駆動装置によれば、単相インバータが単相PMモータに供給する有効電力を増減させることによってモータ駆動装置が駆動する電動送風機の風量を変化させるので、単相瞬時電力の脈動に対応した風量制御を行うことが可能となる。
【0059】
実施の形態2.
図13は、実施の形態2におけるインバータ制御部4の構成を示すブロック図である。実施の形態2のインバータ制御部4では、
図13に示すように、
図3に示す構成から、pq軸電流補正部49が追加されている点が相違点である。pq軸電流補正部49には、第1の座標変換部431の出力であるp軸電流I
pおよびq軸電流I
qと、モータ位置・回転数検出部44の出力であるロータ回転位置推定値θ
m^とが入力され、これらの入力に基づいてp軸電流I
pおよびq軸電流I
qにおける電流脈動を抑制するための補正値であるp軸電流補正量ΔI
pおよびq軸電流補正量ΔI
qを生成する。p軸電流補正量ΔI
pおよびq軸電流補正量ΔI
qは、それぞれp軸電流I
pおよびq軸電流I
qに加算され、それぞれの電流制御部である第1の電流制御部411および第2の電流制御部412に入力される構成である。なお、その他の構成については、
図3に示す構成と同一または同等であり、同一または同等の構成部については同一符号を付して重複する説明は省略する。
【0060】
つぎに、pq軸電流補正部49の動作について説明する。まず、モータ電流I
mからp軸電流I
pへの座標変換を行う第1の座標変換部431における変換式((3−1)式)を再掲する。
【0062】
ここで、モータ電流I
mは、上記したように(4−1)式と定義しており、この(4−1)式を(3−1)式に代入して式変形すると、以下の(13)式が得られる。
【0064】
同様に、モータ電流I
mからq軸電流I
qへの座標変換を行う第2の座標変換部432における変換式((3−2)式)を再掲する。
【0066】
p軸電流I
pと同様に、(4−1)式を(3−2)式に代入して式変形すると、以下の(15)式が得られる。
【0068】
上記(13)式および(15)式により、p軸電流I
pおよびq軸電流I
qは、モータ回転数ω
mに対して2倍の周波数で変動することが分かる。ここでp軸電流I
pにおける(13)式の第1項は直流成分であり、時間平均における有効電力を決定する。一方で、第2項は時間平均すると0になるため、時間平均の有効電力には寄与しない。
【0069】
以上の説明のように、p軸電流I
pおよびq軸電流I
qは、(13)式または(15)式に従って変動する。この変動により、p軸電圧指令値V
p*およびq軸電圧指令値V
q*も同様の成分で変動するため、モータ電流I
mにも電流の変動、すなわち電流脈動が発生する。また、モータの出力トルクはモータ電流I
mに比例し、モータ電流I
mが脈動することでモータ回転数ω
mも脈動するため、単相PMモータ3に騒音が発生する。
【0070】
図14は、p軸電流I
pとp軸電流補正量ΔI
pとの関係を説明するための図である。
図14において、実線は(13)式に示される波形(ただし、
図14では、係数である√(2)I
m_
rms=1としている)である。また、破線は実線の波形に含まれる脈動成分を打ち消すための補正成分、すなわちp軸電流補正量ΔI
pの波形を示したものであり、p軸電流補正量ΔI
pが以下の(16)式(ただし、
図14では、係数である√(2)I
m_
rms=1としている)となるように設定している。
【0072】
補正前のp軸電流I
pを表す(13)式とp軸電流補正量ΔI
pを表す(16)式とを加算することにより、加算後の値は、“√(2)I
m_
rms/2”となり、モータ電流I
mの有効電力成分の瞬時値が一定に制御され、p軸電流I
pの脈動成分が除去される。すなわち、補正後のp軸電流I
p'を用いて制御することにより、電流脈動を抑制することができるため、p軸電圧指令V
p*の電圧脈動を抑制することができ、p軸電圧指令V
p*の歪みを抑制することができる。なお、同様な制御系をq軸についても適用することにより、q軸電流I
qの脈動に対してもΔI
qを設定することができ、モータ電流I
mの無効電力成分の瞬時値を一定に制御することでq軸電流I
qの脈動成分を除去することができ、q軸電圧指令V
q*の脈動および歪みを抑制することができる。
【0073】
なお、同様な機能を、ローパスフィルタを用いて実施することは可能であるが、ローパスフィルタには遅れ時間があり、当該遅れ時間によって電流制御器の応答速度に制限が生じる。一方、実施の形態2に係る手法によれば、電流の脈動成分を制御の都度、逐次除去することができるため、ローパスフィルタを用いた場合に対して遅れ時間が短く、電流制御器をより高応答にすることが可能となり、制御性の向上が期待できる。
【0074】
実施の形態3.
図15は、実施の形態3におけるインバータ制御部4の構成を示すブロック図である。実施の形態3のインバータ制御部4では、
図15に示すように、
図3に示す構成から、風量指令値補正部50が追加されている点が相違点である。風量指令値補正部50には、モータ電流I
mと、第2の座標変換部432の出力であるインバータ出力電圧指令値V
m*と、モータ位置・回転数検出部44の出力であるロータ回転位置推定値θ
m^と、風量推定部45の出力である風量推定値Q^とが入力され、これらの入力に基づいて瞬時有効電力P
mにおける脈動を抑制するための補正量である風量指令値補正量ΔQ*を生成する。風量指令値補正量ΔQ*は、まずは風量指令値Q*に加算され、次に風量推定値Q^との間で差分がとられ、当該差分値が風量制御部42に入力される構成である。なお、その他の構成については、
図3に示す構成と同一または同等であり、同一または同等の構成部については同一符号を付して重複する説明は省略する。
【0075】
つぎに、風量指令値補正部50の動作について説明する。まず、単相瞬時電力P
mにおける(7)式に関して再考する。(7)式におけるp軸電流I
pおよびq軸電流I
qの項に、(13)式および(15)式を代入すると、以下の(17)式が得られる。
【0077】
前述の通り、(17)式の第1項は瞬時有効電力を表し、第2項は瞬時無効電力を表している。以下、第1項の瞬時有効電力をP
aと表記し、第2項の瞬時無効電力をPnと表記する。(17)式から明らかなように、瞬時有効電力P
aは、“cos(2θ
m^)”で脈動している。
【0078】
また、単相PMモータ3における機械出力P
Mは、以下の(18)式で表される。
【0080】
上記(18)式において、“τ
m”はモータトルクである。瞬時有効電力Paは、単相PMモータ3の回転に寄与する成分であるため、瞬時有効電力P
aの脈動は、トルクτ
mもしくは回転数ω
mの脈動となる。
【0081】
そこで、風量指令値補正部50は、瞬時有効電力P
aの脈動に対応した補償制御を行う。
図16は、瞬時有効電力P
aと風量指令値補正量ΔQ*の波形の一例を示す図である。前述のように、風量指令値補正部50には、モータ電流I
m、インバータ出力電圧指令値V
m*、風量推定値Q^およびロータ回転位置推定値θ
m^が入力される。風量指令値補正部50は、モータ電流I
m、インバータ出力電圧指令値V
m*およびロータ回転位置推定値θ
m^により、上記した(17)式を用いて瞬時有効電力P
aを算出する。瞬時有効電力P
aの波形の一例は、
図16の上段部に示す通りである。
【0082】
また、風量指令値補正部50は、以下の(19)式を用いて風量指令値補正量ΔQ*を生成する。
【0084】
上記(19)式において、Q*
aveは風量指令値Q*の時間平均値を表している。風量指令値補正量ΔQ*の波形の一例は、
図16の下段部に示す通りである。
【0085】
(19)式および
図16では、瞬時有効電力P
aの脈動に対して逆相となるように風量指令値補正量ΔQ*を生成しており、風量指令値Q*を風量指令値補正量ΔQ*で補正した補正風量指令値Q*’に基づき、風量Qおよびp軸電流I
pを制御する。この制御により、瞬時有効電力P
aの脈動を相殺するように実際の風量Qが制御され、瞬時有効電力P
aの脈動が抑制される。その結果、モータの回転数およびトルクの脈動が同時に抑制されるので、モータ駆動装置を適用した応用製品の低騒音化を図ることができる。
【0086】
なお、以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。