特許第6622925号(P6622925)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6622925
(24)【登録日】2019年11月29日
(45)【発行日】2019年12月18日
(54)【発明の名称】自動変速機および自動変速機の制御方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 9/18 20060101AFI20191209BHJP
   F16H 1/32 20060101ALI20191209BHJP
   F16H 59/70 20060101ALI20191209BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20191209BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20191209BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20191209BHJP
【FI】
   F16H9/18 Z
   F16H1/32 A
   F16H59/70
   F16H61/02
   F16H61/662
   F16H63/50
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-544965(P2018-544965)
(86)(22)【出願日】2017年10月2日
(86)【国際出願番号】JP2017035884
(87)【国際公開番号】WO2018070294
(87)【国際公開日】20180419
【審査請求日】2019年1月29日
(31)【優先権主張番号】特願2016-200339(P2016-200339)
(32)【優先日】2016年10月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萩原 孝則
【審査官】 前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−540245(JP,A)
【文献】 特開2015−129573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 9/18
F16H 1/32
F16H 59/00
F16H 61/00
F16H 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1プーリと、第2プーリと、前記第1プーリおよび前記第2プーリに掛け回されたベルトと、を有するバリエータと、
前記第1または第2プーリに対し、前記バリエータを変速させるためのプーリ推力を与える第1モータと、
前記バリエータにベルトクランプ力を生じさせる第2モータと、
前記第2モータと前記バリエータとの間に設けられ、前記第2モータの出力トルクを前記第1プーリおよび前記第2プーリに伝達可能に構成された動力伝達機構と、
を備え、
前記動力伝達機構は、前記第2モータからの入力トルクを減速して前記バリエータに伝達させるサイクロイド減速機を備える、自動変速機。
【請求項2】
第1プーリと、第2プーリと、前記第1ーリおよび前記第2プーリに掛け回されたベルトと、を有するバリエータと、
前記第1または第2プーリに対し、前記バリエータを変速させるためのプーリ推力を与える第1モータと、
前記バリエータにベルトクランプ力を生じさせる第2モータと、
前記第2モータと前記バリエータとの間に設けられ、前記第2モータの出力トルクを前記第1プーリおよび前記第2プーリに伝達可能に構成された動力伝達機構と、
を備え、
前記動伝達機構は、前記第2モータからの入力トルクを減速して前記バリエータに伝達させる高減速比ギアを備え、
前記高減速比ギアの減速比は、前記バリエータからベルトクランプ時の反力に基づき前記高減速比ギアの入力軸に作用するカウンタトルクが、前記第2モータにおけるフリクショントルクよりも小さくなる減速比である、自動変速機。
【請求項3】
請求項1または2に記載の自動変速機であって、
前記自動変速機は、車両の駆動源と駆動輪とをつなぐ動力伝達経路上に設けられ、
前記第1プーリは、前記駆動源の出力軸と接続されたプライマリプーリであり、
前記第2プーリは、前記駆動輪の回転軸に接続されたセカンダリプーリである、自動変速機。
【請求項4】
変速用の第1モータとベルトクランプ用の第2モータとを有する自動変速機において、変速比を保持している間のベルトクランプ力を確保する、自動変速機の制御方法であって、
前記第2モータと前記自動変速機のバリエータとの間に、高減速比ギアを備え、前記第2モータの出力トルクを、前記高減速比ギアを介して前記バリエータの第1プーリおよび第2プーリに伝達可能に構成された動力伝達機構を介装し、
前記バリエータの変速比を保持するベルトクランプ時において、
前記第2モータに対する電力の供給を停止し、
前記高減速比ギアにより、前記バリエータから前記高減速比ギアの入力軸に作用するカウンタトルクを、前記第2モータにおけるフリクショントルクよりも減少させる、自動変速機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速用の電動モータとベルトクランプ用の電動モータとを備える自動変速機およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
JP62−013853にあるように、無段型の自動変速機において、一対のプーリがベルトを両側から挟み込む力(以下「ベルトクランプ力」という)を、固定レース、稼働レースおよび皿バネを有する調圧カム機構により生じさせることが知られている。カムは、その特性上、トルクがかからないとプーリに対する推力を生じさせることができないことから、皿バネを設置することでトルクがかかっていない場合にもある程度のプーリ推力を生じさせることを可能とし、充分なトルクが得られない初期段階におけるベルト滑りを抑制するものである。
【発明の概要】
【0003】
しかし、JP62−013853では、皿バネの設置により、プーリ比毎の必要推力に対して低減速比側(換言すれば、高変速段側)でベルトクランプ力が過大となり、ベルトフリクションが悪化する、という問題がある。
【0004】
これに対し、本出願人による日本国特許出願第2016−022312号(以下「先願1」という)には、変速用とベルトクランプ用とのそれぞれに電動モータが設けられ、変速用の電動モータにより変速動作に必要なプーリ推力を与える一方、クランプ用の電動モータによりベルトクランプ力を生じさせるようにした自動変速機が開示されている。このものによれば、皿バネに起因した推力過剰の問題の解消を図ることが可能である。しかし、先願1では、クランプ中にクランプモータに対してどのように電力を供給するかが明らかにされておらず、仮にクランプ中、常に電力を供給し続けることとすれば、消費電力の増大を避けることができない。
【0005】
そこで、本発明では、変速用とベルトクランプ用とのそれぞれに電動モータを備える自動変速機において、消費電力の増大を抑制しつつ、ベルトクランプ力を適切に形成可能とすることを目的とする。
【0006】
本発明の一形態では、第1プーリと、第2プーリと、第1プーリおよび第2プーリに掛け回されたベルトと、を有するバリエータと、第1または第2プーリに対し、バリエータを変速させるためのプーリ推力を与える第1モータと、バリエータにベルトクランプ力を生じさせる第2モータと、第2モータとバリエータとの間に設けられ、第2モータの出力トルクをバリエータに伝達させる動力伝達機構と、を備える自動変速機を提供する。本形態では、動力伝達機構が、第2モータからの入力トルクを減速してバリエータに伝達させるサイクロイド減速機を備える。
【0007】
本発明の一形態によれば、ベルトクランプ力を生じさせる第2モータを設置したことで、ベルトクランプ力を適切に形成することが可能となる。そして、ベルトクランプ時の反力としてバリエータから伝達されるカウンタトルクをサイクロイド減速機により大幅に減少させることができるので、ベルトクランプ力の確保に要する第2モータの消費電力を削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る自動変速機を備える車両駆動系の全体構成を示す概略図である。
図2図2は、同上自動変速機の全体構成を示す概略図である。
図3図3は、同上自動変速機に備わるねじ送り機構の構成図である。
図4図4は、同上自動変速機の動力伝達機構に備わるサイクロイド減速機の構成図である。
図5図5は、同上自動変速機の変速時における動作を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0010】
(車両駆動系の構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る自動変速機1を搭載した車両の動力伝達系(以下「駆動系」という)Pの全体構成を概略的に示している。
【0011】
本実施形態に係る駆動系Pは、駆動源として内燃エンジン(以下、単に「エンジン」という)ENGを備え、エンジンENGと左右の駆動輪WHl、WHrとをつなぐ動力伝達経路上に自動変速機1を備えている。エンジンENGと自動変速機1とは、ロックアップクラッチを備えたトルクコンバータT/Cを介して接続されている。自動変速機1は、エンジンENGから入力される回転動力を所定の変速比で変換し、ディファレンシャルギアDEFを介して駆動輪WHl、WHrに出力する。
【0012】
自動変速機1から出力された回転動力は、所定の減速比に設定された最終ギア列または副変速機(いずれも図示せず)およびディファレンシャルギアDEFを介して駆動軸DSl、DSrに伝達され、駆動輪WHl、WHrを回転させる。
【0013】
(制御システムの構成および基本動作)
エンジンENGおよび自動変速機1の動作は、エンジンコントローラECU、変速機コントローラ9により夫々制御される。エンジンコントローラECUおよび変速機コントローラ9は、いずれも電子制御ユニットとして構成され、中央演算装置(CPU)、RAMおよびROM等の各種記憶装置、入出力インターフェース等を備えたマイクロコンピュータからなる。
【0014】
エンジンコントローラECUは、エンジン1の運転状態を検出する運転状態センサの検出信号を入力し、運転状態をもとに所定の演算を実行して、エンジンENGの燃料噴射量、燃料噴射時期および点火時期等を設定する。運転状態センサとして、運転者によるアクセルペダルの操作量を検出するアクセルセンサ111、エンジンENGの回転速度を検出する回転速度センサ112、エンジン冷却水の温度を検出する冷却水温度センサ113等が設けられるほか、図示しないエアフローメータ、スロットルセンサ、燃料圧力センサおよび空燃比センサ等が設けられている。
【0015】
変速機コントローラ9は、エンジンコントローラECUに対し、CAN規格のバス等を介して互いに通信可能に接続されている。さらに、自動変速機1の制御に関連して、車両の走行速度を検出する車速センサ211、自動変速機1の入力軸の回転速度を検出する入力側回転速度センサ212、自動変速機1の出力軸の回転速度を検出する出力側回転速度センサ213、自動変速機1の作動油の温度を検出する作動油温度センサ214、シフトレバーの位置を検出するシフト位置センサ215等が設けられており、変速機コントローラ9は、エンジンコントローラECUからエンジンENGの運転状態としてアクセル開度等を入力するほか、これらのセンサの検出信号を入力する。
【0016】
そして、変速機コントローラ9は、シフト位置センサ215からの信号に基づき運転者により選択されたシフトレンジを判定するとともに、アクセル開度および車速等に基づき自動変速機1の目標変速比を設定し、電動モータ7、8を制御して、プライマリプーリ3およびセカンダリプーリ4の可動プーリ32、42に対して目標変速比に応じた所定のプーリ推力を作用させる。
【0017】
(自動変速機の全体構成)
図2は、本実施形態に係る自動変速機1の全体構成を概略的に示している。
【0018】
図2は、プライマリプーリ3およびセカンダリプーリ4のうち、プーリの回転軸X1、X2を基準とした片側のみを示している。
【0019】
本実施形態において、自動変速機1は、無段型の自動変速機であり、車両用の変速装置を構成する。
【0020】
自動変速機1は、プライマリプーリ3と、セカンダリプーリ4と、これらのプーリ3、4に掛け回されたベルト5と、から構成されるバリエータ2を備える。自動変速機1は、プライマリプーリ3およびセカンダリプーリ4におけるベルト5の巻掛半径を変更することで、変速比を無段階に調整することが可能である。ここで、変速比とは、バリエータ入力軸21の回転速度Niと、バリエータ出力軸22の回転速度Noと、の比(=No/Ni)をいい、本実施形態では、プライマリプーリ3とセカンダリプーリ4との間の回転速度比がこれに相当する。自動変速機1は、エンジンEからトルクコンバータT/Cを介して入力したトルクを、所定の変速比による変速後、ディファレンシャルギアDEFに接続された出力軸22に出力する。プライマリプーリ3は、「第1プーリ」を構成し、セカンダリプーリ4は、「第2プーリ」を構成する。ベルト5は、板厚方向に並べた複数のエレメントをフープないしバンドにより結束したスチールベルトであってもよく、これに限らず、チェーンベルトであってもよい。
【0021】
プライマリプーリ3は、固定プーリ31と、固定プーリ31に対してプライマリプーリ3の回転軸X1の方向に変位可能に設けられた可動プーリ32と、から構成され、可動プーリ32は、固定プーリ31に対し、回転軸X1まわりの相対回転が規制された状態で取り付けられている。固定プーリ31および可動プーリ32は、互いに対向するシーブ面312a、322aを有し、これらのシーブ面312a、322aにより、ベルト5がプライマリプーリ3に巻き掛けられるV溝33が形成される。
【0022】
セカンダリプーリ4も、プライマリプーリ3と同様に、固定プーリ41と可動プーリ42とから構成され、可動プーリ42は、固定プーリ41に対し、セカンダリプーリ4の回転軸X2の方向に変位可能であるとともに、回転軸X2まわりの相対回転が規制された状態で取り付けられている。固定プーリ41および可動プーリ42の互いに対向するシーブ面412a、422aにより、ベルト5がセカンダリプーリ4に巻き掛けられるV溝43が形成される。
【0023】
本実施形態では、プライマリプーリ3およびセカンダリプーリ4のそれぞれにおいて、固定プーリ31、41の回転軸によりプーリの回転軸X1、X2が形成される。
【0024】
プライマリプーリ3およびセカンダリプーリ4のそれぞれにねじ送り機構35、45が設けられ、変速用に設けられた電動モータ(第1モータに相当し、以下「変速モータ」という)7の出力トルクがねじ送り機構35、45を介して可動プーリ32、42に伝達され、V溝33、43の溝幅を狭める方向に可動プーリ32、42を押圧するプーリ推力が生じるように構成されている。さらに、ベルトクランプ用に設けられた電動モータ(第2モータに相当し、以下「クランプモータ」という)8の出力トルクがねじ送り機構35、45を介して可動プーリ32、42に伝達され、ベルト5を可動プーリ32、42および固定プーリ31、41により挟持するベルトクランプ力が生じるように構成されている。
【0025】
本実施形態において、変速モータ7には、最大回転数が大きい電動モータが採用され、クランプモータ8には、最大出力トルクが大きい電動モータが採用されている。変速モータ7およびクランプモータ8の動作は、制御装置9により制御される。制御装置9は、電子制御ユニットとして構成され、マイクロコンピュータ、ROMおよびRAM等の記憶装置、入出力インターフェースを内蔵する。本実施形態において、制御装置9は、変速機コントローラ9により具現される。
【0026】
(ねじ送り機構の構成)
図3は、自動変速機1に備わるねじ送り機構35、45の構成を示している。図3(a)は、プライマリプーリ3側のねじ送り機構35を示し、同図(b)は、セカンダリプーリ4側のねじ送り機構45を示している。
【0027】
プライマリプーリ3側のねじ送り機構35に代表させて説明すると、ねじ送り機構35は、固定プーリ31の回転軸311に外嵌された固定部材36と、固定部材36(具体的には、固定部材36の筒状部361)に外挿された可動部材37と、を有する。
【0028】
可動部材37は、可動プーリ32の回転軸321に対してラジアル軸受B2により支持される一方、可動プーリ32のシーブ部322に対してスラスト軸受SBを介して当接した状態にある。
【0029】
固定部材36は、固定プーリ31の回転軸311をプーリケースCに対して回転可能に支持するラジアル軸受B1により軸方向の移動が規制されるとともに、プーリケースCに対する相対回転が規制された状態にある。固定部材36の相対回転は、固定部材36とプーリケースCとを凹凸等により直接噛み合わせたり、回転規制部材を介して互いに係合させたりすることで規制可能である。本実施形態において、固定部材36は、ボールねじ送り機構のシャフト部を構成し、可動部材37(具体的には、可動部材37の押圧部371)との間に複数のボールBaを保持する。プーリケースCに対する固定部材36の回転が規制された状態にあることから、固定部材36は、可動部材37が回転駆動された場合に、可動部材37に対してプライマリプーリ3の回転軸X1に沿った線形変位を付与する。
【0030】
可動部材37は、可動プーリ32のシーブ部322に当接する円筒状の押圧部371と、押圧部371よりも大きな外径を有する外筒部372と、押圧部371と外筒部372とをつなぐ円板状の接続部373と、を有し、外筒部372の外周上に、複数のギア歯が形成されている。外筒部372のギア歯を介して電動モータ7、8の出力トルクが入力されることで、可動部材37にボールねじ送り機構により回転に基づく線形変位が付与され、可動部材37がスラスト軸受SBを介して可動プーリ32のシーブ部322に押し付けられる。
【0031】
ここで、バリエータ2の変速比を変更する際に、プライマリプーリ3側のねじ送り機構35において、外周部372を介して入力されたトルクにより可動部材37が可動プーリ32を押圧する方向(換言すれば、V溝33の溝幅を狭める方向)に変位する場合は、セカンダリプーリ4側のねじ送り機構45では、外周部472を介して入力されたトルクにより可動部材47が可動プーリ42の固定プーリ41からの離間を許容する方向(換言すれば、V溝43の溝幅を広げる方向)に変位する。
【0032】
これとは反対に、バリエータ2の変速比を変更する際に、プライマリプーリ3側のねじ送り機構35において、外周部372を介して入力されたトルクにより可動部材37が可動プーリ32の固定プーリ31からの離間を許容する方向(換言すれば、V溝33の溝幅を広げる方向)に変位する場合は、セカンダリプーリ4側のねじ送り機構45では、外周部472を介して入力されたトルクにより可動部材47が可動プーリ42を押圧する方向(換言すれば、V溝43の溝幅を狭める方向)に変位する。
【0033】
図2に戻り、本実施形態では、変速モータ7およびクランプモータ8とねじ送り機構35、45との間に、サイクロイド減速機6が介装されている。
【0034】
サイクロイド減速機6は、基本的には、自動変速機一般に備わるピニオンギア型の遊星歯車機構と同様な機能を有し、変速モータ7およびクランプモータ8のうち少なくとも一方の出力トルクをねじ送り機構35、45を介して可動プーリ32、42に伝達させるものである。サイクロイド減速機6は、サイクロイド減速機として一般的に知られているものと同様の構成であってよく、大別すれば、入力軸I(遊星歯車機構におけるサンギアに対応する)と、内歯歯車G1(同じくリングギアに対応する)と、外歯歯車G2(同じくピニオンギアに対応する)と、図示しない内ピンを介して外歯歯車G2と連結された出力軸63と、から構成される。内歯歯車G1の外周上に形成された外歯部61に変速モータ7の出力軸71に固定されたモータピニオン72が係合し、変速モータ7の出力トルクが、モータピニオン72および外歯部61を介して内歯歯車G1に伝達される。一方で、入力軸Iがクランプモータ8の出力軸81に直結され、クランプモータ8の出力トルクが、出力軸81を介して入力軸Iに伝達される。
【0035】
図4は、サイクロイド減速機6の構成を、図2のIV−IV線に沿った断面により示している。
【0036】
図2を併せて参照しつつ、図4によりサイクロイド減速機6についてさらに説明する。
【0037】
サイクロイド減速機6は、入力軸Iを通じて入力したトルクを所定の減速比で減速させ、出力軸63から出力する。外歯歯車G2が内歯歯車G1に対して相対的に偏心揺動運動を行いながら回転し、外歯歯車G2の回転成分を当該減速機6の出力として取り出すものである。外歯歯車G2を固定することで、内歯歯車G1を介して出力することも可能である。
【0038】
サイクロイド減速機6は、入力軸Iと、入力軸Iに嵌合し、入力軸Iと一体に回転する偏心体101と、偏心体101にラジアル軸受102を介して取り付けられ、外周上に複数の外歯が形成された円環状の外歯歯車G2と、外歯歯車G2の外歯と噛み合う複数の内歯が内周上に形成された内歯歯車G1と、外歯歯車G2の回転成分を取り出す部材103を有し、この部材103を介して外歯歯車G2と接続された出力軸63と、を備える。入力軸Iと内歯歯車G1とは、互いに共通の軸Xbを中心として相対回転可能な状態にある。
【0039】
偏心体101は、入力軸Iの中心O1に対して所定の偏心量eだけ偏心させた状態で入力軸Iに取り付けられている(偏心体101の中心を、O2により示す)。
【0040】
外歯歯車G2には、周方向に間隔を空けて(本実施形態では、互いに等しい間隔を空けて)複数の内ローラ孔104が形成され、内ローラ孔104のそれぞれに、上記「外歯歯車の回転成分を取り出す部材」である内ピン103が遊嵌されている。出力軸63にフランジ部Fが形成され、内ピン103が外歯歯車G2の内ローラ孔104に遊嵌されるとともに、このフランジ部Fに固着または接合されることで、外歯歯車G2と出力軸63とが内ピン103を介して接続された状態にある。
【0041】
さらに、外歯歯車G2には、その外周上にトロコイド歯形(具体的には、エピトロコイド平行曲線歯形)の外歯t2が形成されている。外歯歯車G2は、この外歯t2を介して内歯歯車G1と内接係合する。
【0042】
内歯歯車G1には、内周上に複数の外ピン105が取り付けられている。具体的には、内歯歯車G1の内周上にその全周に亘って複数のピン溝106が形成され、ピン溝106のそれぞれに外ピン105が嵌入されている。外ピン105のうち、内径側に露出する部分により内歯t1の歯面が形成される。
【0043】
入力軸Iが回転すると、偏心体101が入力軸Iと一体に回転し、外歯歯車G2に力が伝達される。ここで、偏心体101の回転は、入力軸Iの一回転毎に一回である。偏心体101の回転に伴い、外歯歯車G2も入力軸Iまわりで回転しようとするが、内歯歯車G1との噛合に起因した拘束により回転が制約された状態にあるため、外歯歯車G2は、入力軸Iを基準とした偏心搖動運動と、入力軸Iを中心とする多少の自転運動とを同時に行うことになる。ここで、外歯歯車G2の回転速度は、外歯歯車G2と内歯歯車G1との歯数の差に応じたものとなり、外歯歯車G2の回転方向は、入力軸Iの回転方向とは逆向きである。
【0044】
例えば、外歯歯車G2の歯数をnとし、内歯歯車G1の歯数をn+1とすると、これらの歯数差Dnは、1である。よって、内歯歯車G1は、入力軸Iが一回転する間に外歯歯車G2に対して一歯数分だけ回転方向にずれることになる。これが外歯歯車G2の回転成分として内ピン103を介して出力軸63に伝達される。そして、このことは、入力軸Iの回転が1/nだけ減速された状態で外歯歯車G2に伝達され、入力軸Iと出力軸63との間の減速比がnであることを意味する。本実施形態では、外歯歯車G2の歯数nを60とすることで、サイクロイド減速機6の減速比が60に設定されている。これは、一般的な遊星歯車機構について設定されるものよりも、大幅に大きな減速比である。
【0045】
外歯歯車G2の回転は、内ピン103と内ローラ孔104との間の隙間により搖動成分が吸収され、内ピン103を介して回転成分のみが出力軸63に伝達され、減速比nの変速が達成される。減速比nは、60に限らず、適宜に設定することが可能である。
【0046】
本実施形態において、サイクロイド減速機6の出力軸63には、その先端に、セカンダリプーリ4側の出力ギア部64が結合されている。出力ギア部64は、セカンダリプーリ4側のねじ送り機構45の可動部材47に設けられたギア部(外筒部472)と係合し、外歯歯車G2が回転すると、サイクロイド減速機6の出力トルクが出力軸63および出力ギア部64を介してねじ送り機構45に入力される。
【0047】
さらに、内歯歯車G1には、出力軸63と平行に延びる筒状部に円環状の出力ギア部62が設けられ、このプライマリプーリ3側の出力ギア部62は、プライマリプーリ3側のねじ送り機構35の可動部材37に設けられたギア部(外筒部372)と係合し、内歯歯車G1が回転すると、サイクロイド減速機6の出力トルクが出力ギア部62を介してねじ送り機構35に入力される。
【0048】
サイクロイド減速機6は、変速モータ7の出力トルクとクランプモータ8の出力トルクとから、バリエータ2の変速比を変更したり、変速比を固定したりするためのトルクを調整する。
【0049】
具体的には、バリエータ2の変速比を変更する場合は、変速モータ7の出力トルクがサイクロイド減速機6を介してねじ送り機構35、45に入力され、可動部材37、47を回転軸X1、X2に沿って駆動する力(プーリ推力)に変換される。例えば、ねじ送り機構35の可動部材37により可動プーリ32が押圧されることで、プライマリプーリ3側でV溝33の溝幅が縮小される一方、ねじ送り機構45の可動部材47により可動プーリ42の固定プーリ41から離間する方向への変位が許容されることで、セカンダリプーリ4側でV溝43の溝幅が拡大される。
【0050】
図5は、本実施形態に係る自動変速機1の変速時における動作を示している。
【0051】
変速時では、クランプモータ8を駆動して保持トルクを発生させ、入力軸Iを固定するとともに、変速モータ7により変速比を変更するためのプーリ推力を生じさせる。変速モータ7の出力トルクを変化させ、プライマリプーリ3とセカンダリプーリ4とに作用するプーリ推力に差(以下「推力差」という)を生じさせることで、所望の変速比を達成する。
【0052】
変速モータ7の出力トルクがモータピニオン72および内歯歯車G1の外歯部61を介して内歯歯車G1に入力され、内歯歯車G1がサイクロイド減速機6の中心軸Xまわりで回転する。内歯歯車G1が回転すると、これに追従して、外歯歯車G2が偏心体101を中心として回転する。これにより、内歯歯車G1に結合された出力ギア部62と、外歯歯車G2に出力軸63を介して連結された出力ギア部64と、が中心軸Xまわりで互いに同じ方向CWに回転し、変速モータ7の出力トルクがねじ送り機構35、45の可動部材37、47に入力される。
【0053】
出力ギア部62、64の回転がねじ送り機構35、45により可動部材37、47の線形変位に変換され、可動部材37、47が回転軸X1、X2に沿って移動する。例えば、プライマリプーリ3側のねじ送り機構35において、可動部材37が可動プーリ32に近付く方向に移動し、V溝33の溝幅を狭めるように可動プーリ32のシーブ部322を押圧する場合は、セカンダリプーリ4側のねじ送り機構45において、可動部材47が可動プーリ42のシーブ部422から離間し、可動プーリ42の固定プーリ41から離れる方向の変位を許容する。これにより、プライマリプーリ3におけるV溝33の溝幅が狭められ、ベルト5の巻掛半径が拡大される一方、セカンダリプーリ4におけるV溝43の溝幅が広げられ、ベルト5の巻掛半径が縮小され、変速が実行される。
【0054】
これに対し、変速比を保持する場合(換言すれば、プーリ推力が一定である場合)は、クランプモータ8への電力の供給を停止し、サイクロイド減速機6によりクランプモータ8におけるフリクショントルクを増大させ、ベルトクランプ力を維持する。換言すれば、サイクロイド減速機6により、バリエータ2からベルトクランプ時の反力に基づき入力軸Iに作用するカウンタトルクを、クランプモータ8におけるフリクショントルクよりも減少させるのである。
【0055】
一例として、サイクロイド減速機6の減速比をR=60とした場合に、可動プーリ32または42に対する推力(プーリ推力)をN=50kN、ボールねじ送り機構の変換効率をη=0.88、ボールねじのリードをL=10mm、出力ギア部62または64における伝達効率をε=0.99、サイクロイド減速機6の伝達効率をν=0.1とすれば、ベルトクランプ時にサイクロイド減速機6の入力軸Iに作用するカウンタトルクは、0.075Nmとなる。これに対し、クランプモータ8におけるオイルシールの粘性摩擦トルクをT1=0.065Nm、ブラシの摩擦トルクをT2=0.04Nmとすると、これらのフリクショントルクに基づき入力軸Iに作用する入力トルクは、0.105Nmとなり、入力軸Iに対してカウンタトルクよりも大きなトルクがかかっていることになり、クランプモータ8によりトルクを出力せずに、可動プーリ32、42の位置を維持し、ベルトクランプ力を保持することが可能である。
【0056】
(作用効果の説明)
以上で述べたように、本実施形態によれば、変速用の電動モータ(変速モータ7)に加え、ベルトクランプ用の電動モータ(クランプモータ8)を設置したことで、皿バネ等を用いるこれまでの自動変速機とは異なり、ベルトクランプ力を適切に形成し、ベルトフリクションを低減することが可能となる。
【0057】
そして、ベルトクランプ時の反力としてバリエータ2から伝達されるカウンタトルクをサイクロイド減速機6により大幅に減少させることができるので、ベルトクランプ力の確保に要する消費電力を削減することが可能となる。
【0058】
具体的には、サイクロイド減速機6の入力軸Iに対してバリエータ2からベルトクランプ時の反力に基づき作用するカウンタトルクをクランプモータ8におけるフリクショントルクよりも減少させ、クランプモータ8によりトルクを生じさせることなく、換言すれば、クランプモータ8への電力の供給を停止した状態で、必要なベルトクランプ力を確保することができる。
【0059】
さらに、クランプモータ8が故障した場合であってもベルトクランク力が確保されることで、車両の退避走行を可能とすることができる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は、本発明の適用例の一部を示すものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。本発明は、請求の範囲に記載した事項の範囲内において、様々な変更および修正が可能である。
【0061】
本願は、2016年10月11日付けで日本国特許庁に出願された特願2016−200339号に基づく優先権を主張するものであり、その出願の全ての内容は、参照により本願の明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5