(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6622976
(24)【登録日】2019年11月29日
(45)【発行日】2019年12月18日
(54)【発明の名称】アルカリ電池
(51)【国際特許分類】
H01M 6/08 20060101AFI20191209BHJP
H01M 4/06 20060101ALI20191209BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20191209BHJP
【FI】
H01M6/08 A
H01M4/06 E
H01M4/06 T
H01M4/62 C
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-54669(P2015-54669)
(22)【出願日】2015年3月18日
(65)【公開番号】特開2016-173977(P2016-173977A)
(43)【公開日】2016年9月29日
【審査請求日】2018年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】野上 武男
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 賢大
(72)【発明者】
【氏名】夏目 祐紀
(72)【発明者】
【氏名】安西 晋吾
【審査官】
渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−114447(JP,A)
【文献】
特開2014−127362(JP,A)
【文献】
特開2000−340237(JP,A)
【文献】
特開平07−282803(JP,A)
【文献】
特開2009−170163(JP,A)
【文献】
特開平05−258748(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 6/08
H01M 4/06
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状の正極缶と、前記正極缶内に当該正極缶と同軸に積層される中空円筒状の複数のペレットで構成される正極合剤と、前記正極合剤の内周側に設けられるセパレータと、前記セパレータの内周側に充填される負極合剤と、前記負極合剤に挿入される負極集電体と、前記正極缶の開口部に設けられる負極端子板と、アルカリ性の電解液と、を備え、前記ペレットは、正極活物質及び陰イオン型界面活性剤を含み、
隣接する前記ペレットの間に間隔が設けられ、
前記界面活性剤が、前記ペレットの全体に対して0.003〜0.03wt%の割合で含まれている、
ことを特徴とするアルカリ電池。
【請求項2】
請求項1に記載のアルカリ電池であって、前記界面活性剤は、アルキルリン酸エステル(R−O−PO−(OX)(OY))(RはC5〜C10のアルキル基、X,Yは、夫々、H,Na,Kのいずれか。)、アルキル硫酸エステル(R−O−SO3X)(RはC5〜C10のアルキル基、Xは、Na,Kのいずれか。)、及びアルキルスルホン酸(R−SO3X)(RはC5〜C10のアルキル基、Xは、Na,Kのいずれか。)から選択されることを特徴とするアルカリ電池。
【請求項3】
請求項2に記載のアルカリ電池であって、前記界面活性剤は、アルキルスルホン酸(R−SO3X)(RはC5〜C10のアルキル基、Xは、Na,Kのいずれか。)であることを特徴とするアルカリ電池。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のアルカリ電池であって、前記ペレットの成形密度が3.0〜4.0g/cm3の範囲であることを特徴とするアルカリ電池。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のアルカリ電池であって、前記正極合剤は、二酸化マンガン及び導電材を含み、前記負極合剤は、亜鉛を主成分とする粉末を含み、前記電解液は、水酸化カリウムを主成分とすることを特徴とするアルカリ電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ電池の放電性能、とくに重負荷放電性能の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、デジタルカメラ、ビデオカメラ、携帯電話機、スマートフォン等の電子機器の高性能化及び小型化が進んでおり、こうした電子機器の電源として用いられるアルカリ電池に対する性能向上、とくに重負荷放電性能の改善に対する要求が高まっている。
【0003】
アルカリ電池の放電性能の改善に関する技術として、例えば、特許文献1には、電池内のガス発生を防止し、短時間で多量の電解液を吸収できるようにするために、二酸化マンガンに導電剤の黒鉛と成形助剤とを混合し、次いでこの混合物を所定形状に成形してなるアルカリマンガン電池用正極の製造方法において、この混合物を所定の形状に成形する前あるいは後に、ノニオン系界面活性剤あるいはアニオン系界面活性剤を混合物に添加・混合することにより表面処理することが記載されている。
【0004】
また特許文献2には、アルカリ電池の放電性能を改善する技術に関し、黒鉛の含有率の低い正極合剤においても成形が容易でかつ電解液吸液性が良好にして優れた放電性能を得ることができるようにするために、主活物質である二酸化マンガンと導電助剤の黒鉛とを混合してなる正極合剤を成型金型によって筒状に成形するに先立ち、ステアリン酸塩に純水または水酸化カリウム等のアルカリ水溶液と界面活性剤とを混合してなるステアリン酸塩の乳液を該正極合剤に添加することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−282803号公報
【特許文献2】特開平10−64528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1,2に記載されているように、アルカリ電池の重負荷放電性能を向上させるには、正極合剤に吸収させる電解液の量を増やすことが有効である。正極合剤に電解液を十分に吸収させることで、正極活物質の利用率が向上し、重負荷放電性能を向上させることができる。
【0007】
本発明は、このような観点からなされたもので、アルカリ電池の放電性能の向上、とくに重負荷放電性能に優れたアルカリ電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明のうちの一つは、有底筒状の正極缶と、前記正極缶内に当該正極缶と同軸に積層される中空円筒状の複数のペレットで構成される正極合剤と、前記正極合剤の内周側に設けられるセパレータと、前記セパレータの内周側に充填される負極合剤と、前記負極合剤に挿入される負極集電体と、前記正極缶の開口部に設けられる負極端子板と、アルカリ性の電解液と、を備え、前記ペレットは、正極活物質及び陰イオン型界面活性剤を含み、
隣接する前記ペレットの間に間隔が設けられ、
前記界面活性剤が、前記ペレットの全体に対して0.003〜0.03wt%の割合で含まれている、ことを特徴とするアルカリ電池である。
【0009】
本発明の他の一つは、
前記界面活性剤が、アルキルリン酸エステル(R−O−PO−(OX)(OY))(RはC5〜C10のアルキル基、X,Yは、夫々、H,Na,Kのいずれか。)、アルキル硫酸エステル(R−O−SO3X)(RはC5〜C10のアルキル基、Xは、Na,Kのいずれか。)、及びアルキルスルホン酸(R−SO3X)(RはC5〜C10のアルキル基、Xは、Na,Kのいずれか。)から選択されるアルカリ電池であり、さらに、前記界面活性剤が、アルキルスルホン酸(R−SO3X)(RはC5〜C10のアルキル基、Xは、Na,Kのいずれか。)であるアルカリ電池としてもよい。
【0011】
本発明の他の一つは、上記アルカリ電池であって、前記ペレットの成形密度が3.0〜4.0g/cm
3の範囲であることとする。
【0012】
本発明の他の一つは、上記アルカリ電池であって、前記正極合剤は、二酸化マンガン及び導電材を含み、前記負極合剤は、亜鉛を主成分とする粉末を含み、前記電解液は、水酸化カリウムを主成分とすることとする。
【0013】
その他、本願が開示する課題、及びその解決方法は、発明を実施するための形態の欄、及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、放電性能、とくに重負荷放電性能に優れたアルカリ電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の円筒形アルカリ電池の構造を示す図である。
【
図2】従来の一般的なアルカリ電池の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に本発明の適用対象となる一般的な円筒形アルカリ電池(LR6型(単三形)アルカリ電池)の構成(以下、アルカリ電池1と称する。)を示している。尚、同図ではアルカリ電池1を縦断面図(アルカリ電池1の円筒軸の延長方向を上下(縦)方向としたときの断面図)として示している。
【0017】
同図に示すように、アルカリ電池1は、有底筒状の金属製の電池缶(以下、正極缶11と称する。)、正極缶11に挿入される正極合剤21(中空円筒状の3つのペレット21a〜21cで構成される。)の内周側に設けられる有底円筒状のセパレータ22、セパレータ22の内周側に充填される負極合剤23、正極缶11の開口部に樹脂製の封口ガスケット35を介して嵌着される負極端子板32、及び負極端子板32の内側にスポット溶接等によって固設される、真鍮等の素材からなる棒状の負極集電子31を備えている。正極合剤21、セパレータ22、及び負極合剤23は、アルカリ電池1の発電要素20を構成している。
【0018】
正極缶11は導電性であり、例えば、ニッケルメッキ鋼板等の金属材をプレス加工することにより形成したものである。正極缶11は、正極集電体並びに正極端子としての機能を兼ねており、その底部に凸状の正極端子部12が一体形成されている。
【0019】
正極合剤21を構成する3つのペレット21a〜21cは同形同大である。これらの成分は共通しており、正極活物質としての電解二酸化マンガン(EMD)、導電材としての黒鉛、バインダーとしてのポリアクリル酸、水酸化カリウム(KOH)を主成分とする電解液、及び界面活性剤(例えば、陰イオン型の界面活性剤)を含む。尚、本実施形態では、3つのペレット21a〜21cとして、電解二酸化マンガン(EMD)、黒鉛、及びポリアクリル酸を混合(乾式混合)し、それにより得た混合物に水酸化カリウム(KOH)を主成分とする電解液(40質量%KOH水溶液)及び界面活性剤(液体)を混合(湿式混合)し、さらに混合物を圧延、解砕、造粒、分級等の工程にて処理した後、圧縮し環状に成形することにより作製したものを用いる。
【0020】
同図に示すように、正極缶11内には、3つのペレット21a,21b,21cが、その円筒軸が正極缶11の円筒軸と同軸となるように上下方向に積層されて圧入されている。また同図に示すように、ペレット21aとペレット21bは接触せず、ペレット21aとペレット21bとの間には所定長さの間隔51が存在する。また、ペレット21bとペレット21cは接触せず、ペレット21bとペレット21cとの間には所定長さの間隔52が存在する。尚、以下において、間隔51,52のことを合剤間隔とも称する。ペレット21cの正極端子部12側の面は正極缶11に密着している。比較のために
図2に合剤間隔を設けていない従来の一般的なアルカリ電池の構成を示す。
【0021】
負極合剤23は、負極活物質としての亜鉛合金粉末をゲル化したものである。亜鉛合金粉末は、ガスアトマイズ法や遠心噴霧法によって造粉されたものであり、亜鉛、ガスの発生の抑制(漏液防止)等を目的として添加される合金成分(ビスマス、アルミニウム、インジウム等)、及び電解液としての水酸化カリウムを含む。負極集電子31は、負極合剤23の中心部に貫入されている。
【0022】
=放電性能=
以上の構成からなるアルカリ電池1について、放電性能、とくに重負荷放電性能の改善効果を検証すべく、以下の試験1〜3を行った。
【0023】
<試験1>
試験1では、以上の構成からなるアルカリ電池1について、複数のサンプルを作製し、正極合剤21(ペレット21a,21b,21c)に界面活性剤を添加すること、及び合剤間隔を設けることによる放電性能の改善効果を検証した。いずれのアルカリ電池1についても、正極合剤21(ペレット21a,21b,21c)の密度(以下、合剤密度とも称する。)は3.5g/cm
3とした。界面活性剤には、アルキルリン酸エステル(R−O−PO−(OX)(OY))(RはC5〜C10のアルキル基、X,Yは、夫々、H,Na,Kのいずれか。)(以下、界面活性剤(A)とも称する。)を用いた。界面活性剤は、正極合剤21(ペレット21a,21b,21c)に対して0.030質量%を添加した。
【0024】
吸液量の測定は、正極合剤21(ペレット21a,21b,21c)を正極缶11に挿入し、セパレータ22を挿入した後、十分な量の電解液を注入して30分間吸液させ、その後、余剰の電解液を吸い出して、正極合剤21(ペレット21a,21b,21c)の重量変化を測定することにより行った。放電性能は、デジタルカメラの使用時等における重負荷放電を想定したサイクル放電試験(1500mWで2秒放電、650mWで28秒放電のサイクルを1時間当たり10回(一時間当たりの休止期間は約55分))を行い、終止電圧(1.05V)に至るまでのサイクル数を計数することにより測定した。
【0025】
表1に各サンプル(サンプル(1)〜サンプル(4))の試験結果を示す。尚、吸液量及び放電性能を表す表中の数値は、サンプル(1)のアルカリ電池1の吸液量又は放電性能を100としたときの相対値である。
【0026】
表1に示すように、正極合剤21(ペレット21a,21b,21c)に界面活性剤を添加せず、かつ、合剤間隔を設けていないサンプル(1)に比べて、界面活性剤の添加のみを行ったサンプル(2)、合剤間隔のみを設けたサンプル(3)は、いずれも吸液量及び放電性能について若干の改善が見られた。一方、界面活性剤を添加し、かつ、合剤間隔を設けたサンプル(4)については、吸液量及び放電性能のいずれも20%程度と大きく改善された。これは正極合剤21(ペレット21a,21b,21c)に界面活性剤を添加したことで電解液の浸透性が向上し、さらに合剤間隔を設けたことにより正極合剤21(ペレット21a,21b,21c)と電解液との間の接触面積が増大し、界面活性剤を添加したことによる電解液の浸透性が大きく促進されたからであると考えられる。
【0027】
<試験2>
試験2では、界面活性剤の種類並びに添加量を変えた複数のサンプルを作製し、界面活性剤の種類と添加量の違いによる放電性能の改善効果を検証した。いずれのアルカリ電池1についても、正極合剤21(ペレット21a,21b,21c)の密度(以下、合剤密度とも称する。)は3.5g/cm
3とした。界面活性剤は、前述した界面活性剤(A)の他、アルキル硫酸エステル(R−O−SO
3X)(RはC5〜C10のアルキル基、XはNa,Kのいずれか。)(以下、界面活性剤(B)とも称する。)、及びアルキルスルホン酸(R−SO
3X)(RはC5〜C10のアルキル基、XはNa,Kのいずれか。)(以下、界面活性剤(C)とも称する。)を用いた。吸液量及び放電性能の測定は試験1と同様の方法で行った。
【0028】
表2に各サンプル(サンプル(5)〜サンプル(19))の試験結果を示す。同表における界面活性剤の添加量は、正極合剤21(ペレット21a,21b,21c)に対する質量%で示している。吸液量及び放電性能を表す表中の数値は、表1に示したサンプル(1)のアルカリ電池1の吸液量又は放電性能を100としたときの相対値である。
【0029】
表2に示すように、界面活性剤の種類がいずれであっても、界面活性剤の添加量が0.003〜0.300質量%の範囲(サンプル(5)〜(8)、サンプル(11)〜(13)、サンプル(16)〜(18))では、吸液量及び放電性能のいずれも20%程度と大きく改善されている。また界面活性剤の種類がいずれであっても、界面活性剤の添加量が0.003質量%未満になると吸液量及び放電性能のいずれも低下した。また界面活性剤の種類がいずれであっても、界面活性剤の添加量が0.300質量%を超えると放電性能が低下した。
【0030】
<試験3>
試験3では、合剤密度を変えた複数のサンプルを作製し、合剤密度の違いによる改善効果を検証した。界面活性剤としては界面活性剤(A)を用いた。界面活性剤は、正極合剤21(ペレット21a,21b,21c)に対して0.030質量%を添加した。吸液量及び放電性能の測定は試験1と同様の方法で行った。
【0031】
表3に各サンプル(サンプル(20)〜サンプル(29))の試験結果を示す。吸液量及び放電性能を表す表中の数値は、表1に示したサンプル(1)のアルカリ電池1の吸液量又は放電性能を100としたときの相対値である。
【0032】
表3に示すように、界面活性剤を添加し、かつ、合剤間隔を設けた場合は、合剤密度が3.0〜4.0g/cm
3の範囲(サンプル(23),(25),(27))、吸液量及び放電性能のいずれも20%程度と大きく改善されることがわかった。また合剤密度が3.0g/cm
3未満の場合、及び合剤密度が4.0g/cm
3を超える場合は、界面活性剤を添加し、かつ、合剤間隔を設けた場合でも、吸液量及び放電性能の改善効果が少なかいかもしくは確認できなかった。
【0033】
<総評>
以上の試験1〜3の結果より、正極合剤21(ペレット21a,21b,21c)に界面活性剤を添加し、かつ、合剤間隔を設けることで、放電性能(重負荷放電性能)が改善されることがわかった。
【0034】
また界面活性剤がいずれの種類であっても、界面活性剤の添加量を0.003〜0.300質量%の範囲とすることで、吸液量及び放電性能のいずれも20%程度と大きく改善されることがわかった。
【0035】
また合剤密度を3.0〜4.0g/cm
3の範囲とすることで、放電性能が大きく改善されることがわかった。
【0036】
ところで、以上の説明は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【0037】
例えば、以上の実施形態では、正極合剤21を構成するペレットの数を3つとしたが、ペレットの数は2つもしくは4つ以上であってもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 アルカリ電池、11 正極缶、12 正極端子部、20 発電要素、21 正極合剤、21a,21b,21c ペレット、22 セパレータ、23 負極合剤、31 負極集電子、32 負極端子板、35 封口ガスケット、51,52 間隔(合剤間隔)