(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、ステッピングモータは、オープン制御の容易さや保持トルクの大きい特長を有し、非常に多くの数が多岐の分野で使われている。
【0003】
しかし、このステッピングモータは、駆動時の騒音や効率の問題があるといわれている。
【0004】
このステッピングモータの振動を低減するための既存技術としては、マイクロステップ駆動がある。
【0005】
このマイクロステップ駆動は、ステッピングモータに供給する駆動電流の電流変化のステップを細かくし、滑らかにステッピングモータを駆動する技術である。特に、駆動電流の波形を疑似正弦波にすることで、駆動電流がステッピングモータを駆動する際に理想とされる正弦波に近くなる。
【0006】
但し、各電流ステップの移行タイミングは、基準クロック信号に同期され制御されている。このため、ステッピングモータを同じ回転数で駆動する場合は、マイクロステップ駆動でステップが細かくなるとともに、基準クロック信号の周波数を高くする必要がある。
【0007】
したがって、基準クロック信号を出力するMCU(Mechanism Control Unit)へ負荷が掛りすぎるため、マイクロステップ駆動を用いた振動対策にも限界がある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、各実施形態について図面に基づいて説明する。
【0013】
図1は、第1の実施形態に係るステッピングモータ駆動回路10を含むステッピングモータ駆動システム100の構成の一例を示す図である。また、
図2は、基準クロック信号CLKと、ステッピングモータMのコイルに供給される疑似正弦波状の駆動電流の波形と、イネーブル信号SEと、を示す波形図である。なお、
図2の例では、2つの相(A相、B相)のコイルに供給される駆動電流を示している。また、
図2の例では、簡単のため、イネーブル信号SEは、A相の駆動電流に対応するもののみ表記し、B相の駆動電流に対応するものは省略している。また、以下では、A相の駆動電流IAに注目して説明するが、B相の駆動電流や、さらに他の相の駆動電流に関してもA相と同様である。
【0014】
図1に示すように、ステッピングモータ駆動システム100は、制御装置MCUと、ステッピングモータMと、ステッピングモータ駆動システム10と、を備える。
【0015】
ステッピングモータMは、電磁石を構成する複数のコイルを含むステータ(図示せず)と、磁石を含むロータ(図示せず)と、を有する。
【0016】
制御装置MCUは、基準クロック信号CLKや指令信号(ステッピングモータMの回転速度、位相やトルク等を規定する信号)を、ステッピングモータ駆動回路10に出力する。
【0017】
ステッピングモータ駆動回路10は、外部の制御装置MCUから入力される基準クロック信号CLK、指令信号に応じて、ステッピングモータMの駆動を制御する。
【0018】
このステッピングモータ駆動回路10は、例えば、
図1に示すように、電流制御回路DCと、コンパレータCOMPと、論理回路LCと、を備える。
【0019】
論理回路LCは、外部(制御装置MCU)から入力される基準クロック信号CLK、指令信号、及び、コンパレータCOMPから入力される比較結果信号S1に基づいて、制御信号SCを出力する。
【0020】
また、論理回路LCは、駆動電流IAがゼロA(ゼロ%)になる期間にコンパレータCOMPの比較動作を活性化させるイネーブル信号SEを、コンパレータCOMPに出力する。
【0021】
また、コンパレータCOMPは、駆動電流IAがゼロAの時、すなわち、イネーブル信号SEがアクティブの時、比較動作を行う。コンパレータCOMPは、ステッピングモータMのコイルの励磁電圧の測定値と、予め設定された閾値Vrefとを比較し、この比較結果に基づいた比較結果信号S1を論理回路LCに出力する。
【0022】
例えば、駆動電流IAがゼロAの時のコイルの励磁電圧の測定値が既述の閾値未満である場合、コイルの誘起電圧の位相が目標位相よりも進んでいる(ステッピングモータMに目標値以上のトルクが発生するように駆動電流が供給されている)と判断される。
【0023】
一方、駆動電流IAがゼロAの時のコイルの励磁電圧の測定値が既述の閾値以上である場合、コイルの誘起電圧の位相が目標位相よりも遅れている(ステッピングモータMに目標値未満のトルクが発生するように駆動電流が供給されている(駆動電流が足りない))と判断される。
【0024】
なお、目標位相とは、ステッピングモータMのトルクが目標値であるときにおける、コイルの励磁電圧の位相である。
【0025】
電流制御回路DCは、制御信号SCに応じて、駆動電流IAを制御する。
【0026】
例えば、電流制御回路DCは、ステッピングモータMのステータのコイルに、基準クロック信号CLKの周期で階段状に変化する疑似正弦波状の波形の駆動電流IAを供給する(
図2)。
【0027】
ここで、上述のように、制御信号SCは、基準クロック信号CLK、外部(制御装置MCU)から入力される指令信号、及び、比較結果信号S1に基づく信号である。このように、制御信号SCは、比較結果信号S1に含まれる上述のコイルの誘起電圧の位相に関する情報を含む。
【0028】
言い換えれば、電流制御回路DCは、クロックCLKに同期せずにコイルの誘起電圧の位相に関する情報、すなわち、比較結果信号S1に応じて、駆動電流IAの波形を変化させる。
【0029】
例えば、電流制御回路DCは、駆動電流IAがゼロの時のコイルの励磁電圧の測定値が既述の閾値未満であることを比較結果信号S1が示す場合には、駆動電流IAの疑似正弦波状の波形が正弦波に近づくように、駆動電流IAを制御する。
【0030】
すなわち、電流制御回路DCは、コイルの誘起電圧の位相が目標位相よりも進んでいる場合には、駆動電流IAの疑似正弦波状の波形が正弦波に近づくように、駆動電流IAを制御する。
【0031】
特に、電流制御回路DCは、駆動電流IAの疑似正弦波状の波形が正弦波に近づくように、基準クロック信号CLKの周期よりも短い周期で(基準クロック信号CLKを超えた分解能で)駆動電流IAを正弦波に近づけるよう制御することができる。
【0032】
そのため、階段状に正弦波を分割し制御する疑似正弦波において、その階段状の電流を疑似分割し、階段電流(ステップ電流)のステップ間をアナログ状の遷移電流として補完する。そして、電流軌跡をステップではなくアナログ遷移波形に近い電流値とすることで、ステップ遷移でのトルク変動と、電気的なdi/dtの急変による磁力及び機械側の応答・反応遅れによる振動影響の影響を極小化できる。これにより、高周波成分のノイズ、及び、コギングトルクの減少が期待できる。
【0033】
なお、コイルの励磁電圧の情報に加えて、ひとつ前のタイミング(ステップとステップとの間、及び、電気角単位)のモータ回転スピードの情報に基づいて、駆動電流を制御してもよい。これにより、階段状のステップ間の電流軌跡の補完精度を上げることができるため、さらなる、騒音抑制精度を実現できる。
【0034】
一方、駆動電流IAがゼロAの時のコイルの励磁電圧の測定値が既述の閾値以上であることを比較結果信号S1が示す場合には、電流制御回路DCは、駆動電流IAの絶対値の平均値が増加するように、駆動電流IAを制御する。
【0035】
すなわち、電流制御回路DCは、コイルの誘起電圧の位相が目標位相よりも遅れている場合には、駆動電流IAの絶対値の平均値が増加するように、駆動電流IAを制御する。
【0036】
特に、電流制御回路DCは、コイルの誘起電圧の位相が目標位相よりも大きく遅れている場合、駆動電流IAの疑似正弦波状の波形を矩形波に近づくように、駆動電流IAを制御する。
【0037】
ここで、ステッピングモータMの動作時に、階段状の駆動電流のステップとステップとの間では、駆動電流に対して定電流制御をかける。この時に、ステッピングモータMの回転による発電効果及びステッピングモータMのロータとステータ間の誘導による起電力によってPWM制御のデューティが変化する。このデューティの変化を監視することによりロータの推定位置が概算できるため、PWM制御のデューティ変化のパラメータを定電流の基準値の変化(補填係数)へ補填することができ、精度を向上させることができる。また、定位電流の値を自動ゲイン制御(Auto Gain Control)技術に用いるようにしてもよい。
【0038】
また、ステッピングモータMの非動作時のステッピングモータMのリアクタンス、抵抗値を求めるようにしてもよい。これらの値を駆動前のセットアップ時に測定できるシステムをステッピングモータ駆動回路10に適用することによりさらに、波形精度を向上させることができる。
【0039】
ここで、以上のような構成を有するステッピングモータ駆動回路10の動作特性について説明する。
【0040】
図3は、コイルの誘起電圧の位相が目標位相よりも進んでいる場合における、コイルに誘起される誘起電圧の波形の一例を示す波形図である。なお、
図3において、aは、測定されたコイルの誘起電圧の波形を示し、bは、目標位相の誘起電圧の波形を示す。また、
図4は、コイルの誘起電圧の位相が目標位相よりも進んでいる場合に、電流制御回路DCが出力する駆動電流の波形の一例を示す波形図である。
【0041】
例えば、コイルの誘起電圧の位相が目標位相よりも進んでいる場合(
図3)、既述のように、電流制御回路DCは、駆動電流IAの疑似正弦波状の波形が正弦波に近づくように、駆動電流を制御する(
図4)。
【0042】
これにより、ステップ遷移でのトルク変動と、電気的なdi/dtの急変による磁力及び機械側の応答・反応遅れによる振動影響の影響を極小化できる。これにより、高周波成分のノイズ、及び、コギングトルクの減少が期待できる。
【0043】
また、
図5は、コイルの誘起電圧の位相が目標位相よりも遅れている場合における、コイルに誘起される誘起電圧の波形の一例を示す波形図である。なお、
図5において、aは、測定されたコイルの誘起電圧の波形を示し、bは、目標位相の誘起電圧の波形を示す。また、
図6は、コイルの誘起電圧の位相が目標位相よりも遅れている場合に、電流制御回路DCが出力する駆動電流の波形の一例を示す波形図である。
【0044】
例えば、コイルの誘起電圧の位相が目標位相よりも遅れている場合(
図5)、既述のように、電流制御回路DCは、駆動電流IAの絶対値の平均値が増加するように、駆動電流を制御する(
図6)。
図6の例では、変化させる前の駆動電流の振幅を上限として、疑似正弦波の各位相で電流値が増加するように、駆動電流が制御されている。
【0045】
これにより、ステッピングモータMに供給される駆動電流が増加するので、トルクを増加させて既述の目標値に近づけることができる。すなわち、トルク不足による、ステッピングモータMの振動を低減することができる。
【0046】
また、
図7は、コイルの誘起電圧の位相が目標位相よりも大きく遅れている場合における、コイルに誘起される誘起電圧の波形の一例を示す波形図である。なお、
図7において、aは、測定されたコイルの誘起電圧の波形を示し、bは、目標位相の誘起電圧の波形を示す。
図8は、コイルの誘起電圧の位相が目標位相よりも大きく遅れている場合に、電流制御回路DCが出力する駆動電流の波形の一例を示す波形図である。
【0047】
既述のように、電流制御回路DCは、電流制御回路DCは、駆動電流IAの疑似正弦波状の波形を矩形波に近づくように、駆動電流IAを制御する。
図8の例では、駆動電流は、変化させる前の駆動電流の振幅を上限として、台形状に制御されている。
【0048】
これにより、ステッピングモータMに供給される駆動電流がさらに増加するので、トルクをさらに増加させて既述の目標値に近づけることができる。すなわち、トルク不足による、ステッピングモータMの振動をより確実に低減することができる。
【0049】
以上のように、電流制御回路DCは、クロックCLKや指令信号による疑似正弦波状の駆動電流IAに加え、比較結果信号S1(コイルの誘起電圧の位相)に応じて、駆動電流IAの波形を変化させる。
【0050】
なお、
図4、
図6、
図8の例では、電流制御回路DCは、駆動電流IAの波形の変化の前後において、駆動電流IAの波形の振幅は、同じになるように制御している。しかし、電流制御回路DCは、駆動電流IAの波形の変化の前後において、駆動電流IAの波形の振幅が異なるように制御するようにしてもよい。
【0051】
このように、ステッピングモータ駆動回路10は、ステッピングモータMを駆動する環境に最適な定電流テーブルで、駆動電流のゲインを自動に可変して駆動する。
【0052】
そして、正弦波に対してモータが最適に必要な波形(たとえば、正弦波を少し2相励磁方向に膨らませたり、正弦波の頂点付近をひずませる、もしくは、へこませる)の補正を同時にかけるようにしてもよい。これにより、より広い範囲で低騒音駆動が可能となる。
【0053】
このように、ステッピングモータMを駆動する環境(必要なトルク等)に合わせて駆動電流を制御して、ゲインを自動に可変して駆動を行うことにより、騒音を低減させながら、高効率な制御(必要時に必要なトルク供給を、最適な波形を持って効率良い動作を行う)が期待できる。
【0054】
以上のように、本第1の実施形態に係るステッピングモータ駆動回路によれば、駆動時の振動を低減することができる。
【0055】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。