(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6623173
(24)【登録日】2019年11月29日
(45)【発行日】2019年12月18日
(54)【発明の名称】炭化珪素質複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 38/00 20060101AFI20191209BHJP
C04B 35/573 20060101ALI20191209BHJP
C04B 41/88 20060101ALI20191209BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20191209BHJP
【FI】
C04B38/00 304Z
C04B35/573
C04B41/88 U
H01L23/36 M
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-564819(P2016-564819)
(86)(22)【出願日】2015年12月10日
(86)【国際出願番号】JP2015084653
(87)【国際公開番号】WO2016098681
(87)【国際公開日】20160623
【審査請求日】2018年11月1日
(31)【優先権主張番号】特願2014-256201(P2014-256201)
(32)【優先日】2014年12月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】宮川 健志
(72)【発明者】
【氏名】後藤 大助
【審査官】
西垣 歩美
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−169267(JP,A)
【文献】
特開2001−334517(JP,A)
【文献】
特開平5−238804(JP,A)
【文献】
特開2001−287989(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 38/00
C04B 35/565−35/575
C04B 41/85
C04B 41/88
B22D 19/00
H01L 23/373
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸させてなる炭化珪素質複合体の製造方法であって、シリカゾル、スチレン−無水マレイン酸共重合体を含むポリアルキレングリコールもしくはその誘導体であるシリカゾルのゲル化剤、および粒子径10〜200μmの炭化珪素粉末よりスラリーを得て、湿式プレス法または湿潤注型法により得られたウエットプリフォームを乾燥温度80℃以上100℃未満で乾燥後、更に800℃〜1100℃で2時間以上15時間以内焼成することにより多孔質炭化珪素成形体を形成させ、該多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸させてなることを特徴とする炭化珪素質複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子等の電子部品や電気部品を搭載する半導体回路基板、特にパワーモジュール等に用いられるセラミックス基板の放熱部品、およびヒートシンクに好適な炭化珪素質複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、回路基板の小型化、半導体素子の高集積化が急速に進み、回路基板、特にセラミックスを基板とするセラミックス回路基板の放熱特性の一層の向上が望まれている。放熱特性に優れたセラミックス回路基板としては、ベリリア(BeO)を添加した炭化珪素(SiC)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si3N4)等のセラミックスが注目されている。
【0003】
上記セラミックスの基板を回路基板やパッケージ用基体等に用いる場合には、セラミックスの基板に伝達される半導体素子等の電気・電子部品からの発熱を、前記回路基板の裏面に設けられるヒートシンクと呼ばれる放熱部品を介して外部に発散させることで、半導体素子の温度上昇による誤動作の発生を防止し、回路基板の動作特性を確保している。
【0004】
ヒートシンクとして代表的なものに銅が知られているが、セラミックス回路基板に適用すると、銅とセラミックス基板との熱膨張係数の相違を原因として、加熱された時や半導体素子の動作時と停止時の熱サイクルを受けて、セラミックス基板にクラックや割れが発生する、或いはセラミックス基板とヒートシンクとを接合している半田部分でクラックが発生する等の問題がある。
【0005】
このために、特に高い信頼性が要求される分野にはセラミックス基板との熱膨張係数の差が小さいMo/Wがヒートシンクとして用いられている。しかし、Mo/Wはそれぞれの金属の比重が大きく、ヒートシンク或いはそれを接合したセラミックス回路基板の重量が重くなるので、放熱部品の軽量化が強く望まれる用途、例えば自動車や車両等の移動機器搭載用途においては、好ましくない。更に、MoやWは、希少であり高価であるという欠点を有している。
【0006】
上記の事情から、近年、銅、アルミニウム、或いはこれらの合金を無機質粒子や繊維で強化したMMC(Metal Matrix Composite)と称される金属−セラミックス複合体が注目されている。(特許文献3、4)
【0007】
MMCは、一般に、強化材である無機質粒子や繊維を予め成形することで、プリフォームを形成し、該プリフォームの強化材間に金属あるいは合金を含浸させた複合体であり、強化材にはアルミナ、炭化珪素、窒化アルミニウム、窒化珪素、シリカ、炭素等が用いられる。(特許文献1)
【0008】
金属−セラミックス複合体の熱伝導率を上げようとする場合、強化材および含浸する金属や合金に熱伝導率の高い物質を選択する必要がある。加えて、強化材と金属あるいは合金との濡れ性や界面の反応等が、得られる金属−セラミックス複合体の熱伝導率や強度に影響を与える。(特許文献2)
【0009】
上記用途に適用するためには、軽量かつ高熱伝導率で、しかも各種セラミックス基板と同じ程度の低い熱膨張率を兼ね備えた金属−セラミックス複合体を得る組み合わせとして、強化材に炭化珪素を主成分とするプリフォームにアルミニウムを主成分とした金属を用いることが注目されている。(特許文献4)
【0010】
【特許文献1】特開平05−238804号公報
【特許文献2】特開昭59−199587号公報
【特許文献3】特開平10−219368号公報
【特許文献4】特開2000−169267号公報
【発明の概要】
【0011】
強化材に炭化珪素を、含浸する金属にアルミニウムを主成分とする金属を用いて得られる金属−セラミックス複合体(以下、炭化珪素質複合体という)の熱伝導率、熱膨張率等の特性は、炭化珪素質複合体中の炭化珪素の含有量により影響を受けるが、前記含有量は金属が含浸される炭化珪素質成形体(プリフォーム)の体積密度で決まる。これは、プリフォームの空隙部分に金属が含浸されるためである。従って、プリフォームの特性を制御することが、所望の特性を有する炭化珪素質複合体を得るために重要である。
【0012】
炭化珪素質成形体を得る方法としては、セラミックス焼結体を製造する公知の方法を適用すれば良い。例えば、原料に炭化珪素粉末を用い、これに成形或いは焼結時に強度を発現しやすい添加剤を配合し、プレス等の方法で形状を付与し、その後に加熱して炭化珪素質成形体を得る方法である。しかし、成形時の添加剤としてメチルセルロース等の結着剤を用いる方法では、結着剤の焼成部分が空間となるため充填率(複合材中の炭化珪素の含有量)が低下するという問題があり、一方で結着剤量を低下させると、成形時に炭化珪素粉の粒度差による沈降差を生じ、局所的に充填率に大きな差の有る成形体しか得られないという問題がある。
【0013】
このため、ヒートシンクを得ることを狙いに、板状の成形体を得ようとすると、その厚み方向で充填率に差を有する成形体となり、該成形体より得られる炭化珪素質複合体は、熱伝導率や熱膨張率という特性について、表と裏で差が生じ、その特性差が原因して反りが発生する。
【0014】
反りが発生すると、放熱部品では回路基板や放熱フィン等との接合が出来ず、仮に接合できたとしても熱伝達を阻害してしまい、大きな問題となる。また、この方法では、焼成後の成形体の強度が低いため含浸前の取扱い時、或いは含浸時の衝撃等により成形体が粉体化し、所望の特性を有する炭化珪素質複合体が得難いという問題がある。
【0015】
上記の事情から、一般的には、炭化珪素粉末に高分子化合物とシリカ粉末等の焼結バインダーを添加して、乾式成形法を適用して成形した後、焼結する方法が採用されている。しかし、この方法は金型を用いるため、数百kg/cm2の高圧力を負荷する高価な装置を必要とすること、前記金型が摩耗しやすい等の問題がある。また、原料粉末の金型中での流動を可能とするためには多量の高分子化合物やシリカ粉末を添加する必要があり、そのため炭化珪素の含有量が低下してしまい、得られる炭化珪素質複合体の熱伝導率が低下してしまう等の問題がある。
【0016】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたものであって、軽量かつ高熱伝導率で、しかもセラミックス基板に近い低熱膨張率を有する炭化珪素質複合体、特に反りがないことを要求されるヒートシンク等の放熱部品に好適な炭化珪素質複合体を、安価な方法で、安定して提供することを目的としている。
【0017】
即ち、本発明は、多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸させてなる炭化珪素質複合体の製造方法であって、シリカゾル、スチレン−無水マレイン酸共重合体を含むポリアルキレングリコールもしくはその誘導体であるシリカゾルのゲル化剤、および粒子径10〜200μmの炭化珪素粉末よりスラリーを得て、湿式プレス法または湿潤注型法により得られたウエットプリフォームを乾燥温度80℃以上100℃未満で乾燥後、更に800℃〜1100℃で焼成することにより多孔質炭化珪素成形体を形成させ、該多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸させてなることを特徴とする炭化珪素質複合体の製造方法である。
【0018】
本発明の炭化珪素質複合体の製造方法によれば、200W/mKレベルの高熱伝導率を有し、しかもセラミックス基板と同程度にまで熱膨張率が低く、しかも反りの少ない平板状の炭化珪素質複合体を安定して得ることができる。また、本発明の炭化珪素質複合体の製造方法によれば、従来の乾式成形法で必要とされた高圧力を必要とする高価なプレス装置を必要とせず、また金型の摩耗もないので、安価に炭化珪素質複合体を量産できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、上記事情に鑑み、炭化珪素質複合体の製造方法についていろいろ検討し、その原料となる炭化珪素質成形体を詳細に制御して作成することにより、高熱伝導率で低熱膨張率の特性を有する炭化珪素質複合体を安定して、特に、ヒートシンクに好適な平板状の炭化珪素質複合体を得ることができることを見いだし、本発明に至ったものである。
【0020】
即ち、本発明者らは、炭化珪素粉より成形体を得るに際して、成形体の強度を確保するために炭化珪素粉に配合されるシリカ分としてシリカゾルを選択し、更にシリカゾルのゲル化剤を配合することにより、従来の湿式成形法では得られなかった、ヒートシンク等に好適な反りの極めて小さく、炭化珪素の充填率の差異が小さい炭化珪素質成形体が得られること、更に、前記の湿式成形法で得られた炭化珪素質成形体を用いて高熱伝導率で低熱膨張率の炭化珪素質複合体を安定して得ることができるという知見を得て、本発明に至ったものである。
【0021】
前記したとおり、従来の炭化珪素質複合体を得るために用いられる炭化珪素質成形体は、主に乾式プレス等の乾式成形法により作成されていたが、高価な装置を用いなければならない、或いは金型の摩耗が著しい等の問題を抱えていたが、本発明では湿式成形法を採用することを特徴としている。
【0022】
前記湿式成形法については、押出成形法、湿式プレス法、湿潤注型法等があるが、本発明者らの検討によれば、炭化珪素の充填率を高め、所望特性を有する炭化珪素質複合体を得るには、平板状製品に対して平板と垂直方向に原料を加圧し、成形することが可能な湿潤注型法や湿式プレス法が望ましい方法である。
【0023】
以下、本発明の炭化珪素質複合体の製造方法について、湿式プレス法の場合を例示しながら、詳細に説明する。
【0024】
原料の炭化珪素粉末については、それを構成する粒子が高熱伝導性であることが望まれ、炭化珪素成分が99質量%以上の高純度の、一般的に「緑色」を呈する炭化珪素粉末を用いることが好ましい。また、本発明の目的を達成するためには、前記原料の炭化珪素粉末から、充填率が50〜80体積%、好ましくは60〜75体積%の炭化珪素質成形体が得られれば良い。成形体の炭化珪素の充填率、従って炭化珪素質複合体中の炭化珪素含有量を高めるためには、炭化珪素粉末は適当な粒度分布を有するものが良く、この目的から2種以上の粉末を適宜配合しても良い。
【0025】
本発明では、湿式成形法で高充填率を有する炭化珪素質成形体を得るために、原料炭化珪素粉末にシリカゾルと前記シリカゾルのゲル化剤とを添加することを特徴としている。シリカゾルとしては、市販されている固形分濃度20質量%程度のもので構わない。シリカゾルの配合量としては、炭化珪素100質量部に対して、固形分濃度で0.5〜10質量部程度で十分であるが、好ましくは1〜3質量部である。0.5質量部未満では、得られる成形体の強度が、焼成したときにさえ十分でないことがあり、一方で10質量部を超える場合には、得られる成形体の炭化珪素の充填率が高くならず、本発明の目的を達成できないことがあるからである。
【0026】
本発明では、前記シリカゾルにゲル化剤を添加することを特徴とする。シリカゾルを湿式成形、後に続く乾燥、焼成工程を通じて、ゲル化することにより、成形時には原料の流動性を支配する水分量を多く保ちながらも、その後の乾燥工程以降では成形体の強度を強くすることができるので、作業性に優れると同時に、乾燥速度や焼成時の昇温速度を早くすることができ、多量生産に適するという実用上の効果が得られる。前記シリカゾルのゲル化剤としては、スチレン−無水マレイン酸共重合体を含むポリアルキレングリコール並びにその誘導体が知られており、本発明においても使用することができる。また、シリカゾルのゲル化剤の量としては、一般的に、シリカゾルの固形分量100質量部に対して、5〜20質量部であれば十分である。また、当然ではあるが、前記ゲル化剤として、いわゆる減水剤を用いることも出来る。
【0027】
本発明では、前記原料に、更に水溶性高分子物質を含有させることが好ましい。前記水溶性高分子物質を更に含有させることにより、湿式成形時に存在させる多量の水分の中で、炭化珪素粒子の沈降が起こり、粒度の相違に原因した局所的な炭化珪素の充填率の差異が発生することを防止するためである。前記水溶性高分子物質としては、メチルセルロース、ポリビニルアルコール或いは高分子量不飽和ポリカルボン酸、高分子量不飽和ポリカルボン酸の長鎖アミン塩等が挙げられるが、本発明者らの実験的検討によれば、高分子量不飽和ポリカルボン酸、高分子量不飽和ポリカルボン酸の長鎖アミン塩が、炭化珪素成形体の炭化珪素充填率を低下することがなく、好ましい。また、水溶性高分子物質の添加量については、炭化珪素粉100質量部に対して0.05〜2.0質量部であれば良く、0.1〜1.0質量部が好ましい範囲である。
【0028】
更に、本発明では、前記水溶性高分子物質に相溶性のシリコン樹脂を添加することが好ましい。前記シリコン樹脂は、湿式成形後の乾燥、焼成を経て、シリカゾルと同様な焼結バインダーとして機能するので、実質的に、水溶性高分子物質等の有機物質が乾燥、焼成工程で揮発し、得られる成形体の炭化珪素充填率が低下することを防止するのに役立つ。シリコン樹脂の添加量は、水溶性高分子物質の100質量部に対して1〜10質量部が一般的である。
【0029】
上記の添加剤を配合した炭化珪素粉末は、水を炭化珪素100質量部に対して15〜80質量部を含有する実施的にスラリーと呼ばれる粘性を示す状態を呈している。前記スラリーを用いて、湿式成形するに際しては、一定サイズの炭化珪素成形体を量産するためには、型を用いる湿式プレス、湿潤注型法が選択される。前記スラリーは、どちらの場合にも適用できるものの、成形直後のもの(湿潤状態の炭化珪素質成形体;以下、ウエットプリフォームという)の型離れが悪いことがあり、量産上の問題となることがある。
【0030】
本発明では、前記問題解決のために、湿潤紙を型の内面に設けること、更に型から抜き出して得られるウエットプリフォームのキャリヤーとすることを特徴としている。これにより、安定して離型することができ、しかも得られた強度の弱いウエットプリフォームに変形や破損することなく、次の乾燥工程へ運搬することができる。
【0031】
前記湿式プレス法での主要な条件は、公知の条件で十分であり、例えば、圧力2〜5kg/cm2で加圧し、30秒程度脱水する。また、湿潤注型法での条件も、公知の条件に基づけば良く、例えば3〜5分の脱水条件で十分である。
【0032】
上記操作で得られたウエットプリフォームを、乾燥し、更に焼成して、炭化珪素質成形体とする。乾燥条件としては、成形体中の遊離の水分を除去できれば良いが、急激に揮発が生じるとウエットプリフォーム内に気泡が発生し、特性バラツキの要因となってしまうため、80℃以上100℃未満の温度で1時間以上乾燥することが好ましい。温度が低すぎたり時間が短すぎると十分に水分を除去できず、温度が高すぎると気泡が発生してしまう。尚、時間が長すぎることによる不具合は特にない。焼成については、シリカゾルを焼結バインダーとしていることから、800℃〜1100℃の温度範囲で焼成することが好ましく、時間は2時間以上15時間以内が好ましい。温度が低すぎたり、時間が短すぎると、十分な強度を発現できないことがあり、温度が高すぎたり、長すぎたりすると、焼成時の雰囲気の影響を受けて、炭化珪素の酸化が生じたり、シリカが飛散することがあるからである。焼成時の雰囲気は、前記温度範囲ならばどのようなものであっても構わず、大気、酸素、窒素、水素、アルゴン等のガス雰囲気の他、真空であっても良い。
【0033】
上記操作で得られた炭化珪素質成形体は、炭化珪素充填率が50〜80体積%、好ましい場合には60〜75体積%である。
【0034】
該多孔質炭化珪素成形体の三点曲げ強度が3MPa〜14MPaであることが好ましく、更に好ましくは4MPa〜12MPaである。三点曲げ強度がこれより低いとアルミニウムを含浸した際に、該多孔質炭化珪素成形体にヒビが発生しやすくなり、これより高いとアルミニウムを主成分とする金属と複合化した後に反りの矯正がし難くなる。尚、該三点曲げ強度はサンプル形状:20mm×45mm×5mmtで支持点スパンを30mmとして測定する。
【0035】
次に、前記炭化珪素質成形体を用い、アルミニウムを主成分とする金属を含浸させて炭化珪素質複合体を得る。アルミニウムを主成分とする金属を含浸する方法としては、溶湯鍛造法、ダイカスト法、或いはそれらを改良した方法等の公知の方法が適用できる。また、前記の方法において、含浸操作の直前にプリフォームを加熱することが好ましい。
【0036】
前記アルミニウムを主成分とする金属としては、炭化珪素質複合体を作製する際に通常使用されている珪素含有アルミニウム合金、珪素とマグネシウムを含有するアルミニウム合金、並びにマグネシウム含有アルミニウム合金が挙げられる。この中で、溶融金属の融点が低く作業性が良いことから珪素とマグネシウムを含有するアルミニウム合金が好ましく、また得られる複合体の熱伝導率向上の面からはマグネシウム含有アルミニウム合金が好ましく選択される。本発明に於いては、前者にあっては、珪素は熱伝導率を低下させる原因となることから、その量を18質量%以下とするのが良い。また、マグネシウム量については、その量が少ないと合金の融点が低下せず作業性が悪化すること、その過量では得られる複合体の熱伝導率が低下する原因となること等を考慮し、0.5〜2.5質量%が好ましい。
【0037】
以下、実施例、比較例に基づいて、本発明を更に詳細に説明する。
【実施例】
【0038】
〔実施例1〕
万能混合装置に、粗粒子SiC粉(大平洋ランダム(株)製;NG−80 D50=220μm)710gと微粒子SiC粉(屋久島電工(株)社製;GC−1000F D50=11μm)290gを投入して、5分間混合した。混合粉のD50(メディアン径)は209μmであった。次いで、シリカゾル水溶液(日産化学工業(株)社製スノーテックス;固形分濃度20質量%)120gを投入して5分間混合後、シリカゾルゲル化剤を(デンカグレース(株)社製;SUPER−200)35gと水15gとを投入して5分間混合した。更に、有機系添加剤(ビックケミー・ジャパン(株)製;BYK−P104S;有効成分50%)を1.5g投入して5分間混合した。前記混合物(スラリー)をポリエチレン製容器にて保管した。このスラリーは、1週間経過した後も炭化珪素粉末の沈降等の成分分離は認められなかった。
【0039】
湿式プレス用の型に、水中で吸水させた紙を貼り、1秒間吸引後に前記スラリー(ペースト)を投入し、2kg/cm2の圧力でプレスして30秒間吸引した。次いで、加圧を開放後、型に圧搾空気を瞬間的に導入して、成形されたウエットプリフォームを回収した。前記ウエットプリフォームを紙ごと運搬して、平坦な板上にて95℃で3時間乾燥した。
【0040】
前記乾燥後の成形体を、大気雰囲気中にて1030℃で4時間焼成し、炭化珪素質成形体を得た。該炭化珪素質成形体の全体での炭化珪素充填率は71体積%であった。また、該炭化珪素質成形体の表面近傍と裏面近傍での炭化珪素充填率の差は0.5%以下で測定誤差範囲内であった。該炭化珪素室成形体の三点曲げ強度は10MPaであった。
【0041】
前記炭化珪素質成形体に、アルミニウム合金を高圧含浸して得た炭化珪素質複合体の熱伝導率は212W/mKであり、熱膨張係数は6.5ppm/Kであり、反りは10cmに対して11μmであった。尚、本実施形態においては、平板状の放熱部品の中心部(放熱部品の中心部とは、略矩形状の平板の板面における、対角線の交点として良い)が中点となる、放熱部品の板面の長辺方向又は短辺方向の線分の端点同士を結ぶ直線を想定し、上記中心部を通るこの直線の垂線の長さを図り、10cmあたりの量に換算し、長辺方向と短片方向で大きい数値を反り量と定義する。
【0042】
〔実施例2〕
ウエットプリフォームの乾燥を85℃で5時間、焼成を980℃で6時間とした以外は実施例1と同様にして炭化珪素質成形体を得た。該炭化珪素質成形体の表面近傍と裏面近傍での炭化珪素充填率の差は0.5%以下で測定誤差範囲内であった。該炭化珪素質成形体の三点曲げ強度は4MPaであった。更に該炭化珪素質成形体を使用し実施例1と同様にして炭化珪素複合体を得た。この炭化珪素質複合体の熱伝導率は208W/mK、熱膨張係数は6.7ppm/Kであり、反りは10cm当たり14μmであった。
【0043】
〔実施例3〕
粗粒子SiC粉として屋久島電工(株)社製;GC−500F D50=35μmと微粒子SiC粉として大平洋ランダム(株)製;GMF−CL−#6000 D50=2.3μmを用いた以外は実施例1と同様にして炭化珪素質成形体を得た。混合粉のD50は30μmであった。該炭化珪素質成形体の表面近傍と裏面近傍での炭化珪素充填率の差は0.5%以下で測定誤差範囲内であった。該炭化珪素質成形体の三点曲げ強度は5MPaであった。更に該炭化珪素質成形体を使用し実施例1と同様にして炭化珪素複合体を得た。この炭化珪素質複合体の熱伝導率は202W/mK、熱膨張係数は7.5ppm/Kであり、反りは10cm当たり19μmであった。
【0044】
〔比較例1〕
焼成温度を750℃とした以外は実施例1と同様にして炭化珪素質成形体を得た。該炭化珪素質成形体の表面近傍と裏面近傍での炭化珪素充填率の差は0.5%以下で測定誤差範囲内であった。該炭化珪素質成形体の三点曲げ強度は2MPaであった。更に該炭化珪素質成形体を使用し実施例1と同様にして炭化珪素複合体を得た。この炭化珪素質複合体の熱伝導率は210W/mK、熱膨張係数は6.8ppm/Kであり、反りは10cm当たり36μmであった。
【0045】
〔比較例2〕
焼成温度を1150℃24時間とした以外は実施例1と同様にして炭化珪素質成形体を得た。該炭化珪素質成形体の表面近傍と裏面近傍での炭化珪素充填率の差は0.5%以下で測定誤差範囲内であった。該炭化珪素質成形体の三点曲げ強度は14MPaであった。更に該炭化珪素質成形体を使用し実施例1と同様にして炭化珪素複合体を得た。この炭化珪素質複合体の熱伝導率は185W/mK、熱膨張係数は6.3ppm/Kであり、反りは10cm当たり11μmであった。
【0046】
〔比較例3〕
ウエットプリフォームの乾燥温度を110℃とした以外は実施例1と同様にして炭化珪素質成形体を得た。該炭化珪素質成形体の表面近傍と裏面近傍での炭化珪素充填率の差は0.5%以下で測定誤差範囲内であった。該炭化珪素質成形体の三点曲げ強度は2MPaであった。更に該炭化珪素質成形体を使用し実施例1と同様にして炭化珪素複合体を得た。この炭化珪素質複合体の熱伝導率は210W/mK、熱膨張係数は6.8ppm/Kであり、反りは10cm当たり18μmであった。
【0047】
実施例1〜3、比較例1〜3で得られた炭化珪素質複合体の内部の欠陥を超音波探傷試験機で観察した結果、実施例1〜3、比較例2では異常は見られなかったが、比較例1および比較例3では内部の炭化珪素質成形体に長さ30mm以上のクラックが確認された。また、比較例3では内部の炭化珪素質成形体中にφ150μm程度の欠陥が複数個観察された。