特許第6623188号(P6623188)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6623188
(24)【登録日】2019年11月29日
(45)【発行日】2019年12月18日
(54)【発明の名称】リチウム空気電池および車両
(51)【国際特許分類】
   H01M 12/08 20060101AFI20191209BHJP
【FI】
   H01M12/08 K
【請求項の数】16
【外国語出願】
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-46110(P2017-46110)
(22)【出願日】2017年3月10日
(65)【公開番号】特開2017-162814(P2017-162814A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2018年6月11日
(31)【優先権主張番号】15/067,407
(32)【優先日】2016年3月11日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507342261
【氏名又は名称】トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武市 憲典
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−033919(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0013487(US,A1)
【文献】 特開2016−025091(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0028133(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 12/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム空気電池であって、
アノードを含むアノード区画を備え、前記アノードは、リチウム、リチウム合金またはリチウムの吸着および放出を可能にする多孔性材料を含み、前記リチウム空気電池はさらに、
空気カソード、O源、リチウム塩およびイオン液体を含むカソード区画と、
アノード区画とカソード区画とを隔てるリチウムイオン選択膜とを備え、
前記イオン液体は、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、テトラフルオロ硼酸塩アニオンおよびヘキサフルオロホスファートアニオンからなる群から選択されるアニオンを伴う、イミダゾリウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオンおよびアンモニウムカチオンからなる群から選択され、
前記カソード区画は前記イオン液体中に溶解した超酸化カリウムを含む、リチウム空気電池。
【請求項2】
前記イオン液体中の前記超酸化カリウムの濃度は0.01mol/L〜0.5mol/Lである、請求項1に記載のリチウム空気電池。
【請求項3】
前記イオン液体中の前記リチウム塩の濃度は10mmol/L以下である、請求項1に記載のリチウム空気電池。
【請求項4】
前記カソード区画は、前記リチウムイオン選択膜から前記空気カソードまでの距離が少なくとも0.1mmとなるように空間的に配置される、請求項1に記載のリチウム空気電池。
【請求項5】
リチウムイオン濃度の勾配が、前記リチウムイオン選択膜におけるリチウムイオン濃度が前記空気カソードにおけるリチウムイオン濃度よりも高くなるような状態である、請求項3に記載のリチウム空気電池。
【請求項6】
前記リチウムイオン選択膜から前記カソードまでの距離は0.1mm〜20mmである、請求項1に記載のリチウム空気電池。
【請求項7】
前記リチウムイオン選択膜から前記カソードまでの距離は3mm〜20mmである、請求項1に記載のリチウム空気電池。
【請求項8】
前記アノード区画を前記カソード区画から分離する前記リチウムイオン選択膜は、ポリマー、セラミックまたはこれらの複合物である、請求項1に記載のリチウム空気電池。
【請求項9】
前記膜はセラミック材料を含む、請求項6に記載のリチウム空気電池。
【請求項10】
前記セラミック膜は、Li−La−Ti−Oベースのペロブスカイト、Li−Al−Ti−P−Oベースのナシコン(NASICON)、Li−La−Zr−Oベースのガーネット、Li−P−Sベースの固体電解質、およびLi−Ge−P−Sベースの固体電解質からなる群から選択されるものを含む、請求項9に記載のリチウム空気電池。
【請求項11】
前記イオン液体は、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムカチオン(DEME)−ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオンである、請求項1に記載のリチウム空気電池。
【請求項12】
前記カソード区画は、前記リチウム塩及び前記超酸化カリウムとは異なる、前記イオン液体中に溶解可能なさらなる塩を含む、請求項1に記載のリチウム空気電池。
【請求項13】
前記イオン液体に溶解可能なさらなる塩は、テトラアルキルアンモニウム塩、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩およびピペリジニウム塩からなる群から選択される、請求項12に記載のリチウム空気電池。
【請求項14】
前記イオン液体に溶解可能なさらなる塩は、テトラブチルアンモニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドである、請求項13に記載のリチウム空気電池。
【請求項15】
前記O源は空気である、請求項1に記載のリチウム空気電池。
【請求項16】
請求項15に記載の電池を含む車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景
本実施形態は、高容量で再利用効率の高いリチウム空気電池に向けられている。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン技術は、小型電子デバイスおよびさらにはハイブリッド電気自動車のためのエネルギ源として市場で優位を占めていた。しかしながら、リチウムイオン電池が備える理論容量は、電気自動車を走行させることのできる将来の高容量世代の電源としては不十分である。
【0003】
金属空気電池は、現在の炭化水素ベースの内燃機関と同等の距離分だけ車両装置に電力供給する潜在能力を有する最先端世代の高容量エネルギ源として研究されてきた。金属空気電池においては、アノードの金属が酸化し、結果として生じるカチオンが、炭素などの材料からなる多孔性マトリックスを含むカソードゾーンにまで移動し、たとえば、ここで、酸素が還元され、酸化物または過酸化物としての還元生成物が金属カチオンと混ざり合って放電生成物を形成する。充電の際、このプロセスが逆に行なわれることが理想的である。金属空気電池は金属イオン電池に勝る潜在的な有利な特性を有するものと認識されている。なぜなら、陰極材料(酸素)が周囲の空気雰囲気から得られる可能性があり、電池の容量が理論的には陽極金属の供給によって制限され得るからである。これにより、酸素ガスが電池外部から連続的に供給され得るとともに、電池の容量および電圧が、酸素還元特性と、形成される放電生成物の化学的性質とに依存することとなるだろう。
【0004】
リチウム空気電池は、従来のリチウムイオン電池よりも5倍〜10倍大きなエネルギ密度を供給する可能性を有しており、次世代のリチウムイオン電池技術として多大な関心を集め、その開発が注目されてきた。たとえば、放電生成物としてLiを形成する非水リチウム空気電池は、理論的には、Li0.5CoOの陰極生成物を含むリチウムイオン電池のための600Wh/kgと比べて、3038Wh/kgを供給し得るだろう。しかしながら、実際には、金属空気技術および特に現在の非水リチウム空気電池は、理論容量の実現を妨げる多くの技術的問題を抱えている。
【0005】
Li空気電池の容量は、Li放電生成物を貯蔵するためのカソードマトリックスの容量に大いに依存している。Liは、金属空気電池において用いられている従来の非水溶媒にはほぼ溶解しない。したがって、カソードマトリックスにおいて形成されると、Liが沈殿してカソードマトリックスの表面孔隙を埋めてしまい、マトリックス内部領域の空き容量へのアクセスを実質的に妨げてしまう。さらに、Liは絶縁体であり、マトリックスの表面がコーティングされると、酸素還元が妨げられ、放電が終了する。すなわち、理論容量と比較して、電池の容量が大幅に低下する。
【0006】
リチウム空気電池の容量を増やすために従来から用いられてきた一方法は、カソード材料としてカーボンブラックなどの高表面積を有する電子伝達支持体を用いることである。しかしながら、たとえ表面積が大きくされたとしても、絶縁性Li生成物が蓄積することによってカソード表面が覆われてしまい、結果として、放電反応が終了することとなる。このため、これは容量を向上させるための究極の解決策ではない。
【0007】
2015年7月22日に提出された米国出願第14/337,432号において、出願人は、バッテリを、リチウムイオン導電性セラミック膜によって隔てられたアノード区画とカソード区画とに分離し、セラミック膜から最小限の距離を空けて空気カソードを空間的に配置して、カソードの表面におけるリチウムイオン濃度を下げることによって、容量を増加させるための問題に対する別の解決策を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国出願第14/337,432号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したような技術社会における現在進行中の甚大な努力にもかかわらず、現在の炭化水素燃料システムに少なくとも等しいかまたは当該システムに匹敵する距離に到達するまで車両に電力供給するのに特に有用な、効率的かつ安全でコスト効率の良い高容量のリチウム空気電池を開発および製造することが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態の概要
この目的および他の目的は、本願を開示することによって対処され、その実施形態はリチウム空気電池を含む。リチウム空気電池は、
アノードを含むアノード区画を備え、当該アノードは、リチウム、リチウム合金、または、リチウムの吸着および放出を可能にする多孔性材料を含み、リチウム空気電池はさらに、
空気カソード、O源、リチウム塩およびイオン液体を含むカソード区画と、
アノード区画とカソード区画とを分離するリチウムイオン選択膜とを備える。
【0011】
カソード区画は、イオン液体中に溶解した超酸化カリウムを含む。
この実施形態の一局面においては、カソード区画のイオン液体中の超酸化カリウムの濃度は、0.01mol/L〜0.5mol/Lである。この実施形態のさらなる局面においては、カソード区画のイオン液体中のリチウム塩の濃度は、10mmol/L以下である。さらに、カソード区画は、リチウムイオン選択膜から空気カソードまでの距離が少なくとも0.1mmとなるように、空間的に配置され得る。リチウムイオン濃度の勾配は、リチウムイオン選択膜におけるリチウムイオン濃度が空気カソードにおけるリチウムイオン濃度よりも高くなるような形状であり得る。
【0012】
上述の段落は概略を紹介することによって提供されてきたが、添付の特許請求の範囲を限定するように意図されたものではない。現在好ましい実施形態は、さらなる利点と共に、添付の図面に関連付けて読まれる以下の詳細な説明を参照することによって最適に理解されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に従ったリチウム空気電池を示す概略図である。
図2】例1、例2、比較例1、比較例2および比較例3の放電曲線を示す図である。
図3】記載される実施形態に従ったリチウム空気電池の基本的な機能構造を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
好ましい実施例の説明
この説明の全体にわたり、記載されている範囲全体は、特に指定のない限り、この明細書中におけるすべての値および副次的範囲を含む。加えて、不定冠詞「a」または「an」は、特に指定のない限り、記載の全体にわたって「1つ以上」の意味を保持する。数的な制限または範囲が明示されている場合、それらの終点が含まれている。また、数的な制限または範囲内におけるすべての値および副次的範囲は特に明示的に詳述されているとおりに含まれるものとする。「からなる群から選択される」、「から選択される」などの語句は、指定された材料の混合物を含む。「含む」などの語は、特に指定のない限り、「少なくとも…を含む」ことを意味するオープンタームである。
【0015】
この説明の全体にわたって、陰極材料としての空気、酸素およびOという語は、特に限定されない限り、同義で用いられてもよい。当業者であれば、Oがレドックス活性陰極材料であることを理解するであろうし、空気と記載されていようと、酸素と記載されていようと、またはOと記載されていようと、その意味が理解される。或る記載においては、空気または純粋なOはカソード材料の源として記載される可能性もあり、その記載の意味は、開示の要点から明確に理解されるだろう。
【0016】
さらに、以下の説明においては、リチウムイオン選択膜によって形成される電気化学セルの区画は、固体状態のリチウムイオン導体とも称されるが、「室」(すなわち、カソード区画のためのカソード室またはアノード区画のためのアノード室)と記載される可能性もある。
【0017】
電気化学セルおよび電気化学電池という語は、場合によっては同義で用いられてもよい。しかしながら、複数の電気化学セルで電池を構築することも可能であり得る。これらの語句の意味は以下の記載の文脈の範囲内で理解されるだろう。
【0018】
本発明に従うと、「車両」という語は、自動車、トラックバン、バス、ゴルフカートおよび他の輸送利用形態を含む、輸送用に設計された如何なる電力駆動型装置をも意味する。
【0019】
本発明者らは、特定の用途に適した容量および電圧を有する新しい改良型のエネルギ供給システムを特定および開発しようとして、次世代のリチウムイオン電池技術について幅広く詳細な研究を行なっている。高容量および高い作用電位を有する金属・ガス電池がこのような研究のターゲットとなっており、この進行中の研究において、発明者らは、上述のとおり従来から公知のリチウム空気電池に付随する問題の多くに対処してこれを克服する新しく新規なリチウム空気電池を発見した。
【0020】
したがって、一実施形態において提供されるリチウム空気電池は、リチウム、リチウム合金、または、リチウムの吸着および放出を可能にする多孔質材料を含むアノードを含むアノード区画と、空気カソード、O源、リチウム塩およびイオン液体を含むカソード区画と、アノード区画とカソード区画とを隔てるリチウムイオン選択膜とを備える。カソード区画は、イオン液体中に溶解した超酸化カリウムを含む。驚くべきことに、発明者らは、超酸化カリウムがカソード区画内のイオン液体の成分として利用可能である場合に電池の性能について有意な利点および改善が得られることを発見した。
【0021】
実施形態の要素の構造および機能の概略図が図3に示される。カソードとアノードとの間にイオン選択膜を配置することによって得られる分離されたセル構造は、カソード上における還元されたOラジカルとリチウムイオンとの間の直接的反応を妨げる。なぜなら、カソードにおける電解質が極めて低いリチウムイオン濃度を有することとなるかまたはリチウムイオン濃度を全く有し得ないからである。同時に、リチウムイオンの作用濃度は、アノード付近で維持される。固体状態の導体としてのイオン選択膜はまた、カソードから電池に入る可能性のある水または二酸化炭素から感湿性アノードを保護し、これにより、周囲空気をカソード活物質として用いることを可能にし得る。
【0022】
リチウム空気電池の放電中に、アノードにおいてリチウムを酸化させて、アノード区画内にリチウムイオンを形成する。これらのイオンは、リチウムイオン選択膜へと移動し、当該膜を横切って、カソード区画に入る。同時に、空気カソードにおいては、カソードにおいて酸素が還元されて、過酸化物イオンおよび酸化物イオンを含むアニオン還元生成物が形成される。本実施形態に従うと、カソード環境に存在するカリウムイオンの濃度は、膜を横切ったリチウムイオンの濃度よりも高い。
【0023】
これにより、カソードにおけるLiと還元されたOラジカルとの間における直接的反応が最小限にされ得るかまたは実際になくされ得る。なぜなら、カソード付近の電解質がリチウムイオン濃度をほとんどまたは全く有していないと予想されるからである。さらに、O還元反応を促進するために、電解質はKOを含んでいなければならない。KOは、電解質において少なくとも部分的に溶解され、解離されたKイオンおよびOイオンとして存在し得る。カソード上にOの電気化学的還元によって形成された酸素アニオンは電解質中に放出されることとなり、ここで、電解質中の優勢なカチオン種としてのKと反応することにより、カソード上にKO結晶が生成される。固体状態の電解質を横切って移送されたLiとの酸素アニオンとの反応は、電解質内でカソードから離れたところで発生し、これにより、電解質中にLiが形成される。このため、主にこのモデルに従うと、KOだけがカソード内に貯蔵または保持される。さらに、カソード表面を覆ったり塞いだりすることのない大きな結晶をKOが容易に形成するので、高容量電池が得られる可能性もある。
【0024】
上述のシステムは可逆的であり、このため、二次電池を提供する。再充電性に関して言えば、カソード側でKイオンを使用することにより電気化学的分解能力の効率が高まり、これにより、電池の再利用可能性がより高くなる。速度能力および容量に関して言えば、カソード区画内でKイオンを使用することにより、カソードの電気化学的活性部位が大きくなり、電流密度がより高くなり、かつ放電生成物がより大きく成長し、結果として容量がより高くなる。
【0025】
上述の実施形態の一局面に従ったリチウム空気電池の構造図が図1に示される。ここでは、スペーサが、空気カソードと固体状態のリチウムイオン選択膜(固体状態のリチウムイオン導体)との間に配置されて、カソードとリチウムイオン選択膜との間に設定距離の隙間をもたらして、この隙間を維持する。
【0026】
カソード区画は、イオン液体を含み、好ましくは、Oの還元によって形成されるラジカルに対して高い許容差および安定性を有するイオン液体を含む。好適なイオン液体は、イミダゾリウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオンおよびアンモニウムカチオンなどのカチオンのいずれかを含み得るとともに、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、テトラフルオロ硼酸塩アニオンおよびヘキサフルオロホスファートアニオンなどのアニオンのいずれかを含み得る。好ましい実施形態においては、イオン液体は、N−メチル−N−プロピルピペリジニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(PP13TFSI)、またはN,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(DEME−TFSA)であってもよい。さらに、イオン液体は、当該イオン液体が、リチウム塩を存在させるための要件なしでもカソード上にOを電気化学的に還元させることができることに基づいて、選択されている。本発明の1つの有用な実施形態においては、イオン液体のカチオン部分はテトラブチルアンモニウム(tetrabutyammonium:TBA)であってもよい。
【0027】
超酸化カリウムは黄色の固体であって、湿潤空気中で分解し、超酸化物であるため、制御された大気中で処理されなければならず、市場ではさまざまな等級で入手可能である。
【0028】
イオン液体中でKOが難溶性を呈するため、カソード区画内のKOの含有量が高すぎれば、結果として、O還元能力が低下してしまう可能性がある。このため、KOの濃度は、0.01mol/L〜0.5mol/Lの範囲、より好ましくは0.01mol/L〜0.2mol/Lの範囲でなければならない。実際の最適な性能濃度は、用いられるイオン液体およびカソード液の他の成分に依存することとなる。
【0029】
加えて、図3に基づいたシステムの上述の説明を考慮すると、カソード液のLiを最小限にすることにより、不必要なカソード反応(詰まり)を防止し得る。したがって、Li(Li塩)の濃度は、0mmol/L〜10mmol/Lの範囲、より好ましくは0mmol/L〜1mmol/Lの範囲でなければならない。
【0030】
さらに、イオン液体の性能をさらに高める塩がカソード区画に追加されてもよい。このような塩はイオン液体中に溶解可能でなければならず、カソードマトリックスを詰まらせるおそれのある固体析出物を形成することなく、カソードにおいて得られる還元Oラジカルを安定させる役割を果たし得る。カソード区画に追加され得る好適な塩は、イオン液体と適合性のある有機カチオンの塩を含む。このような塩の例として、テトラアルキルアンモニウム塩、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、およびピペリジウム塩を含む。一実施形態においては、追加の塩は、テトラブチルアンモニウム(tetrabutyl ammonium:TBA)ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド((trifluoromethylsulfonyl)amide:TFSA)であってもよい。
【0031】
セルが構築されると、リチウム塩を含まないイオン液体がカソード領域に配置され得る。セルの放電動作中、アノードにおいて酸化反応によって形成されるリチウムイオンが、リチウムイオン選択膜を通過し、カソード区画に入る可能性がある。同時に、Oがカソードにおいて過酸化物イオンに還元されると、この過酸化物イオンがカソード作用面からカソード区画内に移動して、選択イオン膜を通って当該区画に入ってくるリチウムイオンに遭遇するはずである。
【0032】
この態様では、リチウムイオンの濃度勾配は、濃度が選択イオン膜付近で最高になり、空気カソード付近で最小になるように、形成される。これに対応して、最大量の過酸化リチウム(Li)が、カソード表面から離れたところにある隙間に形成されているが、これがカソードの表面上に沈殿したり当該表面を覆ったりすることはない。カソード表面が露出されたままであり絶縁されていないので、酸素還元反応(oxygen reduction reaction:ORR)が継続され得る。この効果は、図3に示されるように、カソード表面付近に、解離されたKおよびOが存在していることによって著しく高められる。
【0033】
選択膜とカソードとの間の隙間は、電池についての性能要件および最終用途要件に応じた大きさにされ得る。理論的には、如何なる隙間が存在していても、結果として、本発明に従った濃度勾配が得られるだろう。このため、カソードと選択イオン膜との間における0.1mmほどの小さい隙間距離が用いられてもよい。当業者であれば、隙間距離が大きければ大きいほど、上述されるような放電生成物の濃度勾配を形成する機会がより多くなることを理解するだろう。これにより、3mm以上の隙間、好ましくは少なくとも5mmの隙間、を有する電池が構築され得る。理論上、隙間は100mmほどの大きさであってもよいが、寸法および性能に制約があることで、実用的な上限として20mm、好ましくは15mm、最も好ましくは10mmと設定され得る。
【0034】
また、本発明の電解質システムは、イオン液体が揮発性ではないのでカソードを酸素源としての空気に露出させることを可能にし、このため、電池動作中に電解質が損失することが問題ではなくなる。
【0035】
リチウムイオン導電膜の目的は、アノード区画からカソード区画へのリチウムイオン(Li)の可逆的な通過を可能にすることである。当該膜は、ポリマー、セラミックまたはこれらの複合物から構成されてもよい。アノードの性能に対する気体の如何なる有害な影響をも抑制するために、有効な膜であれば、気体に対して十分に不浸透性を呈するかまたは実質的に不浸透性を呈することとなり、このため、カソード区画に入った気体がアノード区画に入るのを防止するだろう。この仕切りは、Li−La−Ti−Oベースのペロブスカイト、Li−Al−Ti−P−Oベースのナシコン(NASICON)、Li−La−Zr−Oベースのガーネット、Li−P−Sベースの固体電解質、および、Li−Ge−P−Sベースの固体電解質などのリチウムイオン導電性セラミックス板であってもよい。
【0036】
固体状態の導体を用いることによっても、周囲空気を導入する能力が得られる。なぜなら、これにより、大気から得られる水分および二酸化炭素がアノードに接近してこれを非活性化するのが防止されるからである。
【0037】
アノードの金属は、リチウム、リチウム合金、またはリチウムのインターカレーションを可能にする材料、たとえば多孔質炭素またはシリコンなど、のうちいずれかを含み得る。
【0038】
正電極は、多孔性の単体構造であってもよく、酸化還元触媒、導電性材料およびバインダをさらに含んでもよい。カソードは、レドックス触媒、導電性材料および任意にはバインダを混ぜ合わせてこの混合物を適切な形状の集電装置に加えることによって構成されてもよい。酸化還元触媒はOレドックス反応を促進するものであれば如何なる材料であってもよい。
【0039】
レドックス触媒の例は、アルカリまたはその酸化物の形態であるアルカリ土類金属(LiO、NaO、KO、MgO、CaO、SrO、BaO)、水酸化物(LiOH、NaOH、KOH、Mg(OH))、Ca(OH)、Sr(OH)、Ba(OH))、炭酸塩(LiCO、NaCO、KCO、MgCO、CaCO、SrCO、BaCO)、またはこれらのいずれかの組合わせを含み得るが、これらに限定されない。有効成分は、典型的には、Al、ZrO、TiO、CeOまたはこれらのいずれかの混合酸化物などの高表面積酸化物支持体上で含浸させられる。Pt、Pd、Rhまたはこれらのいずれかの組合わせなどの貴金属が触媒中に存在していてもよい。正電極は、セルにとって有用である電位窓において化学的に安定している導電性材料を含み得る。
【0040】
好ましくは、導電性材料は多孔性であり、高出力をもたらすように大きな比表面積を有する。このような材料の例は、カーボン材料、たとえば、Ketjenブラック、アセチレンブラック、気相成長炭素繊維、グラフェン(graphene)、天然黒鉛、人工黒鉛および活性炭などを含み得るがこれらに限定されない。他の好適な導電性材料は、金属繊維などの導電性繊維、ニッケルおよびアルミニウムなどの金属粉末、およびポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料であってもよい。いくつかの実施形態においては、これらの材料の混合物が用いられ得る。他の好適な導電性材料は、窒化チタンおよび炭化チタンなどの導電性セラミックであってもよい。
【0041】
セルにとって有用である電位窓において化学的に安定しており当業者に公知である好適なバインダは、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂を含み得る。たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene:PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(Polyvinylidene fluoride:PVDF)、スチレン・ブタジエンゴム、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロ・エチレン・コポリマー、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・コポリマー(FEP)、テトラフルオロエチレン・ペルフルオロアルキル・ビニルエーテル・コポリマー(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン・コポリマー(ethylene-tetrafluoroethylene(ETFE)樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(polychlorotrifluoroethylene resin:PCTFE)、プロピレン・テトラフルオロエチレン・コポリマー、エチレン・クロロトリフルオロエチレン・コポリマー(ethylene-chlorotrifluoroethylene copolymer:ECTFE)、およびエチレンアクリル酸コポリマーが挙げられる。これらのバインダは、独立して用いられてもよく、または混合して用いられてもよい。
【0042】
成分は、好適な溶媒がある状態で湿式混合されてもよく、または、乳鉢もしくは他の従来から公知の混合機を用いて乾式混合されてもよい。次いで、この混合物は従来から公知の方法によってチャージコレクタに加えられ得る。如何なる好適なチャージコレクタが用いられてもよい。好ましいチャージコレクタは、炭素、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウムおよび銅のいずれかであり得る。大気の拡散を助けるために、コレクタがメッシュなどの多孔体であることが好ましいだろう。いくつかの実施形態においては、チャージコレクタは、コレクタを酸化から保護するために耐酸化性の金属または合金からなる保護コーティングを含んでもよい。
【0043】
リチウム導電膜が存在していることにより、電池がアノード区画とカソード区画とに分割される。リチウム電解質イオンまたは移動性イオンキャリヤは当業者にとって従来から公知であるもののいずれかであってもよく、LiPF、LiClO、LiAsF、LiBF、LiN(CFSO、Li(CFSO)およびLiN(CSOのうち1つ以上を含み得る。
【0044】
この明細書中では、アノード区画のシステムがアノード液と称され得るとともに、カソード区画のシステムがカソード液と称され得る。アノード区画に適した非水溶媒は、環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル、環状エーテルおよび鎖状エーテルを含む。環状カーボネートの例は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびビニレンカーボネートを含む。鎖状カーボネートの例は、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートおよびメチルエチルカーボネートを含む。環状エステルカーボネートの例はガンマ・ブチロラクトンおよびガンマ・バレロラクトンを含む。環状エーテルの例は、テトラヒドロフランおよび2−メチルテトラヒドロフランを含む。鎖状エーテルの例は、ジメトキシエタンおよびエチレングリコールジメチルエーテルを含む。いくつかの好ましい実施形態においては、溶媒は、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒またはイオン液体であってもよい。
【0045】
本発明に従ったリチウム空気電池の一例が図1に概略的に示される。図1においては、リチウムイオン選択膜は固体状態のリチウムイオン導体と示されており、カソード室はイオン液体およびカソードを含み、アノード区画は電解質およびリチウムアノードを含む。セルは、酸素または周囲空気で満たされたコンテナに収容されている。気体が、カソードエンドプレートの開口部を通じてカソード区画に入る。
【0046】
さらに、本発明はまた、上述のリチウム空気電気化学セルを収容しているかまたは、複数のリチウム空気電気化学セルから構成される電池を収容している車両を含む。
【0047】
上述の実施形態を概略的に記載してきたが、例示の目的でのみこの明細書中に提供されており特に指定のない限り限定するようには意図されていないいくつかの具体例を参照することによって、さらなる理解を得ることができる。
【0048】

リチウム空気電池は、以下に記載される各々のシステムに従って図1に概略的に示される構造に従って構築された。
【0049】
例および比較例の実験についての基本的な(共通の)設定および条件
固体状態のリチウムイオン導体(セパレータ):1mm厚の固体状態のリチウムイオン導体、LIC−GC(オハラガラス(OHARA glass))
カソードと固体状態のリチウムイオン導体との間の隙間:5mm
アノード区画のための電解質:プロピレンカーボネート(キシダ化学株式会社(Kishida chamical))中の1.0mol/LのLiTFSA*1(キシダ化学株式会社)
アノード:0.25mm厚のLi金属(FMC社(FMC Corporation))
評価温度:25℃
導入された気体:純酸素(1.2気圧、密閉条件)
例1
カソード区画のための電解質:N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(DEME−TFSA)(カントコーポレーション(Kanto Corporation))中の0.1MのKO
カソード:カーボン紙(TGP−H−120、厚さ=0.36mm、東レ株式会社(Toray Industry))
例2
カソード区画のための電解質:DEME−TFSA中の0.1MのKO
カソード:カーボン紙(TGP−H−30、厚さ=0.11mm、東レ株式会社)
比較例1
カソード区画のための電解質:DEME−TFSA(塩の追加無)
カソード:カーボン紙(TGP−H−120、厚さ=0.36mm、東レ株式会社)
比較例2
カソード室のための電解質:DEME−TFSA(塩の追加無)
カソード:カーボン紙(TGP−H−30、厚さ=0.11mm、東レ株式会社)
比較例3
カソード室のための電解質:DEME−TFSA中の0.352MのLiTFSI
カソード:カーボン紙(TGP−H−120、厚さ=0.36mm、東レ株式会社)
例1、例2および比較例1、比較例2および比較例3について得られた放電曲線が図2に示される。放電は、Liに対して最大2.0Vのオフセット電位まで100mAで、かつ5mAのカットオフ電流で、定電流および定電圧(CC−CV)モードで実行された。図2は、例1および例2が比較例1、比較例2および比較例3よりも著しく大きな容量および速度能力を有していたことを示す。
【0050】
上述の記載および例を考慮すると本発明についての多数の変更例および変形例が実現可能である。したがって、添付の特許請求の範囲内で、本発明がこの明細書中に具体的に記載されているのとは異なる態様でも実施され得ることが理解されるはずである。このような実施形態はいずれも、本発明の範囲内に収まるように意図されている。
図1
図2
図3