(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
25℃でのパルスNMR測定で求められる、前記発泡ポリウレタンにおけるS相の含有割合に対する、60℃でのパルスNMR測定で求められる、前記発泡ポリウレタンにおけるS相の含有割合の比が、80%以上である、請求項1に記載の研磨パッド。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0010】
本実施形態の研磨パッドは、発泡ポリウレタンで形成されている。
【0011】
25℃でのパルスNMR測定で求められる、前記発泡ポリウレタンにおけるS相の含有割合は、70%を超え、好ましくは80〜100%、より好ましくは90〜100%である。
【0012】
なお、パルスNMR測定では、スピン−スピン緩和時間が0.03ms未満である相(ショート相)(S相)、スピン−スピン緩和時間が0.03ms以上0.2ms未満である相(ミドル相)(M相)、スピン−スピン緩和時間が0.2ms以上である相(ロング相)(L相)に発泡ポリウレタンを分けて、それぞれの相の含有割合を求める。
スピン−スピン緩和時間は、例えば、JEOL製の「JNM−MU25」を用い、Solid Echo法による測定を実施することなどで求めることができる。
【0013】
パルスNMRにおいては、パルス磁場を加えた後の経過時間をt(ms)とし、t=0における磁化をM
0、時間tにおける磁化をM(t)とすると、スピン−スピン緩和時間(T
2)は、下記式に基づいて求められる。
なお、下記式中の「W」はワイブル係数を表す。
【0015】
そして、測定対象をn個の成分に分解した際に、i番目(i<n)の成分に関し、t=0におけるこのi成分の磁化をM
0iとし、i成分のワイブル係数をW
iとするとi成分のスピン−スピン緩和時間(T
2i)、及び、i成分の割合F
iは、下記式に基づいて求められる。
例えば、ワイブル係数W
iは、W
S=2、W
M=1、W
L=1を用いることができる。
このような緩和時間の求め方については、S.Yamasakiet al Polymer 48 4793(2007)などに開示されている。
【0018】
なお、S相、M相、及び、L相の含有割合については、例えば、主として結晶相がパルスNMR測定においてS相となって観測され、主としてアモルファス相がL相となって観測される。また、主としてハードセグメント部分がパルスNMR測定においてS相となって観測され、主としてソフトセグメント部分がL相となって観測される。
また、発泡ポリウレタンとしては、「結晶相の割合」や、「ハードセグメント部分の割合」が様々なものが知られている。なお、ウレタン結合やウレア結合を増やすことにより、「ハードセグメント部分の割合」を高めることができる。発泡ポリウレタンの材料については後述するが、例えば、イソシアネートとポリオールとを結合させる際に、短鎖ジオール(例えば、ジエチレングリコール(DEG)、分子量の小さいポリエチレングリコール(PEG)等)の使用量を増やすことでウレタン結合を増やすことができる。さらに、例えば、イソシアネート末端プレポリマーと、4,4’−メチレンビス(2−クロロアニリン)(MOCA)とを結合させる際に、MOCAの使用量を増やしたり、或いは、反応のための加熱温度を低くすることで、ウレア結合を増やすことができる。また、例えば、化学架橋を抑制することにより、ハードセグメント同士が接近しやすくなり、「結晶化相の割合」を高めることができる。
よって、結晶相の割合を高めたり、ハードセグメント部分の割合を高めることにより、S相の含有割合を高めることができる。
【0019】
25℃でのパルスNMR測定で求められる、前記発泡ポリウレタンにおけるS相の含有割合に対する、60℃でのパルスNMR測定で求められる、前記発泡ポリウレタンにおけるS相の含有割合の比は、好ましくは80%以上、より好ましくは90〜100%である。
【0020】
前記発泡ポリウレタンは、イソシアネート基を含有するイソシアネート基含有化合物と、活性水素を含有する活性水素含有有機化合物と、発泡剤とを混合し加熱することにより得ることができる。
【0021】
前記イソシアネート基含有化合物としては、例えば、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート等を用いることができる。なお、これらのイソシアネート基含有化合物としては、単独物を、又は複数を組み合わせたものを用いることができる。
【0022】
前記芳香族ジイソシアネートとしては、アニリンとホルムアルデヒドを縮合して得られるアミン混合物を不活性溶媒中でホスゲンと反応させることなどにより得られる粗ジフェニルメタンジイソシアネート(粗MDI)、該粗MDIを精製して得られるジフェニルメタンジイソシアネート(ピュアMDI)、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(ポリメリックMDI)、及びこれらの変性物などを用いることができ、また、トリレンジイソシアネート(TDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート等を用いることができる。なお、これらの芳香族ジイソシアネートは、単独物で、又は複数を組み合わせて用いることができる。
【0023】
ジフェニルメタンジイソシアネートの変性物としては、例えば、カルボジイミド変性物、ウレタン変性物、アロファネート変性物、ウレア変性物、ビューレット変性物、イソシアヌレート変性物、オキサゾリドン変性物等が挙げられる。斯かる変性物としては、具体的には、例えば、カルボジイミド変性ジフェニルメタンジイソシアネート(カルボジイミド変性MDI)が挙げられる。
【0024】
前記脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、エチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートなどが用いられる。
【0025】
前記脂環族ジイソシアネートとしては、例えば、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、メチレンビス(4,1−シクロヘキシレン)=ジイソシアネートなどが用いられる。
【0026】
前記イソシアネート基含有化合物としては、その蒸気圧がより低く揮発しにくいことから、作業環境を制御しやすいという点で、ジフェニルメタンジイソシアネート(ピュアMDI)、ポリメリックMDI、又はその変性物が好ましい。また、粘度がより低く、取り扱いが容易であるという点で、カルボジイミド変性MDI、ポリメリックMDI、又はこれらとMDIとの混合物が好ましい。
【0027】
前記活性水素含有有機化合物は、イソシアネート基と反応し得る活性水素基を分子内に有する有機化合物である。該活性水素基としては、具体的には、ヒドロキシ基、第1級アミノ基、第2級アミノ基、チオール基などの官能基が挙げられ、前記活性水素含有有機化合物は、分子中に該官能基を1種のみ有していてもよく、分子中に該官能基を複数種有していてもよい。
【0028】
前記活性水素含有有機化合物としては、例えば、分子中に複数のヒドロキシ基を有するポリオール化合物、分子内に複数の第1級アミノ基又は第2級アミノ基を有するポリアミン化合物などを用いることができる。
【0029】
前記ポリオール化合物としては、分子量が400以下の多価アルコール、分子量が400を超えるポリオールプレポリマーなどが挙げられる。
【0030】
分子量が400以下の多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、分子量400以下のポリエチレングリコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール等の直鎖脂肪族グリコールが挙げられ、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール等の分岐脂肪族グリコールが挙げられ、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水添加ビスフェノールA等の脂環族ジオールが挙げられ、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリブチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の多官能ポリオールなどが挙げられる。
【0031】
分子量が400を超えるポリオールプレポリマーとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオールおよびポリカーボネートポリオールなどが挙げられる。なお、ポリオールプレポリマーとしては、ヒドロキシ基を分子中に3以上有する多官能ポリオールプレポリマーも挙げられる。
【0032】
詳しくは、前記ポリエーテルポリオールとしては、ポリテトラメチレングリコ−ル(PTMG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレンオキサイド付加ポリプロピレンポリオールなどが挙げられる。
【0033】
前記ポリエステルポリオールとしては、ポリブチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペートおよびポリカプロラクトンポリオールなどが挙げられる。
【0034】
前記ポリエステルポリカーボネートポリオ−ルとしては、ポリカプロラクトンポリオールなどのポリエステルグリコールとアルキレンカーボネートとの反応生成物、エチレンカーボネートを多価アルコールと反応させて得られた反応混合物をさらに有機ジカルボン酸と反応させた反応生成物などが挙げられる。
【0035】
前記ポリカーボネートポリオールとしては、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポリテトラメチレングリコールなどのジオールと、ホスゲン、ジアリルカーボネート(例えばジフェニルカーボネート)又は環式カーボネート(例えばプロピレンカーボネート)との反応生成物などが挙げられる。
【0036】
前記ポリオール化合物は、単独で、又は2種以上が組み合わされて用いられ得る。
【0037】
前記多価アルコールとしては、反応時の強度がより高くなりやすく、製造された発泡ポリウレタンを含む研磨パッドの剛性がより高くなりやすく、比較的安価であるという点で、エチレングリコール、ジエチレングリコールが好ましい。
【0038】
前記ポリオールプレポリマーとしては、弾性のある発泡ポリウレタンが得られやすいという点で、数平均分子量が800〜8000であるものが好ましく、具体的には、ポリテトラメチレングリコ−ル(PTMG)、エチレンオキサイド付加ポリプロピレンポリオールが好ましい。
【0039】
前記ポリアミン化合物としては、4,4’−メチレンビス(o−クロロアニリン)(MOCA)、2,6−ジクロロ−p−フェニレンジアミン、4,4’−メチレンビス(2,3−ジクロロアニリン)、3,5−ビス(メチルチオ)−2,4−トルエンジアミン、3,5−ビス(メチルチオ)−2,6−トルエンジアミン、3,5−ジエチルトルエン−2,4−ジアミン、3,5−ジエチルトルエン−2,6−ジアミン、トリメチレングリコール−ジ−p−アミノベンゾエート、1,2−ビス(2−アミノフェニルチオ)エタンおよび4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチル−5,5’−ジメチルジフェニルメタンなどが挙げられる。
【0040】
前記発泡剤としては、前記発泡ポリウレタンが成形される際に、気体を発生させて気泡となり、前記発泡ポリウレタン中に気泡を形成させるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、加熱により分解してガスを発生させる有機化学発泡剤、沸点が−5〜70℃の低沸点炭化水素、ハロゲン化炭化水素、水、液化炭酸ガスなどを単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0041】
前記有機化学発泡剤としては、例えば、アゾ系化合物(アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、ジアゾアミノベンゼン、アゾジカルボン酸バリウム等)、ニトロソ化合物(N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、N,N’−ジニトロソ−N,N’−ジメチルテレフタルアミド等)、スルホニルヒドラジド化合物〔p,p’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、p−トルエンスルホニルヒドラジド等〕等が挙げられる。
前記低沸点炭化水素としては、例えば、ブタン、ペンタン、シクロペンタン、及びこれらの混合物などが挙げられる。
前記ハロゲン化炭化水素としては、塩化メチレン、HFC(ハイドロフルオロカーボン類)等が挙げられる。
【0042】
本実施形態の研磨パッドは、上記のように構成されているので、以下の利点を有するものである。
【0043】
本発明者らが鋭意研究したところ、発泡ポリウレタンで形成されており、25℃でのパルスNMR測定で求められる、前記発泡ポリウレタンにおけるS相の含有割合が所定範囲内にある研磨パッドは、温度変化による硬さの変化が小さくなることを見出し、本実施形態を想到するに至った。
即ち、本実施形態の研磨パッドは、発泡ポリウレタンで形成されており、25℃でのパルスNMR測定で求められる、前記発泡ポリウレタンにおけるS相の含有割合が70%を超える、研磨パッドである。
本実施形態の研磨パッドは、斯かる構成を有することにより、温度変化による硬さの変化が小さい研磨パッドとなる。
【0044】
本実施形態の研磨パッドは、25℃でのパルスNMR測定で求められる、前記発泡ポリウレタンにおけるS相の含有割合が70%を超えると、温度変化による硬さの変化が小さくなるのは、以下の理由によるものと考えられる。
前記発泡ポリウレタンは、前記S相の含有割合が70%を超えている。よって、前記発泡ポリウレタンは、ハードセグメントが結晶化した部分が多くなっており、ハードセグメントが結晶化した部分が密集して存在していると考えられる。一方で、ソフトセグメントは、ハードセグメントが結晶化した部分の間に存在し、又は、ハードセグメントが結晶化した部分の端に連なって存在すると考えられる。
そうすると、前記発泡ポリウレタンは、ハードセグメントが結晶化した部分が密集しているので、ハードセグメント間の分子間力が高くなり、温められても、ハードセグメント同士が離れ難くなり、その結果、硬度が低下し難くなっていると考えられる。
また、ハードセグメントが結晶化した部分の密集度が小さい箇所がある場合であっても、この密集度が小さい箇所は、密集度が高い箇所に比べて、温められると、ハードセグメント同士が離れやすい性質を有し得るが、周囲の密集度の高い箇所によって動きが抑制され、その結果、硬度が低下し難くなっていると考えられる。
さらに、前記発泡ポリウレタンは、ソフトセグメントが少量存在しても、ソフトセグメントは短いので、温められてソフトセグメントが動こうとしても、ハードセグメントが結晶化した部分によって動きが抑制され、その結果、硬度が低下し難くなっていると考えられる。
【0045】
また、本実施形態の研磨パッドは、25℃でのパルスNMR測定で求められる、前記発泡ポリウレタンにおけるS相の含有割合に対する、60℃でのパルスNMR測定で求められる、前記発泡ポリウレタンにおけるS相の含有割合の比が、80%以上であることが好ましい。
【0046】
なお、本発明に係る研磨パッドは、上記実施形態に限定されるものではない。また、本発明に係る研磨パッドは、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明に係る研磨パッドは、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0047】
次に、試験例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。
【0048】
試験例1〜6の発泡ポリウレタンを用意した。
そして、それぞれの発泡ポリウレタンをパルスNMRで測定した。パルスNMR測定の条件は下記の通りである。
また、それぞれの発泡ポリウレタンの貯蔵弾性率を測定した。貯蔵弾性率は、JIS K7244−4:1999「プラスチック−動的機械特性の試験方法−第4部:引張振動−非共振法」に従って測定した。貯蔵弾性率の測定条件は下記の通りである。
【0049】
<パルスNMR測定の条件>
測定装置:JEOL製、JNM−MU25
測定手法:Solid Echo法
パルス幅:90°pulse、2.0μs
繰り返し時間:4 sec
積算回数:8回
測定温度:室温(RT)(25℃)、60℃、80℃、100℃
【0050】
<貯蔵弾性率の測定条件>
測定装置:SIIナノテクノロジー製、動的粘弾性測定装置DMS6100
周波数:1Hz
初期荷重:300mN
測定モード:引張り・正弦波制御モード
温度:10〜130℃
昇温:5℃/min
【0051】
表1には、各温度でのS相の含有割合と、25℃でのS相の含有割合に対する、各温度でのS相の含有割合の比(表1では「各温度/RT」)とを示す。
また、表2には、各温度での貯蔵弾性率(E’)と、25℃でのE’に対する、各温度でのE’の比(表2では「各温度/RT」)とを示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
表1、2に示すように、25℃でのパルスNMR測定で求められるS相の含有割合が70%を超える試験例3〜6発泡ポリウレタンは、試験例1の発泡ポリウレタンに比べて、25℃でのE’に対する、各温度でのE’の比が高い値を示した。
すなわち、本願発明によれば、温度変化による硬さの変化が小さい研磨パッドを提供することができることがわかる。