特許第6623224号(P6623224)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6623224
(24)【登録日】2019年11月29日
(45)【発行日】2019年12月18日
(54)【発明の名称】ナトリウムセラミック電解質電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/054 20100101AFI20191209BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20191209BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20191209BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20191209BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20191209BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20191209BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20191209BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20191209BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20191209BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20191209BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20191209BHJP
【FI】
   H01M10/054
   H01M4/485
   H01M4/58
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M4/36 E
   H01M10/0562
   H01M10/0568
   H01M4/62 Z
   H01M10/0585
   H01M4/134
【請求項の数】18
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-540306(P2017-540306)
(86)(22)【出願日】2015年10月14日
(65)【公表番号】特表2017-534162(P2017-534162A)
(43)【公表日】2017年11月16日
(86)【国際出願番号】EP2015073756
(87)【国際公開番号】WO2016059098
(87)【国際公開日】20160421
【審査請求日】2018年9月21日
(31)【優先権主張番号】14382393.8
(32)【優先日】2014年10月14日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517132935
【氏名又は名称】フンダシオン セントロ デ インベスティガシオン コオペラティバ デ エネルヒアス アルテルナティバス セイセ エネルヒグネ フンダツィオア
【氏名又は名称原語表記】FUNDACION CENTRO DE INVESTIGACION COOPERATIVA DE ENERGIAS ALTERNATIVAS CIC ENERGIGUNE FUNDAZIOA
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】アルマン、ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】ロホ、テオフィロ
(72)【発明者】
【氏名】シン、グルプリート
(72)【発明者】
【氏名】オタエグイ アメツテグイ、ライダ
(72)【発明者】
【氏名】アグエセ、フレデリク
(72)【発明者】
【氏名】ブアニク、ルシエンヌ
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−510391(JP,A)
【文献】 特開2012−134126(JP,A)
【文献】 特開2014−049204(JP,A)
【文献】 特開2014−137938(JP,A)
【文献】 特表2013−541825(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/159542(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/036907(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0218361(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/054
H01M 4/134
H01M 4/36
H01M 4/485
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/58
H01M 4/62
H01M 10/0562
H01M 10/0568
H01M 10/0585
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウムイオン電池であって、
a)正極を備えてなる正極コンパートメント
(ここで、前記正極は、
−化学式(I)のナトリウム遷移金属ベース酸化物:
Na (I)
(式中、Mは遷移金属イオンまたは少なくとも1つの遷移金属イオンを含む多価イオンの組合せであり、0<x≦1、0<y≦1、w≧2である)、および
−化学式(II)のナトリウム金属塩:
Na(XO (II)
(式中、Mは遷移金属イオンまたは少なくとも1つの遷移金属を含む多価イオンの組合せであり、XはSまたはPであり、0<x≦3、0<y≦2、1≦v≦3、0≦z≦3である)
から選択される化合物を含んでなるものである)と、
b)負極を備えてなる負極コンパートメント
(ここで、前記負極は、固体金属ナトリウムを含んでなるか、または固体金属ナトリウムを含んでなる合金である)と、
c)電解質と
を含んでなり、
当該電解質が、
−固体ナトリウムイオン伝導性のセラミック電解質
(ここで、当該セラミック電解質は、
−前記固体金属ナトリウムと接触しているか、または固体金属ナトリウムを含む前記合金と接触しており、前記負極コンパートメントの負極と組み合わされたアノード側と、
−前記正極コンパートメントと接触しているカソード側と
を有し、
それにより、前記固体ナトリウムイオン伝導性のセラミック電解質が、前記負極コンパートメントと前記正極コンパートメントとを分離してなる)と、
−カソード液
(ここで、当該カソード液は、
化学式(III)で表される金属塩またはその混合物であって、場合により有機溶剤またはイオン液体内溶解したもの:
MY (III)
(式中、Mはアルカリ金属とアルカリ土類金属とから選択されるカチオンであり、Yは[RSONSO]、CFSO、C(CN)、B(C、およびBF(C(式中、RとRとは、独立してフッ素またはフルオロアルキル基から選択される)から選択されるアニオンである)、および
NaSbF、NaAsF、NaBF、NaClO、NaPF、およびそれらの混合物から選択される塩であって、有機溶剤またはイオン液体内に溶解したもの
から選択される化合物を含んでなり、
当該カソード液は、前記正極および前記固体セラミック電解質の前記カソード側と接触して、前記正極コンパートメント内に位置している)と、そして
−場合によって、アノード液
(ここで、前記アノード液は、
化学式(III)で表される金属塩またはその混合物であって、場合により有機溶剤またはイオン液体内に溶解したもの:
MY (III)
(式中、Mはアルカリ金属とアルカリ土類金属とから選択されたカチオンであり、Yは、[RSONSO]、CFSO、C(CN)、B(C、およびBF(C(式中、RとRとは、独立してフッ素またはフルオロアルキル基から選択される)から選択されたアニオンである)、および
NaSbF、NaAsF、NaBF、NaClO、NaPF、およびそれらの混合物から選択される塩であって、有機溶剤またはイオン液体内に溶解したもの
から選択される化合物を含んでなり、
当該アノード液は、前記負極と接触して、負極コンパートメント内に位置している)と
を含んでなる、ナトリウムイオン電池。
【請求項2】
化学式(I)および化学式(II)の前記金属塩内の前記遷移金属イオンが、チタンイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、モリブデンイオン、タングステンイオン、マンガンイオン、鉄イオン、オスミウムイオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、パラジウムイオン、白金イオン、銅イオン、銀イオン、金イオン、亜鉛イオン、カドミウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ベリリウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、アルミニウムイオン、ホウ素イオン、ニオブイオン、アンチモンイオン、テルルイオン、タンタルイオン、ビスマスイオン、セレニウムイオン、およびそれらの組合せから選択されるものである、請求項1に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項3】
化学式(I)の前記ナトリウム遷移金属ベースの酸化物が、NaFeO、NaMnO、Na(FeαMnβ)O、Na(MgαMnβ)O、およびNa(FeαNiβTiγ)O(式中、0<x≦1、0<α+β≦1、0<α+β+γ≦1)から選択される、請求項1または2に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項4】
化学式(II)の前記ナトリウム金属塩が、NaFePO、NaFePOF、NaFe1−nMnPOF(0<n<1)、Na2x(PO3−2x(0<x<1)、およびNaVPOFから選択される、請求項1または2に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項5】
前記正極が、伝導性添加物をさらに含んでなる、請求項1から4のいずれか一項に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項6】
前記固体ナトリウムイオン伝導性セラミック電解質が、β−アルミナ、β’−アルミナ、β’’−アルミナ、Na3−xZrSi2+x1+x12(式中、−1≦x≦2)、およびアルカリ−シリコン硫化物ガラスから選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項7】
前記負極に含まれる、前記固体ナトリウムイオン伝導性セラミック電解質および前記固体金属ナトリウム、または、固体金属ナトリウムを含む前記合金が、10kg/cmから1000kg/cmの範囲の接触圧力を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項8】
前記負極の固体金属ナトリウムの含有量が、90wt%より大である、請求項1から7のいずれか一項に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項9】
前記負極が、固体金属ナトリウムからなる、請求項1から8のいずれか一項に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項10】
前記電解質が、前記固体ナトリウム電解質の前記カソード側に、カソード側と接触した多孔性材料の層をさらに含んでなり、前記多孔性材料の層は、前記カソード液に含浸されてなる、請求項1から9のいずれか一項に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項11】
化学式(III)の前記金属塩が、LiFSI、NaFSI、KFSI、RbFSI、CsFSI、Mg(FSI)、Ca(FSI)、Sr(FSI)、およびBa(FSI)、LiTFSI、NaTFSI、KTFSI、RbTFSI、CsTFSI、Mg(TFSI)、Ca(TFSI)、Sr(TFSI)、およびBa(TFSI)、またはこれら2つ以上の組合せから選択される、請求項1から10のいずれか一項に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項12】
化学式(III)の前記金属塩が、Na[RSONSO](式中、RとRとは独立してフッ素とフルオロアルキル基とから選択される)である、請求項1から11のいずれか一項に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項13】
前記カソード液が、NaFSIとKFSIとの混合物、または、NaFSIとNaTFSIとの混合物を含んでなる、請求項1から12のいずれか一項に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項14】
前記化学式(III)の金属塩またはその混合物が、有機溶剤に溶解されてなる、請求項1から13のいずれか一項に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項15】
前記化学式(III)の金属塩またはその混合物が、イオン液体に溶解されてなる、請求項1から14のいずれか一項に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項16】
平板な形状または筒状の形状に設計された、請求項1から15のいずれか一項に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項17】
少なくとも二つのスタックされた請求項1から16のいずれか一項に記載の電池を含んでなる、モジュールシステム。
【請求項18】
請求項1から16のいずれか一項に規定された電池の、エネルギー貯蔵デバイスとしての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の分野に関し、より詳細には、動作温度が低く、動作寿命が長いナトリウム電池に関する。具体的には、本発明は、ナトリウムを含む負極、セラミック電解質、低溶解温度のナトリウム塩または塩の混合物を含むカソード液、およびナトリウム挿入化合物を含む正極を有する低温ナトリウムセラミック電解質電池に関する。本発明はさらに、ナトリウム電池の具体的な設計に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人類の将来のエネルギーが話題とされ、世界中で前例のないほど関心を集めている。中心にあるのは、エネルギーシステムの持続可能性とクリーンさである。エネルギーは、家を暖め、工場を稼働させ、町を明るくし、自動車を駆動させるのに必要である。現在、エネルギーのほとんどは、石油、石炭、および天然ガスを含む化石燃料から来ている。化石燃料は、重要な資源の1つになってきており、それがなければ、現在の市民生活を継続することはできない。結果として、持続可能かつクリーンなエネルギーをベースとする経済の発展が、多くの国にとっての緊急の要請となってきている。持続可能かつクリーンなエネルギーによる経済のための手段は、再生可能な供給源からエネルギーを取得し、そのエネルギーを環境に対する有害な影響を最小にしつつ使用することである。主要な再生可能エネルギーの供給源には、太陽光、水力、風力、潮力、地熱、およびバイオマスが含まれる。これら再生可能エネルギーの供給源のすべてが、将来、持続可能エネルギー構造の一部を担うことになることが思い描かれている。
【0003】
特に風力および太陽光などの断続的な供給源に関し、これらエネルギー供給源をよりよく利用するために、エネルギー貯蔵技術における進歩が必要とされている。たとえば、再生可能エネルギーの供給源が電気を生成するのに使用される場合、貯蔵デバイスが、電気エネルギーを貯蔵および分配するのに必要とされている。さらに、電気エネルギー貯蔵技術は、既存の発電および伝達のインフラストラクチャの最適化、ならびに、全体の電力の品質および信頼性の向上のために使用することができる。
【0004】
無機の固体電解質ベースの電池は、従来の有機電解液ベースに比べ、いくつかの有利な点を有する。セラミック電解質は、通常、広い電圧および温度領域、ならびに強い酸化環境・還元環境においてより安定している。さらに、それらセラミック電解質は、Naデンドライトの形成または不慮の温度上昇およびNaの溶解に起因する、正極および負極の接触に対する物理的稠密バリアを構成する。
【0005】
溶融Naアノードおよびベータ−アルミナ固体電解質ベースのナトリウムベータ−アルミナ電池(NBB)は、近年、商業輸送か、船舶による輸送を伴い、再生可能なインテグレーションおよびグリッドアプリケーションのための、電気エネルギー貯蔵デバイスとしてますます関心を集めてきている。特定のカソード材料に基づき、広く研究されてきている、ZEBRA電池とナトリウム−硫黄電池との、主な2つのタイプのNBBが存在している。
【0006】
ZEBRA電池は、NiCl、FeCl、およびZnClなどの金属塩化物を、カソードにおける作用物質として使用する。ZEBRA電池は通常、ベータ−アルミナ電解質と固体カソード材料との間のナトリウムイオンの容易な移送を確実にするように、カソードにおける溶融二次電解質(すなわち、NaAlCl)を必要としている。ZEBRA電池は、1985年にDr.Johan Coetzerが代表のZeolite Battery Research Africa Project(ZEBRA)グループによって最初に発明された。過去25年の間、ZEBRA電池に関し、多くの研究および開発行為、ならびに発表がされてきた。これら電池の主な課題の1つは、数千サイクルまでしか循環することができず、また、300℃で動作することである。主な故障のメカニズムの1つは、動作温度の結果としての、絶縁体の腐食またはアルミナセラミックの破損に起因する、電気的短絡である。
【0007】
近年、イタリアのFiamm(登録商標)のみが、様々な用途のための、商業利用可能なZEBRA電池を製造している。これらZEBRA電池は、ベータアルミナチューブに装填された、NaClと混合したNi−Fe合金をカソードとして使用している。このチューブは、矩形のステンレス鋼の缶に挿入されている。セルは、金属ナトリウムを取り扱う必要がないように、放電された状態で組み立てられる。この電池の通常のセルは、38Ahの容量を有している。様々なモジュールおよびパックも、様々な用途のために開発されている。ZEBRA電池が広くマーケットに浸透することを妨げている主な問題点は、依然としてコストである。現在、ZEBRA電池は300〜500ユーロ/kWhである。General Electricも、機関車用途および電力用途のバックアップの用途ためのZEBRA電池の量産を開始している。
【0008】
様々な用途のためのZEBRA電池を開発するいくつかの別の取り組みがなされている。主な焦点は、(1)耐久性を向上させ、構成要素および動作のコストを低下させるために、動作温度を下げることと、(2)性能およびコストを向上させるために、革新的なセルの設計を使用することである。たとえば、Eagle Picherは、再生可能なインテグレーションおよびグリッドアプリケーションのための平板なZEBRA電池を開発している。このプログラムには、ARPA−Eプログラムを通して米国エネルギー省によって資金が提供されている。このプログラムは、低温における性能を向上させるために、高額ではないスタックされた設計を使用しており、全体的な貯蔵技術をより低額にしている。新しい設計では、ベータ−アルミナ(またはNASICON)膜の製造プロセス(重要な有効化技術)がかなり単純化され、それに続く、スケーラブルな、モジュール式電池を既存の筒状設計のコストの半分で製造することの筋道を提供する(http://arpa−e.energy.gov)。Pacific Northwest National Laboratoryも、セルの構成要素の最適化を伴い、ZEBRA電池の平板な設計に取り組んでいる(http://energyenvironment.pnnl.gov/presentations/pdf/Planar%20Zebra.pdf)。
【0009】
ナトリウム−硫黄電池は、硫黄をカソードとして使用している。この技術は、元々は、1960年代に、自動車の用途のためにフォードで開発されたが、米国においては、産業上の開発努力はそれほど活発ではなかった。Na−S技術は、過去30年、日本において主に進展した。現在、Na−S電池は、日本においてのみ、NGKによって製造されており、90MWh/年を提供している。この電池のコストは400ユーロ/kWhより上である。ナトリウム−硫黄電池も、高温(300〜350℃)で動作する。この高温は、十分な電気化学反応を達成するために、ベータ−アルミナ電解質の組成とカソードの組成との両方に必要である。ナトリウム−硫黄電池の主な課題は、1)多硫化物の固有の腐食性作用による溶融であり、これにより、カソードの集電装置と電池のケーシングとの両方に関する材料の選択が制限されることと、2)高い動作温度および開回路のセル故障モードと、である。ベータ−アルミナ電解質が、電池の動作中に機械的に故障した場合、溶融硫化物が溶融ナトリウム(>98℃)と直接接触し、溶融硫化物と溶融ナトリウムとの間の反応は本質的に強力である。
【0010】
したがって、より安全で、低温で動作する、電気エネルギーの貯蔵用途のための低コストのナトリウムセラミック電解質電池の開発に、依然として大きな関心がある。
【発明の概要】
【0011】
本発明者らは、ナトリウム−硫黄電池および/またはZEBRA電池に比べ、より低い動作温度、よりよいサイクル寿命、および向上した安全性を示す、エネルギー貯蔵デバイスとしてのナトリウムイオン電池を開発した。これら特性により電池は、再生可能なインテグレーションおよびグリッドアプリケーション、ならびに、商業輸送および船舶による輸送を含む、様々な用途に適するものとされた。
【0012】
本発明のナトリウム電池は、カソードにおけるナトリウム挿入化合物と合わせられたセラミック電解質と、カソード液としても知られている第2の電解質とを使用することを特徴とする。カソードにおけるナトリウム挿入化合物と、固体セラミック電解質と組み合わせられたカソード液とを使用する場合、動作温度は、300℃から、アノードの構成要素(金属ナトリウム)の融点より低い温度まで低下され得、これにより、電池の構成要素の腐食を低減し、より強固である新規の設計を可能にし、ひいては電池の寿命を延長する。動作温度を低下させることにより、ハウジング、シーリング、およびアルミニウム集電装置などの、安価なセルの構成要素の使用をも可能にし、これにより、動作コストを低減し、バッテリの安全性およびサイクル寿命を向上させる。
【0013】
さらに、実験の項に示すように、アノードに存在する金属ナトリウムが動作条件において固体状態のままであるにもかかわらず、著しく極性を失うことなく、一定の接触圧力の条件下で、アノードの固体金属ナトリウムとセラミック電解質との間の良好な接触を得ることができる。
【0014】
したがって、本発明の第1の態様は、
ナトリウムイオン電池であって、
a)正極を備えてなる正極コンパートメント
(ここで、前記正極は、
−化学式(I)のナトリウム遷移金属ベース酸化物:
Na (I)
(式中、Mは遷移金属イオンまたは少なくとも1つの遷移金属イオンを含む多価イオンの組合せであり、0<x≦1、0<y≦1、w≧2である)、および
−化学式(II)のナトリウム金属塩:
NaMy(XO (II)
(式中、Mは遷移金属イオンまたは少なくとも1つの遷移金属を含む多価イオンの組合せであり、XはSまたはPであり、0<x≦3、0<y≦2、1≦v≦3、0≦z≦3である)
から選択される化合物を含んでなるものである)と、
b)負極を備えてなる負極コンパートメント
(ここで、前記負極は、固体金属ナトリウムを含んでなるか、または固体金属ナトリウムを含んでなる合金である)と、
c)電解質と
を含んでなり、
当該電解質が、
−固体ナトリウムイオン伝導性のセラミック電解質
(ここで、当該セラミック電解質は、
−前記固体金属ナトリウムと接触しているか、または固体金属ナトリウムを含む前記合金と接触しており、前記負極コンパートメントの負極と組み合わされたアノード側と、
−前記正極コンパートメントと接触しているカソード側と
を有し、
それにより、前記固体ナトリウムイオン伝導性のセラミック電解質が、前記負極コンパートメントと前記正極コンパートメントとを分離してなる)と、
−カソード液
(ここで、当該カソード液は、
化学式(III)で表される金属塩またはその混合物であって、場合により有機溶剤またはイオン液体内の溶解したもの:
MY (III)
(式中、Mはアルカリ金属とアルカリ土類金属とから選択されるカチオンであり、Yは[RSONSO]、CFSO−、C(CN)−、B(C、およびBF(C)−(式中、RとRとは、独立してフッ素またはフルオロアルキル基から選択される)から選択されるアニオンである)、および
NaSbF、NaAsF、NaBF、NaClO、NaPF、およびそれらの混合物から選択される塩であって、有機溶剤またはイオン液体内に溶解したもの
から選択される化合物を含んでなり、
当該カソード液は、前記正極および前記固体セラミック電解質の前記カソード側と接触して、前記正極コンパートメント内に位置している)と、そして
−場合によって、アノード液
(ここで、前記アノード液は、
化学式(III)で表される金属塩またはその混合物であって、場合により有機溶剤またはイオン液体内に溶解したもの:
MY (III)
(式中、Mはアルカリ金属とアルカリ土類金属とから選択されたカチオンであり、Yは、[RSONSO]、CFSO−、C(CN)−、B(C−、およびBF(C)−(式中、RとRとは、独立してフッ素またはフルオロアルキル基から選択される)から選択されたアニオンである)、および
NaSbF、NaAsF、NaBF、NaClO、NaPF、およびそれらの混合物から選択される塩であって、有機溶剤またはイオン液体内に溶解したもの
から選択される化合物を含んでなり、
当該アノード液は、前記負極と接触して、負極コンパートメント内に位置している)と
を含んでなる、ナトリウムイオン電池に関する。
【0015】
本発明の別の態様は、少なくとも2つのスタックされた、上に規定された電池を備えてなるモジュールシステムに関する。
【0016】
本発明のさらなる態様は、上に規定された電池をエネルギー貯蔵デバイスとして使用することに関する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のナトリウムセラミック電池の構成を示す図である。
図2】平板な形状のナトリウムセラミック電池のセルの設計を示す図であって、(a)はアノード液がない、(b)はアノード液を有するものである。
図3】筒状の形状のナトリウムイオン電池のセルの設計を示す図である。
図4】55℃で60分間のパルスの間の、63μA/cm、127μA/cm、および255μA/cmの下での、Na/β’’−Al/Naシステムの被覆およびストリッピングのテストを示す図である。
図5】22℃で60分間のパルスの間の、63および127μA/cmの下での、Na/β’’−Al/Naの被覆およびストリッピングのテストを示す図である。
図6】電解質としてβ’’−Al、カソード液としてNaFSI/Cpyrr[FSI]、および挿入カソードとしてNa[Fe0.4Ni0.3Ti0.3]Oを有しているものと、有していないものとの、中間温度のナトリウムイオン電池(55℃)の性能を示す図であって、(a)は最初のサイクル時における性能、(b)はサイクルにわたる保持容量を示す。
図7】電解質としてβ’’−Al、カソード液としてNaFSI/Cpyrr[FSI]、および挿入カソードとしてNa[Mg0.2Mn0.8]Oを有しているものと、有していないものとの、中間温度のナトリウムイオン電池(55℃)の性能を示す図であって、(a)は5回目のサイクルにおける性能、(b)はサイクルにわたる保持容量を示す
【発明を実施するための形態】
【0018】
第1の態様において、本発明は、ナトリウム−硫黄電池および/またはZEBRA電池に比べ、より低い動作温度、よりよいサイクル寿命、および向上した安全性を示すナトリウムイオン電池を提供し、前述のナトリウムイオン電池を、再生可能なインテグレーションおよびグリッドアプリケーションなどの、様々な用途に非常に適したものとする。
【0019】
図1は、本発明の低温ナトリウムセラミック電池のコンセプトを示しており、他の構成要素の中で、Na挿入化合物を含む正極コンパートメント(1)、固体金属ナトリウムを含む負極コンパートメント(2)、および、正極コンパートメントと負極コンパートメントとの両方を分ける、固体ナトリウムイオン伝導性セラミック電解質(3)を含んでいる。この電池は、両方の電極コンパートメント間に位置する固体セラミック電解質を通して拡散するナトリウムイオンを移送する。
【0020】
本発明の電池は、一次電池として使用できるが、以下に示す電極反応を通して充電および放電することが可能である二次電池としても使用することができる。
【0021】
電池の電気化学作用の間に生じるこれら化学反応を以下に示す。
負極/アノード:Na←→Na+e
正極/カソード:NaMO←→MO+xNa+xe
【0022】
より具体的には、充電の間、ナトリウムイオンがNa挿入カソード(正極コンパートメント)からアノード(負極コンパートメント)に、セラミック電解質を通して拡散し、ここで、ナトリウムイオンが外部の回路から電子を取得し、ナトリウム金属に還元される。
【0023】
放電の際には、ナトリウムは、負極においてナトリウムイオンに酸化され、電子を外部の回路に渡して、電力を生成する。ナトリウムイオンは、正極側に拡散し、自発的に、電気化学反応によって動かされる。
【0024】
本発明において使用されるナトリウムイオンセラミック電池の構成要素の詳細を、以下に記載する。
【0025】
正極
正極コンパートメントは、本発明の電池のカソードを構成する正極としての役割を果たす。この正極は、
−化学式(I)のナトリウム遷移金属ベース酸化物:
Na (I)
(式中、Mは遷移金属イオンまたは少なくとも1つの遷移金属イオンを含む多価イオンの組合せであり、0<x≦1、0<y≦1、w≧2である)、および
−化学式(II)のナトリウム金属塩:
Na(XO (II)
(式中、Mは遷移金属イオンまたは少なくとも1つの遷移金属を含む多価イオンの組合せであり、XはSまたはPであり、0<x≦3、0<y≦2、1≦v≦3、0≦z≦3である)
から選択される化合物を含んでなるものである。
【0026】
化学式(I)および(II)では、Mは、遷移金属イオン、または、少なくとも1つの遷移金属イオンを含む多価イオンの組合せである。
【0027】
好ましい実施形態によれば、Mは、チタンイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、モリブデンイオン、タングステンイオン、マンガンイオン、鉄イオン、オスミウムイオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、パラジウムイオン、白金イオン、銅イオン、銀イオン、金イオン、亜鉛イオン、カドミウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ベリリウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、アルミニウムイオン、ホウ素イオン、ニオブイオン、アンチモンイオン、テルルイオン、タンタルイオン、ビスマスイオン、およびセレニウムイオンから選択される。より好ましくは、鉄イオン、マンガンイオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、およびチタンイオン、またはそれらの組合せから選択されるものである。
【0028】
上記化学式(I)において、Naの組成比「x」は、0<x≦1の関係を満たす実数であり、Mの組成比「y」は、0<y≦1の関係を満たす実数であり、Oの組成比「w」は、w≧2の関係を満たす実数である。
【0029】
化学式(I)の組成の特定の例は、NaFeO、NaMnO、Na(FeαMnβ)O、Na(MgαMnβ)O、Na(FeαNiβTiγ)O(式中、0<x≦1、0<α+β≦1、0<α+β+γ≦1)である。より詳細には、化学式(I)の組成は、Na2/3[Mg0.2Mn0.8]OまたはNa[Fe0.4Ni0.3Ti0.3]Oとすることができる。
【0030】
化学式(II)の組成では、Xは、硫黄とリンとから選択され、こうして、フッ素原子に有無に応じて、ナトリウム金属リン酸塩、ナトリウム金属フルオロリン酸塩、ナトリウム金属硫酸塩、またはナトリウム金属フルオロ硫酸塩を生じる。
【0031】
上記化学式(II)において、Naの組成比「x」は、0<x≦3の関係を満たす実数であり、Mの組成比「y」は、0<y≦2の関係を満たす実数であり、XOの組成比「v」は、1≦v≦3の関係を満たす実数であり、Fの組成比「z」は、0≦z≦3の関係を満たす実数である。
【0032】
特定の実施形態において、XはPである。すなわち、化学式(II)の組成は、ナトリウム金属リン酸塩またはナトリウム金属フルオロリン酸塩である。
【0033】
化学式(II)の組成の具体例は、NaFePO、NaFePOF、NaFe1−nMnPOF(0<n<1)、Na2x(PO3−2x(0<x<1)、またはNaVPOFである。
【0034】
これらNa挿入化合物は、Barker,J.,Electrochemical and Solid−State Letters,2003,6(1),A1−A4、Gover R.K.B.et al.,Solid State Ionics,2006,177,1495−1500、Liu Zhi−ming,et al.,Trans.Nonferrous Met.Soc.China,2008,18,346−350、Zhao,J.et al.,Journal of Power Sources,2010,195,6854−6959、Zaghib,K.,et al.,Journal of Power Sources,2011,196,9612−9617、Recham、N.et al.,Journal of the Electrochemical Society,2009,156(12),A993−A999、およびYabuuchi,N.et al.,Nature Materials,2012,11,512−517の出版物に述べられている方法のように、当業者によって既知である任意の方法によって合成され得る。
【0035】
特定の実施形態において、正極はさらに、伝導材料として作用する伝導性添加物を含んでいる。伝導性添加物の例には、カーボンブラックまたはアセチレンブラックが含まれている。伝導性添加物の添加により、優れた充電および放電サイクル特性が与えられ、高エネルギー密度を得ることができる。
【0036】
正極の伝導性添加物の含有量は、好ましくは、所要の充電および放電サイクル特性、ならびに、高エネルギー密度を得るために、正極の40質量%以下かつ、5質量%以上である。正極が伝導性を有している場合、伝導性添加物は、必ずしも正極に含まれなければならないわけではないことに注意されたい。
【0037】
さらに、正極に含まれるNa挿入化合物と伝導性添加物とを相互にしっかりと接着することが可能な任意の結合剤を使用することができる。特にこれらに限定的されるものではないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化ポリビニリデン(PVDF)、EPDMとして知られる、ジエンの含有量が10%以下のポリエチレンプロピレンジエンが好ましい。
【0038】
正極の結合剤の含有量は、好ましくは、Na挿入化合物と伝導性添加物との間の良好な接着を達成するために、正極の40質量%以下かつ1質量%以上である。
【0039】
電解質の組成
電解質の組成には、負極と正極との間での使用の際にナトリウムイオンを伝導する、固体ナトリウムイオン伝導性セラミック電解質が含まれる。
【0040】
この固体ナトリウムイオン伝導性セラミック電解質は、正極コンパートメントを規定するカソード側と、負極コンパートメントを規定するアノード側とを有する。具体的には、固体ナトリウムイオン伝導性セラミック電解質は、負極コンパートメントと接触したアノード側と、正極コンパートメントと接触したカソード側とを有し、それにより、固体ナトリウムイオン伝導性セラミック電解質が、正極コンパートメントと負極コンパートメントとのセパレータとして作用するようになっている。
【0041】
本発明において、「固体ナトリウムイオン伝導性セラミック電解質」、「セラミック電解質」「固体電解質」、および「固体セラミック電解質」との用語は、同じ意味であり、相互に入れ替え可能である。
【0042】
固体ナトリウムイオン伝導性セラミック電解質に適切な材料には、β−アルミナ、β’−アルミナ、およびβ’’−アルミナが含まれ得る。他の例示的な電解質の材料には、NASICON(Na3−xZrSi2+x1+x12(式中、−1≦x≦2))などのケイ素リン酸塩、および、アルカリケイ素硫化物ガラスなどのガラスセラミックが含まれる。
【0043】
好ましい実施形態において、固体ナトリウムイオン伝導性セラミック電解質には、β’’−アルミナまたはNASICONが含まれる。より好ましくは、固体ナトリウムイオン伝導性セラミック電解質には、ベータ’’−アルミナが含まれる。
【0044】
固体ナトリウムイオン伝導性セラミック電解質は、ナトリウムイオンの伝達のための最大表面積を提供するように、正方形、多角形、円形、またはクローバの葉型の断面プロファイルを有するようなサイズおよび形状とすることができ、また、垂直軸に沿って、約1:10より大である、幅対長さの比を有することができる。
【0045】
固体ナトリウムイオン伝導性セラミック電解質は、少量のドーパントを添加することにより、安定化され得る。ドーパントには、酸化リチウム、酸化マグネシウム、ジルコニア、酸化亜鉛、およびイットリアから選択された1つまたは複数の酸化物が含まれ得る。これら安定剤は、単独で、または組み合わせて、または、他の材料と組み合わせてさえ、使用され得る。特定の実施形態では、固体電解質にはβ’’−アルミナが含まれ、また、1つまたは複数のドーパントが含まれ得る。
【0046】
固体ナトリウムイオン伝導性セラミック電解質のアノード側は、負極コンパートメントの負極に含まれている、固体金属ナトリウム、または、固体金属ナトリウムを含む合金と物理的に接触している。
【0047】
具体的には、10kg/cmから1000kg/cmの間の圧力を印加して、固体金属ナトリウムを固体ナトリウムイオン伝導性セラミック電解質に貼り付ける際に、最適な結果が得られることが観察された。そのような範囲より上では、固体セラミック電解質は破損する場合があり、一方、そのような範囲より下では、ナトリウムは、固体セラミック電解質に適切に付着することができない。
【0048】
したがって、特定の実施形態において、負極に含まれる、固体ナトリウムイオン伝導性セラミック電解質および固体金属ナトリウム、または、固体金属ナトリウムを含む合金は、10kg/cmから1000kg/cmの範囲、より好ましくは50kg/cmから500kg/cmの範囲、さらにより好ましくは、100kg/cmから200kg/cmの範囲の接触圧力を有するように構成されている。
【0049】
電解質の組成には、さらに、正極と接触した正極コンパートメント内に位置する第2の電解質が含まれており、このことは、カソード液の文献では既知である。本発明では、前述のカソード液には、
化学式(III)で表される金属塩またはその混合物であって、場合により有機溶剤またはイオン液体内の溶解したもの:
MY (III)
(式中、Mはアルカリ金属とアルカリ土類金属とから選択されるカチオンであり、Yは[RSONSO]、CFSO−、C(CN)−、B(C−、およびBF(C)−(式中、RとRとは、独立してフッ素またはフルオロアルキル基から選択される)から選択されるアニオンである)、および
NaSbF、NaAsF、NaBF、NaClO、NaPF、およびそれらの混合物から選択される塩であって、有機溶剤またはイオン液体内に溶解したもの
から選択される化合物を含んでなる。
【0050】
好ましい実施形態において、化学式(III)の金属塩は、M[RSONSO]であり、Mはアルカリ金属とアルカリ土類金属とから選択された陽イオンであり、RとRとは、FとCFとから個別に選択され、より好ましくは、RとRとの両方がFであるか、両方がCFである。RとRとの両方がFである場合、結果として得られる陰イオンはビス(フルオロスルホニル)イミドの陰イオン(以下、「FSI陰イオン」と称する)である。RとRとの両方がCFである場合、結果として得られる陰イオンはビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドの陰イオン(以下、「TFSI陰イオン」と称する)である。
【0051】
したがって、特定の実施形態において、カソード液には、陰イオンとしてのFSIイオンおよび/またはTFSIイオンを含むとともに、陽イオンとしてのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の任意の一タイプを示すMのイオンを含む、MFSIの塩、MTFSIの塩、2つ以上のMFSIの塩の混合物、2つ以上のMTFSIの塩の混合物、または、1つもしくは複数のMFSIの塩および1つもしくは複数のMTFSIの塩の混合物が含まれる。
【0052】
別の好ましい実施形態において、陽イオンMは、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、ポタジウム(K)、ルビジウム(Rb)、およびセシウム(Cs)から選択されるアルカリ金属とすることができる。
【0053】
別の好ましい実施形態において、陽イオンMは、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、およびバリウム(Ba)から選択されるアルカリ土類金属とすることができる。
【0054】
カソード液として使用される塩の例には、LiFSI、NaFSI、KFSI、RbFSI、CsFSI、Mg(FSI)、Ca(FSI)、Sr(FSI)、およびBa(FSI)、LiTFSI、NaTFSI、KTFSI、RbTFSI、CsTFSI、Mg(TFSI)、Ca(TFSI)、Sr(TFSI)、およびBa(TFSI)の単塩、またはそれら2つ以上の組合せが含まれる。
【0055】
より好ましい実施形態において、塩は、化学式Na[RSONSO](式中、RとRとは独立してフッ素とフルオロアルキル基とから選択される)のナトリウム塩である。好ましい実施形態では、RとRとは、FとCFとから個別に選択され、より好ましくは、RとRとの両方がFであるか、両方がCFである。これら好ましい塩は、上述の名称に応じて、NaFSIおよびNaTFSIに応答する。
【0056】
別の好ましい実施形態において、カソード液は、化学式(III)の2つ以上の塩の組合せである。より好ましくは、化学式(III)の2つ以上の塩を有する共融混合物が使用される。本発明において、「共融混合物」との用語により、混合物を構成する各塩の融点より著しく低い融点を有する、化学式(III)の塩の混合物であるものと理解される。
【0057】
より好ましくは、NaFSIとKFSIとの混合物で構成された2成分塩(binary−system salt)、または、NaFSIとNaTFSIとの混合物で構成された2成分塩を使用する。
【0058】
特定の実施形態において、化学式(III)の塩は、200から2000の間に含まれるMの、炭酸プロピレン(PC)、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸ジエチル(DEC)、ジ−、トリ−、もしくはテトラ−グリム、ポリエチレン・グリコール・ジメチル・エーテル、または、上述の溶剤の2成分もしくは3成分の混合物などの有機溶剤に溶解されてなる。
【0059】
別の具体的な実施形態において、化学式(III)の塩は、イオン液体内に溶解している。イオン液体の例には、イミダゾールタイプの陽イオン、より具体的には、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム陽イオンなどのアルキルイミダゾールタイプの陽イオン、ピロリジニウムタイプの陽イオン、より具体的には、N−エチル−N−メチルピロリジニウム陽イオン、N−エチル−N−プロピルピロリジニウム陽イオン、またはN−メチル−N−ブチルピロリジニウム陽イオンなどのアルキルピロリジニウムタイプの陽イオン、ピペリジニウム陽イオン、より具体的には、メチル−プロピル−ピペリジニウムなどのアルキル−ピペリジニウム陽イオン、ピリジニウムタイプの陽イオン、より具体的には、1−メチル−ピリジニウム陽イオンなどのアルキルピリジニウムタイプの陽イオン、トリメチルヘキシルアンモニウム陽イオンなどの4級アンモニウムタイプの陽イオン、ピラゾールタイプの陽イオン、ホスホニウム陽イオンまたはスルホニウム陽イオンと、RSONSO、CFSO、C(CN)、B(C、およびBF(Cから選択される陰イオンとの組合せから得られるものが含まれる。ここで、RとRとは、フッ素とフルオロアルキル基とから個別に選択される。
【0060】
別の実施形態において、カソード液は、200から2000の間に含まれるMの、炭酸プロピレン(PC)、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸ジエチル(DEC)、ジ−、トリ−、もしくはテトラ−グリム、ポリエチレン・グリコール・ジメチル・エーテル、または、上述の溶剤の2成分もしくは3成分の混合物などの有機溶剤に溶解されてなる、NaSbF、NaAsF、NaBF、NaClO、NaPF、およびそれらの混合物から選択されるNa塩である。
【0061】
別の特定の実施形態において、カソード液は、イオン液体内に溶解したNaSbF、NaAsF、NaBF、NaClO、NaPF、およびそれらの混合物から選択されるNa塩である。
【0062】
イオン液体の例には、イミダゾールタイプの陽イオン、より具体的には、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム陽イオンなどのアルキルイミダゾールタイプの陽イオン、ピロリジニウムタイプの陽イオン、より具体的には、N−エチル−N−メチルピロリジニウム陽イオン、N−エチル−N−プロピルピロリジニウム陽イオン、またはN−メチル−N−ブチルピロリジニウム陽イオンなどのアルキルピロリジニウムタイプの陽イオン、ピペリジニウム陽イオン、より具体的には、メチル−プロピル−ピペリジニウムなどのアルキル−ピペリジニウム陽イオン、ピリジニウムタイプの陽イオン、より具体的には、1−メチル−ピリジニウム陽イオンなどのアルキルピリジニウムタイプの陽イオン、トリメチルヘキシルアンモニウム陽イオンなどの4級アンモニウムタイプの陽イオン、ピラゾールタイプの陽イオン、ホスホニウム陽イオンまたはスルホニウム陽イオンと、RSONSO、CFSO、C(CN)、B(C、およびBF(Cから選択される陰イオンとの組合せから得られるものが含まれる。ここで、RとRとは、フッ素とフルオロアルキル基とから個別に選択される。
【0063】
特定の実施形態において、電解質の組成には、さらに、負極と接触した負極コンパートメント内に位置する第3の電解質が含まれており、このことは、文献では、アノード液として既知である。
【0064】
本発明の特定の実施形態において、前述のアノード液には、上で規定された化学式(III)の金属塩、または、2つ以上のそれら塩の混合物が含まれている。
【0065】
好ましい実施形態において、化学式(III)の塩は、カソード液の組成に関して上述した任意の塩とすることができる。
【0066】
化学式(III)の塩はまた、カソード液の組成に関してすでに記載した溶液などの、有機溶剤またはイオン液体に溶解させることができる。
【0067】
特定の実施形態において、アノード液は、上述の溶液などの、有機溶剤またはイオン液体内に溶解したNaSbF、NaAsF、NaBF、NaClO、NaPF、およびそれらの混合物から選択されるNa塩である。
【0068】
好ましい実施形態において、アノード液の組成には、200から2000の間に含まれるMの、ジ−、トリ−、またはテトラ−グリム、ポリエチレン・グリコール・ジメチル・エーテル、およびそれらの混合物が含まれる。
【0069】
特定の実施形態において、電解質の組成は、あらゆるアノード液を欠いている。
【0070】
別の特定の実施形態において、電解質の組成は、固体ナトリウムイオン伝導性セラミック電解質のカソード側に、カソード側と接触した多孔性材料の層をさらに含んでなる。この多孔性材料の層は、カソード液に含浸されている。
【0071】
別の特定の実施形態において、固体セラミック電解質は、多孔性材料の2つの層の間に挟まれており、一方の層はカソード液内に含浸されており、他方の層は、アノード液が存在する場合は、アノード液に含浸されている。この材料が多孔性であるため、固体セラミック電解質と、負極に含まれる固体金属ナトリウムとの間の接触は依然として保証されている。
【0072】
両方の特定の実施形態において、多孔性材料は、個別に、グラスファイバ、ポリプロピレン、またはポリエチレンで形成され得る。
【0073】
負極
負極は、電池のアノードを構成し、主要な構成要素として、固体金属ナトリウム、または固体金属ナトリウムを含む合金を含んでいる。
【0074】
特定の実施形態において、負極における固体金属ナトリウムの含有量は、50wt%より大、より好ましくは70wt%より大、さらにより好ましくは90wt%より大である。
【0075】
特定の実施形態において、負極は、電池のアノードを構成し、固体金属ナトリウム、または固体金属ナトリウムを含む合金で構成されている。
【0076】
本明細書の開示から理解されるように、負極は、固体ナトリウムイオン伝導性セラミック電解質のアノード側と物理的に接触している、負極コンパートメント内に位置している。特に、固体ナトリウムイオン伝導性セラミック電解質のアノード側と物理的に接触している負極に含まれるのは、固体金属ナトリウム、または、固体金属ナトリウムを含む合金である。
【0077】
平板な形状と筒状の形状との概略図が図2図3とに示されており、これらを以下に詳細に説明する。
【0078】
本発明の電池により、室温に近い温度で動作することが可能であるため、金属ナトリウムは、作動条件においては固体のままである。
【0079】
固体金属ナトリウムの使用は、電池の安全性を著しく向上させることから、溶融ナトリウムに比べて有利である。むしろ、溶融ナトリウムは、液体および漏出物として作用し、このアルカリ金属の反応性が高いことに起因して、短絡が生じる場合がある。
【0080】
さらに、融点より高い温度において、ナトリウム金属は固体セラミック電解質の表面を湿潤させない。しかし、予想されることに反して、固体ナトリウムイオン伝導性セラミック電解質と、固体状態の金属ナトリウムとの間の良好な接触/接着が、極性を著しく損なうことなく見られた。前述のように、固体ナトリウムイオン伝導性セラミック電解質と、負極に含まれる固体状態の金属ナトリウムとの間の接着/接触は、本発明のナトリウムイオン電池の両方の構成要素間の10kg/cmから100kg/cmの間の接触圧力下で得ることができる。したがって、この予期されない作用に起因して、本発明の電池は、室温を含む、ナトリウムの融点未満の温度で動作する。
【0081】
特定の実施形態において、負極はさらに、脱酸素剤を含む添加物を含んでいる。適切な金属の脱酸素剤は、マンガン、バナジウム、ジルコニウム、アルミニウム、またはチタンの1つまたは複数を含んでいる。
【0082】
溶融Naおよびベータ−アルミナの湿潤が問題となることが広く報告されており(J.L.Sudworth,The Sodium Sulphur Battery,1985,p.230)、したがって、負極コンパートメントを規定する固体電解質表面の湿潤を向上させる材料を含む、他の有用な添加剤が使用されている。しかし、本発明のように、ナトリウムが固相で存在する特定の場合では、Na/ベータ−アルミナの接触は、意外に問題ではなく、ベータ−アルミナ固体電解質なしで得られた性能に類似の性能が達成された(図6および図7)。
【0083】
特定の実施形態において、負極コンパートメント、電解質の組成、および正極コンパートメントは、電池ケースに組み込まれる。この電池ケースには、電池ケースの内側から外側に延びる電極端子が含まれている。負極集電装置は、アノードコンパートメントと電気的に通じており、正極集電装置は、カソードコンパートメントと電気的に通じている。アノード集電装置に適切な材料には、アルミニウム、タングステン、チタン、ニッケル、銅、モリブデン、およびこれら2つ以上の組合せが含まれ得る。アノード集電装置に適切な他の材料には、カーボンが含まれ得る。正極集電装置は、アルミニウム、パラジウム、金、ニッケル、銅、カーボン、またはチタンで形成されたワイヤ、パドル、またはメッシュであってもよい。集電装置は、メッキされるか被覆されていてもよい。
【0084】
当業者には理解されるように、本発明の電池は、様々な構成および設計で実施され得る。たとえば、本発明の電池は、平板な形状(図2aおよび図2b)、または、筒状の形状(図3)を取ることができ、様々な構成要素が筒状のアセンブリまたはハウジング内に含まれ、電池を形成する。
【0085】
特定の実施形態において、電池は平板な形状を有している。図2aを参照すると、平板な電池は、固体金属ナトリウムを含む負極コンパートメント(1)と、正極コンパートメント(2)とを含み、ここで、両方のコンパートメントは、固体セラミック電解質(3)によって分離されている。この特定の図では、前述の固体電解質(3)は、そのカソード側において、カソード液に含浸されたグラスファイバ(4)と接触している。正極コンパートメント(2)は、上で規定されたカソード液の組成に浸された正極を構成するNa挿入化合物を含んでいる。
【0086】
負極コンパートメント(1)は負極ケーシング(5)で覆われており、一方、正極コンパートメント(2)は正極ケーシング(6)で覆われている。両方のケーシングは、たとえば、金属などの伝導性材料で構成されている。負極ケーシング(5)と正極ケーシング(6)とは、ボルトおよびナットなどの固定部材(7)によって固定されている。
【0087】
さらに、電気絶縁材料(8)は、正極コンパートメント(2)の外周部分の周りに設けられており、また、電気絶縁材料(8)は、負極コンパートメント(1)または/および正極コンパートメント(2)の外周部分の周りにも設けられている。したがって、両方のコンパートメントは、互いから電気的に絶縁されている。
【0088】
正極ケーシング(6)に電気的に接続された集電装置(9)は、正極コンパートメント(2)の上方部分に設けられている。
【0089】
図2bも、固体電解質のアノード側にグラスファイバ(10)をも有する、同じ平板な形状を示している。
【0090】
別の特定の実施形態において、本発明の電池は、筒状の形状を有している。この構成では、電池は、体積を規定する内側表面を有するハウジングまたはセルケーシングを含んでいる。固体電解質は、この体積内に配されている。前述の電解質は、第1のコンパートメント(負極コンパートメント)の少なくとも一部分を規定する第1の表面と、第2のコンパートメント(正極コンパートメント)を規定する第2の表面と、を有している。この第1のコンパートメントは、固体電解質を通して、第2のコンパートメントとイオンが通じている。本明細書において使用される場合、「イオンが通じている(ionic communication)」とのフレーズは、第1のコンパートメントと第2のコンパートメントとの間の、固体電解質を通してのイオンの横断を意味する。
【0091】
図3を参照すると、筒状の形状を有する電池が提供されている。より具体的には、電池の前面断面図が示されている。電池は、電池のすべての構成要素が位置する体積を規定する内側表面を有するハウジングまたはセルケーシング(10)を含んでいる。固体セラミック電解質(3)は、ハウジング(10)の内側に配置されている。前述の電解質(3)は、金属ナトリウムを含む負極コンパートメント(1)を規定する第1の表面と、正極コンパートメント(2)を規定する第2の表面と、を有している。したがって、前述の電解質は、両方のコンパートメント間のセパレータとしても作用する。さらに、アノード集電装置(11)は、負極コンパートメント(1)に接続されており、正極集電装置(9)が正極コンパートメント(2)の内側に配置されている。正極コンパートメントは、上で規定されたカソード液の組成に浸された正極を構成するNa挿入化合物を含んでいる。
【0092】
電気絶縁材料(8)は、ハウジング(10)の外周まわりに設けられ、それにより、負極コンパートメントと正極コンパートメントとが互いから電気的に絶縁している。負極コンパートメントと正極コンパートメントとは、やはり、ボルトおよびナットなどの固定部材によって固定され得る。
【0093】
場合によって、1つまたは複数のシム構造がハウジングの体積内に配置され得る。このシム構造により、ハウジングの体積内の固体電解質が支持される。このシム構造により、固体セラミック電解質を、使用時の電池の動きによって生じる振動から守ることができ、ひいては、固体電解質のハウジングに対する動きを低減または除去する。
【0094】
本発明の電池は、複数の充電−放電サイクルにわたって再充電可能である、エネルギー貯蔵デバイスとして使用することができる。エネルギー貯蔵デバイスは、様々な用途に採用され得、再充電の複数のサイクルは、充電および再充電電流、放電の深さ、セル電圧の限界などの要素に依存する。
【0095】
複数の電池は、積み重ねて、スタックまたはモジュールシステムを形成することができる。したがって、本発明の別の態様は、少なくとも2つのスタックされた、上に規定された電池を備えてなるモジュールシステムに関する。このシステムは、最終的な用途に応じた様々な電力出力の、モジュールにスタックされた電池繰返しユニットを備えている。
【0096】
電池繰返しユニットは、抵抗性の損失を最小にし、十分な電力の供給を保証する設計によって接続されている。
【0097】
電池繰返しユニットを相互接続するのに使用される材料は、他の構成要素との適合性を確実にするための所要のコーティング/処理を伴う金属またはセラミックとすることができる。スタックまたはモジュールシステムを形成するための単一の繰返しユニット間の電気化学的接続は、直列か並列のいずれかとすることができる。
【0098】
特定の実施形態において、各電池繰返しユニットは、平板または筒状の形状のいずれかにおいて、隣接する電池繰返しユニットと並列に接続して、バンドルを形成する。バンドルのセットはさらに、特定の電力の仕様を構築するために、直列に接続される。
【0099】
別の特定の実施形態では、各電池繰返しユニットは、平板または筒状の形状のいずれかにおいて、隣接する電池繰返しユニットと直列に接続して、バンドルを形成する。バンドルのセットはさらに、特定の電力の仕様を構築するために、並列または直列に接続される。
【0100】
スタックまたはモジュールシステムは、動作条件に耐えることができる、セラミックもしくは金属ペースト、および/またはフェルトでシールされ得る。
【実施例】
【0101】
実施例1 Na/β’’−Al界面の接着特性の評価
Naの融点(98℃)未満でのNa/β’’’’−Al界面の接着特性を評価するために、様々な圧力をテストした。圧力の影響を比較するために、Na/β’’−Al/Naの対称システムを準備し、電気化学的にテストした。直径1cm、厚さ500μm、密度98〜99%かつ、イオン伝導性が〜1.6mS/cmまでのβ’’−Alディスクを、以下のテストを実施するために使用した。10kg/cmより上では、界面は、良好で明確な接着性を示し、ナトリウムの融点(98℃)未満でのナトリウムの被覆/ストリッピングのテストにより、電気化学的に評価した。
【0102】
直径4mm、厚さ1mmのNa電極(金属フォイル)を、β’’−Alの各側で押圧した。Na/β’’−Al上で10kg/cmから1000kg/cmの間の圧力が印加されて、β’’−Alディスクの両側にNa電極が貼り付けられた。そのような範囲より上では、β’’−Alディスクが破損することが観察され、そのような範囲より下では、Na電極はβ’’−Alディスクに張り付かなかった。
【0103】
テストした圧力すべてのなかで、130kg/cmの値が、押圧されたNa/β’’−Al/Naからなるシステムの電気化学的性能をテストするために選択された。
【0104】
したがって、130kg/cmの圧力がNa/β’’−Alに印加され、これにより、β’’−Alディスクの表面全体をナトリウムで覆うことになった。63μA/cmから255μA/cmの範囲の60分の電流パルスをこのシステムに印加した。55℃および22℃における被覆およびストリッピングテストの結果が、図4および図5に示されている。優良なサイクル特性(すなわち、界面におけるNaのストリッピングおよび被覆)が、255μA/cmの電流に関する0.1V未満の極性で観察できる。もっとも著しくは、このシステムは、これら条件下でいずれの故障のサインも示していなかった。システムの動作温度の上昇は、よりよい界面、すなわち、より低いセル極性につながる。
【0105】
実施例2 Na[Fe0.4Ni0.3Ti0.3]Oを正極として使用し、55℃で作動する、平板な形状の、ベータ’’−アルミナの固体電解質を有する、および有さないナトリウムセラミック電池
正極の形成
NaCO(Sigma Aldrichによって供給される99.5%の純度)、Fe(Alfa Aesarによって供給される99%の純度)、NiO(Alfa Aesarによって供給されるNi78.5%の純度)、および、TiO(Alfa Aesarによって供給される99.9%の純度)の化学量論上の量を、300rpmで1時間、ボールミルで加工し、結果として得られたパウダーをペレットに圧縮した。ペレットは、空気中で、900℃で16時間焼成し、液体Nで冷却し、それにより、Na[Fe0.4Ni0.3Ti0.3]Oを得た。冷却の後、ペレットは、湿気による汚染を避けるために、Arで満たされたグローブボックス(<5ppmのHO)内に導入するとともに貯蔵した。
【0106】
N−メチルピロリドン(Sigma Aldrichによって供給された)内に希釈した、上で得られたNa[Fe0.4Ni0.3Ti0.3]O、カーボンブラック(Timcalによって供給された)、およびポリ(フッ化ビニリデン)(Alfa Aesarによって供給された)を、75:15:10の質量比で混合し、その後、Alフォイル上にコートし、正極を形成した。正極は、10mmの直径のディスクにカットし、5トンの単軸圧縮で圧着し、真空下で乾燥した。
【0107】
カソード液の形成
2:8のモル比で、NaFSI(Solvionicによって製造された)は、以下にCpyrr[FSI]と称されるN−プロピル−N−メチルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(Solvionicによって製造された)に溶解され、湿気による汚染を避けるために、Arで満たされたグローブボックス(<5ppmのHO)内で2時間攪拌した。
【0108】
電池の形成
セルは、Arで満たされたグローブボックス内で、アノード集電装置とカソード集電装置との両方としてステンレススチール部品を有する、CR2032のコイン電池の構成に組み立てた。
【0109】
上述のように形成した正極は、コイン電池の底部部品の頂部にセットした。
【0110】
グラスファイバ(Whatmanによって形成された)は、正極の頂部にセットし、上述のように形成したカソード液を添加した。
【0111】
(適用される場合は)0.5mmの厚さのベータ’’−アルミナディスク(Ionotecによって製造された)は、カソード液に含浸されたグラスファイバの頂部に配置した。
【0112】
ナトリウム金属で形成された負極(Panreacによって製造された)は、ベータ’’−アルミナディスクの頂部、またはグラスファイバの頂部にセットした。負極と固体電解質との間の良好な接触を確実にするために、圧力を印加した。
【0113】
頂部部品またはコイン電池は、アノード集電装置およびシーリングのために使用し、それにより、電池を形成した。
【0114】
評価
セルは、この平板な形状で、ナトリウムが固体状態である55℃でテストした。図6aは、3.75V〜2.6Vの電圧ウィンドウでの、β’’−Alを有するものと、有さないもの(それぞれ、〜126mAh/gと、〜140mAh/gとである)との、第1のガルバノスタットによる充電−放電カーブを示している。
【0115】
意外にも、固体電解質およびアノード/固体電解質界面(すなわち、Na/β’’−Al接触)電気化学的性能の抵抗性の寄与が無視できることの証拠となる、極性の著しい上昇が観察されなかった。β’’−Alを伴うセルのわずかに低い容量は、最適ではないカソード材料の積載と、セルの形成における可変性とに起因している。
【0116】
70サイクルにわたるサイクルの性能は、容量が比較的弱まっている、β’’Alを有するセルと有さないセルとの2つのセルに関して、図6bにプロットされている。このプロットは、固体電解質の添加がサイクル性能に影響しないことを証明している。
【0117】
実施例3 Na2/3[Mg0.2Mn0.8]Oを正極として使用し、55℃で作動する、平板な形状の、β’’−Alの固体電解質を有する、および有さないナトリウムセラミック電池
比較の目的に関し、様々な挿入カソード材料についての提案の新規のシステムで、等しい結果が得られることを証明するために、様々な挿入カソードを有するセルを分析した。β’’−Alを有するセルと有さないセルとがテストされ、再び、0.5mmの厚さの固体電解質の添加においてさえも、極性の損失が思いがけず少ないことが示された。特に、正極としてのP2タイプのNa2/3[Mg0.2Mn0.8]Oと、カソード液としての2:8のモル比のNaFSI:Cpyrr[FSI]とを有する電池が、β’’−Al固体電解質を有する場合と有しない場合のコイン電池の構成を、55℃においてテストした際に、約150mAh/gの充電/放電容量の5回目のサイクルを示した。
【0118】
正極の形成
NaCO(Sigma Aldrichによって形成された99.5%の純度)、Mn(Alfa Aesarによって供給される98%の純度)、および、MgO(Alfa Aesarによって供給される99%の純度)の化学量論上の量を、300rpmで1時間、ボールミルで加工し、結果として得られたパウダーをペレットに圧縮した。ペレットは、空気中で、900℃で15時間焼成し、炉内で自然冷却し、それにより、Na2/3[Mg0.2Mn0.8]Oを得た。冷却の後、ペレットは、湿気による汚染を避けるために、Arで満たされたグローブボックス(<5ppmのHO)内に導入するとともに貯蔵した。
【0119】
N−メチルピロリドン(Sigma Aldrichによって供給された)内に希釈した、上で得られたNa2/3[Mg0.2Mn0.8]O、カーボンブラック(Timcalによって形成された)、およびポリ(フッ化ビニリデン)(Alfa Aesarによって供給された)を、75:15:10の質量比で混合し、その後、Alフォイル上にコートし、正極を形成した。正極は、10mmの直径のディスクにカットし、5トンの単軸圧縮で圧着し、真空下で乾燥した。
【0120】
カソード液の形成
2:8のモル比で、NaFSI(Solvionicによって製造された)は、Cpyrr[FSI](Solvionicによって製造された)に溶かされ、湿気による汚染を避けるために、Arで満たされたグローブボックス(<5ppmのHO)内で2時間攪拌した。
【0121】
電池の形成
セルは、Arで満たされたグローブボックス内で、アノード集電装置とカソード集電装置との両方としてステンレススチール部品を有する、CR2032のコイン電池の構成に組み立てた。
【0122】
上述のように形成した正極は、コイン電池の底部部品の頂部にセットした。
【0123】
グラスファイバ(Whatmanによって形成された)は、正極の頂部にセットし、上述のように形成したカソード液を添加した。
【0124】
(適用される場合は)0.5mmの厚さのベータ’’−アルミナディスク(Ionotecによって製造された)は、カソード液に含浸されたグラスファイバの頂部に配置した。
【0125】
ナトリウム金属で形成された負極(Panreacによって製造された)は、ベータ’’−アルミナディスクの頂部、またはグラスファイバの頂部にセットした。負極と固体電解質との間の良好な接触を確実にするために、圧力を印加した。
【0126】
頂部部品またはコイン電池は、アノード集電およびシーリングのために使用し、それにより、電池を形成した。
【0127】
評価
セルは、この平板な形状で、ナトリウムが固体状態である55℃でテストした。図7aは、3.9V〜1.5Vの電圧ウィンドウでの、ベータ’’−アルミナ(〜150mAh/g)を有する場合と有さない場合とで達成される電気化学的性能を示している。図7bは、30サイクルにわたる、ベータ’’−アルミナを有する場合と有さない場合との電池性能を示している。
【0128】
実施例2に証明されたことと同様に、思いがけず、セラミック電解質を添加しても、著しい極性の損失の増大は観察されなかった。したがって、アノード/固体電解質の接触が乏しいことに起因して、β’’−Alの添加がセルの性能に著しく影響することが予測され得るとしても、β’’−Alの添加により、性能に著しく影響することなく、システムをより安全にすると結論づけることができる。
図1
図2a
図2b
図3
図4
図5
図6
図7