(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6623229
(24)【登録日】2019年11月29日
(45)【発行日】2019年12月18日
(54)【発明の名称】変換器用フィルタ
(51)【国際特許分類】
H02M 1/12 20060101AFI20191209BHJP
【FI】
H02M1/12
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-550535(P2017-550535)
(86)(22)【出願日】2016年1月5日
(65)【公表番号】特表2018-510607(P2018-510607A)
(43)【公表日】2018年4月12日
(86)【国際出願番号】EP2016050057
(87)【国際公開番号】WO2016155892
(87)【国際公開日】20161006
【審査請求日】2018年11月15日
(31)【優先権主張番号】15161447.6
(32)【優先日】2015年3月27日
(33)【優先権主張国】EP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390039413
【氏名又は名称】シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100169627
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 美奈
(72)【発明者】
【氏名】ヘーネ、シルヴィオ
(72)【発明者】
【氏名】キュルテン、ベルント
【審査官】
小林 秀和
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2007/0159860(US,A1)
【文献】
米国特許第06339265(US,B1)
【文献】
米国特許第01852125(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0066253(US,A1)
【文献】
国際公開第2012/143384(WO,A2)
【文献】
特開平02−206360(JP,A)
【文献】
特表2007−508000(JP,A)
【文献】
米国特許第07672147(US,B1)
【文献】
特表2006−514497(JP,A)
【文献】
特表2006−508579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リアクトル(12)と、該リアクトル(12)に接続される少なくとも第1及び第2の吸収回路(14,16)とを備えた変換器フィルタであって、
前記第1及び第2の吸収回路(14,16)のそれぞれがアース接続された2極回路であり、
前記リアクトル(12)が、少なくとも主巻線(24)と部分巻線(26)とを含み、
前記部分巻線(26)と1:1変圧器を構成し、前記部分巻線(26)のインダクタンスにより給電される補助巻線(28)が、前記リアクトル(12)に結合されており、
該補助巻線(28)は、前記部分巻線(26)の出力側に接続され、そして、前記第1の吸収回路(14)が前記補助巻線(28)に接続されると共に前記第2の吸収回路(16)が前記部分巻線(26)の出力側に接続され、
前記部分巻線(26)と誘導結合する前記補助巻線(28)により前記第1及び第2の吸収回路(14,16)が互いにデカップリングされる、変換器フィルタ。
【請求項2】
前記補助巻線(28)が、前記リアクトル(12)の出力側からの導体の戻し巻きにより得られたものである、請求項1に記載の変換器フィルタ。
【請求項3】
前記補助巻線(28)が、空隙とクリープ長を確保するために巻線とリアクトルコアとの間に通常空けてある前記リアクトル(12)の巻線スペース内に配置されている、請求項1又は2に記載の変換器フィルタ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の変換器フィルタ(10)が変換器の入力側で幹線側フィルタとして機能する回路又は電気機器。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の変換器フィルタ(10)が変換器の出力側で出力フィルタとして機能する回路又は電気機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変換器用の幹線側フィルタ又は変換器用の汎用フィルタ、すなわち、変換器の入力側又は出力側に使用可能なフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
変換器(インバータ、コンバータ)は、主にスイッチング周波数の高調波を含んでいる望ましくないノイズスペクトルを特に幹線側入力部で発生する。給電幹線への干渉フィードバック作用を避けるために、結果として生じるノイズ電圧はそれぞれ、フィルタ又はフィルタアレンジメント(配列、組み合わせ)により減衰され、好適には、もはや干渉を生じない程度まで減衰される、すなわち、除去される。このようなフィルタアレンジメントは一般的に、変換器の幹線側リアクトルと幹線側入力部との間に配置された多段式のいわゆる吸収回路である。フィルタアレンジメントの内部では、吸収回路が互いにデカップリングされていなければならない。そのために、幹線側リアクトルに加えて、別のインダクタが吸収回路の間に使用される。変換器に供給される全電流は、それら追加インダクタをそれぞれ通って流れる。すなわち、これら追加インダクタは幹線側リアクトルと同じ通電容量を備えている必要があり、結果的に、当該追加インダクタに相応のスペースが必要になり、そして相応の部品コストがかかる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来技術に係る変換器用フィルタアレンジメントは、吸収回路をカップリングするために必要な追加インダクタについて、要求される通電容量が大きい、すなわち変換器の最大電流に対して設計されなければならず、高コストであり且つ必要なスペースが大きいという点で、改善の余地がある。
【0004】
本発明の課題は、上記欠点を避けることができる、又は、少なくとも上記欠点の影響を低減することができる、変換器用の幹線側フィルタ又は変換器用の汎用フィルタアレンジメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は、本発明によると、請求項1に記載の特徴を有する変換器用フィルタアレンジメントにより解決される。このフィルタアレンジメントは変換器フィルタとも呼ぶこととする。当該変換器フィルタは、幹線側リアクトルと、この幹線側リアクトルに接続される少なくとも第1及び第2の吸収回路とを含み、前記リアクトルは、少なくとも主巻線と部分巻線とを有し、該リアクトルの部分巻線のインダクタンスによって前記第1の吸収回路と前記第2の吸収回路とが互いにデカップリングされることにより、前記リアクトル自身の前記部分巻線で前記吸収回路のデカップリングが達成される。
【0006】
最も簡単な態様において、少なくとも2つの吸収回路はコンデンサの態様で実施可能であるが、より複雑な態様では、例えば、除去すべきノイズスペクトルに対しチューニングした直列共振回路の態様で実施することもできる。この場合の第1の吸収回路及び第2の吸収回路は、例えば8kHと16kHzにチューニングされ得る。各吸収回路がそれぞれチューニングされているノイズスペクトルに起因する電流だけが、該当する吸収回路に流れる。この電流は、上述のリアクトルを流れる電流、すなわち、幹線側リアクトルとして機能するリアクトルがある場合に変換器に供給される電流、よりも1桁(10の1乗)小さい。
【0007】
例えば、リアクトルの中間タップに接続されている吸収回路により分流されるノイズの僅かな部分は、後続の部分巻線に再びカップリングされる。したがって、このようなフィルタ効果は最適ではない。しかしながら、リアクトルの残りの巻数に対する部分巻線の巻数比を適切に選ぶことにより、例えば、該巻数比が1:10、1:20、あるいは1:50とになるように選ぶことにより、十分なフィルタ効果が得られる。このような巻数比により、吸収回路を経て分流されるノイズの極く一部のみが再びカップリングされることになり、例えば、巻数比が1:10の場合には、分流されたノイズの10%ほどのカップリングだけが生じることになる。このことは実証済みであり、別の巻数比ではカップリングはさらに少なくなった。
【0008】
本発明は、リアクトル/幹線側リアクトルのみを変換器の最大電流に対して設計しさえすればよく、当該リアクトルは元来この最大電流に対して設計されている、という利点をもつ。このこと及びこれに伴って生じる節約の可能性は、吸収回路により分流されるノイズのカップリング(ただしこれは巻数比により十分に調整することができる)の点を補って余りある。追加インダクタを複数設ける代わりに、例えばリアクトルの中間タップにより、リアクトル自身の部分巻線を用いて吸収回路のデカップリングが達成される。この種のタップにより、吸収回路をデカップリングするための電気的に有効な部分巻線を得ることができ、当該部分巻線のインダクタンスによりデカップリングが行われる。すなわち、全電流通電容量を有するインダクタを独立した部品として追加設置する必要はない。
【0009】
本発明の好適な態様が引用形式請求項の主題である。その引用関係に従い、各引用形式請求項の特徴を通して独立形式請求項の主題のさらなる態様が示される。これらは、引用関係を与えられた引用形式請求項の特徴の組合せに対する独立的で具体的な保護を放棄することを意味するものではない。さらに、下位請求項の特徴を詳細に具体化する際の請求項の解釈に関しては、該当する限定が上位の請求項には無いことが前提である。
【0010】
当変換器フィルタの特定の態様では、リアクトルに補助巻線が結合されている。この補助巻線としては少数の巻数で十分である。例えば、1ターン又は1/2ターンからリアクトルの巻数の約10%までで十分である。この補助巻線は、リアクトルの対応する巻数の巻線と1:1変圧器を構成する。この変圧器に所属するリアクトルの巻線は、該リアクトルの上述した部分巻線に相当する。部分巻線を結合するための特別なタップは、補助巻線によって、及び、部分巻線への補助巻線の(磁気的な)カップリングによって、不要となる。吸収回路は、補助巻線の自己インダクタンス及び補助巻線と主巻線と間の相互インダクタンスにより、互いにデカップリングされる。この相互インダクタンスは、主巻線及び部分巻線に対する補助巻線の磁気的カップリングにより生じる。これにより、リアクトルに結合された補助巻線を有する変換器フィルタにおいても、リアクトルの部分巻線のインダクタンスによる吸収回路のデカップリングが存在していることが正当化される。
【0011】
変換器フィルタのこの態様は、既に述べた状態を利用している。すなわち、個々の吸収回路にはそれぞれのノイズスペクトルに起因する電流だけが流れ、各ノイズスペクトルに対し吸収回路がチューニングされている。当該電流は、上述のリアクトルを流れる電流、すなわち、幹線側リアクトルとして機能するリアクトルがある場合に変換器に供給される電流、よりも1桁(10の1乗)小さい。したがって、補助巻線の通電容量を格段に小さくすることができ、補助巻線をリアクトルに組み合わせることが容易である。
【0012】
補助巻線を備えた変換器フィルタの一態様において、補助巻線及び補助巻線とリアクトルとの組み合せは、リアクトルの出力側から導体を戻し巻きした結果として得られる。この場合、リアクトルと補助巻線とが共同で電気的に3極の部品を形成し、これは電気的に、中間タップを有するリアクトルに相当する。
【0013】
補助巻線は、空隙及びクリープ長を確保するために巻線とリアクトルコアとの間に通常空けてあるリアクトルの巻線スペース内に補助巻線が配置されるようにして、リアクトルと組み合わせると、補助巻線のための追加スペースが不要となる。すなわち、このような変換器フィルタを備えた回路又は電気機器は、相応に小さいサイズにすることができる。
【0014】
このように、リアクトルの巻線スペース内に補助巻線を設置することによって、補助巻線を形成する導体用に種々の材料を組み合わせた絶縁系を使用することが可能となり、必要とされる絶縁破壊耐性、耐熱性及び寿命のいずれか又は全てを保証することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本提案に係るフィルタアレンジメントの第1の実施形態を示す。
【
図2】本提案に係るフィルタアレンジメントの他の実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき詳細に説明する。互いに相応する対象又は要素には全ての図面で同じ符号が付されている。
【0017】
図1は、ここで提案するフィルタアレンジメントの第1の実施形態を示す。以降、変換器フィルタ10とする。この変換器フィルタ10には、リアクトル12と、少なくとも2つの吸収回路14,16とが含まれる。吸収回路は、区別する場合には第1の吸収回路14と第2の吸収回路16としても記述する。リアクトル12は、変換器フィルタ10を幹線側フィルタとして使用する際には幹線側リアクトル12として機能する。変換器フィルタ10は負荷側フィルタとして使用することも可能であり、この場合には、例えばモータ用フィルタとして機能する。
【0018】
図示した吸収回路14,16は両方とも、最も簡単な場合にはコンデンサにより構成されるが、より複雑に構成することもでき、例えば、直列共振回路として構成することもできる。したがって、それぞれ交流抵抗18,20の形態で示されている。
【0019】
周知のように、吸収回路14,16は一般的にはアース接続された2極回路であり、できるだけ小さいオーム抵抗及び共振周波数の範囲での特に小さいトータル抵抗を備えている。吸収回路14,16のそれぞれの共振周波数は、コンデンサ又は他の部品の相応の寸法設計により決まる。この寸法設計により、吸収回路14,16は、当該吸収回路が接続されている回路、ここでは変換器を有する回路、において除去すべき周波数に対してチューニングすることができる。吸収回路14,16をアース接続すると、それぞれの共振周波数に対して選択的な地絡が生じる。この(干渉する)共振周波数は、吸収回路14,16が接続されている回路において除去される、すなわち、アースへ分流されることにより上記回路からいわば吸い出される。
【0020】
第1の吸収回路14を接続するために、リアクトル12に中間タップ22が設けられている。吸収回路14,16が3つ以上の場合には、図示せぬ複数の中間タップがリアクトル12にさらに設けられて使用される。リアクトル12に少なくとも1つの中間タップ22が設けられているので、このリアクトルは、そのタップ点から見て、主巻線24と部分巻線26とに分割されている。大事なことは、この場合、主巻線24と部分巻線26とが共同で1つのリアクトル12を形成しており、2つの個別の部品ではない、ことを認識することである。分離された表示は、ここでは中間タップ22を示すためだけに行ったものである。
【0021】
中間タップ22により分離して接続され得る部分巻線26が、吸収回路14,16にとって必要な互いのデカップリングを保証する。したがって、そのための、リアクトル12とは別の、リアクトル12と直列に接続されリアクトル12と同一の通電容量を有する独立した部品としての追加インダクタは不要である。
【0022】
1つ、あるいは複数の中間タップ22によって、複数の吸収回路14,16のデカップリングのためにリアクトル12と直列接続され、それぞれがリアクトル12自身と同様に変換器の最大電流に対して設計されている、従来必要であった複数のインダクタに関わる問題が、解決される。ただし、中間タップ22はリアクトル12において簡単には実現できない。中間タップ22はリアクトル12の均一な巻線配置の邪魔になり、スペースを必要とする。
【0023】
全電流通電容量を有するインダクタを追加設置せずに済む、ここに提案する変換器フィルタ10の別の実施形態では、補助巻線28が設けられている。この補助巻線28について、
図1におけるリアクトル12及び例示された2つの吸収回路14,16と共に、
図2に示されている。
【0024】
補助巻線28は、リアクトル12の中間タップ22及びこれに接続可能な部分巻線26に対する電気的に等価な解決策である。補助巻線28には、上記(
図1参照)中間タップ22に接続されていた第1の吸収回路14が接続されている。当該補助巻線28は、両方の吸収回路14,16をデカップリングする作用をもつ。
【0025】
補助巻線28は、例えば、リアクトル12の出力側から導体を「戻し巻き」することにより得られる。この補助巻線28は少ない巻数しかもたない。試験の結果、1ターンで十分であることが判った。ターン数を増やすことも可能である。
【0026】
補助巻線28は、この補助巻線28のターン数に対応するリアクトル12のターン数(部分巻線26)と、1:1変圧器の形式で結合されている。この関係で有効になる部分巻線26が補助巻線28に相互インダクタンスを生成する。このことにより、第1及び第2の吸収回路14,16が、リアクトル12の部分巻線26の自己インダクタンス及び主巻線と部分巻線との間の相互インダクタンスによって互いにデカップリングされている、という変換器フィルタ10の定義が正当化される。
図2に示した実施形態では、このデカップリングが、部分巻線26に結合された補助巻線28及びその誘導結合によって具体的に達成される。
【0027】
例示の実施形態により本発明を詳細に説明したが、本発明はここに開示した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく、当業者によって他の代案が導かれ得る。
【0028】
ここに提示した詳細な説明の重要な観点は次のように纏めることができる。ここに挙げた変換器フィルタ10は、リアクトル12と、該リアクトル12に接続された少なくとも第1及び第2の吸収回路14,16とを備え、その第1及び第2の吸収回路14,16が、リアクトル12の部分巻線26のインダクタンスにより、又は、リアクトル12に結合された補助巻線28により、互いにデカップリングされている。補助巻線28は、部分巻線26と1:1変圧器を構成し、部分巻線26のインダクタンスにより給電される。
【符号の説明】
【0029】
10 変換器フィルタ
12 リアクトル
14,16 吸収回路
18,20 交流抵抗
22 中間タップ
24 主巻線
26 部分巻線
28 補助巻線