(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に実施形態を掲げ、本発明について図面を参照して更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものではない。また、各実施形態の構成は、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜組み合わされてもよいし、変更されてもよい。
【0020】
[実施形態]
図1は、実施形態の光学部材を示す断面模式図である。
図1に示すように、光学部材1は、基材2、硬化樹脂層3、及び、親水性材料5を備えている。硬化樹脂層3は、複数の凸部(突起)4が可視光の波長以下のピッチ(隣接する凸部4の頂点間の距離)Pで設けられる凹凸構造を表面に有している。よって、光学部材1は、モスアイ構造(蛾の目状の構造)を有する反射防止部材に相当する。これにより、光学部材1は、モスアイ構造による優れた反射防止性(低反射性)を示すことができる。複数の凸部4の各々の先端は、親水性材料5で覆われている。
【0021】
基材2の材料としては特に限定されず、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、メチルメタクリレート(MMA)等が挙げられる。基材2は、上記材料以外に、可塑剤等の添加剤を適宜含んでいてもよい。
【0022】
基材2の形状としては特に限定されず、例えば、フィルム状、シート状等が挙げられる。光学部材1をフィルム状にする場合は、フィルム状の基材2を用いればよく、例えば、トリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)等が好ましく用いられる。また、基材2が偏光板の一部を構成する形態が好ましい。
【0023】
基材2の厚みは特に限定されないが、透明性及び加工性を確保する観点から、50μm以上、100μm以下であることが好ましい。
【0024】
凸部4の形状は特に限定されず、例えば、柱状の下部と半球状の上部とによって構成される形状(釣鐘状)、錐体状(コーン状、円錐状)等の、先端に向かって細くなる形状(テーパー形状)が挙げられる。また、凸部4は、枝突起を有する形状であってもよい。枝突起とは、モスアイ構造を形成する金型を作製するための陽極酸化及びエッチングを行う過程で形成されてしまった、間隔が不規則な部分に対応する凸部を示す。
図1中、隣接する凸部4の間隙の底辺は傾斜した形状となっているが、傾斜せずに水平な形状であってもよい。
【0025】
隣接する凸部4間のピッチPは、可視光の波長(780nm)以下であれば特に限定されないが、モアレ、虹ムラ等の光学現象を充分に防止する観点から、100nm以上、400nm以下であることが好ましく、100nm以上、200nm以下であることがより好ましい。本明細書中、隣接する凸部間のピッチは、測定機として日立ハイテクノロジーズ社製の走査型電子顕微鏡(製品名:S−4700)を用い、撮影された平面写真から読み取った、1μm角の領域内における、枝突起を除くすべての隣接する凸部間の距離の平均値を示す。なお、隣接する凸部間のピッチの測定は、メイワフォーシス社製のオスミウムコーター(製品名:Neoc−ST)を用いて、凹凸構造上に、和光純薬工業社製の酸化オスミウムVIII(厚み:5nm)を塗布した状態で行った。
【0026】
凸部4の高さは特に限定されないが、後述する凸部4の好ましいアスペクト比と両立させる観点から、50nm以上、600nm以下であることが好ましく、100nm以上、300nm以下であることがより好ましい。本明細書中、凸部の高さは、測定機として日立ハイテクノロジーズ社製の走査型電子顕微鏡(製品名:S−4700)を用い、撮影された断面写真から読み取った、枝突起を除く連続して並んだ10個の凸部の高さの平均値を示す。ただし、10個の凸部を選択する際は、欠損や変形した部分(試料を準備する際に変形させてしまった部分等)がある凸部を除くものとする。試料としては、光学部材の特異的な欠陥がない領域でサンプリングされたものが用いられ、例えば、光学部材が連続的に製造されるロール状である場合、その中央付近でサンプリングされたものを用いる。なお、凸部の高さの測定は、メイワフォーシス社製のオスミウムコーター(製品名:Neoc−ST)を用いて、凹凸構造上に、和光純薬工業社製の酸化オスミウムVIII(厚み:5nm)を塗布した状態で行った。
【0027】
凸部4のアスペクト比は特に限定されないが、0.8以上、1.5以下であることが好ましい。凸部4のアスペクト比が1.5以下である場合、モスアイ構造の加工性が充分に高まり、スティッキングが発生したり、モスアイ構造を形成する際の転写具合が悪化したりする(金型が詰まったり、巻き付いてしまう、等)懸念が低くなる。凸部4のアスペクト比が0.8以上である場合、モアレ、虹ムラ等の光学現象を充分に防止し、良好な反射特性を実現することができる。本明細書中、凸部のアスペクト比は、測定機として日立ハイテクノロジーズ社製の走査型電子顕微鏡(製品名:S−4700)を用い、上述したような方法で測定された各凸部のピッチと高さとの比(高さ/ピッチ)で示す。
【0028】
凸部4の配置は特に限定されず、ランダムに配置されていても、規則的に配置されていてもよい。モアレの発生を充分に防止する観点からは、ランダムに配置されていることが好ましい。
【0029】
凸部4は、疎水性樹脂で構成され、かつ、先端が親水性材料5で覆われている。これにより、凸部4は、親水性材料5で覆われている親水性部分(先端)と、疎水性樹脂が露出している疎水性部分とを有することになる。本明細書中、親水性部分は、凸部の先端以外の部分よりも表面張力が高い部分を指し、好ましくは、水の接触角が30°以下の部分である。凸部の先端以外の部分は、水の接触角が90°よりも大きい部分であることが好ましい。本明細書中、親水性材料は、凸部を構成する疎水性樹脂よりも表面張力が高い材料を指し、好ましくは、水の接触角が30°以下の材料である。疎水性樹脂は、水の接触角が90°よりも大きい樹脂であることが好ましい。本明細書中、表面張力は、浸透速度法を用いて測定される。浸透速度法は、カラム中に対象物を一定の圧力で押し固めて充填し、関係式:h
2/t=(r・γcosθ)/2ηから、対象物の表面張力を決定する方法である。上記関係式中、hは水の浸透高さを示し、tは時間を示し、rは充填された対象物の毛管半径を示し、γは表面張力を示し、ηは水の粘度を示し、θは水の接触角を示す。表面張力が小さいほど接触角が大きくなり、疎水性がより高いことを示す。
【0030】
疎水性樹脂のうち公知のものとしては、例えば、旭硝子社製のナノインプリント用樹脂(製品名:NIF−A−1)、東洋合成工業社製のナノインプリント用樹脂(製品名:PAK−02)、三井化学社製のナノインプリント用樹脂(製品名:FROMP(登録商標))等が挙げられる。疎水性樹脂としては、これらの他に、ウレタンアクリレート、多官能アクリレート、単官能モノマー、フッ素含有化合物、重合開始剤等の混合物(後述する樹脂組成物)の硬化物、又は、その積層体を用いることもできる。
【0031】
親水性材料5としては、例えば、酸化物、窒化物等が挙げられ、中でも、無機酸化物、無機窒化物等が好ましく用いられる。無機酸化物としては、例えば、二酸化ケイ素(SiO
2)、酸化インジウムスズ(ITO)、五酸化タンタル(Ta
2O
5)等が挙げられる。無機窒化物としては、窒化ケイ素(SiN、Si
3N
4)等が挙げられる。親水性材料5は、二酸化ケイ素を含有することが好ましい。
【0032】
親水性材料5の厚みは、30nm以下であることが好ましい。親水性材料5の厚みが30nm以下である場合、親水性材料5が凸部4の先端を覆う状態を好ましく実現することができる。本明細書中、親水性材料の厚みは、凸部の頂点側の表面から、凸部の頂点とは反対側の表面までの距離(
図1中の厚みTに相当)を指す。
【0033】
以上より、本実施形態によれば、複数の凸部4の各々の先端が親水性材料5で覆われているため、下記(i)〜(iv)の効果を奏することができる。
(i)光学部材1の表面(凹凸構造の表面)に汚れが付着する場合、汚れが凸部4の先端に集まるため、拭き取りやすくなる。更に、凸部4において、親水性材料5で覆われている親水性部分(先端)と、疎水性樹脂が露出している疎水性部分との境界が存在するため、汚れが多量に付着する場合(例えば、汚れのサイズが、隣接する凸部4間のピッチPよりも大きい場合)であっても、汚れがその境界を越えて、凸部4の間隙(凹部)の深部に入り込むことを防止することができる。この効果は、上記境界に存在する段差が大きいほど更に高まる。以上より、光学部材1は、優れた防汚性を示すことができる。
(ii)光学部材1の表面(凹凸構造の表面)に汚れが付着しても、汚れが凸部4の先端毎に分散された状態(ナノ分散状態)になるため、汚れが視認されにくくなる。
(iii)親水性材料5と凸部4との密着性が高いため、光学部材1は、優れた耐擦傷性を示すことができる。
(iv)親水性材料5によって水を広げる速度が高まるため、光学部材1は、優れた防曇性を示すことができる。
【0034】
次に、本実施形態の光学部材の製造プロセスについて、
図2を参照して例示する。
図2は、実施形態の光学部材の製造プロセスを説明するための断面模式図である(工程a〜e)。
【0035】
(a)樹脂組成物の塗布
まず、
図2(a)に示すように、基材2の表面上に樹脂組成物6を塗布する。樹脂組成物6の塗布方法としては特に限定されず、例えば、スプレー方式、グラビア方式、スロットダイ方式等で塗布する方法が挙げられる。
【0036】
樹脂組成物6は、活性エネルギー線の照射によって硬化(重合)するものであることが好ましい。本明細書中、活性エネルギー線は、紫外線、可視光線、赤外線、プラズマ等を指す。樹脂組成物6は、紫外線によって硬化するものであることが好ましい。
【0037】
樹脂組成物6は、ウレタンアクリレート、多官能アクリレート、単官能モノマー、フッ素含有化合物、重合開始剤等を適宜含んでいてもよい。
【0038】
ウレタンアクリレートとしては、例えば、新中村化学工業社製のウレタンアクリレート(製品名:UA−7100)、新中村化学工業社製のウレタンアクリレート(製品名:U−4HA)、共栄社化学社製のウレタンアクリレート(製品名:UA−306H)、共栄社化学社製のウレタンアクリレート(製品名:AH−600)等が挙げられる。樹脂組成物6は、1種類のウレタンアクリレートを含んでいてもよく、複数種類のウレタンアクリレートを含んでいてもよい。
【0039】
多官能アクリレートとしては、例えば、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、エトキシ化(4モル付加物)ビスフェノールAジアクリレート等が挙げられる。ペンタエリスリトールトリアクリレートのうち公知のものとしては、例えば、新中村化学工業社製の多官能アクリレート(製品名:A−TMM−3LM−N)等が挙げられる。エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレートのうち公知のものとしては、例えば、新中村化学工業社製の多官能アクリレート(製品名:ATM−35E)等が挙げられる。1,6−ヘキサンジオールジアクリレートのうち公知のものとしては、例えば、新中村化学工業社製の多官能アクリレート(製品名:A−HD−N)等が挙げられる。トリプロピレングリコールジアクリレートのうち公知のものとしては、例えば、新中村化学工業社製の多官能アクリレート(製品名:APG−200)等が挙げられる。エトキシ化(4モル付加物)ビスフェノールAジアクリレートのうち公知のものとしては、例えば、新中村化学工業社製の多官能アクリレート(製品名:A−BPE−4)等が挙げられる。樹脂組成物6は、1種類の多官能アクリレートを含んでいてもよく、複数種類の多官能アクリレートを含んでいてもよい。
【0040】
単官能モノマーとしては、例えば、N−アクリロイルモルホリン、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−メトキシ−N−メチル−3−フェニル−アクリルアミド等が挙げられる。N−アクリロイルモルホリンのうち公知のものとしては、例えば、KJケミカルズ社製の単官能モノマー(製品名:ACMO(登録商標))等が挙げられる。N,N−ジメチルアクリルアミドのうち公知のものとしては、例えば、KJケミカルズ社製の単官能モノマー(製品名:DMAA(登録商標))等が挙げられる。N,N−ジエチルアクリルアミドのうち公知のものとしては、例えば、KJケミカルズ社製の単官能モノマー(製品名:DEAA(登録商標))等が挙げられる。N,N−ジメチルメタクリルアミドのうち公知のものとしては、例えば、東京化成工業社製の単官能モノマー(製品コード:D0745)等が挙げられる。N−メトキシ−N−メチル−3−フェニル−アクリルアミドのうち公知のものとしては、例えば、シグマアルドリッチ社製の単官能モノマー等が挙げられる。樹脂組成物6は、1種類の単官能モノマーを含んでいてもよく、複数種類の単官能モノマーを含んでいてもよい。単官能モノマーは、N−アクリロイルモルホリン、N,N−ジメチルアクリルアミド、及び、N,N−ジエチルアクリルアミドからなる群より選択される少なくとも1つのモノマーを含むことが好ましい。
【0041】
フッ素含有化合物は、構成成分としてフッ素含有モノマーを含んでいる。フッ素含有化合物は、更に、アクリレートモノマー等の他のモノマー成分を含んでいてもよい。
【0042】
フッ素含有化合物は、反応性基を有することが好ましい。本明細書中、反応性基は、光、熱等の外部エネルギーによって他の成分と反応する部位を指す。このような反応性基としては、例えば、アルコキシシリル基、シリルエーテル基、アルコキシシリル基が加水分解されたシラノール基、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等が挙げられる。反応性基としては、反応性及び取り扱い性の観点から、アルコキシシリル基、シリルエーテル基、シラノール基、エポキシ基、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、又は、メタクリロイル基が好ましく、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、又は、メタクリロイル基がより好ましく、アクリロイル基、又は、メタクリロイル基が更に好ましい。
【0043】
フッ素含有化合物は、反応性基に加えて、フルオロアルキル基、フルオロオキシアルキル基、フルオロアルケニル基、フルオロアルカンジイル基、及び、フルオロオキシアルカンジイル基からなる群より選択される少なくとも1つを含む部位を有することが好ましい。フルオロアルキル基、フルオロオキシアルキル基、フルオロアルケニル基、フルオロアルカンジイル基、及び、フルオロオキシアルカンジイル基は、各々、アルキル基、オキシアルキル基、アルケニル基、アルカンジイル基、及び、オキシアルカンジイル基が有する水素原子の少なくとも一部がフッ素原子で置換された置換基である。フルオロアルキル基、フルオロオキシアルキル基、フルオロアルケニル基、フルオロアルカンジイル基、及び、フルオロオキシアルカンジイル基は、いずれも主にフッ素原子及び炭素原子から構成される置換基であり、その構造中に分岐部が存在していてもよく、これらの置換基は複数連結していてもよい。
【0044】
フッ素含有化合物の構成成分であるフッ素含有モノマーの一例としては、下記一般式(A)で表される。
R
f1−R
2−D
1 (A)
上記一般式(A)中、R
f1は、フルオロアルキル基、フルオロオキシアルキル基、フルオロアルケニル基、フルオロアルカンジイル基、及び、フルオロオキシアルカンジイル基からなる群より選択される少なくとも1つを含む部位を表す。R
2は、アルカンジイル基、アルカントリイル基、又は、それらから導出されるエステル構造、ウレタン構造、エーテル構造、トリアジン構造を表す。D
1は、反応性基を表す。
【0045】
上記一般式(A)で表されるフッ素含有モノマーとしては、例えば、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフロオロプロピルアクリレート、2−パーフルオロブチルエチルアクリレート、3−パーフルオロブチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−パーフルオロヘキシルエチルアクリレート、3−パーフルオロヘキシル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−パーフルオロオクチルエチルアクリレート、3−パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−パーフルオロデシルエチルアクリレート、2−パーフルオロ−3−メチルブチルエチルアクリレート、3−パーフルオロ−3−メトキシブチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−パーフルオロ−5−メチルヘキシルエチルアクリレート、3−パーフルオロ−5−メチルヘキシル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−パーフルオロ−7−メチルオクチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラフルオロプロピルアクリレート、オクタフルオロペンチルアクリレート、ドデカフルオロヘプチルアクリレート、ヘキサデカフルオロノニルアクリレート、ヘキサフルオロブチルアクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレート、2−パーフルオロブチルエチルメタクリレート、3−パーフルオロブチル−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−パーフルオロオクチルエチルメタクリレート、3−パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−パーフルオロデシルエチルメタクリレート、2−パーフルオロ−3−メチルブチルエチルメタクリレート、3−パーフルオロ−3−メチルブチル−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−パーフルオロ−5−メチルヘキシルエチルメタクリレート、3−パーフルオロ−5−メチルヘキシル−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−パーフルオロ−7−メチルオクチルエチルメタクリレート、3−パーフルオロ−7−メチルオクチルエチルメタクリレート、テトラフルオロプロピルメタクリレート、オクタフルオロペンチルメタクリレート、ドデカフルオロヘプチルメタクリレート、ヘキサデカフルオロノニルメタクリレート、1−トリフルオロメチルトリフルオロエチルメタクリレート、ヘキサフルオロブチルメタクリレート、トリアクリロイル−ヘプタデカフルオロノネニル−ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0046】
また、フッ素含有モノマーの好適な材料としては、例えば、フルオロポリエーテル部位を有する材料が挙げられる。フルオロポリエーテル部位は、フルオロアルキル基、オキシフルオロアルキル基、オキシフルオロアルキルジイル基等からなる部位であり、下記一般式(B)又は(C)に代表される構造である。
CF
n1H
(3−n1)−(CF
n2H
(2−n2))
kO−(CF
n3H
(2−n3))
mO− (B)
−(CF
n4H
(2−n4))
pO−(CF
n5H
(2−n5))
sO− (C)
上記一般式(B)及び(C)中、n1は1〜3の整数であり、n2〜n5は1又は2であり、k、m、p、及び、sは0以上の整数である。n1〜n5の好ましい組み合わせとしては、n1が2又は3、n2〜n5が1又は2である組み合わせであり、より好ましい組み合わせとしては、n1が3、n2及びn4が2、n3及びn5が1又は2である組み合わせである。
【0047】
フルオロポリエーテル部位に含まれる炭素数は、4以上、12以下であることが好ましく、4以上、10以下であることがより好ましく、6以上、8以下であることが更に好ましい。炭素数が4未満である場合、表面エネルギーが低下する懸念がある。炭素数が12よりも多い場合、溶媒への溶解性が低下する懸念がある。なお、フッ素含有モノマーは、1分子当たりに複数のフルオロポリエーテル部位を有していてもよい。
【0048】
反応性基を有するフッ素含有化合物のうち公知のものとしては、例えば、ダイキン工業社製のフッ素系添加剤(製品名:オプツール(登録商標)DAC−HP)、旭硝子社製のフッ素系添加剤(製品名:Afluid)、DIC社製のフッ素系添加剤(製品名:メガファック(登録商標)RS−76−NS)、DIC社製のフッ素系添加剤(製品名:メガファックRS−90)、ネオス社製のフッ素系添加剤(製品名:フタージェント(登録商標)601AD)、油脂製品社製のフッ素系添加剤(製品名:C10GACRY)、油脂製品社製のフッ素系添加剤(製品名:C8HGOL)等が挙げられる。フッ素含有化合物は、紫外線によって重合するものであることが好ましく、−OCF
2−鎖及び/又は=NCO−鎖を有することが好ましい。樹脂組成物6は、1種類のフッ素含有化合物を含んでいてもよく、複数種類のフッ素含有化合物を含んでいてもよい。
【0049】
重合開始剤としては、例えば、光重合開始剤等が挙げられる。光重合開始剤は、活性エネルギー線に対して活性であり、モノマーを重合する重合反応を開始させるために添加されるものである。光重合開始剤としては、例えば、ラジカル重合開始剤、アニオン重合開始剤、カチオン重合開始剤等を用いることができる。このような光重合開始剤としては、例えば、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノン、2,2’−ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等のアセトフェノン類;ベンゾフェノン、4,4’−ビスジメチルアミノベンゾフェノン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン等のケトン類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル類;ベンジルジメチルケタール、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のベンジルケタール類、等が挙げられる。光重合開始剤のうち公知のものとしては、BASF社製の光重合開始剤(製品名:IRGACURE(登録商標)819)、BASF社製の光重合開始剤(製品名:LUCIRIN(登録商標) TPO)等が挙げられる。
【0050】
樹脂組成物6は、溶剤を含有しないことが好ましい。すなわち、樹脂組成物6は、無溶剤系であることが好ましい。樹脂組成物6が無溶剤系である場合、溶剤の使用に係るコスト、及び、環境面での負荷(使用時の臭気等)を低減することができる。更に、溶剤を乾燥させて除去するための装置が不要であり、装置コストを低減することができる。一方、樹脂組成物6が溶剤を含有する場合、揮発性が高くなるため、塗布性が低下してしまう懸念がある。
【0051】
(b)凹凸構造の形成
図2(b)に示すように、塗布された樹脂組成物6に、金型7を基材2とは反対側から押し付け、樹脂組成物6の基材2とは反対側の表面に凹凸構造を形成する。
【0052】
金型7としては、例えば、下記の方法で作製されるものを用いることができる。まず、アルミニウム製の基材の表面上に、絶縁層としての二酸化ケイ素と、純アルミニウムとが順に成膜された基板を作製する。この際、例えば、アルミニウム製の基材をロール状にすることで、絶縁層及び純アルミニウムの層を連続的に形成することができる。次に、この基板の表面に形成された純アルミニウムの層に対して、陽極酸化及びエッチングを交互に繰り返すことによって、モスアイ構造の雌型(金型7)を作製することができる。この際、陽極酸化を行う時間、及び、エッチングを行う時間を調整することによって、金型7の凹凸構造を変化させることができる。アルミニウム製の基材の代わりに、ガラス基板を用いてもよい。
【0053】
金型7の形状としては特に限定されず、例えば、平板状、ロール状等が挙げられる。
【0054】
金型7には、離型処理が施されていることが好ましい。金型7に離型処理を施すことによって、後述する工程(d)において、金型7を硬化樹脂層3から容易に剥離することができる。離形処理は、シランカップリング剤による表面処理であることが好ましい。シランカップリング剤としては、フッ素系シランカップリング剤が好ましく用いられる。
【0055】
(c)樹脂組成物の硬化
凹凸構造が形成された樹脂組成物6を硬化させる。その結果、
図2(c)に示すような硬化樹脂層3(疎水性樹脂)が形成される。樹脂組成物6の硬化は、活性エネルギー線の照射によって行われることが好ましい。活性エネルギー線の照射は、基材2側から行ってもよく、樹脂組成物6側から行ってもよい。また、樹脂組成物6に対する活性エネルギー線の照射回数は特に限定されず、1回のみであってもよいし、複数回であってもよい。
【0056】
(d)金型の剥離
図2(d)に示すように、金型7を硬化樹脂層3から剥離する。硬化樹脂層3の基材2とは反対側の表面に形成された凹凸構造は、複数の凸部4が可視光の波長以下のピッチPで設けられる構造、すなわち、モスアイ構造に相当する。
【0057】
(e)親水性材料の成膜
複数の凸部4の各々の先端に、親水性材料5を成膜する。その結果、
図2(e)に示すような光学部材1が完成する。親水性材料5の成膜方法としては、プラズマデポジション法、化学蒸着(CVD)法、ウエット処理法等が挙げられ、中でも、プラズマデポジション法(物理蒸着(PVD)法)が好ましく用いられる。プラズマデポジション法は、プラズマ化されたイオン原子(例えば、不活性ガスのイオン原子)をターゲット(親水性材料)に衝突させることによって、ターゲットを構成する粒子を飛び出させ、対象物に堆積する方法である。親水性材料5の成膜時には、酸素(O
2)、二酸化炭素(CO
2)、窒素(N
2)等の反応性ガスを用いてもよい。
【0058】
上述した製造プロセスにおいて、例えば、基材2をロール状にすれば、上記工程(a)〜(e)を連続的に効率良く行うことができる。
【0059】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
実施例1の光学部材を、以下の製造プロセスによって作製した。
【0061】
(a)樹脂組成物の塗布
まず、基材2の表面上に、第一理化社製のバーコーター(製品名:No.05)を用いて樹脂材料Aを塗布した。そして、塗布された樹脂材料A上に、Sono−Tek社製の超音波スプレー(ノズルの製品名:Vortex)を用いて樹脂材料Bをスプレー塗布した。その結果、樹脂材料A、及び、樹脂材料Bが積層された状態の樹脂組成物6を形成した。樹脂組成物6は、無溶剤系であった。
【0062】
基材2としては、易接着処理が施された富士フイルム社製のTACフィルム(製品名:フジタック(登録商標)TD80UL)を用いた。基材2の厚みは、80μmであった。
【0063】
樹脂材料Aとしては、下記材料の混合物を用いた。ここで、各材料に付した数値は、樹脂材料A中の各材料の濃度を示す。樹脂材料Aの厚みは、11μmであった。
・新中村化学工業社製のウレタンアクリレート(製品名:UA−7100):31重量%
・新中村化学工業社製の多官能アクリレート(製品名:ATM−35E):40重量%
・新中村化学工業社製の多官能アクリレート(製品名:A−TMM−3LM−N):27.5重量%
・BASF社製の光重合開始剤(製品名:IRGACURE819):1.5重量%
【0064】
樹脂材料Bとしては、下記材料の混合物を用いた。ここで、各材料に付した数値は、樹脂材料B中の各材料の濃度を示す。樹脂材料Bの厚みは、2μmであった。
・KJケミカルズ社製の単官能モノマー(製品名:ACMO):90重量%
・ダイキン工業社製のフッ素系添加剤(製品名:オプツールDAC−HP):10重量%
なお、フッ素含有化合物として用いた「オプツールDAC−HP」は、その固形分濃度が20重量%であった。
【0065】
(b)凹凸構造の形成
塗布された樹脂組成物6に、金型7を基材2とは反対側から押し付け、樹脂組成物6の基材2とは反対側の表面に凹凸構造を形成した。
【0066】
金型7としては、下記の方法で作製したものを用いた。まず、ガラス基板上に、アルミニウムをスパッタリング法によって成膜した。次に、成膜されたアルミニウムに対して、陽極酸化及びエッチングを交互に繰り返すことによって、多数の微小な穴(凹部)(隣り合う穴の底点間の距離が可視光の波長以下)が設けられた陽極酸化層を形成した。具体的には、陽極酸化、エッチング、陽極酸化、エッチング、陽極酸化、エッチング、陽極酸化、エッチング、及び、陽極酸化を順に行う(陽極酸化:5回、エッチング:4回)ことによって、アルミニウムの内部に向かって細くなる形状(テーパー形状)を有する微小な穴(凹部)を多数形成し、その結果、凹凸構造を有する金型7が得られた。本実施例においては、陽極酸化条件、及び、エッチング条件を下記の通りとした。
<陽極酸化条件>
・電極(白金)−サンプル(アルミニウム)間距離:150mm
・処理液:シュウ酸(0.05mol/L)
・処理温度:5℃
・処理時間:1分
・印加電圧:80V
<エッチング条件>
・処理液:リン酸(8mol/L)
・処理温度:30℃
・処理時間:20分
金型7を走査型電子顕微鏡で観察したところ、隣接する凹部間のピッチは200nm、凹部の深さは200〜250nmであった。なお、金型7には、ダイキン工業社製のフッ素系添加剤(製品名:オプツールDSX)によって事前に離型処理を施した。
【0067】
(c)樹脂組成物の硬化
凹凸構造が形成された樹脂組成物6に、Fusion UV systems社製のUVランプ(製品名:LIGHT HANMAR6J6P3)を用いて、基材2側から紫外線(照射量:1J/cm
2)を照射して硬化させた。その結果、硬化樹脂層3(疎水性樹脂)が形成された。
【0068】
(d)金型の剥離
金型7を硬化樹脂層3から剥離した。その結果、
図3に示すような状態が得られた。
図3は、実施例1における硬化樹脂層完成時の断面SEM写真である。
【0069】
硬化樹脂層3の仕様は、下記の通りであった。
凸部4の形状:釣鐘状
隣接する凸部4間のピッチP:200nm
凸部4の高さ:150〜200nm
凸部4を構成する疎水性樹脂の表面張力:12dyn/cm
【0070】
(e)親水性材料の成膜
複数の凸部4の各々の先端に、アルバック社製のプラズマデポジション方式のスパッタリング装置(製品名:SH−350EL−C06)を用いて、親水性材料5を成膜した。その結果、
図4に示すような光学部材1が完成した。
図4は、実施例1の光学部材の断面SEM写真である。本実施例においては、スパッタリング条件を下記の通りとした。
<スパッタリング条件>
・電源:RF
・周波数:13.56MHz
・バックグラウンドの真空度:6×10
−4Pa
・スパッタガス:アルゴンガス
・反応性ガス:酸素ガス
・スパッタリング時の真空度:4×10
−1Pa
【0071】
親水性材料5としては、二酸化ケイ素を用いた。親水性材料5の厚みは、30nmであった。二酸化ケイ素の表面張力は、65dyn/cmであり、凸部4を構成する疎水性樹脂の表面張力(12dyn/cm)よりも高かった。
【0072】
(比較例1)
無アルカリガラス基板を準備した。無アルカリガラス基板の厚みは、0.5mmであった。
【0073】
(比較例2)
無アルカリガラス基板の表面上に、リンレイ社製の防曇塗料(製品名:油膜とり くもり止めスプレー CH40)が塗布されたものを準備した。
【0074】
(比較例3)
比較例3の光学部材を、以下の製造プロセスによって作製した。
図5は、比較例3の光学部材の製造プロセスを説明するための断面模式図である(工程a〜d)。
【0075】
(a)樹脂組成物の塗布
まず、
図5(a)に示すように、基材102の表面上に、第一理化社製のバーコーター(製品名:No.05)を用いて、樹脂組成物106を塗布した。
【0076】
基材102としては、富士フイルム社製のTACフィルム(製品名:フジタックTD60UL)を用いた。基材102の厚みは、60μmであった。
【0077】
樹脂組成物106としては、下記材料の混合物を用いた。樹脂組成物106の厚みは、11μmであった。樹脂組成物106は、無溶剤系であった。
・新中村化学工業社製の多官能アクリレート(製品名:A−TMM−3LM−N):38.4重量部
・新中村化学工業社製の多官能アクリレート(製品名:ATM−35E):25.6重量部
・KJケミカルズ社製の単官能モノマー(製品名:ACMO):34重量部
・ダイキン工業社製のフッ素系添加剤(製品名:オプツールDAC−HP):0.07重量部
・BASF社製の光重合開始剤(製品名:LUCIRIN TPO):0.5重量部
【0078】
(b)凹凸構造の形成
図5(b)に示すように、塗布された樹脂組成物106に、金型107を基材102とは反対側から押し付け、樹脂組成物106の基材102とは反対側の表面に凹凸構造を形成した。
【0079】
金型107としては、下記の方法で作製したものを用いた。まず、ガラス基板上に、アルミニウムをスパッタリング法によって成膜した。次に、成膜されたアルミニウムに対して、陽極酸化及びエッチングを交互に繰り返すことによって、多数の微小な穴(凹部)(隣り合う穴の底点間の距離が可視光の波長以下)が設けられた陽極酸化層を形成した。具体的には、陽極酸化、エッチング、陽極酸化、エッチング、陽極酸化、エッチング、陽極酸化、エッチング、及び、陽極酸化を順に行う(陽極酸化:5回、エッチング:4回)ことによって、アルミニウムの内部に向かって細くなる形状(テーパー形状)を有する微小な穴(凹部)を多数形成し、その結果、凹凸構造を有する金型107が得られた。本比較例においては、1回の陽極酸化を行う時間を316秒とし、1回のエッチングを行う時間を825秒とした。金型107を走査型電子顕微鏡で観察したところ、隣接する凹部間のピッチは100nm、凹部の深さは200〜250nmであった。なお、金型107には、ダイキン工業社製のフッ素系添加剤(製品名:オプツールDSX)によって事前に離型処理を施した。
【0080】
(c)樹脂組成物の硬化
凹凸構造が形成された樹脂組成物106に、Fusion UV systems社製のUVランプ(製品名:LIGHT HANMAR6J6P3)を用いて、基材102側から紫外線(照射量:1J/cm
2)を照射して硬化させた。その結果、
図5(c)に示すような硬化樹脂層103が形成された。
【0081】
(d)金型の剥離
図5(d)に示すように、金型107を硬化樹脂層103から剥離した。その結果、光学部材101が完成した。
【0082】
硬化樹脂層103の仕様は、下記の通りであった。
凸部104の形状:釣鐘状
隣接する凸部104間のピッチQ:100nm
凸部104の高さ:150〜200nm
【0083】
(比較例4)
隣接する凸部104間のピッチQを200nmに変更したこと以外、比較例3と同様にして、光学部材を作製した。
【0084】
(比較例5)
硬化樹脂層103に凹凸構造を形成しなかったこと以外、比較例3と同様にして、光学部材を作製した。
【0085】
(比較例6)
樹脂組成物106において、比較例3でフッ素含有化合物として用いた「オプツールDAC−HP」の含有量を1.0重量部に変更したこと以外、比較例4と同様にして、光学部材を作製した。
【0086】
[評価1]
実施例1、及び、比較例1〜6について、防汚性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0087】
防汚性の評価としては、各例のサンプルの表面に付着した指紋が拭き取れるかどうかを評価した。具体的には、まず、各例のサンプルの表面に指紋を付着させて、温度25℃、湿度40〜60%の環境下で3日間放置した。その後、KBセーレン社製の不織布(製品名:ザヴィーナ(登録商標))を用いて、各例のサンプルの表面を一方向に50回拭き、指紋が拭き取れるかどうかを、照度100lxの環境下で観察した。評価指標としては、○:指紋が完全に拭き取れる、△:大部分の指紋が拭き取れない、×:指紋が全く拭き取れない、を用いた。
【0089】
表1に示すように、実施例1は防汚性に優れていた。一方、比較例1は実施例1と同様に防汚性に優れていたが、比較例2、比較例5、及び、比較例6は実施例1よりも防汚性が劣り、比較例3、及び、比較例4は実施例1よりも防汚性が更に劣っていた。
【0090】
[評価2]
実施例1、及び、比較例1〜6について、耐擦傷性を評価した。評価結果を表2に示す。
【0091】
耐擦傷性の評価としては、各例のサンプルに対する水拭き前後での水の接触角の変化を評価した。つまり、各例のサンプルの表面に存在する層(例えば、実施例1における親水性材料5)が拭き取られたかどうかを、各例のサンプルに対する水拭き前後での水の接触角の変化から判断した。具体的には、まず、各例のサンプルの表面に対する水の接触角を測定した。次に、KBセーレン社製の不織布(製品名:ザヴィーナ)に水を浸み込ませたものを用いて、各例のサンプルの表面を20回拭いた後、各例のサンプルの表面に対する水の接触角を再度測定した。判定基準は、○:水拭き前後での水の接触角の変化が1°未満である、×:水拭き前後での水の接触角の変化が1°以上である、とした。接触角は、協和界面科学社製のポータブル接触角計(製品名:PCA−1)を用いて、θ/2法(θ/2=arctan(h/r)、θ:接触角、r:液滴の半径、h:液滴の高さ)で測定された、3箇所の接触角の平均値とした。ここで、1箇所目の測定点としては、各例のサンプルの中央部分を選択し、2箇所目及び3箇所目の測定点としては、1箇所目の測定点から20mm以上離れ、かつ、1箇所目の測定点に対して互いに点対称な位置にある2点を選択した。
【0093】
表2に示すように、実施例1は耐擦傷性に優れていた。一方、比較例1、比較例4、比較例5、及び、比較例6は耐擦傷性に優れていたが、比較例2、及び、比較例3は耐擦傷性が劣っていた。
【0094】
[評価3]
実施例1、及び、比較例1〜6について、防曇性を評価した。評価結果を表3、表4、及び、表5に示す。
【0095】
防曇性の評価としては、各例のサンプルの曇り度合いを評価した。防曇性の評価方法について、
図6を参照して以下に説明する。
図6は、防曇性の評価方法を説明するための断面模式図である。
【0096】
まず、アクリル製の箱210内に、紙211、ヒーター212、及び、加湿器213を設置した。アクリル製の箱210(長さ:400mm、幅:300mm、高さ:350mm)としては、一部の面がガラス基板214(厚み:0.7mm)で構成されたものを用いた。ガラス基板214の紙211側の表面の一部には、各例のサンプルを、パナック社製の粘着剤(製品名:PDS1)を介して貼り付けた。なお、
図6中では、実施例1の光学部材1が貼り付けられた状態を代表的に示しており、硬化樹脂層3(凹凸構造)が紙211側に向くように、光学部材1を配置した。これは、他の例についても同様である。例えば、比較例2については、防曇塗料が塗布された面が紙211側に向くように、サンプルを配置した。また、比較例3については、硬化樹脂層103が紙211側に向くように、サンプル(光学部材101)を配置した。各例のサンプルと紙211とは、対向する表面間の距離が100mmとなるように配置した。
【0097】
次に、ヒーター212、及び、加湿器213を作動させ、アクリル製の箱210内の温度、湿度、及び、露点温度、並びに、ガラス基板214の紙211側の表面温度(以下、単に、ガラス表面温度とも言う。)を測定した。ここで、ヒーター212、及び、加湿器213の出力を調整することによって、露点温度をガラス表面温度よりも1〜3℃程度高くなるように設定した。これにより、ガラス基板214(各例のサンプル)近傍の湿度が110%程度である環境を実現することができた。なお、アクリル製の箱210の外部の温度は24.9℃、湿度は23.4%であった。
【0098】
上記の環境下で、アクリル製の箱210の外部から各例のサンプルを通して、紙211をカメラ215で撮影した。カメラ215とガラス基板214の紙211とは反対側の表面との間の距離は、500mmであった。紙211のガラス基板214側の表面には、直径0.5mm、1.0mm、1.5mm、2.0mm、2.5mm、3.0mmの6種類の丸印(点)がペンで描かれており、これらの丸印のうち、どの大きさの丸印が撮影できなくなる(見えなくなる)かどうかを、経過時間毎に評価した。表3〜5中の結果において、「X」は、直径Xmm以下の丸印が撮影できなかった(見えなかった)ことを示す。すなわち、上記「X」が大きい値であるほど、各例のサンプルの曇り度合いが高いことを示す。判定基準は、下記の通りとした。
○:評価中、Xが0であった。すなわち、すべての丸印を撮影できた。
△:評価中、Xの最大値が0.5以上、1.5以下であった。
×:評価中、Xの最大値が2.0以上、3.0以下であった。
【0102】
表3に示すように、実施例1においては、評価中にすべての丸印を撮影することができ、防曇性に優れていた。一方、比較例2、及び、比較例3は実施例1と同様に防曇性に優れていたが、比較例4、比較例5、及び、比較例6は実施例1よりも防曇性が劣り、比較例1は実施例1よりも防曇性が更に劣っていた。
【0103】
以上より、実施例1は、防汚性、耐擦傷性、及び、防曇性に優れていた。一方、比較例1は、防汚性及び耐擦傷性に優れていたが、防曇性が劣っていた。比較例2、及び、比較例3は、防曇性に優れていたが、防汚性及び耐擦傷性が劣っていた。比較例4、比較例5、及び、比較例6は、耐擦傷性に優れていたが、防汚性及び防曇性が劣っていた。
【0104】
[別の実施形態]
上述した実施形態においては、各凸部の先端の親水性部分として、先端が親水性材料で覆われている構成を示したが、
図7に示すような、先端が表面改質されている構成であってもよい。
図7は、別の実施形態の光学部材を示す断面模式図である。
図7に示すように、光学部材1’は、基材2、及び、硬化樹脂層3を備えている。硬化樹脂層3において、複数の凸部4の各々の先端は、表面改質された部分8を有している。
【0105】
表面改質された部分8を形成する方法としては、例えば、以下(1)〜(3)の方法が挙げられる。
【0106】
(1)複数の凸部4の各々の先端に対して、鹸化処理を施す。
鹸化処理は、例えば、凸部4の先端を水酸化ナトリウム水溶液に浸すことによって行われる。これにより、凸部4の先端の表面に、−OH基、−COOH基等の親水性基が形成される。その結果、凸部4の先端に、親水性部分(表面改質された部分8)が形成される。
【0107】
(2)複数の凸部4の各々の先端に対して、親水性材料を接触させる。
親水性材料を接触させる方法としては、例えば、親水性材料が粘着層に練り込まれた粘着部材を準備し、その粘着部材を粘着層側から凸部4の先端に接触させる方法が挙げられる。この際、親水性材料に重合性モノマーを添加すれば、活性エネルギー線の照射によって硬化(重合)することができる。これにより、凸部4の先端に、親水性部分(表面改質された部分8)が形成される。
【0108】
(3)複数の凸部4の各々の先端に対して、プラズマエッチング処理を施す。
プラズマエッチング処理は、例えば、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)等の不活性ガスを用いて行われる。これにより、凸部4の先端の表面に、−OH基、−COOH基等の親水性基が形成される。その結果、凸部4の先端に、親水性部分(表面改質された部分8)が形成される。
【0109】
[付記]
以下に、本発明の光学部材及びその製造方法の好ましい特徴の例を挙げる。各例は、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜組み合わされてもよい。
【0110】
上記複数の凸部の各々は、疎水性樹脂で構成され、かつ、上記先端が親水性材料で覆われていてもよい。これにより、上記親水性部分を好ましく実現することができる。
【0111】
上記親水性材料は、二酸化ケイ素を含有するものであってもよい。これにより、上記親水性材料を効果的に利用することができる。
【0112】
上記親水性材料の厚みは、30nm以下であってもよい。これにより、上記親水性材料が上記複数の凸部の各々の先端を覆う状態を好ましく実現することができる。
【0113】
上記複数の凸部の各々は、疎水性樹脂で構成され、かつ、上記先端が表面改質されていてもよい。これにより、上記親水性部分を好ましく実現することができる。
【0114】
以下に、本発明の光学部材の製造方法の好ましい特徴の例を挙げる。
【0115】
上記工程は、プラズマデポジション法によって行われてもよい。これにより、上記親水性材料の成膜を効率的に行うことができる。