【文献】
ボンフロンFCG工法,日本,AGCコーテック株式会社,2010年 7月31日,[2019年7月8日検索],インターネット,,URL,https://www.agccoat-tech.co.jp/specification/catalog/pdf/304.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
<積層シート>
本発明の一実施形態の積層シートは、基材と、基材上に形成されたインクジェット画像層とを備える。基材は、単層または複層であり、第1のフッ素樹脂を含む。インクジェット画像層は、第1のフッ素樹脂と同じかまたは異なる第2のフッ素樹脂を含むフッ素樹脂インクが付与された層である。基材のうちインクジェット画像層が形成される印刷面の水接触角は、50〜75°である。以下、それぞれについて説明する。
【0019】
(基材)
積層シートの基材は、第1のフッ素樹脂を含んでいればよく、特に限定されない。第1のフッ素樹脂は特に限定されない。一例を挙げると、第1のフッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ETCFE)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等である。これらの中でも第1のフッ素樹脂は、比較的印刷面の表面状態をコントロールしやすいという理由から、PVDF、ETFEであることが好ましい。
【0020】
基材は、単層であってもよく、複層であってもよい。
【0021】
・基材が単層である場合
基材が単層である場合、基材は、第1のフッ素樹脂が製膜された単層のフッ素樹脂層によって構成されてもよく、第1のフッ素樹脂と他の樹脂との共重合体からなる単層の樹脂層(フッ素樹脂含有層)であってもよい。また、基材は、第1のフッ素樹脂や、第1のフッ素樹脂と他の樹脂との共重合体が、繊維シートに含浸された態様であってもよい。
【0022】
第1のフッ素樹脂以外の他の樹脂は特に限定されない。一例を挙げると、他の樹脂は、ポリ(メタ)アクリル酸メチル(PMMA)、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸プロピル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、(メタ)アクリル酸エチル−(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体等の(メタ)アクリル酸エステル等のアクリル樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)樹脂等である。これらの中でも、他の樹脂は、透明性が高く、比較的耐候性が良いという理由から、PMMA、PETであることが好ましい。
【0023】
基材が第1のフッ素樹脂からなる単層である場合、基材の印刷面(後述するインクジェット画像層が形成される面)は、第1のフッ素樹脂からなるフッ素樹脂層に形成された面である。また、このような印刷面は、水接触角が50〜75°であり、50〜70°であることが好ましい。なお、水接触角は、たとえば接触角計(Fibro System AB社製の携帯式接触角計PG−X+)を用いることにより測定し得る。水接触角が上記範囲であることにより、このような基材は、インクの濡れ性および密着性が優れる。その結果、積層シートは、フッ素樹脂を含む基材に対して、インクジェット方式によって画像を印刷して加飾することができ、かつ、優れた画像密着性および耐候性を示す。
【0024】
基材が第1のフッ素樹脂からなる単層である場合、水接触角は、50〜75°であればよい。すなわち、元々のフッ素樹脂層の表面(印刷面)の水接触角が50〜75°である場合、このようなフッ素樹脂層を備える基材は、そのまま後述するインクジェット画像層が形成され得る。一方、元々のフッ素樹脂層の印刷面の水接触角が50〜75°の範囲外(たとえば90°等)である場合、このようなフッ素樹脂層の印刷面は、水接触角が50〜75°となるよう調整され得る。水接触角を上記範囲に調整する方法は特に限定されない。一例を挙げると、印刷面の水接触角は、印刷面に対してNaエッチング処理、コロナ処理、プラズマ処理等の処理を行うことにより調整し得る。
【0025】
また、上記した印刷面における酸素Oと炭素Cとの存在比(O/C)が、0.05〜0.5となるよう調整されていることが好ましく、0.06〜0.3となるよう調整されていることがより好ましい。酸素Oと炭素Cとの存在比(O/C)が上記範囲に調整されていることにより、フッ素樹脂層は、後述するインクジェット画像層を形成する際にフッ素樹脂インクが弾かれにくく、付与されやすい。また、得られるインクジェット画像層は、密着性が優れる。なお、本実施形態において、酸素Oと炭素Cとの存在比(O/C)は、たとえば光電子分光装置(XPS(ESCA)、JPS−9010JEOL 日本電子(株)製)を使用し、X線光電子分光法により、ナロースペクトルより算出することができる。
【0026】
基材が第1のフッ素樹脂以外の他の樹脂を含む場合において、基材における第1のフッ素樹脂の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、固形分換算で、第1のフッ素樹脂は、基材中、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。また、第1のフッ素樹脂は、固形分換算で、基材中、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。基材における第1のフッ素樹脂の含有量が上記範囲内であることにより、基材は、優れた耐候性を示し得る。また、基材は、第1のフッ素樹脂以外に上記した他の樹脂を含み得る。このような他の樹脂は、後述するインクジェット画像層が形成される際に、優れた画像密着性を示し得る。そのため、得られる積層シートは、第1のフッ素樹脂によって優れた耐候性が示されると共に、優れた画像密着性も示す。この際、基材は、第1のフッ素樹脂と他の樹脂とが化学的に混合されたポリマーアロイを含んでもよく、第1のフッ素樹脂と他の樹脂とが物理的に混合された混合物を含んでもよい。
【0027】
また、基材が第1のフッ素樹脂以外の他の樹脂を含む場合において、基材の表面(後述するインクジェット画像層が形成される印刷面)は、反対側の面と比較して、他の樹脂の存在比が多くなるよう調整されていてもよい。このような調整が行われていることにより、基材は、第1のフッ素樹脂による優れた耐候性に加え、表面に存在するより多くの他の樹脂によって、インクジェット画像層が優れた密着性を示しやすい。
【0028】
さらに、基材が第1のフッ素樹脂や、第1のフッ素樹脂と他の樹脂との共重合体を繊維シートに含浸させた態様である場合、繊維シートを構成する繊維は特に限定されない。一例を挙げると、繊維シートを構成する繊維は、各種天然繊維、化学繊維、金属繊維、無機繊維等である。天然繊維は、木材パルプ繊維、ケナフ、麻、竹繊維等である。化学繊維は、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PTT(ポリトリブチレンテレフタレート)等のポリエステル繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、レ−ヨン繊維、アラミド繊維、フェノ−ル繊維、フッ素繊維等である。金属繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、ステンレス等である。無機繊維は、シリカ繊維、ロックウ−ル、スラグウ−ル、アルミナ繊維、セラミック繊維等である。第1のフッ素樹脂や他の樹脂は、必要に応じて溶融することにより樹脂溶液が調製される。基材は、繊維シートが樹脂溶液に含浸されることにより作製される。なお、本実施形態では、樹脂が含浸された繊維シートは、原則として単層の基材として取り扱われる。一方、樹脂を含浸したことにより、繊維シートの表面に所定の厚みの樹脂層が形成される場合には、このような基材は、樹脂が含浸した繊維シートと、樹脂層とからなる複層の基材として取り扱われてもよい。
【0029】
基材が単層である場合、基材の厚みは特に限定されない。一例を挙げると、基材の厚みは、10μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。また、基材の厚みは、1000μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましい。基材の厚みが上記範囲内であることにより、基材は、インクジェット画像層を形成する際に、搬送しやすい。
【0030】
・基材が複層である場合
基材が複層である場合、基材は、第1のフッ素樹脂が製膜された単層のフッ素樹脂層が2層以上重ね合された複層のフッ素樹脂層から構成されてもよく、第1のフッ素樹脂が製膜された単層のフッ素樹脂層と、他の樹脂からなる樹脂層(他の樹脂層)とが重ね合された複層の樹脂層から構成されてもよい。また、基材は、第1のフッ素樹脂や、第1のフッ素樹脂と他の樹脂との共重合体が、繊維シートに含浸または塗工された態様であってもよい。
【0031】
他の樹脂層は特に限定されない。一例を挙げると、他の樹脂層は、上記した他の樹脂からなる。本実施形態の積層シートは、基材が複数の樹脂層からなり、かつ、後述するインクジェット画像層が形成される印刷面が、他の樹脂層に形成された面であることが好ましい。このような態様によれば、積層シートは、基材は、フッ素樹脂層に含まれる第1のフッ素樹脂による優れた耐候性に加え、印刷面を構成する他の樹脂層によって、インクジェット画像層が優れた密着性を示しやすい。
【0032】
基材が複層である場合、水接触角は、50〜75°であればよい。すなわち、元々の印刷面の水接触角が50〜75°である場合、このような印刷面を備える基材は、そのまま後述するインクジェット画像層が形成され得る。一方、元々の印刷面の水接触角が50〜75°の範囲外(たとえば90°等)である場合、このような印刷面は、水接触角が50〜75°となるよう調整され得る。基材が複層である場合、基材は、たとえば、印刷面を構成する層として、上記した他の樹脂層を採用し、印刷面を構成しない層として上記したフッ素樹脂層を採用することができる。この場合、他の樹脂層は、元々の水接触角が50〜75°である場合がある。そのため、このような印刷面は、水接触角の調整が必須でなく、そのまま後述するインクジェット画像層を形成することができる。一方、他の樹脂層の水接触角が50〜75°の範囲外である場合には、上記した処理によって、印刷面の水接触角が調整され得る。いずれの場合であっても、積層シートは、基材を構成するフッ素樹脂層によって充分な耐候性を示し、かつ、水接触角が適宜調整された印刷面によってインクジェット画像層の密着性が優れる。
【0033】
さらに、基材が繊維シートを含む態様である場合、繊維シートを構成する繊維は特に限定されない。繊維シートを構成する繊維は、単層の基材に関連して上記した繊維と同様の繊維を使用することができる。
【0034】
基材が複層である場合、基材は、第1のフッ素樹脂をいずれかの層に含んでいればよく、この限りにおいて、樹脂を含浸していない繊維シート、樹脂を含浸した繊維シート、上記した第1のフッ素樹脂が製膜された単層のフッ素樹脂層、単層のフッ素樹脂層が2層以上重ね合された複層のフッ素樹脂層、および、他の樹脂層が組み合わされ得る。また、繊維シートは、第1のフッ素樹脂や他の樹脂が塗工されることにより、複層である基材が作製されてもよい。
【0035】
基材が複層である場合、基材の厚みは特に限定されない。一例を挙げると、基材の厚みは、10μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。また、基材の厚みは、1000μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましい。基材の厚みが上記範囲内であることにより、基材は、インクジェット画像層を形成する際に、搬送しやすい。
【0036】
基材全体の説明に戻り、基材は、上記成分のほか、耐候性向上剤(たとえば紫外線吸収剤、光安定剤等)を含んでもよい。
【0037】
・紫外線吸収剤
紫外線吸収剤は、基材の耐候性を向上させるために好適に配合される。紫外線吸収剤は特に限定されない。一例を挙げると、紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン誘導体、サリチル酸誘導体等である。ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’、5’−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−4’−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾ−ル、2−{(2’−ヒドロキシ−3’,3”,4”,5”,6”−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5’−メチルフェニル}ベンゾトリアゾール等が例示される。ベンゾフェノン系紫外線吸収剤は、2−ヒドロキシベンゾフェノン、5−クロロ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクタデシロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン等が例示される。トリアジン誘導体は、2−[4−{(2−ヒドロキシ−3−ドデシロキシ−プロピル)オキシ}−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−[4−{(2−ヒドロキシ−3−トリデシロキシ−プロピル)オキシ}−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−{4−(オクチル−2−メチルエタノエート)オキシ−2−ヒドロキシフェニル−4,6−{ビス(2,4−ジメチルフェニル)}−1,3,5−トリアジン、トリス[2,4,6−[2−{4−(オクチル−2−メチルエタノエート)オキシ−2−ヒドロキシフェニル}]]−1,3,5−トリアジン等が例示される。サリチル酸誘導体は、フェニルサリシレート、p−tert−ブチルフェニルサリシレート、p−オクチルフェニルサリシレート、p−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェニルサリシレート等が例示される。紫外線吸収剤は、併用されてもよい。
【0038】
紫外線吸収剤が配合される場合の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、紫外線吸収剤の含有量は、基材中、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。また、紫外線吸収剤の含有量は、基材中、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。紫外線吸収剤の含有量が上記範囲内であることにより、基材は、耐候性が向上しやすい。
【0039】
・光安定剤
光安定剤は、基材の耐候性を向上させるために好適に配合される。光安定剤は特に限定されない。一例を挙げると、光安定剤は、ヒンダードアミン系光安定剤等である。ヒンダードアミン系光安定剤は、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルステアレート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルステアレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルベンゾエート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1−ウンデシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)カーボネート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルブタンテトラカルボキシレート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)・ジ(トリデシル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)・ジ(トリデシル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−2−ブチル−2−(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンジル)マロネート、1−(2−ヒドロキシエチル)−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノール/コハク酸ジエチル重縮合物、1,6−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアミノ)ヘキサン/ジブロモエタン重縮合物、1,6−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4−ジクロロ−6−モルホリノ−s−トリアジン重縮合物、1,6−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4−ジクロロ−6−第三オクチルアミノ−s−トリアジン重縮合物、1,5,8,12−テトラキス〔2,4−ビス(N−ブチル−N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アミノ)−s−トリアジン−6−イル〕−1,5,8,12−テトラアザドデカン、1,5,8,12−テトラキス〔2,4−ビス(N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ)−s−トリアジン−6−イル〕−1,5,8,12−テトラアザドデカン、1,6,11−トリス〔2,4−ビス(N−ブチル−N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アミノ)−s−トリアジン−6−イルアミノウンデカン、1,6,11−トリス〔2,4−ビス(N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ)−s−トリアジン−6−イルアミノウンデカン、ビス(1−オクチルオキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−デカンジオアート等である。光安定剤は、併用されてもよい。
【0040】
光安定剤が配合される場合の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、光安定剤の含有量は、基材中、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。また、光安定剤の含有量は、基材中、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。光安定剤の含有量が上記範囲内であることにより、基材は、耐候性が向上しやすい。
【0041】
(インクジェット画像層)
インクジェット画像層は、上記した基材上に形成される層であり、第1のフッ素樹脂と同じかまたは異なる第2のフッ素樹脂を含むフッ素樹脂インクが付与された層である。
【0042】
・フッ素樹脂インク
フッ素樹脂インクは、第2のフッ素樹脂を含む。第2のフッ素樹脂は特に限定されない。第2のフッ素樹脂は、上記した第1のフッ素樹脂と同じであってもよく、異なっていてもよい。また、フッ素樹脂インクは、溶媒として水または水溶性有機溶剤に第2のフッ素樹脂が分散された水系フッ素樹脂インクであってもよく、それら以外の有機溶剤に第2のフッ素樹脂が溶解した非水系フッ素樹脂インクであってもよい。
【0043】
好適な第2のフッ素樹脂は、たとえば、各種含フッ素モノマーと、ビニルモノマーとの共重合体である。第2のフッ素樹脂は、ビニルモノマーの中でも、ビニルエーテルとの共重合体であることが好ましい。また、第2のフッ素樹脂は、後述するフルオロエチレンと、ビニルエーテルとの共重合体であることがより好ましい。
【0044】
含フッ素モノマーとしては、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、トリクロロフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、トリフルオロメチルトリフルオロエチレン等が例示される。これらの中でも、優れた耐候性を示すインクジェット画像層を備える積層シートが得られる点から、含フッ素モノマーは、フルオロエチレンであることが好ましく、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンであることがより好ましい。
【0045】
ビニルモノマーとしては、非イオン性モノエチレン不飽和モノマー、二官能性ビニルモノマー等が例示される。非イオン性モノエチレン不飽和モノマーとしては、スチレン、ビニルトルエン、エチレン、ビニルアセテート、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸エステル等が例示される。(メタ)アクリル酸エステルとしては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オレイル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等が例示される。二官能性ビニルモノマーとしては、ジビニルベンゼン、アリルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタン−ジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等が例示される。
【0046】
ビニルエーテルとしては、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル等のジ又はトリビニルエーテル化合物、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、イソプロペニルエーテル−o−プロピレンカーボネート、ドデシルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル等のモノビニルエーテル化合物等が例示される。
【0047】
含フッ素モノマーと、ビニルモノマーとの共重合割合は特に限定されない。一例を挙げると、共重合割合は、含フッ素モノマー:ビニルモノマー=3〜1:1〜2(重量比)である。共重合割合がこのような範囲内である場合、得られるインクジェット画像層は、優れた耐候性を示しやすい。なお、重合方法は特に限定されない。一例を挙げると、重合方法は、溶液重合、懸濁重合、塊状重合、乳化重合等である。
【0048】
得られる第2のフッ素樹脂は、交互共重合体、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよい。これらの中でも、第2のフッ素樹脂は、フルオロエチレンとビニルモノマーとの交互共重合体であることが好ましい。このような第2のフッ素樹脂を含むインクジェット画像層は、耐候性がさらに優れる。なお、本実施形態において、「交互共重合体」とは、フルオロエチレン単位と、ビニルモノマー単位との結合が、フルオロエチレン単位とフルオロエチレン単位との結合、および、ビニルモノマー単位とビニルモノマー単位との結合の合計よりも、はるかに多く含まれる共重合体を意味する。具体的には、本実施形態の交互共重合体は、フルオロエチレン単位と、ビニルモノマー単位との結合を、90〜100モル%含むことが好ましい。なお、本実施形態において、交互共重合体は、少数のランダム結合部分やブロック結合部分を含んでいてもよい。また、上記結合は、たとえば
1H NMR測定および
29Si NMR測定等により区別し得る。また、交互共重合性の分析方法については、たとえば、Journal of Applied Polymer Science, Vol. 106, 1007-1013 (2007)等を参照し得る。
【0049】
本実施形態の第2のフッ素樹脂は、水酸基価が20mgKOH/g以上であることが好ましく、30mgKOH/g以上であることがより好ましい。また、第2のフッ素樹脂は、水酸基価が100mgKOH/g以下であることが好ましく、80mgKOH/g以下であることがより好ましい。水酸基価が上記範囲内である場合、インクジェット画像層は、硬化性が優れ、かつ、フッ素樹脂インクは、インクジェットプリント時における吐出安定性がより優れる。水酸基価が20mgKOH/g未満である場合、硬化剤と反応しにくい傾向がある。一方、水酸基価が100mgKOH/gを超える場合、フッ素樹脂インクの分散系が不安定となりやすく、吐出安定性が低下しやすい傾向がある。なお、本実施形態において、水酸基価とは、試料(樹脂の固形分)1gをアセチル化させたとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数を表し、JIS K 0070に記載の方法に準ずる方法により測定される値である。
【0050】
第2のフッ素樹脂は、酸価が5mgKOH/g以下であることが好ましく、4mgKOH/g以下であることがより好ましい。酸価が5mgKOH/g以下である場合、フッ素樹脂インクは、分散系が安定しやすく、吐出安定性が優れる。一方、酸価が5mgKOH/gを超える場合、フッ素樹脂インクは、分散系が不安定となりやすく、吐出安定性が低下しやすい傾向がある。なお、本実施形態において、酸価とは、試料(樹脂の固形分)1g中に含まれる酸性成分を中和するために要する水酸化カリウムの質量(mg)を表し、JIS K 0070に記載の方法に準ずる方法により測定される値である。
【0051】
本実施形態の第2のフッ素樹脂は、溶剤可溶型であることが好ましい。具体的には、固形分換算で、第2のフッ素樹脂は、ジエチレングリコールジエチルエーテルに対する溶解度が500(g/L)以上であることが好ましく、1000(g/L)以上であることがより好ましい。第2のフッ素樹脂は、グリコールエーテル系溶剤に対する溶解度が上記範囲内である場合、フッ素樹脂インクは、長期的にフッ素樹脂の再析出が起こりにくく、インクジェットプリント時における吐出安定性がより優れる。
【0052】
また、本実施形態の第2のフッ素樹脂は、固形分換算で、水に対する溶解度が50(g/L)以下であることが好ましく、30(g/L)以下であることがより好ましい。これにより、このようなフッ素樹脂インクを用いて得られる積層シートは、耐水性が良好となり、かつ、耐候性がより優れる。一方、水に対する溶解度が50(g/L)を超える場合、このようなフッ素樹脂インクを用いて得られる積層シートは、耐水性が低下する傾向がある。
【0053】
本実施形態の第2のフッ素樹脂は、所定の溶媒に分散または溶解された状態で使用されてもよく、溶媒を含まない無溶媒の状態(すなわち固体〜半固体状)で使用されてもよい。ただし、溶媒に分散または溶解された状態の第2のフッ素樹脂は、溶媒の種類によっては、フッ素樹脂インク中に含有されると、インクジェットプリント時にヘッドを傷める可能性がある。そのため、本実施形態の第2のフッ素樹脂は、そのようなヘッド適性の優れていない溶媒を含んでいないことが好ましく、無溶媒の状態であることがより好ましい。このような無溶媒のフッ素樹脂は、元々、ヘッド適性の優れていない溶媒が含まれていないため、インクジェットプリント時において、インクジェット記録装置のヘッドを傷めにくい。
【0054】
第2のフッ素樹脂の重量平均分子量(Mw)は特に限定されない。一例を挙げると、Mwは、5000以上であることが好ましく、8000以上であることがより好ましい。Mwは、50000以下であることが好ましく、40000以下であることがより好ましい。Mwが上記範囲内である場合、第2のフッ素樹脂は、溶媒に溶解しやすい。また、フッ素樹脂インクは、乾燥性が改善されており、インクジェットプリント時における吐出安定性が優れている。さらに、得られるインクジェット画像層は、表面のベタツキが少なく、積層シート同士を重ねた際のブロッキング防止性が優れている。Mwが5000未満である場合、得られるインクジェット画像層は、ベタツキが生じやすく、ブロッキング防止性が低下する傾向がある。一方、Mwが50000を超える場合、第2のフッ素樹脂の溶解性が低下したり、インクジェットプリント時におけるフッ素樹脂インクの吐出安定性が低下する傾向がある。なお、本実施形態において、Mwは、たとえばGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定された値であり、高速GPC装置(東ソー(株)製、HLC−8120GPC)を用いて測定し得る。
【0055】
フッ素樹脂インクにおける第2のフッ素樹脂の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、固形分換算で、第2のフッ素樹脂は、フッ素樹脂インク中、2質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。また、第2のフッ素樹脂は、フッ素樹脂インク中、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。第2のフッ素樹脂の含有量が2質量%以上である場合、フッ素樹脂インクは、インクジェットプリント時における吐出安定性が優れる傾向がある。一方、第2のフッ素樹脂の含有量が40質量%を超える場合、フッ素樹脂インクの粘度が高くなり、インクジェットプリント時における吐出安定性が低下する傾向がある。
【0056】
(色材)
インクジェット画像層を形成するフッ素樹脂インクは、色材を好適に含む。色材は、各種無機顔料または有機顔料であってもよい。無機顔料としては、酸化物類、複合酸化物類、水酸化物類、硫化物類、フェロシアン化物類、クロム酸塩類、炭酸塩類、ケイ酸塩類、リン酸塩類、炭素類(カーボンブラック)、金属粉類等が例示される。有機顔料としては、ニトロソ類、染付レーキ類、アゾレーキ類、不溶性アゾ類、モノアゾ類、ジスアゾ類、縮合アゾ類、ベンゾイミダゾロン類、フタロシアニン類、アントラキノン類、ペリレン類、キナクリドン類、ジオキサジン類、イソインドリン類、アゾメチン類、ピロロピロール類等が例示される。これらは併用されてもよい。これらの中でも、本実施形態のフッ素樹脂インクは、色材の劣化による退色を起こしにくい点から、色材として無機顔料を含むことが好ましい。
【0057】
色材の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、色材の含有量は、フッ素樹脂インク中、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。また、色材の含有量は、フッ素樹脂インク中、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。色材の含有量が0.01質量%未満である場合、充分な着色が施されない傾向がある。一方、色材の含有量が30質量%を超える場合、フッ素樹脂インクの粘度が高くなり、インクジェットプリント時における吐出安定性が低下する傾向がある。
【0058】
(任意成分)
フッ素樹脂インクは、上記した第2のフッ素樹脂および好適に含まれる色材以外にも、インクジェットインクの分野において周知な任意成分を含有することができる。一例を挙げると、任意成分は、各種バインダー樹脂(ただしフッ素樹脂を除く)、各種溶媒、硬化剤、硬化触媒、耐候性向上剤(たとえば紫外線吸収剤、光安定剤等)、スリップ剤(レベリング剤)、分散剤、重合促進剤、重合禁止剤、浸透促進剤、湿潤剤(保湿剤)、定着剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、増粘剤等である。
【0059】
・バインダー樹脂
バインダー樹脂は、たとえば、フッ素樹脂インクの粘度を調整したり、得られるインクジェット画像層や積層シートの硬度の調整や形状を制御するために含有され得る。
【0060】
バインダー樹脂の種類は特に限定されない。一例を挙げると、バインダー樹脂は、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、アイオノマー樹脂、エチレンエチルアクリレート樹脂、アクリロニトリルアクリレートスチレン共重合樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、アクリロニトリル塩化ポリエチレンスチレン共重合樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、エチレンビニルアルコール共重合樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合樹脂、塩化ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、酢酸セルロース樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリレート樹脂、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン、ポリスチレンマレイン酸共重合樹脂、ポリスチレンアクリル酸共重合樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、メチルペンテン樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート樹脂、ブチラール樹脂、ホルマール樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、およびこれらの共重合樹脂等が例示される。バインダー樹脂は、膜強度、粘度、フッ素樹脂インクの残部粘度、色材の分散安定性、熱安定性、非着色性、耐水性、耐薬品性を考慮し、適宜選択され得る。バインダー樹脂は、併用されてもよい。
【0061】
これらの中でも、バインダー樹脂は耐熱性および耐候性が優れている点から、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂であることが好ましい。
【0062】
アクリル樹脂は特に限定されない。一例を挙げると、アクリル樹脂は、アクリル酸エステル(アクリレート)またはメタクリル酸エステル(メタクリレート)の重合体が例示される。より具体的には、アクリル樹脂は、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2−エチルへキシル等のアクリル酸アルキルエステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のメタクリル酸アルキルエステル類;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2−ヒドロキシブチル等のヒドロキシ基含有アクリル酸エステル類;メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル等のヒドロキシ基含有メタクリル酸エステル類などの重合体が例示される。これらは併用されてもよい。
【0063】
アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は特に限定されない。一例を挙げると、Mwは、5000以上であることが好ましく、10000以上であることがより好ましい。Mwは、100000以下であることが好ましく、50000以下であることがより好ましい。Mwが上記範囲内である場合、このようなアクリル樹脂を含むフッ素樹脂インクは、インクジェットプリント時における吐出安定性が優れている。
【0064】
塩化ビニル樹脂は特に限定されない。一例を挙げると、塩化ビニル樹脂は、塩化ビニルと、酢酸ビニル、塩化ビニリデン、アクリル酸、マレイン酸、ビニルアルコール等の他のモノマーとの共重合体等が例示される。これらの中でも、塩化ビニル樹脂は、塩化ビニルおよび酢酸ビニルに由来する構成単位を含む共重合体(塩ビ酢ビ共重合体)であることが好ましい。
【0065】
塩ビ酢ビ共重合体は、たとえば懸濁重合によって得ることができる。塩ビ酢ビ共重合体は、塩化ビニル単位を70〜90質量%含有することが好ましい。上記範囲であれば、塩ビ酢ビ共重合体は、フッ素樹脂インク中に安定して溶解するため長期の保存安定性が優れる。また、フッ素樹脂インクは、吐出安定性が優れる。
【0066】
塩ビ酢ビ共重合体は、塩化ビニル単位および酢酸ビニル単位のほかに、必要に応じて、その他の構成単位を備えていてもよい。一例を挙げると、その他の構成単位は、カルボン酸単位、ビニルアルコール単位、ヒドロキシアルキルアクリレート単位等が例示される。これらの中でも、その他の構成単位は、ビニルアルコール単位であることが好ましい。
【0067】
塩化ビニル樹脂の数平均分子量(Mn)は特に限定されない。一例を挙げると、塩化ビニル樹脂のMnは、10000以上であることが好ましく、12000以上であることがより好ましい。また、Mnは、50000以下であることが好ましく、42000以下であることがより好ましい。なお、Mnは、GPCによって測定することが可能であり、ポリスチレン換算とした相対値として求めることができる。
【0068】
シリコーン樹脂は特に限定されない。一例を挙げると、シリコーン樹脂は、メチル系ストレートシリコーンレジン(ポリジメチルシロキサン)、メチルフェニル系ストレートシリコーンレジン(メチル基の一部をフェニル基に置換したポリジメチルシロキサン)、アクリル樹脂変性シリコーンレジン、ポリエステル樹脂変性シリコーンレジン、エポキシ樹脂変性シリコーンレジン、アルキッド樹脂変性シリコーンレジンおよびゴム系のシリコーンレジン等が例示される。これらは併用されてもよい。これらの中でも、シリコーン樹脂は、メチル系ストレートシリコーンレジン、メチルフェニル系ストレートシリコーンレジン、アクリル樹脂変性シリコーンレジンが好ましい。
【0069】
シリコーン樹脂は、有機溶媒等に溶解されたものであってもよい。有機溶媒は、キシレン、トルエン等が例示される。
【0070】
シリコーン樹脂の数平均分子量(Mn)は特に限定されない。一例を挙げると、シリコーン樹脂のMnは、10000以上であることが好ましく、20000以上であることがより好ましい。また、Mnは、5000000以下であることが好ましく、3000000以下であることがより好ましい。なお、Mnは、GPCによって測定することが可能であり、ポリスチレン換算とした相対値として求めることができる。
【0071】
バインダー樹脂全体の説明に戻り、バインダー樹脂の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、バインダー樹脂は、固形分換算で、フッ素樹脂インク中、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。また、バインダー樹脂は、フッ素樹脂インク中、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることがさらに好ましい。バインダー樹脂の含有量が1質量%未満である場合、バインダーとしての所望の性能が得られにくく、基材への画像密着性などが低下する傾向がある。一方、バインダー樹脂の含有量が40質量%を超える場合、フッ素樹脂インクの粘度が高くなり、インクジェットプリント時における吐出安定性が低下する傾向がある。
【0072】
・溶媒
溶媒は、フッ素樹脂インクにおいて、バインダー樹脂を溶解または分散するための液体成分である。溶媒の種類は特に限定されない。一例を挙げると、溶媒は、水(イオン交換水、蒸留水等)、グリコールエーテル系溶剤、アセテート系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、炭化水素系溶剤、脂肪酸エステル系溶剤、芳香族系溶剤等である。これらは併用されてもよい。本実施形態の溶媒は、これらの中でも、グリコールエーテル系溶剤およびアセテート系溶剤のうち、少なくともいずれか一方を含むことが好ましい。グリコールエーテル系溶剤およびアセテート系溶剤は、いずれも低粘度であり、かつ、比較的沸点が高い。そのため、これらを溶媒として含むフッ素樹脂インクは、乾燥性がより改善されており、インクジェットプリント時における吐出安定性がより優れている。
【0073】
グリコールエーテル系溶剤は、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ(イソ)プロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル等が例示される。
【0074】
アセテート系溶剤は、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ−sec−ブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノ−sec−ブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノイソブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノ−tert−ブチルエーテルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、3−メチル−3−エトキシブチルアセテート、3−メチル−3−プロポキシブチルアセテート、3−メチル−3−イソプロポキシブチルアセテート、3−メチル−3−n−ブトキシエチルアセテート、3−メチル−3−イソブトキシシブチルアセテート、3−メチル−3−sec−ブトキシシブチルアセテート、3−メチル−3−tert−ブトキシシブチルアセテート等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート、トリプロピレングリコールジアセテート等が例示される。
【0075】
アルコール系溶剤は、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が例示される。
【0076】
ケトン系溶剤は、アセトン、ジアセトンアルコール等のケトンまたはケトアルコール類が例示される。
【0077】
本実施形態の溶媒は、沸点が150℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましい。また、溶媒は、沸点が300℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましい。沸点が上記範囲内である場合、フッ素樹脂インクは、乾燥性がより改善されており、インクジェットプリント時における吐出安定性がより優れている。また、フッ素樹脂インクによれば、滲みの少ない鮮明なインクジェット画像層が形成されやすい。溶媒の沸点が150℃未満である場合、フッ素樹脂インクがヘッドノズル付近で乾燥しやすくなり、吐出安定性が低下する傾向がある。一方、溶媒の沸点が300℃を超える場合、フッ素樹脂インクは乾燥しにくくなり、インクジェット画像層の形成時における乾燥工程に時間がかかりやすい。また、得られるインクジェット画像層は、画像が滲みやすい。
【0078】
溶媒の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、溶媒は、フッ素樹脂インク中、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。また、溶媒は、フッ素樹脂インク中、99質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。溶媒の含有量が50質量%未満である場合、フッ素樹脂インクの粘度が高くなり、インクジェットプリント時における吐出安定性が低下する傾向がある。一方、溶媒の含有量が99質量%を超える場合、フッ素樹脂インク中に添加できる第2のフッ素樹脂の割合が低くなり、所望の性能が得られにくい傾向がある。本実施形態において、溶媒の含有量は、上記した第2のフッ素樹脂の好適な含有量に応じて調整されてもよい。この場合、溶媒の含有量は、70質量%以上であることがさらに好ましい。また、溶媒の含有量は、98質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましい。溶媒の含有量がこのような範囲であることにより、フッ素樹脂インクは、第2のフッ素樹脂および溶媒を、いずれも好適な量を含むことができる。
【0079】
・硬化剤
硬化剤は、フッ素樹脂インクを硬化させるために配合され得る。硬化剤は特に限定されない。一例を挙げると、硬化剤は、カルボジイミド系硬化剤、アジリジン系硬化剤、金属キレート系硬化剤、イソシアネート系硬化剤、メラミン系硬化剤、エポキシ系硬化剤、オキサゾリン系硬化剤、尿素系硬化剤、ポリアミン系硬化剤、ポリエチレンイミン系硬化剤、アクリルアミド系硬化剤等である。硬化剤は、併用されてもよい。これらの中でも、硬化剤は、イソシアネート系硬化剤を含んでいることが好ましい。これにより、このようなフッ素樹脂インクを用いて得られるインクジェット画像層は、耐候性がより優れる。
【0080】
イソシアネート系硬化剤を構成するイソシアネート樹脂としては、イソシアネート基を1分子中に2個以上有する化合物であればよく、汎用型、難黄変型、無黄変型等のいずれも使用し得る。汎用型としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、TDIの3量化物であるイソシアヌレート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメリックジフェニルメタンジイソシアネート(ポリメリックMDI)が例示される。難黄変型としては、キシリレンジアミン(XDI)等が例示される。無黄変型としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添XDIおよび水添MDI等が例示される。これらの中でも、硬化剤は、無黄変型のブロックイソシアネートを含むことが好ましく、イソシアヌレート構造を有する無黄変型のブロックイソシアネートであることがより好ましい。このような硬化剤が配合されたフッ素樹脂インクは、より硬化性が優れる。また、このようなフッ素樹脂インクが用いられることにより、得られるインクジェット画像層は、耐候性がさらに優れる。そのため、インクジェット画像層の形成された積層シートは、さらに長期にわたり、所望の色彩を示しやすい。
【0081】
硬化剤としてイソシアネート系硬化剤が含まれる場合において、フッ素樹脂インクは、フッ素樹脂インク中に存在する、第2のフッ素樹脂のOHと、イソシアネート系硬化剤のNCOとの比率(NCO/OH比)が、0.01〜2.0であることが好ましく、0.1〜1.2であることがより好ましい。具体例を挙げると、たとえば、第2のフッ素樹脂がフルオロエチレンとビニルエーテルとの共重合体である場合、フッ素樹脂インクにおける、フルオロエチレンとビニルエーテルとの共重合体のOHと、イソシアネート系硬化剤のNCOとの比率(NCO/OH比)が、0.01〜2.0であることが好ましく、0.1〜1.2であることがより好ましい。比率(NCO/OH比)が上記範囲内であることにより、得られるインクジェット画像層は、適度な硬さを示し、かつ、基材との密着性が向上しやすい。なお、本実施形態において、NCO/OH比は、下記式より算出することができる。
(NCO/OH比)=(561/第2のフッ素樹脂の水酸基価)×(イソシアネート系硬化剤のNCO%/(42×100))×(100/第2のフッ素樹脂量[重量部])×イソシアネート系硬化剤量[重量部]
【0082】
硬化剤の含有量は特に限定されない。フッ素樹脂の添加量や水酸基価や酸価にもよって変動するため、一義的には決定されない。一例を挙げると、硬化剤の含有量は、フッ素樹脂インク中、0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。また、硬化剤の含有量は、フッ素樹脂インク中、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。硬化剤の含有量が0.1質量%未満である場合、第2のフッ素樹脂と充分に反応できず、所望の性能が得られない傾向がある。一方、硬化剤の含有量が20質量%を超える場合、第2のフッ素樹脂に対して過剰添加のおそれがあり、得られるインクジェット画像層の耐候性が逆に低下する傾向がある。
【0083】
・硬化触媒
硬化触媒としては、スズ、チタン、ジルコニウム、鉄、アンチモン、ビスマス、マンガン、亜鉛、アルミニウム等の金属の有機酸塩、アルコラートおよびキレート化合物;ヘキシルアミン、ドデシルアミンのようなアミン;酢酸ヘキシルアミン、リン酸ドデシルアミンのようなアミン塩;ベンジルトリメチルアンモニウムアセテートのような第4級アンモニウム塩;酢酸カリウムのようなアルカリ金属の塩等が例示される。より具体的には、オクチル酸ビスマス、ネオデカン酸ビスマスなどの有機ビスマス化合物、ジラウリル酸ジブチルスズ、ジオクチル酸ジブチルスズ、ジネオデカン酸ジメチルスズ、スタナスオクトエートなどの有機スズ化合物、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、ジイソプロポキシビス(アセチルアセトン)チタン、ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタンなどの有機チタン化合物等が例示される。これらは併用されてもよい。本実施形態では、硬化触媒は、スズ系の化合物であることが好ましく、ジラウリル酸ジブチルスズ、ジネオデカン酸ジメチルスズ等のジアルキルスズ系化合物であることがより好ましく、ジラウリル酸ジブチルスズであることがさらに好ましい。硬化触媒としてジラウリル酸ジブチルスズが含まれる場合、得られるフッ素樹脂インクは、硬化性が優れる。
【0084】
硬化触媒が配合される場合の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、硬化触媒の含有量は、フッ素樹脂インク中、0.001質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましい。また、硬化触媒の含有量は、フッ素樹脂インク中、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。硬化触媒の含有量が0.001質量%未満である場合、硬化触媒としての性能が充分に発揮されない傾向がある。一方、硬化触媒の含有量が5質量%を超える場合、フッ素樹脂インクの硬化性が高くなり、インクジェットプリント時における吐出安定性が低下する傾向がある。
【0085】
・耐候性向上剤
耐候性向上剤(たとえば紫外線吸収剤、光安定剤等)は、インクジェット画像層の耐候性を向上させるために好適に含有される。耐候性向上剤は特に限定されない。一例を挙げると、耐候性向上剤は、基材の説明において上記した耐候性向上剤を好適に使用し得る。
【0086】
・分散剤
分散剤は、色材を分散させるために好適に含有される。分散剤は特に限定されない。一例を挙げると、分散剤は、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、高分子分散剤等である。分散剤は併用されてもよい。
【0087】
アニオン系界面活性剤は、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、リグニンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩およびこれらの置換誘導体等が例示される。
【0088】
ノニオン系界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックポリマーおよびこれらの置換誘導体等が例示される。
【0089】
高分子分散剤は、酸価と塩基価を両方持ち、かつ、酸価が塩基価より大きいものが、より安定な分散特性が得られる観点から好ましい。一例を挙げると、高分子分散剤は、味の素ファインテクノ(株)製のPBシリーズ、川研ファインケミカル(株)製のヒノアクトシリーズ、日本ルーブリゾール(株)製のソルスパースシリーズ、楠本化成(株)製のDISPARLONシリーズ、BASFジャパン(株)製のEfka(登録商標)シリーズ等が例示される。
【0090】
分散剤の含有量は、分散すべき色材の種類および含有量によって適宜決定される。一例を挙げると、分散剤の含有量は、色材100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましい。また、分散剤の含有量は、色材100質量部に対して、150質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがより好ましい。分散剤の含有量が5質量部未満である場合、色材が分散されにくい傾向がある。一方、分散剤の含有量が150質量部を超える場合、原料コストが上がったり、色材の分散が阻害される傾向がある。
【0091】
フッ素樹脂インク全体の説明に戻り、フッ素樹脂インクの粘度は特に限定されない。フッ素樹脂インクの粘度は、30℃において、5mPa・s以上であることが好ましく、6mPa・s以上であることがより好ましい。また、フッ素樹脂インクの粘度は、30℃において、30mPa・s以下であることが好ましく、20mPa・s以下であることがより好ましい。粘度が上記範囲内である場合、フッ素樹脂インクは、吐出安定性が優れる。フッ素樹脂インクは、粘度が5mPa・s未満である場合、インクジェットプリント時における吐出安定性が低下する傾向がある。一方、粘度が30mPa・sを超える場合、ヘッドノズルからフッ素樹脂インクを上手く吐出させることができず、インクジェットプリント時における吐出安定性が低下する傾向がある。なお、本実施形態において、粘度は、B型粘度計(東機産業(株)製、型番:TVB−20LT)を用いて測定することができる。
【0092】
なお、粘度を上記範囲内に調整する方法は特に限定されない。一例を挙げると、粘度は、使用する第2のフッ素樹脂の添加量や使用する溶媒の種類や添加量で調整され得る。粘度は、必要に応じて増粘剤等の粘度調整剤を使用して調整されてもよい。
【0093】
フッ素樹脂インクの表面張力は特に限定されない。フッ素樹脂インクの表面張力は、25℃において、20dyne/cm以上であることが好ましく、22dyne/cm以上であることがより好ましい。また、フッ素樹脂インクの表面張力は、25℃において、40dyne/cm以下であることが好ましく、38dyne/cm以下であることがより好ましい。表面張力が上記範囲内である場合、フッ素樹脂インクは、吐出安定性が優れる。表面張力が20dyne/cm未満である場合、フッ素樹脂インクは、濡れ性が良くなり過ぎて、滲みやすくなる傾向がある。一方、表面張力が40dyne/cmを超える場合、基材の表面においてフッ素樹脂インクが弾かれやすく、得られるインクジェット画像層が不鮮明になる傾向がある。なお、本実施形態において、表面張力は、静的表面張力計(プレート法)(販売者:協和界面科学(株)製、型番:CBVP−A3)を用いて測定することができる。
【0094】
なお、表面張力を上記範囲内に調整する方法は特に限定されない。一例を挙げると、表面張力は、アクリル系表面調整剤、シリコーン系表面調整剤、フッ素系表面調整剤等を添加することにより調整され得る。
【0095】
インクジェット画像層の濡れ指数は特に限定されない。一例を挙げると、インクジェット画像層の濡れ指数は、20dyne/cm以上であることが好ましく、25dyne/cm以上であることがより好ましい。また、インクジェット画像層の濡れ指数は、50dyne/cm以下であることが好ましく、40dyne/cm以下であることがより好ましい。濡れ指数が上記範囲内であることにより、インクジェット画像層は、インクジェット画像層上にさらに他のインクや塗料等を付与した場合であっても、均一な塗膜を得られやすいという利点がある。なお、本実施形態において、濡れ指数は、JIS K 6768に記載の方法に準拠して測定し得る。
【0096】
インクジェット画像層は、さらにインクジェット画像層を覆うトップコートが設けられてもよい。トップコートは特に限定されない。一例を挙げると、トップコートは、ポリメタクリル酸メチル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン、シリコーン、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリフッ化ビニリデン、シリコーンハードコート、およびそれらの混合物またはコポリマー等である。本実施形態の積層シートは、インクジェット画像層が色材として有機顔料を含む場合において、このようなトップコートが設けられることが好ましい。これにより、積層シートは、さらなる耐候性の向上や印刷層の耐擦り傷性などを付与できる。
【0097】
以上、本実施形態の積層シートは、第1のフッ素樹脂を含む基材に対し、第2のフッ素樹脂を含むフッ素樹脂インクが付与されたインクジェット画像層が形成されている。このような積層シートは、フッ素樹脂を含む基材に対して、インクジェット方式によって画像を印刷して加飾されており、かつ、優れた画像密着性および耐候性を示す。
【0098】
<積層シートの製造方法>
本発明の一実施形態の積層シートの製造方法は、上記した基材上に、上記したフッ素樹脂インクをインクジェット方式により付与して、第2のフッ素樹脂を含むインクジェット画像層を形成する工程を主に含む。なお、基材にインクジェット画像層を形成する前に、基材上にベース層を形成してもよい。
【0099】
(ベース層形成工程)
ベース層形成工程は、基材上にベース層を形成する工程である。ベース層を構成するベース組成物を基材上に付与する方法は特に限定されない。ベース層は、ベース組成物を、スプレー、ロールコーター、手塗り、インクジェット方式等によって基材上に付与することにより形成され得る。
【0100】
ベース組成物は特に限定されない。一例を挙げると、ベース組成物は、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、アミノアルキド樹脂、フッ素樹脂等である。これらは併用されてもよい。これらの中でも、ベース層は、優れた耐候性が付与されるように、樹脂組成物としてフッ素樹脂を含むことが好ましい。
【0101】
(インクジェット工程)
インクジェット工程は、基材または基材に形成されたベース層に対し、インクジェット記録方式によりフッ素樹脂インクを付与する工程である。フッ素樹脂インクを付与する方式は特に限定されない。このような方式としては、荷電変調方式、マイクロドット方式、帯電噴射制御方式、インクミスト方式等の連続方式、ピエゾ方式、パルスジェット方式、バブルジェット(登録商標)方式、静電吸引方式等のオン・デマンド方式等が例示される。
【0102】
フッ素樹脂インクが付与された基材は、次いで、乾燥される。乾燥条件は特に限定されない。一例を挙げると、乾燥は、50〜250℃で1〜60分間の熱処理を行われ得る。このような乾燥により、フッ素樹脂インク中の溶媒が取り除かれ得る。乾燥は、インクジェット画像層の滲みを防止するために、フッ素樹脂インクが基材に付与されたのと同時もしくは直後に行われることが好ましい。
【0103】
以上、本実施形態の積層シートの製造方法によれば、第1のフッ素樹脂を含む基材に、第2のフッ素樹脂を含むフッ素インクによってインクジェット画像層が形成される。得られる積層シートは、フッ素樹脂を含む基材に対して、インクジェット方式によって画像を印刷して加飾されており、かつ、優れた画像密着性および耐候性を示す。
【0104】
積層シートの用途は特に限定されない。積層シートは、優れた画像密着性および耐候性を示すため、特に屋外において使用される用途に好適である。具体例には、積層シートは、農業資材、テント膜、建築構造膜、広告シート等として好適である。また、積層シートは、例えば各種基材のラミネートシートとして使用することもできる。
【実施例】
【0105】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。
【0106】
使用した原料を以下に示す。
(基材)
・第1のフッ素樹脂
PMMA/PVDF:ポリ(メタ)アクリル酸メチルおよびポリフッ化ビニリデンからなる複層基材、デンカ(株)製、DX−14S、厚み100μm
ETFE:エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体の単層基材、AGC(株)製、アフレックス100N1250NT、厚み100μm
PTFE:ポリテトラフルオロエチレンの単層基材、淀川フューテック(株)製、ヨドフロン4600、厚み100μm
(インクジェット画像層を構成するフッ素樹脂インク)
・第2のフッ素樹脂
LF−200F:三フッ化エチレン/ビニルモノマー交互共重合体、旭硝子(株)製、水酸基価:50mgKOH/g、酸価:0mgKOH/g、Mw:20000
・溶媒
DEDG:ジエチレングリコールジエチルエーテル、グリコールエーテル系溶剤、沸点:189℃、SP値:8.6、日本乳化剤(株)製
・硬化剤
SBN−70D:ブロックイソシアネート、NCO%:10.1、旭化成ケミカルズ(株)製
・顔料
青色顔料:ダイピロキサイドブルーシャープ9410、大日精化工業(株)製
・分散剤
solsperse36000、日本ルーブリゾール(株)製
【0107】
上記原料を使用し、以下の表1(単位:質量%)に記載の処方にしたがって、フッ素樹脂インク1〜2を調製した。
【0108】
【表1】
【0109】
(実施例1)
以下の表2に示される処方にしたがって、下記方法により、基材にインクジェット画像層を形成し、積層シートを作製した。
【0110】
(インクジェット画像層の形成)
以下のインクジェット条件にしたがい、基材上にインクジェット画像層を形成した。
<インクジェット条件>
インクジェット記録装置:ピエゾ方式
ノズル径:40μm
駆動電圧:70V
インクドットサイズ:30pl
周波数:12kHz
解像度:400×800dpi
基材温度:60℃(加温)
評価柄:100mm各のベタ柄
<乾燥条件>
加熱乾燥(80℃環境下、12時間)
【0111】
【表2】
【0112】
(実施例2〜9、比較例1〜2)
基材の種類、基材に対する処理、インクジェット画像層を形成するためのフッ素樹脂インクの種類を表2に示される処方に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、積層シートを作製した。なお、基材に対するそれぞれの処理は、以下のとおりである。
【0113】
・Naエッチング処理
ナトリウムナフタレン錯体溶液(フロロボンダーE、(株)テクノス製、)に基材を浸漬させた。なお、処理時間は、PTFEが10秒、ETFEは60秒とした。処理後、エタノールで充分に洗浄したのち、温水で洗浄し、乾燥させた。
【0114】
・コロナ処理
コロナ処理装置(TEC-4AX、春日電機(株)製)を用いて、放電電極長0.3m、放電電圧は100W、電極と基材間距離を1mmとし、処理速度を、1時間あたり3m、15mまたは30mとし、基材の印刷面の処理を行った。
【0115】
・プラズマ処理
プラズマ処理(リモート型大気圧プラズマ処理装置、エアウォーター(株)製)を用いて、ノズルと基材との距離を1mmとし、処理速度を1時間あたり15mとし、基材の印刷面の処理を行った。また使用ガスは空気とした。
【0116】
実施例1〜9および比較例1〜2により得られた積層シートについて、以下の評価方法および評価基準に基づいて評価した。結果を表2に示す。
【0117】
<水接触角>
携帯式接触角計PG−X+(Fibro System AB社製)を使用し、水を滴下した際の接触角を測定した。
<O/C比>
光電子分光装置(XPS(ESCA)、JPS−9010JEOL 日本電子(株)製)を使用し、X線光電子分光法により、ナロースペクトルより算出した。X線源は、AlKαを使用した。また、CはC1sのナロースペクトルより、OはO1sのナロースペクトルより、表面組成率を算出した。
<インク濡れ>
インクジェット画像層を形成する際に、ベタ柄を上記インクジェット条件にて印刷し、フッ素樹脂インクが弾かれないかどうかを確認した。
(評価基準)
○:フッ素樹脂インクは、弾かれなかった。
×:フッ素樹脂インクは、弾かれた。
<テープ剥離>
インクジェット画像層を形成する際に、ベタ柄を上記インクジェット条件にて印刷し、80℃で12時間乾燥した後、テープにて印刷面を剥離確認し、はがれの有無を確認した。
(評価基準)
○:インクジェット画像層は、剥がれなかった。
×:インクジェット画像層は、剥がれた。
<耐候性>
スーパーUVテスター(岩崎電気(株)製、SUV−W161)を用いて、超促進耐候試験として紫外線照射6時間(UV条件100mW/cm
2、温度63℃、湿度50%)実施後、次いでシャワー30秒の後、なりゆきで結露2時間実施を1サイクルとし、合計600時間実施した後の色差を測定した。
(色差測定方法)
プリント物の超促進耐候試験前に対する試験後のΔEを色差とした。色差は分光測色計(コニカミノルタ(株)製、CM−3700)を用いて、測定した。
(評価基準)
○:色差がΔE≦3であった。
△:色差が3<ΔE≦5であった。
×:色差がΔE>5であった。
【0118】
表2に示されるように、実施例1〜9の積層シートは、いずれもインクジェット画像層を形成する際にフッ素樹脂インクが弾かれず、耐候性が優れ、かつ、得られたインクジェット画像層は優れた密着性を示した。一方、比較例1〜2の積層シートは、インクジェット画像層を形成する際にフッ素樹脂インクが弾いてしまい、インクジェット画像を形成することができなかった。そのため、比較例1〜2の積層シートは、耐候性を評価することができなかった。また、比較例1〜2の積層シートは、得られたインクジェット画像層の密着性が劣り、剥がれやすかった。
【解決手段】基材と、基材上に形成されたインクジェット画像層とを備え、基材は、単層または複層であり、第1のフッ素樹脂を含み、インクジェット画像層は、第1のフッ素樹脂と同じかまたは異なる第2のフッ素樹脂を含むフッ素樹脂インクが付与された層であり、基材のうちインクジェット画像層が形成される印刷面の水接触角は、50〜75°である、積層シート。