特許第6623346号(P6623346)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6623346
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】紫外線治療装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/06 20060101AFI20191216BHJP
【FI】
   A61N5/06 B
   A61N5/06 Z
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-184238(P2015-184238)
(22)【出願日】2015年9月17日
(65)【公開番号】特開2017-56035(P2017-56035A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2018年4月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】秋山 真志
(72)【発明者】
【氏名】河野 通浩
(72)【発明者】
【氏名】小川 靖
(72)【発明者】
【氏名】浅野 英樹
(72)【発明者】
【氏名】三科 卓
(72)【発明者】
【氏名】松沢 聡
【審査官】 細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−190058(JP,A)
【文献】 特開2014−147498(JP,A)
【文献】 特開昭58−203769(JP,A)
【文献】 特開2013−165856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射対象を囲うように設けられるフレーム構造を含み、前記フレーム構造内の複数の位置から前記照射対象に向けて紫外線を照射でき、前記複数の位置から紫外線の照射方向と同じ方向に可視光を照射できるよう構成される照射装置と、
前記照射装置の動作が定められる照射パターンを保持し、照射パターンにしたがって前記複数の位置の少なくとも一部から紫外線を照射させることにより前記照射対象の一部領域に選択的に紫外線を照射させる制御装置と、を備え、
前記制御装置は、照射パターンにしたがって紫外線を照射させる前に、照射パターンにしたがって前記複数の位置の少なくとも一部から可視光を照射させることにより前記一部領域に選択的に可視光を照射させることを特徴とする紫外線治療装置。
【請求項2】
前記照射対象の位置に配置可能な紫外線照度計をさらに備え、
前記制御装置は、前記紫外線照度計の測定結果に基づいて前記照射対象に向けて照射する紫外線の照射時間を決定することを特徴とする請求項に記載の紫外線治療装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記紫外線照度計の測定結果に基づいて前記照射対象に向けて前記複数の位置のそれぞれから照射する紫外線強度を決定することを特徴とする請求項に記載の紫外線治療装置。
【請求項4】
前記照射装置は、前記フレーム構造内の前記複数の位置に取り付けられる複数の紫外線発光素子と、前記複数の紫外線発光素子に隣接する位置に取り付けられる複数の可視光発光素子と、を含み、
前記複数の可視光発光素子のそれぞれは、隣接する紫外線発光素子の照射方向と同じ方向に可視光を照射するよう構成されることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の紫外線治療装置。
【請求項5】
前記照射装置は、紫外線発光素子および可視光発光素子を有する照射部と、前記照射部を前記フレーム構造に沿って移動させる移動機構と、を含むことを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の紫外線治療装置。
【請求項6】
前記照射部は、前記紫外線発光素子が発する紫外線および前記可視光発光素子が発する可視光を前記照射対象に向かうビーム光に変換する光学素子をさらに有することを特徴とする請求項に記載の紫外線治療装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記照射パターンにしたがって前記移動機構を用いて前記照射部を移動させながら紫外線を照射させることにより前記照射対象の一部領域に選択的に紫外線を照射させ、前記照射パターンにしたがって紫外線を照射させる前に、前記照射パターンにしたがって前記照射部を移動させながら可視光を照射させることにより前記一部領域に選択的に可視光を照射させることを特徴とする請求項またはに記載の紫外線治療装置。
【請求項8】
前記フレーム構造に取り付けられ、前記照射対象を撮影する撮像装置をさらに備え、
前記制御装置は、前記撮像装置からの画像データに基づいて前記照射パターンを決定することを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の紫外線治療装置。
【請求項9】
前記フレーム構造は、球形状、多面体形状、円柱形状または多角柱形状を有することを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の紫外線治療装置。
【請求項10】
前記照射装置は、前記フレーム構造に取り付けられ、紫外線を吸収して可視光を透過する材料で構成されるカバーをさらに含むことを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の紫外線治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線治療に用いる装置に関し、特に、紫外線を照射するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の皮膚疾患に対する治療方法として紫外線治療が用いられる。例えば、尋常性乾癬や掌蹠膿疱症、アトピー性皮膚炎などの炎症疾患から、尋常性白斑などの色素性疾患、円形脱毛症、皮膚悪性リンパ腫といった悪性腫瘍まで幅広い種類の皮膚疾患に対して、患部に長波長紫外線(UVA波)や中波長紫外線(UVB波)などを所定のエネルギー量で照射することで治療がなされる。紫外線治療に用いる主な機器として、UVA波照射装置、UVB波照射装置、ナローバンドUVB(NB−UVB)照射装置などがあり、それぞれ蛍光ランプを光源として使用している。近年では、治療効果が高い紫外線として308nmの紫外線が注目されており、308nmの波長が出力可能な光源としてキセノンクロライド(XeCl)のエキシマ放電ランプ(いわゆるエキシマライト)が用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−73148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の蛍光ランプ及びエキシマ放電ランプは、点光源または線光源のように機能するため、一つの光源を用いて広い範囲に均一な強度で紫外線を照射することが難しい。また、照射部位は、顔面や四肢などをはじめとして身体上の立体的な曲面であることが普通であり、目的とする皮膚病変の各部位に対して均一な光線の照射を行う事は困難であった。したがって、現状の治療装置では、治療者に応じて、また、治療回ごとに光線の照射量にばらつきが生じる、光線の過剰照射による光線皮膚炎をきたす、部位によっては光線の照射量が不足して十分な治療効果が得られないといった状況が発生しうる。紫外線治療では、安定的な治療効果を確保し、治療上の安全性を保証するためにも各個人や各患部に対して適切となる一定のエネルギー量(至適量ともいう)で紫外線を照射できることが好ましく、顔面のような立体的な表面であっても均一に紫外線を照射できる装置が望まれる。また治療者が異なっても所定の至適量で安定して均一に照射できる装置が求められる。
【0005】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的のひとつは、立体的な表面に至適量の紫外線を照射できる紫外線治療装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の紫外線治療装置は、照射対象を囲うように設けられるフレーム構造を含み、フレーム構造内の複数の位置から照射対象に向けて紫外線を照射でき、複数の位置から紫外線の照射方向と同じ方向に可視光を照射できるよう構成される照射装置を備える。
【0007】
この態様によると、照射対象を囲むフレーム構造の複数の位置から紫外線を照射することができるため、照射対象が立体的な表面を有する場合であっても照射対象となる表面に至適量で紫外線を照射することができる。また、複数の位置から紫外線と同じ方向に可視光を照射できるため、紫外線が照射される位置を可視光を用いて可視化できる。これにより、紫外線が適切な位置に照射されるか否かを可視光を用いて確かめることができ、紫外線治療の有効性や安全性を簡単に確認できる。
【0008】
照射対象に向けて可視光を照射させた後に、照射対象に向けて紫外線を照射させるよう照射装置を動作させる制御装置をさらに備えてもよい。
【0009】
照射対象の位置に配置可能な紫外線照度計をさらに備えてもよい。制御装置は、紫外線照度計の測定結果に基づいて照射対象に向けて照射する紫外線の照射時間を決定してもよい。
【0010】
制御装置は、紫外線照度計の測定結果に基づいて照射対象に向けて複数の位置のそれぞれから照射する紫外線強度を決定してもよい。
【0011】
照射装置は、フレーム構造内の複数の位置に取り付けられる複数の紫外線発光素子と、複数の紫外線発光素子に隣接する位置に取り付けられる複数の可視光発光素子と、を含んでもよい。複数の可視光発光素子のそれぞれは、隣接する紫外線発光素子の照射方向と同じ方向に可視光を照射するよう構成されてもよい。
【0012】
照射装置は、紫外線発光素子および可視光発光素子を有する照射部と、照射部をフレーム構造に沿って移動させる移動機構と、を含んでもよい。
【0013】
照射部は、紫外線発光素子が発する紫外線および可視光発光素子が発する可視光を照射対象に向かうビーム光に変換する光学素子をさらに有してもよい。
【0014】
照射装置の動作過程が定められる照射パターンを保持し、照射パターンにしたがって移動機構を用いて照射部を移動させながら紫外線を照射させることにより照射対象の一部領域に選択的に紫外線を照射させる制御装置を備えてもよい。制御装置は、照射パターンにしたがって紫外線を照射させる前に、照射パターンにしたがって照射部を移動させながら可視光を照射させることにより一部領域に選択的に可視光を照射してもよい。
【0015】
フレーム構造に取り付けられ、照射対象を撮影する撮像装置をさらに備えてもよい。制御装置は、撮像装置からの画像データに基づいて照射パターンを決定してもよい。
【0016】
フレーム構造は、球形状、多面体形状、円柱形状または多角柱形状を有してもよい。
【0017】
照射装置は、フレーム構造に取り付けられ、紫外線を吸収して可視光を透過する材料で構成されるカバーをさらに含んでもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、立体的な表面に対して至適量の紫外線照射が可能な紫外線治療装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1の実施の形態に係る紫外線治療装置の構成を模式的に示す図である。
図2】照射装置の構成を模式的に示す断面図である。
図3】照射部の構成を模式的に示す図である。
図4】フレーム構造の構成を模式的に示す上面図である。
図5】紫外線の照度を計測する様子を模式的に示す図である。
図6】紫外線治療装置を用いた治療の流れを示すフローチャートである。
図7】変形例に係る紫外線治療装置の構成を模式的に示す図である。
図8】第2の実施の形態に係る紫外線治療装置の構成を模式的に示す図である。
図9】照射部の構成を模式的に示す図である。
図10】紫外線治療装置を用いた治療の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0021】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態に係る紫外線治療装置100の構成を模式的に示す図である。図2は、照射装置10の構成を模試的に示す断面図である。紫外線治療装置100は、球状のフレーム構造20の内側に取り付けられた複数の照射部30から紫外線を照射することにより、フレーム構造20の内部に入る患者90に紫外線治療を施す装置である。紫外線治療装置100は、立体的な表面形状を有する顔面の皮膚に対して均一に紫外線を照射するための装置である。
【0022】
紫外線治療装置100は、照射装置10と、制御装置50と、紫外線照度計52と、操作端末54と、を備える。照射装置10は、フレーム構造20と、カバー26と、複数の照射部30と、を含む。
【0023】
フレーム構造20は、球形状のフレーム体であり、照射対象となる患者90を囲うように設けられる。フレーム構造20は、複数の第1フレーム21および第2フレーム22で構成される。第1フレーム21は、球体の経線に沿って円弧状に延びる部材である。第2フレーム22は、球体の緯線に沿って円環状に延びる部材である。第1フレーム21および第2フレーム22は、互いが直交して接続されるように組み立てられる。第1フレーム21および第2フレーム22は、鉄やアルミニウムなどを含む金属部材で構成されてもよいし、樹脂部材で構成されてもよい。
【0024】
カバー26は、フレーム構造20の全体を覆うようにフレーム構造20に取り付けられる。カバー26は、治療に用いる波長の紫外線を吸収する一方で、可視光を透過する材料で構成される。例えば、波長308nmの紫外線を吸収し、可視光を透過する材料として、ソーダガラスなどの一般的なガラスや、ポリエチレンテレフタラート(PET)やポリカーボネート(PC)などの樹脂を用いればよい。カバー26は、フレーム構造20の全体にわたって一体的に成形されてもよいし、フレーム間の開口に対応する大きさを有するブロックに分割されていてもよい。
【0025】
複数の照射部30は、フレーム構造20の内側の複数の位置に取り付けられ、例えば、第1フレーム21や第2フレーム22に取り付けられる。なお照射部30は、第1フレーム21や第2フレーム22の間の位置に取り付けられてもよい。複数の照射部30は、例えば、フレーム構造20の中心O(図2参照)に紫外線および可視光が向かうように取り付けられる。これにより、複数の照射部30は、照射対象となる患者90の顔面に向けて紫外線および可視光を照射する。なお、複数の照射部30は、紫外線と可視光とがそれぞれ同じ方向に照射されるように構成される。
【0026】
図3は、照射部30の構成を模式的に示す図である。照射部30は、基板32と、紫外線発光素子33と、可視光発光素子34とを有する。紫外線発光素子33および可視光発光素子34は、基板32の上に隣接して実装される。紫外線発光素子33および可視光発光素子34は、紫外線発光素子33が発する紫外線35と、可視光発光素子34が発する可視光線36とが同じ方向に向かうように配置される。
【0027】
紫外線発光素子33は、紫外線治療に用いる波長の紫外線を発するLED(Light Emitting Diode)やLD(Laser Diode)などの半導体素子である。紫外線発光素子33として、例えば、中心波長またはピーク波長が308nmのLEDが用いられる。このような紫外線発光素子33として、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系のLEDが知られている。なお、紫外線発光素子33は、紫外線治療に用いられる320nm〜400nmの長波長紫外線(UVA波)や、290nm〜320nmの中波長紫外線(UVB波)の紫外線を出力するLEDであってもよい。
【0028】
可視光発光素子34は、可視光を発するLEDやLDなどである。可視光発光素子34は、照射対象となる患者90に可視光を照射することにより、紫外線が照射されて治療が施される箇所を可視化する。可視光発光素子34は、視認しやすい色の可視光を発することが望ましく、例えば、赤色、緑色または白色の光を出力する。なお、白斑治療の際に白斑部分を明確に視認できるようにする目的で、ブラックライトと同等の波長であるUVA波を照射してもよい。この場合、可視光発光素子34は、UVA波の波長範囲の紫外線を出力してもよい。基板32は、銅(Cu)やアルミニウム(Al)等の放熱性の高い金属で構成される。
【0029】
図4は、フレーム構造20の構成を模式的に示す上面図である。フレーム構造20は、第1モジュール20a、第2モジュール20b、第3モジュール20cの三つのモジュールに分割されている。第1モジュール20aは、フレーム構造20を球体の経線に沿って半分に切断した半球形状を有する。第2モジュール20bおよび第3モジュール20cは、第1モジュール20aをさらに経線に沿って半分に切断したような形状を有する。
【0030】
第2モジュール20bは、第1回動部23を介して第1モジュール20aに回動可能に取り付けられる。第3モジュール20cは、第2回動部24を介して第2モジュール20bに回動可能に取り付けられる。第2モジュール20bおよび第3モジュール20cを開くことで、フレーム構造20の内部に患者90を出入りさせることができる。第2モジュール20bおよび第3モジュール20cを閉じることで、フレーム構造20が球形状となって内部に入る患者90を取り囲むことができる。
【0031】
図5は、紫外線の照度を計測する様子を模式的に示す図であり、フレーム構造20の内部に紫外線照度計52を配置した状態を示す。紫外線照度計52は、例えば、紫外線を検出するセンサ部52aがフレーム構造20の中心Oの付近に位置するようにして用いられる。センサ部52aの位置は、フレーム構造20の内部における患者90の患部位置と一致させて紫外線照度を計測することが望ましい。患部位置で照度を計測することにより、患部に照射される紫外線照度を正確に知ることができる。
【0032】
紫外線照度計52が計測する紫外線照度(例えば、W/cm)の値は、制御装置50に送信される。紫外線照度計52は、紫外線照度を計測した後にフレーム構造20の内部から取り出される。紫外線治療の実施前に紫外線の照度を計測することで、患者90に照射する紫外線の照射量が至適量となるよう適切に制御することができる。
【0033】
紫外線照度計52は、フレーム構造20の内部でセンサ部52aの位置を自動的に変化させることのできる計測位置調整機構(不図示)を有してもよい。紫外線照度計52は、制御装置50からの指示に基づいてセンサ部52aが患部位置に対応する位置に配置されるように計測位置調整機構を動作させてもよい。このような調整機構を設けることで、制御装置50からの指令に基づいて適切な位置で紫外線照度を計測することができる。
【0034】
図1に戻り、制御装置50は、照射装置10、紫外線照度計52および操作端末54と接続される。制御装置50は、照射装置10に含まれる複数の照射部30の動作を制御する。制御装置50は、複数の照射部30に紫外線のみを照射させる治療モードと、複数の照射部30に可視光のみを照射させる確認モードとを提供する。制御装置50は、照射装置10を治療モードで動作させる前に確認モードで動作させることにより、照射対象となる患者90の皮膚にどのように紫外線が照射されるかを可視化して事前に確認できるようにする。
【0035】
制御装置50は、操作端末54を通じて紫外線の照射条件の指定を受け付ける。制御装置50は、照射条件として紫外線の照射量(例えば、J/cm)の指定を受け付ける。制御装置50は、紫外線照度計52を用いて計測した紫外線照度の値から指定された照射量を実現する照射時間を算出する。制御装置50は、上述の治療モードにおいて照射部30の紫外線発光素子33を点灯させ、算出した照射時間の経過後に紫外線発光素子33を消灯させる。制御装置50は、操作端末54の表示部に照射条件や算出した照射時間を表示させてもよい。
【0036】
制御装置50は、操作端末54を通じて紫外線の照射範囲の指定を受け付ける。制御装置50は、指定された照射範囲に基づいて複数の照射部30の一部の照射部30を点灯させ、他の照射部を消灯させる。これにより指定された照射範囲に紫外線が照射されるようにし、他の範囲に紫外線が照射されないようにする。制御装置50は、紫外線照度計52の計測に基づいて点灯させる照射部30の照射強度を決定してもよい。点灯させる照射部30から出力される紫外線強度を個別に調整することにより、照射範囲内で均一な強度の紫外線が照射されるようにする。
【0037】
つづいて、紫外線治療装置100の使用方法について説明する。図6は、紫外線治療装置100を用いた治療の流れを示すフローチャートである。紫外線の照射量および照射範囲を設定し(S10)、照射装置10の内部に紫外線照度計52を配置して紫外線照度を計測し(S12)、紫外線の照射時間および照射強度を決定する(S14)。次に、照射装置10の内部から紫外線照度計52を取り出して患者90を内部に入れる(S16)。確認モードでの動作のために可視光がオンにされ(S18)、照射位置が確認される。照射位置に問題があれば(S20のN)、患者90の位置や照射範囲が調整される(S22)。照射位置が適正であれば(S20のY)、治療モードでの動作のために可視光がオフにされて紫外線がオンにされる(S24)。算出した照射時間の経過まで紫外線が照射され(S26のN)、照射時間が経過すると(S26のY)、紫外線がオフにされる(S28)。
【0038】
本実施の形態によれば、球形状のフレーム構造20内の複数の位置から患者90に向けて紫外線を照射できるため、顔面のような立体的な形状の皮膚に対して均一に紫外線を照射することができる。特に、点光源もしくは線光源を一つだけ用いる場合と比べて、立体的な形状の表面の全体にわたって均一に至適量の紫外線を照射することができる。これにより、部分的に紫外線が強く照射されたり、紫外線の照射量が部分的に足りなくなったりするのを防いで効果的な紫外線治療を実現できる。
【0039】
本実施の形態によれば、患者90に可視光を照射して照射位置を事前に確認できるため、意図した位置に紫外線が照射されなかったり、意図しない位置に紫外線が照射されたりするのを防ぐことができる。また、照射位置の確認として可視光を用いるため、医師が確認する際の視認性を高めることができ、確認のために紫外線を照射しなくて済む。これにより、より安全性の高い紫外線治療を実現できる。
【0040】
本実施の形態によれば、フレーム構造20が紫外線を吸収し可視光を透過するカバー26で覆われるため、紫外線の照射中に照射装置10の外に紫外線が漏れてしまうのを防ぐことができる。また、カバー26が可視光を透過するため、フレーム構造20の内部を明るい状態にすることができる。これにより、照射装置10の内部が暗闇となって患者90に不安感を与えてしまうのを抑制できる。また、紫外線の照射中の患者90の様子を外から確認しやすくできる。
【0041】
図7は、変形例に係る紫外線治療装置100の構成を模式的に示す図である。本変形例は、照射装置10のフレーム構造20が球形状ではなく円筒形状を有する点で上述の実施の形態と相違する。本変形例に係るフレーム構造20は、軸方向(または鉛直方向)に直線状に延びる複数の第1フレーム21と、周方向に円環状に延びる複数の第2フレーム22とを有する。本変形例においても、複数の照射部30がフレーム構造20内の異なる位置に設けられるため、患者90に向けて均一に紫外線を照射することができる。
【0042】
なお、さらなる変形例では、フレーム構造20が球形状または円筒形状とは異なる形状を有してもよい。例えば、フレーム構造20は、サッカーボールのような多面体形状を有してもよいし、直方体や六角柱といった角柱形状を有してもよい。
【0043】
(第2の実施の形態)
図8は、第2の実施の形態に係る紫外線治療装置200の構成を模式的に示す図である。紫外線治療装置200は、球形状のフレーム構造120を有する点で上述の実施の形態と共通する。一方、紫外線治療装置200は、照射部130が移動機構140に取り付けられており、照射部130がA方向およびB方向に移動可能となるように構成されている点で上述の実施の形態と相違する。以下、上述の実施の形態および変形例との相違点を中心に説明する。
【0044】
紫外線治療装置200は、照射装置110と、制御装置150と、紫外線照度計152と、操作端末154と、撮像装置156と、を備える。照射装置110は、フレーム構造120と、カバー126と、照射部130と、移動機構140と、を含む。フレーム構造120およびカバー126は、上述の実施の形態に係るフレーム構造20およびカバー26と同様に構成されている。
【0045】
移動機構140は、アーム142と、旋回部144とを有する。アーム142は、第1フレーム121と同様に経線に沿って円弧状に延びる部材である。アーム142は、フレーム構造120の内側に設けられる。アーム142は、フレーム構造120の頂部に設けられる旋回部144に取り付けられ、フレーム構造120に沿って第2フレーム122が延びる方向(A方向)に旋回可能となるように構成される。旋回部144は、制御装置150からの制御信号に基づいてアーム142のA方向の位置を変化させる。
【0046】
アーム142は、照射部130がアーム142に沿って第1フレーム121が延びる方向(B方向)に移動可能となるようにして照射部130を支持する。アーム142は、図示しない駆動部を有し、駆動部を動作させることによって照射部130のB方向の位置を変化させる。アーム142は、制御装置150からの制御信号に基づいて照射部130が移動させる。
【0047】
図9は、照射部130の構成を模式的に示す図である。照射部130は、本体132と、紫外線発光素子133と、可視光発光素子134と、第1光学素子137と、第2光学素子138とを有する。
【0048】
紫外線発光素子133および可視光発光素子134は、上述の実施の形態に係る紫外線発光素子33および可視光発光素子34と同様に構成される。紫外線発光素子133および可視光発光素子134は、互いに隣接して本体132に取り付けられる。本体132は、アーム142に沿ってB方向に移動可能となるようにアーム142に取り付けられる。
【0049】
第1光学素子137は、紫外線発光素子133が発する紫外線135を均一な強度分布を有するビーム光に変換する。第2光学素子138は、可視光発光素子134が発する可視光線136を均一な強度分布を有するビーム光に変換する。第1光学素子137および第2光学素子138は、例えば、一以上の非球面レンズにより構成される。第1光学素子137および第2光学素子138は、紫外線135および可視光線136のビーム光が同じ方向に向かうように構成され、A方向およびB方向の双方に直交する方向にビーム光が向かうように構成される。
【0050】
図8に戻り、制御装置150は、照射部130および移動機構140の動作を制御する。制御装置150は、照射部130がフレーム構造120の内側に沿ってA方向およびB方向に移動するように移動機構140を動作させる。制御装置150は、照射部130を移動させながら照射部130から紫外線または可視光線のビーム光を出力させることにより、ビーム光が患者90の顔面上をスキャンして照射するようにする。
【0051】
制御装置150は、照射部130および移動機構140の動作過程が定められる照射パターンを保持する。照射パターンには、移動機構140を用いて移動させる照射部130の位置を示す情報や、照射部130のそれぞれの位置における紫外線照射のオンオフを示す情報、照射部130のそれぞれの位置における紫外線の照射時間を示す情報などが含まれる。照射パターンとして、例えば、患者90の顔面の一部領域に選択的に紫外線を照射するよう照射部130および移動機構140を動作させるパターンが設定される。これらの情報は、制御装置150の外部に設けられる情報記録媒体に出力されてもよい。
【0052】
制御装置150は、撮像装置156が撮影する画像データに基づいて紫外線を照射すべき領域を特定する。撮像装置156は、例えば、患者90の頭部正面に位置するようにフレーム構造120の内部に取り付けられている。撮像装置156は、フレーム構造120に入った患者90の顔面を撮影し、取得した画像データを制御装置150に送信する。制御装置150は、画像データを解析して紫外線を照射すべき患部の位置を特定する。制御装置150は、紫外線を照射すべき患部の位置を特定するために、電子カルテ等に記録される患部の位置を示す外部情報を参照してもよい。
【0053】
なお、撮像装置156は、フレーム構造120の内部に複数設置されてもよい。撮像装置156が複数設けられる場合、制御装置150は、それぞれの撮像装置156が取得した画像データを利用して患者90の三次元モデルデータを構築してもよい。制御装置150は、構築した三次元モデルデータに基づいて紫外線を照射すべき患部の位置を三次元的に特定してもよい。
【0054】
制御装置150は、特定した患部の位置に基づいて、その位置に選択的に紫外線を照射するための照射パターンを生成する。制御装置150は、操作端末154を通じて紫外線の照射量の設定を受け付けし、設定された照射量となる照射時間を算出する。制御装置150は、紫外線照度計152を用いて計測された紫外線照度の値を用いて照射時間を算出する。制御装置150は、算出した照射時間を照射パターンに反映させる。
【0055】
制御装置150は、紫外線を照射する前に、生成した照射パターンにしたがって可視光を照射させる。制御装置150は、生成した照射パターンにしたがって照射部130を移動させながら照射部130から可視光を出力させる。これにより、可視光が照射される位置を通じて、生成された照射パターンが適正であるかを紫外線照射前に確認できるようにする。照射位置が適正であれば、制御装置150は、照射パターンにしたがって紫外線を照射させる。
【0056】
制御装置150は、操作端末154やパソコンなどの外部装置を通じて照射パターンの修正を受け付ける。制御装置150は、例えば、撮像装置156が取得した画像データに照射パターンに対応した照射領域を重畳させた画像を表示することで、患部と照射領域との位置関係を表示させる。制御装置150は、例えば、画像データに重畳して表示される照射領域の範囲や位置をマウス操作等で調整できるようにすることで、照射パターンの修正を受け付ける。制御装置150は、このようにして、照射パターンの設定または修正を支援してもよい。なお、操作端末154やパソコンなどの外部装置を通じて、新たな照射パターンが作成されてもよい。
【0057】
つづいて、紫外線治療装置200の使用方法について説明する。図10は、紫外線治療装置200を用いた治療の流れを示すフローチャートである。紫外線の照射量を設定し(S40)、照射装置110の内部に紫外線照度計152を配置して紫外線照度を計測する(S42)。次に、照射装置110の内部から紫外線照度計152を取り出して患者90を内部に入れる(S46)。患者90の患部および患部周辺の画像を撮影し(S46)、患部の位置を特定して照射パターンを決定する(S48)。決定した照射パターンにしたがって可視光がスキャン照射され(S50)、照射位置が確認される。照射位置に問題があれば(S52のN)、照射パターンが修正され(S54)、修正された照射パターンにしたがって再度可視光がスキャン照射される(S50)。照射位置が適正であれば(S52のY)、決定した照射パターンにしたがって紫外光がスキャン照射される(S56)。
【0058】
本実施の形態によれば、紫外線発光素子133が発する紫外線を均一な強度分布を有するビーム光に変換してスキャン照射できるため、照射対象となる患部に均一な強度で紫外線を照射できる。また、照射部130を球形状のフレーム構造120の内側に沿って移動させることができるため、顔面のような立体的な形状に対して照射方向を変えながら均一な強度で紫外線を照射することができる。
【0059】
本実施の形態によれば、一つの照射部130を移動させて紫外線をスキャンして照射するため、第1の実施の形態に係る紫外線治療装置100と比べて、照射装置110に用いる紫外線発光素子133の数量を減らすことができる。これにより、紫外線治療装置100の製造にかかるコストを低減することができる。
【0060】
本実施の形態によれば、照射部130を移動させることにより紫外線を患者90の皮膚の一部領域に選択的に照射できる。言いかえれば、紫外線を照射する必要のない患部周辺に紫外線が当たらないようにできる。したがって、本実施の形態によれば、患部以外への紫外線照射を防ぐための紫外線を吸収する特殊な保護クリームを塗布する必要がなくなる。これにより、治療前に保護クリームを塗って治療後に除去する手間を省くことができ、医師および患者の負担を軽減することができる。
【0061】
本実施の形態によれば、撮像装置156が撮影する画像に基づいて照射パターンが生成されるため、患者に合わせて照射パターンを一つずつ設定する作業を簡易化できる。また、照射パターンの修正が必要な場合でも、患部と照射位置とが重畳された画像を見ながら調整できるため修正がしやすい。したがって、本実施の形態によれば、照射パターンの設定にかかる医師の手間を低減させることができる。また、生成された照射パターンに基づいて紫外線治療を実施できるので、治療者が異なる場合であっても、同じ条件で紫外線を照射することができる。これにより、治療者の相違に起因して不均一な紫外線治療がなされるのを防ぐことができる。
【0062】
本実施の形態によれば、また、生成される照射パターンにしたがって可視光をスキャン照射できるため、生成された照射パターンに問題が無いかを事前に確認できる。これにより、紫外線を照射すべき位置に紫外線が当たらなかったり、紫外線を照射すべきでない位置に紫外線が当たってしまったりする誤照射の発生を防ぐことができる。従来の直線状、リング状、平板状に構成される光源を用いる治療装置の場合では、患部が有する立体的表面の部位に応じて照射量の多寡が生じてしまい、過剰な照射量に起因して光線皮膚炎が発生したり、照射量の不足に起因して治療効果が不十分となったりすることがあった。一方、本実施の形態によれば、所定の照射範囲に対して均一な強度で紫外線を照射することが可能となる。したがって、本実施の形態によれば、紫外線治療の安全性を高めるとともに、効果的な紫外線治療を実現できる。
【0063】
なお、本実施の形態において、フレーム構造120の形状は球形状でなくてもよい。フレーム構造120は、図7に示した変形例のように円筒形状であってもよいし、サッカーボールのような多面体形状を有してもよいし、直方体や六角柱といった角柱形状を有してもよい。
【0064】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0065】
上述の実施の形態では、フレーム構造20の第2モジュール20bおよび第3モジュール20cを手動で開けて、患者90が主体的にフレーム構造20の内部に入っていくことで照射準備がなされる構成について示した。変形例においては、照射装置10の位置を自動的に移動させることのできる移動機構をさらに設けてもよい。この移動機構は、患者90の位置を変えずに照射装置10の位置を移動させることで患者90の周りに照射装置10を配置し、照射準備がなされるように構成される。
【0066】
上述の実施の形態では、紫外線照度計52を手動でフレーム構造20の内部に配置し、手動で取り外して用いる構成を示した。変形例においては、紫外線照度計52の使用時にセンサ部52aを計測位置まで自動的に移動させ、治療時に計測位置から外れるようセンサ部52aを自動的に移動させるための機構をさらに設けてもよい。この機構は、制御装置50からの指令に基づいてセンサ部52aの位置を変化させてもよい。
【0067】
上述の実施の形態では、図6のS12の処理や図10のS42の処理に示されるように、紫外線照度を紫外線照射の実施前に毎回計測する場合について示した。変形例においては、紫外線照度を毎回計測するのではなく、照度の計測を省略して紫外線照射を実施してもよい。例えば、所定期間にわたって照射装置が繰り返し使用される場合には、その所定期間内において1回だけ紫外線照度を計測することとし、その計測結果に基づいてそれ以降の紫外線照射を実施してもよい。この所定期間とは、例えば、1日、1週間、1ヶ月、3ヶ月、半年、1年といった特定の期間である。この場合、照射装置は、紫外線照度の再測定をすべき予め設定された次のタイミングを治療者に通知する機能を有してもよい。
【符号の説明】
【0068】
10…照射装置、20…フレーム構造、26…カバー、30…照射部、33…紫外線発光素子、34…可視光発光素子、50…制御装置、52…紫外線照度計、100…紫外線治療装置、110…照射装置、120…フレーム構造、126…カバー、130…照射部、133…紫外線発光素子、134…可視光発光素子、140…移動機構、150…制御装置、152…紫外線照度計、156…撮像装置、200…紫外線治療装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10