(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フラーレン溶液を熱処理する工程において、加熱状態にある前記フラーレン溶液における前記フラーレンの濃度を一定時間毎に測定することにより作成した、前記フラーレン溶液における前記フラーレンの濃度と前記フラーレン溶液の加熱時間の関係を示す検量線に基づいて、前記フラーレン溶液の加熱温度と加熱時間を決定する請求項1〜3のいずれか1項に記載の潤滑油組成物の製造方法。
さらに、前記不溶成分を除去する工程後または前記フラーレン溶液を熱処理する工程後に、前記不溶成分を除去する工程で得られたフラーレン溶液または前記フラーレン溶液を熱処理する工程で得られた潤滑油組成物を前記基油で希釈する工程を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の潤滑油組成物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を適用した潤滑油組成物及びその製造方法の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0011】
[潤滑油組成物]
本実施形態の潤滑油組成物は、基油と、フラーレンと、を含み、後述する本実施形態の潤滑油組成物の製造方法において、基油とフラーレンの混合物を熱処理してなる。
【0012】
(基油)
本実施形態の潤滑油組成物に含まれる基油は、特に限定されるものではなく、通常、潤滑油の基油として広く使用されている鉱物油及び合成油が好適に用いられる。
【0013】
潤滑油として用いられる鉱油は、一般的に、内部に含まれる二重結合を水素添加により飽和して、飽和炭化水素に変換したものである。このような鉱油としては、パラフィン系基油、ナフテン系基油等が挙げられる。
【0014】
合成油としては、合成炭化水素油、エーテル油、エステル油等が挙げられる。具体的には、ポリα−オレフィン、ジエステル、ポリアルキレングリコール、ポリアルファオレフィン、ポリアルキルビニールエーテル、ポリブテン、イソパラフィン、オレフィンコポリマー、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジイソデシルアジペート、モノエステル、二塩基酸エステル、三塩基酸エステル、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ジアルキルジフェニルエーテル、アルキルジフェニルサルファイド、ポリフェニルエーテル、シリコーン潤滑油(ジメチルシリコーン等)、パーフルオロポリエーテル等が好適に用いられる。これらの中でも、ポリα−オレフィン、ジエステル、ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、ポリアルキルビニールエーテルがより好適に用いられる。
【0015】
これらの鉱油や合成油は、1種を単独で用いてもよく、これらの中から選ばれる2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0016】
(フラーレン)
本実施形態の潤滑油組成物に含まれるフラーレンは、構造や製造法が特に限定されず、種々のものを用いることができる。フラーレンとしては、例えば、比較的入手しやすいC
60やC
70、さらに高次のフラーレン、あるいはそれらの混合物が挙げられる。フラーレンの中でも、潤滑油への溶解性の高さの点から、C
60及びC
70が好ましく、潤滑油への着色が少ない点から、C
60がより好ましい。混合物の場合は、C
60が50質量%以上含まれることが好ましい。
【0017】
本実施形態の潤滑油組成物は、その製造過程において、基油と、フラーレンと、を含むフラーレン溶液における熱処理後のフラーレンの濃度が、熱処理前のフラーレンの濃度よりも低くなる。
【0018】
(添加剤)
本実施形態の潤滑油組成物は、基油とフラーレン以外にも、本実施形態の効果を損なわない範囲で、添加剤を含有することができる。
本実施形態の潤滑油組成物に配合する添加剤は、特に限定されない。添加剤としては、例えば、市販の酸化防止剤、粘度指数向上剤、極圧添加剤、清浄分散剤、流動点降下剤、腐食防止剤、固体潤滑剤、油性向上剤、錆び止め添加剤、抗乳化剤、消泡剤、加水分解抑制剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
添加剤としては、芳香族環を有するものがより好ましい。
芳香族環を有する酸化防止剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(DBPC)、3−アリールベンゾフランー2−オン(ヒドロキシカルボン酸の分子内環状エステル)、フェニル−α−ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミン、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
芳香族環を有する粘度指数向上剤としては、例えば、ポリアルキルスチレン、スチレン-ジエンコポリマーの水素化物添加剤等が挙げられる。
芳香族環を有する極圧添加剤としては、ジベンジルジサルファイド、アリルリン酸エステル、アリル亜リン酸エステル、アリルリン酸エステルのアミン塩、アリルチオリン酸エステル、アリルチオリン酸エステルのアミン塩、ナフテン酸等が挙げられる。
芳香族環を有する清浄分散剤としては、ベンジルアミンコハク酸誘導体、アルキルフェノールアミン類等が挙げられる。
芳香族環を有する流動点降下剤としては、塩素化パラフィン―ナフタレン縮合物、塩素化パラフィンーフェノール縮合物、ポリアルキルスチレン系等が挙げられる。
芳香族環を有する抗乳化剤には、アルキルベンゼンスルホン酸塩等が挙げられる。
芳香族環を有する腐食防止剤としては、ジアルキルナフタレンスルホン酸塩等が挙げられる。
【0020】
本実施形態の潤滑油組成物は、後述する潤滑油組成物の製造方法により製造される潤滑油組成物である。
【0021】
本実施形態の潤滑油組成物によれば、基油と、フラーレンと、を含み、熱処理されてなるため、摩擦抵抗低減の効果が期待できるとともに、耐摩耗性を向上することができる。
【0022】
本実施形態の潤滑油組成物は、工業用ギヤ油;油圧作動油;圧縮機油;冷凍機油;切削油;圧延油、プレス油、鍛造油、絞り加工油、引き抜き油、打ち抜き油等の塑性加工油;熱処理油、放電加工油等の金属加工油;すべり案内面油;軸受け油;錆止め油;熱媒体油等の各種用途に使用することができる。
【0023】
(製造方法)
本実施形態の潤滑油組成物の製造方法は、上述の本実施形態の潤滑油組成物の製造方法であって、基油とフラーレンとを混合し、フラーレンの溶解成分を基油中に溶解し、基油とフラーレンの混合物を得る工程(以下、「第一工程」という。)と、混合物に含まれる不溶成分を除去し、フラーレン溶液を得る工程(以下、「第二工程」という。)と、フラーレン溶液を熱処理する工程(以下、「第三工程」という。)と、を含む。さらに、本実施形態の潤滑油組成物の製造方法は、第二工程後または第三工程後に、所望のフラーレンの濃度の潤滑油組成物を得るために、第二工程で得られたフラーレン溶液または第三工程得られた潤滑油組成物を基油で希釈する工程(以下、「第四工程」という。)を含んでもよい。
以下、本実施形態の潤滑油組成物の製造方法を詳細に説明する。
【0024】
(第一工程)
原料のフラーレンを基油に投入して攪拌機等の分散手段を用いて、室温付近または必要に応じて加温しながら3時間〜48時間の分散処理を施す。
原料のフラーレンの仕込み量は、例えば、最終的に調製したい潤滑油組成物のフラーレン濃度を考慮して、計算上、基油に対して所望のフラーレンの濃度が得られるフラーレン量の1.2倍〜5倍、より好ましくは1.2倍〜3倍とする。1.2倍より低いと、抽出可能な溶解成分の量が少なくて、所望のフラーレンの濃度を満たすことができない可能性がある。5倍より高いと、不溶成分を除去する第二工程において、フィルタリング途中で濾過速度の低下が生じ、実施時間が長くなる。さらに、フラーレンの原料コストが上がる。
【0025】
基油にフラーレンを分散させるための分散手段としては、例えば、撹拌機、超音波分散装置、ホモジナイザー、ボールミル、ビーズミル等が挙げられる。
【0026】
(第二工程)
第一工程で得られた混合物には、不溶成分として、原料のフラーレン由来の不純物であるフラーレンの凝集物、未溶解のフラーレン、基油の不純物、製造過程で混入した粒子等が含まれる。そのため、その混合物をそのまま用いると、潤滑油組成物と接触している摺動部等が摩耗する等の不具合が生じることがある。そこで、第一工程の後に、不溶成分を除去する第二工程を設け、不溶成分が除去されたフラーレン溶液(以下、単に「フラーレン溶液」と言うことがある。)を得る。
【0027】
前記フラーレン溶液は、フラーレンの濃度が1質量ppm(0.0001質量%)以上10000質量ppm(1.0質量%)であることが好ましく、1質量ppm(0.0001質量%)以上100質量ppm(0.01質量%)であることがより好ましく、5質量ppm(0.0005質量%)以上50質量ppm(0.005質量%)であることがさらに好ましい。
フラーレンの濃度が上記範囲であれば、フラーレンの添加による、耐摩耗性向上の効果を長期間維持することができる。また、フラーレンの劣化等による、フラーレンの濃度の低下を補うことができる。
【0028】
第二工程としては、例えば、(1)メンブランフィルターを用いた除去工程、(2)遠心分離器を用いた除去工程、(3)メンブランフィルターと遠心分離器を組み合わせて用いる除去工程等が挙げられる。これらの除去工程の中でも、濾過時間の点から、少量の潤滑油組成物を得る場合は(1)メンブランフィルターを用いた除去工程が好ましく、大量の潤滑油組成物を得る場合は(2)遠心分離器を用いた除去工程が好ましい。
【0029】
(1)メンブランフィルターを用いた除去工程では、例えば、第一工程で得られた基油とフラーレンの混合物を、目の小さいメッシュのフィルター(例えば、0.1μm〜1μmメッシュのメンブランフィルター)を用いて濾過し、フラーレン溶液として回収する。
濾過時間の短縮を図るには、例えば、吸引濾過をすることが好ましい。
【0030】
(2)遠心分離器を用いた除去工程では、例えば、第一工程で得られた基油とフラーレンの混合物に対して遠心分離処理を施し、上澄みをフラーレン溶液として回収する。
【0031】
(第三工程)
第二工程で得たフラーレン溶液を熱処理し、潤滑油組成物を得る。なお、第三工程の前に、第二工程で得たフラーレン溶液を基油で希釈する第四工程を行った後、第三工程にて希釈後のフラーレン溶液を熱処理し、潤滑油組成物を得てもよい。
【0032】
第二工程で得られたフラーレン溶液は、第一工程および第二工程で大気に曝されるため、内部の酸素濃度が大気中の酸素と平衡状態になっている。そのため、第三工程は、混合物中の酸素濃度を、大気中に放置した状態よりも低下させる操作を含むことが好ましい。
具体的には、混合物中の酸素濃度を、10質量ppm以下とすることが好ましく、5質量ppm以下とすることがより好ましく、1質量ppm以下とすることがさらに好ましい。
その後、酸素濃度を低下させたフラーレン溶液を、再び大気に触れさせることなく、熱処理する。
【0033】
第三工程では、熱処理の前に、前述の通り酸素濃度を低下させることが好ましい。酸素濃度を低下させるより好ましい方法としては、例えば、下記の4つの方法が挙げられる。
【0034】
第一の方法を説明する。
気密可能なステンレス等の金属製容器内に、第二工程で得たフラーレン溶液を収容した後、容器を密閉する。
次いで、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスで容器内を置換するか、あるいは、さらに容器内のフラーレン溶液を不活性ガスでバブリングすることにより、フラーレン溶液を不活性ガスと平衡状態にする。
次いで、フラーレン溶液と不活性ガスの平衡状態を保ったまま容器を加熱することにより、フラーレン溶液を熱処理する。
第一の方法では、フラーレン溶液と不活性ガスの平衡状態を保ったまま容器を加熱することにより、フラーレン溶液の熱処理を、低酸素雰囲気下で行う。
【0035】
第二の方法を説明する。
気密可能なステンレス等の金属製容器内に、第二工程で得たフラーレン溶液を収容した後、容器を密閉する。
次いで、容器を減圧して、フラーレン溶液中の酸素濃度を低下させる。
次いで、フラーレン溶液中の酸素濃度を低下させた状態を保ったまま容器を加熱することにより、フラーレン溶液を熱処理する。
第二の方法では、フラーレン溶液中の酸素濃度を低下させた状態を保ったまま容器を加熱することにより、フラーレン溶液の熱処理を、低酸素雰囲気下で行う。
【0036】
第三の方法を説明する。
気密可能なステンレス等の金属製容器内に、第二工程で得たフラーレン溶液を収容した後、容器を密閉する。
次いで、容器を減圧して、フラーレン溶液中の酸素濃度を低下させる。
次いで、窒素ガス等の不活性ガスで容器内を置換するか、あるいは、さらに容器内のフラーレン溶液を不活性ガスでバブリングすることにより、フラーレン溶液を不活性ガスと平衡状態にする。
次いで、フラーレン溶液と不活性ガスの平衡状態を保ったまま容器を加熱することにより、フラーレン溶液を熱処理する。
第三の方法では、フラーレン溶液と不活性ガスの平衡状態を保ったまま容器を加熱することにより、フラーレン溶液の熱処理を、低酸素雰囲気下で行う。
【0037】
第四の方法を説明する。
圧縮・冷却コンプレッサー等の圧縮装置や駆動装置を含む気密性のある容器内に、第二工程で得たフラーレン溶液を収容した後、容器を密閉する。
次いで、容器内に、フロンガス(F134A、F22等)、炭化水素ガス(イソブタン)、アンモニア等を充填する。
次いで、容器を加熱することにより、フラーレン溶液を熱処理する。
第四の方法では、容器内にフロンガス、炭化水素ガス、アンモニア、不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガス等)等を充填させた状態を保ったまま容器を加熱したりすることにより、フラーレン溶液の熱処理を、低酸素雰囲気下で行う。
【0038】
フラーレン溶液の加熱温度が高い程、加熱時間が短くなる。しかしながら、加熱温度が高過ぎると、基油の成分が蒸発したり、基油が劣化・変質したりする。
そこで、フラーレン溶液の加熱温度の上限は、基油が蒸発してフラーレン溶液の重量が減少しすぎない温度の上限となる。ただし、この温度を超えても、蒸発成分を冷却管等で回収し、基油に戻す操作を行う場合、あるいは、圧力容器内で圧力をかけて蒸発を抑えた状態で熱処理する場合には、フラーレン溶液の加熱温度を基油が蒸発する温度よりも高くすることができる。
混合物の加熱温度は、100℃以上250℃以下であることが好ましく、100℃以上150℃以下であることがより好ましく、120℃以上150℃以下であることがさらに好ましい。
【0039】
フラーレン溶液の加熱温度が低い程、加熱時間が長くなる。
加熱温度が100℃以上であれば、潤滑油組成物の潤滑効果の向上が見られる。工業的に潤滑油組成物を製造する場合には、フラーレン溶液の加熱温度は、100℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることがさらに好ましい。
加熱温度が高くなる程、フラーレン溶液の熱処理が早く進むため、加熱時間が短くなる。
【0040】
フラーレン溶液中の酸素濃度が高い程、フラーレン溶液の熱処理において、基油の熱劣化が進行するため、潤滑油組成物の潤滑効果が向上し難い。フラーレン溶液中の酸素濃度が高いと、フラーレン溶液の熱処理において、基油が酸化により劣化する。これにより、基油が着色したり、基油の粘度が上昇あるいは低下したり、揮発成分が増えて揮発性が増して潤滑油としての潤滑性が低下したりすることがある。
【0041】
なお、フラーレン溶液が10分以上大気に触れると、フラーレン溶液中の酸素濃度が、大気との平衡状態の濃度に近くなる。このようなフラーレン溶液を熱処理すると、基油の酸化に起因する劣化が生じるため、潤滑油組成物の耐摩耗性が低下する。すなわち、フラーレン溶液中の酸素濃度が低い程、基油の熱劣化が抑制され、潤滑油組成物の耐摩耗性が向上する。フラーレン溶液中の酸素の濃度は、大気と平衡状態にあるフラーレン溶液中の酸素濃度よりも低いことが好ましく、大気中の酸素濃度の10分の1以下であることがより好ましい。具体的には、フラーレン溶液中の酸素濃度を、10質量ppm以下とすることが好ましく、5質量ppm以下とすることがより好ましく、1質量ppm以下とすることがさらに好ましい。
【0042】
フラーレン溶液中の酸素濃度は、溶存酸素計を用いて測定することができる。なお、酸素濃度が低い場合には、工業的には、酸素濃度を正確に測定することが難しいため、製造条件を調整することにより、フラーレン溶液中の酸素濃度を所定の範囲とする。
【0043】
第三工程では、熱処理後に得られる潤滑油組成物におけるフラーレンの濃度は、熱処理前のフラーレン溶液におけるフラーレンの濃度よりも低くなる。
このように濃度が低下するのは、フラーレンが何らかの反応をしてフラーレン以外の反応生成物が生じていると考えられる。前記反応生成物が生じるため、得られる潤滑油組成物の耐摩耗性を向上すると推定される。
【0044】
熱処理前のフラーレン溶液および熱処理直後の潤滑油組成物におけるフラーレンの濃度は、実施例に記載の高速液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatography、HPLC)を用いた手法により測定することができる。
【0045】
フラーレン溶液の熱処理によるフラーレンの消失量は、熱処理前後のフラーレンの濃度の差、すなわち、熱処理前後のフラーレンの濃度差=[熱処理前のフラーレン濃度]−[熱処理後のフラーレン濃度]から算出することができる。
【0046】
前記濃度差は、1質量ppm以上であることが好ましく、5質量ppm以上であることがより好ましく、10質量ppm以上であることがさらに好ましい。つまり、フラーレンの含有量が10質量ppm以下のフラーレン溶液では、熱処理によりフラーレンが検出されなくなる場合がある。また、フラーレンの含有量が10質量ppmを超える場合でも、熱処理を継続することにより、フラーレンの消失量が10質量ppmを超えるため、フラーレンが検出できなくなる場合がある。
フラーレンの消失量が1ppm以上であれば、潤滑油組成物の耐摩耗性を向上することができる。
【0047】
フラーレンの消失量が500質量ppmを超えた場合、あるいは、それ以下であっても、既に消失するフラーレンが残存しない状態に達した後も熱処理を継続することができる。しかしながら、熱処理時間の割りに、得られる潤滑油組成物の耐摩耗性がさらに向上し難くなる。そのため、フラーレンの消失量は、500質量ppm以下であることが好ましく、100質量ppm以下であることがより好ましく、50質量ppm以下であることがさらに好ましい。
【0048】
フラーレン溶液の熱処理条件を決定するためには、後述する実施例1における装置を用いて、一定時間毎に、加熱状態にあるフラーレン溶液を採取し、その溶液に含まれるフラーレンの濃度を定量して、フラーレン溶液におけるフラーレンの濃度と混合物の加熱時間の関係を示すグラフ(検量線)を作成する。このグラフから、フラーレン溶液の加熱温度と加熱時間を決定することができる。
【0049】
(第四工程)
さらに、第二工程後または第三工程後に、第二工程または第三工程で得られたフラーレン溶液または潤滑油組成物のフラーレンの濃度を測定し、所望のフラーレンの濃度の潤滑油組成物を得るために、第二工程または第三工程で得られた混合物を、基油で希釈する第四工程を含むこともできる。
第四工程で用いられる基油としては、第一工程で用いた基油と同種類の基油または異種類の基油が挙げられる。
【0050】
第四工程でのフラーレンの濃度測定は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた手法により測定することができる。
【0051】
本実施形態の潤滑油組成物の製造方法によれば、耐摩耗性を向上することができる潤滑油組成物が得られる。
【0052】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
[実施例1]
(潤滑油組成物の調製)
基油として鉱油(製品名:ダイアナフレシアU−46、出光興産株式会社製)50gと、フラーレン原料(フロンティアカーボン(株)製nanom(登録商標) mix ST C
60:60質量%、C
70:25質量%、残部が他高次フラーレンの混合物である。)0.003g(30mg)と、を混合し、室温でスターラーを用いて36時間撹拌した。
次に、0.1μmメッシュのメンブランフィルターを通すことで濾過して、フラーレン溶液を得た。得られたフラーレン溶液について、HPLC法でフラーレンの濃度を測定したところ、412質量ppmであることを確認した。
次に、フラーレン溶液を基油と同じ鉱油で希釈することでフラーレンの濃度が10質量ppmのフラーレン溶液Xを得た。
次に、フラーレン溶液Xを、250mLの四ツ口ナスフラスコに移し、1つ目の口にリービッヒ冷却管、2つ目の口にシリコン製セプタムキャップ、3つ目の口に窒素導入管、4つ目の口に酸素濃度計(製品名:B−506、飯島電子工業株式会社製)の検出部を、それぞれ取り付けた。
ここで、潤滑油フラーレン溶液Xに溶存する酸素濃度を次の手順で測定した。
まず、あらかじめ、n−ドデカン(和光純薬工業株式会社製)100mLを250mLビーカーに取り出し、ここに10分間空気でバブリングした。
次に、溶存酸素計を用いてこの溶液の酸素濃度を基準(飽和度100%)に設定した。
次に、上記四つ口ナスフラスコ内のフラーレン溶液Xについて、飽和酸素濃度を測定した。その結果、飽和酸素濃度は70%であった。
次に、ドデカンの空気中での飽和酸素濃度を73質量ppmとし、この数値と先の70%とから、フラーレン溶液Xの溶存酸素濃度を51質量ppmと算出した。
次に、窒素導入管を通じて、フラスコ内部に毎分1Lの流量で窒素を注入し、その状態で10分間放置した。これにより、フラスコ内部を窒素雰囲気とした。
次に、溶存酸素計の飽和酸素濃度を測定した。その結果、飽和酸素濃度は3%(溶存酸素濃度は2.2質量ppm)であった。
次に、この状態でナスフラスコを150℃のオイルバスに浸漬させて、フラーレン溶液Xを加熱した。
その後、表1に記載の時間毎に、セプタムキャップにガラス製シリンジで針を突き刺し、約10mLの潤滑油組成Xを回収した。
なお、上記フラーレンの濃度の測定は、高速液体クロマトグラフ(アジレント・テクノロジー株式会社製 1200シリーズ)を用い、株式会社ワイエムシィ製カラム YMC−Pack ODS−AM(150mm×4.6)、展開溶媒:トルエンとメタノールの1:1(体積比)混合物とし、吸光度(波長309nm)で検出することにより、潤滑油組成物等の試料中のフラーレンの量を定量した。また、検量線は、上記のフラーレン原料により作成した。
本実施例1では、フラーレン溶液X中のフラーレンの濃度が10質量ppmであった。
【0055】
(耐摩耗性の評価)
得られた潤滑油組成物について、摩擦摩耗試験機(製品名:ボールオンディスクトライボメーター、Anton Paar社製)を用いて、耐摩耗性を評価した。
基板およびボールの材質を高炭素クロム軸受鋼鋼材SUJ2とした。ボールの直径を6mmとした。
基板の一主面に潤滑油組成物を塗布した。
次に、潤滑油組成物を介して、基板の一主面上にて、ボールが同心円状の軌道を描くように、ボールを摺動させた。基板の一主面上におけるボールの速度を50cm/秒、ボールによる基板の一主面に対する荷重を25Nとした。基板の一主面上におけるボールの摺動距離が積算1500mの時のボール面の擦り面(円形)を光学顕微鏡で観察し、擦り面の直径を測定した。結果を表1に示す。
【0056】
[実施例2]
フラーレン溶液X中のフラーレンの濃度を52質量ppmとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の潤滑油組成物を調製した。
実施例1と同様にして、実施例2の潤滑油組成物の耐摩耗性を評価した。結果を表1に示す。
【0057】
[実施例3]
フラーレン溶液X中のフラーレンの濃度を107質量ppmとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の潤滑油組成物を調製した。
実施例1と同様にして、実施例3の潤滑油組成物の耐摩耗性を評価した。結果を表1に示す。
【0058】
[比較例1]
フラーレン溶液Xの代わりに実施例1で使用した基油のみを用いた(フラーレンの濃度0質量ppm)こと以外は実施例1と同様にして、比較例1の潤滑油組成物を調製した。
潤滑油組成物の溶存酸素濃度は、実施例1と同様の方法で測定した結果、43質量ppmであった。
実施例1と同様にして、比較例1の潤滑油組成物の耐摩耗性を評価した。結果を表1に示す。
【0059】
[実施例4]
フラスコ内部を窒素雰囲気とせずに、大気雰囲気としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4の潤滑油組成物を調製した。
実施例1と同様にして、実施例4の潤滑油組成物の耐摩耗性を評価した。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1の結果から、フラーレンを含まない比較例1では、熱処理前から基板が大きく削れることが分かった。
これに対して、フラーレンを含む実施例1〜実施例4では、熱処理前でも基板が削れることを抑制できることが分かった。
また、比較例1と、実施例1〜実施例4とを比較すると、実施例1〜実施例4では、熱処理によりフラーレンの濃度が低下することにより、耐摩耗性が向上していると考えられる。
また、実施例1、実施例2および実施例4では、熱処理時間が6時間の場合、フラーレンの濃度がゼロとなり、擦り面の直径が250mmであり、熱処理前(熱処理時間0時間)の場合よりも基板が削れていた。これは、熱処理時間が長いため、基油の熱劣化が影響したことが考えられる。しかしながら、熱処理していない比較例1よりは擦り面の直径が小さい。
【0062】
[実施例5]
ナスフラスコを100℃のオイルバスに浸漬させて、フラーレン溶液Xを加熱したこと以外は実施例1と同様にして、実施例5の潤滑油組成物を調製した。
本実施例5では、フラーレン溶液X中のフラーレンの濃度が9.6質量ppmであった。
実施例1と同様にして、本実施例5の潤滑油組成物の耐摩耗性を評価した。結果を表2に示す。
【0063】
[実施例6]
フラーレン溶液X中のフラーレンの濃度を52質量ppmとしたこと以外は実施例5と同様にして、実施例6の潤滑油組成物を調製した。
実施例1と同様にして、実施例6の潤滑油組成物の耐摩耗性を評価した。結果を表2に示す。
【0064】
[実施例7]
フラーレン溶液X中のフラーレンの濃度を107質量ppmとしたこと以外は実施例5と同様にして、実施例7の潤滑油組成物を調製した。
実施例1と同様にして、実施例7の潤滑油組成物の耐摩耗性を評価した。結果を表2に示す。
【0065】
[実施例8]
フラスコ内部を窒素雰囲気とせずに、大気雰囲気としたこと以外は実施例5と同様にして、実施例8の潤滑油組成物を調製した。
実施例1と同様にして、実施例8の潤滑油組成物の耐摩耗性を評価した。結果を表2に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
表2の結果から、フラーレンを含む実施例5〜実施例8では、熱処理によりフラーレンの濃度が低下することにより、耐摩耗性が向上していると考えられる。
実施例6と実施例2とを比較すると、実施例6では熱処理時間が12時間の擦り面より、実施例2では熱処理時間が3時間の擦り面が優れている。つまり、温度を高くすることにより、熱処理時間を短くすることができる。
【0068】
[実施例9]
ナスフラスコを120℃のオイルバスに浸漬させて、フラーレン溶液Xを加熱したこと以外は実施例1と同様にして、実施例9の潤滑油組成物を調製した。
本実施例9では、フラーレン溶液X中のフラーレンの濃度が10質量ppmであった。
実施例1と同様にして、本実施例9の潤滑油組成物の耐摩耗性を評価した。結果を表3に示す。
【0069】
[実施例10]
フラーレン溶液X中のフラーレンの濃度を52質量ppmとしたこと以外は実施例9と同様にして、実施例10の潤滑油組成物を調製した。
実施例1と同様にして、実施例10の潤滑油組成物の耐摩耗性を評価した。結果を表3に示す。
【0070】
[実施例11]
フラーレン溶液X中のフラーレンの濃度を107質量ppmとしたこと以外は実施例9と同様にして、実施例11の潤滑油組成物を調製した。
実施例1と同様にして、実施例11の潤滑油組成物の耐摩耗性を評価した。結果を表3に示す。
【0071】
[実施例12]
フラスコ内部を窒素雰囲気とせずに、大気雰囲気としたこと以外は実施例9と同様にして、実施例12の潤滑油組成を調製した。
実施例1と同様にして、実施例12の潤滑油組成物の耐摩耗性を評価した。結果を表3に示す。
【0072】
【表3】
【0073】
表3の結果から、フラーレンを含む実施例9〜実施例12では、熱処理によりフラーレンの濃度が低下することにより、耐摩耗性が向上していると考えられる。
実施例10と実施例2とを比較すると、実施例10では熱処理時間が4時間の擦り面が、実施例2の熱処理時間が3時間で同等の擦り面を示している。つまり、温度を高くすることにより、熱処理時間を短くすることができる。
【0074】
[実施例13]
基油としてポリ−α−オレフィン(PAO)(製品名:SpectraSyn(登録商標)、EXXONMOBIL社製)を用い、ナスフラスコを250℃のオイルバスに浸漬させて、フラーレン溶液Xを加熱したこと以外は実施例1と同様にして、実施例13の潤滑油組成物を調製した。
本実施例13では、フラーレン溶液X中のフラーレンの濃度が100質量ppmであった。
実施例1と同様にして、本実施例13の潤滑油組成物の耐摩耗性を評価した。結果を表4に示す。
【0075】
[比較例2]
フラーレン溶液Xの代わりに、実施例13で使用した基油(フラーレンの濃度0質量ppm)のみを用いたこと以外は実施例13と同様にして、比較例2の潤滑油組成物を調製した。
実施例1と同様にして、比較例2の潤滑油組成物の耐摩耗性を評価した。結果を表4に示す。
【0076】
[実施例14]
基油としてポリオールエステル(POE)(製品名:ユニスター(登録商標)HR32、日油株式会社製)を用い、ナスフラスコを150℃のオイルバスに浸漬させて、フラーレン溶液Xを加熱したこと以外は実施例1と同様にして、実施例14の潤滑油組成物を調製した。
本実施例14では、フラーレン溶液X中のフラーレンの濃度が100質量ppmであった。また、溶存酸素濃度は9質量ppmであった。
実施例1と同様にして、本実施例14の潤滑油組成物の耐摩耗性を評価した。結果を表4に示す。
【0077】
[比較例3]
フラーレン溶液Xの代わりに実施例14で使用した基油(フラーレンの濃度0質量ppm)のみを用いたこと以外は実施例14と同様にして、比較例3の潤滑油組成物を調製した。
実施例1と同様にして、比較例3の潤滑油組成物の耐摩耗性を評価した。結果を表4に示す。
【0078】
【表4】
【0079】
表4の結果から、フラーレンを含まない比較例2および比較例3では、基板が大きく削れることが分かった。
これに対して、フラーレンを含む実施例13および実施例14では、熱処理前でも基板が削れることをある程度抑制できているが、さらに、熱処理により耐摩耗性が向上している。
【0080】
[実施例15]
(潤滑油組成物の調製)
基油として鉱油(製品名:タービンオイル32、JXTGエネルギー製株式会社製)100gと、フラーレン原料(フロンティアカーボン(株)製nanom(登録商標) Purple C60:99質量%、残部が他高次フラーレンの混合物である。)0.03g(30mg)と、を混合し、室温でスターラーを用いて36時間撹拌した。
次に、0.1μmメッシュのメンブランフィルターで濾過をして、フラーレン溶液を得た。得られたフラーレン溶液について、HPLC法でフラーレン濃度を測定したところ280質量ppmであった。
次に、フラーレン溶液を250mLのステンレス製の圧力容器に移し、窒素導入管を通じて、圧力容器内部のフラーレン溶液に毎分200mLの流量で窒素をバブリングし、その状態で60分間放置し、その後、フラーレン溶液および容器内部が窒素雰囲気状態を維持するように、圧力容器に、ステンレス製の蓋をし、内部を密閉状態とした。
次に、圧力容器を200℃のオイルバスに浸漬させて、フラーレン溶液を30分間加熱した。
次に、圧力容器をオイルバスから取り出し、室内に60分間放置して冷却した。
次に、圧力容器内部のフラーレン溶液を取り出し、HPLC法でフラーレン濃度を測定したところ100質量ppmに減少していた。
次に、フラーレン溶液20gと鉱油(製品名:ダイアナフレシアP−68 、出光興産株式会社製)80gとを混合し、潤滑油組成物を得た。フラーレン溶液は5倍希釈されるために、熱処理前の状態のフラーレン濃度に換算して56質量ppm、フラーレン残量に換算して20質量ppm、にそれぞれ相当する。
実施例1と同様にして、潤滑油組成物の耐摩耗性を評価した。
【0081】
[比較例4]
フラーレン溶液を加熱しなかったことを除いて、実施例15の方法で潤滑油組成物を得た。
実施例1と同様にして、潤滑油組成物の耐摩耗性を評価した。
【0082】
[実施例16]
フラーレン溶液と鉱油との混合が、フラーレン溶液を5gと鉱油(製品名:ダイアナフレシアP―68 、出光興産株式会社製)95gとを混合したものであったことを除いて、実施例15の方法で潤滑油組成物を得た。フラーレン溶液は20倍希釈されるために、熱処理前の状態のフラーレン濃度に換算して14ppm、フラーレン残量に換算して5質量ppm、にそれぞれ相当する。
実施例1と同様にして、潤滑油組成物の耐摩耗性を評価した。
【0083】
[比較例5]
フラーレン容器を加熱しなかったことを除いて、実施例16の方法で潤滑油組成物を得た。
実施例1と同様にして、潤滑油組成物の耐摩耗性を評価した。結果を表5に示す。
【0084】
【表5】
【0085】
フラーレン溶液に熱処理を行った後に、異なる基油で希釈した実施例15においても、熱処理を行わなかった比較例5よりも、基板が削れることを抑制できることが分かった。
また、実施例15と比較例4の擦り面の差と、実施例16と比較例5の擦り面の差とを比較すると、後者でその差が大きくなっており、熱処理の効果が高く現れている。