特許第6623554号(P6623554)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6623554
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】ゴルフクラブ
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/14 20150101AFI20191216BHJP
【FI】
   A63B53/14 F
【請求項の数】1
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-105081(P2015-105081)
(22)【出願日】2015年5月25日
(65)【公開番号】特開2016-214704(P2016-214704A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2017年12月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120938
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 教郎
(74)【代理人】
【識別番号】100107940
【弁理士】
【氏名又は名称】岡 憲吾
(74)【代理人】
【識別番号】100122806
【弁理士】
【氏名又は名称】室橋 克義
(74)【代理人】
【識別番号】100168192
【弁理士】
【氏名又は名称】笠川 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100174311
【弁理士】
【氏名又は名称】染矢 啓
(74)【代理人】
【識別番号】100182523
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 由賀里
(74)【代理人】
【識別番号】100195590
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 博臣
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 宏
(72)【発明者】
【氏名】中村 拓尊
(72)【発明者】
【氏名】竹内 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】尾山 仁志
【審査官】 大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−325712(JP,A)
【文献】 実開平01−122773(JP,U)
【文献】 特開2010−136760(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0169031(US,A1)
【文献】 特開2015−029744(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3029627(JP,U)
【文献】 特開2007−325862(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3185243(JP,U)
【文献】 実開昭57−134063(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0038742(US,A1)
【文献】 特開2001−259097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/14
A63B 60/06−60/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッド、シャフト及びグリップを備えており、
上記グリップが、把持面を有しており、
上記把持面が、先端及び後端を有しており、
周方向において、上記把持面が、表側半周部と裏側半周部とに区画され、
軸方向において、上記把持面が、上記後端からの距離が全長の50%以上70%以下である特定軸方向部に区画され、
上記表側半周部であり且つ上記特定軸方向部である区域が、特定表側区域とされるとき、
上記特定表側区域が、軸方向長さXと周方向長さYとの比X/Yが1以上3以下である特定凹みを有しており、
上記特定表側区域における凹み占有率が、3%以上20%以下であり、
上記グリップの重量が45g以下であり、
上記把持面を形成する把持部が、表面層である第1層とこの第1層の内側に位置する第2層とこの第2層の内側に位置する第3層とを有しており、上記第1層の発泡率が上記第2層の発泡率よりも小さく、上記第2層の発泡率が上記第3層の発泡率よりも小さく、
上記特定凹みの深さが0.2mm以上0.4mm以下であり、
上記把持面が発泡ゴムによって形成されており、
上記特定凹みの輪郭線が角を有する形状であり、この角の曲率半径が0.2mm以上5mm以下であるゴルフクラブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリップを有するゴルフクラブに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブには、グリップが装着されている。
【0003】
通常、グリップの表面には、複数の凹みが形成されている。この凹みの典型例は、溝である。複数の溝は、滑りにくさに寄与しうる。
【0004】
特開2015−29744号公報では、第一区域と第二区域とが定義され、第一区域の凹み占有率が第二区域の凹み占有率よりも小さくされている。この設定により、耐摩耗性と滑りにくさとが得られうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−29744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特に軽量グリップでは、耐久性が低下しやすい。耐久性が高く、軽量で且つ滑りにくいグリップが好ましい。
【0007】
本発明の目的は、耐久性及び滑りにくさに優れたグリップを有するゴルフクラブの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
好ましいゴルフクラブは、ヘッド、シャフト及びグリップを備えている。上記グリップは、把持面を有している。上記把持面は、先端及び後端を有している。このグリップでは、周方向において、上記把持面が、表側半周部と裏側半周部とに区画される。このグリップでは、軸方向において、上記把持面が、上記後端からの距離が全長の50%以上70%以下である特定軸方向部に区画される。上記表側半周部であり且つ上記特定軸方向部である区域が、特定表側区域とされる。このグリップでは、上記特定表側区域が、軸方向長さXと周方向長さYとの比X/Yが1以上3以下である特定凹みを有している。上記特定表側区域における凹み占有率は、3%以上20%以下である。上記グリップの重量は、45g以下である。
【0009】
好ましくは、上記特定凹みの輪郭線が、曲率半径が0.2mm以上の線によって構成されている。
【0010】
好ましくは、上記特定凹みの深さが0.2mm以上0.4mm以下である。
【0011】
好ましくは、上記把持部が、表面層である第1層とその内側に位置する第2層とを有しており、上記第1層の発泡率が、上記第2層の発泡率よりも小さい。
【0012】
好ましくは、上記把持部の表面が発泡ゴムによって形成されている。
【発明の効果】
【0013】
耐久性及び滑りにくさに優れたグリップを有するゴルフクラブが得られうる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフクラブの全体図である。図1では、グリップ表面に形成された凹みの記載が省略されている。
図2図2は、図1のゴルフクラブにおけるグリップ付近の拡大図である。図2でも、グリップ表面に形成された凹みの記載が省略されている。
図3図3は、図2のF3−F3線に沿った断面図である。図3でも、グリップ表面に形成された凹みの記載が省略されている。
図4図4は、グリップの表側(表側半周部)の凹みパターンを示す展開図である。この展開図では、上記表側半周部が平面に展開されている。
図5図5は、他の実施形態に係るグリップの表側(表側半周部)の凹みパターンを示す展開図である。この展開図では、上記表側半周部が平面に展開されている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0016】
なお、特に説明しない限り、本願において「軸方向」とは、シャフトの軸方向を意味する。特に説明しない限り、本願において「周方向」とは、シャフトの周方向を意味する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフクラブ2の全体図である。ゴルフクラブ2は、ヘッド4、シャフト6及びグリップ8を有する。ヘッド4は、シャフト6の一端部に取り付けられている。グリップ8は、シャフト6の他端部に取り付けられている。
【0018】
ヘッド4として、ウッド型ヘッド、ユーティリティ型ヘッド、ハイブリッド型ヘッド、アイアン型ヘッド及びパターヘッドが例示される。本実施形態では、ヘッド4は、ウッド型である。シャフト6として、スチールシャフト及びカーボンシャフトが例示される。本実施形態では、シャフト6は、カーボンシャフトである。このシャフト6は、積層されたプリプレグによって形成されている。好ましいクラブは、ウッド型ゴルフクラブ、ユーティリティ型ゴルフクラブ、ハイブリッド型ゴルフクラブ及びアイアン型ゴルフクラブである。
【0019】
図2は、クラブ2におけるグリップ8の近傍の拡大図である。グリップ8は、把持面8hを有する。把持面8hは、ゴルファーによって握られうる面である。把持面8hは、グリップ8の外周面である。図2において図示されていないが、把持面8hには、多数の凹みが形成されている。図1及び図2では、これらの凹みの記載が省略されている。
【0020】
シャフト6の内部は空洞である。シャフト6は管状である。グリップ8は、略円筒状である。把持面8hは、全体として、略円周面である。
【0021】
図2が示すように、把持面8hは、先端Tpと後端Btとを有する。グリップ8のグリップエンドは凸曲面を形成している。この凸曲面は、把持面8hに含まれない。
【0022】
図3は、図2のF3−F3線に沿った断面図である。図3が示すように、グリップ8は、バックラインBLを有している。把持面8hにおいて、バックラインBLは、円周面よりも突出した部分を形成している。シャフト6が挿入される前のグリップ8において、グリップ8の外面は円周面である。一方、シャフト6が挿入される前のグリップ8において、グリップ8の内面に平坦部が形成されている。この平坦部は、他の部分に比較して厚みが大きい厚肉部を形成している。シャフト6の挿入により、この厚肉部がバックラインBLとなる。
【0023】
このバックラインBLは、軸方向に対して平行に延在している。グリップ8の周方向において、バックラインBLにおけるグリップ厚みは、バックラインBLが無い部分のグリップ厚みよりも大きい。このバックラインBLは、当業者において周知である。図3が示すように、バックラインBLは、外方に盛り上がっている。バックラインBLに起因して、シャフト6が挿入された後の把持面8hの断面線D8は、真円では無い(図3参照)。
【0024】
グリップ8は、バックラインBLを有していなくても良い。この場合、通常、周方向においてグリップ厚みは一定である。この場合、断面線D8は、上記凹みを無視すれば、円形である。なお、この断面線D8は、シャフト軸線Z1に対して垂直な平面と把持面8hとの交線である(図3参照)。
【0025】
図2において両矢印Lで示されるのは、把持面8hの全長である。この全長Lは、軸方向に沿って測定される。手のひらの寸法を考慮すると、全長Lは210mm以上が好ましく、230mm以上がより好ましく、250mm以上がより好ましい。軽量化の観点から、全長Lは、300mm以下が好ましく、280mm以下がより好ましい。
【0026】
[軸方向位置P1、P2]
軸方向位置P1は、後端Btから軸方向に0.5L隔てた位置である。換言すれば、位置P1と後端Btとの軸方向距離は、0.5L(全長Lの50%)である。軸方向位置P2は、後端Btから軸方向に0.7L隔てた位置である。換言すれば、位置P2と後端Btとの軸方向距離は、0.7L(全長Lの70%)である。
【0027】
[特定軸方向部]
後端Btからの距離が全長Lの50%以上70%以下の部分が、特定軸方向部8xと定義される。換言すれば、上記位置P1から上記位置P2までの軸方向範囲が、特定軸方向部8xである。
【0028】
[表側半周部、裏側半周部]
図3には、周方向正面基準位置CF1が示されている。この周方向正面基準位置CF1の決定では、ゴルフクラブ2が基準状態で静置される。この基準状態とは、ゴルフクラブ2が、規定のリアルロフト角及びライ角で水平面HP上に静置された状態である。この基準状態において、シャフト軸線Z1は、上記水平面HPに対して垂直な平面VPに含まれている。この平面VPと把持面8hとの交線は、周方向において2箇所存在する。これら2つの周方向位置のうちの上側が、周方向正面基準位置CF1である。この周方向正面基準位置CF1を中心とした、周方向に180度の範囲が、表側半周部8fである。表側半周部8fでない周方向範囲が、裏側半周部8bである。
【0029】
アドレスにおいて、ゴルファーから見えるのは、表側半周部8fである。右利きゴルファーの右手親指が当接しているのは、表側半周部8fである。スイング中、この右手親指とグリップ8との間には、特に力がかかりやすい。
【0030】
図2は、把持面8hを表側から見た図である。よって、図2に示されているのは、表側半周部8fである。図2には、裏側半周部8bが示されていない。
【0031】
図3が示すように、位置CF1から周方向の一方側に90度隔てた位置がCF2とされ、位置CF1から周方向の他方側に90度隔てた位置がCF3とされる。位置CF2は、表側半周部8fと裏側半周部8bとの境界である。位置CF3は、表側半周部8fと裏側半周部8bとの境界である。
【0032】
図3が示すように、バックラインBLの周方向中心位置BL1は、裏側半周部8bの周方向中心である。
【0033】
典型的には、上型及び下型によって成形されるグリップでは、上型又は下型の一方によって表側半周部8fが成形され、上型又は下型の他方によって裏側半周部8bが成形される。この場合、表側半周部8fと裏側半周部8bとの境界に、パーティングラインに起因するつなぎ目が形成される。
【0034】
[特定表側区域]
表側半周部8fであり且つ特定軸方向部8xである区域が、特定表側区域8tである。図2において、特定表側区域8tが、二点鎖線ハッチングで示されている。後述の通り、この特定表側区域8tには、強い力が作用する。
【0035】
図4は、グリップ8の表側に位置する多数の凹みを示す展開図である。換言すれば、図4は、表側半周部8fの展開図である。
【0036】
図4が示すように、把持面8h(表側半周部8f)は、複数の凹みr1を有している。把持面8hの表面には、複数の凹みが設けられている。例えば、凹みr1は、溝であってもよい。例えば、凹みr1は、点状であってもよい。
【0037】
[特定凹み]
図4が示すように、把持面8hは、複数(多数)の特定凹みr2を有している。凹みr1のうち、以下の(a)を満たすものが、特定凹みr2である。
(a)凹みの軸方向長さがX(mm)とされ、凹みの周方向長さがY(mm)とされるとき、比(X/Y)が1以上3以下である。
【0038】
図4の拡大部に、上記軸方向長さX及び上記周方向長さYが示されている。
【0039】
耐久性及び滑りにくさの観点から、好ましくは、特定凹みr2は、次の(b)を満たす。
(b)最大横断長が5mm以下である。
なお、最大横断長とは、凹みr1を横断する線分のうち最長の線分の長さである。
【0040】
特定表側区域8tは、複数(多数)の特定凹みr2を有している。本実施形態では、特定表側区域8tに設けられている凹みr1の全てが、特定凹みr2である。特定表側区域8tが、特定凹みr2でない凹みr1を有していてもよい。
【0041】
[凹み占有率]
特定表側区域8tにおいて、凹み占有率が定義される。この凹み占有率は、特定表側区域8tの全体面積のうち、凹みの面積が占める割合である。特定表側区域8tの全体面積がA1とされ、凹みの総面積がA2とされるとき、凹み占有率(%)は、(A2/A1)×100である。なお、特定凹みr2でない凹みr1が特定表側区域8tに存在する場合、この凹みr1の面積も、上記面積A2に加算される。
【0042】
上記面積A1及びA2は、図4のような展開図で容易に計測されうる。なお、グリップ表面が可展面でない部分(非可展面)を有する場合がある。この非可展面については、軸方向における積分を用いて、面積A1及びA2が算出されうる。この積分では、面積A1は、凹みの開口を塞ぐ仮想直線に基づいて、計算される。
【0043】
[効果]
右利きのゴルファーでは、特定表側区域8tに右手の親指が当接する。スイング中、特にトップオブスイングにおいて、右手の親指は、クラブ2を支える。特定表側区域8tには、強い力が作用する。大きな力が加わる特定表側区域8tにおいて、滑りにくさ及び耐久性が達成されるのが効果的である。なお、左利きのゴルファーでは、特定表側区域8tに左手の親指が当接し、この左手の親指が、特定表側区域8tに大きな力を加える。いずれにせよ、特定表側区域8tには、スイング中、大きな力が作用する
【0044】
一方、軽量グリップでは、素材の剛性及び強度が低い。このため、特定表側区域8tに作用する大きな力によって、摩耗及び引き裂けが生じやすい。
【0045】
特定凹みr2は、この問題を解消しうる。特定凹みr2の内部に指の皮膚が入り込み、グリップ表面が指にフィットする。このため、力を入れなくても、滑りにくさが達成される。
【0046】
細長い溝状の凹みが設けられている場合、強い力によって、凹みの周囲部分が倒れたり、めくれたりしやすい。すなわち、上記X/Yが大きい場合、凹みの周囲部分が倒れたり、めくれたりしやすい。X/Yが3以下とされることで、凹みの周囲部分が倒れにくい。このため滑りが生じにくく、且つ、引き裂け及び摩耗が抑制される。この観点から、X/Yは2以下がより好ましい。周方向における滑りを抑制する観点から、X/Yは1以上が好ましい。
【0047】
更に、グリップ8では、特定表側区域8tにおける上記凹み占有率が20%以下とされている。凹み占有率を小さくし、ランドの面積を大きくすることで、凹みの周囲部分が倒れにくい。このため、滑りが生じにくく、引き裂け及び摩耗が抑制される。この観点から、凹み占有率は、20%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下がより好ましい。滑りにくさの観点から、凹み占有率は、3%以上が好ましく、4%以上がより好ましく、5%以上がより好ましい。
【0048】
なお、上記ランドとは、凹みr1が設けられていない部分を意味する。
【0049】
小さな特定凹みr2を適度な密度で設けることで、凹み占有率を抑えつつ、指へのフィット性が高まる。特定凹みr2の周囲のランドを確保する観点から、互いに隣接する特定凹みr2間の距離は、2mm以上であるのが好ましい。特定凹みr2が指に当たる確率を高める観点から、特定凹みr2同士が過度に離れるのは好ましくない。この観点から、特定表側区域8tにおいて、互いに隣接する特定凹みr2間の距離は、10mm以下であるのが好ましい。
【0050】
小さな特定凹みr2を多数設けることで、凹み占有率を抑えつつ、指へのフィット性を高めることができる。この観点から、特定表側区域8tにおける特定凹みr2の数は、30以上が好ましく、40以上がより好ましく、50以上がより好ましい。凹み占有率を抑制する観点から、特定表側区域8tにおける特定凹みr2の数は、100以下が好ましく、90以下がより好ましく、80以下がより好ましい。
【0051】
小さな特定凹みr2を多数設けることで、凹み占有率を抑えつつ、指へのフィット性を高めることができる。この観点から、1つの特定凹みr2の面積は、19.6mm以下が好ましく、12.6mm以下がより好ましく、7.1mm以下がより好ましい。滑りにくさの観点から、1つの特定凹みr2の面積は、0.1mm以上が好ましく、0.3mm以上がより好ましく、0.5mm以上がより好ましい。特定表側区域8tに存在する特定凹みr2の全てが、上記好ましい面積であれば、より効果的である。この面積とは、特定凹みr2の輪郭線の内側の面積を意味する。
【0052】
図4の拡大部が示すように、特定凹みr2の輪郭線は、曲率半径が0.2mm以上の線によって構成されている。換言すれば、この輪郭線には、曲率半径が0.2mm未満の部分が無い。よって、応力が分散され、引き裂けが抑制される。曲率半径が0.2mm以上の線には、曲線の他、直線も含まれる。なお、この曲率半径は、図4の展開図のような平面視で判断される。
【0053】
図4の拡大部に示された特定凹みr2は、三角形である。すなわち、この特定凹みr2の輪郭線は、角を有する形状である。応力を分散する観点から、この角の曲率半径Rは0.2mm以上が好ましい。特定凹みr2の小型化の観点から、この角の曲率半径Rは5mm以下が好ましい。
【0054】
好ましくは、特定凹みr2の深さは、0.4mm以下である。深さが小さくされることで、凹みの周囲部分が倒れにくい。このため、滑りが生じにくく、引き裂け及び摩耗が抑制される。滑りにくさの観点から、特定凹みr2の深さは、0.2mm以上が好ましい。
【0055】
グリップ8は、複数層の構造を有している。図3の拡大図は、グリップ8(把持面8h)の断面を示している。この拡大図が示すように、把持面8hは、表面層である第1層s1と、この第1層s1の内側に位置する第2層s2とを有している。更に把持面8hは、第2層s2の内側に位置する第3層s3を有している。第2層s2は第1層s1の内面に接している。第3層s3は第2層s2の内面に接している。第1層s1は最外層である。第3層s3は最内層である。
【0056】
グリップ8には、発泡ゴムが用いられている。第1層s1の発泡率は、第2層s2の発泡率よりも小さい。更に、第2層s2の発泡率は、第3層s3の発泡率よりも小さい。外側の層ほど、発泡率が小さい。最外層である第1層s1の発泡率は、ゼロ又は低くされている。よって、グリップ8が軽量とされつつ、表面層の剛性及び強度が高まる。この結果、特定凹みr2の周囲部分の倒れが抑制される。倒れの抑制と材質の強度との相乗効果により、引き裂け及び摩耗が抑制される。
【0057】
発泡率を相違させるための製造方法は、例えば、第1層s1を構成する第1シートと、第2層s2を構成する第2シートと、第3層s3を構成する第3シートとが用意される。これらのシートを積層した積層体が、金型にセットされる。第1シート、第2シート及び第3シートをそれぞれ別個に用意することで、それぞれのシートの発泡率を互いに異ならせることができる。
【0058】
把持面8aの表面が発泡ゴムによって形成されていてもよい。発泡ゴムは、材質の強度及び剛性が小さい。よって、材質の観点からは、上述の倒れが生じやすく、耐久性も低い。この材質の欠点が、上述の特定凹みr2によって抑制される。よって、表面が発泡ゴムであっても、滑り及び耐久性に優れたグリップが得られうる。
【0059】
図5は、第2実施形態に係るグリップの表側半周部8fを示す展開図である。表側半周部8fは、多数の凹みr1を有しており、これらの凹みr1は多数の特定凹みr2を含む。
【0060】
特定表側区域8tには、複数(多数)の特定凹みr2が設けられている。特定表側区域8tに設けられている凹みr1の全てが、特定凹みr2である。図5が示すように、特定表側区域8tには、2種類の特定凹みr2が設けられている。第1種の特定凹みr2は楕円形であり、第2種の特定凹みr2は円形である。このように、特定表側区域8tに複数種の特定凹みr2が設けられてもよい。
【0061】
裏側半周部8bであり且つ特定軸方向部8xである区域が、特定裏側区域と称される。図示されないが、特定裏側区域は、多数の凹みr1を有する。図示されないが、特定裏側区域に設けられている凹みr1の全てが、特定凹みr2である。特定表側区域8tに大きな力が作用すると、特定裏側区域にも比較的大きな力が作用しやすい。右利きゴルファーの場合、典型的には、右手親指が特定表側区域8tに大きな力を加え、右手人差し指が特定裏側区域でこの力を受け止める。よって、特定裏側区域にも、特定表側区域8tと同じ仕様で特定凹みr2が設けられているのが好ましい。この観点から、本願において特定表側区域8tに関するあらゆる記載は、特定裏側区域にも適用されうる。例えば、特定裏側区域における凹み占有率は、3%以上が好ましく、20%以下が好ましい。
【0062】
上述の通り、軽量グリップでは、特定凹みr2による効果が際立つ。この観点から、上記グリップの重量は、45g以下が好ましく、35g以下がより好ましく、30g以下がより好ましい。過度に軽いグリップでは、スイング時に違和感が生ずることがある。この観点から、上記グリップの重量は、15g以上が好ましく、20g以上がより好ましく、25g以上がより好ましい。
【0063】
グリップの重量は、グリップの比重、体積等によって調整されうる。軽量のグリップには、発泡ゴムが用いられてもよい。発泡ゴムは、気泡を含むゴムである。比重は、例えば、発泡率によって調整されうる。発泡率は、断面における気泡の面積によって算出されうる。気泡の総面積の、断面全体の面積に対する割合が、発泡率である。発泡率の測定では、上記位置P1、上記位置P2及び第3の位置P3の3箇所で、断面が観察される。この位置P3は、位置P1と位置P2とを等分する位置であり、後端から0.6Lの位置である。これら3箇所の断面での算出値が平均される。この平均値が、発泡率とされうる。
【0064】
特定凹みr2の内部にペイントが配置されてもよい。このペイントにより、例えば、特定の特定凹みr2を視覚的に目立たせることができる。
【0065】
グリップ8の材質は限定されない。グリップ8の材質として、ゴム組成物及び樹脂組成物が例示される。このゴム組成物におけるゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などが挙げられる。特に、天然ゴム、又は天然ゴムに親和性の良いエチレンプロピレンジエンゴムもしくはスチレンブタジエンゴムなどをブレンド(混合)したものが、好ましい。
【0066】
上記ゴム組成物にはオイルが配合されてもよい。このオイルとしては、例えばアロマチック系オイル、ナフテン系オイル、パラフィン系オイルなどが用いられうる。
【0067】
硫黄架橋がなされる場合、硫黄が配合される。
【0068】
上記ゴム組成物には、例えば補強剤、充填剤、加硫促進剤、加硫助剤などが必要に応じて適宜配合されてもよい。さらに老化防止剤、加工助剤などが配合されてもよい。
【0069】
上記補強剤としては、例えば、カーボン、シリカなどが用いられうる。充填剤としては、例えばハードクレー、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、クレーなどが用いられ、加硫助剤としては、例えば酸化亜鉛とステアリン酸などが用いられる。加硫促進剤は、公知の方法に従い、使用するゴムにあわせて適宜選択されうる。
【0070】
グリップの材質として、樹脂組成物も用いられうる。この樹脂組成物に含まれる樹脂として、熱可塑性樹脂が挙げられる。この熱可塑性樹脂は、射出成形に用いられうる。この熱可塑性樹脂として、熱可塑性エラストマーが好ましく、ソフトセグメントとハードセグメントとを含む熱可塑性エラストマーがより好ましい。グリップ性と耐摩耗性との両立の観点から、ウレタン系熱可塑性エラストマーがより好ましい。
【0071】
ゴム100質量部に対する好ましい配合比率は、例えば、補強剤が5〜70質量部、充填剤が10〜70質量部、加硫促進剤が0.1〜3質量部、加硫助剤が1〜10質量部である。
【0072】
着色剤が配合されていてもよい。この着色剤は、黒以外の色をグリップ8に付与しうる。典型的な着色剤は、顔料である。この顔料として、有機顔料及び無機顔料が例示される。有機顔料として、アゾ系顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン系顔料及び染色レーキ顔料が例示される。無機顔料として、複合酸化物系顔料が例示される。なお、カーボンブラックは、着色剤ではない。
【0073】
着色剤の配合により、ゴム成分の割合は低下しうる。着色剤の配合により、補強剤の割合は低下しうる。着色剤の配合に起因して、グリップ8の耐摩耗性は低下しやすい。よって、着色剤が配合されたグリップ8では、特定凹みr2の効果が際立つ。
【0074】
上記ゴム組成物が発泡ゴムとされる場合、発泡剤が配合されうる。この発泡剤の一例は、熱分解型発泡剤である。この熱分解型発泡剤として、アゾジカルボンアミドのようなアゾ化合物、ジニトロソペンタメチレンテトラミンのようなニトロソ化合物及びトリアゾール化合物が例示される。
【0075】
グリップ8の製法は限定されない。グリップ8は、公知の製法により製造されうる。この製法として、プレス成形と射出成形とが例示される。
【0076】
プレス成形では、ゴム組成物を金型内に充填し、加圧及び加熱がなされる。加熱温度は、通常、130〜200℃とされるが、これに限定されない。加熱時間は、通常、3〜15分間とされるが、これに限定されない。
【0077】
グリップの過度な変形を抑制するとともに、特にドライ時におけるグリップ性を高める観点から、グリップのJIS−A硬度は、30以上が好ましく、35以上がより好ましく、40以上が特に好ましい。握りのフィーリングが過度に硬くなることを抑制し、ウエット時におけるグリップ性を高める観点から、グリップのJIS−A硬度は、70以下が好ましく、60以下がより好ましく、50以下が特に好ましい。このJIS−A硬度は、JIS−K−6253の規定に従い測定される。
【実施例】
【0078】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0079】
[実施例1]
図4に示されるグリップが作製された。マンドレル、上型及び下型を有する金型が用いられた。上型の内面(半周面)は、表側半周部8fの凹みを形成するための凸を有していた。3種のゴム組成物を用いて、第1層用シート、第2層用シート及び第3層用シートを得た。これらのシートを重ねて上記金型に仕込み、加熱及び加圧を行って、グリップ成形体を得た。このグリップ成形体は、3層構造であった。第3層(最内層)の発泡率は第2層よりも大きかった。第2層の発泡率は第1層よりも大きかった。
【0080】
このグリップ成形体の表面を研磨して、実施例1のグリップを得た。このグリップの表側半周部8fは、図4に示される多数の凹みを有していた。グリップの重量は27gであった。このグリップを、市販のゴルフクラブに装着した。このゴルフクラブとして、ダンロップスポーツ社製の商品名「ゼクシオ エイト ドライバー ロフト10.5°」が用いられた。標準のグリップが取り外され、実施例1のグリップが装着されることで、実施例1に係るゴルフクラブを得た。
【0081】
[比較例1、実施例2、実施例3、比較例2]
特定凹みr2の数を増減して凹み占有率を変えた他は実施例1と同様にして、比較例1、実施例2、実施例3及び比較例2に係るグリップ及びゴルフクラブを得た。
【0082】
[比較例3、実施例4、実施例5、比較例4]
特定凹みr2の形状に変更を加えてX/Yを変えた他は実施例2と同様にして、比較例3、実施例4、実施例5及び比較例4に係るグリップ及びゴルフクラブを得た。
【0083】
[実施例6から9]
特定凹みr2の形状に変更を加えて角の曲率半径を変えた他は実施例4と同様にして、実施例6から9に係るグリップ及びゴルフクラブを得た。
【0084】
[実施例10から12]
特定凹みr2の深さをを変えた他は実施例4と同様にして、実施例10から12に係るグリップ及びゴルフクラブを得た。
【0085】
これら実施例及び比較例の仕様と評価結果が、下記の表1から4に示されている。なお、各表での比較を容易とするため、実施例2及び実施例4が複数の箇所に記載されている。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
【表3】

【0089】
【表4】

【0090】
[評価方法]
【0091】
[摩耗試験]
学振型摩擦試験機(安田精機製作所社製の学振形染色摩擦堅ろう度試験機)を用いて摩耗試験を行った。グリップの特定表側区域を切り出して、試験片を得た。この試験片を上記試験機の装置台に両面テープで貼り付け、この試験片の表面を、サンドペーパーを500回往復させた。この試験による摩耗体積(cm)が、上記表1から4に示される。摩耗体積は、摩耗重量を比重で除して算出した。
【0092】
[剥離試験]
グリップエンドを構成しているグリップキャップを用いて、剥離試験を行った。シャフトにグリップを挿入し、このグリップの特定表側区域を、上記グリップキャップで擦った。グリップキャップを、シャフト軸線に対して90°の方向に動かして、擦りつけた。500回を上限として、表面層の剥離が発生するまで試験を行った。剥離が発生したときの擦った回数が、上記表1から4に示される。ただし、上限の500回において剥離が発生しなかった場合、評価値は500である。
【0093】
[実打時の滑り]
20名のテスターが上記ゴルフクラブで実際に打撃を行い、1点から5点までの5段階で官能評価を行った。最も滑りにくい場合が5点とされ、滑りにくいほど高い点数とされた。テスター全員の評価値の平均(小数点以下は四捨五入)が、上記表1から4に示される。
【0094】
これらの評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、あらゆるゴルフクラブに適用されうる。
【符号の説明】
【0096】
2・・・ゴルフクラブ
4・・・ヘッド
6・・・シャフト
8・・・グリップ
8h・・・把持面
8f・・・表側半周部
8b・・・裏側半周部
8x・・・特定軸方向部
8t・・・特定表側区域
L・・・把持面の全長
Z1・・・シャフト軸線
r1・・・凹み
r2・・・特定凹み
P1・・・把持面の後端からの距離が把持面の全長の50%である位置
P2・・・把持面の後端からの距離が把持面の全長の70%である位置
CF1・・・周方向正面基準位置
BL・・・バックライン
図1
図2
図3
図4
図5