特許第6623561号(P6623561)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6623561
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】含フッ素オレフィンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/25 20060101AFI20191216BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20191216BHJP
   B01J 23/26 20060101ALI20191216BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20191216BHJP
【FI】
   C07C17/25
   C07C21/18
   B01J23/26 Z
   !C07B61/00 300
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-110776(P2015-110776)
(22)【出願日】2015年5月29日
(65)【公開番号】特開2016-222597(P2016-222597A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2018年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加留部 大輔
(72)【発明者】
【氏名】茶木 勇博
(72)【発明者】
【氏名】大久保 瞬
【審査官】 佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−028794(JP,A)
【文献】 特表2010−508294(JP,A)
【文献】 特開2009−126803(JP,A)
【文献】 特開2008−150356(JP,A)
【文献】 特表2015−509096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/25
B01J 23/26
C07C 21/18
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の存在下、ハイドロフルオロカーボンの脱フッ化水素が行われる第1反応工程を経て含フッ素オレフィンを製造する方法において、
前記ハイドロフルオロカーボンは、一般式(1)RfCFYCHZ2(一般式(1)中、Rは炭素数1〜3の直鎖状又は分岐状のパーフルオロアルキル基であって、塩素を含まず、Y及びZはそれぞれ独立にH又はFであるが、ZがすべてHである場合、YはFである)で表される化合物であり、
前記触媒は、第5族金属を含むクロム系触媒である、含フッ素オレフィンの製造方法。
【請求項2】
一般式(1)において、RfがCF3である、請求項1に記載の含フッ素オレフィンの製造方法。
【請求項3】
前記ハイドロフルオロカーボンがHFC−236ea、HFC−245eb及びHFC−245cbの群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項2に記載の含フッ素オレフィンの製造方法。
【請求項4】
前記ハイドロフルオロカーボンがHFC−245ebである、請求項3に記載の含フッ素オレフィンの製造方法。
【請求項5】
前記触媒に含まれる第5族金属の原子数の割合は、前記触媒に含まれる全金属原子数に対して0.1%以上50%以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の含フッ素オレフィンの製造方法。
【請求項6】
前記第1反応工程の脱フッ化水素が50〜380℃で行われる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の含フッ素オレフィンの製造方法。
【請求項7】
前記第1反応工程の脱フッ化水素が100〜350℃で行われる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の含フッ素オレフィンの製造方法。
【請求項8】
前記ハイドロフルオロカーボンは、酸素ガスを同伴させて前記第1反応工程に供する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の含フッ素オレフィンの製造方法。
【請求項9】
酸素ガスの流量(mol/min)が、前記ハイドロフルオロカーボンの流量(mol/min)に対して0.1%以上10%以下である、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素オレフィンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般式:CF3(CX2)nCF=CH2、一般式:CF3(CX2)nCH=CHF等(いずれもXはハロゲンである)で表されるフルオロオレフィンは、各種機能性材料、溶媒、冷媒、発泡剤等の用途、並びに機能性重合体の製造用のモノマー又はその原料等として有用な化合物である。特に、上記したフルオロオレフィンの中でも一般式CF3CF=CH2で表される2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(以下、本明細書において「HFO−1234yf」略記する)は、地球温暖化係数の低い冷媒化合物として有望視されている。
【0003】
上記HFO−1234yfは、ハロプロパン又はハロプロペンを原料として、これをフッ化水素(HF)によりフッ素化する方法又は水素化と脱ハロゲン化水素を適宜組み合わせる方法によって製造されることが知られている。例えば、特許文献1にも示されているように、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロペン(HFO−1216)を原料とする場合には、以下の反応工程を経てHFO−1234yfが製造される。
CF3CF=CF2+ H2 → CF3CFHCF2H (HFC-236ea) (1)
CF3CFHCF2H → CF3CF=CFH (HFO-1225ye(E/Z)) + HF (2)
CF3CF=CFH + H2 → CF3CFHCFH2(HFC-245eb) (3)
CF3CFHCFH2 → CF3CF=CH2(HFO-1234yf) + HF (4)
また、下記反応式(5)のようにHFO−1243zfをフッ素化してHFC−245ebを得た後、上記の反応式(4)の反応を行い、HFO−1234yfを得る反応工程も知られている。
CF3CH=CFH + F2 → CF3CFHCFH2(HFC-245eb) (5)
CF3CFHCFH2 → CF3CF=CH2(HFO-1234yf) + HF (4)
上記のように、いずれの反応工程にあってもHFC−245ebの脱フッ化水素反応により、HFO−1234yfが製造される。このような脱フッ化水素反応については従来から種々検討されており(例えば、特許文献2〜4等を参照)、触媒の種類、反応温度あるいは接触時間等を適宜調節して、効率よくHFO−1234yf等の含フッ素オレフィンを製造する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−77086号公報
【特許文献2】特表2009−542651号公報
【特許文献3】特表2011−515457号公報
【特許文献4】特表2009−513719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、245ebのようなハイドロフルオロカーボンの脱フッ化水素反応をするには、触媒量がある程度多く必要であり、その上、反応温度も比較的高温にする必要もある。このため、従来法では、目的物のみならず、その異性体であるCF3CH=CHF(HFO−1234ze)が多く副生しやすいという問題があり、さらに、反応に使用する触媒寿命が低下するという課題もあった。触媒寿命の低下する問題に関しては、酸素を同伴させることによって解消させることも考えられるが、この場合、原料や目的物の燃焼が促進されるので、収率が低下するという問題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、ハイドロフルオロカーボンの脱フッ化水素反応によって含フッ素オレフィンを製造するプロセスおいて、高い転化率、かつ、高い選択率で目的物の含フッ素オレフィンを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ハイドロフルオロカーボンの脱フッ化水素反応によって含フッ素オレフィンを製造する反応おいて、触媒として、第5族金属を含むクロム系触媒を用いることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、下記の含フッ素オレフィンの製造方法に関する。
項1.
触媒の存在下、ハイドロフルオロカーボンの脱フッ化水素が行われる第1反応工程を経て含フッ素オレフィンを製造する方法において、
前記ハイドロフルオロカーボンは、一般式(1)RfCFYCHZ2(一般式(1)中、Rは炭素数1〜3の直鎖状又は分岐状のパーフルオロアルキル基であって、塩素を含まず、Y及びZはそれぞれ独立にH又はFであるが、ZがすべてHである場合、YはFである)で表される化合物であり、
前記触媒は、第5族金属を含むクロム系触媒である、含フッ素オレフィンの製造方法。
項2.
一般式(1)において、RfがCF3である、上記項1に記載の含フッ素オレフィンの製造方法。
項3.
前記ハイドロフルオロカーボンがHFC−236ea、HFC−245eb及びHFC−245cbの群から選ばれる少なくとも1種を含む、上記項2に記載の含フッ素オレフィンの製造方法。
項4.
前記ハイドロフルオロカーボンがHFC−245ebである、上記項3に記載の含フッ素オレフィンの製造方法。
項5.
前記触媒に含まれる第5族金属の原子数の割合は、前記触媒に含まれる全金属原子数に対して0.1%以上50%以下である、上記項1〜4のいずれかに記載の含フッ素オレフィンの製造方法。
項6.
前記第1反応工程の脱フッ化水素が50〜380℃で行われる、上記項1〜5のいずれか1項に記載の含フッ素オレフィンの製造方法。
項7.
前記第1反応工程の脱フッ化水素が100〜350℃で行われる、上記項1〜6のいずれか1項に記載の含フッ素オレフィンの製造方法。
項8.
前記ハイドロフルオロカーボンは、酸素ガスを同伴させて前記第1反応工程に供する、上記項1〜7のいずれか1項に記載の含フッ素オレフィンの製造方法。
項9.
酸素ガスの流量(mol/min)が、前記ハイドロフルオロカーボンの流量(mol/min)に対して0.1%以上10%以下である、上記項8に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る含フッ素オレフィンの製造方法では、触媒として、第5族金属を含むクロム系触媒を使用して特定のハイドロフルオロカーボンの脱フッ化水素反応を行う。これにより、ハイドロフルオロカーボンの転化率を高くすることができ、かつ、高い選択率で目的物を得ることができる。また、脱フッ化水素反応を低温で行ったとしても、高い転化率、かつ、高い選択率で目的物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0011】
本実施形態の含フッ素オレフィンの製造方法では、触媒の存在下、ハイドロフルオロカーボンの脱フッ化水素が行われる第1反応工程を経て含フッ素オレフィンを製造する。特に、本実施形態では、触媒が、第5族金属を含むクロム系触媒を含む。本実施形態の含フッ素オレフィンの製造方法では、上記触媒を使用することで、ハイドロフルオロカーボンの転化率を高くすることができ、かつ、高い選択率で目的物を得ることができる。また、脱フッ化水素反応を低温で行ったとしても、高い転化率、かつ、高い選択率で目的物を得ることができる。
【0012】
第1反応工程では、触媒の存在下、ハイドロフルオロカーボンの脱フッ化水素が行われる。
【0013】
上記ハイドロフルオロカーボンは、一般式(1)RfCFYCHZ2で表される化合物である。ここで、一般式(1)中、Rは炭素数1〜3の直鎖状又は分岐状のパーフルオロアルキル基であって、塩素を含まず、Y及びZはそれぞれ独立にH又はFであるが、ZがすべてHである場合、YはFである。ハイドロフルオロカーボンは、塩素を置換基として有していないことで、脱塩酸工程あるいはフッ素化工程をする必要がないという利点がある。
【0014】
は炭素数1〜3の直鎖状又は分岐状のパーフルオロアルキル基であれば特に限定的ではないが、CF基(トリフルオロメチル基)であることが好ましい。この場合、より高い転化率及び選択率で含フッ素オレフィンを製造することができる。
【0015】
ハイドロフルオロカーボンは、一般式(1)で表される化合物1種のみで構成されていてもよいが、これに限定されず、2種以上の一般式(1)で表される化合物を含んで構成されていてもよい。
【0016】
ハイドロフルオロカーボンは、HFC−236ea、HFC−245eb及びHFC−245cbの群から選ばれる少なくとも1種を含んでいることが好ましい。この場合、より高い転化率及び選択率で含フッ素オレフィンを製造することができる。
【0017】
なお、HFC−236eaは、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン、HFC−245ebは、1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロパン、HFC−245cbは、1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパンである。
【0018】
ハイドロフルオロカーボンとしては、市販品を使用することができるが、これに限らず、例えば、二重結合を有するハイドロフルオロカーボンの水素還元によって製造してもよい。例えば、ヘキサフルオロプロパンを水素還元すれば、HFC−236eaが得られ、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye)を水素還元すれば、HFC−245ebが得られる。
【0019】
本実施形態の製造方法では、触媒としては、上述のように、第5族金属を含むクロム系触媒を含む。これにより、より高い転化率及び選択率で含フッ素オレフィンを製造することができる。
【0020】
第5族元素の具体例としては、バナジウム、ニオブ、タンタルなどを挙げることができ、入手の容易さや性能の点でバナジウム、ニオブなどが好ましく、特に、ニオブが好ましい。第5族元素は、一種のみ含まれていてもよく、二種以上が含まれていても良い。
【0021】
第5族元素は4〜5価の状態で存在することが好ましい。この場合、触媒作製用の原料としては、0〜3価の第5族元素を含む化合物を用いてもよく、触媒の製造工程において、第5族元素を酸化して4〜5価とすることができる。
【0022】
第5族元素の量は特に限定的ではない。ただし、選択率の低下を抑制するという観点から、酸化クロムに含まれる第5族金属の原子数の割合は、酸化クロムに含まれる全金属原子の全原子数に対して0.1%以上50%以下であることが好ましく、0.5%以上15%以下であることがより好ましい。さらに、第5族元素がバナジウムであれば、酸化クロムに含まれるバナジウムの原子数の割合は、酸化クロムに含まれる全金属原子の全原子数に対して0.1%以上50%以下であることが好ましく、0.5%以上15%以下であることがより好ましく、0.5%以上3%以下であることが特に好ましい。
【0023】
第5族金属が含まれるクロム系触媒としては、クロムを含んで構成されていれば特に限定されず、例えば、酸化クロム、オキシフッ化クロム触媒等が挙げられる。特に好ましいクロム系触媒としては、酸化クロムである。酸化クロムにおけるクロムの価数は特に制限されず、例えば、3価以上であればよい。クロムの価数は、公知の方法によって測定することができる。
【0024】
クロム系触媒が酸化クロムであれば、例えば、以下のように製造できる。
【0025】
まず、クロム塩の水溶液とアンモニア水を混合して水酸化クロムの沈殿を得る。このクロム塩としては、硝酸クロム、塩化クロム、クロムみょうばん、硫酸クロム等が例示される。例えば、硝酸クロムの水溶液にアンモニア水を、硝酸クロム1当量に対して、約1当量以上滴下することによって、水酸化クロムの沈殿を得ることができる。
【0026】
この沈殿を濾過洗浄後、乾燥する。乾燥は、例えば、空気中、70〜200℃程度、特に120℃程度で、1〜100時間程度、特に12時間程度行えばよい。この段階の生成物を水酸化クロムの状態と呼ぶ。次いで、この生成物を解砕する。
【0027】
解砕して得た上記この水酸化クロムの粉体を、打錠機によりペレット化する。ペレットは、例えば、直径3.0mm程度、高さ3.0mm程度とすればよい。ペレット形成に際し、グラファイト等の添加物を混合しても良い。
【0028】
成形されたペレットを焼成して、酸化クロムにすることが好ましい。
【0029】
上記のようにして、酸化クロムを調製することができる。
【0030】
第5族元素は、酸化クロム等のクロム系触媒と同時に存在すればよく、第5族元素の存在状態は特に限定はない。例えば、クロム系触媒の表面に第5族元素が偏在していてもよく、あるいは、第5族元素がクロム系触媒に均一に混合されている状態であっても良い。これらの場合、第5族元素は、金属として存在してもよく、或いは、酸化物、オキシフッ化物等の状態で存在してもよいが、酸化物、オキシフッ化物の状態で存在していることが好ましい。また、第5族元素の一部又は全部はクロム金属と複合化されて複合酸化物を形成していてもよい。第5族元素を含む酸化クロムは、結晶状態又は非晶質状態のいずれでもよい。また、結晶状態の酸化物と非晶質状態の酸化物の混合物も使用できる。
【0031】
第5族金属が含まれるクロム系触媒の製造方法は特に限定されない。例えば、第5族元素を含む酸化クロムを製造する方法としては、第5族元素を含む溶液に、酸化クロム又はその前駆体である水酸化クロムを添加して、第5族元素を含浸させた後、溶媒を除去し、残留物を焼成する方法(含浸法);Crに加えて第5族元素を含む溶液からCr及び第5族元素を水酸化物,アンモニウム塩,炭酸塩,炭酸水素塩等として沈殿させた後、沈殿物を洗浄、乾燥した後、焼成する方法(共沈法);Cr及び第5族元素を含む溶液を水熱合成反応に供することで溶液からCr及び第5族元素を沈殿させ、その後分離した沈殿物を焼成する方法(水熱合成法):Cr及び第5族元素を含む塩、Cr及び第5族元素を含む酸化物等を、乳鉢などを用いて物理的に混合し、必要に応じて、この混合物を焼成する方法(混錬法)等を例示できる。その他、昇華性を有する第5族元素を含む金属塩、例えば、塩化ニオブ、塩化バナジウム、塩化タンタル等と、酸化クロムとを乳鉢などを用いて物理的に混合した後、昇華性金属塩の昇華温度以上に加熱して、昇華した金属塩を酸化クロムに蒸着させ、必要に応じて、昇華性金属塩を分解し金属又は金属酸化物として酸化クロムに担持させる方法(化学蒸着法;CVD法)などを例示できる(特開2015−509096号公報等を参照)。
【0032】
触媒として使用する酸化クロムはフッ素化された、いわゆるフッ素化酸化クロムでもよい。このフッ素化の方法は公知の方法に従えばよい。
【0033】
また、触媒は、アルミナ、フッ化アルミニウム、フッ化酸化アルミニウム、活性炭等の担体に担持して使用することもできる。
【0034】
触媒は、上記の第5族元素を含むクロム系触媒を単独で使用してもよいし、あるいは、本発明の効果が阻害されない程度であれば、上記の第5族元素を含むクロム系触媒と共に、他の触媒を併用してもよい。また、上記の第5族元素を含む酸化クロムにおいて、第5族金属以外の成分がさらに添加された触媒を使用してもよい。具体的に第5族金属以外の成分としては、例えば、インジウム、ガリウム、ニッケル、銅、亜鉛などの金属、該金属の酸化物、フッ化物、オキシフッ化物等が例示できる。その他、第5族金属以外の成分としては、カーボンなどの非金属も例示できる。
【0035】
第5族金属以外の他の成分が酸化クロムに共存する場合、クロムの含有量は酸化クロムに含まれる全原子数に対し30%以上とすることができ、好ましくは50%以上、より好ましくは90%以上である。
【0036】
次に、上記以外の第1反応工程の反条件を説明する。
【0037】
上記第1反応工程内でのハイドロフルオロカーボンの脱フッ化水素反応において、反応圧力は特に限定されず、減圧下、常圧下、もしくは加圧下で反応を進行させることが可能である。特に、常圧下での反応であれば、加圧下での反応に比べて平衡的に有利であり、減圧下での反応に比べて比較的大きな装置を要しないという利点がある。
【0038】
第1反応工程を行う反応器としては特に制限はなく、ハステロイ(HASTELLOY)、インコネル(INCONEL)、モネル(MONEL)等の材料によって構成される反応器を用いることができる。
【0039】
第1反応工程における脱フッ化水素の反応温度の上限は、エネルギーの浪費、選択率の低下及び触媒劣化を抑制するという観点から、常圧下の場合であれば、好ましくは380℃、より好ましくは350℃、さらに好ましくは330℃、特に好ましくは300℃である。また、第1反応工程における脱フッ化水素の反応温度の下限は、生産性の面から転化率が許容できないほど低下するのを防止しやすいという観点から、常圧下の場合であれば、好ましくは50℃、より好ましくは100℃、さらに好ましくは200℃、特に好ましくは230℃、その中でも特に好ましくは270℃である。
【0040】
通常、ハイドロフルオロカーボンの脱フッ化水素反応は、比較的高温にする必要があるが、本実施形態の製造方法では、上述の特定の触媒を使用して反応を行うものであり、触媒の活性が高いため、従来よりも低温で反応することが可能となる。そのため、低温で反応することにより、高温で反応したときに生じやすい副生成物をより少なくすることができ、触媒寿命の低下も抑制しやすいものである。
【0041】
第1反応工程における接触時間は特に限定的ではなく、例えば、0.1〜300秒とすることができる。また、W/F0(g・sec・ml−1)の値も特に限定的ではなく、例えば、0.1〜350とすることができる。なお、F0(Nml・sec−1)は、原料を含むガスの反応器への供給量であり、W(g)は反応器に充填した触媒の量である。
【0042】
第1反応工程において、ハイドロフルオロカーボンを反応器に供給する方法に制限はない。例えば、ハイドロフルオロカーボンは、酸素ガスを同伴させて第1反応工程に供することができる。この場合、酸素ガスの流量(mol/min)は、ハイドロフルオロカーボンの流量(mol/min)に対して例えば、0.1%以上30%以下とすることができ、0.5%以上15%以下が好ましく、1%以上10%以下であることがより好ましい。これにより、触媒活性の低下が抑制されやすくなり、長期間継続して高い選択率で目的とする含フッ素オレフィンを得ることができる。
【0043】
また、ハイドロフルオロカーボンを反応器に供給するにあたっては、窒素、ヘリウム、アルゴン等の原料や触媒に対して不活性なガスを共存させてもよい。ただし、原料に不活性ガスを混合させると、目的物と不活性ガスとを精留又は抽出蒸留等によって分離回収する必要が生じる。この場合、不活性ガスであるNは非凝縮性のガスであるため、Nと目的物を含む有機成分が同伴して回収されることになる。そのため、目的物の回収率が低下するおそれもある。このような観点から、ハイドロフルオロカーボンを反応器に供給するにあたり、ハイドロフルオロカーボン及び不活性ガスの全量に対する不活性ガスの含有量は、好ましくは50モル%未満、より好ましくは10モル%未満、特に好ましくは2モル%未満であり、最も好ましくは不活性ガスをハイドロフルオロカーボンに共存させないことである。
【0044】
第1反応工程における脱フッ化水素反応は、例えば、原料を反応器の入口から連続的に供給させて反応器内で反応を行った後、生成物を反応器の出口から連続的に排出させる方式(いわゆる、連続反応方式)で反応させることができる。
【0045】
また、脱フッ化水素反応は、反応温度にもよるが気相状態及び液相状態のいずれの状態で反応させてもよいが、高い選択率で目的とする含フッ素オレフィンを得るという観点からは気相状態で反応させることが好ましい。
【0046】
上記の第1反応工程を経ることで、目的とする含フッ素オレフィンが製造される。
【0047】
含フッ素オレフィンは、一般式(2)RfCF=CHZ(ここで、R及びZは一般式(1)に同じである)で表される。
【0048】
具体的な含フッ素オレフィンとしては、原料である上記ハイドロフルオロカーボンの種類にもよるが、例えば、ハイドロフルオロカーボンとしてHFC−245eb又はHFC−245cbを使用すれば、得られる含フッ素オレフィンは、1,1,1,2−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)となる。また、ハイドロフルオロカーボンとしてHFC−236eaを使用すれば、得られる含フッ素オレフィンは、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye)となる。同様に、ハイドロフルオロカーボンとして1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245ca)を使用すれば、得られる含フッ素オレフィンは1,1,2,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1234ye)となる。
第1反応工程における脱フッ化水素反応の反応生成物は、例えば、反応器の出口から排出させることにより抜き出すことができる。
【0049】
本実施形態の製造方法では、脱フッ化水素反応後の原料であるハイドロフルオロカーボンの転化率が高く、しかも、目的物である含フッ素オレフィンの選択率も高い。そのため、例えば、第1反応工程の後、該第1反応工程が行われる反応器から排出される全生成物の流量S(mol/min)に対する、目的物の含フッ素オレフィンの含有割合が大きいものとなる。すなわち、全生成物の流量S(mol/min)に対する副生成物の含有割合が小さいものとなる。以下、具体例を挙げて説明する。
【0050】
例えば、ハイドロフルオロカーボンがHFC−245ebである場合、目的物である含フッ素オレフィンは、HFO−1234yfであるが、通常は副生成物として、E体の1,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(以下、HFO−1234zeと略記する)、Z体のHFO−1234ze及び1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(以下、HFC−245faと略記する)が生成し、これらの他、HFC−245cb及びCOも副生することがある。特に、E体及びZ体のHFO−1234ze及びHFC−245faは、目的生成物の性能を低下させるおそれがあるので、これらはできるだけ少ない方が好ましい。
【0051】
この点、本実施形態の製造方法では、E体及びZ体のHFO−1234ze及びHFC−245faの生成量は低減されている。詳述すると、第1反応工程の後、該第1反応工程が行われる反応器から排出する全生成物の流量S(mol/min)とし、前記全生成物に含まれるE体及びZ体のHFO−1234zeの流量とHFC−245faの流量との合計S1(mol/min)とした場合、流量S(mol/min)に対する合計S1(mol/min)の割合が20%以下となり得る。すなわち、全生成物に含まれる副生成物の割合が低く、目的物であるHFO−1234yfの割合が高いものとなり得る。より好ましくは、全生成物の流量S(mol/min)に対して、前記合計S1(mol/min)が10%以下、特に好ましくは5%以下である。
【0052】
上記のように、本実施形態の製造方法では目的物の選択率が高いため、純度よく目的物である含フッ素オレフィンを製造することができる。そのため、第1反応工程の後、反応器から排出させた流出物を精製せずにそのまま含フッ素オレフィンとして使用することも可能である。
【0053】
また、上記のように得られた流出物は、精製することによって、より高純度で含フッ素オレフィンを得てもよい。この精製をすれば、未反応のハイドロフルオロカーボン及び副生成物等を含む留分を得ることができるので、この留分を再利用することが可能となる。要するに、本実施形態の製造方法では、第1反応工程の後、該第1反応工程が行われる反応器からの流出物の一部又は全部を少なくとも二以上の留分に分離する分離工程を行うことができる。以下、具体例を挙げて説明する。
【0054】
例えば、ハイドロフルオロカーボンがHFC−236ea、HFC−245eb及びHFC−245cbの群から選ばれる少なくとも1種である場合、第1反応工程の後、該第1反応工程が行われる反応器からの上記流出物には、目的生成物であるHFO−1234yf及び上述した副生成物の他、HFC−245ebも含まれ得る。このHFC−245ebは、原料のハイドロフルオロカーボンがHFC−245ebを含めば未反応物であるり、一方、原料がHFC−245ebでなく、HFC−236ea又はHFC−245cbであれば、副生生成物としてのHFC−245ebである。
【0055】
いずれの場合であっても、分離工程によって、第1反応工程が行われる反応器からの流出物の一部又は全部を第1留分と第2留分とに分離することができる。この分離させる手段としては特に限定的ではないが、例えば、沸点差を利用した蒸留操作によって分離することができる。このような分離工程を行うことで、例えば、HFC−245eb濃度が前記分離工程の前よりも増大した留分(第1留分とする)及びHFC−245eb濃度が前記分離工程の前よりも低下した留分(第2留分とする)として得ることができる。
【0056】
分離工程の後、上記第1留分の一部又は全部の脱フッ化水素反応を行えば、第1留分中のHFC−245ebが脱フッ化水素され、これによりHFO−1234yfを得ることができる。従って、原料であるハイドロフルオロカーボン(HFC−245eb)を有効に利用することができ、HFO−1234yfを効率的に製造することができる。
【0057】
上記第1留分に含まれるHFC−245ebの脱フッ化水素をするにあたっては、上述の第1反応工程内で行うようにしてもよい。すなわち、第1反応工程で得られた上記流出物を分離工程で第1留分と第2留分とに分離した後、得られた上記第1留分を再度、第1反応工程にリサイクルしてもよい。この場合、より効率的にHFO−1234yfを製造することができ、原料の転化率及び目的物の選択率をさらに高めることができる。
【0058】
もちろん、第1留分に含まれるHFC−245ebの脱フッ化水素は、第1反応工程とは別の反応工程(例えば、第2反応工程と称する)にて行ってもよい。この第2反応工程においても脱フッ化水素反応は第1反応工程と同様の条件で行うことができる。
【0059】
また、例えば、ハイドロフルオロカーボンがHFC−236ea、HFC−245eb及びHFC−245cbの群から選ばれる少なくとも1種である場合、第1反応工程の後、該第1反応工程が行われる反応器からの流出物には、目的生成物であるHFO−1234yfの他、未反応のHFC−245cbが含まれ得る。このHFC−245cbは、ハイドロフルオロカーボンがHFC−245cbを含めば未反応物であり、一方、原料がHFC−245cbでなく、HFC−236ea又はHFC−245ebであれば、副生生成物としてのHFC−245cbである。
【0060】
この場合も上述と同様に分離工程をすれば、第1反応工程が行われる反応器からの流出物の一部又は全部を2種類の留分(それぞれ、第3留分と第4留分とする)に分離することができる。例えば、第3留分は、HFC−245cb濃度が前記分離工程の前よりも増大した留分であり、前記第4留分は、HFC−245cb濃度が前記分離工程の前よりも低下した留分である。
【0061】
そして、分離工程の後、上記第3留分の少なくとも一部の脱フッ化水素を行えば、第3留分中のHFC−245cbが脱フッ素化されてHFO−1234yfを得ることができる。これにより、原料であるハイドロフルオロカーボン(HFC−245cb)を有効に利用することができ、HFO−1234yfを効率的に製造することができる。
【0062】
上記第3留分に含まれるHFC−245cbの脱フッ化水素をするにあたっては、上述の第1反応工程内で行うようにしてもよい。すなわち、第1反応工程で得られた上記流出物を分離工程で第3留分と第4留分とに分離した後、得られた上記第3留分を再度、第1反応工程にリサイクルしてもよい。この場合、より効率的にHFO−1234yfを製造することができ、原料の転化率及び目的物の選択率をさらに高めることができる。
【0063】
また、上述の第1留分の場合と同様、第3留分に含まれるHFC−245cbの脱フッ化水素は、上記第2反応工程で行ってもよい。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0065】
(実施例1)
ハイドロフルオロカーボンとしてHFC−245ebを使用して第1反応工程の脱フッ化水素反応を実施した。ニオブとクロムの合計原子モル数に対し酸化ニオブが10%添加された酸化クロム触媒(第5族金属を含むクロム系触媒)150gを管型反応器に充填した。触媒を反応に使用する前処理として、触媒を収容した反応器に窒素で希釈した無水フッ化水素を流通させ、反応器の温度を最高350℃に加熱し、フッ素化処理を行った。
【0066】
上記前処理した触媒層に、1L/minで窒素を流通し、電気炉により反応器を加熱した。反応器が所定の温度(本実施例では350℃)に達した後、HFC−245ebの反応器への導入を開始し、代わりに窒素の供給を減少させた。初期の発熱が過大にならないようにHFC−245ebの流通を増加させ、増加させた分窒素の流量を減少させていき、最終的にHFC−245ebの流量が900NmL/minの流量で、窒素の流量が0になるように調整した。その後、酸素ガスを導入した。酸素ガスは、導入するHFC−245ebの流速に対して、10モル%となるように反応器入口から導入した。反応の運転条件は、圧力を0.0MPaG(Gはゲージ圧であることを示す)、反応温度を350℃、W/F0を10g・sec・ml−1となった。
【0067】
上記のように第1反応工程の脱フッ化水素反応を実施して、反応器出口から抜き出された流出物の成分組成を、ガスクロマトグラフを用いて分析した。結果は後掲の表1に示している。
【0068】
(実施例2)
ハイドロフルオロカーボンとしてHFC−245ebを使用して第1反応工程の脱フッ化水素反応を実施した。触媒は、バナジウムとクロムの合計原子モル数に対し酸化バナジウムを1%添加した酸化クロム触媒(第5族金属を含むクロム系触媒)150gを管型反応器に充填した。触媒を反応に使用する前処理として、触媒を収容した反応器に窒素で希釈した無水フッ化水素を流通させ、反応器の温度を最高350℃に加熱し、フッ素化処理を行った。
【0069】
上記前処理した触媒層に、1L/minで窒素を流通し、電気炉により反応器を加熱した。反応器が所定の温度(本実施例では350℃)に達した後、HFC−245ebの反応器への導入を開始し、代わりに窒素の供給を減少させた。初期の発熱が過大にならないようにHFC−245ebの流通を増加させ、増加させた分窒素の流量を減少させていき、最終的にHFC−245ebの流量が900NmL/minの流量で、窒素の流量が0になるように調整した。その後、酸素ガスを導入した。酸素ガスは、導入するHFC−245ebの流速に対して、2モル%となるように反応器入口から導入した。反応の運転条件は、圧力を0.0MPaG(Gはゲージ圧であることを示す)、反応温度を350℃、W/F0を10g・sec・ml−1となった。
【0070】
上記のように第1反応工程の脱フッ化水素反応を実施して、反応器出口から抜き出された流出物の成分組成を、ガスクロマトグラフを用いて分析した。結果は後掲の表1に示している。
【0071】
(比較例1)
ハイドロフルオロカーボンとしてHFC−245ebを使用して第1反応工程の脱フッ化水素反応を実施した。触媒は、酸化クロムをフッ素化したオキシフッ化クロム触媒(第5族金属を含まないクロム系触媒)を用いた。また、触媒を反応に使用する前処理として、触媒を収容した反応器に窒素で希釈した無水フッ化水素を流通させ、反応器の温度を最高350℃に加熱させてフッ素化処理を行った。
【0072】
上記前処理した触媒を、脱フッ化水素反応を行う反応器に収容し、窒素気流中、電気炉により反応器を加熱した。反応器が所定の温度(本実施例では420℃)に達した後、HFC−245ebを反応器に導入し、窒素の供給を停止させた。酸素ガスは反応器入口のHFC−245ebに対して10モル%となるよう適宜、反応器入口から導入した。反応の運転条件は、圧力を0.0MPaG(Gはゲージ圧であることを示す)、反応温度を420℃、W/F0を164g・sec・ml−1とした。
【0073】
上記のように第1反応工程の脱フッ化水素反応を実施して、反応器出口から抜き出された流出物の成分組成を、ガスクロマトグラフを用いて分析した。結果は後掲の表1に示している。
【0074】
【表1】
【0075】
なお、表1中、245ebは、1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロパン、1234yfは、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、245cbは、1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン、1234zeは1,3,3,3−ペンタフルオロプロペン、245faは、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを示す。
【0076】
表1には、使用した触媒の種類、反応温度及びガスクロマトグラフで検出された各成分の選択率(HFO−245ebについては転化率)を示している。
【0077】
実施例1,2では、第5族金属を含むクロム系触媒を触媒として使用して脱フッ化水素反応を行っているので、原料であるHFC−245ebの選択率が高く、目的物であるHFO−1234yfを高い選択率で製造できていることがわかる。一方、比較例1では、第5族金属を含まないクロム系触媒を触媒として使用しているので、実施例1、2よりも反応温度及び接触時間が大きいにもかかわらず、原料の転化率が低く、かつ、目的生成物であるHFO−1234yfの選択率も低いものであった。