(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6623581
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】炉底摺動装置及びコークス炉の診断及び/又は補修装置
(51)【国際特許分類】
C10B 29/06 20060101AFI20191216BHJP
【FI】
C10B29/06
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-132568(P2015-132568)
(22)【出願日】2015年7月1日
(65)【公開番号】特開2017-14394(P2017-14394A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿波 靖彦
【審査官】
齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−126636(JP,A)
【文献】
実開昭55−139143(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B29/00
C10B31/00−45/00
B23Q15/00−28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉炭化室内に挿入して炭化室耐火物の診断及び/又は補修を行う装置(以下「診断補修装置」ともいう。)の炉底摺動装置であって、
炉底に接触して摺動する摺動板を有し、摺動板の反炉底側には炭化室の壁面と平行な広面を有する部分(以下「縦板」という。)を有し、診断補修装置側の摺動板を保持する部分は前記縦板広面をまたいで両側に位置する水冷脚部を形成し、水冷脚部と縦板との間は回転軸を介して回転可能に接続され、
水冷脚部の縦板をまたいだ両側の少なくとも一方には雌ねじ部を有し、雌ねじ部にねじ込まれた押さえボルトによって縦板の広面を押さえつけ、
押さえボルトの締め付けトルクを合計した総トルクを36〜120Nmとすることを特徴とする炉底摺動装置。
【請求項2】
摺動板の炉底と接する摺動面に硬度が80Hs以上のライナーを配置し、診断補修装置作動時にライナーにかかる面圧を3MPa以下とすることを特徴とする請求項1に記載の炉底摺動装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の炉底摺動装置を備えたことを特徴とするコークス炉の診断及び/又は補修装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉炭化室内に挿入して炭化室耐火物の診断及び/又は補修を行う装置の炉底摺動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コークス炉炭化室の壁面は耐火物レンガでおおわれている。該壁面の耐火物に目地切れ、亀裂の発生、レンガの欠損等の損傷が生じると、発生コークス炉ガスが炭化室から燃焼室へ流入して不完全燃焼を生じたり、熱分解カーボンの炉壁への付着の増大あるいは製造したコークスの損傷部への食い込みによって押し詰まりの問題が生じる。
【0003】
炭化室壁面の耐火物の損傷を補修する種々の方法あるいは装置が提案されている。特許文献1には、室炉式コークス炉の炉内を前進後退する台車と、炭化室壁面を撮像する撮像装置、距離計、温度計等を有する観察診断装置と、壁面付着カーボンを燃焼除去するカーボン燃焼除去装置と、付着カーボン等を除去する機械ハツリ除去装置と、耐火物補修を行なう溶射装置とを有するコークス炉の診断補修装置が開示されている。さらに特許文献2には、台車前部にあって前記観察診断装置及び補修装置を空間的に移動するための駆動装置を有し、駆動装置は平行移動機構によって台車上を炭化室の前後方向に移動するコークス炉の診断補修装置が開示されている。
【0004】
炭化室内の診断補修装置における台車の長さは、観察診断装置や補修装置を炭化室の最奥まで挿入するに足りる長さを有している。
【0005】
先端の観察診断補修装置を炭化室に挿入し抽出するための移動を行うため、台車には駆動装置が配設される。駆動装置本体として電動モーターが用いられ、駆動装置本体と台車との間の伝動手段にはチェンスプロケットを採用することが多い。
【0006】
台車の長さが長く、また炭化室内に挿入される台車先端部分には診断補修装置が配置されているために重量が大きい。そのため、台車を片持ち構造で支持することは困難であり、台車先端の炭化室炉底に接する部分に摺動板を有する炉底摺動装置を設け、この摺動板が炉底に接触して摺動することによって診断補修装置を支持する。
【0007】
台車先端の診断補修装置を摺動板によって支持し、チェンスプロケットを用いて炭化室への進退を行う装置において、診断補修装置の炉内移動速度が大きな増減速を繰り返す現象が見られた。診断補修装置に配置したカメラが炉内で移動する速度が一定とならず、周期が1〜2Hz程度のぎくしゃくした速度で移動するため、良好な画像を得ることができない。これに対して特許文献3に開示した速度変動抑制装置を設けることにより、このようなぎくしゃくした動きを解消することができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−212566号公報
【特許文献2】特開2004−277527号公報
【特許文献3】特開2004−213205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3に記載の発明により、診断補修装置を進退する際の周期が1〜2Hz程度のぎくしゃくした動き(低周波速度変動)を解消することができた。一方、同じく炭化室内において診断補修装置を進退する際、100〜1000Hzの高周波のビビリ振動が発生することがわかった。このような高周波のビビリ振動が発生すると、振動が炭化室の耐火物に伝わり、コークス炉を形成する煉瓦にずれが生じる懸念がある。また、炭化室内の診断時に撮影画像を乱れさせる原因ともなる。
【0010】
本発明は、台車先端の診断補修装置を炉底摺動装置の摺動板で支持する場合において、ビビリ振動が発生することなく、炭化室内への進退が可能となる炉底摺動装置及びコークス炉の診断及び/又は補修装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
(1)コークス炉炭化室内に挿入して炭化室耐火物の診断及び/又は補修を行う装置(以下「診断補修装置」ともいう。)の炉底摺動装置であって、
炉底に接触して摺動する摺動板を有し、摺動板の反炉底側には炭化室の壁面と平行な広面を有する部分(以下「縦板」という。)を有し、診断補修装置側の摺動板を保持する部分は前記縦板広面をまたいで両側に位置する水冷脚部を形成し、水冷脚部と縦板との間は回転軸を介して回転可能に接続され、
水冷脚部の縦板をまたいだ両側の少なくとも一方には雌ねじ部を有し、雌ねじ部にねじ込まれた押さえボルトによって縦板の広面を押さえつけ
、
押さえボルトの締め付けトルクを合計した総トルクを36〜120Nmとすることを特徴とする炉底摺動装置
。
(2)摺動板の炉底と接する摺動面に硬度が80Hs以上のライナーを配置し、診断補修装置作動時にライナーにかかる面圧を3MPa以下とすることを特徴とする上記(
1)に記載の炉底摺動装置。
(
3)上記(1)
又は(2)に記載の炉底摺動装置を備えたことを特徴とするコークス炉の診断及び/又は補修装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、コークス炉炭化室内に挿入して炭化室耐火物の診断補修を行う装置において、炉底摺動装置の摺動板は縦板部分を有し、診断補修装置側の水冷脚部が縦板広面をまたいで両側に位置し、水冷脚部と縦板との間は回転軸を介して回転可能に接続され、水冷脚部の縦板をまたいだ両側の少なくとも一方にねじ込まれた押さえボルトによって縦板の広面を押さえつけることにより、ビビリ振動が発生することなく、炭化室内への進退が可能となるので、煉瓦ずれの発生を防止し、診断時の撮像画像乱れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の炉底摺動装置を示す部分図であり、(a)は側面図、(b)はB−B矢視断面図、(c)はC−C矢視断面図である。
【
図2】本発明の炉底摺動装置を分解した部分図であり、(a)は側面図、(b)はB−B矢視断面図である。
【
図3】コークス炉の診断補修装置を炉内に挿入した状況を示す図であり、(a)は補修装置、(b)は診断装置である。
【
図4】コークス炉の診断補修装置と走行台車の位置関係を示す平面図である。
【
図5】コークス炉の診断補修装置を炉内に挿入する途中段階を示す側面図であり、(a)は診断補修装置が炉外側にあるとき、(b)は炉内側に重心が移動した時点の状況である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のコークス炉炭化室の炉底摺動装置を有する診断補修装置について
図1〜
図5に基づいて説明する。
【0015】
診断補修装置の台車3は、炉底摺動装置6の摺動板8によってコークス炉炉底2に接地し、炭化室1内を前進後退することができる。台車3の前進後退は、コークス炉炉外に配置された図示しない挿入駆動部によって行う。台車3の前部は炉室の最も奥まで前進することを要する一方、挿入駆動部は常に炉外に位置するため、台車3は炭化室1の長さに相当する長さを有するものとなる。
【0016】
台車3は、
図3、4に示すように走行台車14の上に設置することができる。走行台車14はレールの上を炉団長方向32に走行可能であり、これにより補修を実施すべき炭化室1まで移動する。診断補修装置4,5の台車3と走行台車14との接触部については、台車に車輪を設け、走行台車にレールを設け、レール上を車輪が走行する形状とすることができる。また、
図3に示すように、走行台車14上に受けローラ21、22を設け、台車3が受けローラ21、22上に載置されて走行する形状としても良い。コークス炉の押出機側には、押出機を搭載した押出機台車が配置され、押出機台車はレールの上を走行して炉団長方向に移動する。本発明の診断補修装置を搭載した走行台車として、押出機台車とは別の走行台車を準備することもでき、この場合には押出機台車と走行台車が同一のレール上を炉団長方向に移動することとなる。あるいは、押出機台車そのものを走行台車として利用し、押出機台車の上に押出機とともに診断補修装置を搭載することとしても良い。
【0017】
台車3の炉内先端部には、診断装置4や補修装置5が搭載される。台車先端部と観察診断装置、補修装置を着脱可能とすれば、観察診断時には観察診断装置を搭載し、補修時には補修装置を搭載することができる。
図4に示す例では、診断装置4と補修装置5が別々の台車に搭載されている。
【0018】
台車先端の炭化室炉底に接する部分に摺動板8を有する炉底摺動装置6を設け、この摺動板8が炉底2に接触して摺動するによって診断補修装置を支持する。摺動板8は、
図1、2に示すように、摺動面を広面とする敷板19を有するとともに、摺動板8の反炉底側には炭化室の壁面と平行な広面を有する部分(縦板18)を有する。敷板19と縦板18は一体に構成され、全体として摺動板8となる。炉底摺動装置6のうち、診断補修装置側の摺動板を保持する部分は縦板18広面をまたいで両側に位置する水冷脚部7を形成し、水冷脚部7と縦板18との間は回転軸11を介して回転可能に接続される。水冷脚部7は、冷却水が流通するジャケット構造の水路17を有し、炭化室内においても水冷脚部の温度を低い温度に保持することができる。
【0019】
摺動板8が接する炉底煉瓦は、摺動板8からの面圧を受ける。炉底煉瓦の破損を防止するためには、摺動板8からの面圧が少ないほど好ましい。そのため、摺動板の敷板19については、炉幅方向32にも極力広い幅を有するとともに、炉長方向31についても所定の長さを有することにより、炉底に接触する敷板19の面積を広く取り、面圧の低減を図っている。摺動板8が炉長方向31に所定の長さを有していることから、水冷脚部7についても、炉長方向31の長さを摺動板長さ以下の範囲で所定の長さとすることができる。そして、摺動板8の縦板18にまたがるように構成された水冷脚部7は、水冷脚部7の炉長方向長さの範囲で、縦板18の広面に両側から対面することとなる。以下、水冷脚部7と縦板18とが対面する部分(
図2のドットハッチング部分)を「対面部33」と呼ぶ。摺動板8が回転するための回転軸11も、対面部33に設けられる。
【0020】
本発明は、縦板18をまたいだ水冷脚部7の両側の対面部33のうち、少なくとも一方には雌ねじ部13を有する(
図2参照)。雌ねじ部13は、炉長方向に複数設けると好ましい。また、回転軸11をはさんで炉長方向31の両側に設けると良い。雌ねじ部13には押さえボルト12をねじ込む。縦板18の両側から押さえボルト12をねじ込んだ場合、縦板18の広面に接触させた上で、さらに所定のトルクとなるまで押さえボルト12をねじ込み、ねじ込まれた押さえボルト12によって縦板18の広面を両側から押さえつける。水冷脚部7の縦板18をまたいだ両側の対面部のうち、一方のみに押さえボルト12を設けた場合、対面部33のうちの他の面には、一方の面から押さえボルト12で縦板18が押されたときに縦板18を受けるための支えが設けられていればよい。
【0021】
図1、2に示すように、水冷脚部7に炉幅方向片側に6本、反対側に6本の押さえボルト12を設けた例について検討する。炉長方向31では回転軸11の両側にそれぞれ3本ずつ配置している。押さえボルト12としてねじピッチp=3mm、効率η=0.4のものを用いた。水冷脚部7の剛性を配慮して、剛性の範囲内で押さえボルト12のねじ込みトルクを順次増大させ、炭化室内において診断補修装置4,5を進退する際の100〜1000Hzのビビリ振動発生有無を確認した。すると、ねじ込みトルクが一定の値以上となると、診断補修装置4,5を進退させてもビビリ振動が発生しなくなることがわかった。ビビリ振動を抑えることのできるねじ込みトルクは、押さえボルト12、1本あたりで3〜10Nmの範囲内であった。押さえボルトは両側合計で12本なので、ビビリ振動を抑えることのできる総トルクは36〜120Nmとなる。なお、水冷脚部7の縦板18をまたいだ両側の対面部33のうち、一方の面のみに押さえボルト12を設け、他の面には押さえボルト12に対応する位置に縦板18を受けるための支えを設けている場合には、押さえボルト12を設けた側の総トルクが18〜60Nmであれば、同じ効果を発揮することができる。
【0022】
今、縦板18の両側に合計でN個の押さえボルト12を設けた場合を考える。i番目(i=1〜N)の押さえボルト12をトルクM
iでねじ込んだときの、押さえボルト12が縦板18を押しつける軸力Q
iは、一般に
Q
i=2πηM
i/p
と表される。pはねじピッチ、ηは効率である。
【0023】
また、回転軸11からi番目の押さえボルト12までの距離をr
iとおくと、摺動板8を回転軸11まわりに回転しようとしたときに抵抗として働くトルクT
iは、
T
i=r
i×μQ
i
となるので、N本の押さえボルト12全体では、
T=Σ
i=1N(r
i×μQ
i)=(2πημ/p)Σ
i=1N(r
i×M
i)
となる。即ち、押さえボルトをねじ込むトルクMを大きくするほど、摺動板8を回転軸11まわりに回転するときの抵抗として働くトルクTが大きくなる。
【0024】
上記実施結果についてみると、炉幅方向片側あたり6本の押さえボルト12のねじピッチp=3mm(0.003m)、効率η=0.4のものを用いており、回転軸11から押さえボルト12までの距離は、6本のうち2本は0.245m、2本は0.325m、2本は0.405mであり、押さえボルト本数は片側あたり6本なので両側でN=12である。摩擦係数μ=0.4として、1本あたりのねじ込みトルクをM=3Nmとすると、T=4.9KNmと計算できる。
【0025】
ビビリ振動の源となる力(回転力)は、摺動板8にかかる荷重Wが大きいほど、また摺動板8の大きさが大きいほど大きくなると推定される。摺動板8の大きさを摺動板8の炉長方向長さをLとしてL/2で代表させる。上記実施結果では、W=62.7KN、L=0.92mであり、W(N)×(L(m)/2)=28.8KNmとなる。上記計算したT(Nm)との対比を行うと、T/(W×L)が0.09以上であれば、ビビリ振動の発生を防止できることがわかった。なお、水冷脚部7の縦板18をまたいだ両側の対面部33のうち、一方の面のみに押さえボルト12を設け、他の面には押さえボルト12に対応する位置に縦板18を受けるための支えを設けている場合には、押さえボルト12を設けた側で合計したTを用い、T/(W×L)が0.18以上であれば、ビビリ振動の発生を防止できる。
【0026】
本発明では、押さえボルト12によって摺動板8の縦板18の両側から縦板に軸力を負荷することにより、発明の目的を達している。押さえボルト12からの軸力は、雌ねじ部13を有する水冷脚部7の剛性により保持されている。水冷脚部7は縦板18をまたぐ形状を有しており、水冷構造であるため、高温の炭化室炉内でも低温状態を保持することができ、押さえボルト12で押さえるために必要な剛性を十分に確保することができる。また、熱による水冷脚部7の変形もないので、押さえボルト12は常時一定の軸力で縦板18に押しつけることが可能である。水冷脚部7に冷却水を循環する水路は、診断装置4や補修装置5の装置本体に供給する冷却水水路とつながっており、常時冷却水が供給されている。また、回転軸11は、ブッシュを介して水冷脚部7に接触しているので熱伸縮はなく、ブッシュの劣化も見られない。
【0027】
押さえボルト12による押しつけ力を一定に保持するため、押さえボルト12を所定のトルクでねじ込んだ後、ロックナット20によって押さえボルト12の回転を防止するようにすると好ましい(
図1、2参照)。
【0028】
台車3を下方から支持しつつ炉長方向への台車の進退をスムーズにするため、炭化室の窯口近くの炉外に受けローラ21が配置されることがある。受けローラ21は走行台車14上に設置し、台車3の下部が受けローラ21に接し、台車3を炉長方向31へ進退させるときは受けローラ21の上を台車3が移動し、受けローラ21が回転する。台車3が炉外側にあって台車3と診断補修装置4,5の全体の重心が受けローラより炉外側に存するときは、
図5(a)に示すように、台車は受けローラ21と反炉側の別の受けローラ22に支持され、摺動板8の摺動面は炉底位置よりも高い位置にある。台車3を炉内側に移動して進入させるとき、台車3と診断補修装置4,5の全体の重心が受けローラ21よりも炉内側に移動すると、
図5(b)に示すように診断補修装置4,5の部分が下降し、摺動板8が炉底2に接触して摺動板8によって診断補修装置4,5が支持される。このとき、台車3と診断補修装置4,5は炉内側先端が下がった傾斜を持つので、摺動板8が炉底2に接触するに際しては、摺動板8の全体が炉底2に接触するために、水冷脚部7と接続された回転軸11まわりに摺動板8が回転する必要がある。このとき、押さえボルト12による押しつけ力が強すぎると摺動板8が回転軸11まわりに回転することが阻害されるので好ましくない。本発明においては、摺動板8を回転軸11まわりに回転するときの抵抗として働くトルクTが過大であると、摺動板8の回転を阻害することになる。従って、押さえボルト12の締め付けトルクとしては、ビビリ振動の発生を防止する最低トルクを下限とし、摺動板8が炉底2に平行になるように回転することのできる最大トルクを上限とし、この範囲内の締め付けトルクとする。
【0029】
上記実施した例では、装置が炭化室1内に前進して台車3と診断補修装置4,5の重心が受けローラ21よりも炭化室1側に移動し、摺動板8が炉底に設置する際に摺動板8にかかる荷重は、診断装置4の場合で6〜7トン重(58.8〜68.6KN)、補修装置5の場合で8〜9トン重(78.4〜88.2KN)であり、摺動板8の長さが0.92mであるから、摺動板8の一方の端部のみが炉底に接地したときに摺動板8の回転軸11回りのモーメントは26.5KNmとなる。摺動板8が回転して炉底2に平行になり得るためには、押さえボルトによって摺動板8の回転を抑止するトルクTがこのモーメント以下である必要がある。上記実施した例では、T=4.9KNmであるから、摺動板8の回転を抑止することなく、摺動板8の全体が炉底2に設置することができる。
【0030】
摺動板8は、炉底2と接する面にライナー9を設けると良い。さらに、ライナー9として硬度が80Hs以上の材質を用いるとともに、診断補修装置4,5の作動時にライナー9にかかる面圧を3MPa以下とすることにより、さらに良好な結果を得ることができる。ライナー材質としてSUS304を用いた場合、硬度は30Hsであり、押さえボルト12を用いることによってビビリ振動を低減することができたが、完全な解消には至らなかった。それに対して、ライナー材質として硬度が90Hsである高クロム鋳鉄を採用したところ、押さえボルト12との併用により、ビビリ振動を完全に解消することができた。ライナー9にかかる面圧を低減するためには、ライナー9の炉長方向長さと炉幅方向の幅を確保すればよい。上記実施結果では、面圧は0.2〜0.3MPaであった。
【0031】
上記本発明の炉底摺動装置を備えたコークス炉の診断装置、補修装置、診断補修装置については、炭化室1内で炉長方向に進退するに際してもビビリ振動が発生しないか発生してもわずかであるため、コークス炉を形成する煉瓦にずれが生じる懸念が解消し、さらに炭化室1内の診断時に撮影画像を乱れさせることもなくなった。
【符号の説明】
【0032】
1 炭化室
2 炉底
3 台車
4 診断装置
5 補修装置
6 炉底摺動装置
7 水冷脚部
8 摺動板
9 ライナー
11 回転軸
12 押えボルト
13 雌ねじ部
14 走行台車
17 水路
18 縦板
19 敷板
20 ロックナット
21 受けローラ
22 受けローラ
31 炉長方向
32 炉団長方向(炉幅方向)
33 対面部