(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜4のいずれかに記載の非対称ガス分離膜を用いて、二酸化炭素とメタンを含む混合ガスから二酸化炭素ガスを選択的に分離し、メタンリッチガスを回収する方法。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示されるガス分離膜は、酸素と窒素の分離比は最大でも4.8であり、また、特許文献2に示されるガス分離膜は、酸素と窒素の分離比は最大でも4.9であり、更なる分離比の向上が望まれていた。
【0007】
特許文献3に示されるガス分離膜は、透過性が十分ではなく、透過性の更なる改良が望まれていた。
【0008】
本発明の課題は、特定の反復単位からなる可溶性の芳香族ポリイミドで形成され、改良されたガス分離性能とガス透過性を併せ持った非対称ガス分離膜、及び前記非対称ガス分離膜を用いてガスを分離回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記化学式(1)で示される反復単位からなる可溶性の芳香族ポリイミドで形成されている非対称ガス分離膜に関する。
【0010】
【化1】
〔但し、化学式(1)のAは4価のユニットであり、
そして、化学式(1)のBは、
その30〜90モル%が、下記化学式(2)で示される2価のユニットB1、及び/又は、下記化学式(3)で示される2価のユニットB2であり、
【0011】
【化2】
(式中、R及びR’は水素原子又は有機基であり、nは0、1又は2である。)
【0012】
【化3】
(式中、R及びR’は水素原子又は有機基であり、Xは−CH2−又は−CO−である。)
その5〜50モル%が、下記化学式(4)で示される2価のユニットB3であり、
【0013】
【化4】
(式中、R及びR’は水素原子又は有機基である。)
その5〜20モル%が、下記化学式(6)で示される2価のユニットB4である。〕
【0014】
【化5】
(式中、R及びR’は水素原子又は有機基である。)
【0015】
さらに本発明は、酸素ガス透過速度(P’
O2)が2.0×10
−5cm
3(STP)/cm
2・sec・cmHg以上で且つ酸素ガス透過速度と窒素ガス透過速度との比(P’
O2/P’
N2)が6.0以上のガス分離性能を有すことを特徴とする前記の非対称中空糸ガス分離膜に関する。
【0016】
さらに本発明は、前記Aの40〜90モル%が、下記化学式(6)で示されるビフェニル構造に基づく4価ユニットA1であり、
【0017】
【化6】
その10〜60モル%が、下記化学式(7)で示されるジフェニルヘキサフルオロプロパン構造に基づく4価ユニットA2であることを特徴とする前記の非対称中空糸ガス分離膜に関する。
【0018】
【化7】
【0019】
さらに本発明は、前記Aの1〜20モル%が、下記化学式(8)で示されるフェニル構造に基づく4価のユニットA3であることが好ましい。A3が1〜20モル%含まれると、中空糸の強度が向上することがある。
【0020】
【化8】
【0021】
さらに本発明は、前記の非対称ガス分離膜を用いて、複数のガスを含む混合ガスから特定のガスを選択的に分離回収する方法に関し、空気から窒素リッチガスを選択的に分離回収する方法に関し、二酸化炭素とメタンを含む混合ガスから二酸化炭素ガスを選択的に分離し、メタンリッチガスを回収する方法に関し、水素ガスを含む混合ガスから水素ガスを選択的に分離回収する方法に関する。
【0022】
さらに本発明は、前記の非対称ガス分離膜を用いて、水蒸気を含むガスから水蒸気を選択的に分離し、除湿したガス回収する方法、もしくは、ガスを加湿して、加湿されたガスを回収する方法に関する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によって、高いガス分離性能、特に高いガス分離係数を有する非対称ガス分離膜を得ることができる。また、本発明の非対称ガス分離膜は、例えば酸素ガスと窒素ガスとのガス分離性能、二酸化炭素ガスとメタンガスとのガス分離性能、及び水素ガスとメタンガスとのガス分離性能などが優れているので、たとえば、空気を分離して窒素リッチガスを回収する、二酸化炭素とメタンガスとを含む混合ガスからメタンリッチガスを回収する、または、水素ガスとメタンガスなどからなる混合ガスから水素リッチガスを回収するなどの特定のガスを選択的に分離回収するのに好適に用いることができる。さらには、水蒸気を含むガスから水蒸気を分離し除湿ガスを得る、又はガスを加湿して加湿ガスを得るのに好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、特定の反復単位からなる可溶性の芳香族ポリイミドで形成され、主としてガス分離性能を担う極めて薄い緻密層(好ましくは厚さが0.001〜5μm)とその緻密層を支える比較的厚い多孔質層(好ましくは厚さが10〜2000μm)とからなる非対称構造を有する非対称ガス分離膜であり、好ましくは、内径が10〜3000μmで外径が30〜7000μm程度の中空糸膜であって、改良されたガス分離性能を有する非対称中空糸ガス分離膜である。
【0025】
本発明の非対称中空糸ガス分離膜を形成する芳香族ポリイミドは、前記化学式(1)の反復単位で示される。
すなわち、ジアミン成分に起因する2価のユニットBは、Bの全量に対して30〜90モル%、好ましくは50〜80モル%の前記化学式(2)及び/又は前記化学式(3)で示される構造からなるユニットと、5〜50モル%、好ましくは10〜40モル%の前記化学式(4)で示される3,3’の位置で結合したジフェニルスルホン構造からなるユニットと、5〜20モル%、好ましくは10〜15モル%の前記化学式(5)で示されるジフェニルエーテル構造からなるユニットで構成される。前記化学式(4)で示される3,3’の位置で結合したジフェニルスルホン構造からなるユニットが5モル%未満ではガス分離性能を改良できない場合がある。また50モル%を超えると、良好な非対称構造を形成しにくいので好ましくない場合がある。
【0026】
また、テトラカルボン酸成分に起因する4価のユニットAは、Aの全量に対して40〜90モル%、好ましくは50〜80モル%、さらに好ましくは60〜70モル%の前記化学式(6)で示されるビフェニル構造からなるユニットと、10〜60モル%、好ましくは20〜50モル%、さらに好ましくは30〜40モル%の前記化学式(7)で示されるジフェニルヘキサフルオロプロパン構造からなるユニットと、からなることが好ましい。さらに、4価のユニットAには、1〜20モル%、好ましくは5〜20モル%の前記化学式(8)で示されるフェニル構造からなるユニットを含んでもよい。ビフェニル構造が40モル%未満だと得られるポリイミドのガス分離性が低下することが多く、90モル%より多いと、ガス透過性が低下し、高性能ガス分離膜を得ることが難しくなる場合がある。ジフェニルヘキサフルオロプロパン構造が60モル%を超える、得られるポリイミドのガス分離性能が低下して、高性能ガス分離膜を得ることが難しくなる場合がある。
【0027】
この芳香族ポリイミドの前記各ユニットを構成するモノマー成分について説明する。
前記化学式(2)又は前記化学式(3)で示される構造からなるユニットは、ジアミン成分として、それぞれ、下記化学式(9)及び化学式(10)で示される芳香族ジアミンを用いることによって得られる。
【0028】
【化9】
(式中、R及びR’は水素原子、又は有機基(好ましくは炭素数が1〜5のアルキル基)であり、nは0、1又は2である。
【0029】
【化10】
(式中、R及びR’は水素原子、又は有機基(好ましくは炭素数が1〜5のアルキル基)であり、Xは−CH
2−又は−CO−である。)
前記化学式(9)で示される芳香族ジアミンとしては、化学式(8)のnが0である下記化学式(11)で示されるジアミノジベンゾチオフェン類、又は化学式(8)のnが2である下記化学式(12)で示されるジアミノジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシド類を好適に挙げることができる。
【0030】
【化11】
(式中、R及びR’は水素原子又は有機基である。
【0031】
【化12】
(式中、R及びR’は水素原子又は有機基である。)
前記のジアミノジベンゾチオフェン類(化学式(11))としては、例えば3,7−ジアミノ−2,8−ジメチルジベンゾチオフェン、3,7−ジアミノ−2,6−ジメチルジベンゾチオフェン、3,7−ジアミノ−4,6−ジメチルジベンゾチオフェン、2,8−ジアミノ−3,7−ジメチルジベンゾチオフェン、3,7−ジアミノ−2,8−ジエチルベンゾチオフェン、3,7−ジアミノ−2,6−ジエチルベンゾチオフェン、3,7−ジアミノ−4,6−ジエチルベンゾチオフェン、3,7−ジアミノ−2,8−ジプロピルジベンゾチオフェン、3,7−ジアミノ−2,6−ジプロピルジベンゾチオフェン、3,7−ジアミノ−4,6−ジプロピルジベンゾチオフェン、3,7−ジアミノ−2,8−ジメトキシジベンゾチオフェン、3,7−ジアミノ−2,6−ジメトキシジベンゾチオフェン、3,7−ジアミノ−4,6−ジメトキシジベンゾチオフェンなどを挙げることができる。
【0032】
前記のジアミノジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシド類(化学式(12))としては、例えば3,7−ジアミノ−2,8−ジメチルジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシド、3,7−ジアミノ−2,6−ジメチルジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシド、3,7−ジアミノ−4,6−ジメチルジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシド、2,8−ジアミノ−3,7−ジメチルジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシド、3,7−ジアミノ−2,8−ジエチルベンゾチオフェン=5,5−ジオキシド、3,7−ジアミノ−2,6−ジエチルベンゾチオフェン=5,5−ジオキシド、3,7−ジアミノ−4,6−ジエチルベンゾチオフェン=5,5−ジオキシド、3,7−ジアミノ−2,8−ジプロピルジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシド、3,7−ジアミノ−2,6−ジプロピルジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシド、3,7−ジアミノ−4,6−ジプロピルジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシド、3,7−ジアミノ−2,8−ジメトキシジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシド、3,7−ジアミノ−2,6−ジメトキシジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシド、3,7−ジアミノ−4,6−ジメトキシジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシドなどを挙げることができる。
【0033】
前記の化学式(10)において、Xが−CH
2−であるジアミノチオキサンテン−10,10−ジオン類としては、例えば3,6−ジアミノチオキサンテン−10,10−ジオン、2,7−ジアミノチオキサンテン−10,10−ジオン、3,6−ジアミノ−2,7−ジメチルチオキサンテン−10,10−ジオン、3,6−ジアミノ−2,8−ジエチル−チオキサンテン−10,10−ジオン、3,6−ジアミノ−2,8−ジプロピルチオキサンテン−10,10−ジオン、3,6−ジアミノ−2,8−ジメトキシチオキサンテン−10,10−ジオン、等を挙げることができる。
【0034】
前記の化学式(10)において、Xが−CO−であるジアミノチオキサンテン−9,10,10−トリオン類としては、例えば3,6−ジアミノ−チオキサンテン−9,10,10−トリオン、2,7−ジアミノ−チオキサンテン−9,10,10−トリオンなどを挙げることができる。
【0035】
また、前記化学式(4)で示される3,3’の位置で結合したジフェニルスルホン構造からなるユニットは、ジアミン成分として、下記化学式(13)で示される、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、又は3,3’−ジアミノ−4,4’−ジメチル−ジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジエチル−ジフェニルスルホンなどの3,3’−ジアミノジフェニルスルホン誘導体を用いることによって得られる。
【0036】
【化13】
(式中、R及びR’は水素原子、又は有機基(好ましくは炭素数が1〜5のアルキル基)である。)
また、前記化学式(5)で示されるジフェニルエーテル構造からなるユニットは、ジアミン成分として、下記化学式(14)で示される、ジアミノジフェニルエーテル類を用いることによって得られる。
【0037】
【化14】
(式中、R及びR’は水素原子、又は有機基(好ましくは炭素数が1〜5のアルキル基)である。)
前記のジアミノジフェニルエーテル類(化学式(14))としては、例えば4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、などを挙げることができる。
【0038】
前記化学式(6)で示されるビフェニル構造からなるユニットは、テトラカルボン酸成分として、ビフェニルテトラカルボン酸、その二無水物、又はそのエステル化物などのビフェニルテトラカルボン酸類を用いることによって得られる。前記ビフェニルテトラカルボン酸類としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸、それらの二無水物、又はそれらのエステル化物を好適に用いることができるが、特に3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、その二無水物、又はそのエステル化物が好適である。
【0039】
前記化学式(7)で示されるジフェニルヘキサフルオロプロパン構造からなるユニットは、テトラカルボン酸成分として、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸、その二無水物、又はそのエステル化物を用いることによって得られる。
【0040】
前記化学式(8)で示されるフェニル構造からなるユニットは、テトラカルボン酸成分として、ピロメリット酸、その二無水物、又はそのエステル化物を用いることによって得られる。
【0041】
本発明の非対称中空糸ガス分離膜を形成する芳香族ポリイミドのジアミン成分は、2価のユニットBの全量に対して、30〜90モル%の前記ジアミノジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシド類、とりわけ3,7−ジアミノ−ジメチルジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシドと、5〜50モル%の前記化学式(13)で示される3,3’−ジアミノジフェニルスルホン類、とりわけ3,3’−ジアミノジフェニルスルホンと、5〜20モル%の前記化学式(14)で示されるジアミノジフェニルエーテル類、とりわけ4,4’−ジアミノジフェニルエーテルの組合せが特に好適に用いられる。なお、3,7−ジアミノ−ジメチルジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシドは、メチル基の位置が異なる異性体のいずれか、又はそれら異性体の混合物を意味する。通常は、3,7−ジアミノ−2,8−ジメチルジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシド、3,7−ジアミノ−2,6−ジメチルジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシド、3,7−ジアミノ−4,6−ジメチルジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシドを含む混合物が好適に用いられる。
【0042】
また、本発明の非対称中空糸ガス分離膜を形成する芳香族ポリイミドでは、前述のテトラカルボン酸成分とジアミン成分以外のモノマー成分を、本発明の効果を維持し得る範囲内で少量(通常は20モル%以下特に10モル%以下)用いても構わない。
【0043】
本発明の非対称中空糸ガス分離膜を形成する芳香族ポリイミドは可溶性のものである。本発明において「可溶性」とは有機極性溶媒への溶解性が優れていることを言い、前述のテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを略等モル用いて有機極性溶媒中で重合及びイミド化することによって容易に高重合度の芳香族ポリイミド溶液として得ることができる。その結果、この芳香族ポリイミド溶液を用いて乾湿式紡糸法によって非対称中空糸膜を好適に得ることができる。
【0044】
前記芳香族ポリイミド溶液の調製は、有機極性溶媒中にテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを所定の組成比で加え、室温程度の低温で重合反応させてポリアミド酸を生成し次いで加熱して加熱イミド化するか又はピリジンなどを加えて化学イミド化する2段法、または、有機極性溶媒中にテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを所定の組成比で加え、100〜250℃好ましくは130〜200℃程度の高温で重合イミド化反応させる1段法によって好適に行われる。加熱によってイミド化反応を行うときは脱離する水またはアルコールを除去しながら行うことが好適である。有機極性溶媒に対するテトラカルボン酸成分とジアミン成分の使用量は、溶媒中のポリイミドの濃度が5〜50重量%程度、好ましくは5〜40重量%にするのが好適である。
【0045】
重合イミド化して得られた芳香族ポリイミド溶液は、そのまま直接紡糸に用いることもできる。また、例えば得られた芳香族ポリイミド溶液を芳香族ポリイミドに対し非溶解性の溶媒中に投入して芳香族ポリイミドを析出させて単離後、改めて有機極性溶媒に所定濃度になるように溶解させて芳香族ポリイミド溶液を調製し、それを紡糸に用いることもできる。
【0046】
紡糸に用いる芳香族ポリイミド溶液は、ポリイミドの濃度が5〜40重量%、更には8〜25重量%になるようにするのが好ましく、溶液粘度は100℃で100〜15000ポイズ、好ましくは200〜10000ポイズ、特に300〜5000ポイズであることが好ましい。溶液粘度が100ポイズ未満では、均質膜(フィルム)は得られるかもしれないが、機械的強度の大きな非対称中空糸膜を得ることは難しい。また、15000ポイズを超えると、紡糸ノズルから押し出しにくくなるため目的の形状の非対称中空糸膜を得ることは難しい。溶液粘度は、後述する実施例に詳述した方法によって測定することができる。
【0047】
前記有機極性溶媒としては、得られる芳香族ポリイミドを好適に溶解できるものであれば限定されるものではないが、例えばフェノール、クレゾール、キシレノールのようなフェノール類、2個の水酸基をベンゼン環に直接有するカテコール、レゾルシンのようなカテコール類、3−クロルフェノール、4−クロルフェノール(後述のパラクロロフェノールに同じ)、3−ブロムフェノール、4−ブロムフェノール、2−クロル−5−ヒドロキシトルエンなどのハロゲン化フェノール類などからなるフェノール系溶媒、又はN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアミド類からなるアミド系溶媒、あるいはそれらの混合溶媒などを好適に挙げることができる。
【0048】
本願発明のポリイミド非対称ガス分離膜は、前記芳香族ポリイミド溶液を用いて、乾湿式法による紡糸(乾湿式紡糸法)によって好適に得ることができる。乾湿式法は、膜形状にしたポリマー溶液の表面の溶媒を蒸発させて薄い緻密層(分離層)を形成し、更に、凝固液(ポリマー溶液の溶媒とは相溶し、ポリマーは不溶な溶剤)に浸漬し、その際生じる相分離現象を利用して微細孔を形成して多孔質層(支持層)を形成させる方法(相転換法)であり、Loebらが提案(例えば、米国特許3133132号)したものである。乾湿式紡糸法は、紡糸用ノズルを用いて乾湿式法によって中空糸膜を形成する方法であり、例えば特許文献1や特許文献2などに記載されている。
【0049】
すなわち、紡糸ノズルは、芳香族ポリイミド溶液を中空糸状体に押し出すものであればよく、チューブ・イン・オリフィス型ノズルなどが好適である。通常、押し出す際の芳香族ポリイミド溶液の温度範囲は約20℃〜150℃、特に30℃〜120℃が好適である。また、ノズルから押し出される中空糸状体の内部へ気体または液体を供給しながら紡糸がおこなわれる。
【0050】
凝固液は、芳香族ポリイミド成分を実質的には溶解せず且つ芳香族ポリイミド溶液の溶媒と相溶性があるものが好適である。特に限定するものではないが、水や、メタノール、エタノール、プロピルアルコールなどの低級アルコール類や、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトンなどの低級アルキル基を有するケトン類など、あるいは、それらの混合物が好適に用いられる。
【0051】
凝固工程では、ノズルから中空糸形状に吐出された芳香族ポリイミド溶液がその形状を保持できる程度に凝固させる一次凝固液に浸漬し、次いで完全に凝固させるための二次凝固液に浸漬するのが好ましい。凝固した中空糸分離膜は炭化水素などの溶媒を用いて凝固液と溶媒置換させたあとで乾燥し、更に加熱処理するのが好適である。加熱処理は、用いられた芳香族ポリイミドの軟化点又は二次転移点よりも低い温度で行うことが好ましい。
【0052】
本発明の非対称中空糸ガス分離膜は、主としてガス分離性能を担う極めて薄い緻密層(好ましくは厚さが0.001〜5μm)とその緻密層を支える比較的厚い多孔質層(好ましくは厚さが10〜2000μm)とからなる非対称構造を有し、内径が10〜3000μmで外径が30〜7000μm程度の中空糸膜であって、改良された優れたガス分離性能を有する。すなわち、本発明の非対称中空糸ガス分離膜は、好適には、50℃における酸素ガス透過速度(P’
O2)が2×10
-5cm
3(STP)/cm
2・sec・cmHg以上で且つ酸素ガス透過速度と窒素ガス透過速度との比(P’
O2/P’
N2)が6以上である。より好ましくは、50℃における酸素ガス透過速度(P’
O2)が2.5×10
-5cm
3(STP)/cm
2・sec・cmHg以上、さらに好ましくは、3.0×10
-5cm
3(STP)/cm
2・sec・cmHg以上で且つ酸素ガス透過速度と窒素ガス透過速度との比(P’
O2/P’
N2)が6以上である。
【0053】
本発明の非対称中空糸ガス分離膜はモジュール化して好適に用いることができる。中空糸ガス分離膜は、中空糸膜であるためにモジュール当たりの膜面積を広くできるし、高圧の混合ガスを供給してガスを分離できるので、高効率のガス分離が可能になる。通常のガス分離膜モジュールは、例えば、適当な長さの中空糸膜100〜1000000本程度を束ね、その中空糸束の両端部を、中空糸の少なくとも一方の端が開口状態を保持した状態になるようにして、熱硬化性樹脂などからなる管板で固着し、得られた中空糸束と管板などからなる中空糸膜エレメントを、少なくとも混合ガス導入口と透過ガス排出口と非透過ガス排出口とを備える容器内に、中空糸膜の内側に通じる空間と中空糸膜の外側へ通じる空間とが隔絶するように収納し取り付けることによって得られる。このようなガス分離膜モジュールでは、混合ガスが混合ガス導入口から中空糸膜の内側あるいは外側に接する空間へ供給され、中空糸膜に接して流れる間に混合ガス中の特定成分が選択的に膜を透過し、透過ガスが透過ガス排出口から、膜を透過しなかった非透過ガスが非透過ガス排出口からそれぞれ排出されることによって、ガス分離が行われる。
【0054】
本発明の非対称中空糸ガス分離膜は、種々のガス種を高分離度(透過速度比)で分離回収することができる。分離度が高いと目的とするガスの回収率が高くできるので好適である。分離できるガス種には特に限定はない。例えば水素ガス、ヘリウムガス、炭酸ガス、メタンやエタンなどの炭化水素ガス、酸素ガス、窒素ガスなどを分離回収するのに好適に用いることができる。
【0055】
さらには、水蒸気を含むガスから水蒸気を分離し除湿ガスを得る、又はガスを加湿して加湿ガスを得るのに好適に用いることができる。
【実施例】
【0056】
次に、実施例によって本発明を更に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
(溶液粘度の測定方法)
ポリイミド溶液の溶液粘度は、回転粘度計(ローターのずり速度1.75sec
-1)を用い温度100℃で測定した。
【0058】
(参考例1)
(中空糸膜のシェルフィード法による混合ガス分離性能の測定)
10本の非対称中空糸膜と、ステンレスパイプと、エポキシ樹脂系接着剤とを使用して有効長が7cmの透過性能評価用のエレメントを作成し、これをステンレス容器に装着してペンシルモジュールとした。それに酸素と窒素を含む混合ガスを、50℃の温度、1MPaGの圧力で中空糸膜の外側に供給し、透過流量と透過ガス組成、非透過ガス流量と非透過ガス組成を測定した。測定した透過ガス流量、透過ガス組成、非透過ガス流量、非透過ガス組成、供給側圧力、透過側圧力及び有効膜面積からガスの透過速度を算出した
【0059】
以下の例で用いた化合物は以下のとおりである。
s−BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
6FDA:4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)−ビス(フタル酸無水物)
(なお、この化合物は2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物ともいう。)
PMDA:ピロメリット酸二無水物
TSN:3,7−ジアミノ−2,8−ジメチルジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシドを主成分とし、メチル基の位置が異なる異性体3,7−ジアミノ−2,6−ジメチルジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシド、3,7−ジアミノ−4,6−ジメチルジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシドを含む混合物
MASN:3,3’−ジアミノジフェニルスルホン
44DADE:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
【0060】
〔実施例1〕
撹拌機と窒素ガス導入管が取り付けられたセパラブルフラスコに、s−BPDA 65ミリモルと、6FDA 35ミリモルと、TSN 70ミリモルと、MASN 20ミリモルと44DADE10ミリモルとを、ポリマー濃度が18重量%となるように溶媒のパラクロロフェノールと共に加え、窒素ガスをフラスコ内に流通させながら、撹拌下に反応温度190℃で約20時間重合イミド化反応をおこない、ポリイミド濃度が18重量%の芳香族ポリイミド溶液を調製した。この芳香族ポリイミド溶液の100℃における溶液粘度は1600ポイズであった。
【0061】
前記調製した芳香族ポリイミド溶液を、400メッシュの金網でろ過し、これをドープ液として、中空糸紡糸用ノズルを備えた紡糸装置を使用して、中空糸紡糸用ノズルからドープ液を中空糸状に吐出させた後、一次凝固液(0℃、75重量%エタノール水溶液)に浸漬し、更に一対の案内ロールを備えた二次凝固装置内の二次凝固液(0℃、75重量%エタノール水溶液)中で案内ロール間を往復させて中空糸状態を凝固させ、引取りロールによって引取り速度20m/分で引き取って、中空糸膜を得た。次いで中空糸膜をボビンに巻取り、エタノールで洗浄した後、イソオクタンでエタノールを置換し、更に100℃で加熱してイソオクタンを蒸発乾燥させ、更に約300℃で30分間加熱処理して、外径が概略400μm、内径が250μmの中空糸膜を得た。
【0062】
得られた非対称中空糸膜についてガス分離性能を測定した。ガス分離性能は参考例1に従い測定を行った。結果を表1に示す。
〔実施例2〜3〕
表1に示した組成の芳香族ポリイミドを用いること以外は実施例1と概略同様の方法で中空糸膜を形成し、ガス分離性能を測定した。結果を表1に示す。
【0063】
【表1】