(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、下部が上部よりも先に膨張するように構成された、パッケージボリュームが小さいファーサイド用エアバッグを備えたエアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のエアバッグ装置は、シートバックの車幅方向中央側の側部に搭載されるファーサイド用のエアバッグ装置であって、ガスを発生させるインフレータと、シート側に位置する第1パネル及び車幅方向中央側に位置する第2パネルを有し、前記ガスにより膨張展開するエアバッグと、を備え、該エアバッグは、下側膨張室と、上側膨張室とを有するエアバッグ装置において、該エアバッグは、一体の袋内が区画手段によって該下側膨張室と上側膨張室とに区画されていることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の一態様では、前記区画手段は縫合ライン又はテザーパネルである。
【0009】
本発明の一態様では、前記下側膨張室と上側膨張室との境界部が乗員の胸部下端から肩部の間の高さとなるように、シートクッションの座面最下端から該境界部までの高さHが350〜850mmとなっている。この場合、高さHと、前記境界部からエアバッグの上端までの高さTとの比H/Tが1〜4であることが好ましい。
【0010】
本発明の一態様では、前記下側膨張室は、エアバッグの後側の第1チャンバと、それよりも前側の少なくとも1つのチャンバとを有しており、該第1チャンバはエアバッグの上部まで延在している。この場合、前記下側膨張室の前記第1チャンバより前側に位置するチャンバが、前記上側膨張室と連通していることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のエアバッグ装置にあっては、インフレータが作動すると、エアバッグの下側膨張室が先に膨張し、上側膨張室がそれよりも遅れて膨張する。このエアバッグは、一体の袋内を区画手段で各室に区画したものであり、パッケージボリュームが小さい。
【0012】
本発明では、下側膨張室と上側膨張室との境界部の高さを乗員の肩付近の高さとすることにより、乗員の肩より下側を頭部に先行して拘束することが可能である。
【0013】
本発明では、エアバッグの上部かつ後部をエアバッグの上部かつ前部よりも先行して膨張させるよう構成することも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の実施形態において、前後・上下・左右の方向は、特に断らない限り、車両の前後・上下・左右の方向と一致するものである。
【0016】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係るエアバッグ装置のエアバッグが膨張展開した様子を示す側面図である。
図2〜5は
図1のII−II線〜V−V線断面図である。本実施形態では、左右方向に沿って並設される運転席及び助手席の2つの座席を備える車両の左側座席について説明する。なお、各図に適宜示す矢印FR、UP、OUTは、それぞれ、車両の前方向、上方向、車幅方向の外側(本実施形態では左側)を示す。
【0017】
図1〜
図5に示す通り、本実施形態に係るエアバッグ装置10は、ファーサイドエアバッグ装置であり、車両用シート1の車幅方向中央側の側部に搭載されている。本実施形態では、シート1は車両の左側シートであり、エアバッグ装置10はシート1の右側部に搭載されている。
【0018】
シート1は、シートクッション2、シートバック3及びヘッドレスト4を備え、シートバック3はシートクッション2の後端部に傾倒可能に連結されている。ヘッドレスト4は、シートバック3の頂端部に連結されている。シートバック3は、その骨格となるシートバックフレーム(図示略)を有する。
【0019】
シートバックフレームは、板金素材からなり、シートバック3の左縁側から上縁側を経て右縁側まで延在する逆U字形状をなしている。本実施形態では、シートバックフレームの右縁側の縦フレームにエアバッグ装置10が取り付けられる。
【0020】
エアバッグ装置10は、シートバック3内に折り畳まれて収納されるエアバッグ11と、エアバッグ11に膨張用ガスを供給するインフレータ18とを備えている。
【0021】
エアバッグ11は、基布よりなる2枚のパネル(第1パネル12及び第2パネル13)の周縁部を縫糸14によって縫製したものである。エアバッグ11は、乗員の頭部、肩部から腰部を拘束し得る大きさとなっている。
【0022】
エアバッグ11内を第1チャンバ21、第2チャンバ22、第3チャンバ23及び第4チャンバ24に区画するように縫糸による縫製ライン15,16が設けられている。縫製ライン15,16は、第1パネル12と第2パネル13とを縫着している。縫製ライン15,16の縫目をシールするためにシリコンシール等を施してもよい。シリコンシールは部分的に施してもよい。特に下側膨張室の下部エリアの縫製部にシリコンシールを施すことが好ましい。
【0023】
縫製ライン15は、エアバッグ11の頂部の若干後方側から下方に向って延在する縦引部15aと、該縦引部15aの下部に連なり、前方に向って延在する横引部15bと、該横引部15bの前部に連なり、下方に向って延在する縦引部15cと、該縦引部15cの下部に連なり、後方に向って延在する横引部15dと、該横引部15dの後部に連なり、上方に向って延在する縦引部15eとを有する。縦引部15eの上端は、環状縫糸15fに連なっている。環状縫糸15fは第1パネル12と第2パネル13とを縫着している。縦引部15eは縦引部15cよりも後方かつ横引部15bよりも下位に位置している。縦引部15a,15eの前後方向位置はほぼ一致しているが、前後にずれても構わない。
【0024】
横引部15bの前方に縫製ライン16が設けられている。縫製ライン16は、エアバッグ11の前縁側から後方に延在し、環状縫糸16fに連なっている。環状縫糸16fは横引部15bよりも前方に位置している。
【0025】
縦引部15a,15eよりも後方が縦長の第1チャンバ21であり、横引部15b、縦引部15c、横引部15d及び縦引部15eで囲まれた部分が第2チャンバ22である。第2チャンバ22は、縦引部15eの上端(環状縫糸15f)と縦引部15aの下部及び横引部15bの後部との間のスペースを介して第1チャンバ21に連通している。
【0026】
縦引部15cの前方側かつ縫製ライン16の下側が縦長の第3チャンバ23である。第1チャンバ21と第3チャンバ23とは、横引部15dとエアバッグ11の下縁との間のスペースを介して連通している。
【0027】
横引部15b及び縫製ライン16の上側かつ縦引部15aの前方側が第4チャンバ24である。第3チャンバ23と第4チャンバ24とは、縫製ライン16の後端(環状縫糸16f)と横引部15b及び縦引部15cとの間のスペースを介して連通している。
【0028】
エアバッグ11の下縁後部にインフレータ18の挿入用開口部17が設けられている。インフレータ18は、この実施形態ではロッド状であり、該挿入用開口部17を通ってエアバッグ11内に差し込まれている。インフレータ18の上端側にガス噴出部が設けられている。この実施の形態では、インフレータ18はガスを上方に向って噴出するよう構成されている。
【0029】
図示は省略するが、インフレータ18には2本のスタッドボルトが設けられている。このスタッドボルトは、第1パネル12に設けられた小孔(図示略)を通ってエアバッグ11外に突出している。このスタッドボルトをシートバックフレームのボルト挿通孔に通し、ナット締めすることにより、エアバッグ11及びインフレータ18がシートバックフレームに固定される。
【0030】
エアバッグ11は、折り畳まれ、シートバック3のエアバッグ収容部に収容される。
【0031】
このエアバッグ11は、2枚のパネル12,13の周縁を縫合した一体の袋の内部に縫製ライン15,16によって第1〜第4チャンバ21〜24を区画形成したものである。このエアバッグ11は、2体のバッグを縫着した特許文献1のエアバッグに比べてパッケージボリュームが小さい。エアバッグ11のパッケージボリュームは、例えば、縦300mm×横80mm×厚さ35mm程度とすることができる。
【0032】
なお、膨張完了時において、シートクッション2の上面最下端位置から第4チャンバ24の下辺部(横引部15b及び縫製ライン16)までの高さHは、約350〜850mm特に550〜650mm程度であることが好ましい。この高さHは、シートクッション2の座面最下端位置から、平均的な体格の乗員の胸部下端〜肩付近までの高さに相当する。また、この高さHと、第4チャンバ24の下辺部からエアバッグ11の上端までの高さTとの比H/Tは1〜4程度であり、特に2〜4とりわけ2.5〜4程度として下側膨張室を上側膨張室より大きくすることが好ましい。
【0033】
このように構成されたエアバッグ装置10を備えた車両が右側から側面衝突された場合、インフレータ18がガス発生作動する。インフレータ18から噴出したガスは、まず上方向と前方向に流れ、第1チャンバ21と第3チャンバ23を同時に膨張させる。その後、第1チャンバ21から第2チャンバ22にガスが流れて第2チャンバ22を膨張させ、さらに第3チャンバ23から第4チャンバ24にガスが流入して第4チャンバ24(上側膨張室)を膨張させる。
【0034】
このように、エアバッグ11の上部の第4チャンバ24に先行して下側の各チャンバ21〜23(下側膨張室)を膨張させ、その内圧を早期に高くすることにより、乗員の肩から腰までの範囲が早期に拘束される。
【0035】
エアバッグ11の下部が乗員の腰とコンソールボックスとの間に膨張することにより、乗員の腰が拘束される。エアバッグ11の第1〜第3チャンバ21〜23が早期に膨張し、ほぼ膨張完了形状及び内圧となった後、第4チャンバ24が膨張するので、第4チャンバ24を含めたエアバッグ11上部が早期に目的位置に膨張配備されるようになる。
【0036】
なお、第3チャンバ23と第4チャンバ24とを連通する連通部(縫製ライン16の後部と横引部15b及び縦引部15cとの間隔)の大きさを選定することにより、第4チャンバ24の膨張のタイミングを選定することができる。特に、インフレータ18の作動開始から第4チャンバ24が最高内圧に達するまでの時間を選定することができる。
【0037】
第1〜第3チャンバ21〜23を高内圧にて早期に膨張させると、乗員の肩から腰が早期に拘束される。乗員の頭部がその後エアバッグ11側に傾こうとした場合、膨張した第4チャンバ24によって該頭部が拘束される。
【0038】
特に、この実施形態では、第1チャンバ21がエアバッグ11の後部の上端付近まで延在しており、エアバッグ11の膨張初期の段階でエアバッグ11の後部が膨張完了に近い状態となっている。そのため、第4チャンバ24は、先に膨張した第1チャンバ21の上部と第3チャンバ23とで囲まれたエアバッグの上部かつ前部領域に膨張することになり、第4チャンバ24がスムーズに膨張し、この膨張に際して第4チャンバ24がバタついたりすることがない。
【0039】
また、膨張した第4チャンバ24が乗員の頭部を拘束する場合、高内圧の第1チャンバ21が第4チャンバ24の後側に起立状に存在しているので、第4チャンバ24の反乗員側への移動量が少ない。
【0040】
なお、インフレータ18の作動開始後20〜70mSecに第4チャンバ24の内圧が最大(ピーク)となることが好ましく、30〜40mSecに最大となることがより好ましい。ピーク時の第4チャンバ24の内圧は20〜100kPa程度であり、特に30〜60kPaが好ましい。
【0041】
[第2の実施形態]
図6は、第2の実施形態に係るエアバッグ11Aの膨張完了状態の側面図である。
【0042】
このエアバッグ11Aは、縫製ライン15の縦引部15aが設けられておらず、横引部15bが後方へ、エアバッグ11Aの後縁にまで延在している他は前記エアバッグ11と同一構成を有している。
図6のその他の符号は
図1の同一部分を示している。
【0043】
このエアバッグ11Aも、膨張時には第1チャンバ21〜23よりなるエアバッグ下側膨張室が先に膨張し、その後、第4チャンバ24よりなるエアバッグ上側膨張室が膨張する。環状縫糸16fと横引部15b及び縦引部15cとの間の間隔を調整することにより、第4チャンバ24の膨張タイミングを調整することができる。このエアバッグ11Aも、エアバッグ11と同様にパッケージボリュームが小さい。
【0044】
[第3の実施形態]
上記エアバッグ11,11Aでは、縫製ライン15,16によって第1〜第4チャンバ21〜24を区画形成しているが、縫製ラインの代りにテザーパネルを採用してもよい。かかる実施形態に係るエアバッグの一例を
図7〜10に示す。
【0045】
エアバッグ31は、基布よりなる2枚のパネル(第1パネル32及び第2パネル33)の周縁部を縫糸50によって縫製したものである。エアバッグ31は、乗員の頭部、肩部、胸部及び腹部を拘束し得る大きさとなっている。
【0046】
エアバッグ31内を第1チャンバ41、第2チャンバ42、第3チャンバ43及び第4チャンバ44に区画するようにテザーパネル34〜36が設けられている。テザーパネル34〜36は、縫糸51によって第1パネル32及び第2パネル33に縫着されている。
【0047】
テザーパネル34は
図6のエアバッグ11Aの横引部15b、16と略同レベルにおいてエアバッグ31の前縁から後縁まで延在している。テザーパネル35,36は、それぞれテザーパネル34から下方に延在している。
【0048】
テザーパネル35,36の下端はエアバッグ31の下縁よりも上方に位置している。テザーパネル35はテザーパネル36よりも後方に位置している。
【0049】
テザーパネル34の下側かつテザーパネル35の後側が第1チャンバ41であり、テザーパネル35,36間が第2チャンバ42であり、テザーパネル36の前側が第3チャンバ43である。テザーパネル34の上側が第4チャンバ44である。
【0050】
テザーパネル35,36にはそれぞれ開口35a,36aが設けられている。テザーパネル34には、第2チャンバ42と第4チャンバ44とを連通する開口34aと、第3チャンバ43と第4チャンバ44とを連通する開口34bが設けられている。
【0051】
エアバッグ31の下縁後部にインフレータの挿入用開口部37が設けられている。インフレータは、この実施の形態でもロッド状であり、該挿入用開口部37を通ってエアバッグ31内に差し込まれている。インフレータの上端側に、ガスを上方に向って噴出させるようにガス噴出部が設けられている。
【0052】
図示は省略するが、インフレータには2本のスタッドボルトが設けられている。このスタッドボルトは、第1パネル32に設けられた小孔(図示略)を通ってエアバッグ31外に突出している。このスタッドボルトをシートバックフレームのボルト挿通孔に通し、ナット締めすることによりエアバッグ31及びインフレータがシートバックフレームに固定される。
【0053】
このエアバッグ31においても、インフレータから噴出したガスは、まず上方に向って流れ、第1チャンバ41を膨張させ、次いで第2チャンバ42、第3チャンバ43を膨張させる。その後、ガスは開口34a、34bを通って第4チャンバ44に流入して第4チャンバ44を膨張させる。エアバッグ31の後部側にインフレータを設ける場合、インフレータ上方に位置する第1チャンバ41でなく、それより前方側に位置する第2チャンバ42及び第3チャンバ43と第4チャンバ44とを連通するように、開口34a、34bを設けることが好ましい。
【0054】
このように、エアバッグ31の上部の第4チャンバ44に先行して下側の各チャンバ41〜43を膨張させ、その内圧を早期に高くすることにより、乗員の肩から腰までの範囲が早期に拘束される。なお、開口34a,34bの大きさを選定することにより、第4チャンバ24の膨張のタイミングを選定することができる。また、開口34a,34bは目的に応じて複数設けてもよい。
【0055】
このエアバッグ31も特許文献1のエアバッグに比べてパッケージボリュームが小さい。
【0056】
この
図7〜10のエアバッグ31では、テザーパネル34がエアバッグ31の前縁から後縁まで延在しているが、テザーパネル35をエアバッグ31の上縁まで延在させ、テザーパネル34を該テザーパネル35からエアバッグ31の前縁まで延在する構成としてもよい。
【0057】
第2〜第3実施形態においても、H/T比や、第1チャンバ、第4チャンバの内圧ピークタイミングの好ましい範囲は、第1実施形態と同様である。
【0058】
第1〜第3実施形態では、2枚のパネル12,13又は23,33を縫着しているが、1枚のパネルを折り返し、折り返し辺以外の周縁部を縫着することにより袋を構成してもよい。
【0059】
本発明では、前記の通り、第4チャンバ24,44の内圧ピーク時間(インフレータの作動後、最大内圧に達する時間)は20〜70mSecであり、ピーク内圧は20〜100kPaである。特に、30〜40mSecに30〜60kPaであることが好ましい。また、第4チャンバ24,44は、頭部拘束時間帯の50〜100mSecに、20〜60kPaであることが好ましい。第4チャンバ24,44へのガス流入部(環状縫目16fと縫製ライン15との最小間隔部、又は開口34a,34bの合計開口面積)は700〜4000mm
2であることが好ましい。第4チャンバ24,44の膨張時の最大厚さは100〜200mmであることが好ましい。
【0060】
第4チャンバ24,44は、複数室に区画されてもよい。
【0061】
上記実施形態では、下側膨張室を第1〜第3チャンバによって構成しているが、2又は4以上のチャンバによって構成してもよい。
【0062】
下側膨張室のピーク内圧は、20〜100kPaであり、特に30〜60kPaが好ましい。内圧ピーク時間は好ましくは70mSec以下である。下側膨張室は、150mSecまでは、少なくとも20kPa以上あることが好ましい。下側膨張室の膨張時の最大厚みは好ましくは100〜200mmである。