特許第6623722号(P6623722)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6623722
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】高圧タンク
(51)【国際特許分類】
   F17C 1/06 20060101AFI20191216BHJP
   F17C 1/16 20060101ALI20191216BHJP
   F16J 12/00 20060101ALI20191216BHJP
【FI】
   F17C1/06
   F17C1/16
   F16J12/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-233161(P2015-233161)
(22)【出願日】2015年11月30日
(65)【公開番号】特開2017-48912(P2017-48912A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2018年7月4日
(31)【優先権主張番号】特願2015-173570(P2015-173570)
(32)【優先日】2015年9月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】特許業務法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】大宮 慎一
【審査官】 家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−017379(JP,A)
【文献】 特開2003−139296(JP,A)
【文献】 特公昭39−026775(JP,B1)
【文献】 特開2005−036918(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/111325(WO,A1)
【文献】 特開2015−112813(JP,A)
【文献】 実開昭63−077200(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/00−13/18
F16J12/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライナーと、前記ライナーの外周面を覆う繊維強化樹脂層とを備え、
前記ライナーは、一方向に延びる円筒状の樹脂製円筒部材と、前記樹脂製円筒部材の両端に接続され、かつドーム状である一対の金属製ドーム部材とを有し、
前記金属製ドーム部材の内面は、前記樹脂製円筒部材の外周面の端部に接合され、かつ前記一方向に延びる円筒状である接合部を含む、高圧タンク。
【請求項2】
前記金属製ドーム部材が、300〜1200MPaの引張強度を有する、請求項1に記載の高圧タンク。
【請求項3】
前記金属製ドーム部材が、下記(i)式を満足する破断絞り値を有する、請求項1または請求項2に記載の高圧タンク。
RAH2/RAAIR≧0.8 ・・・(i)
但し、上記(i)式中の各記号の意味は下記のとおりである。
RAH2:所定の水素圧かつ温度が−40℃の水素雰囲気での低歪速度引張試験における、試験片の破断絞り値
RAAIR:温度が−40℃の大気中での低歪速度引張試験における、試験片の破断絞り値
ここで、前記所定の水素圧は、前記高圧タンクの設計圧力である。
【請求項4】
前記金属製ドーム部材が、下記(i)式を満足する破断絞り値を有する、請求項1または請求項2に記載の高圧タンク。
RAH2/RAAIR≧0.8 ・・・(i)
但し、上記(i)式中の各記号の意味は下記のとおりである。
RAH2:所定の水素圧かつ温度が−40℃の水素雰囲気での低歪速度引張試験における、試験片の破断絞り値
RAAIR:温度が−40℃の大気中での低歪速度引張試験における、試験片の破断絞り値
ここで、前記所定の水素圧は、70MPaである。
【請求項5】
前記ライナー全体の前記一方向における長さが、前記樹脂製円筒部材の外径の2倍を超える、請求項1から請求項4までのいずれかに記載の高圧タンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高圧タンクに係り、特に、20MPaを超える高い圧力のガスを貯蔵するための高圧タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化問題への対策および石油資源の地政学的なリスクの回避等の観点から、水素または天然ガス等を使用して走行する車両の開発が進められている。これらを車両には、ガスを高圧の状態で貯留しておくことが可能な高圧タンクが搭載されているのが主流である。また、水素ステーション等で充填前に高圧にした水素を一時的に貯蔵しておく場合でも、車載用と同じような構成の高圧タンクが使用されることがある。
【0003】
高圧タンクは、一般的に、円筒部の両側にドーム部が接続された形状となっており、その構造により、4つのタイプに大別されている。すなわち、金属容器からなるタイプ1、金属容器の円筒部のみに繊維強化樹脂(FRP)からなるフープ層が形成されたタイプ2、金属容器の全体にFRPヘリカル層が形成され、円筒部にFRPフープ層が形成されたタイプ3、そして、樹脂製容器の全体にFRPヘリカル層が形成され、円筒部にFRPフープ層が形成されたタイプ4の4つである。なお、ドーム部の少なくとも一方には、ガスを出し入れするための口金が設けられる。
【0004】
水素等を使用して走行する車両において、1回の充填での走行可能距離を長くするためには、より高い圧力(例えば、燃料電池自動車では70MPa)でガスが高圧タンクに充填されることが好ましい。上記のうち、20MPaを超える高圧力下で使用され、かつ車載されるものとしては、主としてタイプ3またはタイプ4の高圧タンクが使われている(例えば、特許文献1および2を参照)。
【0005】
タイプ3の高圧タンクでは、JIS A 6061等の6000系のアルミニウム合金をライナーに用いる場合が多い。ライナーは、パイプ形状の素材を熱間で絞り加工してドーム部を成形し、さらに熱処理を施し、口金部を加工する等の複雑な加工工程を経て作られている。そのため、肉厚が部位ごとに異なる形状となる等、ライナーとして応力を一様に分担するような理想的な形状とするのは困難である。
【0006】
また、アルミニウム合金を用いる場合、素材の強度が300MPa程度と低いことから、ライナーが担う荷重が比較的小さくなる。さらに、疲労強度を確保するために、自縛処理等を行う必要が生じる。これらのことから、ライナーの設計および製造工程が複雑になるという問題がある。
【0007】
一方、タイプ4の高圧タンクは、ガスを封入する樹脂製のライナーをFRPで強化する構造であり、全ての荷重はFRPが担っている。このため、タイプ3の金属ライナーよりも比強度の高いFRPを用いることで、より軽量化することが可能になる。
【0008】
なお、いずれのタイプの高圧タンクにおいても、FRPとしては炭素繊維が一般的に用いられており、さらに、強度の補完および衝撃に対する保護等を目的としてガラス繊維またはアラミド繊維等が加えて用いられることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−036918号公報
【特許文献2】国際公開第2011/154994号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで、ライナーの円筒部およびドーム部における一般的な応力状態について考える。薄肉円筒に内圧が作用している場合を考えると、円筒部においては周辺部の応力集中を除いて、周方向に負荷される応力が、軸方向に比べて2倍の大きさとなることが知られている。高圧の容器では肉厚が大きくなるため、肉厚方向での応力分布が発生するが、基本的には、周方向と軸方向とで負荷される応力に上記のような違いが生じる。そのため、上記の応力の比率にあった強度を持たせるべく、円筒部の設計を行う必要がある。
【0011】
一方、ドーム部においては、半球形状と仮定すると、口金周辺および円筒部との境界付近の応力集中部を除いて、球の中心から径方向に内圧が作用し、面内に一様な2軸の応力が発生する。すなわち、円筒部とドーム部とでは、要求される強度特性が異なる。
【0012】
一般的に、FRPはライナーに樹脂を含浸させた強化用繊維などを巻きつけていく、いわゆるフィラメントワインディング(FW)法によって作製される。円筒部については、繊維を一方向に揃え、樹脂をあらかじめ含浸させたプリプレグを巻きつける、シートワインディングによっても作ることができる。しかしながら、曲率が2方向に存在するドーム部では、シートワインディング法の適用は困難である。したがって、ドーム部についてはFW法によってFRPの強化層を形成するのが一般的な方法となる。
【0013】
FW法では、ライナーの軸方向に対して所定の角度を持った方向に繊維を連続的に巻きつけていく。FRPは、繊維の方向に対して著しく大きな強度および剛性を発揮する性質を持つ。そのため、巻きつける角度が異なるいくつかのFRP層を織り交ぜて、各部位に必要な強度特性を発揮させる。前述のように、円筒部に要求される強度は、周方向が軸方向の2倍となる。したがって、軸とほぼ垂直な方向に繊維を巻きつけるフープ巻きと、軸方向にほとんど角度をつけない、低角度のヘリカル巻きとだけでFRP層を形成できるとすれば、ライナー自体が強度を分担しないタイプ4の高圧タンクの円筒部では、フープ層の層数が、低角度のヘリカル層の2倍程度になることが理想となる。
【0014】
一方、前述のようにドーム部については、径方向に内圧が作用するため、位置によってFRP層の理想的な繊維方向が異なる。すなわち、円筒部との境界付近ではフープ層に近いような高角度のヘリカル層による強化が要求される。これに対して、口金に近い位置では低角度のヘリカル層による強化が最も効率的である。しかしながら、FW法では、繊維を連続的に巻きつける方法を取るため、すべての位置で理想的な方向に繊維を巻きつけることはできない。したがって、通常は、数種類の角度のヘリカル層を組み合わせて必要な特性を持つFRP層を形成する必要がある。
【0015】
ここで、高角度のヘリカル層は、円筒部では円周方向および軸方向に対する強度への寄与が小さく、強度を分担する上で非効率的である。そのため、高角度のヘリカル層の厚さが増えると、必要な強度を確保するためのFRPの使用量が増加し、コストを押し上げる要因となる。
【0016】
また、円筒部とドーム部とを滑らかに接続したとしても、その接続部ではある程度の応力集中が発生する。そのため、接続部におけるFRP層の厚さを、円筒部の応力集中がない部位に比べて増やす必要がある。しかしながら、FW法の特性上、ヘリカル巻きについては部位ごとに厚みを変えることができず、接続部のみ厚くすることができない。したがって、タイプ4の高圧タンクでは、上記の応力集中による最大の発生応力に耐え得るよう、全体のFRP層の厚さを決定することとなり、結果的に、円筒部においては必要以上にFRP層の厚さが大きくなる。
【0017】
このように、タイプ4の高圧タンクを用いる場合、高価なFRPの使用量を必要最低限に抑えつつ、FW法によって円筒部およびドーム部のそれぞれに理想的な強度特性を発揮するようにFRP層を形成するのは困難である。
【0018】
本発明は、上記の問題を解決し、FRP層、なかでも高角度のヘリカル層の量を低減させることによって、軽量化および低コスト化の両立が可能な高圧タンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、下記の高圧タンクを要旨とする。
【0020】
(1)ライナーと、前記ライナーの外周面を覆う繊維強化樹脂層とを備え、
前記ライナーは、一方向に延びる円筒状の樹脂製円筒部材と、前記樹脂製円筒部材の両端に接続され、かつドーム状である一対の金属製ドーム部材とを有し、
前記金属製ドーム部材の内面は、前記樹脂製円筒部材の外周面の端部に接合され、かつ前記一方向に延びる円筒状である接合部を含む、高圧タンク。
【0021】
(2)前記金属製ドーム部材が、300〜1200MPaの引張強度を有する、上記(1)に記載の高圧タンク。
【0022】
(3)前記金属製ドーム部材が、下記(i)式を満足する破断絞り値を有する、上記(1)または(2)に記載の高圧タンク。
RAH2/RAAIR≧0.8 ・・・(i)
但し、上記(i)式中の各記号の意味は下記のとおりである。
RAH2:所定の水素圧かつ温度が−40℃の水素雰囲気での低歪速度引張試験における、試験片の破断絞り値
RAAIR:温度が−40℃の大気中での低歪速度引張試験における、試験片の破断絞り値
ここで、前記所定の水素圧は、前記高圧タンクの設計圧力である。
【0023】
(4)前記金属製ドーム部材が、下記(i)式を満足する破断絞り値を有する、上記(1)または(2)に記載の高圧タンク。
RAH2/RAAIR≧0.8 ・・・(i)
但し、上記(i)式中の各記号の意味は下記のとおりである。
RAH2:所定の水素圧かつ温度が−40℃の水素雰囲気でのSSRT試験(低歪速度引張試験)における、試験片の破断絞り値
RAAIR:温度が−40℃の大気中でのSSRT試験における、試験片の破断絞り値
ここで、前記所定の水素圧は、70MPaである。
【0024】
(5)前記ライナーの前記一方向における長さが、前記樹脂製円筒部材の外径の2倍を超える、上記(1)から(4)までのいずれかに記載の高圧タンク。
【発明の効果】
【0025】
本発明の高圧タンクによれば、高価なFRPの使用量を抑えつつ、必要な強度を確保することができるため、軽量化および低コスト化の両立が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態に係る高圧タンクを模式的に示した図である。
図2】本発明の一実施形態に係る高圧タンクが備えるライナーを模式的に示した図である。
図3】本発明の一実施形態に係る高圧タンクが備えるライナーを模式的に示した端面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る高圧タンクが備える繊維強化樹脂層の形成過程を説明するための図である。
図5】高角度ヘリカル層および低角度ヘリカル層の区別の仕方を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施形態の一例を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る高圧タンク100を模式的に示した図である。本発明の一実施形態に係る高圧タンク100は、ライナー1と、ライナー1の外周面1aを覆う繊維強化樹脂(FRP)層2とを備える。各構成について、以下に詳しく説明する。
【0028】
1.ライナー
図2は、本発明の一実施形態に係る高圧タンク100が備えるライナー1を模式的に示した図である。図2に構成を示すように、ライナー1は、一方向(図2中におけるA方向)に延びる円筒状の樹脂製円筒部材11と、樹脂製円筒部材11の両端に接続され、かつドーム状である一対の金属製ドーム部材12とを有する。
【0029】
上述のように、高圧タンクの円筒部では、周方向と軸方向とで2対1となる応力が負荷される。そのため、円筒部に、等方的な特性を持つ金属材料のみからなる容器を用いることは理想的ではなく、FRP層によって周方向を強化した金属製容器を用いるか、または、周方向と軸方向とが2対1の強度を持つように構成されたFRP層を備えた樹脂製容器を用いることが理想的となる。
【0030】
タイプ3の容器等で使用される金属製のライナーは、アルミニウム合金または鉄鋼材料で作られることが一般的であり、その比強度(強度/比重)は炭素繊維強化プラスチックに比べて低い。したがって、重量を下げるためには、円筒部には樹脂製の円筒部材を用い、FRPのみで強度を確保する構成とする方が有利となる。
【0031】
ドーム部については、球形を仮定すると、端部または口金等の応力集中部位を除く部位では、面内で等しい2軸の応力が発生する。そのため、強度に方向性を持ったFRP層のみで理想的な構成を作りだすのは困難である。これに対して、金属材料は、結晶組織等の分布形態によっては多少の方向性を持つものの、一般的には強度およびヤング率が等方的であるため、一様な2軸の応力を受け持つには好適な材料である。
【0032】
以上のことから、本発明の一実施形態に係る高圧タンク100においては、ライナー1は、円筒部に樹脂製円筒部材11を用い、ドーム部に金属製ドーム部材12を用い、両者を接続させたものとする。このような構成とすることによって、軽量化するとともに、高価なFRPの量を低減し、低コスト化が可能となる。
【0033】
樹脂製円筒部材11の材質については、水素ガス等の透過を抑制できるものであれば特に制限はなく、例えば、ナイロン系樹脂、ポリエチレン系樹脂等の合成樹脂を用いることができる。
【0034】
また、金属製ドーム部材12の材質についても特に制限はなく、例えば、アルミニウム合金またはステンレス鋼等を用いることができる。軽量化の観点からは、強度が高い材料を用いることが好ましく、300MPa以上の引張強度を有する材料を用いることが好ましく、690MPaを超える引張強度を有する材料を用いることがより好ましい。
【0035】
ただし、一般的に高強度な材料は破壊靱性が小さくなるため、あまりに強度の高い材料では予期せぬ小さな損傷から脆性破壊を発生する懸念があり、高圧タンクに要求されるリークビフォアブレイクを達成できない。そのため、金属製ドーム部材12の引張強度は、1200MPa以下とすることが好ましい。
【0036】
また、水素タンクとして使用する場合、高強度な材料ほど水素脆化と呼ばれる現象を起こしやすくなることが知られており、この観点からも金属製ドーム部材12の引張強度は、1200MPa以下とすることが好ましい。
【0037】
上記の水素脆化を防止する観点からは、金属製ドーム部材は、下記(i)式を満足する破断絞り値を有することが好ましい。
RAH2/RAAIR≧0.8 ・・・(i)
但し、上記(i)式中の各記号の意味は下記のとおりである。
RAH2:所定の水素圧かつ温度が−40℃の水素雰囲気での低歪速度引張試験における、試験片の破断絞り値
RAAIR:温度が−40℃の大気中での低歪速度引張試験における、試験片の破断絞り値
ここで、前記の所定の水素圧としては、高圧タンクの設計圧力とすることが好ましく、70MPaとすることがより好ましい。
【0038】
上記の(i)式を満足する金属材料としては、JARI−S001およびKHK−S0128に記載される、アルミニウム合金A6061およびSUS316LのNi当量を限定した材料が挙げられる。
【0039】
また、上記の金属材料の他に、アルミニウム合金A6066、もしくは、SUH660、XM−19(ASTM)などの鋼、または、HRX19(新日鉄住金株式会社製)、STHシリーズ(新日鉄住金ステンレス株式会社製)、HP160(SANDOVIK社製)などの製品を用いても良い。これらの金属材料を、必要な温度および水素の圧力に応じて使用することが好ましい。
【0040】
金属材料は、一般的にFRPよりも比強度が低い。したがって、金属製ドーム部材の割合をできるだけ小さくすることが、タンク全体の重量を低減する上では有効である。このためには、ライナー1のA方向における長さが、樹脂製円筒部材12の外径の2倍を超える寸法とすることが好ましい。
【0041】
後述するように、本発明に係る高圧タンクは、高角度のヘリカル層の割合を低下させることが可能である。そのため、ライナー1全体の長さに占める樹脂製円筒部材12の長さの割合が大きくなっても、高角度ヘリカル層による円筒部における強化効率の低下が抑えられる。ただし、樹脂製円筒部材12の外径に対するライナー1のA方向における長さの比が過大になると、容積効率が低下する。したがって、ライナー1のA方向における長さは、樹脂製円筒部材12の外径の10倍以下とすることが好ましい。
【0042】
図3は、本発明の一実施形態に係る高圧タンク100が備えるライナー1を模式的に示した端面図である。図3に示すように、金属製ドーム部材12の内面12bは、樹脂製円筒部材11の外周面11aの端部に接合され、かつA方向に延びる円筒状である接合部12cを含む。
【0043】
上述のように、ライナーの円筒部とドーム部との境界付近には、ある程度の応力集中が発生する。そのため、本発明の一実施形態に係る高圧タンク100では、金属製ドーム部材12が、樹脂製円筒部材11の端部の応力集中発生部位まで存在することで、この応力集中を金属製ドーム部材12に分担させることが可能となり、FRPの量をさらに低減することが可能となる。
【0044】
金属製ドーム部材12の接合部12cのA方向の長さaについて特に制限はないが、樹脂製円筒部材11の長さLとの関係において、a/Lの値が0.02未満となると、金属製ドーム部材12が応力集中を十分に分担できなくなり、一方、0.15を超えると、金属材料の量が増えるため全体の重量が増加してしまう。そのため、a/Lの値は、0.02〜0.15とすることが好ましい。
【0045】
樹脂製円筒部材11と金属製ドーム部材12との接合方法については特に制限はなく、接着剤等を用いて接合させれば良い。
【0046】
なお、一対の金属製ドーム部材12のうち、少なくとも一方には、ガスの出し入れのための口金13を設置することとなる。図3に示すように、口金13は金属製ドーム部材12と一体としても良いし、別々に作製した上でガスをシールすることができるよう適切に接合した構成としても良い。
【0047】
応力集中は口金に近い部分においても発生するため、主として低角度のヘリカル巻きの量と口金近辺の金属製ドーム部材の厚さとを適切に設定することが好ましい。一方、高角度のヘリカル巻きの量を変化させても、口金近辺における金属製ドーム部材の強度にはほとんど影響しないため、高角度ヘリカル層の厚さを増加させる必要は生じない。
【0048】
2.繊維強化樹脂(FRP)層
本発明の高圧タンクにおけるFRP層2の構造については特に制限はなく、フープ層、高角度ヘリカル層および低角度ヘリカル層を適宜組み合わせることで形成することができる。ただし、上述のように、高角度のヘリカル層は、円筒部では円周方向および軸方向に対する強度への寄与が小さく、強度を分担する上で非効率的であるため、その厚さは極力低減することが望ましい。したがって、図4aに示すように、低角度ヘリカル層を形成した後に、図4bに示すように、フープ層を形成することが好ましい。
【0049】
また、円筒部はFRPのみで強度を確保するため、周方向と軸方向とが2対1の強度を持つように構成されたFRP層を形成することが好ましい。上記の強度特性を満足するためには、フープ層の厚さを2とするのに対して、低角度のヘリカル層の厚さを1程度の比率とすることが望ましい。ただし、上記の構成は同じ種類の炭素繊維のみを用いることを仮定している。強度または剛性の異なる繊維を混合使用する場合は、層の比率の理想値が変化するが、全体としての周方向と軸方向とが2対1の強度を持つように構成することが望ましい。
【0050】
ここで、本発明における高角度ヘリカル層および低角度ヘリカル層の区別の仕方について説明する。図5に示すように、ライナーの外周にFRPを巻きつける際のライナーの軸方向に対する巻きつけ角度をφとしたときに、φ<15°となるヘリカル層を低角度ヘリカル層といい、φ≧15°となるヘリカル層を高角度ヘリカル層ということとする。
【0051】
なお、FRPは、熱硬化性樹脂を含浸した強化繊維を熱硬化させたものである。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等を用いることができる。また、強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維、アルミナ繊維等の無機繊維、アラミド繊維等の合成有機繊維、またはこれらの組み合わせを用いることができる。
【0052】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0053】
表1に示す試験No.1〜4の高圧タンクを用いて、本発明に係る高圧タンクに必要なFRPの使用量の評価を行った。試験No.1の高圧タンクは、従来のタイプ4のタンクである。すなわち、樹脂製ライナーに、表1に示す層数からなるフープ層、高角度ヘリカル層および低角度ヘリカル層を形成したものである。
【0054】
これに対して、試験No.2〜4の高圧タンクは、樹脂製円筒部材の両端に金属製ドーム部材を接続させた後に、表1に示す層数からなるフープ層、高角度ヘリカル層および低角度ヘリカル層を形成したものであり、本発明の規定を満足する高圧タンクである。金属製ドーム部材の材質として、試験No.2では、320MPaの引張強度を有するアルミニウム合金A6061−T6(JIS規格)を用いており、試験No.3および4では、740MPaの引張強度を有する高強度ステンレス鋼HRX19(登録商標)を用いている。
【0055】
なお、巻きつけ角度φは、高角度ヘリカル層については40°とし、低角度ヘリカル層については5°とした。また、試験No.1〜4の全てにおいて、高圧タンクの長さ(一方のドーム部の端部から他方のドーム部の端部までの長さ)を900mm、円筒部の内径を300mmとし、設計圧力を70MPaとした。円筒部の外径については、FRPの使用量によって異なるが、350〜356mmとなった。
【0056】
また、試験No.2〜4の金属製ドーム部材について、以下のとおり、RAH2/RAAIRの値を求めた。各金属製ドーム部材から試験片を切り出した後、大気中および70MPaの高圧水素雰囲気での低歪速度引張試験(SSRT試験)に供し、破断絞り値RAAIRおよびRAH2を測定し、RAH2/RAAIRの値を算出した。なお、SSRT試験での雰囲気温度は−40℃、歪速度は3×10−6/sとし、上記試験片の形状は、直径3mmの丸棒試験片とした。
【0057】
【表1】
【0058】
それぞれの金属製ドーム部材の厚さについては、円筒部とドーム部との境界付近における応力集中を、試験No.2および4では、金属製ドーム部材が半分程度分担し、試験No.3では、金属製ドーム部材が80%程度分担するような厚さにしている。この時の金属製ドーム部材の厚さを表1に併せて示す。
【0059】
その結果、表1に示すように、試験No.2および4のタンクでは、高角度ヘリカル層の層数を半分に低減できたため、FRPの使用量を5%低減させることができた。また、試験No.3のタンクでは、フープ層の層数は増加したものの、高角度ヘリカル層の層数を0とすることができたため、FRPの使用量を10%低減させることができた。
【0060】
また、試験No.2のアルミニウム合金ならびに試験No.3および4のステンレス鋼のRAH2/RAAIR値は、それぞれ0.99および0.95となった。そのため、それらを金属製ドーム部材に用いた高圧タンクは、70MPaの高圧水素を充填しても水素脆化による強度低下を防止することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の高圧タンクによれば、高価なFRPの使用量を抑えつつ、必要な強度を確保することができるため、軽量化および低コスト化の両立が可能となる。
【符号の説明】
【0062】
1.ライナー
1a.外周面
2.繊維強化樹脂(FRP)層
11.樹脂製円筒部材
11a.外周面
12.金属製ドーム部材
12b.内面
12c.接合部
13.口金
100.高圧タンク
図1
図2
図3
図4
図5