(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0024】
図1には、空気入りタイヤ2が示されている。
図1において、上下方向がタイヤ2の半径方向であり、左右方向がタイヤ2の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ2の周方向である。
図1において、一点鎖線CLはタイヤ2の赤道面を表わす。このタイヤ2の形状は、トレッドパターンを除き、赤道面に対して対称である。
【0025】
このタイヤ2は、トレッド4、一対のサイドウォール6、一対のクリンチ8、一対のビード10、カーカス12、ベルト14、バンド16、インナーライナー18、インスレーション20、一対のクッション層22、一対のチェーファー24及び一対のフィラー26を備えている。このタイヤ2は、チューブレスタイプである。このタイヤ2は、トラック、バス等に装着される。このタイヤ2は、重荷重用である。
【0026】
トレッド4は、半径方向外向きに凸な形状を呈している。トレッド4の半径方向外側面28は、路面と触れる。この外側面28は、トレッド面とも称される。
図1において、符号TEはこの外側面28の端、すなわち、トレッド面28の端である。トレッド4の軸方向外側面30は、このトレッド面28の端TEから、実質的に半径方向内向きに延在している。本発明においては、この外側面30は側面と称される。このトレッド4は、トレッド面28と一対の側面30とを備えており、それぞれの側面30はこのトレッド面28の端TEから半径方向略内向きに延びている。
【0027】
図1に示されているように、このタイヤ2のトレッド4には、溝32が刻まれている。この溝32により、トレッドパターンが形成されている。
【0028】
このタイヤ2では、トレッドパターンは複数の主溝32Mを備えている。それぞれの主溝32Mは、周方向に連続して延在している。
図1において、両矢印Wは主溝32Mの幅を表している。両矢印Dは、この主溝32Mの深さを表している。
【0029】
このタイヤでは、排水性及びトレッド4の剛性確保の観点から、主溝32Mの幅Wは、接地幅の1%以上7%以下に設定されるのが好ましい。主溝32Mの深さDは、排水性及びトレッド4の剛性確保の観点から、10.0mm以上が好ましく、12.0mm以上がより好ましい。この深さDは、22.0mm以下が好ましく、20.0mm以下がより好ましい。
【0030】
本発明において、接地幅は、タイヤ2が正規リムに組み込まれ、正規内圧となるようにタイヤ2に空気が充填された状態で、このタイヤ2に正規荷重を負荷してキャンバー角を0°に設定して、このタイヤ2を平面に接地させて得られる、接地面の軸方向最大幅で表される。
【0031】
このタイヤ2では、トレッド4に複数の主溝32Mが刻まれることにより、軸方向に並列された複数の陸部34が形成されている。それぞれの陸部34の軸方向幅は、主溝32Mの幅、本数、位置等が考慮され適宜決められる。
【0032】
このタイヤ2では、これら陸部34のそれぞれは、周方向に連続して延在する単一のユニットから構成されている。このような陸部34は、リブとも称されている。このタイヤ2の陸部34は、周方向に延在するリブから構成されている。このタイヤ2では、赤道面上に位置するリブ34cは、センターリブとも称される。軸方向において、外側に位置するリブは、ショルダーリブ34sとも称される。センターリブ34cとショルダーリブ34sとの間に位置するリブ34mは、ミドルリブとも称される。このタイヤ2では、この陸部34に略軸方向に延在する複数の溝32が刻まれることにより、この陸部34が周方向に並列された複数のブロックで構成されてもよい。なお、このタイヤ2においてショルダーリブ34sが設けられている部分は、ショルダー部とも称される。左右のショルダー部の間の部分は、センター部とも称される。
【0033】
それぞれのサイドウォール6の半径方向外側部分、すなわち、このサイドウォール6の端部は、トレッド4の側面30の軸方向外側に位置している。このサイドウォール6は、この側面30から半径方向略内向きに延びている。なお、このサイドウォール6のもう一方の端部、すなわち、このサイドウォール6の半径方向内側部分は、クリンチ8と接合されている。サイドウォール6は、カーカス12の軸方向外側に位置している。このサイドウォール6は、耐カット性及び耐候性に優れた架橋ゴムからなる。このサイドウォール6は、カーカス12の損傷を防止する。
【0034】
それぞれのクリンチ8は、サイドウォール6の半径方向略内側に位置している。クリンチ8は、軸方向において、ビード10及びカーカス12よりも外側に位置している。クリンチ8は、耐摩耗性に優れた架橋ゴムからなる。図示されていないが、クリンチ8はリムのフランジと当接する。
【0035】
それぞれのビード10は、クリンチ8の軸方向内側に位置している。ビード10は、コア36と、このコア36から半径方向外向きに延びるエイペックス38とを備えている。コア36はリング状であり、巻回された非伸縮性ワイヤーを含む。ワイヤーの典型的な材質は、スチールである。エイペックス38は、半径方向外向きに先細りである。エイペックス38は、高硬度な架橋ゴムからなる。
【0036】
カーカス12は、カーカスプライ40を備えている。このタイヤ2では、カーカス12は1枚のカーカスプライ40からなる。このカーカス12が2枚以上のカーカスプライ40から形成されてもよい。
【0037】
このタイヤ2では、カーカスプライ40は、両側のビード10の間に架け渡されており、トレッド4、サイドウォール6及びクリンチ8の内側に沿っている。カーカスプライ40は、コア36の周りにて、軸方向内側から外側に向かって折り返されている。この折り返しにより、カーカスプライ40には、主部42と折り返し部44とが形成されている。
【0038】
図示されていないが、カーカスプライ40は並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。それぞれのコードが赤道面に対してなす角度の絶対値は、75°から90°である。換言すれば、このカーカス12はラジアル構造を有する。コードの材質は、スチールである。つまり、このカーカスプライ40はスチールコードを含んでいる。
【0039】
このタイヤ2では、折り返し部44の端は半径方向においてエイペックス38の外側端とコア36との間に位置している。このタイヤ2のビード10の部分には、大きな荷重が作用する。この折り返し部44の端には、歪みが集中する傾向にある。このタイヤ2では、このビード10の部分に、インナーサイドウォール46、中間層48及びストリップ50がさらに設けられている。これらは、折り返し部44の端への歪みの集中を抑制する。
【0040】
ベルト14は、トレッド4の半径方向内側に位置している。ベルト14は、カーカス12と積層されている。ベルト14は、カーカス12を補強する。このタイヤ2では、ベルト14は、第一層52、第二層54、第三層56及び第四層58からなる。第二層54は、第一層52の半径方向外側に位置している。第三層56は、第二層54の半径方向外側に位置している。第四層58は、第三層56の半径方向外側に位置している。このタイヤ2では、ベルト14は4層で構成されている。このベルト14が3層で構成されてもよいし、2層で構成されてもよい。このタイヤ2では、第二層54の端及び第三層56の端はカバーゴム60で覆われている。
【0041】
図1から明らかなように、このタイヤ2では、軸方向において、ベルト14を構成する第一層52、第二層54、第三層56及び第四層58のうち、第二層54が最も大きな幅を有している。このタイヤ2では、ベルト14を構成する複数の層のうち最も大きな軸方向幅を有する層、すなわち、第二層54の端がベルト14の端である。このタイヤ2では、ベルト14の軸方向幅は第二層54の軸方向幅で表される。
【0042】
図示されていないが、第一層52、第二層54、第三層56及び第四層58のそれぞれは、並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。それぞれのコードの材質は、スチールである。つまり、このベルト14はスチールコードを含んでいる。それぞれの層において、コードは、赤道面に対して傾斜している。このコードが赤道面に対してなす角度の絶対値は、15°から70°である。
【0043】
このタイヤ2では、軸方向においてベルト14の端はトレッド面28の端TEの近傍に位置している。このベルト14は、タイヤ2のトレッド4の部分の剛性に寄与する。このタイヤ2では、トレッド面28が路面と十分に接触する。この観点から、ベルト14はある程度の軸方向幅が必要である。しかしベルト14が大きな軸方向幅を有すると、ベルト14の端がタイヤ2の外面と近接する。この場合、ベルト14の端を包み込むゴムのボリュームが不十分となり、このベルト14の端において損傷が生じる恐れがある。この観点から、ベルト14の軸方向幅は適切に維持される必要がある。
【0044】
図1において、矢印WTはトレッド面28の軸方向幅である。この幅WTは、一方のトレッド面28の端TEから他方のトレッド面28の端TEまでの軸方向長さで表される。矢印WBは、ベルト14の軸方向幅である。この幅WBは、一方のベルト14の端から他方のベルト14の端までの軸方向長さで表される。
【0045】
このタイヤ22では、幅WTに対する幅WBの比は0.80以上が好ましく、0.95以下が好ましい。この比が0.80以上に設定されることにより、ベルト14がトレッド4の剛性に効果的に寄与しうる。この観点から、この比は0.85以上がより好ましい。この比が0.95以下に設定されることにより、ベルト14の端が適正な位置に配置される。これにより、ベルト14の端を包み込むゴムのボリュームが十分に確保される。このタイヤ2では、ベルト14の端における損傷が効果的に抑えられる。この観点から、この比は0.90以下がより好ましい。
【0046】
バンド16は、ベルト14の半径方向外側に位置している。このタイヤ2では、軸方向において、バンド16の幅はベルト14の幅と略同等である。図示されていないが、このバンド16は、コードとトッピングゴムとからなる。コードは、螺旋状に巻かれている。このバンド16は、いわゆるジョイントレス構造を有する。コードは、実質的に周方向に延びている。周方向に対するコードの角度は、5°以下、さらには2°以下である。このコードによりベルト14が拘束されるので、ベルト14のリフティングが抑制される。コードは、有機繊維からなる。好ましい有機繊維として、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、レーヨン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維及びアラミド繊維が例示される。
【0047】
ベルト14及びバンド16は、補強層Rを構成している。ベルト14のみから、補強層Rが構成されてもよい。
【0048】
インナーライナー18は、カーカス12の内側に位置している。インナーライナー18は、空気遮蔽性に優れた架橋ゴムからなる。インナーライナー18の典型的な基材ゴムは、ブチルゴム又はハロゲン化ブチルゴムである。インナーライナー18は、タイヤ2の内圧を保持する。
【0049】
インスレーション20は、カーカス12とインナーライナー18とに挟まれている。インスレーション20は、接着性に優れた架橋ゴムからなる。インスレーション20は、カーカス12と堅固に接合し、インナーライナー18とも堅固に接合する。インスレーション20により、インナーライナー18のカーカス12からの剥離が抑制されている。
【0050】
ぞれぞれのクッション層22は、ベルト14の端の近傍において、カーカス12と積層されている。クッション層22は、軟質な架橋ゴムからなる。クッション層22は、ベルト14の端の応力を吸収する。このクッション層22により、ベルト14のリフティングが抑制される。
【0051】
それぞれのチェーファー24は、ビード10の近傍に位置している。図示されていないが、タイヤ2がリムに組み込まれると、このチェーファー24がリムと当接する。この当接により、ビード10の近傍が保護される。この実施形態では、チェーファー24は、クリンチ8と一体である。従って、チェーファー24の材質はクリンチ8の材質と同じである。チェーファー24が、布とこの布に含浸したゴムとからなってもよい。
【0052】
それぞれのフィラー26は、ビード10の近くに位置している。フィラー26は、カーカス12と積層されている。フィラー26は、カーカス12の半径方向内側において、ビード10のコア36の周りで折り返されている。図示されていないが、フィラー26は並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。それぞれのコードは、半径方向に対して傾斜している。コードの材質は、スチールである。フィラー26は、ビード10の部分の倒れを抑えうる。このフィラー26は、タイヤ2の耐久性に寄与する。このタイヤ2では、フィラー26の端はカバーゴム62で覆われている。
【0053】
このタイヤ2では、トレッド4はベース層64とキャップ層66とを備えている。詳細には、このタイヤ2のトレッド4はベース層64及びキャップ層66から構成されている。つまり、このトレッド4は2つの部材で構成されている。これは、3以上の部材でトレッド4を構成すると、タイヤ2の生産性が損なわれるからである。
【0054】
ベース層64は、補強層Rに積層されている。
図1から明らかなように、このタイヤ2では、ベース層64は補強層Rの全体を覆っている。補強層Rの端の部分は、ベース層64とクッション層22とに挟まれている。このベース層64は、トレッド4の側面30の一部を構成している。このベース層64は、サイドウォール6と接合されている。このタイヤ2では、ベース層64は接着性に優れた架橋ゴムからなる。ベース層64の典型的な基材ゴムは、天然ゴムである。
【0055】
キャップ層66は、ベース層64の半径方向外側に位置している。キャップ層66は、ベース層64に積層されている。キャップ層66は、トレッド面28を構成している。このキャップ層66は、トレッド4の側面30の一部を構成している。このキャップ層66は、耐摩耗性、耐熱性及びグリップ性に優れた架橋ゴムからなる。このタイヤ2では、キャップ層66は、従来のキャップ層のためのゴムと同等のゴムからなる。したがって、このタイヤ2では、キャップ層66の損失正接TLcは概ね0.08〜0.15の範囲にあり、このキャップ層66の複素弾性率E*cは概ね5.0MPa〜7.0MPaの範囲にある。
【0056】
本発明においては、損失正接(tanδ)及び複素弾性率は、「JIS K 6394」の規定に準拠して、測定される。この測定では、板状の試験片(長さ=45mm、幅=4mm、厚み=2mm)が用いられる。この試験片は、タイヤ2から切り出されてもよいし、ゴム組成物からシートを作製し、このシートから切り出されてもよい。この測定のための条件は、以下の通りである。
粘弾性スペクトロメーター:岩本製作所の「VESF−3」
初期歪み:10%
動歪み:±1%
周波数:10Hz
変形モード:引張
測定温度:70℃
【0057】
このタイヤ2では、ベース層64の損失正接TLbは0.06以下である。このタイヤ2では、ベース層64の損失正接TLbは、キャップ層66の損失正接TLcよりも低い。このベース層64は、キャップ層66よりも発熱しにくい。このベース層64は、低発熱性のゴムである。このタイヤ2では、このベース層64は、タイヤ2の発熱を抑えるとともに、転がり抵抗の低減に寄与する。この観点から、この損失正接TLbは0.05以下が好ましく、0.04以下がより好ましい。このタイヤ2では、ベース層64の損失正接TLbは低いほど好ましいので、この損失正接TLbの好ましい下限は設定されていない。
【0058】
低発熱性のゴムの剛性は、この低発熱性が考慮されていないゴムのそれに比べて低い傾向にある。このタイヤ2のキャップ層66では、ベース層64のように低発熱性は考慮されていない。したがって、このタイヤ2では、ベース層64の剛性はキャップ層66の剛性よりも低い。このため、低発熱性のゴムからなるベース層64を備えるトレッド4においては、タイヤ2の転動時において、トレッド4が路面に対して大きく動き、このトレッド4において摩耗が進行する恐れがある。このベース層64は、耐摩耗性に影響する。またこのタイヤ2では、ベース層64は補強層Rの端の部分を覆っている。このため、ベース層64の剛性によっては、この端の部分に歪みが集中する恐れもある。この場合、ルースのような損傷が生じることが懸念される。
【0059】
このタイヤ2では、ベース層64の複素弾性率E*bは3MPa以上が好ましい。これにより、ベース層64が適度な剛性を有する。このタイヤ2では、このベース層64による耐摩耗性への影響が抑えられる。この観点から、複素弾性率E*bは3.5MPa以上がより好ましく、4.0MPa以上がさらに好ましい。このタイヤ2では、このベース層64の複素弾性率E*bは6MPa以下が好ましい。これにより、ベース層64の剛性が適切に維持される。補強層Rの端への歪みの集中が抑えられるので、このタイヤ2では、ルースのような損傷は生じにくい。この観点から、複素弾性率E*bは5.5MPa以下がより好ましく、5.0MPa以下がさらにこのましい。
【0060】
このタイヤ2では、ベース層64はトレッド4の一方の側面30とその他方の側面30との間を架け渡している。キャップ層66も、ベース層64と同様、トレッド4の一方の側面30とその他方の側面30との間を架け渡している。前述したように、このタイヤ2では、キャップ層66はベース層64に積層されている。ベース層64とキャップ層66との境界68は、トレッド4の一方の側面30とその他方の側面30との間を架け渡している。このトレッド4の側面30において、サイドウォール6の端部はトレッド4と接合されている。このタイヤ2では、トレッド4のボリュームに占めるベース層64のボリュームの割合は大きい。このベース層64は、低発熱性の架橋ゴムからなる。このタイヤ2では、このベース層64が転がり抵抗の低減に効果的に寄与する。
【0061】
図2には、タイヤ2のショルダー部が示されている。
図2において、上下方向がタイヤ2の半径方向であり、左右方向がタイヤ2の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ2の周方向である。
【0062】
この
図2において、実線LVは仮想線である。この仮想線LVは、軸方向に延びる直線である。この仮想線LVは、ベルト14の端を通る。本発明においては、この仮想線LVのうち、トレッド4と交わっている部分が線分ALと称される。この
図2において、両矢印ELはこの線分ALの長さを表している。この長さELは、ベルト14の端を通り軸方向に延びる仮想線LVを設定し、この仮想線LVのうち、トレッド4と交わっている部分を線分ALとしたとき、この線分ALの長さで表される、トレッド4の幅である。両矢印BLは、この線分ALに含まれるベース層64の幅である。
【0063】
このタイヤ2では、補強層Rの端、特に、ベルト14の端の周囲にはベース層64が位置している。言い換えれば、このベルト14の端は、ベース層64で覆われている。そしてこのタイヤ2のトレッド4は、ベース層64とキャップ層66との境界68が側面30に露出するよう構成されている。特にこのタイヤ2では、トレッド4の幅ELに占めるベース層64の幅BLの比率は70%以上である。このタイヤ2では、走行状態において大きく動くベルト14の端の部分、すなわち、ショルダー部に、十分なボリュームを有するベース層64が設けられている。前述したように、ベース層64は低発熱性の架橋ゴムからなる。このベース層64は、ベルトエッジルースのような損傷を抑えるとともに、転がり抵抗の低減に寄与する。この観点から、この比率は90%以上が好ましい。より好ましくは、この比率は100%、すなわち、
図2に示されているように、この線分AL上のトレッド4全体がベース層64で構成されることである。
【0064】
前述したように、このタイヤ2では、サイドウォール6の端部はトレッド4の側面30の軸方向外側に位置しており、このサイドウォール6はこの側面30から半径方向略内向きに延びている。そしてこのタイヤ2では、この側面30に露出した、ベース層64とキャップ層66との境界68は、サイドウォール6の端70よりも半径方向内側に位置している。このタイヤ2では、ベース層64はキャップ層66及びサイドウォール6で覆われている。言い換えれば、このタイヤ2では、ベース層64は露出していない。このタイヤ2では、低発熱性のベース層が側面に露出した従来のタイヤで確認されるような、クラックの発生が防止されている。
【0065】
このタイヤ2では、材料面だけでなく、構造面も検討することにより、諸性能への影響を抑えつつ、転がり抵抗の低減が達成されている。本発明によれば、諸性能への影響を抑えつつ、転がり抵抗の低減が達成された重荷重用空気入りタイヤ2が得られる。
【0066】
図2において、両矢印Lcはベース層64とキャップ層66との境界68からサイドウォール6の端70までの半径方向距離を表している。本発明においては、この距離Lcはサイドウォール6とキャップ層66との重複長さである。なおこの長さLcが正の数で表される場合が、サイドウォール6とキャップ層66とが軸方向において重複している状態にある。したがって、この長さLcが負の数で表される場合は、サイドウォール6の端70が境界68よりも半径方向内側に位置しており、このサイドウォール6とキャップ層66とが軸方向において重複していない状態にある。
【0067】
前述したように、このタイヤ2では、ベース層64とキャップ層66との境界68は、サイドウォール6の端70よりも半径方向内側に位置している。つまりこのタイヤ2では、重複長さLcは0mmよりも大きい。ベース層64の露出を防止し、クラックの発生を抑えるとの観点から、この長さLcは1mm以上が好ましく、3mm以上がより好ましく、5mm以上がさらに好ましい。ショルダー部におけるベース層64のボリュームを確保し、ルースのような損傷の発生を抑えつつ、転がり抵抗の低減を十分に図るとの観点から、この長さLcは20mm以下が好ましく、18mm以下がより好ましく、15mm以下がさらに好ましい。
【0068】
図2において、符号PUは線分ALの内端である。実線LUは、この内端PUを通り半径方向に延びる直線である。両矢印TUは、この直線LUに沿って計測される、線分ALからトレッド面28までの半径方向高さである。両矢印BUは、この直線LUに沿って計測される、線分ALからベース層64とキャップ層66との境界68までの半径方向高さである。
【0069】
図2において、符号PSは線分ALの外端である。実線LSは、この外端PSを通り半径方向に延びる直線である。両矢印TSは、この直線LSに沿って計測される、線分ALからトレッド面28までの半径方向高さである。両矢印BSは、この直線LUに沿って計測される、線分ALからベース層64とキャップ層66との境界68までの半径方向高さである。
【0070】
図2において、符号PMは線分ALの中点である。実線LMは、この中点PMを通り半径方向に延びる直線である。両矢印TMは、この直線LMに沿って計測される、線分ALからトレッド面28までの半径方向高さである。両矢印BMは、この直線LUに沿って計測される、線分ALからベース層64とキャップ層66との境界68までの半径方向高さである。
【0071】
このタイヤ2では、線分ALの内端PUにおいて、高さTUに対する高さBUの比率は30%以上40%以下が好ましい。この比率が30%以上に設定されることにより、ショルダー部において、ベース層64のボリュームが十分に確保される。このベース層64は、ルースのような損傷の発生を抑制するとともに、転がり抵抗の低減に寄与する。この比率が40%以下に設定されることにより、ショルダー部の剛性へのベース層64の影響が抑えられる。このタイヤ2では、ショルダー部の剛性が適切に維持されるので、良好な耐摩耗性が維持される。
【0072】
このタイヤ2では、線分ALの中点PMにおいて、高さTMに対する高さBMの比率は15%以上40%以下が好ましい。この比率が15%以上に設定されることにより、ショルダー部において、ベース層64のボリュームが十分に確保される。このベース層64は、ルースのような損傷の発生を抑制するとともに、転がり抵抗の低減に寄与する。この比率が40%以下に設定されることにより、ショルダー部の剛性へのベース層64の影響が抑えられる。このタイヤ2では、ショルダー部の剛性が適切に維持されるので、良好な耐摩耗性が維持される。
【0073】
このタイヤ2では、線分ALの外端PSにおいて、高さTSに対する高さBSの比率は0%以上20%以下が好ましい。この比率が0%以上に設定されることにより、ショルダー部において、ベース層64のボリュームが十分に確保される。このベース層64は、ルースのような損傷の発生を抑制するとともに、転がり抵抗の低減に寄与する。この比率が20%以下に設定されることにより、ショルダー部の剛性へのベース層64の影響が抑えられる。このタイヤ2では、ショルダー部の剛性が適切に維持されるので、良好な耐摩耗性が維持される。
【0074】
このタイヤ2では、ベルト14の端における損傷防止の観点から、ベルト14の端を包み込むゴムのボリュームが十分に確保されている。このため、このタイヤ2では、ベルト14の端から軸方向外側部分は架橋ゴムで構成されている。ところでこのタイヤ2のショルダー部からは、サイドウォール6の部分が半径方向略内向きに延在している。このタイヤ2に荷重が作用している場合には、このサイドウォール6の部分からこのショルダー部に向かって力が作用する。ベルト14の端よりも軸方向外側の部分では、ベルト14のような補強層が設けられていないため、耐摩耗性の観点から、このショルダー部は、軸方向外側ほど大きな剛性を有するように構成されているのが好ましい。特に、
図2に示されているように、線分AL上のトレッド4全体がベース層64で構成されている場合においては、このショルダー部は、軸方向外側ほど大きな剛性を有するように構成されているのがより好ましい。具体的には、中点PMにおけるベース層64の厚さBMは内端PUにおけるベース層64の厚さBUよりも小さく、外端PSにおけるベース層64の厚さBSは中点PMにおけるベース層64の厚さBMよりも小さくなるように、このショルダー部が構成されているのが好ましい。
【0075】
このタイヤ2では、転がり抵抗の低減の観点から、厚さBUに対する厚さBMの比率は60%以上が好ましい。耐摩耗性の観点から、この比率は90%以下が好ましい。
【0076】
このタイヤ2では、転がり抵抗の低減の観点から、厚さBUに対する厚さBSの比率は0%以上が好ましい。耐摩耗性の観点から、この比率は60%以下が好ましい。
【0077】
このタイヤ2では、転がり抵抗の低減の観点から、厚さBMに対する厚さBSの比率は0%以上が好ましい。耐摩耗性の観点から、この比率は80%以下が好ましい。
【0078】
図2において、両矢印SLは仮想線LVに沿って計測されるサイドウォール6の幅である。このタイヤ2では、ベース層64の露出防止の観点から、サイドウォール6は、その端70がベース層64とキャップ層66との境界68よりも半径方向外側に位置するように構成される。特に、
図2に示されているように、線分AL上のトレッド4全体がベース層64で構成されている場合においては、サイドウォール6のボリュームはこのショルダー部におけるベース層64のボリュームに影響する。
【0079】
このタイヤ2では、ベース層64の露出防止の観点から、サイドウォール6の幅SLは3mm以上が好ましい。ショルダー部におけるベース層64のボリュームの確保の観点から、この幅SLは5mm以下が好ましい。
【0080】
図1において、両矢印TCはキャップ層66の厚さを表している。この厚さTCは、ベース層64とキャップ層66との境界68の法線に沿って計測される、この境界68からトレッド面28までの長さで表される。本発明においては、この厚さTCはショルダーリブにおける最小の厚さで表される。
【0081】
このタイヤ2では、キャップ層66の厚さTCと主溝32Mの深さDとの差は−3mm以上が好ましい。この場合、キャップ層66が適切な厚さを有しているので、このタイヤ2が十分な距離を走行しても、このキャップ層66がベース層64の露出を防止する。このタイヤ2では、チッピングが発生しにくい。このタイヤ2では、この差は20mm以下が好ましい。これにより、トレッド4のボリュームに占めるキャップ層66のボリュームの割合が適切に維持される。このタイヤ2では、ベース層64による転がり抵抗の低減効果が十分に発揮される。
【0082】
図1において、実線LRは半径方向に延びる直線である。この直線LRは、ベルト14の端を通る。符号PCは、直線LRとカーカス12、詳細には、カーカス12の外側面との交点である。実線LPCは、この交点PCにおけるカーカス12の法線である。両矢印TTは、この法線LPCに沿って計測されるトレッド4の厚さである。両矢印TBは、この法線LPCに沿って計測されるベース層64の厚さである。
【0083】
このタイヤ2では、厚さTTに対する厚さTBの比率は50%以上が好ましい。これにより、ショルダー部において、ベース層64のボリュームが十分に確保される。このベース層64は、ルースのような損傷の発生を抑制するとともに、転がり抵抗の低減に寄与する。この観点から、この比率は55%以上がより好ましい。ショルダー部の剛性へのベース層64の影響が抑えられ、良好な耐摩耗性が維持されるとの観点から、この比率は80%以下が好ましい。
【0084】
本発明では、タイヤ2の各部材の寸法及び角度は、タイヤ2が正規リムに組み込まれ、正規内圧となるようにタイヤ2に空気が充填された状態で測定される。測定時には、タイヤ2には荷重がかけられない。本明細書において正規リムとは、タイヤ2が依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。本明細書において正規内圧とは、タイヤ2が依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。本明細書において正規荷重とは、タイヤ2が依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最高負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。
【実施例】
【0085】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0086】
[実施例1]
図1−2に示されたタイヤを製作した。このタイヤのサイズは、11R22.5である。この実施例1の諸元は、下記の表1に示された通りである。この実施例1では、キャップ層の損失正接TLcは、0.14であった。このキャップ層の複素弾性率E*cは、7.0MPaであった。
【0087】
[実施例2−4及び比較例1−2]
トレッドの幅ELに占めるベース層の幅BLの比率(EL/BL)、サイドウォールとキャップ層との重複長さLc、線分ALの内端における高さTUに対する高さBUの比率(BU/TU)、線分ALの中点における高さTMに対する高さBMの比率(BM/TM)、線分ALの外端における高さTSに対する高さBSの比率(BS/TS)、高さBUに対する高さBMの比率(BM/BU)、及び、高さBUに対する高さBSの比率(BS/BU)を下記の表1の通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2−4及び比較例1−2のタイヤを得た。
【0088】
[実施例5−8及び比較例3]
長さLcを下記の表2に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例5−8及び比較例3のタイヤを得た。なお、比較例3では、サイドウォールの端が仮想線LVよりも半径方向内側にあるため、この仮想線LVに沿って計測されるサイドウォールの幅SLは設定されていない。また、この比較例3の比率(BS/TS)及び比率(BS/BU)は「0」であった。
【0089】
[実施例9−19]
比率(BU/TU)、比率(BM/TM)、比率(BS/TS)、比率(BM/BU)、及び、比率(BS/BU)を下記の表3−5に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例9−19のタイヤを得た。
【0090】
[実施例20−22]
幅SLを下記の表6に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例20−22のタイヤを得た。
【0091】
[実施例23及び比較例4]
ベース層の損失正接TLbを下記の表6に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例23及び比較例4のタイヤを得た。
【0092】
[実施例24−27]
ベース層の複素弾性率E*bを下記の表7に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例24−27のタイヤを得た。
【0093】
[転がり抵抗係数]
転がり抵抗試験機を用い、下記の測定条件で転がり抵抗係数(RRC)を測定した。
使用リム:7.50×22.5(アルミニウム合金製)
内圧:800kPa
荷重:29.42kN
速度:80km/h
この結果が、指数で、下記の表1−7に示されている。数値が大きいほど好ましい。つまり、数値が大きいほど転がり抵抗は小さいことを表している。
【0094】
[耐SFC性能]
タイヤをリム(サイズ=7.50×22.5)に組み込み、このタイヤに空気を充填して内圧を正規内圧とした。比較例1のタイヤと共に、ドラム式走行試験機にこのタイヤをスクラッチ装着し、正規荷重をタイヤに負荷した。このタイヤを、80km/hの速度で、半径が1.7mであるドラムの上を走行させた。10万km走行後、タイヤの外観を観察した。タイヤの側面におけるクラックの発生状況を確認し、クラックの数及び大きさを指数化した。この結果が、下記の表1−7に示されている。数値が大きいほど好ましい。つまり、数値が大きいほどクラックの発生が抑えられていることを表している。
【0095】
[耐チッピング性能]
タイヤをリム(サイズ=7.50×22.5)に組み込み、このタイヤに空気を充填して内圧を正規内圧とした。比較例1のタイヤと共に、ドラム式走行試験機にこのタイヤをスクラッチ装着し、正規荷重をタイヤに負荷した。このタイヤを、80km/hの速度で、半径が1.7mであるドラムの上を走行させた。10万km走行後、タイヤの外観を観察した。チッピングの発生状況を確認し、このチッピングの程度(大きさ及び数)を指数化した。この結果が、下記の表1−7に示されている。数値が大きいほど好ましい。つまり、数値が大きいほどチッピングが抑えられていることを表している。
【0096】
[耐TLC性能]
タイヤをリム(サイズ=7.50×22.5)に組み込み、このタイヤに空気を充填して内圧を正規内圧とした。比較例1のタイヤと共に、ドラム式走行試験機にこのタイヤをスクラッチ装着し、正規荷重をタイヤに負荷した。このタイヤを、120km/hの速度で、半径が1.7mであるドラムの上を走行させ、TLCが発生するまでの時間を計測した。この結果が、指数で、下記の表1−7に示されている。数値が大きいほど好ましい。つまり、数値が大きいほどTLCの発生が抑えられていることを表している。
【0097】
[耐摩耗性能]
タイヤをリム(サイズ=7.50×22.5)に組み込み、このタイヤに空気を充填して内圧を正規内圧とした。比較例1のタイヤと共に、ドラム式走行試験機にこのタイヤをスクラッチ装着し、正規荷重をタイヤに負荷した。このタイヤを、80km/hの速度で、半径が1.7mであるドラムの上を走行させた。10万km走行後、摩耗量を計測した。この結果が、下記の表1−7に示されている。数値が大きいほど好ましい。つまり、数値が大きいほど摩耗量が小さく耐摩耗性に優れていることを表している。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
【表3】
【0101】
【表4】
【0102】
【表5】
【0103】
【表6】
【0104】
【表7】
【0105】
表1−7に示されるように、実施例のタイヤでは、比較例のタイヤに比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。