(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6623772
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/336 20060101AFI20191216BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20191216BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20191216BHJP
【FI】
H01L29/78 658F
H01L29/78 652K
H01L29/78 653A
H01L29/78 652B
H01L29/78 658G
H01L29/78 652T
H01L29/78 658A
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-4222(P2016-4222)
(22)【出願日】2016年1月13日
(65)【公開番号】特開2017-126630(P2017-126630A)
(43)【公開日】2017年7月20日
【審査請求日】2018年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】武井 学
【審査官】
恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−125905(JP,A)
【文献】
特開2006−228901(JP,A)
【文献】
特開2012−064658(JP,A)
【文献】
特開2013−004641(JP,A)
【文献】
特開2008−016650(JP,A)
【文献】
特開2006−351744(JP,A)
【文献】
特開2016−082099(JP,A)
【文献】
特開平11−251589(JP,A)
【文献】
特開2010−093053(JP,A)
【文献】
特開2006−108243(JP,A)
【文献】
特開2010−129820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/336
H01L 29/12
H01L 29/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素からなる半導体基板にトレンチを有する炭化珪素半導体装置の製造方法であって、
前記半導体基板に前記トレンチを形成する第1工程と、
前記半導体基板の表面および前記トレンチの内壁に、前記トレンチの内壁での厚さよりも前記半導体基板の表面での厚さが厚くなるように堆積膜を形成する第2工程と、
前記堆積膜の、前記トレンチの内壁を覆う部分を除去し、前記トレンチの内壁を露出させる第3工程と、
前記第3工程の後、犠牲酸化により前記トレンチの内壁に酸化膜を成長させる第4工程と、
前記堆積膜および前記酸化膜を除去する第5工程と、
を含むことを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記第3工程では、前記堆積膜の厚さを均一に薄くして前記トレンチの内壁を露出させることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記第2工程では、前記堆積膜として酸化シリコン膜、窒化シリコン膜またはシリコン膜を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記第1工程の前に、前記半導体基板の、前記トレンチを形成する側の主面に所定の素子構造を形成する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記第1工程の前に、
第1導電型の前記半導体基板の、前記トレンチを形成する側の主面に、第2導電型の第1半導体領域を形成する工程と、
前記第1半導体領域の内部に、第1導電型の第2半導体領域を選択的に形成する工程と、をさらに含み、
前記第1工程では、前記第2半導体領域および前記第1半導体領域を深さ方向に貫通する前記トレンチを形成し、
前記第5工程の後、前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成することを特徴とする請求項4に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭化珪素半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トレンチゲート型MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:絶縁ゲート型電界効果トランジスタ)の作製(製造)において、トレンチを形成するためのエッチング時にトレンチ内壁にダメージ層が生じることが知られている。ダメージとは、エッチングによる表面荒れや表面付近の結晶構造の乱れにより生じた表面凹凸である。
【0003】
トレンチ内壁を犠牲酸化することでトレンチ内壁に生じたダメージ層を除去することができるが、炭化珪素(SiC)を半導体材料とした場合、トレンチ形成後に行う犠牲酸化により素子特性に悪影響が及ぶことが報告されている(例えば、下記特許文献1参照。)。下記特許文献1では、トレンチの形成後に犠牲酸化工程を行うことなくゲート酸化膜を形成することで、ゲート絶縁膜の信頼性が低下することを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−053595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、トレンチ内壁のダメージ層を犠牲酸化により除去する従来方法では、次の問題がある。
図9〜11は、従来の半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。MOSゲート(金属−酸化膜−半導体からなる絶縁ゲート)構造を形成するにあたって、まず、炭化珪素からなる半導体ウエハのおもて面側にp型ベース領域103やn
+型ソース領域104などの拡散領域を形成した後に、トレンチ105を形成する(
図9)。符号101,102はそれぞれn
+型出発基板およびn
-型エピタキシャル層である。次に、トレンチ105の内壁を犠牲酸化する。このとき、トレンチ105の内壁だけでなく、ウエハおもて面にも酸化膜111が成長する。
【0006】
特にウエハおもて面が(000−1)面、いわゆるカーボン(C)面である場合、他の結晶面に比べて酸化膜111の成長速度が速く、厚い酸化膜111が成長するため、ウエハおもて面側の炭化珪素領域の厚みのより多くが酸化膜111に変化する。すなわち、ウエハおもて面側のn
+型ソース領域104の厚さが減少する。特に犠牲酸化工程が高温長時間にわたる場合には、n
+型ソース領域104が完全に酸化膜111に変化して消失する(
図10,11)。
図10にはn
+型ソース領域104が完全に酸化膜111に変化した状態を示し、
図11には
図10の工程につづく酸化膜111除去後の状態を示す。このため、MOSゲート構造としての機能が失われるという問題がある。
【0007】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、トレンチ内壁の犠牲酸化による信頼性低下を防止することができる炭化珪素半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、炭化珪素からなる半導体基板にトレンチを有する炭化珪素半導体装置の製造方法であって、次の特徴を有する。まず、前記半導体基板にトレンチを形成する第1工程を行う。次に、前記半導体基板の表面および前記トレンチの内壁に、前記トレンチの内壁での厚さよりも前記半導体基板の表面での厚さが厚くなるように堆積膜を形成する第2工程を行う。次に、前記堆積膜の、前記トレンチの内壁を覆う部分を除去し、前記トレンチの内壁を露出させる第3工程を行う。次に、前記第3工程の後、犠牲酸化により前記トレンチの内壁に酸化膜を成長させる第4工程を行う。次に、前記堆積膜および前記酸化膜を除去する第5工程を行う。
【0009】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第3工程では、前記堆積膜の厚さを均一に薄くして前記トレンチの内壁を露出させることを特徴とする。
【0010】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第2工程では、前記堆積膜として酸化シリコン膜、窒化シリコン膜またはシリコン膜を形成することを特徴とする。
【0011】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第1工程の前に、前記半導体基板の、前記トレンチを形成する側の主面に所定の素子構造を形成する工程をさらに含むことを特徴とする。
【0012】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第1工程の前に、さらに次の工程を行う。まず、第1導電型の前記半導体基板の、前記トレンチを形成する側の主面に、第2導電型の第1半導体領域を形成する工程を行う。次に、前記第1半導体領域の内部に、第1導電型の第2半導体領域を選択的に形成する工程を行う。その後の前記第1工程では、前記第2半導体領域および前記第1半導体領域を深さ方向に貫通する前記トレンチを形成する。そして、前記第5工程の後、前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成することを特徴とする。
【0013】
上述した発明によれば、トレンチの形成後、基板おもて面を厚い堆積膜で覆った状態で犠牲酸化を行うため、基体おもて面と堆積膜との界面に犠牲酸化による熱酸化膜はほぼ成長しない。これにより、基板おもて面の拡散領域の厚さがほぼ維持される。一方、トレンチの内壁においては、犠牲酸化によりダメージ層がなくなる程度の厚さで熱酸化膜を成長させることができる。このため、その後、この熱酸化膜を除去することでトレンチの内壁のダメージ層を除去することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法によれば、トレンチ内壁の犠牲酸化による信頼性低下を防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態にかかる半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
【
図2】実施の形態にかかる半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
【
図3】実施の形態にかかる半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
【
図4】実施の形態にかかる半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
【
図5】実施の形態にかかる半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
【
図6】実施の形態にかかる半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
【
図7】実施の形態にかかる半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
【
図8】実施の形態にかかる半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
【
図9】従来の半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
【
図10】従来の半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
【
図11】従来の半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および−は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本明細書では、ミラー指数の表記において、“−”はその直後の指数につくバーを意味しており、指数の前に“−”を付けることで負の指数を表している。
【0017】
(実施の形態)
実施の形態にかかる半導体装置の製造方法について、耐圧1200Vクラスのトレンチゲート型MOSFETを作製(製造)する場合を例に説明する。
図1〜8は、実施の形態にかかる半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。まず、
図1に示すように、炭化珪素(SiC)からなるn
+型ドレイン層となるn
+型出発基板(以下、n
+型炭化珪素基板とする)1のおもて面に、n
-型ドリフト層2となるn
-型炭化珪素エピタキシャル層を成長させる。以下、n
+型炭化珪素基板1上にn
-型炭化珪素エピタキシャル層を成長させてなる炭化珪素エピタキシャル基板を炭化珪素基体(半導体ウエハ(半導体基板))とする。
【0018】
次に、異なる条件の複数回のイオン注入を繰り返し行い、炭化珪素基体のおもて面(n
-型炭化珪素エピタキシャル層側の面(主面))側に、一般的なトレンチゲート型のMOSゲート構造(素子構造)を構成する所定の拡散領域を形成する。具体的には、MOSゲート構造を構成する例えばp型ベース領域(第1半導体領域)3、n
+型ソース領域(第2半導体領域)4およびp
+型コンタクト領域(不図示)などの拡散領域を形成する。n
-型炭化珪素エピタキシャル層の、上記拡散領域よりも基体おもて面から深い部分に、これらの領域が形成されないことでn
-型領域として残っている部分がn
-型ドリフト層2となる。
【0019】
次に、拡散領域を活性化させるためのアニール(熱処理)を行う。この活性化のためのアニールは、拡散領域を形成するごとに行ってもよい。次に、
図2に示すように、炭化珪素基体のおもて面に、例えば0.5μmの厚さで酸化膜11を成膜(形成)する。次に、酸化膜11をパターニングして選択的に除去し、酸化膜11の開口部にトレンチ5の形成領域に対応する部分における基体おもて面を露出させる。次に、酸化膜11の残部をマスクとしてエッチングを行い、n
+型ソース領域4およびp型ベース領域3を貫通してn
-型ドリフト層2に達するトレンチ5を形成する。
【0020】
次に、トレンチ5を形成するためのエッチング時に堆積された堆積物(いわゆるデポ物)12、および酸化膜11の残部を例えばフッ化水素酸(HF)溶液により除去する(
図3)。この時点でのトレンチ5の内壁5aには、トレンチ5を形成するためのエッチングによりダメージ層が形成される。ダメージとは、エッチングによる表面荒れや表面付近の結晶構造の乱れにより生じた表面凹凸である。次に、
図4に示すように、基体おもて面およびトレンチ5の内壁5aに、LTO(Low Temperature Oxide:低温酸化)膜などの堆積膜13を成膜(形成)する。このとき、堆積膜13の、基体おもて面を覆う部分13aの厚さt1がトレンチ5の内壁5aを覆う部分13bの厚さt2よりも厚くなるように(t1>t2)、堆積膜13の成膜条件を設定する。
【0021】
例えば、成膜温度を400℃程度とし、成膜時間60分間程度とし、減圧下にてシラン(SiH
4)および酸素(O
2)を反応させることで堆積膜13となる酸化膜を成膜する。これにより、基体おもて面を覆う部分13aの厚さt1を1.0μm程度とし、トレンチ5の内壁5aを覆う部分13bの厚さt2を0.5μm程度とした堆積膜13を成長させることができる。
【0022】
次に、
図5に示すように、例えばフッ化水素酸溶液によりトレンチ5の内壁5aが露出するまで堆積膜13の全体の厚さを均一に薄くする。これにより、堆積膜13の、トレンチ5の内壁5aを覆う部分13bが完全に除去され、堆積膜13は基体おもて面を覆う部分13aにのみ残る。例えば、堆積膜13の全体の厚さを0.6μmだけ均一に薄くしたとする(以下、堆積膜13の薄膜化とする)。この場合、堆積膜13の、トレンチ5の内壁5aを覆う部分13bの厚さt2は堆積膜13の除去量よりも薄いため(t2<0.6μm)、堆積膜13の、トレンチ5の内壁5aを覆う部分13bは完全に除去される。一方、堆積膜13の、基体おもて面を覆う部分13aの厚さt1は堆積膜13の除去量よりも厚いため(t1>0.6μm)、堆積膜13の、基体おもて面を覆う部分13aは0.4μmの厚さt1’で基体おもて面に残る(t1’=t1−0.6μm)。
【0023】
このようにして、堆積膜13の、トレンチ5の内壁5aを覆う部分13bのみを除去することができる。基体おもて面上に残る堆積膜13(13a)は後述するように犠牲酸化時に熱酸化膜14の成長を抑制する機能を有する。堆積膜13は、直接的に狙った領域にのみ成膜することはできない。このため、トレンチ5の内部も含めて基体おもて面上に堆積膜13を成膜し、その後、トレンチ5の内部の堆積膜13を除去する必要がある。このとき、仮に、堆積膜13の、基体おもて面を覆う部分13aの厚さt1とトレンチ5の内壁5aを覆う部分13bの厚さt2とが等しい場合、エッチングによりトレンチ5の内部の堆積膜13のみを選択的に除去することとなる。すなわち、トレンチ5の開口部に対応する部分を開口したレジスト膜をマスクとして堆積膜13をパターニングし、トレンチ5の開口部上部およびトレンチ5の内部の堆積膜13のみを除去する。この場合、レジスト膜のパターニング精度の問題から、トレンチ5の開口部の横方向(基体おもて面に平行な方向)位置と、堆積膜13の除去部の横方向位置と、にずれが生じ、基体おもて面が露出してしまう虞がある。それに対して、本発明においては、レジスト膜をマスクとして用いずに、堆積膜13の全体の厚さを均一に薄くすることで、基体おもて面を露出させることなく、堆積膜13の、トレンチ5の内壁5aを覆う部分13bのみを除去することができる。
【0024】
次に、
図6に示すように、基体おもて面を堆積膜13(13a)で覆った状態で犠牲酸化を行う。この犠牲酸化によりトレンチ5の内壁5a(
図3参照)のダメージ層が酸化され熱酸化膜(犠牲酸化膜)14が成長し、熱酸化膜14との界面となるダメージの生じていない半導体部表面が新たにトレンチ5の内壁5bとなる。ダメージ層が形成された状態のトレンチ5の内壁5aに成長させる熱酸化膜14の厚さt3は、トレンチ5の内壁5aのダメージ層を完全に酸化させて除去することができる程度の厚さ(例えば0.2μm程度)以上であることが好ましい。
【0025】
一方、この犠牲酸化時、厚い堆積膜13(13a)で覆われていることで基体おもて面での熱酸化膜14の成長速度は遅く、基体おもて面と堆積膜13との界面で熱酸化膜14はほぼ成長しない。すなわち、基体おもて面側に形成されたn
+型ソース領域4などの拡散領域の消失または当該拡散領域の厚さの減少はほぼ生じない。例えば薄膜化後の堆積膜13の、基体おもて面を覆う部分13aの厚さt1’が熱酸化膜14の厚さt3と同じである場合(t1’=t3)、堆積膜13を形成しない場合に比べて、基体おもて面側の拡散領域の厚さの減少量が(√2−1)倍(=約0.4倍)になる。また、例えば薄膜化後の堆積膜13の、基体おもて面を覆う部分13aの厚さt1’がトレンチ5の内壁5aに成長させる熱酸化膜14の厚さt3の1/10であれば(t1’/t3=1/10)、堆積膜13を形成しない場合に比べて、基体おもて面側の拡散領域の厚さの減少量が0.9倍になる。このため、薄膜化後の堆積膜13の、基体おもて面を覆う部分13aの厚さt1’は、ダメージ層が形成された状態のトレンチ5の内壁5aに成長させる熱酸化膜14の厚さt3の1/10以上程度残されていればよい(t1’/t3>1/10)。
【0026】
次に、堆積膜13の残部(13a)および熱酸化膜14を例えばフッ化水素酸溶液により除去する。これにより、ダメージ層が除去されたほぼ平坦なトレンチ5の内壁5bが露出される。一方、上述したように熱酸化膜14の成膜(形成)時に基体おもて面の拡散領域はほぼ酸化されないため、n
+型ソース領域4はほぼ除去されずにソース領域としての機能が完全に保たれる(
図7)。次に、一般的な方法により、ゲート絶縁膜6、ゲート電極7、層間絶縁膜8、ソース電極9およびドレイン電極10など残りの各部を形成する。その後、ウエハをチップ状にダイシング(切断)して個片化することで、
図8に示すMOSFETが完成する。
【0027】
また、上述した実施の形態にかかる半導体装置の製造方法において、堆積膜13として、酸化シリコン(SiO
2)膜、窒化シリコン(SiN)膜またはシリコン(Si)膜などを成膜してもよい。堆積膜13がシリコン膜など酸化膜以外である場合、例えば等方性エッチングによりトレンチ5の内壁5aが露出するまで堆積膜13の全体の厚さを均一に薄くして、基体おもて面を覆う部分13aのみ堆積膜13を残せばよい。
【0028】
以上、説明したように、実施の形態によれば、トレンチの形成後、基体おもて面およびトレンチの内壁に、基体おもて面を覆う部分の厚さがトレンチの内壁を覆う部分の厚さよりも厚い堆積膜を成膜することで、その後、トレンチの内壁を露出させたときに、基体おもて面に厚い堆積膜を残すことができる。この状態で犠牲酸化を行うため、基体おもて面と堆積膜との界面に犠牲酸化による熱酸化膜はほぼ成長しない。このため、基体おもて面のn
+型ソース領域などの拡散領域の厚さをほぼ維持することができる。これにより、当該拡散領域の消失または当該拡散領域の厚さの減少を最小限に抑えることができるため、MOSゲート構造としての機能が失われることを防止することができる。一方、トレンチの内壁においては、犠牲酸化によりダメージ層がなくなる程度の厚さに熱酸化膜を成長させることができる。このため、その後、この熱酸化膜を除去することでトレンチの内壁のダメージ層を除去することができ、素子特性が劣化することを防止することができる。したがって、トレンチの内壁の犠牲酸化を行うことによる信頼性低下を防止することができる。
【0029】
以上において本発明は、上述した実施の形態に限らず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上述した実施の形態では、トレンチゲート型MOSFETを例に説明しているが、トレンチゲート型のMOSゲート構造を備えたIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)などのMOS型半導体装置に本発明を適用した場合においても同様の効果を奏する。また、本発明は、トレンチや溝の内壁を犠牲酸化する工程を含む製造プロセスにより作製されるさまざまな構成の半導体装置に適用可能である。
【0030】
また、上述した実施の形態においては、MOSゲート構造を構成するベース領域やソース領域を拡散領域とした場合を例に説明しているが、エピタキシャル成長によりベース領域やソース領域を形成した場合において同様の効果を奏する。また、上述した実施の形態において、例えば各部の寸法や耐圧クラス等は要求される仕様等に応じて種々設定される。また、上述した実施の形態では第1導電型をn型とし、第2導電型をp型としたが、本発明は第1導電型をp型とし、第2導電型をn型としても同様に成り立つ。
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上のように、本発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、電力変換装置や種々の産業用機械などの電源装置などに使用されるパワー半導体装置に有用であり、特に炭化珪素を半導体材料としたトレンチゲート型のMOS型半導体装置に適している。
【符号の説明】
【0032】
1 n
+型炭化珪素基板
2 n
-型ドリフト層
3 p型ベース領域
4 n
+型ソース領域
5 トレンチ
5a ダメージ層が形成された状態のトレンチの内壁
5b ダメージ層が除去された状態のトレンチの内壁
6 ゲート絶縁膜
7 ゲート電極
8 層間絶縁膜
9 ソース電極
10 ドレイン電極
11 酸化膜
13 堆積膜
13a 堆積膜の、基体おもて面を覆う部分
13b 堆積膜の、トレンチの内壁を覆う部分
14 熱酸化膜
t1 堆積膜の、基体おもて面を覆う部分の厚さ
t1’ 薄膜化後の堆積膜の、基体おもて面を覆う部分の厚さ
t2 堆積膜の、トレンチの内壁を覆う部分の厚さ
t3 熱酸化膜の厚さ