(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来構成には次のような問題点がある。
すなわち、装置では、TOF−PETで実現できる本来の時間分解能が十分に引き出せていない。
【0008】
この課題は、従来装置の構成に由来する。
図24は、この事情を説明している。TOF−PETにおいてγ線のペアの発生位置を特定するには、γ線を検出した二つの検出器のそれぞれが検出時刻を示す時刻情報を出力する必要がある。この検出時刻は、検出器の回路構成により不正確になっているという実情がある。すなわち、
図24に示すように、シンチレータ結晶の各々には蛍光を検出する検出素子が設けられており、その検出素子の出力が全て合計回路62に入力される構成となっている。シンチレータ結晶のいずれかで蛍光が発生すると、その結晶に対応する検出素子から信号が出力され、合計回路62に入力される。合計回路62は、全ての検出素子からの出力を合計した合算の信号を出力する。合計回路62はこの合算の信号を検出時刻に変換する変換回路に出力する。変換回路は、合算の信号の入力タイミングから蛍光の発生時刻を認識し、時刻を表したデータを出力する。このデータが検出器の出力する時刻情報である。
【0009】
図25は、合計回路62の理想的な動作を示している。蛍光が発生した結晶に対応する検出素子からは、鋭いパルス状の信号が出力され、合計回路62に入力される。これ以外の検出素子の入力は0となっている。したがって、合計回路62は、入力された鋭いパルス状の信号をそのままパスするような動作をするはずである。
【0010】
図26は、実際の合計回路62の動作を示している。合計回路62は、理想通りに動作しない。鋭いパルス状の信号は、合計回路62を通過する間に鋭さが失われ、時間的にパルスが伸びてしまう。パルス状の信号を合計回路62に通過させると、パルスが本来持っていた時間的な精度が劣化してしまうのである。従来のTOF−PETは、このような精度が劣化した信号を用いて動作している。このようなパルスの劣化は、放射性薬剤のイメージングに悪い影響を及ぼす。すなわち、
図27に示すように、γ線の発生位置がはっきりと分からなくなり、放射線分布画像がボケてしまう。
【0011】
検出素子からの直接的な出力のみを用いてTOF−PETを構成することはできないだろうか。これが可能なら合計回路62が必要とならないので、パルスが鋭いままγ線の発生位置の特定が可能となるはずである。
【0012】
しかし、実際にこのような構成とするのは難しい。合計回路62を省略したような構成とすると、今度は、検出できるγ線のペアが極端に少なくなってしまうのである。シンチレータに入射するγ線には、
図28に示すように異なる2つの結晶で蛍光に変換されるものがある。このような現象を多重散乱イベントと呼ぶ。このとき、2つの検出素子がγ線検出に係る信号を出力することになるが、それぞれの信号は、弱くS/N比が悪い。この弱い信号に基づいてγ線の発生位置の特定しようとすると、γ線の発生位置の信頼性が低下してしまう。従来構成は、多重散乱イベントが起こることを見こうして、合計回路62を設けているのである。これを省略すると、多重散乱イベントに係るデータが得られなくなってしまう。多重散乱イベントに係るデータを全て破棄してしまうと、放射性薬剤のイメージングをするのにデータ点数が不足してしまう。結局、放射線分布画像がボケてしまう。
【0013】
本発明は、この様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、多重散乱イベントの発生を考慮したうえで時間分解能が改善された放射線検出器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上述の課題を解決するために次のような構成をとる。
すなわち、本発明に係る放射線検出器は、放射線を蛍光に変換するシンチレータ結晶が縦横に配列されて一体化しているシンチレータと、シンチレータから発する蛍光を検出する構成であってシンチレータ結晶の各々に対応する検出素子を有する光検出器を備え、検出素子の出力の各々は、複数に分岐する構成となっており、ある分岐は、蛍光が単一のシンチレータ結晶で生じる事象である光電吸収イベントの蛍光発生時刻を算出する用の分岐となっているとともに、他の分岐は、蛍光が複数のシンチレータ結晶で生じる事象である多重散乱イベントの蛍光発生時刻を算出する用の分岐となっており、検出素子の出力したパルスを光電吸収イベント用の分岐を通じて入力させ、当該パルスを時刻情報に変換することにより光電吸収イベントに係る蛍光発生時刻を算出する構成であって、各検出素子に設けられている光電吸収時刻算出手段と、各検出素子に係る
多重散乱イベント用の分岐の各々からの出力を合計したパルスを出力する合計手段と、合計手段の出力したパルスを時刻情報に変換することにより多重散乱イベントに係る蛍光発生時刻を算出する多重散乱時刻算出手段
と、シンチレータにおいて蛍光が発したとき、蛍光検出に係るパルスを出力した検出素子が1つの場合は、蛍光が光電吸収イベントにより生じたものと判別するとともに、蛍光検出に係るパルスを出力した検出素子が複数の場合は、蛍光が多重散乱イベントにより生じたものと判別するイベント判別手段を備えることを特徴とするものである。
【0015】
[作用・効果]本発明によれば、多重散乱イベントの発生を考慮したうえで時間分解能が改善された放射線検出器を提供することができる。すなわち、本発明によれば、検出素子から合計手段を介しないでパルスを取り出し、時刻情報に変換する光電吸収時刻算出手段が各検出素子に備えられている。合計手段を経由しないことにより、パルスは、劣化することなくそのまま時刻情報に変換されるので、蛍光の発生時刻は、より正確なものとなる。このような時刻情報の取得方法は、光電吸収イベントが生じた場合に有効である。
一方、多重散乱イベントが発生した場合、放射線のエネルギーが複数のシンチレータ結晶に分散して蛍光を発生させることになるので、単一の検出素子の出力では正確に蛍光の発生時刻を取得することができなくなる。そこで、本発明によれば、各検出素子の出力を合計したパルスを出力する合計手段と、合計手段の出力したパルスを時刻情報に変換する多重散乱時刻算出手段を備えている。複数の検出素子で個別に出力された弱いパルスが合計手段を通じて合計されることにより光電吸収イベント発生時において検出素子から出力されるパルスに相当する強いパルスとなる。このパルスは、多少の劣化は見られるものの、高い強度を有している。このようなパルスを時刻情報に変換するようにすれば、合計前の弱いパルスを利用するよりも蛍光の発生時刻を正確に知ることができる。このような時刻情報の取得方法は、多重散乱イベントが生じた場合に有効である。
従来の時刻情報の取得方法は、光電吸収イベントと多重散乱イベントのどちらが起こっても動作は同じである。すなわち、光電吸収イベントが生じても合計手段を経由するので、それだけ時刻情報が劣化しているのである。本発明によれば、各イベントを区別してそれらに適した時刻情報の処理を行うので、蛍光の発生時刻をより正確に知ることができる。
【0017】
[作用・効果]
また、検出した蛍光が光電吸収イベントに係るものなのかそれとも多重散乱イベントによるものなのかを判別する構成を備えれば、光電吸収時刻算出手段の出力した時刻情報と、多重散乱時刻算出手段の出力した時刻情報のどちらが適切であるかを生じたイベントに合わせて判断することができる。
【0018】
また、上述の放射線検出器において、検出素子の出力の分岐のうちのある分岐は、蛍光発生位置を算出する用の分岐となっており、検出素子の出力したパルスを蛍光発生位置用の分岐を通じて入力させ、当該パルスを蛍光の発生位置を示す位置情報に変換する蛍光発生位置算出手段を備えればより望ましい。
【0019】
[作用・効果]上述は、本発明のより望ましい構成について記述している。蛍光発生位置算出手段を備えれば、蛍光の発生位置を知ることができる放射線検出器が構成できる。
【0020】
また、上述の放射線検出器において、蛍光検出に係るパルスを出力した検出素子が2つある場合、2つのパルスのうち弱いものを発した検出素子に対応するシンチレータ結晶を蛍光の発生位置とする結晶判別手段を備えればより望ましい。
【0021】
[作用・効果]上述は、本発明のより望ましい構成について記述している。2つのパルスのうち弱いものを発した検出素子に対応するシンチレータ結晶は、多重散乱イベントにおいて、始めに蛍光を発しているものと考えられる。このように構成すれば、より蛍光の発生位置を正確に知ることができる放射線検出器が構成できる。
【0022】
また、上述の放射線検出器を備えたTOF−PET装置において、放射線検出器を円環上に配置することにより構成される検出器リングと、消滅放射線のペアを検出器リングで検出したときに、放射線が光電吸収イベントにより検出されたのか、それとも多重散乱イベントにより検出されたのかによって時間分解能を変化させて放射性薬剤の分布をイメージングする画像生成手段を備えればより望ましい。
【0023】
[作用・効果]本発明に係る放射線検出器でTOF−PET装置を構成すれば、多重散乱イベントと光電吸収イベントとの間で見られる時間分解能に違いを反映して画像生成をすることができるようになる。このようにすることで、TOF−PET装置の空間分解能は結果として高くなる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、検出素子から合計手段を介しないでパルスを取り出し、時刻情報に変換する光電吸収時刻算出手段が各検出素子に備えられている。また、各検出素子の出力を合計したパルスを出力する合計手段と、合計手段の出力したパルスを時刻情報に変換する多重散乱時刻算出手段を備えている。本発明によれば、各イベントを区別してそれらに適した時刻情報の処理を行うので、蛍光の発生時刻をより正確に知ることができる。
【実施例1】
【0026】
<放射線検出器の全体構成>
放射線検出器1は、
図1に示すようにシンチレータ結晶Cが縦横に配列されて構成されたシンチレータ2と、シンチレータ2の下面に設けられているシンチレータ2から生じた蛍光を検出する光検出器3とを備えている。
図1におけるシンチレータ2には、高さ方向に細長状のシンチレータ結晶Cが縦8×横8の二次元マトリックス状に配列されており、合計64個のシンチレータ結晶Cを備えている。シンチレータ2は、放射線を蛍光に変換するシンチレータ結晶が縦横に配列されて一体化している。シンチレータ結晶Cの個数は、例示に過ぎない。使用目的に合わせてシンチレータ結晶の個数を増減させることができる。
【0027】
シンチレータ結晶Cは、セリウム元素を含有するLGSO(Lu,Gd)
2SiO
5で構成されており、γ線が入射すると、蛍光を発するような特性を有している。LGSOに代えてシンチレータ結晶CをGSO(Gd
2SiO
5)等の他の材料で構成するようにしてもよい。シンチレータ結晶Cは、γ線を蛍光に変換する。
【0028】
シンチレータ2は、横方向に伸びる反射板rxおよび縦方向に伸びる反射板ryを備えている。反射板rxは、縦方向から隣接するシンチレータ結晶Cの間に設けられており、反射板ryは、横方向から隣接するシンチレータ結晶Cの間に設けられている。したがって、互いに隣接するシンチレータ結晶Cは、反射板rxおよび反射板ryのいずれかによって隔てられることになる。
【0029】
光検出器3は、シンチレータ2で発せられた蛍光を検出する構成である。光検出器3におけるシンチレータ2に接続している面には、シンチレータ2を構成するシンチレータ結晶Cのそれぞれに対応する検出素子が2次元マトリクス状に配列されており、1つのシンチレータ結晶Cで発した蛍光を1つの検出素子で検出する構成となっている。このように、光検出器3は、シンチレータ2から発する蛍光を検出する構成であってシンチレータ結晶の各々に対応する検出素子3aを有する構成となっている。
【0030】
図2は、光検出器3の有する検出素子3aの構成を説明している。各検出素子3aには、蛍光を検出したときに発せられるパルス信号を出力する信号配線Lが設けられている。この信号配線Lは、3つに分岐しており、その分岐のうちの1つが検出素子ごとに蛍光の発生時刻を算出するのに用いられる分岐T1となっている。もう1つの分岐は、光検出器3全体で蛍光の発生時刻を算出するのに用いられる分岐T2となっている。最後に残った分岐は、蛍光の発生位置および蛍光のエネルギーを算出するのに用いられる分岐Eとなっている。以降、これら分岐がどのように接続されているかについて説明する。
【0031】
<分岐T1>
分岐T1は、
図3に示すように個別コンパレータ11に接続されている。個別コンパレータ11は、分岐T1よりパルス信号が入力されると、パルス信号の入力タイミングに基づいて蛍光の発生時刻を示すデータ(時刻情報)を出力する。
図3においては、個別コンパレータ11は1つしか描かれていないが、個別コンパレータ11は、各検出素子3aに係る分岐T1のそれぞれに設けられている。したがって、光検出器3には、個別コンパレータ11が検出素子と同数だけ設けられている。個別コンパレータ11は、検出素子3aの出力したパルスを光電吸収イベント用の分岐を通じて入力させ、当該パルスを時刻情報に変換することにより光電吸収イベントに係る蛍光発生時刻を算出する構成であって、各検出素子3aに設けられている。個別コンパレータ11は本発明の光電吸収時刻算出手段に相当する。
【0032】
<分岐T2>
分岐T2は、
図4に示すように合計回路12に接続されている。分岐T2は、各検出素子3aのそれぞれに設けられているわけであるが、全ての分岐T2は、1つの合計回路12に入力される構成となっている。合計回路12は、全ての分岐T2の出力を合計する演算を行う。検出素子3aから分岐T2を通じて出力されるのはパルス信号であるから、合計回路12もパルス信号を出力することになる。合計回路12は、合計結果に係るパルス信号を合計コンパレータ13に出力する。合計コンパレータ13は、合計回路12よりパルス信号が入力されると、パルス信号の入力タイミングに基づいて蛍光の発生時刻を示すデータ(時刻情報)を出力する。合計回路12は、各検出素子3aに係る光電吸収イベント用の分岐の各々からの出力を合計したパルスを出力する構成であり本発明の合計手段に相当する。合計コンパレータ13は、合計回路12の出力したパルスを時刻情報に変換することにより多重散乱イベントに係る蛍光発生時刻を算出する構成であり、本発明の多重散乱時刻算出手段に相当する。
【0033】
このように、検出素子3aの出力の各々は、複数に分岐する構成となっており、ある分岐T1は、蛍光が単一のシンチレータ結晶で生じる事象である光電吸収イベントの蛍光発生時刻を算出する用の分岐となっているとともに、他の分岐T2は、蛍光が複数のシンチレータ結晶で生じる事象である多重散乱イベントの蛍光発生時刻を算出する用の分岐となっている。
【0034】
<分岐E>
分岐Eは、
図5に示すようにエネルギー位置弁別回路14に入力される。エネルギー位置弁別回路14は、各検出素子3aの分岐Eの出力に基づいて、シンチレータ2で発した蛍光の強さ(エネルギー)と、どの結晶が蛍光を発したかという蛍光の発生位置を算出する。この時エネルギー位置弁別回路14が算出するエネルギーは、シンチレータ2全体で検出された蛍光の合計を意味している。すなわち、エネルギー位置弁別回路14は、検出素子3aの出力の分岐のうちのある分岐Eは、蛍光発生位置を算出する用の分岐となっており、検出素子3aの出力したパルスを蛍光発生位置用の分岐を通じて入力させ、当該パルスを蛍光の発生位置を示す位置情報に変換する。エネルギー位置弁別回路14は本発明の蛍光発生位置算出手段に相当する。
【0035】
<時刻情報選別回路>
時刻情報選別回路15は、
図6に示すように、各個別コンパレータ11の出力と合計コンパレータ13の出力とを監視し、シンチレータ2より蛍光が発せられた際に、いずれかのコンパレータの出力を選別する構成となっている。時刻情報選別回路15は、選別した出力(時刻情報)を光検出器3の出力として放射線検出器外に出力する。時刻情報選別回路15は本発明のイベント判別手段に相当する。
【0036】
時刻情報選別回路15は、シンチレータ2で発した蛍光の様式によって動作を変えるので、まず蛍光の様式について説明する。光電吸収イベントは、
図7左側に示すように放射線が一つのシンチレータ結晶で蛍光に変換される事象を意味している。この場合、各個別コンパレータ11のうち、時刻情報を出力するのはただ1つである。また、このとき合計コンパレータ13も分岐T2を通じてパルス信号を取得し、時刻情報を出力する。多重散乱イベントは、
図7右側に示すように放射線が複数のシンチレータ結晶で蛍光に変換される事象を意味している。この場合、各個別コンパレータ11のうち、時刻情報を出力するのは複数ある。また、このとき合計コンパレータ13も分岐T2を通じてパルス信号を取得し、時刻情報を出力する。
【0037】
<光電吸収イベントが生じたときの時刻情報選別回路の動作>
図8は、光電吸収イベントが発生したときの時刻情報選別回路15の動作を説明している。光電吸収イベントでは、網掛けで示す検出素子3aが蛍光を検出したとすると、他に蛍光を検出した検出素子3aはない。検出素子3aから出力したパルス信号は、3つの分岐に分配され、1つは分岐T1を通じ個別コンパレータ11に出力される。個別コンパレータ11は、このパルス信号に基づき時刻情報Deを出力する。光電吸収イベントでは、網掛けで示す検出素子3aに対応する個別コンパレータ11のみ時刻情報を出力し、他の個別コンパレータ11は出力しない。
【0038】
一方、検出素子3aから出力したパルス信号のうち分岐T2に進んだものは、合計回路12を通過して合計コンパレータ13に入力される。合計回路12は、理想的には、
図25のように、検出素子3aから出力したパルス信号がそのまま出力されるわけであるが、実際の合計回路12から出力される合計結果に係るパルス信号は、時刻の弁別能が劣化したものとなっている。合計結果に係るパルス信号は、合計コンパレータ13により時刻情報Dsに変換される。このような時刻情報Dsは、合計回路12を通過して鈍ってしまったパルス信号に由来しているので、さほど信頼性が高いとは言えない。
【0039】
時刻情報選別回路15は、個別コンパレータ11から入力される時刻情報が1つしかないとき、検出された蛍光は、光電吸収イベントに係るものであると認識して、個別コンパレータ11から出力された時刻情報Deのほうが合計コンパレータ13から出力された時刻情報Dsよりも信頼できると判断して、時刻情報Deを出力する。時刻情報Deは、合計回路12を通じないでそのまま時刻情報に変換されたものとなっているので、より時間的に劣化のないパルス信号に由来している。したがって、光電吸収イベントが発生した場合、時刻情報Dsよりも時刻情報Deの方が高い信頼性を有するのである。
【0040】
<多重散乱イベントが生じたときの時刻情報選別回路の動作>
図9は、多重散乱イベントが発生したときの時刻情報選別回路15の動作を説明している。多重吸収イベントにおいて、網掛けで示す複数の検出素子3aが蛍光を検出したとする。多重吸収イベントでは、放射線のエネルギーが複数のシンチレータ結晶に分配されて蛍光を生じる。したがって、この蛍光の1つ1つは光電吸収イベントに係る蛍光よりの弱いものとなる。その結果、検出素子3aから出力されるパルス信号は、光電吸収イベントに係るパルス信号と比べて弱いものとなる。これら複数のパルス信号は、異なる検出素子3aで発生して、分岐T1を通じてそれぞれ異なる個別コンパレータ11に入力することになる。したがって、複数の個別コンパレータ11が時刻情報を個別に出力することになる。
図9においては、時刻情報De1が個別コンパレータ11から出力される以外に時刻情報De2が別の個別コンパレータ11から出力されている。このような時刻情報De1,De2は、弱いパルス信号由来でありさほど信頼性が高いとは言えない。
【0041】
一方、検出素子3aから出力したパルス信号のうち分岐T2に進んだものは、合計回路12を通過して合計コンパレータ13に入力される。合計結果に係るパルス信号は、合計コンパレータ13により時刻情報Dsに変換される。
【0042】
時刻情報選別回路15は、個別コンパレータ11から入力される時刻情報が複数あるとき、検出された蛍光は、多重散乱イベントに係るものであると認識して、合計コンパレータ13から出力された時刻情報Dsのほうが個別コンパレータ11から出力された時刻情報Deよりも信頼できると判断して、時刻情報Dsを出力する。時刻情報Dsは、合計回路12を通じて時刻情報に変換されたものとなっているので、より強いパルス信号に由来している。したがって、多重散乱イベントが発生した場合、時刻情報Deよりも時刻情報Dsの方が高い信頼性を有するのである。
【0043】
このように、時刻情報選別回路15は、シンチレータ2において蛍光が発したとき、蛍光検出に係るパルスを出力した検出素子3aが1つの場合は、蛍光が光電吸収イベントにより生じたものと判別するとともに、蛍光検出に係るパルスを出力した検出素子3aが複数の場合は、蛍光が多重散乱イベントにより生じたものと判別して動作する構成となっている。
【0044】
以上のように、本発明によれば、多重散乱イベントの発生を考慮したうえで時間分解能が改善された放射線検出器を提供することができる。すなわち、本発明によれば、検出素子3aから合計回路12を介しないでパルスを取り出し、時刻情報に変換する個別コンパレータ11が各検出素子3aに備えられている。合計回路12を経由しないことにより、パルスは、劣化することなくそのまま時刻情報に変換されるので、蛍光の発生時刻は、より正確なものとなる。このような時刻情報の取得方法は、光電吸収イベントが生じた場合に有効である。
【0045】
一方、多重散乱イベントが発生した場合、放射線のエネルギーが複数のシンチレータ結晶に分散して蛍光を発生させることになるので、単一の検出素子3aの出力では正確に蛍光の発生時刻を取得することができなくなる。そこで、本発明によれば、各検出素子3aの出力を合計したパルスを出力する合計回路12と、合計回路12の出力したパルスを時刻情報に変換する合計コンパレータ13を備えている。複数の検出素子3aで個別に出力された弱いパルスが合計回路12を通じて合計されることにより光電吸収イベント発生時において検出素子3aから出力されるパルスに相当する強度のパルスとなる。このパルスは、多少の劣化は見られるものの、高い強度を有している。このようなパルスを時刻情報に変換するようにすれば、合計前の弱いパルスを利用するよりも蛍光の発生時刻を正確に知ることができる。このような時刻情報の取得方法は、多重散乱イベントが生じた場合に有効である。
【0046】
従来の時刻情報の取得方法は、光電吸収イベントと多重散乱イベントのどちらが起こっても動作は同じである。すなわち、光電吸収イベントが生じても合計回路12を経由するので、それだけ時刻情報が劣化しているのである。本発明によれば、各イベントを区別してそれらに適した時刻情報の処理を行うので、蛍光の発生時刻をより正確に知ることができる。
【0047】
<TOF−PETへの応用例>
以降、本発明に係る放射線検出器を
図22で説明したTOF−PETに応用した例について説明する。
図10は、本発明に係るTOF−PETを示している。本発明に係るTOF−PETは、放射線検出器を円環状に並べて構成された検出器リング20と検出器リング20からの出力に基づいて放射性薬剤の分布がイメージングされた断層画像を生成する画像生成部21とを備えている。
【0048】
このようなTOF−PETは、本発明に係る放射線検出器を備えることにより時間分解能を変化させて放射性薬剤の分布をイメージングすることができるようになっている。以降、この点について説明する。
【0049】
図11は、検出器リングを構成する2つの放射線検出器が発生点pで発生したγ線のペアの各々を検出している様子を示している。この場合、γ線のペアは、いずれも光電吸収イベントにより放射線検出器に検出されたものとする。
【0050】
図11の場合、γ線のペアのうちの一方は、ある放射線検出器が有するシンチレータ結晶の1つにより蛍光に変換され、この結晶に対応する1つの検出素子が出力した鋭いパルス信号に基づいて時刻情報が生成される。時刻情報選別回路15は、この時刻情報を蛍光の発生時刻として放射線検出器外に出力する。γ線のペアの他方も別の放射線検出器により同様の検出がなされる。
【0051】
図12は、
図11のようにγ線のペアがいずれも光電吸収イベントにより検出された場合に、TOF−PET装置が算出したγ線のペアの発生点の存在位置を網掛けで示している。γ線のペアの発生点pの存在位置は、各γ線を検出したシンチレータ結晶を結んだ直線(LOR:line of response)上にあり、γ線を検出した2つの放射線検出器のうちより早いタイミングでγ線を検出したもの寄りに存在するものとして算出がなされる。発生点pの存在位置がLORに沿って伸びてしまうのは、放射線検出器の時間分解能に限界があるからである。
【0052】
図13は、検出器リングを構成する2つの放射線検出器が発生点pで発生したγ線のペアの各々を検出している様子を示している。この場合、γ線のペアは、一方が光電吸収イベント、もう一方が多重散乱イベントにより放射線検出器に検出されたものとする。
【0053】
図13の場合、γ線のペアのうちの一方は、ある放射線検出器が有する複数の蛍光に変換され、これら結晶に対応する複数の検出素子が出力した弱いパルス信号が合計されることで鈍ってはいるものの強いパルス信号に変換され、それに基づいて時刻情報が生成される。時刻情報選別回路15は、この時刻情報を蛍光の発生時刻として放射線検出器外に出力する。γ線のペアのうちの他方は、
図11と同様に、別の放射線検出器が有するシンチレータ結晶の1つにより蛍光に変換され、この結晶に対応する1つの検出素子が出力した鋭いパルス信号に基づいて時刻情報が生成される。時刻情報選別回路15は、この時刻情報を蛍光の発生時刻として放射線検出器外に出力する。
【0054】
図14は、
図13のようにγ線のペアの一方が光電吸収イベント、もう一方が多重散乱イベントにより検出された場合に、TOF−PET装置が算出したγ線のペアの発生点の存在位置を網掛けで示している。γ線のペアの発生点pの存在位置は、多重散乱イベントに係るγ線を検出した複数のシンチレータ結晶の中点と、光電吸収イベントに係るγ線を検出したシンチレータ結晶とを結んだ直線(LOR)上にあり、γ線を検出した2つの放射線検出器のうちより早いタイミングでγ線を検出したもの寄りに存在するものとして算出がなされる。この時算出される発生点pの存在位置は、
図12の場合に以上に広がってしまう。γ線のペアの一方が多重散乱イベントにより検出された分だけγ線検出の時間分解能が悪くなったからである。
【0055】
実施例1の場合、エネルギー位置弁別回路14は、多重散乱イベントが発生した場合、γ線を検出した複数のシンチレータ結晶の中点の位置を出力する構成となっている。エネルギー位置弁別回路14にとっては、複数のシンチレータ結晶が蛍光を発した場合、発した結晶はどれであるかを特定する構成とはなっていない。
【0056】
図15は、検出器リングを構成する2つの放射線検出器が発生点pで発生したγ線のペアの各々を検出している様子を示している。この場合、γ線のペアは、いずれもが多重散乱イベントにより放射線検出器に検出されたものとする。
【0057】
図15の場合、γ線のペアのうちの一方は、ある放射線検出器が有する複数の蛍光に変換され、これら結晶に対応する複数の検出素子が出力した弱いパルス信号が合計されることにより生成されたパルス信号に基づいて時刻情報が生成される。時刻情報選別回路15は、この時刻情報を蛍光の発生時刻として放射線検出器外に出力する。γ線のペアの他方も別の放射線検出器により同様の検出がなされる。
【0058】
図16は、
図15のようにγ線のペアがいずれも多重散乱イベントにより検出された場合に、TOF−PET装置が算出したγ線のペアの発生点の存在位置を網掛けで示している。γ線のペアの発生点pの存在位置は、一方のγ線を検出した複数のシンチレータ結晶の中点と、他方のγ線を検出した複数のシンチレータ結晶の中点とを結んだ直線(LOR)上にある。γ線のペアの発生点pの存在位置は、γ線を検出した2つの放射線検出器のうちより早いタイミングでγ線を検出したもの寄りに存在するものとして算出がなされる。この時算出される発生点pの存在位置は、
図14の場合に以上に広がってしまう。γ線のペアの両方が多重散乱イベントにより検出された分だけγ線検出の時間分解能が悪くなったからである。
【0059】
このような原理に基づいて、本発明に係る画像生成部21は、γ線のペアを検出器リング20で検出したときに、γ線が光電吸収イベントにより検出されたのか、それとも多重散乱イベントにより検出されたのかによって時間分解能を変化させて放射性薬剤の分布をイメージングする。すなわち、γ線のペアのいずれもが光電吸収イベントにより検出されたものであった場合、画像生成部21は、高い時間分解能でγ線のペアを検出できたものとして、それに見合う高い空間分解能で当該検出に係るデータを取り扱う。また、γ線のペアのいずれもが多重散乱イベントにより検出されたものであった場合、画像生成部21は、低い時間分解能でγ線のペアを検出できたものとして、それに見合う低い空間分解能で当該検出に係るデータを取り扱う。そして、γ線のペアの一方が光電吸収イベントにより検出され、もう一方が多重散乱イベントにより検出されたものであった場合、画像生成部21は、中間的な時間分解能でγ線のペアを検出できたものとして、それに見合う中間的な空間分解能で当該検出に係るデータを取り扱う。
【0060】
以上のように、本発明に係る放射線検出器をTOF−PET装置に適用すれば、より、γ線のペアの発生点をより正確に知ることができるようになる。すなわち、従来構成であれば、蛍光の発生がどちらのイベントを通じて起ころうとも
図16のように悪い時間分解能でしか情報を取り出せない。本発明によれば、光電吸収イベントによる蛍光を捉えた場合、それに見合うだけの高い分解能で情報を取り出してγ線のペアの発生位置を算出することができる。
【0061】
本発明は、上述の実施例に限られず、下記のような変形実施が可能である。
【0062】
(1)上述の構成によれば、
図5に示すように各検出素子3aに関する分岐Eは、1つのエネルギー位置弁別回路14に入力されていたが、本発明はこの構成に限られない。
図17に示すように、各検出素子3aに対応する個別エネルギー位置弁別回路14aを備え、各検出素子3aに関する分岐Eの各々が個別エネルギー位置弁別回路14aに入力されるように構成されていても良い。
【0063】
このように構成することにより、
図7右側で説明した多重散乱イベントによりγ線が検出されたとしても、蛍光を発したシンチレータ結晶がどれとどれであるかを言い当てることができるようになる。
【0064】
図18は、TOF−PETに係る検出器リングを構成する2つの放射線検出器が発生点pで発生したγ線のペアの各々を検出している様子を示している。この場合、γ線のペアは、一方が光電吸収イベント、もう一方が多重散乱イベントにより放射線検出器に検出されたものとする。
【0065】
すると、
図18に示すように、1つのγ線のペアの検出により2通りのLORが得られる。このうちの一方は、γ線のペアの発生点pを通過するものであり、もう一方は、発生点pからは外れている。多重散乱イベントが起こったときに、蛍光を発したシンチレータ結晶のうち最初に蛍光を発したものに係るLORのみが発生点pを通過する。そこで、発生点pの位置を知ろうとするときには、どちらのシンチレータ結晶が先に蛍光を発したかを言い当てる必要が出てくる。蛍光を発した2つのシンチレータ結晶が互いに十分に離れており、検出された2つの蛍光の間で強度に差がある場合、弱い方の蛍光を放ったシンチレータ結晶が先に蛍光を発したものと考えられる。蛍光を発した2つのシンチレータ結晶が互いに離れていたと言うことは、最初のシンチレータ結晶においてγ線はあまりエネルギーを失わず、高い透過性を維持していたことになる。つまり、このような多重散乱イベントが起こると言うことは、最初に第一のシンチレータ結晶に入射したγ線が弱い蛍光を発生させた後、第二のシンチレータ結晶に入射し強い蛍光を発生させたと考えられる。したがって、このような場合、弱い蛍光を放ったシンチレータ結晶に基づいてLORを定めれば、より蛍光の発生点pの位置を正確に予想することができる。
【0066】
なお、本変形例においては、個別エネルギー位置弁別回路14aがシンチレータ結晶で生じた蛍光の強度を結晶ごとに検出することができるので、2つの結晶から発せられた蛍光のうちどちらが弱いのかということは容易に区別することができる。
【0067】
図19は、TOF−PETに係る検出器リングを構成する2つの放射線検出器が発生点pで発生したγ線のペアの各々を検出している様子を示している。この場合、γ線のペアは、いずれも多重散乱イベントにより放射線検出器に検出されたものとする。
【0068】
この場合、4つのLORが考えられることになる。この場合も、一つの検出器における異なるシンチレータ結晶から発せられた蛍光の強弱を基準に発生点pを通過するLORを特定することができる。
【0069】
このようなシンチレータ結晶の特定動作は、蛍光発生結晶特定回路14bが行う。蛍光発生結晶特定回路14bには、
図20に示すように、各個別エネルギー位置弁別回路14aより蛍光のエネルギーに関するデータが出力されてきている。蛍光発生結晶特定回路14bは、蛍光検出に係るパルスを出力した検出素子3aが2つある場合、2つのパルスのうち弱いものを発した検出素子3aに対応するシンチレータ結晶を蛍光の発生位置とする。