特許第6623895号(P6623895)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6623895
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】車両の表示制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 35/00 20060101AFI20191216BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20191216BHJP
【FI】
   B60K35/00 Z
   F02D45/00 362K
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-66927(P2016-66927)
(22)【出願日】2016年3月29日
(65)【公開番号】特開2017-178001(P2017-178001A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】寺谷 佳之
【審査官】 首藤 崇聡
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/005401(WO,A1)
【文献】 特開2009−220678(JP,A)
【文献】 特開2015−161654(JP,A)
【文献】 特開2015−24766(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2016−0066130(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 35/00
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、自動変速機と、該エンジンと該自動変速機との間に設けられているトルクコンバータとを、備えた車両に設けられ、前記エンジンのエンジン回転速度の大きさを表す表示回転速度を演算してメータに表示させる車両の表示制御装置であって、
前記自動変速機のアップシフトにおけるイナーシャ相を判定するイナーシャ相判定部と、
前記表示回転速度の目標値である目標回転速度を設定する目標回転速度設定部と、
前記イナーシャ相において、前記メータに表示される表示回転速度が前記目標回転速度に近づくように制御し、前記目標回転速度に到達した後は、該表示回転速度が実際のエンジン回転速度に近づくように制御するメータ表示制御部とを、有し、
前記目標回転速度設定部は、イナーシャ相開始時点以降において、前記トルクコンバータを構成するタービン軸のアップシフト後の推定タービン回転速度に、実際のエンジン回転速度とタービン回転速度との差分および所定値を加算した値を、仮の目標回転速度として随時演算し、
前記目標回転速度設定部は、演算された前記仮の目標回転速度、および、イナーシャ相開始時点で演算された前記目標回転速度のうち、小さい方の値を前記目標回転速度に設定する
ことを特徴とする車両の表示制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の表示制御装置に係り、特に、アップシフト中のメータの表示に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンと、自動変速機と、エンジンと自動変速機との間に設けられているトルクコンバータとを、備えて構成されている車両に設けられ、メータ上にエンジン回転速度を表示する表示制御装置が知られている。特許文献1のエンジン回転速度表示装置がそれである。特許文献1のエンジン回転速度表示にあっては、イナーシャ相中にメータに表示される回転速度(以下、表示回転速度)の演算に際して、変速後に推定されるタービン回転速度に、イナーシャ相開始時点のエンジン回転速とタービン回転速度との差分を加算した値を目標回転速度に設定し、表示回転速度をその目標回転速度に向かって変化させている。ここで、表示回転速度の演算の際には、例えば一次遅れフィルタによるなまし処理が実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−220678号公報
【特許文献2】特開2012−103100号公報
【特許文献3】特開2007−113951号公報
【特許文献4】特開2006−242760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、アクセルペダルが踏み込まれた状態で自動変速機のアップシフトが実行されると、変速中にエンジン回転速度が急上昇する。このため、表示回転速度が目標回転速度に到達した後、実際のエンジン回転速度(実エンジン回転速度)に向かって収束しようとすると、表示回転速度と実エンジン回転速度との乖離が大きく、なまし処理で近づけると、表示回転速度と実エンジン回転速度とがなかなか一致しない可能性がある。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、自動変速機のアップシフトに際して、メータに表示されるエンジンの表示回転速度と実エンジン回転速度との乖離を低減できる車両の表示制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の要旨とするところは、(a)エンジンと、自動変速機と、該エンジンと該自動変速機との間に設けられているトルクコンバータとを、備えた車両に設けられ、前記エンジンのエンジン回転速度の大きさを表す表示回転速度を演算してメータに表示させる車両の表示制御装置であって、(b)前記自動変速機のアップシフトにおけるイナーシャ相を判定するイナーシャ相判定部と、(c)前記表示回転速度の目標値である目標回転速度を設定する目標回転速度設定部と、(d)前記イナーシャ相において、前記メータに表示される表示回転速度が前記目標回転速度に近づくように制御し、前記目標回転速度に到達した後は、該表示回転速度が実際のエンジン回転速度に近づくように制御するメータ表示制御部とを、有し、(e)前記目標回転速度設定部は、イナーシャ相中において、前記トルクコンバータを構成するタービン軸のアップシフト後の推定タービン回転速度に、実際のエンジン回転速度とタービン回転速度との差分および所定値を加算した値を、仮の目標回転速度として随時演算し、(f)前記目標回転速度設定部は、演算された前記仮の目標回転速度、および、イナーシャ相開始時点で演算された前記目標回転速度のうち、小さい方の値を前記目標回転速度に設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
第1発明の車両の表示制御装置によれば、仮の目標回転速度を演算するに際して補正値が加算され、演算された仮の目標回転速度、および、イナーシャ相開始時点の目標回転速度のうち、小さい方の値が目標回転速度に設定されることで、表示回転速度が目標回転速度に到達したときの、表示回転速度と実際のエンジン回転速度との乖離が大きくなることを抑制し、表示回転速度と実際のエンジン回転速度とを一致させるための所要時間を短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明が適用される車両に備えられたエンジンから駆動輪までの動力伝達経路の概略構成を説明する図であると共に、車両に設けられた制御系統の要部を説明する図である。
図2】従来制御において、アクセルペダルを踏み込むことでアップシフトが実行されたときのエンジン回転速度、タービン回転速度、目標回転速度、および表示回転速度の挙動を示すタイムチャートである。
図3図1の自動変速機のアップシフトが開始された場合において、本実施例における目標回転速度および表示回転速度の挙動、ならびに、比較対象として従来制御における目標回転速度および表示回転速度の挙動をそれぞれ示すタイムチャートである。
図4図1の電子制御装置の制御作動のうち、自動変速機のアップシフトのイナーシャ相中において、タコメータに表示される表示回転速度を最適にする制御作動を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0010】
図1は、本発明が適用される車両10に備えられたエンジン12から駆動輪26までの動力伝達経路の概略構成を説明する図であると共に、車両10に設けられた制御系統の要部を説明する図である。図1において、駆動力源としてのエンジン12により発生させられた動力は、トルクコンバータ14を経て入力軸16から自動変速機18に入力され、自動変速機18の出力軸20から差動歯車装置(ディファレンシャルギヤ)22および一対の車軸(ドライブシャフト)24等を順次介して左右の駆動輪26へ伝達される。
【0011】
自動変速機18は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース内において1組乃至複数組の遊星歯車装置と複数の油圧式係合装置とを有し、その油圧式係合装置によって変速比(ギヤ比)γ(=変速機入力回転速度Ni/変速機出力回転速度Nout)が異なる複数の変速段(ギヤ段)が択一的に成立させられる公知の遊星歯車式自動変速機である。例えば、自動変速機18は、複数の油圧式係合装置の何れかの掴み替えにより(すなわち油圧式係合装置の係合と解放との切替えにより)変速が実行される、所謂クラッチツゥクラッチ変速を行う有段変速機である。複数の油圧式係合装置はそれぞれ、エンジン12からの動力を受ける入力軸16と駆動輪26に動力を伝達する出力軸20との間で回転とトルクとを伝達する油圧式の摩擦係合装置である。この入力軸16は、自動変速機18の入力軸であるが、トルクコンバータ14のタービン翼車によって回転駆動されるタービン軸でもある。
【0012】
前記油圧式係合装置は、油圧回路28によってそれぞれ係合と解放とが制御され、その油圧回路28内のソレノイドバルブ等の調圧によりそれぞれのトルク容量すなわち係合力が変化させられて、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するクラッチCやブレーキBである。
【0013】
車両10は、図1に示す電子制御装置70(表示制御装置)を備えている。電子制御装置70は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン12の出力制御や自動変速機18の変速制御等を実行するようになっている。この電子制御装置70は、必要に応じてエンジン12の出力を制御するためのエンジン制御用ECU、自動変速機18の変速を制御するための変速制御用ECU、各種メータの表示を制御するためのメータ表示制御用ECU等に分けて構成される。
【0014】
電子制御装置70には、ブレーキスイッチ72により検出されるブレーキ踏力に対応するフットブレーキペダルの操作量Brを表す信号、アクセル開度センサ74により検出される運転者による車両10に対する加速要求量(ドライバ要求量)としてのアクセルペダルの操作量であるアクセル開度Accを表す信号、スロットル開度センサ75により検出される電子スロットル弁のスロットル開度θthを表す信号、車速センサ76により検出される自動変速機18の出力軸20の回転速度Noutに対応する車速Vを表す信号、エンジン回転速度センサ78により検出されるエンジン12の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、タービン回転速度センサ79により検出されるトルクコンバータ14のタービン軸(入力軸16に該当)に対応するタービン回転速度NTを表す信号、シフトポジションセンサ80により検出されるシフト操作装置からのシフトポジションPshを表す信号、加速度センサ81により検出される車両10の前後加速度βを表す信号等が供給される。
【0015】
また、電子制御装置70からは、例えばエンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号Se、自動変速機18の変速制御のための変速制御指令信号Sp、車内ディスプレイ上に設けられる各種メータ82(スピードメータ、タコメータ82a、フューエルゲージ等)の表示のための表示指令信号Sdなどがそれぞれ出力される。
【0016】
電子制御装置70(メータ表示制御用ECU)は、メータ表示用のメータ表示制御部84と、イナーシャ相を判定するイナーシャ相判定部86と、表示回転速度NEMETの目標値である目標回転速度NESFTを設定する目標回転速度設定部88とを、機能的に備えている。
【0017】
メータ表示制御部84は、タコメータ82aに表示されるエンジン12の表示回転速度NEMETを随時演算し、演算された表示回転速度NEMETをタコメータ82a上に随時表示する。タコメータ82aは、図1に示すように、円周に沿って表示されているエンジン回転速度NEの大きさを示す目盛りと、その目盛りを指し示す回動可能な針94とからなる。メータ表示制御部84は、針94の先端が演算された表示回転速度NEMETを指し示すように制御する。
【0018】
メータ表示制御部84は、タコメータ82a上に表示される表示回転速度NEMETを随時演算する。メータ表示制御84は、例えば自動変速機18の変速が行われない走行状態にあっては、エンジン回転速度センサ78からの信号に基づいて求められる実際のエンジン回転速度NE(以下、実エンジン回転速度NE)をメータの目標回転速度NESFTに設定し、表示回転速度NEMETがその目標回転速度NESFTに近づくように制御する。さらに、メータ表示制御部84は、目標回転速度NESFTに公知であるなまし処理(例えば変化量制限、1次遅れフィルタ等)を施して表示回転速度NEMETを演算する。なまし処理が施されることで、表示回転速度NEMETの急激な変化が抑制される。
【0019】
また、自動変速機18のアップシフトのイナーシャ相中は、目標回転速度NESFTが変速後のタービン回転速度NTから演算される。ところで、アクセルペダルを踏み込んだ状態でのアップシフトにおいて、タービン回転速度NTは、イナーシャ相以外では上昇するため、アップシフト中に、表示回転速度NEMETと目標回転速度NESFTとの大小関係が入れ替わる瞬間が発生する。このように大小関係が入れ替わった後は、表示回転速度NEMETが、目標回転速度NESFTに追従して上昇する。ここで、なまし処理によるなまし処理量が大きい場合、エンジン回転速度の上昇が速いと、エンジン回転速度NEと表示回転速度NEMETとの差がなかなか縮まらない。また、この状態でアクセルペダルが踏み続けられ、次の変速が実行される場合、イナーシャ相開始時点の表示回転速度NEMETがエンジン回転速度NEを大きく下回り、運転者に違和感を与える可能性がある。
【0020】
図2は、従来制御において、アクセルペダルを踏み込むことでアップシフトが実行されたときのエンジン回転速度NE(実線)、タービン回転速度NT(二点鎖線)、目標回転速度NESFT(破線)、および表示回転速度NEMET(一点鎖線)の挙動を示すタイムチャートである。アクセルペダルが踏み込まれて車速Vが上昇することにより、t1時点においてイナーシャ相が開始される。イナーシャ相が開始されると、変速後に推定されるタービン回転速度NT(変速後NT)に、エンジン回転速度NEとタービン回転速度NTの差分(=NE−NT)が加算されることで、目標回転速度NESFT(=変速後NT+(NE−NT))が演算される。
【0021】
ここで、アクセルペダルが踏み込まれた状態において、タービン回転速度NTはイナーシャ相以外では車速Vの上昇とともに上昇することから、変速後のタービン回転速度NTから演算される目標回転速度NESFTが、t1時点以降で上昇している。また、表示回転速度NEMETは、目標回転速度NESFTを目標にして移動するため、表示回転速度NEMETは、t1時点以降で降下している。そして、t2時点において、表示回転速度NEMETおよび目標回転速度NESFTの大小関係が入れ替わっている。大小関係が入れ替わると、t2時点以降は、表示回転速度NEMETが目標回転速度NESFTに追従するように上昇するが、このときなまし処理量が大きいと、表示回転速度NEMETがエンジン回転速度NEにいつまでも追いつけない。また、このままの状態で次の変速が実行されると、t3時点において表示回転速度NEMETがエンジン回転速度NEよりも低い状態でイナーシャ相が開始され、運転者に違和感を与えてしまう。
【0022】
そこで、本実施例では、自動変速機18のアップシフト中は、後述するようにして表示回転速度NEMETを演算することで、表示回転速度NEMETとエンジン回転速度NEとが一致する時間を短くする。以下、イナーシャ相中における表示回転速度NEMETの演算について説明する。
【0023】
図1に戻り、イナーシャ相判定部86は、自動変速機18のアップシフトが実行されると、そのアップシフト中のフェーズがイナーシャ相か否かを判定する。目標回転速度設定部88は、イナーシャ相開始時点における目標回転速度NESFT(以下、開始時点目標回転速度NEINI)を、下式(1)、(2)に基づいて演算する。式(1)において、NTXは、変速後に推定されるタービン回転速度NTに対応し、変速後の自動変速機18のギヤ段γと自動変速機18の出力軸20の回転速度Noutとの積(=γ×Nout)で演算される。また、Yは、目標回転速度の補正値(かさ上げ量)に対応し、下式(2)から算出される。
NEINI=NTX+(NE−NT)+Y・・・(1)
Y=k×ΔNT+m×{(NEX−NTX)−(NEI−NTI)}・・・(2)
【0024】
式(2)において、右辺第1項のΔNTは、変速後におけるタービン回転速度NTの変化勾配、言い換えれば、車速Vの上昇勾配を示している。また、kは予め実験や解析によって求められる係数である。これより、タービン回転速度NTの勾配ΔNTが大きくなる、すなわち車速Vの上昇勾配(車両加速度)が大きくなるほど、補正値Yの大きさが大きくなる。
【0025】
式(2)の右辺第2項のNEXは、変速後に推定されるエンジン回転速度に対応している。NTXは、変速後に推定されるタービン回転速度NTに対応している。NEIは、イナーシャ相開始時点におけるエンジン回転速度NEに対応している。NTIは、イナーシャ相開始時点におけるタービン回転速度NTに対応している。また、mは予め実験や解析によって求められる係数である。ここで、変速後のエンジン回転速度NEXは、変速後のタービン回転速度NTX、エンジントルクTE、およびトルクコンバータ14の特性マップから回帰計算することで推定的に求められる。
【0026】
式(2)において、(NEX−NTX)は、変速後のエンジン回転速度とタービン回転速度との差分(NE−NT)に対応し(図2参照)、(NEI−NTI)は、イナーシャ相開始時点におけるエンジン回転速度とタービン回転速度NTとの差分(NE−NT)に対応している(図2参照)。これより、イナーシャ相開始時点と変速後との間で、エンジン回転速度NEとタービン回転速度NTとの差分が増加するほど補正値Yの大きさが大きくなるため、目標回転速度NESFTPが大きくなる。
【0027】
目標回転速度設定部88は、式(1)、(2)によって算出される開始時点目標回転速度NEINIを、イナーシャ相開始時点における目標回転速度NESFTに設定する。また、目標回転速度設定部88は、イナーシャ相開始時点から各タイムステップ毎に、下式(3)に基づいて演算される回転速度Gが、開始時点目標回転速度NEINIよりも大きいか否か判定する。この式(3)は、式(1)において補正値Yをなくした値である。回転速度Gが、開始時点目標回転速度NEINIよりも大きい場合には、表示回転速度NEMETが目標回転速度NESFTに到達したものと判断される。
G=NTX+(NE−NT)・・・(3)
【0028】
目標回転速度設定部88は、回転速度Gが開始時点目標回転速度NEINIよりも高い場合には、回転速度Gを目標回転速度NESFTに設定する。これより、表示回転速度NEMETが目標回転速度NESFTに到達した後は、表示回転速度NEMETが実エンジン回転速度NEに近づくように制御される。一方、目標回転速度設定部88は、回転速度Gが開始時点目標回転速度NEINI以下の場合には、下式(4)、(5)に基づいて、仮の目標回転速度NESFTPを随時演算する。この式(4)、(5)は、上述した式(1)、(2)と実質的に同じものである。この補正値Yが予め加算されることで、例えば加速度が大きいときや変速前後のトルクコンバータ14の速度比が大きい場合に、イナーシャ相開始後から目標回転速度NESFTが急上昇することを見越して、目標回転速度NESFTPが予め高い値に設定される。また、補正値Yは、変速前後でエンジン回転速度NEとタービン回転速度NTとの差分が大きいほど大きくなり、目標回転速度NESFTPも大きくなるため、例えばエンジン回転速度NEが急上昇している場合には、目標回転速度NESFTPも高くなり、表示回転速度NEMETが実エンジン回転速度NEに向かって移動を開始する際の両者の乖離が小さくなる。
NESFTP=NTX+(NE−NT)+Y・・・(4)
Y=k×ΔNT+m×{(NEX−NTX)−(NEI−NTI)}・・・(5)
【0029】
目標回転速度設定部88は、随時演算される目標回転速度NESFTが、開始時点目標回転速度NEINIよりも高いか否か判定し、目標回転速度NESFTPが、イナーシャ相開始時点の開始時点目標回転速度NEINIよりも高い場合には、開始時点目標回転速度NEINIを、目標回転速度NESFTに設定する。一方、目標回転速度設定部88は、目標回転速度NESFTPが、開始時点目標回転速度NEINI以下の場合には、演算された目標回転速度NESFTPを、今回のステップにおける目標回転速度NESFTに設定する。すなわち、目標回転速度設定部88は、随時演算される仮の目標回転速度NESFTP、および、開始時点目標回転速度NEINIとのうち、小さい方の値を目標回転速度NESFTに設定する。
【0030】
上記のように制御されることで、各タイムステップ毎の目標回転速度NESFTが、イナーシャ相開始時点の開始時点目標回転速度NEINI以下に制限されることとなる。言い換えれば、各タイムステップ毎に演算される目標回転速度NESFTが、開始時点目標回転速度NEINI以下に低下する側については許容される。例えば、アップシフト中にアクセル開度Accが緩められる場合には、式(1)、(2)によって演算される目標回転速度NESFTPが、イナーシャ相開始時点の開始時点目標回転速度NEINIよりも低い値となる。このような場合に、仮の目標回転速度NESFTPが、目標回転速度NESFTに設定される。
【0031】
メータ表示制御部84は、タコメータ82aに表示される表示回転速度NEMETが設定された目標回転速度NESFTに近づくように制御する。このとき、メータ表示制御84は、設定された目標回転速度NESFTに公知であるなまし処理(例えば変化量制限、1次遅れフィルタ等)を施すことで、表示回転速度NEMETを演算し、演算された表示回転速度NEMETをタコメータ82aに表示する。
【0032】
図3は、自動変速機18のアップシフトが開始された場合において、本実施例における目標回転速度NESFTおよび表示回転速度NEMETの挙動、ならびに、比較対象として従来制御における目標回転速度NESFTおよび表示回転速度NEMETの挙動を示すタイムチャートである。なお、本実施例にあっては、なまし処理量が大きい(なまし大)場合の表示回転速度NEMETと、なまし処理量が小さい(なまし小)場合の表示回転速度NEMETとが、それぞれ示されている。
【0033】
t1時点において自動変速機18のイナーシャ相が開始されると、目標回転速度NESFTが演算されるが、一点鎖線で示す本実施例の目標回転速度NESFTは、補正値Yが加算される分だけ、破線で示す従来の目標回転速度NESFTよりも高い値に設定される。これに関連して、本実施例では、従来に比べて目標回転速度NESFTと表示回転速度NEMETとの大小関係が入れ替わるタイミングが遅くなる。具体的には、従来では、t2a時点において、破線で示す目標回転速度NESFTと、二点鎖線で示す従来の表示回転速度NEMETとの大小関係が入れ替わっている。これに対して、本実施例では、t2a時点よりも遅いt2b時点において、一点鎖線で示す目標回転速度NESFTと実線(なまし小)で示す表示回転速度NEMETとの大小関係が入れ替わっている。同様に、t2a時点よりも遅いt2c時点において、一点鎖線で示す目標回転速度NESFTと破線(なまし大)で示す目標回転速度NEMETとの大小関係が入れ替わっている。
【0034】
このように、本実施例では、従来に比べて、表示回転速度NEMETと目標回転速度NESFTとの大小関係が入れ替わるタイミングが遅くなるため、表示回転速度NEMETの変化量が小さくなったときに入れ替わる。これより、入れ替わったときの実エンジン回転速度NEと表示回転速度NEMETとの差を小さくすることができ、その後の表示回転速度NEMETとエンジン回転速度NEとが一致するのに必要な所要時間を短くすることができる。また、なまし処理に際してなまし処理量(なまし係数等)を小さく(なまし量小)設定することができ、タコメータ82a上の回転変化をレスポンス良く表示することができる。
【0035】
また、図3では、t1時点からt2b時点の間において、目標回転速度NESFTが、イナーシャ相開始時点の開始時点目標回転速度NEINIで一定となっているが、随時演算される目標回転速度NESTが、イナーシャ相開始時点の開始時点目標回転速度NEINI以下に制限されている。すなわち、目標回転速度NESFTが、開始時点目標回転速度NEINIよりも低くなる側への変化が許容されている。これより、例えばアップシフト中にアクセル開度Accが緩められたのにも関わらず、目標回転速度NESFTが高い値に設定されることで表示回転速度NEMETが高止まりし、回転速度の低下を予期する運転者に違和感を与えることを防止することができる。
【0036】
図4は、電子制御装置70の制御作動のうち、自動変速機18のアップシフトのイナーシャ相中において、タコメータ82aに表示される表示回転速度NEMETを最適にする制御作動を説明するフローチャートである。このフローチャートは、自動変速機18のアップシフトでのイナーシャ相中は繰り返し実行される。
【0037】
先ず、目標回転速度設定部88の機能に対応するステップS1(以下、ステップを省略する)において、式(3)によって演算される回転速度G(=NTX+(NE−NT))が、イナーシャ相開始時点において式(1)、(2)によって演算される開始時点目標回転速度NEINIよりも高いか否か判定される。回転速度Gが、開始時点目標回転速度NEINIよりも高い場合、S1が肯定されてS9に進む。目標回転速度設定部88の機能に対応するS9において、演算された回転速度Gが目標回転速度NESFTに設定されてS6に進む。
【0038】
S1において、開始時点目標回転速度NEINIが、回転速度Gよりも高い場合、S1が否定されてS2に進む。目標回転速度設定部88の機能に対応するS2では、式(5)に基づいて補正値Yが演算され、次いで、目標回転速度設定部88の機能に対応するS3において、S2で演算された補正値Yおよび式(4)に基づいて仮の目標回転速度NESFTPが演算される。
【0039】
目標回転速度設定部88の機能に対応するS4では、S3で演算された目標回転速度NESFTPが、イナーシャ相開始時点の開始時点目標回転速度NEINIよりも高いか否か判定される。目標回転速度NESFTPが開始時点目標回転速度NEINIよりも高い場合、S4が肯定されてS8に進む。目標回転速度設定部88の機能に対応するS8では、イナーシャ相開始時点の開始時点目標回転速度NEINIが、目標回転速度NESFTに設定されてS6に進む。
【0040】
S4において、目標回転速度NESFTPが開始時点目標回転速度NEINI以下の場合、S4が否定されてS5に進む。目標回転速度設定部88の機能に対応するS5では、S3で演算された仮の目標回転速度NESFTPが目標回転速度NESFTに設定される。メータ表示制御部84の機能に対応するS6では、設定された目標回転速度NESFTになまし処理が施されることで、表示回転速度NEMETが演算される。次いで、メータ表示制御部84の機能に対応するS7では、タコメータ28上にS6で演算された表示回転速度NEMETが表示される。
【0041】
上述のように、本実施例によれば、仮の目標回転速度NESFTPを演算するに際して補正値Yが加算され、演算された仮の目標回転速度NESFTP、および、イナーシャ相開始時点の開始時点目標回転速度NEINIのうち、小さい方の値が目標回転速度NESFTに設定されることで、表示回転速度NEMETが目標回転速度NESFTに到達したときの、表示回転速度NEMETと実際のエンジン回転速度NEとの乖離が大きくなることを抑制し、表示回転速度NEMETと実際のエンジン回転速度NEとを一致させるための時間を短くすることができる。
【0042】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0043】
10:車両
12:エンジン
14:トルクコンバータ
18:自動変速機
28a:タコメータ(メータ)
70:電子制御装置(表示制御装置)
84:メータ表示制御部
86:イナーシャ相判定部
88:目標回転速度設定部
図1
図2
図3
図4