特許第6623989号(P6623989)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6623989
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/02 20120101AFI20191216BHJP
   B60K 11/04 20060101ALI20191216BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20191216BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20191216BHJP
   B60W 10/00 20060101ALI20191216BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20191216BHJP
   B60W 10/30 20060101ALI20191216BHJP
   F01P 7/04 20060101ALI20191216BHJP
   F01P 5/04 20060101ALI20191216BHJP
【FI】
   B60W30/02
   B60K11/04 Z
   B60T7/12 F
   F02D29/02 301Z
   B60W10/00 150
   B60W10/04
   B60W10/30
   F01P7/04 A
   F01P5/04 A
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-177908(P2016-177908)
(22)【出願日】2016年9月12日
(65)【公開番号】特開2018-43550(P2018-43550A)
(43)【公開日】2018年3月22日
【審査請求日】2018年11月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】深水 嵩洋
【審査官】 三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−113905(JP,A)
【文献】 特開2008−190430(JP,A)
【文献】 特開2014−019259(JP,A)
【文献】 特開2007−131018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 − 50/16
B60K 11/04
B60T 7/12
F01P 1/00 − 11/20
F02D 29/02
G01P 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外気がラジエータを通過するように駆動されるファンを備えた車両に適用され、前記ファンの回転速度をモニタして同回転速度が目標値となるよう前記ファンを駆動するための電流値を制御し、且つ、車両における車輪の回転速度を制御する制御部を備える車両の制御装置において、
前記制御部は、車両の走行中における車速及び前記電流値に基づき外気の風速及び風向を求め、それら風速及び風向に基づき車速を維持するよう車輪の回転速度を制御するものであり、
前記制御部は、外気の風向が車両の前方から後方に向う方向であるときには、その外気の風速に対応する分、車輪の回転速度を制御するよう構成され、外気の風向が車両の後方から前方に向う方向であるときには、その外気の風速に対応する分、車輪の回転速度を制御するよう構成されており、
前記ファンは、車両の幅方向に並ぶ複数のファンであり、
前記制御部は、車両の走行中に各ファンの電流値が変化する際の同変化のファン間での順番及び時間差に基づき、外気の風向における車両の左右方向の成分が同車両の右方から左方に向う方向であるのか、或いは車両の左方から右方に向う方向であるのかを判別し、外気の風向に基づき車両の進行方向を維持するよう車輪の回転速度を制御するものであることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、外気の風向が車両の右前方から左後方に向う方向であるときには、その外気の風速に対応する分、車両の右側の車輪の回転速度を加速側に制御するよう構成されている請求項に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、外気の風向が車両の左前方から右後方に向う方向であるときには、その外気の風速に対応する分、車両の左側の車輪の回転速度を加速側に制御するよう構成されている請求項又はに記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、外気の風向が車両の右後方から左前方に向う方向であるときには、その外気の風速に対応する分、車両の右側の車輪の回転速度を減速側に制御するよう構成されている請求項のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、外気の風向が車両の左後方から右前方に向う方向であるときには、その外気の風速に対応する分、車両の左側の車輪の回転速度を減速側に制御するよう構成されている請求項のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両として、冷却水を循環させる冷却回路の途中に設けられたラジエータと、そのラジエータを外気が通過するように駆動されるファンと、を備えたものが知られている(特許文献1参照)。こうした車両の走行中には、外気の風速及び風向から車両が影響を受けることにより、同車両の挙動が不安定になって車輪の回転速度が目標値に対し変動するおそれがある。また、走行中の車両の挙動を安定させる制御として、車輪の回転速度をモニタして同回転速度が目標値からずれたとき、そのずれを無くすように車輪の回転速度を制御するビークルスタビリティコントロール(VSC)を行うことも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−41935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記VSCでは、車両に対する外気の風速及び風向の影響によって車輪の回転速度が実際に目標値からずれた後、そのずれを無くすように車輪の回転速度が制御される。このことから、上記VSCでは、車輪の回転速度が一時的に目標値からずれた後に同目標値に戻されるという過程を経るため、その過程において運転者が車両の挙動に違和感を覚えることは避けられない。
【0005】
本発明の目的は、車両に対し外気の風速及び風向の影響が及ぶとき、運転者が車両の挙動に違和感を覚えることを抑制できる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する車両の制御装置は、外気がラジエータを通過するように駆動されるファンを備えた車両に適用され、上記ファンの回転速度をモニタして同回転速度が目標値となるよう同ファンを駆動するための電流値を制御し、且つ、車両における車輪の回転速度を制御する制御部を備える。そして、制御部は、車両の走行中における車速及び上記電流値に基づき外気の風速及び風向を求め、それら風速及び風向に基づき車速を維持するよう車輪の回転速度を制御するものとされている。
【0007】
上記構成によれば、走行中の車両に対し外気の風速及び風向の影響が及ぶに当たり、まず外気に接するファンの回転速度に影響が及んで同回転速度が目標値からずれる。このようにファンの回転速度が目標値からずれると、同回転速度が目標値となるように、すなわち上記ずれが無くなるようにファンを駆動するための電流値が制御される。制御部は、このときの電流値の変化量及び変化方向に基づき外気の風速及び風向を求め、それら風速及び風向に基づき車速を維持するよう車輪の回転速度を制御する。このように車輪の回転速度を制御することにより、走行する車両に対する外気の風速及び風速による影響が、車輪の回転速度の目標値からのずれとして現れる前に抑えられるようになる。従って、車両に対し外気の風速及び風向の影響が及ぶとき、車輪の回転速度が一時的に目標値からずれた後に同目標値に戻されるという過程を経ることはなく、その過程において運転者が車両の挙動に違和感を覚えることを抑制できる。
【0008】
上記制御部に関しては、外気の風向が車両の前方から後方に向う方向であるとき、その外気の風速に対応する分、車輪の回転速度を加速側に制御するよう構成されているものとすることが考えられる。
【0009】
この構成によれば、走行中の車両に対し影響を及ぼす外気の風向が、車両の前方から後方に向う方向である場合、外気に接するファンの回転速度が目標値に対し増速側にずれる。このようにファンの回転速度が目標値に対し増速側にずれると、同回転速度が目標値となるようにファンを駆動するための電流値が減少側に制御される。制御部は、このときの電流値の変化量及び変化方向に基づき外気の風速及び風向を求め、それら風速及び風向に基づき車速を維持するよう車輪の回転速度を加速側に制御する。このように車輪の回転速度を加速側に制御することにより、走行する車両に対する上記外気の風速及び風向による影響が、車輪の回転速度の目標値に対する減速側へのずれとして現れる前に抑えられるようになる。
【0010】
また、上記制御部に関しては、外気の風向が車両の後方から前方に向う方向であるとき、その外気の風速に対応する分、車輪の回転速度を減速側に制御するよう構成されているものとすることが考えられる。
【0011】
この構成によれば、走行中の車両に対し影響を及ぼす外気の風向が、車両の後方から前方に向う方向である場合、外気に接するファンの回転速度が目標値に対し減速側にずれる。このようにファンの回転速度が目標値に対し減速側にずれると、同回転速度が目標値となるようにファンを駆動するための電流値が増加側に制御される。制御部は、このときの電流値の変化量及び変化方向に基づき外気の風速及び風向を求め、それら風速及び風向に基づき車速を維持するよう車輪の回転速度を減速側に制御する。このように車輪の回転速度を減速側に制御することにより、走行する車両に対する上記外気の風速及び風向による影響が、車輪の回転速度の目標値に対する増速側へのずれとして現れる前に抑えられるようになる。
【0012】
上記車両の制御装置において、上記ファンを車両の幅方向に並ぶ複数のファンとする一方、上記制御部を次のように構成することも考えられる。すなわち、上記制御部に関しては、車両の走行中に各ファンの電流値が変化する際の同変化のファン間での順番及び時間差に基づき、外気の風向における車両の左右方向の成分が同車両の右方から左方に向う方向であるのか、或いは車両の左方から右方に向う方向であるのかを判別し、外気の風向に基づき車両の進行方向を維持するよう車輪の回転速度を制御するものとすることが考えられる。
【0013】
上記構成によれば、走行中の車両に対し影響を及ぼす外気の風向が、車両の前後方向の成分と左右方向の成分とを有する場合、外気に接する各ファンの回転速度の目標値に対するずれはファン間で所定の順番及び時間差をもって生じる。その結果、ファンの回転速度が目標値となるように同ファンを駆動するための電流値が制御されるとき、その電流値の変化がファン間で所定の順番及び時間差をもって生じるようになる。そして、このときの順番及び時間差は外気の風向に対応したものとなる。制御部は、上記順番及び上記時間差に基づき、外気の風向における車両の左右方向の成分が、車両の右方から左方に向う方向であるのか、或いは車両の左方から右方に向う方向であるのかを判別し、外気の風向に基づき車両の進行方向を維持するよう車輪の回転速度を制御する。このように車輪の回転速度を制御することにより、走行する車両に対する上記外気の風向による影響が、車両の進行方向の変動として現れる前に抑えられるようになる。
【0014】
上記制御部は、外気の風向が車両の右前方から左後方に向う方向であるとき、その外気の風速に対応する分、車両の右側の車輪の回転速度を加速側に制御するよう構成されているものとすることが考えられる。
【0015】
この構成によれば、走行中の車両に対し影響を及ぼす外気の風向が、車両の右前方から左後方に向う方向である場合、まず車両の右側のファンの回転速度が目標値に対し増速側にずれる。このようにファンの回転速度が目標値に対し増速側にずれると、同回転速度が目標値となるように上記ファンを駆動するための電流値が減少側に制御される。一方、上記右側のファンの回転速度が目標値に対し増速側にずれた後、所定の時間差をもって車両の左側のファンの回転速度が目標値に対し増速側にずれる。このようにファンの回転速度が目標値に対し増速側にずれると、同回転速度が目標値となるように上記ファンを駆動するための電流値が減少側に制御される。制御部は、このときのファン毎の電流値の変化量、変化方向、及び、変化タイミングに基づき外気の風速及び風向を求め、それら風速及び風向に基づき車速及び車両の進行方向を維持するよう、外気の風速に対応した分、車両の右側の車輪の回転速度を加速側に制御する。このように車両の右側の車輪の回転速度を加速側に制御することにより、走行する車両に対する上記外気の風速及び風向による影響が、車両の右側の車輪の回転速度の目標値に対する減速側へのずれとして現れる前に抑えられるようになる。
【0016】
上記制御部は、外気の風向が車両の左前方から右後方に向う方向であるとき、その外気の風速に対応する分、車両の左側の車輪の回転速度を加速側に制御するよう構成されているものとすることが考えられる。
【0017】
この構成によれば、走行中の車両に対し影響を及ぼす外気の風向が、車両の左前方から右後方に向う方向である場合、まず車両の左側のファンの回転速度が目標値に対し増速側にずれる。このようにファンの回転速度が目標値に対し増速側にずれると、同回転速度が目標値となるように上記ファンを駆動するための電流値が減少側に制御される。一方、上記左側のファンの回転速度が目標値に対し増速側にずれた後、所定の時間差をもって車両の右側のファンの回転速度が目標値に対し増速側にずれる。このようにファンの回転速度が目標値に対し増速側にずれると、同回転速度が目標値となるように上記ファンを駆動するための電流値が減少側に制御される。制御部は、このときのファン毎の電流値の変化量、変化方向、及び変化タイミングに基づき外気の風速及び風向を求め、それら風速及び風向に基づき車速及び車両の進行方向を維持するよう、外気の風速に対応した分、車両の左側の車輪の回転速度を加速側に制御する。このように車両の左側の車輪の回転速度を加速側に制御することにより、走行する車両に対する上記外気の風速及び風向による影響が、車両の左側の車輪の回転速度の目標値に対する減速側へのずれとして現れる前に抑えられるようになる。
【0018】
上記制御部は、外気の風向が車両の右後方から左前方に向う方向であるとき、その外気の風速に対応する分、車両の右側の車輪の回転速度を減速側に制御するよう構成されているものとすることが考えられる。
【0019】
この構成によれば、走行中の車両に対し影響を及ぼす外気の風向が、車両の右後方から左前方に向う方向である場合、まず車両の右側のファンの回転速度が目標値に対し減速側にずれる。このようにファンの回転速度が目標値に対し減速側にずれると、同回転速度が目標値となるように上記ファンを駆動するための電流値が増加側に制御される。一方、上記右側のファンの回転速度が目標値に対し減速側にずれた後、所定の時間差をもって車両の左側のファンの回転速度が目標値に対し減速側にずれる。このようにファンの回転速度が目標値に対し減速側にずれると、同回転速度が目標値となるように上記ファンを駆動するための電流値が増加側に制御される。制御部は、このときのファン毎の電流値の変化量、変化方向、及び変化タイミングに基づき外気の風速及び風向を求め、それら風速及び風向に基づき車速及び車両の進行方向を維持するよう、外気の風速に対応した分、車両の右側の車輪の回転速度を減速側に制御する。このように車両の右側の車輪の回転速度を減速側に制御することにより、走行する車両に対する上記外気の風速及び風向による影響が、車両の右側の車輪の回転速度の目標値に対する加速側へのずれとして現れる前に抑えられるようになる。
【0020】
上記制御部は、外気の風向が車両の左後方から右前方に向う方向であるとき、その外気の風速に対応する分、車両の左側の車輪の回転速度を減速側に制御するよう構成されているものとすることが考えられる。
【0021】
この構成によれば、走行中の車両に対し影響を及ぼす外気の風向が、車両の左後方から右前方に向う方向である場合、まず車両の左側のファンの回転速度が目標値に対し減速側にずれる。このようにファンの回転速度が目標値に対し減速側にずれると、同回転速度が目標値となるように上記ファンを駆動するための電流値が増加側に制御される。一方、上記左側のファンの回転速度が目標値に対し減速側にずれた後、所定の時間差をもって車両の右側のファンの回転速度が目標値に対し減速側にずれる。このようにファンの回転速度が目標値に対し減速側にずれると、同回転速度が目標値となるように上記ファンを駆動するための電流値が増加側に制御される。制御部は、このときのファン毎の電流値の変化量、変化方向、及び変化タイミングに基づき外気の風速及び風向を求め、それら風速及び風向に基づき車速及び車両の進行方向を維持するよう、外気の風速に対応した分、車両の左側の車輪の回転速度を減速側に制御する。このように車両の左側の車輪の回転速度を減速側に制御することにより、走行する車両に対する上記外気の風速及び風向による影響が、車両の左側の車輪の回転速度の目標値に対する加速側へのずれとして現れる前に抑えられるようになる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、車両に対し外気の風速及び風向の影響が及ぶとき、運転者が車両の挙動に違和感を覚えることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】車両の制御装置の全体構成を示す略図。
図2】同制御装置の電気的構成を示すブロック図。
図3】アクティブ回転速度制御の実行手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、車両の制御装置の一実施形態について、図1図3を参照して説明する。
図1に示す車両1は、内燃機関やモータといった原動機2など車載機器を制御するためのコンピュータ9を備えており、上記原動機2の駆動を通じて複数の車輪3(この例では、すべての車輪3)を回転させることによって走行する。車両1には、回転する車輪3の制動を行うブレーキ4、及び、車輪3の回転速度を検出する回転速度センサ5が設けられている、なお、ブレーキ4及び回転速度センサ5はそれぞれ、車輪3毎に設けられている。また、車両1には、同車両1の駆動系の回転に基づいて車速を検出する車速センサ10が設けられている。
【0025】
車両1は、原動機2等を冷却するための冷却水を循環させる冷却回路の途中に設けられたラジエータ6と、そのラジエータ6を外気が通過するように駆動される複数のファン7,8と、を備えている。上記ラジエータ6は車両1の前端部に設けられており、ファン7,8は上記ラジエータ6の後側で車両1の幅方向(左右方向)に並んでいる。ファン7,8は、電動式であって駆動用の電流を流すことによって回転する。そして、ファン7,8が回転すると、それに伴って外気がラジエータ6を前方から後方に向って通過する。なお、ファン7,8にはそれぞれ、それらの回転速度に対応した信号を出力する検出部7a,8aが設けられている。
【0026】
図2は、車両の制御装置の電気的構成を示している。同装置は上記コンピュータ9を備えている。コンピュータ9には、車輪3毎に対応した回転速度センサ5からの検出信号、ファン7,8の検出部7a,8aからの検出信号、及び、車速センサ10からの検出信号が入力される。また、コンピュータ9は、原動機2を駆動するための各種機器の駆動回路に対し指令信号を出力して原動機2を駆動制御する一方、車輪3毎に対応したブレーキ4の駆動回路に対し指令信号を出力して同ブレーキ4の駆動を制御する。更に、コンピュータ9は、ファン7の駆動回路及びファン8の駆動回路に対しそれぞれ指令信号を出力してファン7,8を駆動するための電流値を調整し、そうした電流値の調整を通じてファン7,8の回転速度を制御する。
【0027】
上記ファン7,8の回転速度制御は、コンピュータ9を通じて次のように行われる。すなわち、ファン7,8の回転速度については原動機2の温度等に応じて予め目標値が設定されており、コンピュータ9はファン7,8の回転速度を上記目標値とするための理論上の電流値(以下、ベース電流値という)でファン7,8を駆動する。更に、コンピュータ9は、検出部7a,8aからの検出信号に基づきファン7,8の実際の回転速度をモニタしており、実際の回転速度が上記目標値と一致していないときには、実際の回転速度が上記目標値となるように上記ベース電流値を調整した後の電流値でファン7,8を駆動する。このときのコンピュータ9は、ファン7,8を駆動するための電流値を制御する制御部としての役割を担う。
【0028】
コンピュータ9は、走行中の車両1の挙動を安定させる制御として、車輪3の回転速度をモニタして同回転速度が目標値からずれたとき、そのずれを無くすように車輪3の回転速度を制御するビークルスタビリティコントロール(VSC)を行う。なお、車輪3の回転速度の目標値は、車速センサ10によって検出された車速に基づいて設定されている。また、車輪3の回転速度の制御は、ブレーキ4を駆動して車輪3の回転に制動をかけて車輪3の回転速度を減速させたり、原動機2の回転上昇を通じて車輪3の回転速度を加速させたりすることによって実現される。
【0029】
ところで、走行中の車両1は、外気の風速及び風向から影響を受ける。詳しくは、走行する車両1に対する外気の風速及び風向の影響により、車輪3の回転速度が目標値からずれる可能性がある。このように車輪3の回転速度が目標値からずれたとき、それを上述したVSCで対処しようとすると、次のような問題が生じる。
【0030】
すなわち、上記VSCでは、車輪3の回転速度が実際に目標値からずれた後、そのずれを無くすように車輪3の回転速度が制御されるため、車輪3の回転速度が一時的に目標値からずれた後に同目標値に戻されることになり、そうした車輪3の回転速度の変動の過程において運転者が車両1の挙動に違和感を覚える。
【0031】
こうしたことに対処するため、コンピュータ9は、次のように車輪3の回転速度制御であるアクティブ回転速度制御を実行する。このアクティブ回転速度制御においては、車両1の走行中における車速、及び、ファン7,8を駆動するための電流値に基づき外気の風速及び風向が求められ、それら風速及び風向に基づき車速及び車両1の進行方向を維持するよう車輪3の回転速度が制御される。なお、コンピュータ9は、上記車輪3の回転速度制御(アクティブ回転速度制御)を実行するための制御部としての役割も担う。
【0032】
図3は、アクティブ回転速度制御の実行手順を示すフローチャートである。このアクティブ回転速度制御のための各種処理は、コンピュータ9を通じて実行される。コンピュータ9は、図3のステップ101(S101)の処理として、上述したファン7,8の回転速度制御を実行する。
【0033】
走行中の車両1に対し外気の風速及び風向の影響が及ぶときには、まず外気に接するファン7,8の回転速度に影響が及んで同回転速度が目標値からずれる。このようにファン7,8の回転速度が目標値からずれると、上記ファン7,8の回転速度制御を通じて、同回転速度が目標値となるように、すなわち上記ずれが無くなるようにファン7,8を駆動するための電流値が制御される。
【0034】
コンピュータ9は、S102の処理として、車速、及び、上記ファン7,8の回転速度制御が行われたときのファン7,8を駆動するための電流値を取り込む。更に、コンピュータ9は、S103の処理として、取り込んだ車速及び電流値に基づき、外気の風速及び風向を求める。なお、外気の風速及び風向を求める際には、上記電流値の変化量及び変化方向、並びに、上記電流値が変化する際の同変化のファン7,8間での順番及び時間差などが用いられる。
【0035】
コンピュータ9は、S104の処理として、求められた外気の風速及び風向に基づき、車速及び車両1の進行方向を維持するよう車輪3の回転速度を制御する。このように車輪3の回転速度を制御することにより、走行する車両1に対する外気の風速及び風向による影響が、車輪3の回転速度の目標値からのずれとして現れる前に抑えられる。従って、車両1に対し外気の風速及び風向の影響が及ぶとき、車輪3の回転速度が一時的に目標値からずれた後に同目標値に戻されるという過程を経ることはなく、その過程において運転者が車両1の挙動に違和感を覚えることは抑制される。
【0036】
次に、本実施形態における車両の制御装置の動作について説明する。
走行中の車両1に対し外気の風速及び風向の影響が及ぶとき、ファン7,8の回転速度及び電流値の変化態様は、外気の風速及び風向に応じて異なるものとなる。ここで、外気の風向がそれぞれ以下の(A)及び(B)の方向であるときのファン7,8の回転速度及び電流値の変化態様、並びに、アクティブ回転速度制御における車輪3の回転速度の制御態様について列記する。
【0037】
(A)外気の風向が車両1の前方から後方に向う方向である場合
外気に接するファン7,8の回転速度が目標値に対し増速側にずれるとともに、車速と上記外気の風速との相対速度が速いほど、目標値に対する上記ファン7,8の回転速度の増速側へのずれ量が大きくなる。このようにファン7,8の回転速度が目標値に対し増速側にずれると、同回転速度が目標値となるようにファン7,8を駆動するための電流値が減少側に制御される。
【0038】
コンピュータ9は、アクティブ回転速度制御として、このときの電流値の変化量及び変化方向に基づき外気の風速及び風向を求め、それら風速及び風向に基づき車速を維持するよう車輪3の回転速度を加速側に制御する。これにより、走行する車両1に対する上記外気の風速及び風向による影響が、車輪3の回転速度の目標値に対する減速側へのずれとして現れる前に抑えられる。
【0039】
(B)外気の風向が車両1の後方から前方に向う方向である場合
外気に接するファン7,8の回転速度が目標値に対し減速側にずれるとともに、車速と上記外気の風速との相対速度が遅いほど、目標値に対する上記ファン7,8の回転速度の減速側へのずれ量が大きくなる。このようにファン7,8の回転速度が目標値に対し減速側にずれると、同回転速度が目標値となるようにファン7,8を駆動するための電流値が増加側に制御される。
【0040】
コンピュータ9は、アクティブ回転速度制御として、このときの電流値の変化量及び変化方向に基づき外気の風速及び風向を求め、それら風速及び風向に基づき車速を維持するよう車輪3の回転速度を減速側に制御する。これにより、走行する車両1に対する上記外気の風速及び風向による影響が、車輪3の回転速度の目標値に対する加速側へのずれとして現れる前に抑えられる。
【0041】
なお、外気の風向は、上述した(A)及び(B)の方向だけでなく、それ以外の方向となる場合もある。例えば、外気の風向が車両1の前後方向の成分と左右方向の成分とを有する場合もある。
【0042】
この場合、外気に接する各ファン7,8の回転速度の目標値に対するずれはファン7,8間で所定の順番及び時間差をもって生じる。その結果、ファン7,8の回転速度が目標値となるように同ファン7,8を駆動するための電流値が制御されるとき、その電流値の変化がファン7,8間で所定の順番及び時間差をもって生じるようになる。そして、このときの順番及び時間差は外気の風向に対応したものとなる。
【0043】
外気の風向が車両1の前後方向の成分と左右方向の成分とを有する場合としては、外気の風向が以下の(C)〜(F)の方向である場合があげられる。これらの場合におけるファン7,8の回転速度及び電流値の変化態様、並びに、アクティブ回転速度制御における車輪3の回転速度の制御態様について列記する。
【0044】
(C)外気の風向が車両1の右前方から左後方に向う方向である場合
この場合、まず車両1の右側のファン7の回転速度が目標値に対し増速側にずれる。また、車速と上記外気の風速における車両1の前後方向の成分との相対速度が速いほど、目標値に対する上記ファン7の回転速度の増速側へのずれ量が大きくなる。そして、このようにファン7の回転速度が目標値に対し増速側にずれると、同回転速度が目標値となるように上記ファン7を駆動するための電流値が減少側に制御される。
【0045】
一方、上記右側のファン7の回転速度が目標値に対し増速側にずれた後、所定の時間差をもって車両1の左側のファン8の回転速度が目標値に対し増速側にずれる。また、車速と上記外気の風速における車両1の前後方向の成分との相対速度が速いほど、目標値に対する上記ファン8の回転速度の増速側へのずれ量が大きくなる。そして、このようにファン8の回転速度が目標値に対し増速側にずれると、同回転速度が目標値となるように上記ファン8を駆動するための電流値が減少側に制御される。
【0046】
コンピュータ9は、このときのファン7,8毎の電流値の変化量、変化方向、及び変化タイミングに基づき外気の風速及び風向を求め、それら風速及び風向に基づき車速及び車両1の進行方向を維持するよう、外気の風速に対応した分、車両1の右側の車輪3の回転速度を加速側に制御する。詳しくは、車両1の左側の車輪3に対しブレーキ4による制動をかけつつ、原動機2の回転速度を上昇させることにより、車両1の右側の車輪3の回転速度を加速側に制御する。このように車両1の右側の車輪3の回転速度を加速側に制御することによって、走行する車両1に対する上記外気の風速及び風向による影響が、車両1の右側の車輪3の回転速度の目標値に対する減速側へのずれとして現れる前に抑えられる。
【0047】
(D)外気の風向が車両1の左前方から右後方に向う方向である場合
この場合、まず車両1の左側のファン8の回転速度が目標値に対し増速側にずれる。また、車速と上記外気の風速における車両1の前後方向の成分との相対速度が速いほど、目標値に対する上記ファン8の回転速度の増速側へのずれ量が大きくなる。そして、このようにファン8の回転速度が目標値に対し増速側にずれると、同回転速度が目標値となるように上記ファン8を駆動するための電流値が減少側に制御される。
【0048】
一方、上記左側のファン8の回転速度が目標値に対し増速側にずれた後、所定の時間差をもって車両1の右側のファン7の回転速度が目標値に対し増速側にずれる。また、車速と上記外気の風速における車両1の前後方向の成分との相対速度が速いほど、目標値に対する上記ファン7の回転速度の増速側へのずれ量が大きくなる。このようにファン7の回転速度が目標値に対し増速側にずれると、同回転速度が目標値となるように上記ファン7を駆動するための電流値が減少側に制御される。
【0049】
コンピュータ9は、このときのファン7,8毎の電流値の変化量、変化方向、及び変化タイミングに基づき外気の風速及び風向を求め、それら風速及び風向に基づき車速及び車両1の進行方向を維持するよう、外気の風速に対応した分、車両1の左側の車輪3の回転速度を加速側に制御する。詳しくは、車両1の右側の車輪3に対しブレーキ4による制動をかけつつ、原動機2の回転速度を上昇させることにより、車両1の左側の車輪3の回転速度を加速側に制御する。このように車両1の左側の車輪3の回転速度を加速側に制御することによって、走行する車両1に対する上記外気の風速及び風向による影響が、車両1の左側の車輪3の回転速度の目標値に対する減速側へのずれとして現れる前に抑えられる。
【0050】
(E)外気の風向が車両1の右後方から左前方に向う方向である場合
この場合、まず車両1の右側のファン7の回転速度が目標値に対し減速側にずれる。また、車速と上記外気の風速における車両1の前後方向の成分との相対速度が遅いほど、目標値に対する上記ファン7の回転速度の減速側へのずれ量が大きくなる。そして、このようにファン7の回転速度が目標値に対し減速側にずれると、同回転速度が目標値となるように上記ファン7を駆動するための電流値が増加側に制御される。
【0051】
一方、上記右側のファン7の回転速度が目標値に対し減速側にずれた後、所定の時間差をもって車両1の左側のファン8の回転速度が目標値に対し減速側にずれる。また、車速と上記外気の風速における車両1の前後方向の成分との相対速度が遅いほど、目標値に対する上記ファン8の回転速度の減速側へのずれ量が大きくなる。そして、このようにファン8の回転速度が目標値に対し減速側にずれると、同回転速度が目標値となるように上記ファン8を駆動するための電流値が増加側に制御される。
【0052】
コンピュータ9は、このときのファン7,8毎の電流値の変化量、変化方向、及び変化タイミングに基づき外気の風速及び風向を求め、それら風速及び風向に基づき車速及び車両1の進行方向を維持するよう、外気の風速に対応した分、車両1の右側の車輪3の回転速度を減速側に制御する。詳しくは、車両1の右側の車輪3に対しブレーキ4によって制動をかけることにより、車両1の右側の車輪3を減速側に制御する。このように車両1の右側の車輪3の回転速度を減速側に制御することにより、走行する車両1に対する上記外気の風速及び風向による影響が、車両1の右側の車輪3の回転速度の目標値に対する加速側へのずれとして現れる前に抑えられる。
【0053】
(F)外気の風向が車両1の左後方から右前方に向う方向である場合
この場合、まず車両1の左側のファン8の回転速度が目標値に対し減速側にずれる。また、車速と上記外気の風速における車両1の前後方向の成分との相対速度が遅いほど、目標値に対する上記ファン8の回転速度の減速側へのずれ量が大きくなる。そして、このようにファン8の回転速度が目標値に対し減速側にずれると、同回転速度が目標値となるように上記ファン8を駆動するための電流値が増加側に制御される。
【0054】
一方、上記左側のファン8の回転速度が目標値に対し減速側にずれた後、所定の時間差をもって車両1の右側のファン7の回転速度が目標値に対し減速側にずれる。また、車速と上記外気の風速における車両1の前後方向の成分との相対速度が遅いほど、目標値に対する上記ファン7の回転速度の減速側へのずれ量が大きくなる。そして、このようにファン7の回転速度が目標値に対し減速側にずれると、同回転速度が目標値となるように上記ファン7を駆動するための電流値が増加側に制御される。
【0055】
コンピュータ9は、このときのファン7,8毎の電流値の変化量、変化方向、及び変化タイミングに基づき外気の風速及び風向を求め、それら風速及び風向に基づき車速及び車両1の進行方向を維持するよう、外気の風速に対応した分、車両1の左側の車輪3の回転速度を減速側に制御する。詳しくは、車両1の左側の車輪3に対しブレーキ4によって制動をかけることにより、車両1の左側の車輪3を減速側に制御する。このように車両1の左側の車輪3の回転速度を減速側に制御することにより、走行する車両1に対する上記外気の風速及び風向による影響が、車両1の左側の車輪3の回転速度の目標値に対する加速側へのずれとして現れる前に抑えられる。
【0056】
以上詳述した本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)車両1に対し外気の風速及び風向の影響が及ぶとき、その影響が車輪3の回転速度の目標値に対するずれとして現れる前に抑えられるため、運転者が車両1の挙動に違和感を覚えることを抑制できる。
【0057】
(2)VSCを行うコンピュータ9を用いてアクティブ回転速度制御を行うようにしたため、車両の制御装置の構成を簡略化することができ、同装置の製造コストを低減することができる。
【0058】
なお、上記実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。
・外気の風向を判別する際、その判別を車両の前方から後方に向かう方向と車両の後方から前方に向かう方向とに限るなら、ラジエータ6に外気を流すためのファンを一つだけにしてもよい。
【0059】
・VSCとアクティブ回転速度制御とは必ずしも一つのコンピュータ9で行う必要はなく、それらを別々のコンピュータで行うようにしてもよい。
・車両1の車輪3のうち、前輪のみを駆動輪としたり、後輪のみを駆動輪としたりしてもよい。この場合、アクティブ回転速度制御による車輪3の回転速度の加速側への制御は駆動輪に対して行われる。
【符号の説明】
【0060】
1…車両、2…原動機、3…車輪、4…ブレーキ、5…回転速度センサ、6…ラジエータ、7…ファン、7a…検出部、8…ファン、8a…検出部、9…コンピュータ、10…車速センサ。
図1
図2
図3