(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基板、および、金属化合物と蛍光体とバインダー樹脂とを含有するシンチレータ層を有するシンチレータパネルであって、前記金属化合物が、前記蛍光体を被覆しており、その被覆率が5%以上であり、前記金属化合物が、グラフト化されている金属化合物粒子である、シンチレータパネル。
前記低屈折率層が、シリカ、水ガラス、シリコーン樹脂、フッ化マグネシウムおよびフッ素系樹脂からなる群から選ばれる化合物を含有する、請求項15記載のシンチレータパネル。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のシンチレータパネルは、基板、および、金属化合物と蛍光体とを含有するシンチレータ層を有するシンチレータパネルであって、前記金属化合物が、前記蛍光体を被覆しており、その被覆率が5%以上であることを特徴とする。
【0012】
以下、図を用いて本発明のシンチレータパネルおよびそれを具備する放射線検出器の好ましい構成について説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0013】
図1は、本発明のシンチレータパネルを具備する放射線検出器の構成を、模式的に表した断面図である。放射線検出器1は、本発明のシンチレータパネル2、フォトダイオード基板3および電源部11からなる。本発明のシンチレータパネル2は、金属化合物と蛍光体とを含有するシンチレータ層6を有し、照射された放射線のエネルギーを吸収して、波長が300〜800nmの範囲の電磁波、すなわち、可視光線を中心とする紫外〜赤外光に亘る光を発光する。
【0014】
フォトダイオード基板3は、基板10上に、フォトダイオードとTFTとからなる画素が2次元状に形成された光電変換層8および出力層9を有する。シンチレータパネル2の出光面と、フォトダイオード基板3の光電変換層9とを、ポリイミド樹脂またはシロキサン樹脂等からなる隔膜層7を介して接着、または密着させることで、放射線検出器1が構成される。光電変換層8に到達した蛍光体の発光体は光電変換層8で光電変換され、出力される。
【0015】
本発明のシンチレータパネルが有する基板の材質としては、例えば、放射線の透過性を有するガラス、セラミック、半導体、高分子化合物、金属またはアモルファスカーボンが挙げられる。ガラスとしては、例えば、石英、ホウ珪酸ガラスまたは化学的強化ガラスが挙げられる。セラミックとしては、例えば、サファイア、チッ化珪素または炭化珪素が挙げられる。半導体としては、例えば、シリコン、ゲルマニウム、ガリウム砒素、ガリウム燐またはガリウム窒素が挙げられる。高分子化合物としては、例えば、セルロースアセテート、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリイミド、トリアセテート、ポリカーボネートまたは炭素繊維強化樹脂が挙げられる。金属としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅または金属酸化物が挙げられる。中でも、平坦性および耐熱性に優れる材質であることが好ましい。なお、シンチレータパネルの持ち運びの利便性の点でシンチレータパネルの軽量化が進められていることから、基板の厚さは2.0mm以下が好ましく、1.0mm以下がより好ましい。
【0016】
本発明のシンチレータパネルが有するシンチレータ層は、金属化合物と蛍光体とを含有するが、金属化合物は蛍光体の表面と接触または近接、すなわち蛍光体を被覆しており、その被覆率が5%以上であるが、被覆率は20%以上が好ましく、50%以上がより好ましい。被覆率が5%以上であると、蛍光体と大気との屈折率差が小さくなり、蛍光体の発光光をフォトダイオード基板のフォトダイオードに効率的に導くことができ、輝度を向上することができる。金属化合物としては、チタニア、ジルコニア、アルミナ、セリア、酸化スズ、酸化インジウム、ジルコン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化ニオブ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミ、炭化ケイ素、水酸化アルミニウムチタン酸バリウムまたはダイアモンドが挙げられるが、高屈折率および入手のし易さという観点から、アルミニウム化合物、スズ化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物またはニオブ化合物が好ましい。より具体的には、例えば、アルミニウム、スズ、チタン若しくはジルコニウムの酸化物、硫化物または水酸化物等が挙げられるが、塗布膜および硬化膜の屈折率調整の観点から、酸化ジルコニウム粒子または酸化チタン粒子が好ましい。
【0017】
金属化合物による蛍光体の被覆率は、シンチレータ層の断面を走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」;例えば、日立製作所製のS2400)で観察した2次元画像から、無作為に20個の蛍光体粒子を選択し、それぞれについて周囲長を100分割し、蛍光体粒子表面から500nm以内の範囲に金属化合物が存在する領域の割合(%)を求め、その平均値として算出することができる。なお、シンチレータ層の断面が観察できるように研磨をする方法としては、例えば、機械研磨法、ミクロトーム法、CP法(Cross−section Polisher)または集束イオンビーム(FIB)加工法が挙げられる。
【0018】
金属化合物は、細かい粒状であること、すなわち金属化合物粒子であることが好ましい。金属化合物が金属化合物粒子であると、蛍光体との混合による、蛍光体表面の被覆が容易となる。
【0019】
金属化合物と蛍光体とを含有するシンチレータ層の空隙率は、1〜50%が好ましく、5〜30%がより好ましい。空隙率をこの範囲にすることによって、高い輝度を保持したまま、画像の鮮鋭度の指標であるMTF(Modulation Transfer Function;レンズ性能を評価する指標の一つで、空間周波数特性)を向上させることができる。
【0020】
シンチレータ層の空隙率は、シンチレータ層の断面を精密研磨した後にSEMで観察し、固形分部分(蛍光体、金属化合物およびバインダー樹脂等)と空隙部分を2階調に画像変換し、シンチレータ層の断面の面積に占める空隙部分の面積割合として算出することができる。また、MTFは、シンチレータパネルを具備する放射線検出器に、放射線を透過しない鉛板を置き、管電圧80kVpの放射線をシンチレータパネルの基板側から照射して得られた画像を基に、エッジ法により測定することができる。
【0021】
シンチレータ層が含有する金属化合物粒子は、グラフト化されていることが好ましい。
【0022】
「金属化合物粒子がグラフト化されている」とは、粒子の表面に存在する水酸基等を介して、高分子化合物が金属化合物粒子表面に化学結合(グラフト)されている状態をいう。金属化合物粒子がグラフト化されていることで、シンチレータ層にクラックが生じるのを抑制することができる。また、シンチレータ層がバインダー樹脂を含有する場合には、バインダー樹脂への金属化合物粒子の分散状態が良好となり、その結果としてシンチレータ層の透明性が向上し、バインダー樹脂の屈折率と蛍光体との屈折率差を小さくすることができる。
【0023】
金属化合物粒子をグラフト化するための高分子化合物としては、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、レゾール樹脂、尿素樹脂若しくはメラミン樹脂等の水溶性高分子化合物、または、ポリシロキサン、1,4−シス−イソプレン、イソプレンエラストマー、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリメチルメタクリレート、ポリn−ブチルアクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル若しくはポリ乳酸等の非水溶性高分子化合物が挙げられる。
【0024】
金属化合物粒子の表面がグラフト化されているか否かは、SEMまたは透過型電子顕微鏡(以下、「TEM」)で金属化合物粒子の輪郭を観察することによって知ることができる。グラフト化されている場合は、金属化合物粒子の輪郭が不明瞭となるのに対し、グラフト化されていない場合は、金属化合物粒子の輪郭が明確であり、金属化合物粒子の粒子径に相当する大きさの粒子が明瞭に観察される。
【0025】
グラフト化されている金属化合物粒子の屈折率は、1.7以上であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましい。屈折率が1.7以上であると、蛍光体との屈折率差を小さくして可視光の光散乱を抑制することができる。
【0026】
グラフト化されている金属化合物粒子の屈折率は、屈折率測定装置(例えば、プリズムカプラMODEL2010/M”;メトリコン社製)を用いて測定することができる。より具体的には、被測定物である、グラフト化されている金属化合物粒子の塗布膜を形成し、25℃における、塗布膜表面に対して垂直方向に照射した633nm(He−Neレーザー使用)の光の屈折率(TE)を、グラフト化されている金属化合物粒子の屈折率とすることができる。
【0027】
なお、蛍光体の屈折率は、ベッケ線法、液浸法または外挿法によって測定することができる。また、蛍光体ハンドブック等のデータ値を用いても構わない。
【0028】
市販されている金属化合物粒子の内、グラフト化される金属化合物粒子として特に好適なものとしては、例えば、オプトレイク(登録商標)TR−502、TR−504若しくはTR−520等の酸化スズ−酸化チタン複合粒子、オプトレイク(登録商標)TR−503、TR−527、TR−528、TR−529若しくはTR−513等の酸化ケイ素−酸化チタン複合粒子またはオプトレイク(登録商標)TR−505等の酸化チタン粒子(以上、いずれも触媒化成工業(株)製)、あるいは、酸化ジルコニウム粒子((株)高純度化学研究所製)、酸化スズ−酸化ジルコニウム複合粒子(触媒化成工業(株)製)または酸化スズ粒子((株)高純度化学研究所製)が挙げられる。
【0029】
グラフト化されている金属化合物粒子の平均粒子径は、1〜50nmであることが好ましく、1〜30nmであることがより好ましい。平均粒子径が1nm未満であると、粒子として存在することが難しくなる場合がある。一方で、平均粒子径が50nmを超えると、光を散乱し易くなり、シンチレータ層の光透過率が低下する場合がある。
【0030】
グラフト化されている金属化合物粒子の平均粒子径は、シンチレータ層の断面をSEM観察した2次元画像から、無作為に200個の金属化合物粒子を選択し、それらの粒子径をそれぞれ求めた場合における、平均値をいう。ここで各金属化合物粒子の粒子径とは、粒子の外縁と2点で交わる直線の内、最長となるものの長さをいう。
【0031】
グラフト化されている金属化合物粒子は、金属化合物粒子、アルコキシシラン化合物、溶媒および酸触媒を混合して得ることが好ましい。この場合、アルコキシシラン化合物を酸触媒により加水分解してシラノール化合物とした後に、該シラノール化合物を縮重合させた、耐熱性および対候性に優れるポリシロキサンによって、金属化合物粒子がグラフト化されていると考えられる。
【0032】
用いるアルコキシシラン化合物としては、3官能性アルコキシシラン化合物のみ、または、3官能性アルコキシシラン化合物と2官能性アルコキシシラン化合物との組合せが好ましく、シンチレータ層の硬度を好適なものとして取り扱い性を向上させる観点から、100〜70モル%の3官能性アルコキシシラン化合物および0〜30モル%の2官能性アルコキシシラン化合物を含有するアルコキシシラン化合物がより好ましく、90〜80モル%の3官能性アルコキシシラン化合物および10〜20モル%の2官能性アルコキシシラン化合物を含有するアルコキシシラン化合物がさらに好ましい。
【0033】
用いるアルコキシシラン化合物としては、下記一般式(1)〜(3)で表されるアルコキシシラン化合物を含有することが好ましい。
【0035】
(式中、R
1は、水素、アルキル基、アルケニル基、アリール基若しくはナフチル基またはそれらの置換体を表し、R
4はそれぞれ独立して、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基またはブチル基を表す。)
【0037】
(式中、R
2およびR
3はそれぞれ独立して、水素、アルキル基、アルケニル基、アリール基若しくはナフチル基またはそれらの置換体を表す。R
5はそれぞれ独立して、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基またはブチル基を表す。)
【0039】
(式中、R
6はそれぞれ独立して、メチル基またはエチル基を表す。)
なお、耐クラック性の観点から、R
1、R
4およびR
5としては、メチル基またはフェニル基が好ましい。
【0040】
一般式(1)で表される3官能性アルコキシシラン化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−(N,N−ジグリシジル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、β−シアノエチルトリエトキシシラン、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリプロポキシシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリイソプロポキシシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、β−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、δ−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、δ−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリプロポキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリブトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、3−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリエトキシシラン、4−(3,4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリメトキシシラン、4−(3,4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリエトキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、トリフルオロメチルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、パーフルオロプロピルエチルトリメトキシシラン、パーフルオロプロピルエチルトリエトキシシラン、パーフルオロペンチルエチルトリメトキシシラン、パーフルオロペンチルエチルトリエトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリプロポキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリイソプロポキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシランまたはヘプタデカフルオロデシルトリエトキシシランが挙げられるが、入手のし易さの観点から、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシランまたはフェニルトリエトキシシランが好ましい。
【0041】
一般式(2)で表される2官能性アルコキシシラン化合物としては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルビニルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、グリシドキシメチルジメトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジエトキシシラン、α−グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、α−グリシドキシエチルメチルジエトキシシラン、β−グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、β−グリシドキシエチルメチルジエトキシシラン、α−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジプロポキシシラン、β−グリシドキシプロピルメチルジブトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルメトキシエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルエチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルビニルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルビニルジエトキシシラン、トリフルオロプロピルメチルジメトキシシラン、トリフルオロプロピルメチルジエトキシシラン、トリフルオロプロピルエチルジメトキシシラン、トリフルオロプロピルエチルジエトキシシラン、トリフルオロプロピルビニルジメトキシシラン、トリフルオロプロピルビニルジエトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシランまたはオクタデシルメチルジメトキシシランが挙げられるが、入手のし易さの観点から、ジメチルジアルコキシシラン、ジフェニルジアルコキシシランまたはメチルフェニルジアルコキシシランが好ましい。
【0042】
一般式(3)で表される4官能性アルコキシシラン化合物としては、例えば、テトラメトキシシランまたはテトラエトキシシランが挙げられる。
【0043】
用いる溶媒としては、例えば、ジアセトンアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、「PGMEA」)、乳酸エチルまたはγ−ブチロラクトンが挙げられるが、その透過率に加えて、加水分解および縮重合反応の制御のし易さの観点から、PGMEA、γ−ブチロラクトンまたはジアセトンアルコールが好ましい。
【0044】
用いる溶媒の量としては、アルコキシシラン化合物100質量部に対して、50〜500質量部が好ましく、80〜200質量部がより好ましい。溶媒の量が50質量部以上であると、ゲルの生成を抑制できる。一方で、溶媒の量が500質量部以下であると、加水分解が速やかに進行する。
【0045】
用いる酸触媒としては、例えば、塩酸、酢酸、蟻酸、硝酸、蓚酸、硫酸、リン酸、ポリリン酸、多価カルボン酸若しくはその無水物またはイオン交換樹脂が挙げられるが、蟻酸、酢酸またはリン酸の水溶液が好ましい。
【0046】
用いる酸触媒の量(酸性化合物の水溶液の場合は、該酸性化合物の量)としては、アルコキシシラン化合物100質量部に対して、0.05〜10質量部が好ましく、0.1〜5質量部が好ましい。酸触媒の量が0.05質量部以上であると、加水分解が速やかに進行する。一方で、酸触媒の量が10質量部以下であると、加水分解反応の制御が容易となる。
【0047】
酸性化合物を水溶液にするために用いる水としては、イオン交換水が好ましい。用いる水の量としては、アルコキシシラン化合物1モルに対して、1.0〜4.0モルが好ましい。
【0048】
急激な加水分解を抑制する観点から、酸触媒は1〜180分かけて添加することが好ましく、反応温度は室温〜110℃が好ましく、40〜105℃がより好ましく、反応時間は滴下終了後1〜180分が好ましい。
【0049】
加水分解反応によりシラノール化合物を得た後、反応液をそのまま、50℃以上、溶媒の沸点以下で1〜100時間加熱し、縮重合反応させることが好ましい。なお、ポリシロキサンの重合度を上げるために、再加熱または塩基触媒の添加をしても構わない。
【0050】
本発明のシンチレータパネルが有するシンチレータ層は、蛍光体を含有する。蛍光体としては、例えば、放射線から可視光への変換効率が高い、タリウムをドープしたヨウ化セシウム(CsI:Tl)、または、テルビウムをドープした酸硫化ガドリニウム(GOS:Tb)が好ましい。
【0051】
本発明のシンチレータパネルが有するシンチレータ層はバインダー樹脂を含有することで、より均一な連続相を形成することができる。バインダー樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂(シリコーンゴムまたはシリコーンゲル等のオルガノポリシロキサン硬化物(架橋物)を含む)、ウレア樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アクリル樹脂またはエチルセルロース樹脂が挙げられるが、熱硬化性若しくは光硬化性等の成型加工性、透明性、耐熱性または接着性等に優れるものが好ましく、透明性および耐熱性等の観点から、エポキシ樹脂またはシリコーン樹脂がより好ましく、より耐熱性に優れる観点から、シリコーン樹脂がさらに好ましい。
【0052】
中でも、常温または50〜200℃の温度で硬化し、透明性、耐熱性および接着性に優れる、付加反応硬化型シリコーン組成物が好ましい。付加反応硬化型シリコーン組成物としては、例えば、アルケニル基が直接結合したケイ素原子を有するシリコーン、水素原子が直接結合したケイ素原子を有するシリコーン、および、ヒドロシリル化反応触媒として触媒量の白金系触媒を含有する組成物が挙げられる。このような付加反応硬化型シリコーン組成物としては、例えば、OE6630若しくはOE6636(いずれも東レ・ダウコーニング(株)製)またはSCR−1012若しくはSCR1016(いずれも信越化学工業株式会社製)が挙げられる。
【0053】
またシリコーン樹脂としては、シンチレータ層の高い屈折率、耐熱性および対候性を並立させる観点から、シロキサン結合と、アリール基および/またはナフチル基が直接結合したケイ素原子と、を有するシリコーン樹脂が好ましく、アリール基およびナフチル基が直接結合したケイ素原子と、を有するシリコーン樹脂が好ましい。
【0054】
中でも、そのようなシリコーン樹脂として、下記平均単位式(4)で表されるオルガノポリシロキサン(以下、「(A)成分」)、下記一般式(5)で表されるオルガノポリシロキサン(以下、「(B)成分」)、下記一般式(6)で表されるオルガノトリシロキサン(以下、「(C)成分」)およびヒドロシリル化反応用触媒(以下、「(D)成分」)を含む組成物をヒドロシリル化反応させた架橋物が好ましい。この架橋物をバインダー樹脂として用いることによって、60〜250℃で貯蔵弾性率が減少し、加熱によって高い接着力が得られるため、例えば接着剤不要のシート状のシンチレータ層を形成することができる。
【0056】
(式中、R
1はそれぞれ独立して、フェニル基、炭素原子数1〜6のアルキル基若しくはシクロアルキル基または炭素原子数2〜6のアルケニル基を表し(ただし、R
1の65〜75モル%はフェニル基であり、R
1の10〜20モル%はアルケニル基である)、R
2はそれぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル基を表し、a、bおよびcは、0.5≦a≦0.6、0.4≦b≦0.5、0≦c≦0.1およびa+b=1の関係を満たす。)
【0058】
(式中、R
3はそれぞれ独立して、フェニル基、炭素原子数1〜6のアルキル基もしくはシクロアルキル基または炭素原子数2〜6のアルケニル基を表し(ただし、R
3の40〜70モル%はフェニル基であり、R
3の少なくとも1個はアルケニル基である)、mは5〜50の整数である。)
【0060】
(HR
42SiO)
2SiR
42
(式中、R
4はそれぞれ独立してフェニル基または炭素原子数1〜6のアルキル基もしくはシクロアルキル基を表す(ただし、R
4の30〜70モル%はフェニルである)。)
上記平均単位式(4)におけるa、bおよびcが、0.5≦a≦0.6、0.4≦b≦0.5、0≦c≦0.1およびa+b=1の関係を満たすことで、得られる架橋物が室温で十分に硬化する一方で、高温で軟化する。
【0061】
上記一般式(5)においては、R
3の40〜70モル%はフェニル基であり、R
3の少なくとも1個はアルケニル基である。フェニル基がR
3の40モル%未満であると、得られる架橋物の高温での軟化が不十分となる場合がある。一方で、フェニル基がR
3の70モル%を超えると、得られる架橋物の透明性が失われ、その機械的強度も低下する。R
3の少なくとも1個はアルケニル基でないと、(B)成分が架橋反応に取り込まれない場合がある。また、上記一般式(5)におけるmが5〜50であることで、得られる架橋物の機械的強度を維持しながら、取扱作業性を保持することができる。
【0062】
(A)成分100質量部に対する(B)成分の割合は、得られる架橋物の高温での軟化を十分なものとする観点から、5〜15質量部が好ましい。
【0063】
上記一般式(6)におけるR
4としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基若しくはヘプチル基またはシクロペンチル基若しくはシクロヘプチル基が挙げられる。上記一般式(6)においては、得られる架橋物の高温での軟化を十分なものとし、かつ透明性と機械的強度を維持する観点から、R
4の30〜70モル%がフェニル基であることが好ましい。
【0064】
(A)成分中および(B)成分中のアルケニル基の合計に対する、(C)成分中のケイ素原子に直接結合した水素原子のモル比は、得られる架橋物の室温での硬化を十分なものとする観点から、0.5〜2が好ましい。
【0065】
(D)成分としては、例えば、白金系触媒、ロジウム系触媒またはパラジウム系触媒が挙げられるが、組成物の硬化が著しく促進される観点から、白金系触媒が好ましい。白金系触媒としては、例えば、白金微粉末、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金−アルケニルシロキサン錯体、白金−オレフィン錯体または白金−カルボニル錯体が挙げられるが、白金−アルケニルシロキサン錯体が好ましい。アルケニルシロキサンとしては、例えば、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン若しくは1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサンあるいはこれらのアルケニルシロキサンのメチル基の一部をエチル基若しくはフェニル基等で置換したアルケニルシロキサンまたはこれらのアルケニルシロキサンのビニル基をアリル基若しくはヘキセニル基等で置換したアルケニルシロキサンが挙げられるが、安定性に優れる観点から、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンが好ましい。また、白金−アルケニルシロキサン錯体の安定性をより向上させる観点から、白金−アルケニルシロキサン錯体に、例えば、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3−ジアリル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3−ジビニル−1,3−ジメチル−1,3−ジフェニルジシロキサン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラフェニルジシロキサン若しくは1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサン等のアルケニルシロキサンまたはジメチルシロキサンオリゴマー等のオルガノシロキサンオリゴマーを添加することが好ましく、アルケニルシロキサンを添加することがより好ましい。
【0066】
組成物に占める(D)成分の割合は、得られる架橋物を十分に架橋させ、かつ着色等を生じさせない観点から、0.01〜500ppmが好ましく、0.01〜100ppmがより好ましく、0.01〜50ppmがさらに好ましい。
【0067】
組成物は、上記(A)〜(D)成分以外にも、例えば、エチニルヘキサノール、2−メチル−3−ブチン−2−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール若しくは2−フェニル−3−ブチン−2−オール等のアルキンアルコール、3−メチル−3−ペンテン−1−イン若しくは3,5−ジメチル−3−ヘキセン−1−イン等のエンイン化合物、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラヘキセニルシクロテトラシロキサンまたはベンゾトリアゾールのような反応抑制剤を含有しても構わない。組成物に占める反応抑制剤の割合は、1〜5,000ppmが好ましい。反応抑制剤の割合を適宜調整することにより、得られる架橋物の貯蔵弾性率を調整することもできる。
【0068】
本発明のシンチレータパネルは、シンチレータ層を区画する隔壁を有することが好ましい。
【0069】
また本発明の放射線検出器は、本発明のシンチレータパネルを具備することを特徴とする。
【0070】
さらに本発明の放射線検出器の製造方法は、本発明のシンチレータパネルと、該シンチレータパネルの区画されたシンチレータ層に対向するフォトダイオードを有する、フォトダイオード基板と、を具備する、放射線検出器の製造方法であって、(A)上記シンチレータ層と上記フォトダイオードとの位置合わせ工程、および、(B)上記シンチレータパネルと上記フォトダイオード基板との貼り合せ工程、を備えることを特徴とする。
【0071】
本発明のシンチレータパネルが隔壁を有する場合、シンチレータ層が隔壁によって区画されたセル内に充填されていることになるので、シンチレータパネルのセルの大きさおよびピッチと、シンチレータパネルに対向するフォトダイオード基板に配列されたフォトダイオードの大きさおよびピッチとを一致させることにより、蛍光体によって光が散乱されても、その散乱光が隣のセルに到達するのを防ぐことができる。これによって光散乱による画像のボケが低減でき、高精度の撮影が可能になる。
【0072】
隔壁は、耐久性および耐熱性の観点から、ガラスを主成分とする材料により構成されることが好ましく、アルカリ金属酸化物を2〜20質量%含有する低融点ガラスを主成分とする材料により構成されていることがより好ましい。アルカリ金属酸化物を2〜20質量%含有する低融点ガラスを主成分とする材料は、適切な屈折率と軟化温度とを有し、細幅の隔壁を大面積に高精度に形成するのに適している。ここで低融点ガラスとは、軟化温度が700℃以下のガラスをいう。また、低融点ガラスを主成分とするとは、隔壁を構成する材料の50〜100質量%が低融点ガラス粉末であることをいう。
【0073】
低融点ガラスの軟化温度は、示差熱分析装置(例えば、差動型示差熱天秤TG8120;株式会社リガク製)を用いて、サンプルを測定して得られるDTA曲線から、吸熱ピークにおける吸熱終了温度を接線法により外挿して算出することができる。より具体的には、アルミナ粉末を標準試料として、示差熱分析装置を室温から20℃/分で昇温して、測定サンプルとなる低融点ガラス粉末を測定し、DTA曲線を得る。得られたDTA曲線より、吸熱ピークにおける吸熱終了温度を接線法により外挿して求めた軟化点Tsを、低融点ガラスの軟化温度とすることができる。
【0074】
アルカリ金属酸化物を2〜20質量%含有する低融点ガラスを主成分とする材料により構成されている隔壁は、例えば、
(1)基板上に、アルカリ金属酸化物を2〜20質量%含有する低融点ガラス粉末と感光性有機成分とを含有する感光性ペーストを塗布し、感光性ペースト塗布膜を形成する塗布工程、
(2)得られた感光性ペースト塗布膜を所定の開口部を有するフォトマスクを介して露光する露光工程、
(3)露光後の感光性ペースト塗布膜の現像液に可溶な部分を溶解除去する現像工程、(4)現像後の感光性ペースト塗布膜パターンを高温に加熱して有機成分を除去すると共に低融点ガラスを軟化および焼結させ、隔壁を形成する焼成工程、
を備える製造方法により製造することができる。
【0075】
焼成工程における焼成温度は、500〜700℃が好ましく、500〜650℃がより好ましい。の温度で焼成することにより、有機成分が分解留去されると共に、低融点ガラス粉末が軟化および焼結されて、低融点ガラスを含む隔壁が形成される。有機成分を完全に除去するために、焼成温度が500℃以上であることで、有機成分の分解留去並びに低融点ガラスの軟化および焼結を十分なものとすることができる。一方で、焼成温度が700℃を超えると、ガラス基板を用いた場合の基板の変形が大きくなる場合がある。
【0076】
基板および隔壁の表面に、反射率80%以上の反射層が形成されていることが好ましい。反射層を形成することで、蛍光体の発光光をフォトダイオード基板のフォトダイオードに効率的に導くことができ、輝度を向上することができる。隔壁の表面に反射率80%以上の反射層が形成されている場合には、蛍光体の発光光が隣のセルに到達する、いわゆるクロストークを抑制することができる。反射層の反射率は85%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。ここで反射率とは、波長550nmの光についての反射率をいう。
【0077】
基板等に形成された反射層の反射率は、分光測色計のSCIモードで測定することができる。
【0078】
反射層の表面に、さらに低屈折率層が形成されていることが好ましい。低屈折率層を形成することで、シンチレータ層と低屈折率層との界面で全反射を生じさせることができる。すなわち、光ファイバーと同様の原理により、蛍光体の発光光をフォトダイオード基板のフォトダイオードにより効率的に導くことができ、輝度を向上することができる。隔壁表面の反射層の表面に、さらに低屈折率層が形成されている場合には、蛍光体の発光光が隣のセルに到達する、いわゆるクロストークを抑制することができる。
【0079】
低屈折率層の屈折率は1.5以下であることが好ましく、1.45以下であることがより好ましい。
【0080】
低屈折率層の屈折率は、屈折率測定装置を用いて測定することができる。より具体的には、25℃における、低屈折率層の表面に対して垂直方向に照射した633nm(He−Neレーザー使用)の光の屈折率(TE)を、低屈折率層の屈折率とすることができる。
【0081】
低屈折率層は、低屈折率かつ緻密な低屈折率層を形成する観点から、シリカ、水ガラス、シリコーン樹脂、フッ化マグネシウムおよびフッ素系樹脂からなる群から選ばれる化合物を含有することが好ましい。
【実施例】
【0082】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0083】
(金属化合物粒子)
金属化合物粒子としては、以下のものを用いた。
酸化ケイ素−酸化チタン複合粒子“オプトレイク(登録商標)TR−527”(触媒化成工業(株)製;平均粒子径15nm、屈折率2.50、酸化チタン粒子20質量%)
酸化スズ粒子“SN1”(平均粒子径19nm、屈折率2.38)
酸化アルミニウム粒子“SA1”(平均粒子径34nm、屈折率1.76)
酸化セリウム粒子“CS1”(平均粒子径34nm、屈折率2.20)
酸化ジルコニウム“ZS1”(平均粒子径15nm、屈折率2.40、酸化ジルコニウム粒子20質量%、PGMEA80質量%)
酸化マグネシウム粒子“MS1”(平均粒子径44nm、屈折率1.76)
酸化亜鉛粒子“AS1”(平均粒子径94nm、屈折率1.95)
酸化ニオブ粒子“NS1”(平均粒子径15nm、屈折率2.30、酸化ニオブ粒子20質量%、PGMEA80質量%)
酸化チタン粒子“TS1”(平均粒子径30nm、屈折率2.50、酸化チタン粒子20質量%、PGMEA80質量%)
酸化チタン粒子“TS2”(平均粒子径50nm、屈折率2.50、酸化チタン粒子20質量%、PGMEA80質量%)
酸化チタン粒子“TS3”(平均粒子径70nm、屈折率2.50、酸化チタン粒子20質量%、PGMEA80質量%)
(金属化合物粒子のグラフト化)
金属化合物粒子は、以下のようにグラフト化した。まず、72.8gのアルコキシシラン化合物(メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシランおよび/またはジメチルジメトキシシランの混合物)、38.8g(固形分)の金属化合物粒子および126.9gのPGMEAを、反応容器に入れて撹拌し、21.9gの水および0.36gのリン酸を反応温度が40℃を超えないように滴下した。滴下終了後、反応容器に蒸留装置を取り付け、得られた溶液をバス温105℃で2.5時間加熱撹拌して、加水分解により生成したメタノールを留去しつつ反応させた。その後、さらにバス温115℃で2時間加熱撹拌してから室温まで冷却し、ポリシロキサンでグラフト化されている金属化合物粒子を得た。
【0084】
(シンチレータ層用ペーストの調製)
シンチレータ層用ペーストの原料および作製方法の例は、以下のとおりである。
蛍光体 : GOS:Tb((株)日亜化学社製;メジアン径(D
50)10μm、屈折率2.2)
バインダー樹脂1 : “OE6630(A液、B液)”(東レ・ダウコーニング社製;
A液/B液の体積比率=1/4)
バインダー樹脂2 : エチルセルロース(ハーキュレス社製)
0.3gのグラフト化されている金属化合物粒子(固形分)またはグラフト化されていない金属化合物粒子、9.7gの蛍光体および20gのPGMEA、さらに必要に応じて、0.3gのバインダー樹脂1またはバインダー樹脂2を混合し、遊星式撹拌脱泡装置(マゼルスターKK−400;クラボウ製)を用いて1000rpmで20分間撹拌脱泡して、シンチレータ層用ペーストを得た。
【0085】
(実施例1)
“オプトレイク(登録商標)TR−527”を、表1記載の比率のアルコキシシラン化合物でグラフト化し、それを用いてシンチレータ層用ペースト1を得た(バインダー樹脂は添加しなかった)。このシンチレータ層用ペースト1を、基板である高反射ポリエチレンテレフタレートフィルム(E6SQ;東レ(株)製;厚さ250μm、反射率96%)上に、塗布膜の厚さが400μmになるようにバーコーターで塗布し、100℃で30分乾燥および硬化させて、シンチレータパネルを作製した。
【0086】
作製したシンチレータパネルを、FPD(PaxScan2520(Varian社製))にセットして、放射線検出器を作製した。管電圧80kVpの放射線を、シンチレータパネルの基板側から照射して、シンチレータパネルの輝度をFPDで検出した。金属化合物による蛍光体の被覆率は74%であった。シンチレータ層の空隙率は30%であった。
【0087】
(比較例1)
9.7gの蛍光体、0.3gのバインダー樹脂2および20gのテルピネオールを混合し、遊星式撹拌脱泡装置(マゼルスターKK−400;クラボウ製)を用いて1000rpmで20分間撹拌脱泡して、金属化合物粒子を含有しないシンチレータ層用ペースト21を得た。このシンチレータ層用ペースト21を、基板である高反射ポリエチレンテレフタレートフィルム(E6SQ;東レ(株)製;厚さ250μm、反射率96%)上に、塗布膜の厚さが400μmになるようにバーコーターで塗布し、100℃で30分乾燥および硬化させて、シンチレータパネルを作製した。
【0088】
作製したシンチレータパネルを、FPD(PaxScan2520)にセットして、放射線検出器を作製した。管電圧80kVpの放射線を、シンチレータパネルの基板側から照射して、シンチレータパネルの輝度をFPDで検出した。シンチレータ層が金属化合物を含有しないため、金属化合物による蛍光体の被覆率は0%であった。シンチレータ層の空隙率は30%であった。実施例1をはじめとする輝度の評価は、この比較例1の輝度を100として相対評価をした。実施例1についての相対評価の結果を、表1に示す。
【0089】
(実施例2〜5)
金属化合物粒子を、表1記載のものに変更した以外は、実施例1と同様にシンチレータパネルを作製し、評価をした。結果を表1に示す。
【0090】
実施例1〜5と比較例1との対比から、シンチレータ層がグラフト化されている金属化合物粒子を含有することによって、シンチレータパネルの輝度が向上することは明らかである。
【0091】
【表1】
【0092】
(実施例6〜8)
金属化合物粒子を、表2記載のものに変更した以外は、実施例1と同様にシンチレータパネルを作製し、評価をした。結果を表2に示す。
【0093】
実施例6〜8と比較例1との対比から、シンチレータ層がグラフト化されている金属化合物粒子を含有することによって、シンチレータパネルの輝度が向上することは明らかである。
【0094】
【表2】
【0095】
(実施例9および10)
金属化合物粒子を、表3記載のものに変更した以外は、実施例1と同様にシンチレータパネルを作製し、評価をした。結果を表3に示す。
【0096】
実施例9および10と比較例1との対比から、シンチレータ層がグラフト化されている金属化合物粒子を含有することによって、シンチレータパネルの輝度が向上することは明らかである。
【0097】
【表3】
【0098】
(実施例11〜15)
バインダー樹脂2をバインダー樹脂1に変更した以外は、実施例1と同様にシンチレータパネルを作製し、評価をした。結果を表4に示す。
【0099】
実施例11〜15と比較例1との対比から、シンチレータ層がグラフト化されている金属化合物粒子を含有することによって、シンチレータパネルの輝度が向上することは明らかである。
【0100】
【表4】
【0101】
(実施例16〜20)
シンチレータ層用ペーストの調製比率を変更した以外は、実施例11と同様にシンチレータパネルを作製し、評価をした。結果を表5に示す。
【0102】
実施例16〜20と比較例1との対比から、シンチレータ層がグラフト化されている金属化合物粒子を含有することによって、シンチレータパネルの輝度が向上することは明らかである。
【0103】
【表5】
【0104】
(隔壁用ペーストの調製)
原料は以下のとおりである。
感光性モノマーM−1 : トリメチロールプロパントリアクリレート
感光性モノマーM−2 : テトラプロピレングリコールジメタクリレート
感光性ポリマー : メタクリル酸/メタクリル酸メチル/スチレン=40/40/30の質量比からなる共重合体のカルボキシル基に対して0.4当量のグリシジルメタクリレートを付加反応させたもの(重量平均分子量43000、酸価100)
光重合開始剤 : 2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1(IC369;BASF社製)
重合禁止剤 : 1,6−ヘキサンジオール−ビス[(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート])
紫外線吸収剤溶液 : スダンIV(東京応化工業株式会社製)のγ−ブチロラクトン0.3質量%溶液
熱重合開始剤 : 1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)
バインダーポリマー : エチルセルロース(ハーキュレス社製)
粘度調整剤 : フローノンEC121(共栄社化学社製)
溶媒 : γ−ブチロラクトン
シリカ分散体 : IPA−ST−UP(固形分15.6質量%、イソプロピルアルコール溶媒)
低融点ガラス粉末A:
SiO
2 27質量%、B
2O
3 31質量%、ZnO 6質量%、Li
2O 7質量%、MgO 2質量%、CaO 2質量%、BaO 2質量%、Al
2O
3 23質量%、屈折率(ng)1.56、軟化温度588℃、熱膨張係数68×10
−7、平均粒子径2.3μm
高融点ガラス粉末A:
SiO
2 30質量%、B
2O
3 31質量%、ZnO 6質量%、MgO 2質量%、CaO 2質量%、BaO 2質量%、Al
2O
3 27質量%、屈折率(ng)1.55、軟化温度790℃、熱膨張係数32×10
−7、平均粒子径2.3μm
4質量部の感光性モノマーM−1、6質量部の感光性モノマーM−2、24質量部の感光性ポリマー、6質量部の光重合開始剤、0.2質量部の重合禁止剤および12.8質量部の紫外線吸収剤溶液を、38質量部の溶媒に、温度80℃で加熱溶解した。得られた溶液を冷却した後、9質量部の粘度調整剤を添加して、有機溶液1を得た。有機溶液1の塗布膜の屈折率(ng)は、1.555であった。
【0105】
60質量部の有機溶液1に、30質量部の低融点ガラス粉末Aをおよび10質量部の高融点ガラス粉末Aを添加したて、3本ローラー混練機にて混練し、隔壁用ペーストを得た。
【0106】
(反射層用コーティング剤の作製)
20質量部のチタニア粒子“CR−EL”(石原産業株式会社製;平均粒子径0.25μm)を、80質量部のテルピネオールに混合し、遊星式撹拌脱泡装置を用いて1000rpmで20分間撹拌脱泡して、反射層用コーティング剤Aを得た。
【0107】
また、40質量部のチタニア粒子“CR−EL”を、3質量部のエチルセルロース、6質量部のテトラプロピレングリコールジメタクリレート、1質量部の熱重合開始剤および50質量部のテルピネオールに混合し、同様の方法で反射層用コーティング剤Bを得た。
【0108】
(実施例21)
500mm×500mmのガラス基板(OA−10;日本電気硝子社製;熱膨張係数38×10
−7、厚さ0.7mm)に、隔壁用ペーストを、乾燥後の厚さが500μmになるように、ダイコーターで塗布し、乾燥して、隔壁用ペースト塗布膜を形成した。次に、所望の隔壁パターンに対応する開口部を形成したフォトマスク(縦横ともピッチ127μm、線幅20μmの格子状開口部を有するクロムマスク)を介して、隔壁用ペースト塗布膜を超高圧水銀灯(600mJ/cm
2)で露光した。露光後の隔壁用ペースト塗布膜を、0.5質量%のエタノールアミン水溶液中で現像し、未露光部分を除去して、格子状のパターンを形成した。さらに585℃で15分間、空気中でパターンを焼成し、隔壁ピッチ127μm、隔壁頂部幅25μm、隔壁底部幅50μm、隔壁高さ340μmで、480mm×480mmの大きさの格子状隔壁を有する部材を得た。
【0109】
その後、実施例1のシンチレータ層用ペーストを、隔壁によって区画された空間すなわちセル内に充填し、シンチレータパネルを作製した。作製したシンチレータパネルを、FPD(PaxScan2520;Varian社製)にセットして放射線検出器を作製した。管電圧80kVpの放射線を、シンチレータパネルの基板側から照射して、シンチレータパネルの輝度をFPDで検出した。また、MTFを測定した。金属化合物による蛍光体の被覆率は74%であった。
【0110】
(比較例2)
実施例1のシンチレータ層用ペーストを、比較例1のシンチレータ層用ペーストに変更した以外は、実施例21と同様に作製したシンチレータパネルを、FPD(PaxScan2520)にセットして放射線検出器を作製した。管電圧80kVpの放射線を、シンチレータパネルの基板側から照射して、シンチレータパネルの輝度をFPDで検出した。また、MTFを測定した。金属化合物による蛍光体の被覆率は0%であった。
【0111】
実施例21〜26における輝度とMTFの評価は、この比較例2の輝度とMTFを100として相対評価をした。実施例21についての相対評価の結果を、表6に示す。
【0112】
(実施例22)
隔壁および基板の表面に、バーコーターを用いて反射層用コーティング剤Aを塗布して、厚さが10μmの反射層(反射率89%)を形成したこと以外は、実施例21と同様にシンチレータパネルを作製し、評価をした。金属化合物による蛍光体の被覆率は74%であった。結果を表6に示す。反射層を形成することにより、輝度およびMTFが向上することは明らかである。
【0113】
(実施例23)
反射層の表面に、バーコーターを用いて水ガラス(38質量%のケイ酸ナトリウム溶液;和光純薬工業株式会社製;屈折率1.46)を塗布して、厚さが3μmの低屈折率層(屈折率1.46)を形成したこと以外は、実施例22と同様にシンチレータパネルを作製し、評価をした。金属化合物による蛍光体の被覆率は74%であった。結果を表6に示す。低屈折率を形成することにより、輝度およびMTFがさらに向上することは明らかである。
【0114】
(実施例24)
隔壁および基板の表面に、バーコーターを用いて反射層用コーティング剤Bを塗布して、厚さが10μmの反射層(反射率90%)を形成したこと以外は、実施例21と同様にシンチレータパネルを作製し、評価をした。金属化合物による蛍光体の被覆率は74%であった。結果を表6に示す。反射層を形成することにより、輝度およびMTFが向上することは明らかである。
【0115】
(実施例25)
反射層の表面に、バーコーターを用いてナノシリカ分散ペースト(10質量%のIPA−ST−UP、2質量%のOE6630、0.1質量%のリン酸、0.9質量%の超純水および87質量%のPGMEAの混合物)を塗布して、厚さが2μmの低屈折率層(屈折率1.38)を形成したこと以外は、実施例24と同様にシンチレータパネルを作製し、評価をした。金属化合物による蛍光体の被覆率は74%であった。結果を表6に示す。低屈折率を形成することにより、輝度およびMTFがさらに向上することは明らかである。
【0116】
(実施例26)
実施例1と同様の比率でグラフト化されている金属化合物粒子(固形分)を0.3g、タリウムをドープしたヨウ化セシウム(CsI:Tl;メジアン径(D
50)20μm、屈折率1.8)を9.7gおよびPGMEAを20.0g混合したシンチレータ層用蛍光体ペースト22を用いた以外は、実施例25と同様にシンチレータパネルを作製し、評価をした。金属化合物による蛍光体の被覆率は55%であった。結果を表6に示す。輝度およびMTFが向上することは明らかである。
【0117】
【表6】