(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記すくい面のすくい角が正角側の傾きから負角側の傾きに変わる変化点は、前記主切刃の長手方向において前記鈍角コーナ部寄りに位置する請求項4に記載の切削インサート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明を適用した実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴部分をわかりやすくするために、特徴とならない部分を便宜上省略して図示している場合がある。
【0016】
図1は、切削インサート(以下、単にインサート)1についてその一実施形態を示す斜視図、
図2は
図1に示すインサート1の上面側に位置する主面2の構成を示す平面図、
図3はインサート1の第1の辺稜部6aに隣接する第1の側面部4aの構成を示す側面図、
図4はインサート1の第2の辺稜部6bに隣接する第2の側面部4bの構成を示す正面図である。
【0017】
本実施形態のインサート1は、例えば、主として炭化タングステンとコバルトからなる超硬合金等の硬質材料から構成されている。インサート1は、平面視略平行四辺形状の平板状をなしている。インサート1は、主面2と、主面2と反対側を向く着座面3と、主面2と着座面3とを繋ぐ側面4と、を備える。側面4は、一対の第1の側面部4aおよび一対の第2の側面部4bを有する。
【0018】
後段に説明する
図11に示すように、インサート1は、工具本体31の先端部にクランプネジ(固定部材)38により着脱可能に取り付けられる。主面2及び着座面3には、クランプネジ38が挿通される取付孔5が貫通する。取付孔5は、中心軸COに沿って延びる。以下の説明において、中心軸COに沿う方向のことを単に取付孔5の軸方向と呼び、中心軸COに直交する方向を単に取付孔5の径方向と呼ぶ場合がある。
【0019】
図2に示すように、主面2は、略平行四辺形に形成されている。主面2は、側面4との境界に位置する4つの辺稜部(一対の第1の辺稜部6aおよび一対の第2の辺稜部6b)を有する。第1の辺稜部6aは、長辺側に位置し、主面2と第1の側面部4aとの境界を構成する。第2の辺稜部6bは、短辺側に位置し、主面2と第2の側面部4bとの境界を構成する。
【0020】
第1の辺稜部6aと第2の辺稜部6bが交差する4つの角部は、取付孔5を介して対称となる位置に、円弧形状をなすコーナ部が形成されている。主面2は、平面視略平行四辺形である。4つのコーナ部は、一対の鋭角コーナ部21と、一対の鈍角コーナ部22と、に分類される。すなわち、主面2は、一対の鋭角コーナ部21および一対の鈍角コーナ部22を有する。また、鋭角コーナ部21を挟んで配置された第1の辺稜部6aと第2の辺稜部6bは鋭角で交差し、鈍角コーナ部22を挟んで配置された第1の辺稜部6aと第2の辺稜部6bは、鈍角で交差する。
【0021】
鋭角コーナ部21には、コーナ刃8が設けられている。また、鋭角コーナ部21を挟んで配置された第1の辺稜部6aおよび第2の辺稜部6bのうち、第1の辺稜部6aには主切刃9が設けられ、第2の辺稜部6bには副切刃15が設けられている。
【0022】
図2に示すように、コーナ刃8は、円弧形状を有する。コーナ刃8の一方の端部Pには主切刃9が連なり、他方の端部Rには副切刃15が連なる。主切刃9は、鋭角コーナ部21においてコーナ刃8と連なる端部Pから鈍角コーナ部22側に位置する端部Qまで第1の辺稜部6aに沿って延びる。副切刃15は、鋭角コーナ部21においてコーナ刃8と連なる端部Rから鈍角コーナ部22側に位置する端部Sまで第2の辺稜部6bに沿って延びる。
【0023】
また、主面2には、主切刃9、副切刃15およびコーナ刃8に対応するすくい面9a、15a、8aが設けられている。また、側面4には、主切刃9、副切刃15およびコーナ刃8に対応する逃げ面9b、15b、8bが設けられている。
【0024】
着座面3は、インサート1の底面部であって平面状をなしている。着座面3は、中心軸COに直交する。
図11に示すように、インサート取付座33にインサート1を装着して、クランプネジ38の締め付けによりインサート1を固定したときには、インサート1の着座面3はインサート取付座33の取付面34(
図11参照)に密着する。
図2に示すように、着座面3は、略平行四辺形に形成され、主面2の軸方向への投影領域の内側に含まれる。
【0025】
本実施形態のインサート1は、2コーナ型の形状をなすインサートである。したがって、インサート1をインサート取付座33に装着して固定した刃先交換式回転切削工具により被削材の切削加工を行ったときに、この切削加工に使用したインサート1の一方のコーナ刃8を挟んで形成されている主切刃9、副切刃15、及びこのコーナ刃8のいずれか一つが所定の摩耗量に達すると、このインサート1のインサート取付座への固定を解除して180°回転させて、未使用のコーナ刃8と、このコーナ刃8を挟んで形成されている主切刃9と副切刃15が次ぎの切削加工に使用されるように、インサート1の再装着を行う。これにより、一つのインサート1の寿命を長くすることができる。
【0026】
(主切刃)
主切刃9は、インサート1を刃先交換式回転切削工具30のインサート取付座33に装着して被削材を切削加工するときに、主として、合金鋼材の立ち壁面、特に垂直な壁面の彫り込み加工を実施するときに主切刃として用いられる。
【0027】
主切刃9は、
図2に示すように、コーナ刃8の一方の端部Pから鈍角コーナ部22の一方の端部Q間の第1の辺稜部6aの全長にわたって形成されている。主切刃9は、端部Pから端部Qに向かってインサート1の外側方向(取付孔5に対し径方向外側)に凸形状となる円弧形状に形成されている。
【0028】
主切刃9は、
図3に示すように、鋭角コーナ部21側に位置する端部Pから鈍角コーナ部22側に位置する端部Qに向かうに従って、着座面3側に近づくように傾斜角αで傾斜する。傾斜角αは、取付孔5の軸方向と直交する面(本実施形態において着座面3)を基準とする主切刃9の角度である。傾斜角αは、8°以上とすることが好ましい。傾斜角αを8°以上とすることによって、切削加工時に主切刃9に加わる切削抵抗を低減することができ、主切刃9の欠損を抑制できる。また、同様の理由により、傾斜角αは、10°以上とすることがより好ましい。傾斜角αは、11.5°以下であることが好ましく、15°以下であることがより好ましいが、これに限定されることはない。
【0029】
主切刃9の鋭角コーナ部21側の端部Pにおける取付孔5の軸方向に沿う着座面3との距離をL1とする。同様に、主切刃9の鈍角コーナ部22側の端部Qにおける取付孔5の軸方向に沿う着座面3との距離をL2とする。このとき、本実施形態のインサート1は、以下の(式1)、(式2)の関係を満たす。
0.4≦L2/L1≦0.7 (式1)
2.0mm≦L2≦3.9mm (式2)
【0030】
主切刃9は、(式1)の関係を満たすことにより、十分な(8°以上の)傾斜角αを確保できるため好ましい。これにより、切削加工時に主切刃9に加わる切削抵抗を低減することができ、主切刃9の欠損を抑制できる。一方、L2/L1<0.4、の場合は、L1値に対してL2値が小さくなる傾向となるため、インサートの十分な強度が得られない。したがって、主切刃9が耐欠損性に劣るといった不都合を生じる。L2/L1>0.7、の場合は、切削抵抗の増大を招くとともに、適正な傾斜角α値の設定が困難となる。また、主切刃9は、(式2)の関係を満たすことにより、厚さ方向の剛性を確保し、主切刃9を用いた切削を行う際のインサート1の損傷を抑制できるため好ましい。一方、L2<2.0mmの場合は、インサート厚さ方向での十分な剛性の確保が困難となる。L2>3.9mmの場合は、切削抵抗の増大を招くとともに、適正な傾斜角α値の設定が困難となる。(式1)は、0.50≦L2/L1≦0.55であることがより好ましく、(式2)は、2.5mm≦L2≦3.0mmであることがより好ましいが、これに限定されることはない。
【0031】
図5、
図6、
図7、
図8、
図9は、それぞれ
図2のV線、VI線、VII線、VIII線、IX線に沿う断面図である。なお、V線は、主切刃9の鋭角コーナ部21側の端部Pを通過し、IX線は、主切刃9の鈍角コーナ部22側の端部Qを通過する。VII線は、主切刃9の長さ方向の中央に位置する中心点Cを通過する。VI線は、V線とVII線との間に位置し、VIII線は、VII線とIX線との間に位置する。また、V線、VI線、VII線、VIII線、IX線は、それぞれの位置における主切刃9に直交する直線である。
【0032】
図5〜
図9に示すように、主切刃9を挟んで主面2側には主切刃9のすくい面9aが設けられ、側面4側には主切刃9の逃げ面9bが設けられている。ここで、取付孔5の中心軸COに垂直であり主切刃9を通過する平面を第1面HPとし、第1面HPと主切れ刃稜線上で垂直に交差する仮想面を第2面VPとする。このとき、すくい面9aは、第1面HPに対してすくい角βで傾斜する。また、逃げ面9bは、第2面VPに対して逃げ角γで傾斜する。
【0033】
一般的にすくい角βは、第1面HPに対して主切刃9から内側に向かうに従って下る方向に傾斜する場合に正角とされ、上る方向に傾斜する場合に負角とされる。より厳密には、すくい角βは、すくい面9aが内側に向かうに従い着座面3側に近接するように傾斜する場合を正角とされ、逆に着座面3に対して隆起する側に突出する場合を負角とされる。
【0034】
図5に示すように、すくい面9aのすくい角βは、主切刃9の鋭角コーナ部21側の端部Pにおいて正角側に傾いている。また、
図5〜
図9に示すように、すくい角βは、主切刃9の鋭角コーナ部21側の端部Pから鈍角コーナ部22側の端部Rに向かうに従って、負角側に漸次大きくなる。
図5〜
図9に示すように、主切刃9の端部Pから端部Qに向かうに従って、すくい角βの絶対値が小さくなり、VIII線とIX線の間ですくい面9aが第1面HPより上側となる。したがって、
図9に示すように、主切刃9の鋭角コーナ部21側の端部Qにおいてすくい面9aのすくい角βは、負角側に傾いている。
【0035】
本実施形態において、主切刃9は、鋭角コーナ部21において、刃先交換式回転切削工具(以下、単に工具)30(
図11参照)の軸方向の最も先端側に位置する。したがって、鋭角コーナ部21の近傍で主切刃9には、ビビリが生じやすい。一般的に、すくい角βは、正角側に傾く場合に主切刃9の切れ味を高めることとなり、負角側に傾く場合に、主切刃9の切刃強度を高めることとなる。
本実施形態によれば、主切刃9の鋭角コーナ部21の近傍の端部Pにおいて、すくい角βを最も正角側に傾けることで、工具30の先端側での切れ味を確保して、切り込み時のビビリの発生を抑制し、主切刃9の欠けや欠損を抑制できる。
加えて、主切刃9の鈍角コーナ部22の近傍の端部Qにおいて、すくい角βを最も負角側に傾けることで、工具30の基端側で剛性を高めてビビリの発生を抑制するとともに、ビビリが生じた場合であっても主切刃9の欠損を抑制できる。
【0036】
本実施形態のインサート1は、コーナ角が略90°であるために、主切刃9の作用する範囲は、その加工条件に依存する。加工能率向上には、切り込み量を大きく設定することで可能となる。このときに切削に作用する主切刃9の範囲は、コーナ刃8から工具30の軸方向の基端側に向かい、鈍角コーナ部22までとなる。主切刃9は、鋭角コーナ部21側から鈍角コーナ部22側に近づくに従い着座面3近づくため、インサート1は鈍角コーナ部22の近傍で薄肉となる。これにより、インサート1は、鈍角コーナ部22の近傍でクラックが生じやすくなる。本実施形態によれば、主切刃9を負角側に傾けることで、鈍角コーナ部22におけるインサート1の肉厚を確保して、インサート1の強度を高めることができる。
【0037】
本実施形態によれば、主切刃9は、鋭角コーナ部21側から鈍角コーナ部22側に向かってすくい角βが、負角側に暫時大きくなる。これにより、鋭角コーナ部21側で主切刃9に鋭い切れ味を与えつつ、鈍角コーナ部22側で主切刃9の刃先強度を確保して欠損を防ぐことができる。
【0038】
図2に示すように、主切刃9のすくい角が正角側の傾きから負角側の傾きに変わる点を変化点Uとする。変化点Uは、VIII線とIX線との間に位置する。変化点Uにおける主切刃9のすくい角βは、0°となる。本実施形態において変化点Uは、主切刃9の長手方向において鈍角コーナ部22寄りに位置する。変化点Uを上述のように配置することで、主切刃9の切れ味と刃先強度のバランスを適切な関係に保つことができる。
【0039】
図2に示すように、主切刃9に直交するとともに主面2における取付孔5の縁部5aの接線を含む一対の面W1、W2のうち、主切刃9の長手方向において鈍角コーナ部22側に位置する一方の面を基準面W2とする。変化点Uは、基準面W2より鈍角コーナ部22側に位置することが好ましい。取付孔5の軸方向に沿うインサート1の肉厚は、主切刃9の長手方向に沿って鈍角コーナ部22に向かうに従い薄くなる。一方で、取付孔5の径方向に沿う肉厚は、主切刃9の長さ方向の中心点Cを中心として一対の面W1、W2の間に最も薄くなる。変化点Uを基準面W2より鈍角コーナ部22側に位置させることで、薄くなる部分をバランスよく配置して全体としてクラックが発生し難いインサート1を提供できる。
【0040】
図5〜
図9に示すように、逃げ角γは、主切刃9の鋭角コーナ部21側の端部Pから鈍角コーナ部22側の端部Qに向かうに従って大きくなる。第2の端部側において、主切刃9の逃げ角γを大きくすることによって、工具30の軸方向の最も基端側において逃げ面9bと被削材との接触をより確実に抑制する。
【0041】
主切刃9のすくい角β及び逃げ角γ、さらに、主切刃9のくさび角σについて、より好ましい具体例を以下に説明する。主切刃のくさび角σは、
図5〜
図9に示すように、くさび角σ=90°−(すくい角β+逃げ角γ)で表される。
【0042】
主切刃9のすくい角βは、鋭角コーナ部21側から鈍角コーナ部22側に向かって、負角側に暫時大きくなる。主切刃9の鋭角コーナ部21側の端部Pから鈍角コーナ部22側の端部Rに向かうすくい角βの変化量Fは、主切刃9の全長にわたって−1.30°/mm≦F≦−0.8°/mmであると好ましい。この場合、インサート1を工具30に装着した際に、すくい角の値を略一定にすることができ、刃先の強度を確保できる点で好ましい。ただし、本発明は、これに限定されることはない。
【0043】
主切刃9の逃げ角γは、鋭角コーナ部21側から鈍角コーナ部22側に向かうに従って大きくなる。主切刃9の鋭角コーナ部21側の端部Pから鈍角コーナ部22側の端部Rに向かう逃げ角γの変化量Gは、主切刃9の全長にわたって1.0°/mm≦F≦1.5°/mmであると好ましい。この場合、工具30の軸方向の最も基端側において逃げ面9bと被削材との接触をより確実に抑制する点で好ましい。ただし、本発明は、これに限定されることはない。
【0044】
主切刃9のくさび角σは、鋭角コーナ部21側から鈍角コーナ部22側に向かって略一定であることが好ましい。本実施形態のくさび角σは、主切刃9の全長にわたって72°±5°が好ましく、72°±4°がより好ましく、72°±3.5°がさらに好ましい。この場合、切削抵抗を低減しつつ、刃先強度を確保することができる。ただし、本発明は、これに限定されることはない。
【0045】
以下に、
図13〜
図15を参照して、本実施形態のすくい角β、逃げ角γ及びくさび角σの一例について、特許文献2に記載されるインサートのすくい角、逃げ角及びくさび角との比較とともに説明する。
図13〜
図15では、丸のプロットが本実施形態の一例を示し、三角のプロットが特許文献2のインサートを示す。
【0046】
図13は、インサート1の長辺方向に沿う鋭角コーナ部21側の先端からの距離とすくい角βとの関係の一例を示す。
図13より、特許文献2では、切刃のすくい角が一定の値となっている。そのため、インサートを工具に装着した際に、鈍角コーナ部側ですくい角が大きくなり、刃先強度が低下する。一方、本実施形態の一例を示した主切刃9のすくい角βは、インサート1の長辺方向に沿う鋭角コーナ部21側の先端から離れるに従って、負角側に漸次大きくなっている。そのため、インサート1を工具30に装着した際に、すくい角の値を略一定にすることができ、刃先の強度を確保することができる。
図13における本実施形態の一例の主切刃9のすくい角βの変化量Fは、約−1.24°/mmであった。
【0047】
図14は、インサート1の長辺方向に沿う鋭角コーナ部21側の先端からの距離と逃げ角γとの関係の一例を示す。特許文献2では、逃げ角がインサートの長辺方向に沿う鋭角コーナ部側の先端から離れるに従い大きくなるものの、先端から11mmほど離れると、逃げ角は一定の値を示す。特許文献2のインサートでは、先端から11mmほど離れた位置までは、上段逃げ面と下段逃げ面の2段の逃げ面を備えており、先端から11mmほど離れた位置において、上段逃げ面が存在しないように形成されている。上段逃げ面が存在しない位置においては、逃げ面(拘束面)と切刃稜線とが同一面上に形成され、逃げ角が一定となる。そのため、特許文献2では、逃げ角を大きくすることができず、被削材との接触を防ぐことが困難となる。
一方、本実施形態の一例の主切刃9の逃げ角γは、インサート1の長辺方向に沿う鋭角コーナ部21側の先端から離れるに従って大きくなっている。そのため、工具30の軸方向の最も基端側において逃げ面9bと被削材との接触をより確実に抑制することができる。なお、
図14における本実施形態の一例の主切刃9の逃げ角γの変化量Gは、約1.42°/mmであった。
【0048】
図15は、インサート1の長辺方向に沿う鋭角コーナ部21側の先端からの距離とくさび角σとの関係の一例を示す。
図15より、特許文献2では、くさび角がインサート1の長辺方向に沿う鋭角コーナ部21側の先端から離れるに従い減少している。そのため、特許文献2では、インサートの厚さが薄い鈍角コーナ部側でくさび角が小さくなり、刃先強度が不足する。一方、本実施形態の一例では、主切刃9のくさび角σが鋭角コーナ部21側から鈍角コーナ部22側に向かって略一定であることから、刃先強度を確保することができる。
【0049】
(副切刃)
副切刃15は、インサート1を工具30のインサート取付座33に装着して被削材を切削加工するときに(
図11参照)、被削材の底面部を切削加工する。副切刃15は、被削材の仕上げ加工用のさらい刃、又はランピング加工用のランピング刃として用いられる。
【0050】
副切刃15は、
図2に示すように、コーナ刃8の他方の端部Rから鈍角コーナ部22の他方の端部S間の第2の辺稜部6bの全長にわたって形成されている。副切刃15は、平面視(取付孔5の軸方向から見た状態)で、端部R側が外側に凸となるように湾曲して形成されている。また、副切刃15は、
図4に示すように、側面視(取付孔の軸方向に直交し副切刃15と正対する方向から見た状態)で、端部R側が上側に凸となるように湾曲して形成されている。
【0051】
(主面)
次いで、インサート1の主面2の構成についてより詳細に説明する。
図2に示すように、主面2には、主切刃9に隣接する部分に主切刃9のすくい面9aが設けられ、コーナ刃8に隣接する部分にコーナ刃8のすくい面8aが設けられ、副切刃15に隣接する部分に副切刃15のすくい面15aが設けられている。
【0052】
図10は、
図2のX−X線に沿う断面図である。X−X線は、主面2の一対の鈍角コーナ部22同士を繋ぐ直線である。
図10に示すように、主面2は、一対の鈍角コーナ部22同士を繋ぐ対角線(
図2のX−X線)に沿って鈍角コーナ部22から取付孔5の縁部5aに向かうに従って着座面3から離れる方向に傾斜する。すなわち、
図10に示す状態において、主面2は、対角線に沿って鈍角コーナ部22から縁部5aに向かって常に上っており、水平な箇所も降下する箇所もない。
【0053】
本実施形態によれば、インサート1にクラックが発生することを抑制できる。
インサート1は、インサート取付座33に装着して固定した工具30により被削材の切削加工を行ったときに、コーナ刃8において最も大きな切削力を受ける。このため、切削加工中のインサート1には、一対の鈍角コーナ部22同士を繋ぐ対角線(
図2のX−X線)に沿って曲げ応力が大きくなる。また、インサート1は、一対の鈍角コーナ部22の近傍において薄肉となっている。したがって、一般的な2コーナ型の切削インサートは、対角線沿いにクラックが生じやすい。
これに対し本実施形態のインサート1は、対角線に沿う方向において鈍角コーナ部22から取付孔5の縁部5aに向かって常に軸方向の厚み(軸方向の主面2と着座面3との距離)が増す構造となっている。これにより、一対の鈍角コーナ部22同士を繋ぐ対角線に沿ってインサート1の強度を高めることができ、対角線に沿うクラックが生じることを抑制できる。
なお、主面2は、対角線(X−X線)に沿って鈍角コーナ部22から取付孔5の縁部5aに向かうに従って着座面3から離れる方向に傾斜する領域を一部に有すれば、上述の効果を奏することができる。
【0054】
図10に示す断面において、主面2には、鈍角コーナ部22と取付孔5の縁部5aとを繋ぐ直線Bより上側に突出する凸部7が設けられている。凸部7の鈍角コーナ部22側の麓部7aおよび取付孔5側の麓部7bは、直線Bより下側(着座面3側)に位置している。凸部7が設けられていることにより、一対の鈍角コーナ部22同士を繋ぐ対角線に沿いのインサート1の強度をより一層高めることができる。
【0055】
図2および
図10に示すとおり、凸部7は、取付孔5の軸方向から見て、着座面3の辺稜部3aと重なる、又は辺稜部3aの内側に位置することが好ましい。インサート1は、切削加工時に被削材から切削力を受けると、着座面3において工具30の取付面34から反力を受ける。したがって、インサート1は、取付孔5の軸方向からみて、着座面3の辺稜部3aの内側においてより大きな応力が付与される。凸部7を取付孔5の軸方向からみて辺稜部3aの内側に配置することで、大きな応力が付与される領域を凸部7によって厚肉にすることができ、インサート1のクラック発生をより効果的に抑制できる。
【0056】
なお、
図2のX−X線は、以下の方法により描画された線である。すなわち、平面視において、中心軸COを中心とし一対の鈍角コーナ部22に接する仮想円を描き、仮想円と一対の鈍角コーナ部22との接点を繋いだ直線がX−X線である。本明細書において、主面2の一対の鈍角コーナ部22同士を繋ぐ対角線は、上述のX−X線と同様の方法で描画された線であるとする。
【0057】
(側面)
次いで、インサート1の側面4の構成についてより詳細に説明する。
側面4の第1の側面部4aは、第1の辺稜部6aに隣接する。
図3に示すように、第1の側面部4aには、拘束面部23と主切刃9の逃げ面9bとが設けられている。拘束面部23は、インサート1を工具30のインサート取付座33に装着して固定したときに、インサート取付座33に設けた長辺側拘束壁面36(
図11参照)と強固に密着させて、切削加工中においてインサート1の回動を防止する側面部であって、平面形状をなしている。
【0058】
側面4の第2の側面部は、第2の辺稜部6bに隣接する。
図4に示すように、第2の側面部4bは、副切刃15の逃げ面15bを有する。第2の側面部4bは、インサート1を工具30のインサート取付座33に装着して固定したときに、インサート取付座33に設けた短辺側拘束壁面37(
図11参照)と強固に密着させて切削加工中におけるインサート1の回動を防止するための側面(拘束面)部となる。
なお、
図3、
図4に示すように、側面4の第1の側面部4aと第2の側面部4bには、コーナ刃8の下方に逃げ面8bが設けられている。
【0059】
(刃先交換式回転切削工具の構成)
図11は、インサート1を装着した工具30の斜視図であり、
図12は、側面図である。
工具30は、工具本体31が回転軸Oを中心として回転方向Tに回転することで、フライス加工を行う。工具30は、工具本体31と、3つのインサート1と、を有する。工具本体31の先端部には、3つのインサート取付座33が設けられている。インサート取付座33は、取付面34と、取付面34に形成したネジ穴35と、長辺側拘束壁面36と、短辺側拘束壁面37を備えている。
【0060】
インサート取付座33に形成されている取付面34は、インサート1をインサート取付座33に装着してクランプネジ38の締め付けにより固定したときに、インサート1の着座面3と密着する平面状の面である。ネジ穴35は、インサート1をインサート取付座33に固定するときに、インサート1の取付孔5を挿通させたクランプネジ38のネジ部とネジ嵌合させるためのネジ穴である。
【0061】
長辺側拘束壁面36はインサート1をインサート取付座33に装着して固定したときに、インサート1の第1の辺稜部6aに隣接する第1の側面部4aに形成した拘束面部23と密着させるための壁面である。短辺側拘束壁面37は、同じく、インサート1をインサート取付座33に装着して固定したときに、インサート1の第2の辺稜部6bに隣接する第2の側面部4bと密着させるための壁面である。
【0062】
本実施形態の工具30においては、インサート1をインサート取付座33に装着して固定したときには、インサート1の主切刃9が工具本体31の外周側に、副切刃15が工具本体31の先端部の先端面側に配置される。
【0063】
図12に示すように、インサート1の主切刃9の軸方向すくい角θは、15°以上である。主切刃9の軸方向すくい角θは、回転軸Oの全体および主切刃9の一部が通過する面と主切刃9の角度である。軸方向すくい角θは、回転軸Oに対する取付面34の角度と、着座面3を基準とする主切刃9の傾斜角αとの和で表される角度である。工具30において、主切刃9の軸方向すくい角θを15°以上とすることによって、切削加工時に主切刃9に加わる切削抵抗を低減することができ、主切刃9の欠損を抑制できる。
【0064】
以上に、本発明の実施形態を説明したが、実施形態における各構成およびそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換およびその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはない。
【0065】
例えば、上述の実施形態において、工具30には、回転軸Oを中心として等角度で3つのインサート1を取り付けた場合を例示したが、インサート1の数は3つに限定されない。