(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る積層体の製造方法は、第1シートと、繊維の原料となる原料樹脂および原料樹脂を溶解させる溶媒を含む原料液と、を準備する準備工程と、第1シートを搬送ラインの上流に供給し、下流に向けて搬送する搬送工程と、電界紡糸法により、原料液から原料樹脂を含む繊維を生成させ、繊維を、第1シートの一方の主面に堆積させる電界紡糸工程と、電界紡糸工程の後に、第1シート側に配置された除電装置により、搬送中の第1シートを除電する除電工程と、を備える。これにより、第1シートの帯電性が低下して、製造工程中に第1シートに保持されるダストの量が低減する。よって、積層体が使用される環境の汚染が防止されて、積層体の所望の性能を発揮することができる。
【0010】
上記製造方法は、さらに、繊維を堆積させた第1シートの主面に、接着剤を付与する接着剤付与工程と、主面に付与された接着剤を溶融させる加熱工程と、第1シートに、溶融した接着剤と繊維とを介して第2シートを積層させて、積層体を得る積層工程と、を具備していても良い。
【0011】
上記の場合、除電工程は、電界紡糸工程と接着剤付与工程との間で行われることが好ましい。第1シートによるダストの吸着を抑制することができるためである。
【0012】
また、上記製造方法が、さらに、積層体を回収装置に回収する回収工程を具備する場合、除電工程は、積層工程と回収工程との間で行われることが好ましい。この場合、回収される積層体に保持されるダストの量を、可能な限り少なくすることができる。
【0013】
搬送ラインがベルトコンベアを備えており、電界紡糸工程において、第1シートがベルトコンベアにより搬送される場合、除電工程は、第1シートがベルトコンベアから剥離された後で行われることが好ましい。第1シートがベルトから剥離される際に生じる剥離帯電によって、第1シートがダストを吸着および保持することを抑制できるためである。
【0014】
搬送ラインが複数の搬送ローラを備える場合、除電工程は、積層体に最後に接触する搬送ローラと回収装置との間で行われることが好ましい。第1シートが搬送ローラと接触することによって生じる接触帯電によって、第1シートがダストを吸着および保持することを抑制できるためである。第2シートがダストの保持性能に優れる場合、除電工程は、第1シートに最後に接触する搬送ローラと回収装置との間で行われても良い。この場合、第2シートに保持されたダストは脱離し難く、第2シートが汚染源とはなり難いためである。
【0015】
第2シートが帯電加工等により帯電されている場合、除電工程は、積層工程の後に行われることが好ましい。第1シートが第2シートと接触することによって、第1シートの帯電性が高まる可能性があるためである。
【0016】
本発明に係る積層体の製造装置は、第1シートを、搬送ラインの上流に供給する第1供給部と、電界紡糸法により、繊維の原料となる原料樹脂と原料樹脂を溶解させる溶媒とを含む原料液から、繊維を生成させ、繊維を第1シートの一方の主面に堆積させる電界紡糸部と、電界紡糸部の下流、かつ、第1シート側に配置された除電装置により、第1シートを除電する除電部と、を備える。これにより、第1シートの帯電性が低下して、製造工程中に第1シートに保持されるダストの量を低減することができる。よって、積層体が使用される環境の汚染が防止されて、積層体の所望の性能を発揮することができる。
【0017】
上記製造装置は、さらに、第2シートを、第1シートに向けて供給する第2供給部と、電界紡糸部の下流に配置されており、繊維を堆積させた第1シートの主面に、接着剤を付与する接着剤付与部と、接着剤付与部の下流に配置されており、接着剤を溶融させる加熱部と、加熱部の下流に配置されており、第1シートに、溶融した接着剤と繊維とを介して、第2シート供給部から供給される第2シートを積層させる積層部と、を具備しても良い。上記製造装置は、さらに、第1シートと第2シートとの積層体を回収する回収部と、を具備しても良い。
【0018】
電界紡糸の際、ターゲットは帯電される。この帯電は一時的なものであるが、製造工程中は、ターゲットの帯電性が維持され易い。帯電したターゲットは、製造工程中に発生する粉塵や大気中の塵等(ダスト)を吸着する。一旦吸着されたダストの多くは、製造工程が終了するまでターゲットに保持される。そのため、積層体は、ダストを保持したまま回収され、検査される。積層体の回収後、ターゲットの帯電性は低下し、ターゲットに保持されていたダストが脱離する。つまり、製造された積層体が発塵源(汚染源)となって、使用環境を汚染する場合がある。例えば、積層体を空気清浄機の濾材として用いた場合、検査工程において、所望の集塵性能を発揮することが困難となるばかりか、逆にダストを放出してしまう。ターゲットが空隙率の高い多孔質体である場合、ダストの脱離が起こり易くなるため、汚染はより顕著になる。
【0019】
本発明では、電界紡糸工程の後、ターゲットとして用いられる第1シートを除電することにより、第1シートの帯電性を低下させ、第1シートによるダストの保持を抑制する。そのため、第1シートが高い空隙率を有する場合であっても、汚染源とはなりにくい。
【0020】
以下、
図1および
図2を参照しながら、本発明に係る製造方法の一実施形態を説明する。
図1は、本発明の第一実施形態に係る製造方法を説明するためのフローチャートであり、
図2は、製造方法を説明する概略図である。
【0021】
本実施形態では、第1シート等が準備された(準備工程)後、第1シートは搬送ラインに供給され、下流に向けて搬送される(搬送ラインへの供給工程)。続いて、搬送中の第1シート上に、電界紡糸法により繊維が堆積される(電界紡糸工程)。第1シートの繊維が堆積する主面に接着剤を付与し(接着剤付与工程)、加熱して接着剤を溶融させた後(加熱工程)、第1シートに、堆積された繊維を介して第2シートを積層する(積層工程)。第2シートは、例えば、堆積された繊維を保護する保護材である。これにより、第1シート、接着剤、繊維および第2シートを含む積層体が製造される。最後に、製造された積層体を回収し(回収工程)、一連の工程が終了する。
【0022】
上記一連の工程は、第1シートが搬送ラインの上流に供給された後、搬送される第1シートに対し、連続して行われる。そのため、搬送ラインは、複数の搬送ローラ(
図2参照)を備える。各搬送ローラは、第1シートの繊維を堆積させる主面とは反対側の主面(下面)側から第1シートと接触し、支持する。このように、一連の工程、特に電界紡糸工程が搬送される第1シートに対して行われる場合、第1シートはより帯電され易い。電界紡糸工程では、ターゲットを載置するステージ(例えば、後述するベルトコンベアのベルト)はグランドされている。電界紡糸工程が静止している第1シートに対して行われる場合、第1シートは、電界紡糸工程の間、常にグランドされたステージ上に留まっているため、帯電し難い。一方、電界紡糸工程が搬送される第1シートに対して行われる場合、第1シートとグランドされたステージとの接触時間は短くなる。そのため、第1シートは、除電が十分に行われない状態、すなわち帯電した状態で、次の工程に供される。
【0023】
(1)除電工程
除電工程は、第1シートの帯電性を低下させるために行われる。除電は、例えば、除電装置70A、70Bおよび70Cの少なくとも1つを用いて、電界紡糸工程の後、回収工程の前に、少なくとも1回行われる。
【0024】
第1シートの除電は、第1シート側に配置された除電装置によって行われる。第1シートの除電をより効率的に行うとともに、第1シートに堆積された繊維の損傷を防止するためである。除電装置は特に限定されず、除電ブラシや、コロナ放電、電離放射線(紫外線等)等を利用して、静電気を除去するものであれば良い。なかでも、第1シートの損傷を抑制できる点で、コロナ放電や電離放射線等を照射して除電する装置であることが好ましい。コロナ放電方式の場合、放電出力は6〜10kV程度であれば良い。除電装置の形状も特に限定されないが、搬送される第1シートを均一に除電できる点で、バータイプであることが好ましい。この場合、除電装置の長辺が第1シートの搬送方向に垂直な幅方向に沿うように、除電装置を設置する。
【0025】
第1シートの帯電性は、除電によってわずかでも低下すれば良い。わずかな帯電性の低下であっても、第1シートによるダストの吸着および保持は抑制される。例えば、第1シートが高い空隙率を有する場合、元々、ダストを内部に保持しておくことが難しい。そのため、第1シートがダストを吸着した場合であっても、第1シートの帯電性をわずかでも低下させることによって、ダストを容易に脱離させることができる。
【0026】
除電工程は、電界紡糸工程の後に行われる限り、どのタイミングで行われても良い。ここで、電界紡糸工程において、第1シートがベルトコンベアにより搬送される場合がある。第1シートが平坦状に支持され易くなるとともに、ベルトコンベアのベルトが繊維を収集するコレクタ部として機能できるためである。電界紡糸工程が終了すると、第1シートはベルトから剥離されて、次の工程へと搬送される。第1シートがベルトから剥離される際、第1シートは帯電され易い(剥離帯電)。そのため、電界紡糸工程が終了し、第1シートがベルトから剥離された後、速やかに除電工程を行うことが、第1シートによるダストの吸着を抑制することができる点で好ましい。
【0027】
接着剤付与工程において、粒子状の接着剤が使用される場合、第1シートに付着できなかった接着剤は、第1シートの下方に落下し、堆積する。このとき、第1シートが帯電していると、静電気力により、第1シートの下方に堆積した接着剤が第1シートの下面近傍に吸着される。この状態で、搬送ローラにより第1シートが搬送されると、第1シートに吸着された接着剤が搬送ローラに付着および堆積し、第1シートを水平に搬送することが困難となる場合がある。以上を考慮すると、電界紡糸工程が終了し、第1シートがベルトから剥離された後であって、接着剤付与工程の前に、除電工程を行うことが好ましい。
【0028】
第2シートを第1シートに積層する際にも、第1シートが帯電される場合がある(接触帯電)。特に、第2シートが永久帯電されている場合、第2シートと接触することによって、第1シートの帯電性がより高まることが予想される。そのため、除電工程を、積層工程と回収工程との間で行うことが好ましい。この場合、積層工程より前の工程中に第1シートに保持されたダストが脱離されるとともに、積層工程以降のダストの吸着が抑制される。さらに、除電は第1シート側から行われるため、永久帯電している第2シートの帯電性に与える影響は小さい。なお、第1シートは各搬送ローラで支持されているため、脱離したダストは、搬送ローラ間から落下する。
【0029】
なかでも、積層工程の後、積層体が最後の搬送ローラ(例えば、
図2における搬送ローラ51b)を通過してから回収されるまでの間に、除電工程を行うことが好ましい。第1シートと各搬送ローラとが接触することによっても、第1シートは帯電し得るためである(接触帯電)。第1シートが搬送ローラ51bを通過してから除電工程を行うことにより、回収される積層体に保持されるダストの量を、可能な限り少なくすることができる。なお、第2シートの空隙率が比較的小さく、ダストの保持性能に優れる場合、第2シートがダストを吸着および保持しても、ダストの脱離は生じ難い。この場合、除電工程は、積層体が、第1シートに最後に接触する搬送ローラ(例えば、
図2における搬送ローラ51a)を通過してから回収されるまでの間に行われても良い。
【0030】
特に、電界紡糸工程が終了し、第1シートがベルトコンベアのベルトから剥離された後であって、接着剤付与工程の前、および、積層工程と回収工程との間、の少なくとも2回、除電工程を行うことが好ましい。第1シートによるダストの吸着を抑制するとともに、回収される直前で積層体に保持されているダストを脱離させることにより、回収される積層体に保持されるダストの量を効果的に低減することができる。
【0031】
回収工程の際にも、積層体同士の摩擦により、第1シートおよび第2シートの帯電性が高まる場合がある(摩擦帯電)。しかし、回収された後は、第1シートおよび第2シートが周囲のダストを吸着する機会が少ないため、これらの帯電性が高まることは大きな問題とならない。それどころか、積層体を濾材として使用する場合、回収後に第1シート、特には第2シートの帯電性が高められていることは、集塵性能が向上する点で好ましい。
【0032】
以下、
図2および
図3を参照しながら、除電工程を除く各工程について詳細に説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係る製造装置の構成例を示す図である。
(2)準備工程
準備工程では、第1シート1、および、繊維(第3繊維3)の原料となる原料樹脂と原料樹脂を溶解させる溶媒を含む原料液を準備する。
【0033】
第1シートの形態および材質は特に限定されず、用途に応じて適宜選択すれば良い。なかでも、第1シートが高い空隙率(例えば、65体積%以上、98体積%以下)を有する多孔質体である場合、除電はより効果的である。第1シートがダストの保持性能に優れる場合、汚染源になり難いためである。空隙率(体積%)は、例えば、(1−第1シートの見かけの単位体積当たりの質量/第1シートの真の比重)×100、で求められる。
【0034】
第1シートは、電界紡糸法により堆積する第3繊維の支持体(基材)である。第1シートとして、具体的には、樹脂シート、紙製のシート、織物、編物および不織布等の繊維構造体等が例示できる。なかでも、積層体を濾材として使用する場合、圧力損失の観点から、第1シートは不織布であることが好ましい。不織布は、例えば、スパンボンド法、乾式法(例えば、エアレイド法)、湿式法、メルトブロー法、ニードルパンチ法等により製造される。なかでも、基材として適する不織布が形成され易い点で、第1シートは、湿式法により製造された不織布であることが好ましい。
【0035】
第1シートが不織布である場合、第1シートを構成する第1繊維の材質は特に限定されず、例えば、ガラス繊維、セルロース、アクリル樹脂、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート)、ポリアミド(PA)、あるいはこれらの混合物等が挙げられる。なかでも、基材として適する点で、第1繊維の材質はPETまたはセルロースが好ましい。第1繊維の平均繊維径D1は特に限定されず、例えば、1μm以上、40μm以下であっても良く、5μm以上、20μm以下であっても良い。
【0036】
平均繊維径D1とは、第1繊維の直径の平均値である。第1繊維の直径とは、第1繊維の長さ方向に対して垂直な断面の直径である。そのような断面が円形でない場合には、最大径を直径と見なしてよい。また、第1シートを一方の主面の法線方向から見たときの、第1繊維の長さ方向に対して垂直な方向の幅を、第1繊維の直径と見なしても良い。平均繊維径D1は、例えば、第1シートに含まれる任意の10本の第1繊維の任意の箇所の直径の平均値である。後述する平均繊維径D2およびD3についても同じである。
【0037】
積層体を電池の分離シートとして使用する場合、取扱い性の観点から、第1シートは樹脂シートであることが好ましい。樹脂シートを構成する樹脂としては、PP、PE、PET等のポリエステル等を用いることができる。なかでも、寸法安定性、耐溶剤性、コストの観点から、PETであることが好ましい。
【0038】
第1シートの厚みT1は、特に限定されず、例えば、50μm以上、500μm以下であっても良く、150μm以上、400μm以下であっても良い。シートの厚みTとは、例えば、シートの任意の10箇所の厚みの平均値である(以下、同じ)。厚みとは、シートの2つの主面の間の距離である。シートが不織布である場合、その厚みは、不織布の断面を写真に取り、不織布の一方の主面上にある任意の1地点から他方の主面まで、一方の表面に対して垂直な線を引いたとき、この線上にある繊維のうち、最も離れた位置にある2本の繊維の外側(外法)の距離として求められる。他の任意の複数地点(例えば、9地点)についても同様にして不織布の厚みを算出し、これらを平均化した数値を、不織布の厚みとする。上記厚みの算出に際しては、二値化処理された画像を用いても良い。
【0039】
第1シートの単位面積当たりの質量も特に限定されず、例えば、10g/m
2以上、80g/m
2以下であっても良く、35g/m
2以上、60g/m
2以下であっても良い。
【0040】
第2シートは、例えば、上記方法により製造された不織布である。なかでも、積層体を濾材として使用する場合、繊維径の細い不織布が形成され易い点で、第2シートは、メルトブロー法により製造された不織布であることが好ましい。さらに、ダストの保持効果が期待できる点で、第2シートは、帯電(永久帯電)していることが好ましい。永久帯電とは、外部電界が存在しない状態において半永久的に電気分極を保持し、周囲に対して電界を形成している状態である。積層体を濾材として使用する場合、第2シートが帯電していると、集塵効果の向上も期待できる。
【0041】
第2シートを構成する第2繊維の材質は特に限定されず、例えば、ガラス繊維、セルロース、アクリル樹脂、PP、PE、PET等のポリエステル、PA、あるいはこれらの混合物等が挙げられる。なかでも、帯電され易い点で、PPが好ましい。第2繊維の平均繊維径D2も特に限定されない。平均繊維径D2は、例えば、0.5μm以上、20μm以下であっても良く、5μm以上、20μm以下であっても良い。
【0042】
第2シートの厚みT2は特に限定されず、100μm以上、500μm以下であっても良く、150μm以上、400μm以下であっても良い。第2シートの単位面積当たりの質量も特に限定されず、10g/m
2以上、50g/m
2以下であっても良く、10g/m
2以上、30g/m
2以下であっても良い。
【0043】
原料液は、原料樹脂および溶媒を含む。原料樹脂は第3繊維の原料であり、溶媒は、原料樹脂を溶解させる(以下、第1溶媒と称する)。原料液から、原料樹脂および第1溶媒を含む第3繊維が形成される。原料液における原料樹脂と第1溶媒との混合比率は、選定される原料樹脂の種類および第1溶媒の種類により異なる。原料液における第1溶媒の割合は、例えば、60質量%から95質量%である。原料液には、原料樹脂を溶解させる第1溶媒以外の溶媒や各種添加剤等が含まれていても良い。
【0044】
原料樹脂の種類は特に限定されず、例えば、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリサルホン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアリレート(PAR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリウレタン(PU)等のポリマーが挙げられる。これらは、単独あるいは2種以上を組み合わせて用いても良い。なかでも、電界紡糸法に適している点で、PESが好ましい。また、第3繊維の平均繊維径D3を細くし易い点で、PVDFが好ましい。
【0045】
第1溶媒は、原料樹脂を溶解できるものであれば特に限定されない。例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジベンジルアルコール、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトン、ヘキサフルオロアセトン、フェノール、ギ酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン、クロロホルム、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロプロパン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、酢酸、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホオキシド、ピリジン、水等を用いることができる。これらは単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。なかでも、電界紡糸法に適している点およびPESを溶解し易い点で、DMAcが好ましい。
【0046】
(3)搬送工程
搬送工程では、第1シート1を、搬送ライン207を構成する最初の搬送ローラ11に供給し、下流に向けて搬送する。搬送ライン207は、複数の搬送ローラ(11、31、41、51等)と、ベルトコンベア21とを備える。各搬送ローラの長さは、例えば、第1シートの搬送方向に垂直な幅より大きい。搬送ローラの数は特に限定されず、例えば、各工程に1または2以上配置される。ベルトコンベア21は、長手方向の両端部が結合された無端状のベルト21bと、一対のローラ21aとを備える。ベルト21bは、ローラ21aの回転駆動に伴い、回転する。
【0047】
ベルトの材質は特に限定されず、加工条件等に応じて適宜選択すれば良い。ベルトの材質としては、例えば、繊維構造体、ゴム、樹脂、スチール等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、例えば、繊維構造体をゴムで挟み込んだ布層コンベアベルトのように複数種を組み合わせて用いてもよい。ベルトの搬送方向に垂直な幅は特に限定されず、第1シートの搬送方向に垂直な幅より大きくなるよう、適宜設定すれば良い。ベルトの厚みも特に限定されず、ベルトの材質、加えられるテンションの大きさ等に応じて、適宜設定すれば良い。
【0048】
(4)電界紡糸工程
電界紡糸工程では、電界紡糸法により、第1シート1の一方の主面に第3繊維3を堆積させる。本工程において、第1シートは、噴射される原料液のターゲットであり、生成する第3繊維を収集するコレクタとして機能する。このとき、第1シートは、ベルトコンベアにより搬送される。
【0049】
第3繊維の平均繊維径D3は特に限定されず、用途等に応じて適宜設定すれば良い。なかでも、積層体を濾材として使用する場合、平均繊維径D3は、平均繊維径D1およびD2よりも小さいことが好ましい。具体的には、平均繊維径D3は3μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、500nm以下であることが特に好ましい。また、平均繊維径D3は50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましい。積層体を濾材として使用する場合、圧力損失が抑制されるとともに集塵効率が高くなり易いためである。
【0050】
第3繊維は、平均繊維径の異なる複数種の繊維を含んでいても良い。第3繊維は、例えば、平均繊維径が30nm以上300nm未満の細い第3繊維と、平均繊維径が300nm以上3μm以下の太い第3繊維とを含んでいても良い。太い第2繊維と細い第2繊維とは、混在していても良いが、積層体を濾材として使用する場合の集塵効率の観点から、細い第3繊維を第1シートと対向する側に偏在させ、太い第3繊維を第2シートと対向する側に偏在させることが好ましい。
【0051】
第3繊維の堆積量は、特に限定されない。なかでも、積層体を濾材として使用する場合、第3繊維の堆積量は、圧力損失と集塵効率とのバランスの観点から、0.1g/m
2以上、1.5g/m
2以下であることが好ましく、0.2g/m
2以上、0.5g/m
2以下であることがより好ましく、0.2g/m
2以上、0.8g/m
2以下であることが特に好ましい。
【0052】
(5)接着剤付与工程
次に、第1シート1の第3繊維3が堆積された主面に接着剤4を付与する。
接着剤は、第2シートを、第3繊維を介して第1シートと接着するために、第1シートに付与される。接着剤の付与方法は特に限定されず、コーティング法、スプレー法、自由落下等が例示できる。なかでも、第3繊維の損傷が抑制される点で、スプレー法または自由落下により、溶融された接着剤あるいは粉末状の接着剤を第1シートに付与することが好ましい。
【0053】
接着剤の付与量は特に限定されないが、例えば、0.5g/m
2以上、5g/m
2以下である。接着剤の種類は特に限定されず、例えば、PU、PET等のポリエステル、PA、ポリオレフィン(例えば、PP、PE)等を主成分とするホットメルト接着剤や、熱硬化性樹脂を含む粉末状の接着剤等が挙げられる。
【0054】
(6)加熱工程
接着剤4が第1シート1に付与された後、第2シート2を積層する前に、第1シート1に、例えば電磁波42aを照射する加熱装置42を用いて、接着剤4を溶融させる。加熱温度は、溶媒の沸点および接着剤の融点に応じて適宜設定すれば良い。加熱温度は、第1シートの表面が、例えば100〜200℃、好ましくは120〜170℃になるように、調整される。
【0055】
(7)積層工程
接着剤4を溶融させた後、第2シート2を第1シート1に積層する。第2シート2を積層した後、得られた積層体10を一対の圧着ローラ54(54aおよび54b)の間を通過させ、第1シート1と第2シート2とをさらに密着させても良い。
【0056】
(8)回収工程
最後に、製造された積層体10を、回収装置に回収する。回収装置は、例えば回収リール62を備えており、積層体10は回収リール62に捲回される。
【0057】
[製造装置]
上記積層体は、
図3に示されるような製造装置200により製造される。
製造装置200は、第1シートを、搬送ライン207の上流に供給する第1供給部201と、電界紡糸法により、第3繊維を第1シートの一方の主面に堆積させる電界紡糸部202と、電界紡糸部202の下流であって、かつ、第1シート側に配置された除電装置70(70A)により、第1シートを除電する除電部を具備する。製造装置200は、さらに、第2シートを第1シートに向けて供給する第2供給部208と、電界紡糸部202の下流に配置されており、第1シートの主面に接着剤を付与する接着剤付与部203と、接着剤付与部203の下流に配置されており、接着剤を溶融させる加熱部204と、加熱部204の下流に配置されており、第1シートに、第2シート供給部から供給される第2シートを積層させる積層部205と、第1シートと第2シートとの積層体を回収する回収部206と、を具備する。
【0058】
[除電部]
除電部は、除電装置70(例えば、70A、70B、70C)を備えている。除電装置70は、搬送ライン207に沿って配置される。除電装置70は特に限定されず、上記のような除電装置を用いることができる。
【0059】
除電装置70の配置場所は、電界紡糸部202より下流であって、第1シートの第3繊維が堆積された主面とは反対側の主面側に配置される限り、特に限定されない。電界紡糸部の下流とは、後述する電界紡糸機構による、第1シート上への第3繊維の堆積が可能な領域(堆積可能領域)よりも下流であれば良く、電界紡糸部202(具体的には、後述する電界紡糸ユニット)の内部に除電装置が配置されていても良い。なお、
図3では、電界紡糸部202の外部(電界紡糸部と接着剤付与部との間)に除電装置を配置している。なかでも、除電装置70は、堆積可能領域あるいはベルトコンベアの下流側の端部と後述する接着剤付与部において接着剤が付与される領域との間、積層部205の内部であって圧着ローラの下流、あるいはこれらのうち2箇所以上に配置されることが好ましい。
【0060】
[第1供給部]
第1供給部201は、製造装置200の最上流に配置されており、第1シート1が捲回された第1供給リール12を備える。第1供給リール12は、モータ13により回転して、第1シート1を搬送ライン207の最上流に位置する搬送ローラ11に供給する。第1シート1は、搬送ライン207によって、第1供給部201から回収部206に向かって搬送される。
【0061】
[電界紡糸部]
電界紡糸部202は、電界紡糸機構を具備する電界紡糸ユニット(図示せず)を備える。電界紡糸機構は、装置内の上方に設置された第3繊維3の原料液を放出するための放出体23と、放出された原料液をプラスに帯電させる帯電手段(後述参照)と、放出体23と対向するように配置された第1シート1を上流側から下流側に搬送するベルトコンベア21と、を備えている。ベルトコンベア21のベルト21bは、第1シート1とともに第3繊維3を収集するコレクタ部として機能する。なお、電界紡糸ユニットの台数は、特に限定されるものではなく、1台でも2台以上でもよい。
【0062】
電界紡糸ユニットおよび/または放出体23が複数ある場合、電界紡糸ユニットごと、あるいは、放出体23ごとに、形成される第3繊維3の平均繊維径を変化させても良い。第3繊維3の平均繊維径は、後述する原料液の吐出圧力、印加電圧、原料液の濃度、放出体23と第1シート1との距離、温度、湿度などを調整することにより、変化させることができる。また、第3繊維3の堆積量は、原料液の吐出圧力、印加電圧、原料液の濃度、第1シート1の搬送速度などを調整することにより、制御される。
【0063】
放出体23の第1シート1の主面と対向する側には、原料液の放出口(図示せず)が複数箇所設けられている。放出体23の放出口と、第1シート1との距離は、製造システムの規模や所望の繊維径にもよるが、例えば、100〜600mmであればよい。放出体23は、電界紡糸ユニットの上方に設置された、第1シート1の搬送方向と平行な第1支持体24から下方に延びる第2支持体25により、自身の長手方向が第1シート1の主面と平行になるように支持されている。第1支持体24は、放出体23を第1シート1の搬送方向とは垂直な方向に揺動させるように、可動であっても良い。
【0064】
帯電手段は、放出体23に電圧を印加する電圧印加装置26と、ベルトコンベア21と平行に設置された対電極27とで構成されている。対電極27は接地(グランド)されている。これにより、放出体23と対電極27との間には、電圧印加装置26により印加される電圧に応じた電位差(例えば20〜200kV)を設けることができる。なお、帯電手段の構成は、特に限定されない。例えば、対電極27はマイナスに帯電されていても良い。また、対電極27を設ける代わりに、ベルトコンベア21のベルト21bを導体から構成してもよい。
【0065】
放出体23は、導体で構成されており、長尺の形状を有し、その内部は中空になっている。中空部は原料液22を収容する収容部となる。原料液22は、放出体23の中空部と連通するポンプ28の圧力により、原料液タンク29から放出体23の中空に供給される。そして、原料液22は、ポンプ28の圧力により、放出口から第1シート1の主面に向かって放出される。放出された原料液22は、帯電した状態で放出体23と第1シート1との間の空間(生成空間)を移動中に静電爆発を起し、繊維状物(第3繊維3)を生成する。
【0066】
[接着剤付与部]
接着剤付与部203は、例えば、接着剤付与部203の上方に設置された接着剤4を収容する接着剤タンク32と、接着剤4を散布するための散布部材33とを備える散布装置34を具備する。散布部材33からは、例えば、粒子状の接着剤が散布される。
【0067】
[加熱部]
加熱部204は、加熱装置42を備えており、接着剤付与部203で第1シートに付与された接着剤4を溶融させる。加熱装置は特に限定されず、公知のものを適宜選択すれば良い。第1シートの加熱装置42に対向する主面から加熱装置42までの最短距離は、例えば、5mm以上、50mm以下である。
【0068】
[第2供給部および積層部]
第2供給部208は、例えば第1シートの上方に設置される第2供給リール52とこれを回転駆動させるモータ53とを備える。第2供給リール52には、第2シート2が捲回されている。第2シートは、第1シートの搬送スピードに合わせて第2供給リールから捲き出されながら、第1シートに積層される。積層部205は、一対の圧着ローラ54(54aおよび54b)を備えており、第1シート、第3繊維および第2シートを含む積層体を圧着する。
【0069】
[回収部]
得られた積層体10は、より下流側に配置されている回収部206に回収される。回収部206は回収リール62を備えており、積層体10は、モータ63により回転駆動される回収リール62に捲回される。