特許第6624713号(P6624713)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6624713コイル含浸用樹脂組成物およびコイル部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6624713
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】コイル含浸用樹脂組成物およびコイル部品
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20191216BHJP
   C08G 59/42 20060101ALI20191216BHJP
   C08L 101/08 20060101ALI20191216BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20191216BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20191216BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20191216BHJP
   H01F 41/12 20060101ALI20191216BHJP
【FI】
   C08L63/00 C
   C08G59/42
   C08L101/08
   C08K3/013
   C08K3/36
   C08K5/17
   H01F41/12 B
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-97301(P2015-97301)
(22)【出願日】2015年5月12日
(65)【公開番号】特開2016-210928(P2016-210928A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2018年1月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100158481
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 俊秀
(72)【発明者】
【氏名】荒川 陽輔
(72)【発明者】
【氏名】櫻田 渓
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−038017(JP,A)
【文献】 特開2012−097282(JP,A)
【文献】 特開2002−155193(JP,A)
【文献】 特開平01−163211(JP,A)
【文献】 特開2002−088228(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 63/00−63/10
C08G 59/42
H01F 41/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、及び(B)無機充填材を含有する主剤と、(C)ゴム変性ジカルボン酸樹脂、(D)硬化促進剤、並びに(E)硫黄原子を有さないアミン系酸化防止剤、及びワックス系酸化防止剤からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の酸化防止剤を含有する硬化剤とを含む、コイル含浸用樹脂組成物。
【請求項2】
前記主剤が、さらに(F)反応性希釈剤を含む、請求項1に記載のコイル含浸用樹脂組成物。
【請求項3】
前記硬化剤が、さらに(G)可とう性酸無水物を含む、請求項1又は2に記載のコイル含浸用樹脂組成物。
【請求項4】
前記(D)硬化促進剤が、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン(DBU)のフェノール塩、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン(DBU)のオクチル酸塩、及び2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(TAP)のオクチル酸塩から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のコイル含浸用樹脂組成物。
【請求項5】
前記(D)硬化促進剤の含有量が、前記(C)ゴム変性ジカルボン酸樹脂100質量部に対して1.0〜3.0質量部である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のコイル含浸用樹脂組成物。
【請求項6】
前記(C)ゴム変性ジカルボン酸樹脂が、(C1)水酸基末端ポリブタジエンと(C2)酸無水物との反応生成物である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のコイル含浸用樹脂組成物。
【請求項7】
前記(B)無機充填材が、溶融球状シリカを含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載のコイル含浸用樹脂組成物。
【請求項8】
前記(E)酸化防止剤の含有量が、前記(A)エポキシ樹脂100質量部に対して3〜20質量部である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のコイル含浸用樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のコイル含浸用樹脂組成物をコイルに含浸させ、次いで、加熱硬化させてなる、コイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル含浸用樹脂組成物、及び該コイル含浸用樹脂組成物を加熱硬化させてなるコイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
コイル部品には、コイル構成部品の保護のためエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂を主体とした樹脂組成物が使用されている。中でも、自動車用イグニッションコイルの多くは、絶縁性、含浸性、機械的特性、耐湿性、耐熱性に優れたエポキシ樹脂を使用した注形用樹脂組成物で、注形封止されている。
近年、自動車のダウンサイジング化による低燃費を実現するために車載用部品の小型化・軽量化が進んでいる。これに伴い、外装ケース及び注形用樹脂組成物によって絶縁保護されているイグニッションコイルも小型化が進められ、内臓部品の複雑化等により、注形用樹脂組成物には、耐クラック性、高含浸性といった高信頼性を有することが求められている。
また、二次巻き線の増量によるイグニッションコイルの高出力化に伴い、使用環境温度が上昇し、150℃条件下での絶縁破壊強度が必須となっており、高電圧が印加される。そのため、単に通常のエポキシ樹脂組成物を用いたのみでは絶縁性が不十分であり、樹脂硬化物に絶縁破壊等が生じたり、該樹脂硬化物を高温環境下で長時間放置すると硬くなって柔軟性が低下し、クラックが生じたりする場合があった。樹脂硬化物にクラックが生じると、コイルに電流を流した際に、上記クラック部分で異常放電等が発生することになり、上記コイル部品を正常に作動させることができない。
【0003】
このような問題に鑑み、エポキシ樹脂組成物に対して特定範囲の粒径からなるシリカ粒子を所定量含有させることによって、トリー経路を形成しにくくし、エポキシ樹脂組成物の絶縁破壊強度を向上させ、コイル部品に高電圧が印加された場合においても絶縁破壊が生じないような試みがなされている(特許文献1参照)。
ここで、トリー経路とは、絶縁物中に発生する樹脂状の絶縁破壊痕を意味する。
【0004】
また、特定粒径の球状シリカ、酸無水物、及び硬化促進剤を配合したA剤と、エポキシ樹脂をB剤としたエポキシ樹脂組成物を得て、線膨張率を低減させることによって耐熱サイクル性を向上させ、クラックの発生を防止する試みがなされている(特許文献2参照)。
【0005】
また、エポキシ樹脂組成物にジェットミル法で粉砕したシリカ粒子を所定量含有させることにより、シリカ粒子の高充填化を行い、上述したような絶縁破壊やクラックの発生を防止する試みもなされている(特許文献3参照)。
【0006】
また、硬化剤に可とう性エポキシ樹脂を特定量配合することにより、柔軟な骨格を導入し、残留応力を低減させ、クラックの発生を防止する試みもなされている(特許文献4参照)。
【0007】
更に、ジカルボン酸の環式カルボン酸無水物、トリカルボン酸無水物またはテトラカルボン酸無水物と、2官能ポリアミン、特にポリオキシアルキレンアミンからなる縮合生成物を用いて、ガラス転移温度を−30℃以下とすることで、低温下でも耐衝撃性、耐衝撃剥離性、及び耐剥離性の向上を図る試みもなされている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−195782号公報
【特許文献2】特開平11−71503号公報
【特許文献3】特開2011−201948号公報
【特許文献4】特開2012−201711号公報
【特許文献5】特開2004−515565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述したような従来技術においても、注形封止した樹脂組成物の硬化物の絶縁破壊や経時での硬度上昇によるクラックの発生を十分に防止することができず、更なる改善が求められていた。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、コイルへの含浸性に優れ、相分離することなく、経時での硬度変化が少なく、柔軟性、絶縁性、及び耐クラック性に優れた硬化物の形成材料となるコイル含浸用樹脂組成物、及び該コイル含浸用樹脂組成物を加熱硬化させてなるコイル部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、樹脂組成物中に、硬化剤として、ゴム変性ジカルボン酸樹脂、硬化促進剤、及び特定の酸化防止剤を共に含有させることにより、上記課題を解決することを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[9]を提供する。
[1](A)エポキシ樹脂、及び(B)無機充填材を含有する主剤と、(C)ゴム変性ジカルボン酸樹脂、(D)硬化促進剤、並びに(E)硫黄原子を有さないアミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、有機チオ酸系酸化防止剤、亜リン酸系酸化防止剤、及びワックス系酸化防止剤からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の酸化防止剤を含有する硬化剤とを含む、コイル含浸用樹脂組成物。
[2]前記主剤が、さらに(F)反応性希釈剤を含む、上記[1]に記載のコイル含浸用樹脂組成物。
[3]前記硬化剤が、さらに(G)可とう性酸無水物を含む、上記[1]又は[2]に記載のコイル含浸用樹脂組成物。
[4]前記(D)硬化促進剤が、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン(DBU)のフェノール塩、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン(DBU)のオクチル酸塩、及び2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(TAP)のオクチル酸塩から選ばれる少なくとも1種である、上記[1]〜[3]のいずれか一項に記載のコイル含浸用樹脂組成物。
[5]前記(D)硬化促進剤の含有量が、前記(C)ゴム変性ジカルボン酸樹脂100質量部に対して1.0〜3.0質量部である、上記[1]〜[4]のいずれか一項に記載のコイル含浸用樹脂組成物。
[6]前記(C)ゴム変性ジカルボン酸樹脂が、(C1)水酸基末端ポリブタジエンと(C2)酸無水物との反応生成物である、上記[1]〜[5]のいずれか一項に記載のコイル含浸用樹脂組成物。
[7]前記(B)無機充填材が、溶融球状シリカを含む、上記[1]〜[6]のいずれか一項に記載のコイル含浸用樹脂組成物。
[8]前記(E)酸化防止剤の含有量が、前記(A)エポキシ樹脂100質量部に対して3〜20質量部である、上記[1]〜[7]のいずれか一項に記載のコイル含浸用樹脂組成物。
[9]上記[1]〜[8]のいずれか一項に記載のコイル含浸用樹脂組成物をコイルに含浸させ、次いで、加熱硬化させてなる、コイル部品。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コイルへの含浸性に優れ、相分離することなく、経時での硬度変化が少なく、柔軟性、絶縁性、及び耐クラック性に優れた硬化物の形成材料となるコイル含浸用樹脂組成物、及び該コイル含浸用樹脂組成物を加熱硬化させてなるコイル部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態におけるコイル部品としてのイグニッションコイルの構成を示す断面図である。
図2】耐クラック性試験で用いるワッシャーの形状を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
〔コイル含浸用樹脂組成物〕
まず、本発明のコイル含浸用樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ともいう)の主剤について述べる。
本発明で用いる(A)成分のエポキシ樹脂は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば、分子構造、分子量などは特に制限されるものではなく、一般に用いられているものを用いることができる。例えば、ビスフェノール型、ノボラック型、ビフェニル型等の芳香族系エポキシ樹脂、ポリカルボン酸のグリシジルエーテル型、シクロヘキサン誘導体等のエポキシ化によって得られる脂環族系エポキシ樹脂等が挙げられ、これらは単独又は2種以上混合して使用することができる。
(A)成分のエポキシ樹脂のエポキシ当量は、硬化性の観点から、150〜230の範囲のものが好ましく、180〜200の範囲のものがより好ましい。
また、これらの他に、樹脂組成物の粘度を調製するために必要に応じて液状のモノエポキシ樹脂等を併用成分として使用することができ、さらに、難燃性を付与しようとする場合には、ハロゲン化合物やリン化合物などで変性したエポキシ樹脂を使用することもできる。
【0016】
樹脂組成物の全量に対する(A)成分の配合量は、良好な硬化性や硬化物特性が得られるという観点から、好ましくは10〜30質量%、より好ましくは10〜25質量%、更に好ましくは10〜20質量%であり、より更に好ましくは10〜15質量%である。
【0017】
本発明で用いる(B)成分の無機充填材は、従来から使用されている電気絶縁性を有する充填材であればよく、例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子、窒化珪素、窒化ホウ素、マグネシア、ベーマイト、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、タルク等が挙げられる。これらは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
無機充填材の平均粒径は、通常、1〜30μm程度、好ましくは5〜20μmである。なお、上記平均粒径は、レーザ回折散乱方式(たとえば、島津製作所製、装置名:SALD-3100)により測定された値である。
【0018】
無機充填材としては、シリカ粒子を好ましく用いることができ、該シリカ粒子は、コイル含浸用樹脂組成物中に通常配合されるシリカ粒子であればよく、例えば、結晶シリカ、溶融シリカ、溶融球状シリカ、及び破砕シリカ等が挙げられる。中でも、溶融球状シリカは角がなくエポキシ樹脂に高充填することができ、樹脂組成物の粘度を低下させることができるため、好ましい。溶融球状シリカとしては、例えば、FB−5D(電気化学工業(株)製、商品名)等が挙げられる。
【0019】
また、上記シリカ粒子は、樹脂組成物中に後述のカップリング剤を添加することで、その表面が改質され、硬化物の機械強度、絶縁性等を更に向上させることができ、好ましい。
【0020】
(B)成分の無機充填材の配合量は、(A)成分のエポキシ樹脂100質量部に対して、好ましくは300〜600質量部、より好ましくは350〜600質量部、更に好ましくは400〜550質量部である。300質量部以上とすることで、樹脂組成物の硬化物の機械的強度の低下を抑制することができ、600質量部以下とすることで、樹脂組成物の粘度の上昇を抑え、作業性の低下を抑制することができる。
なお、上記無機充填材は、その一部を後述する硬化剤に配合してもよい。
また、樹脂組成物の全量に対する(B)成分の配合量は、耐クラック性と作業性の両立の観点から、好ましくは50〜80質量%、より好ましくは55〜75質量%、更に好ましくは60〜70質量%である。
【0021】
樹脂組成物の全量に対する(A)成分及び(B)成分の合計割合は、好ましくは60〜90質量%、より好ましくは65〜85質量%、更に好ましくは75〜85質量%である。
【0022】
本発明の主剤は、さらに(F)成分の反応性希釈剤を含むことが、低粘度化の観点から好ましい。
(F)成分の反応性希釈剤は、1分子中に1個のエポキシ基を有する化合物が好ましく、例えば、モノグリシジルエーテル化合物、モノグリシジルエステル化合物等を挙げることができる。モノグリシジルエーテル化合物としては、例えば、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、SEC−ブチルフェニルグリシジルエーテル、2−メチルオクチルグリシジルエーテル、オクタデシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、トリルグリシジルエーテル、オクチルフェニルグリシジルエーテル等が挙げられる。モノグリシジルエステル化合物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、酢酸、2−エチルヘキシル酸等の一価カルボン酸のグリシジルエステル化合物等が挙げられる。
【0023】
(F)成分の反応性希釈剤の配合量は、(A)成分のエポキシ樹脂100質量部に対して、好ましくは10〜60質量部、より好ましくは10〜50質量部、更に好ましくは15〜30質量部である。10質量部以上とすることで、樹脂組成物の粘度の上昇を抑え、作業性の低下を抑制することができる。60質量部以下とすることで、樹脂組成物の硬化物の機械的強度の低下を抑制することができる。
【0024】
本発明のコイル含浸用樹脂組成物の主剤には、以上の各成分の他に、本発明の効果を阻害しない範囲で、この種の組成物に一般に配合されるカップリング剤、消泡剤、沈降防止剤、顔料その他添加剤及び水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、三酸化アンチモン等の難燃助剤等を必要に応じて配合することができる。
【0025】
上記カップリング剤としては、例えば、有機シラン化合物、有機チタネート化合物、有機アルミネート化合物等が挙げられる。
有機シラン化合物としては、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニル−トリス−(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタアクリロキシプロピルメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
有機チタネート化合物としては、例えば、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラステアリルチタネート、トリエタノールアミンチタネート、チタニウムアセチルアセトネート、チタニウムラクチート、オクチレングリコールチタネート、イソプロピル(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート等が挙げられる。
有機アルミネート化合物としては、例えば、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピネート等が挙げられる。
これらは単独又は2種以上混合して使用することができる。
【0026】
カップリング剤を使用する場合の配合量は、樹脂組成物の全量に対し0.1〜1.0質量%の範囲であることが好ましい。上記範囲内であれば、上述のシリカ粒子の表面改質を十分に行うことができる。
【0027】
以上、上述の成分を配合したものを、例えば、ダルトン社製万能混合機等を用いて均一に混合することにより、本発明のコイル含浸用樹脂組成物の主剤を調製することができる。
【0028】
次に、本発明のコイル含浸用樹脂組成物における硬化剤について述べる。
本発明で用いる(C)成分のゴム変性ジカルボン酸樹脂は、ブタジエン、イソプレン、シリコーンゴム等のゴム成分の片末端、又は両末端がジカルボン酸で変性された樹脂である。樹脂組成物中に上記(C)成分のゴム変性ジカルボン酸樹脂を含有させることにより、硬化物の柔軟性、及び絶縁性を向上させる効果を発揮する。
(C)成分のゴム変性ジカルボン酸樹脂の重量平均分子量は、500〜5000であることが好ましく、1500〜3000であることがより好ましい。
【0029】
(C)成分のゴム変性ジカルボン酸樹脂としては、硬化物の柔軟性、及び絶縁性を向上させる観点から、両末端がジカルボン酸で変性されたポリブタジエン(ポリブタジエン変性ジカルボン酸)が好ましく、特に、(C1)成分の水酸基末端ポリブタジエンと(C2)成分の酸無水物との反応生成物であることが好ましい。
以下、(C)成分のゴム変性ジカルボン酸樹脂として、ポリブタジエン変性ジカルボン酸を例示して説明する。
【0030】
上記ポリブタジエン変性ジカルボン酸の原料となる(C1)成分の水酸基末端ポリブタジエンは、1分子中に2個の水酸基を有する化合物であり、例えば、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール等が挙げられ、これらの水素化物を用いることもできる。特に、硬化物の耐熱性、及び絶縁性向上の観点から、ポリブタジエンポリオールの水素化物、及びポリイソプレンポリオールの水素化物が好ましい。
【0031】
ポリブタジエンポリオールは、市販品を使用することができ、市販品としては、例えば、1,4−結合を主鎖に有する水酸基末端液状ポリブタジエン(Poly bd);R−45HT、R−15HT(以上、出光興産(株)製)、1,4−結合を主鎖に有する水酸基末端ポリブタジエンの水素化物;GI−1000、GI−2000、GI−3000(以上、日本曹達(株)製)、1,2−結合を主鎖に有する水酸基末端ポリブタジエン;G−1000、G−2000、G−3000(以上、日本曹達(株)製)、1,2−結合を主鎖に有する水酸基末端ポリブタジエンの水素化物;ポリテールHA(三菱化学(株)製)、Krasol HLBH−P2000、Krasol HLBH−P3000(以上、巴工業(株)製)等が挙げられる。
また、ポリイソプレンポリオールとしては、例えば、水酸基末端液状イソプレン(Poly ip);エポール(出光興産(株)製)等が挙げられる。
これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0032】
上記ポリブタジエン変性ジカルボン酸の原料となる(C2)成分の酸無水物は、(A)成分のエポキシ樹脂、(F)成分の反応性希釈剤と反応し硬化可能なものであれば、特に限定されないが、例えば、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、ペンタデセニル無水コハク酸、フタル酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、トリアルキルテトラヒドロフタル酸無水物、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物等が挙げられる。
これらは、1種を単独で、あるいは、硬化を阻害しない範囲において、2種以上を混合して使用してもよい。
【0033】
上記ポリブタジエン変性ジカルボン酸は、例えば、上記(C1)成分の水酸基末端ポリブタジエンと、上記(C2)成分の酸無水物とを、反応温度80〜120℃で2〜5時間、好ましくは90〜110℃で3〜4時間、加熱反応させることにより得られる。上記反応には必要に応じて有機溶媒を加えてもよく、また、必要に応じて触媒を加えてもよい。
このようにして得られるポリブタジエン変性ジカルボン酸としては、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0034】
【化1】

【0035】
上記一般式(1)中、lは0.1〜0.3、mは0.1〜0.3、nは0.4〜0.8、l+m+n=1であり、xは10〜250の整数を示す。また、xは20〜100の整数であることが好ましい。
【0036】
樹脂組成物の全量に対する(C)成分のゴム変性ジカルボン酸樹脂の配合量は、好ましくは5〜30質量%、より好ましくは10〜25質量%、更に好ましくは10〜20質量%である。上記範囲内とすることで、硬化物の柔軟性、及び絶縁性を向上させることができる。
【0037】
本発明で用いる(D)成分の硬化促進剤は、(A)成分のエポキシ樹脂同士、(A)成分のエポキシ樹脂と、(C)成分のゴム変性ジカルボン酸樹脂、更に(F)成分の反応性希釈剤との反応を促進する作用を有する。また、(D)成分の硬化促進剤を樹脂組成物中に含有させることにより、該樹脂組成物のコイルへの含浸性を向上させる効果を発揮する。
【0038】
上記(D)成分の硬化促進剤としては、例えば、アミン類、アミン塩類、イミダゾール類、ホスフィン類等が挙げられ、これらは単独又は2種以上を混合して使用することができる。中でもアミン塩類の硬化促進剤が、樹脂組成物のコイルへの含浸性を向上させる観点から好ましい。
ここで、アミン塩とは、塩基性物質であるアミン化合物と酸とから得られる塩を意味する。
【0039】
アミン化合物としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン等の1級アミン類、ジエチルアミン、ジブチルアミン等の2級アミン類、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジメチルアミノエタノール、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(TAP)等の3級アミン類、ピリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネン(DBN)等の複素環式3級アミン類等を挙げることができる。中でも、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(TAP)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン(DBU)を好ましく用いることができる。
【0040】
酸としては、無機酸及び有機酸が挙げられる。
無機酸の具体例としては、例えば、硫酸、亜硫酸、過硫酸、塩酸、過塩素酸、硝酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ピロリン酸等が挙げられる。
有機酸の具体例としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、サリチル酸、4−ヒドロキシ安息香酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、オクチル酸、ステアリン酸、アクリル酸、メタクリル酸等のカルボン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸等のスルホン酸、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、n−プロピルフェノール、イソプロピルフェノール、n−ブチルフェノール等のフェノール類などが挙げられる。中でも、オクチル酸、フェノールを好ましく用いることができる。
【0041】
また、(D)成分の硬化促進剤は、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン(DBU)のフェノール塩、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン(DBU)のオクチル酸塩、及び2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(TAP)のオクチル酸塩から選ばれる少なくとも1種であることが、本発明の効果を得る観点から、好ましい。これらは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
(D)成分の硬化促進剤の含有量は、(C)成分のゴム変性ジカルボン酸樹脂100質量部に対して、好ましくは1.0〜3.0質量部、より好ましくは1.2〜2.5質量部、更に好ましくは1.2〜2.0質量部である。1.0質量部以上とすることで、十分な硬化物特性が得られ、3.0質量部以下とすることで、コイルへの含浸性を良好なものとすることができる。
【0043】
本発明で用いる(E)成分の酸化防止剤は、硫黄原子を有さないアミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、有機チオ酸系酸化防止剤、亜リン酸系酸化防止剤、及びワックス系酸化防止剤からなる群より選ばれる少なくとも1種以上を含み、上述した(C)成分のゴム変性ジカルボン酸樹脂の酸化劣化を抑制する効果を有する。
【0044】
硫黄原子を有さないアミン系酸化防止剤としては、例えば、アミン−ケトン系一次酸化防止剤、芳香族第二級アミン系一次酸化防止剤等が挙げられる。
アミン−ケトン系一次酸化防止剤としては、例えば、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体、6−エトキシ−1,2−ジヒドロ−2,2,4−トリメチルキノリン、6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン等が挙げられる。
また、市販品としては、例えば、ノクラック224、ノクラックAW、ノクラックAW−N、ノクラックB、ノクラックB−N(以上、大内新興化学工業(株)製)、ノンフレックスAW、ノンフレックスAW−P、ノンフレックスRD、ノンフレックスQS(以上、精工化学(株)製)、アンテージRD、アンテージAW(以上、川口化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0045】
芳香族第二級アミン系一次酸化防止剤としては、例えば、N−フェニル−1−ナフチルアミン、アルキル化ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、4,4'−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N,N'−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N,N'−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N'−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N'−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N'−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−p−フェニレンジアミン等が挙げられる。
また、市販品としては、例えば、ノクラックPA、ノクラックODA、ノクラックODA−N、ノクラックAD−F、ノクラックCD、ノクラックTD、ノクラックWhite、ノクラックDP、ノクラック810−NA、ノクラック6C、ノクラックG−1(以上、大内新興化学工業(株)製)、ノンフレックスH、ノンフレックス3CH、ノンフレックスF、ノンフレックスBA、ノンフレックスBA−P、ノンフレックスOD−3、ノンフレックスDCD、ノンフレックスLAS−P、ステアラーLAS、ステアラーSTAR(以上、精工化学(株)製)、アンテージ3C、アンテージ6C、アンテージLDA、アンテージOD、アンテージDDA(以上、川口化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0046】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、モノフェノール系一次酸化防止剤、ビスフェノール系一次酸化防止剤、ポリフェノール系一次酸化防止剤等が挙げられる。
モノフェノール系一次酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、スチレン化フェノール、モノ(又はジ、又はトリ)(α-メチルベンジル)フェノール等が挙げられる。
また、市販品としては、例えば、ノクラック200、ノクラック−SP、ノクラック−SP−N(以上、大内新興化学工業(株)製)ノンフレックスWS、ノンフレックスWS―P、BHTスワノックス(以上、精工化学(株)製)アンテージBHT、アンテージSP(以上、川口化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0047】
ビスフェノール系一次酸化防止剤としては、例えば、2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4'−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4'−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)等が挙げられる。
また、市販品としては、例えば、ノクラックNS−5、ノクラックNS−6、ノクラック−NS−30、ノクラック300、ノクラックPBK(以上、大内新興化学工業(株)製)サンダント2264、サンダント103、サンダント425(以上、三新化学工業(株)製)ノンフレックスアルバ、ノンフレックスMBP、ノンフレックスEBP、ノンフレックスCBP、(以上、精工化学(株)製)アンテージW−300、アンテージW−400、アンテージW−500、アンテージクリスタル、アンテージDAH、アンテージDBH(以上、川口化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0048】
ポリフェノール系一次酸化防止剤としては、例えば、2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン、2,5−ジ−tert−アミルハイドロキノン等が挙げられる。
また、市販品としては、例えば、ノクラックNS−7、ノクラックDAH(以上、大内新興化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0049】
有機チオ酸系酸化防止剤としては、例えば、有機チオ酸系二次酸化防止剤等が挙げられる。有機チオ酸系二次酸化防止剤としては、例えば、チオジプロピオン酸ジラウリル等が挙げられ、市販品としては、例えば、ノクラック400(以上、大内新興化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0050】
亜リン酸系酸化防止剤としては、例えば、亜リン酸系二次酸化防止剤等が挙げられる。亜リン酸系二次酸化防止剤としては、例えば、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト等が挙げられ、市販品としては、例えば、ノクラックTNP(以上、大内新興化学工業(株)製)、ノンフレックスTNP(精工化学(株)製)等が挙げられる。
【0051】
ワックス系酸化防止剤としては、例えば、サンノック、オゾノック33(以上、大内新興化学工業(株)製)、サンタイト、サンタイトS、サンタイトR、サンタイトC、サンタイトZ(以上、精工化学(株)製)等の市販品が挙げられる。
【0052】
上記(E)成分の酸化防止剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
上記(E)成分の酸化防止剤の含有量は、(C)成分のポリブタジエン変性ジカルボン酸100質量部に対して、好ましくは3〜90質量部、より好ましくは5〜70質量部、更に好ましくは9〜50質量部、より更に好ましくは9〜30質量部である。3質量部以上とすることで、十分な硬化物特性が得られ、90質量部以下とすることで、樹脂中での硬化阻害を起こさず酸化防止効果を良好なものとすることができる。
【0054】
また、上記(E)成分の酸化防止剤の含有量は、(A)成分のエポキシ樹脂100質量部に対して、好ましくは2〜60質量部、より好ましくは3〜40質量部、更に好ましくは3〜20質量部である。2質量部以上とすることで、十分な硬化物特性が得られ、60質量部以下とすることで、樹脂中での硬化阻害を起こさず酸化防止効果を良好なものとすることができる。
【0055】
本発明の硬化剤は、更に(G)成分の可とう性酸無水物を配合することが、相溶性向上の観点から好ましい。
(G)成分の可とう性酸無水物としては、(A)成分のエポキシ樹脂、(F)成分の反応性希釈剤と反応し、硬化可能なものであれば特に限定されないが、長鎖アルケニル基を有するコハク酸無水物を含む化合物が好ましく、例えば、アルケニルコハク酸無水物等が挙げられる。また、市販品としては、例えば、DSA、PDSA−DA(以上、三洋化成(株)製)等が挙げられる。
これらは、1種を単独で、あるいは、硬化を阻害しない範囲において、2種以上を混合して使用してもよい。
【0056】
樹脂組成物の全量に対する(G)成分の可とう性酸無水物の配合量は、好ましくは1〜20質量%、より好ましくは3〜15質量%、更に好ましくは5〜10質量%である。上記範囲内とすることで、良好な柔軟性を発現する。
【0057】
以上、上述の成分を配合したものを、例えば、万能混合機等を用いて均一に混合することにより、本発明のコイル含浸用樹脂組成物の硬化剤を調製することができる。
【0058】
本発明のコイル含浸用樹脂組成物中に含まれる上記(A)成分〜(E)成分の合計含有量は、好ましくは70〜100質量%、より好ましくは80〜98質量%、更に好ましくは85〜97質量%である。
【0059】
本発明のコイル含浸用樹脂組成物は、常法により上述した主剤と硬化剤とを十分に混合、撹拌して製造することができる。
なお、(B)成分の無機充填材を主剤、及び硬化剤に配分してもよく、その場合には、主剤、及び硬化剤を混合した後の無機充填材の配合量が、上記で説明した無機充填材の配合量となるように調製すればよい。
【0060】
このようにして得られたコイル含浸用樹脂組成物は、電気機器部品、特にイグニッションコイルの封止、被覆、絶縁等に適用すれば優れた特性と信頼性を付与することができる。これらの用途に適用するためには、本発明のコイル含浸用樹脂組成物のコイル含浸性が、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上である。また、上記樹脂組成物を硬化してなる硬化物の150℃条件下での絶縁破壊強度が、20kV/mm以上、より好ましくは25kV/mm以上である。
【0061】
〔コイル部品〕
次に、上述したコイル含浸用樹脂組成物をコイルに含浸させ、次いで、加熱硬化させてなるコイル部品の一例としてイグニッションコイルについて説明する。
図1は、本実施形態におけるコイル部品としてのイグニッションコイルの構成を示す断面図である。
【0062】
イグニッションコイルは、磁性体の中心コア1、一次ボビン2、一次コイル3、二次ボビン4、二次コイル5、端子6などで構成されている。一次コイル3は、例えば直径0.5mm程度のエナメル線を約200回、二次コイル5は、例えば直径0.05mm程度のエナメル細線を20000回程度ボビンに巻線されている。一次コイル3は、バッテリーに接続され直流電流が流れるが、図示しない点火タイミング調整電子回路部品、および図示しないパワースイッチにより電流を断続させて磁束を変化させ、自己誘導作用により一次電圧を得る。この一次電圧を一次コイル3と二次コイル5の相互誘導作用により20〜40KVの高電圧とし、端子に接続した点火プラグに火花放電を起こさせる。
【0063】
上述した中心コア1等は、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)からなるケース7中に収納され、ケース7と中心コア1等との空隙は、上述したコイル含浸用樹脂組成物8によって封止されている。
とりわけ現在主流となってきているペンタイプのイグニッションコイルは、直径2cm以下の縦長ケースにコイル部品が収納されたものであり、ケースと中心コア等との空隙が狭いため、1次コイル、2次コイルを封止する樹脂組成物は、より含浸性のよいものが求められている。
【0064】
図1に示すイグニッションコイルは、上述したように、図示しない点火タイミング調整電子回路部品、および図示しないパワースイッチにより生じた一次電圧が、一次コイル3及び二次コイル5に印加されるようになるので、瞬時に高電圧の一次電圧が印加され、電流の流入及び停止を頻繁に繰り返す場合がある。
【0065】
このように高電圧が瞬時に印加されると、イグニッションコイルを封止しているコイル含浸用樹脂組成物8にも瞬時に高電圧が印加されるが、該樹脂組成物8は、上述のように絶縁性に優れたコイル含浸用樹脂組成物からなるので、該樹脂組成物8は絶縁破壊を引き起こすことなく、イグニッションコイルに対する絶縁性を確保でき、また、冷熱サイクルによるクラックの発生もなく、信頼性に優れる。
なお、本実施形態におけるイグニッションコイルの大きさは、用途に応じて適宜設定することができる。
【実施例】
【0066】
次に実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0067】
製造例1(ポリブタジエン変性ジカルボン酸の製造)
(C1)水酸基末端ポリブタジエンとしてR−45HT(出光興産(株)製)100質量部と、(C2)酸無水物としてHN2200R(日立化成工業(株)製)14.2質量部とを混合し、100℃で3時間反応させて、(C)ポリブタジエン変性ジカルボン酸1を得た。
【0068】
製造例2(ポリブタジエン変性ジカルボン酸の製造)
(C1)水酸基末端ポリブタジエンとしてpoly ip(出光興産(株)製)100質量部と、(C2)酸無水物としてHN2200R(日立化成工業(株)製)14.2質量部とを混合し、100℃で3時間反応させて、(C)ポリブタジエン変性ジカルボン酸2を得た。
【0069】
製造例3(ポリブタジエン変性ジカルボン酸の製造)
(C1)水酸基末端ポリブタジエンとしてG−3000(日本曹達(株)製)100質量部と、(C2)酸無水物としてHN2200R(日立化成工業(株)製)14.2質量部とを混合し、100℃で3時間反応させて、(C)ポリブタジエン変性ジカルボン酸3を得た。
【0070】
<コイル含浸用樹脂組成物の製造>
(実施例1〜、10〜14、参考例1〜及び比較例1〜6)
表1及び表2の主剤の欄に記載の種類及び配合量の各成分を配合して1時間、真空下で万能混合機を用いて混合することにより主剤を調製した。
次に、表1及び表2の硬化剤の欄に記載の種類及び配合量の各成分を配合して1時間、真空下で万能混合機を用いて混合することにより硬化剤を調製した。
上記主剤100質量部に対して、上記硬化剤59質量部を、万能混合機を用いて混合してコイル含浸用樹脂組成物を調製した。
【0071】
コイル含浸用樹脂組成物の調製に使用した表1及び表2に記載の各成分の詳細は以下のとおりである。
【0072】
(主剤)
<エポキシ樹脂>
〔(A)成分〕
・R−140P:ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三井化学(株)製、商品名、エポキシ当量188
<無機充填材>
〔(B)成分〕
・FB−5D:シリカ粒子、電気化学工業(株)製、商品名、平均粒径4.9μm
<反応性希釈剤>
〔(F)成分〕
・カージュラE−10P:ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名
〔その他の成分〕
・GLYMO:シランカップリング剤、エポニック・ジャパン(株)製、商品名
・TSA720:消泡剤、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ(株)製、商品名
・BYK−410:沈降防止剤、ビックケミー・ジャパン(株)製、商品名
(硬化剤)
<ゴム変性ジカルボン酸樹脂>
〔(C)成分〕
・ポリブタジエン変性ジカルボン酸1:製造例1で製造したポリブタジエン変性ジカルボン酸
・ポリブタジエン変性ジカルボン酸2:製造例2で製造したポリブタジエン変性ジカルボン酸脂
・ポリブタジエン変性ジカルボン酸3:製造例3で製造したポリブタジエン変性ジカルボン酸
<硬化促進剤>
〔(D)成分〕
・U−CAT SA 1:DBUのフェノール塩、サンアプロ(株)製、商品名
<酸化防止剤>
〔(E)成分〕
・ノクラックAW:6−エトキシ−1,2-ジヒドロ−2,2,4−トリメチルキノリン(アミン−ケトン系一次酸化防止剤)、大内新興化学工業(株)製、商品名
・ノクラックCD:4,4'−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(芳香族第二級アミン系一次酸化防止剤)、大内新興化学工業(株)製、商品名
・サンノック:ワックス系酸化防止剤、大内新興化学工業(株)製、商品名
〔(E)成分以外の酸化防止剤〕
・ノクラック200:2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(モノフェノール系一次酸化防止剤)、大内新興化学工業(株)製、商品名
・ノクラックNS−5:2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)(ビスフェノール系一次酸化防止剤)、大内新興化学工業(株)製、商品名
・ノクラックNS−7:2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン(ポリフェノール系一次酸化防止剤)、大内新興化学工業(株)製、商品名
・ノクラック400:チオジプロピオン酸ジラウリル(有機チオ酸系二次酸化防止剤)、大内新興化学工業(株)製、商品名
・ノクラックTNP:トリス(ノニルフェニル)ホスファイト(亜リン酸系二次酸化防止剤)、大内新興化学工業(株)製、商品名
・ノクラックMB:2−メルカプトベンズイミダゾール(ベンズイミダゾール系二次酸化防止剤)、大内新興化学工業(株)製、商品名
・ノクラックNBC:ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル(ジチオカルバミン酸系二次酸化防止剤)、大内新興化学工業(株)製、商品名
・ノクラックNS−10−N:1,3−ビス(ジメチルアミノプロピル)−2−チオ尿素(チオウレア系酸化防止剤)、大内新興化学工業(株)製、商品名
<可とう性酸無水物>
〔(G)成分〕
・PDSA−DA:三洋化成工業(株)製、商品名
【0073】
以下に示す測定条件により、コイル含浸用樹脂組成物特性、及び硬化物特性の測定、並びに評価を行った。なお、結果を表1及び表2に示した。
<評価項目>
(1)コイル含浸用樹脂組成物のコイルへの含浸性(含浸率)
内径21mmのアルミナ製ボビンに、直径50μmのポリエステルイミドコートワイヤを約22000回巻き付けて作製したモデルコイルに、コイル含浸用樹脂組成物を含浸させ、100℃で3時間、次いで150℃で3時間加熱硬化させた。この加熱硬化処理後のモデルコイルを切断し、含浸状態を観察し、モデルコイルへの樹脂組成物の含浸率を下記の式より算出した。
含浸率(%)=[(含浸部位面積)/(全巻き線面積)]×100
含浸性の評価基準
○:含浸率が60%以上
△:含浸率が50%以上60%未満
×:含浸率が50%未満
なお、含浸率が低いと、巻線に欠落が生じる。
【0074】
(2)絶縁破壊強度
樹脂組成物を100℃で3時間、次いで150℃で3時間加熱硬化させて、サンプル片(縦100mm、横100mm、高さ1mm)を作製し、東京精電(株)製の絶縁破壊試験機を用いて該サンプル片の絶縁破壊電圧をJIS K6911に準拠し、温度150℃において測定した。
絶縁破壊強度の評価
○:絶縁破壊強度が20kV/mm以上
×:絶縁破壊強度が20kV/mm未満
【0075】
(3)分離性
直径60mmの金属製シャーレに樹脂組成物40gを注形し、100℃で3時間、次いで150℃で3時間加熱硬化させて、サンプル片を作製し、該サンプル片の高さ方向に切断し、その切断面をCCDカメラにより撮影し、相分離の有無を観察し、下記の基準で評価した。
分離性の評価基準
○:相分離が観察されない
×:相分離が観察された
【0076】
(4)柔軟性
樹脂組成物を100℃で3時間、次いで150℃で3時間加熱硬化させて、サンプル片(縦100mm、横100mm、高さ1mm)を作製し、該サンプル片を180°折り曲げ、次いで、逆方向に360°折り曲げた後、該サンプル片を目視にて観察し、下記の基準で評価した。また、150℃で500時間放置した後のサンプル片についても同様の手順で柔軟性の評価を行った。
柔軟性の評価基準
○:硬化物に白化、及び亀裂が生じなかった
△:硬化物に白化が生じたが、亀裂は発生しなかった
×:硬化物に白化、又は亀裂が生じた
【0077】
(5)硬度
直径60mmの金属製シャーレに樹脂組成物40gを注形し、100℃で3時間、次いで150℃で3時間加熱硬化させて、サンプル片を作製した。デュロメータのタイプAを用いてJIS K 6253に準拠し、サンプル片作製直後(初期)の硬度、及びサンプル片を150℃で500時間放置した後の硬度をそれぞれ測定した。
【0078】
(6)耐クラック性試験
直径6cm、高さ1.5cmの金属シャーレの中央部に直径30mmのワッシャーを静止した。図2に示すように、該ワッシャーの上面3箇所、下面3箇所に直径3mmの金属ボールを設置した。該金属シャーレに樹脂組成物を30g注形し、100℃で3時間、次いで150℃で3時間加熱硬化させたものをサンプル片Aとし、更に150℃で500時間放置したものをサンプル片Bとした。サンプル片Aとサンプル片Bとをそれぞれ−40℃で15分放置し、次いで、150℃で15分放置(これを1サイクルとする)した後、目視にて観測し、クラックの発生の有無を確認した(低温側:ドライアイス/イソプロピルアルコール溶液、高温側:乾燥機)。
耐クラック性の評価基準
○:20サイクル以上でクラックが発生、又はクラックが発生しなかった
×:20サイクル未満でクラックが発生した
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
(結果のまとめ)
以上説明したように、硬化剤として(C)成分〜(E)成分を含有する実施例1〜、10〜14の樹脂組成物は、コイルへの含浸性に優れ、硬化物が相分離することなく、経時での硬度変化が少なく、柔軟性、及び耐クラック性に優れることがわかった。また、150℃下での絶縁破壊強度がいずれも20kV/mm以上であり、絶縁性にも優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のコイル含浸用樹脂組成物は、電気機器部品、例えば、コイル、ICチップ等の封止、被覆、絶縁材料として極めて有用である。
【符号の説明】
【0083】
1 中心コア
2 一次ボビン
3 一次コイル
4 二次ボビン
5 二次コイル
6 端子
7 ケース
8 コイル含浸用樹脂組成物
図1
図2